とある店の屋根――
そこには華麗に立つ2人の人影――
1人は女、もう1人は女物の下着を身に着けた半裸の巨漢――
その2人に共通するのは蝶を模した仮面を付けている事だ。
その姿を見た者達はざわめきながらも、2人の名を呼んだ。
――華蝶仮面が出た、と……。
「な、な、何なんだお前等はッ!?」
今まで呆然とし、酔って数人の人間と喧嘩をしていた事も忘れた若者の1人が叫んだ。
指を指された事に対して不快な気持ちになったのか、女の華蝶仮面(以降は1号)が溜め息を吐いた後に言う。
「お前達の下らない喧嘩を収めに来た者だ。決して怪しい者ではない」
「「「それは絶対に嘘だッ!!」」」
今まで黙っていた、喧嘩をしていた若者全員が当然の如く叫んだ。
先程まで喧嘩をしていたとは思えないぐらい声がシンクロしている。
すると巨漢の方の華蝶仮面(以降は2号)が身体をくねらせながら言った。
「1号の言う通り、私達は何処にでも居る正義の味方よん♪ 怪しい眼で見ないでえ♪」
ここで2号の――仮面越しの――ウィンクが1つ。
「「「ウプッ……!」」」
運悪くウィンクを直撃した若者全員が吐き気を催したらしい。
全員が一斉に口元を手で押さえた。
「哀れな奴等……」
今までの成り行きを見守っていた元親は、誰にも聞こえないぐらいの小さな声で吹く。
事実、あんな連中に絡まれた事自体が哀れとしか表現のしようがない。
しかしその“あんな連中”が自分の関係者である事が元親にとって痛かった。
「さて……お喋りはここまでにしよう。騒ぎを起こしたお前達を取り押さえる!」
「うふふ……いつもと同じように頑張っちゃうんだから!」
そう2人の華蝶仮面が吹いた後、「とうっ!」と掛け声を発しながら飛び降りた。
屋根から華麗に着地し、眼の前に居る若者を見据える。
その中で特に2号の目付は何処かヤバかった。
「「「ヒィ……!?」」」
2人の威圧感に圧倒され、若者達は小さな悲鳴を上げる。
――ヤバい、やばい、ヤバイ……!!
――逃げろ、にげろ、ニゲロ……!?
――殺られる、やられる、ヤラレル……?!
若者達の逃走本能が必死にこの場からの退避をするよう、警告を発する。
彼等は逃げようと必死に身体を動かすが、思うように身体が動かなかった。
その光景はまさしく“蛇に睨まれた蛙”状態である。
「逃げようとは考えない事だ。お前達を捕らえるまで、正義の蝶は空を舞い続けるのだからな」
「そうそう。だ・か・ら、大人しく捕まってね♪ …………ぶるぅああああああ!!」
2号の獣のような雄叫びが街中を駆け巡った。
その後すぐに若者達の断末魔の悲鳴が響いたのは言うまでもないだろう。
今の今まで成り行きを見守っていた街の人々は、若者達への仕打ちから眼を逸らした。
その中に居た元親も眼を逸らしつつ、心の中で若者達に向けて合掌していた。
悲劇(惨劇?)から数分後――若者達は縄で1人ずつ縛りあげられていた。
その中の全員が真っ白になり、口々に「蝶怖い……筋肉怖い……」と言っている姿は哀れだった。
「ふっ……今日もまた正義が勝ったな」
「んふふふ、大勝利ねん♪」
2人の華蝶仮面が勝利宣言を挙げる。
すると今まで集まっていた人々も蜘蛛の子を散らせるように、その場から去っていく。
その去り際に殆どの者達が若者達に向け、深い哀れみの視線を送っていたりする。
「さあ2号、後は兵士に任せ、ここから退散――」
「ちょっと待った!」
1号が2号に言おうとした時、止める声が響いた。
その声の正体は言わずもがな、ずっと見守っていた元親である。
「おやおや、貴方はここを治めている太守殿ではありませんか」
「いや〜ん♪ とっても良いお・と・こ♪」
元親は驚きと呆れが入り混じった気持ちで首を傾げた。
あくまで2人は自分とは赤の他人である事を押し通すつもりらしい。
2人は顔に仮面を付けている限り、華蝶仮面なのだろうか。
元親は1度咳払いをし、調子を取り戻してから言った。
「あ〜〜……星……じゃない、華蝶仮面さんだったか? さっきはご苦労さん」
「いえいえ、私達が好きでやっている事です。お気になさらないでいただきたい」
「そう言ってくれるのはありがたいんだが、そうはいかねえんだよ。お前達が不審者として俺に報告されてんだ。詳しい事情を聞きたいんだが……」
元親の言葉に1号が溜め息を吐く。
「ふむ……悲しいかな、何時の世も正義は理解されにくい物。我等は不審者ではないと言うのに……太守殿もそう思われているのか」
「悲しいわねん。私達はこの街を守ろうと頑張っているのにねぇ」
「ぐっ……そう言う事を言ってるんじゃなくてだなぁ」
何時の間にかまるで自分が悪人のように言われている。
元親はそう言ったつもりはないのだが、2人にはそう聞こえたらしい。
わざとらしく2人は深く頭を下げ、嘆いているような仕草をみせた。
「はあ……私が好意を持っていた太守殿はもう居ないのか……」
「そうねぇ。私が好きだったごしゅ……太守様はもう居ないわね」
元親の額に僅かな青筋が浮かぶ。
流石にこのまま言われっぱなしでいるのは我慢がならなかった。
更にどうして自分が悪いと思われているのか、摩訶不思議だ。
「だあ〜〜〜ッ!? 分かった、分かったよ! お前達は不審者じゃない! この街を好意で守ってくれてる協力者だ! 俺がお前等を保証する! これで文句ねえだろう!!」
元親の言葉が響いた直後、2人の華蝶仮面はすぐさま頭を上げた
その瞳は仮面越しながらも、奇麗に輝いている。
「ふむ。流石は太守殿だ。私達の存在意義をすぐに認めて下さるとは」
「心が広いわぁ。もう、前より断然好きになっちゃグハァ!」
「それだけは止めろ……スゲェ気色悪ぃ」
身体をくねらせながら近づいてくる2号を正拳で沈めつつ、元親は溜め息を吐く。
その後1号は腹を押さえて蹲っていた2号を何とか立たせ、常人を超える跳躍力でその場に生えている木の枝に跳び乗った。
「それでは太守殿、またお会い出来る日があらば、また会いましょう」
「私は是非とも、また太守様に会いたいわん♪」
「あ、ああ……(と言うかよぉ、ほとんど毎日会ってるだろうに)」
心の中のツッコミを必死に抑えつつ、気の無い手振りで華蝶仮面達を見送る。
元親から背を向け、立ち去る素振りを見せていた1号が突然、元親の方へ振り返った。
「そうだ。そう言えば太守殿に伝えねばならぬ事があったのだった」
「ああ? 俺に伝えたい事?」
元親が首を傾げつつ、1号からの言葉を待った。
当の1号は何かを考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開く。
「実は我が友である趙子龍が是非とも、太守殿と1度は酒を飲み交わしたいと言っていました。更に摘みには極上のメンマを添えてとも言っておられましたよ」
「お、俺と酒を飲み交わしたいだぁ……?(趙子龍ってのはお前の事だろう!)」
「ああ、ちなみにこれは全て太守殿の奢りで、ですよ?」
「俺が全部奢るのかよ!?」
「その通りです。では頼みましたよ。た・い・しゅ・ど・の!」
元親が反論しようとした時、1号は颯爽と姿を消した。
無論、2号も1号に続いて――鈍重だが――姿を消す。
その後に少しばかり物を破壊する音が響いたが、元親はあえて耳を塞いだ。
「……………………」
元親がゆっくりと周囲を見渡す。
自分を見つめる人々は置いておき、都合良くそびえ立つ2件の店を視線に入れた。
もうお分かりだとは思うが――酒屋と摘みを主に扱っている店である。
「…………買っていってやるか。あれだけ堂々と強請られると気持ちが良いし」
元親は持ち金を確認しつつ、酒とメンマをそれぞれ購入したのだった。
その後、元親と反対方向の見回りをしていた愛紗が遅れて元親の元に到着。
元親から事情を聞き、姿を見ることが出来なかった事に落胆したのだった。
ちなみに落胆しながらも、見回り中に酒とメンマを買った元親に説教したのは言うまでもない。
◆
「お〜い。居るかぁ〜!」
時は経ち、今は闇夜の空に月が輝く夜――
元親はとある家臣の部屋の前に居た。
部屋の主に向けて2、3度声を掛けると――
「おや? これは主。こんな夜中に如何なされた?」
部屋の主である星が扉を開き、ひょこりと顔を見せた。
眼が半開きのところを見ると、寝ているのを起こしてしまったようだった。
「ん? とある華蝶仮面さんに頼まれた物を持ってきたんだが……眠いなら止めておくぜ?」
元親が右手に持った徳利、左手に持った――メンマが入った――壺を見せつける。
それを見た星の眼が半開きから一気に覚醒し、即座に元親へ詰め寄った。
「ふふふ……主がせっかく持ってきてくれた物だ。頂かなければ悪いですな」
「おいおい、別に無理しなくて良いんだぜ? 1人で飲み食い出来る量だしな」
「主ぃ、意地悪は無しですぞ?」
お互いに意地の悪い笑みを浮かべ合い、その場から歩き始める。
酒を飲み、メンマを食べるのに相応しい場所に行く為に――
◆
闇夜を照らす月の光が下に居る元親と星をうっすらと照らす。
2人が今居る場所は屋敷の屋根である。
ここからは街が一望出来るし、月も十分に眺められるのである。
2人は適当な場所に座り込み、暫く月を眺めていた。
「どうぞ、主」
「おおっと、すまねえな」
元親は盃を差し出し、星がそれにゆっくりと酒を注ぐ。
お返しにと、元親も星の持つ盃に酒を注いだ。
2人が同時に杯を口元に持っていき、酒を飲み干す。
滑らかな味わいが喉を通り、身体が徐々に温まっていくのを感じた。
「ふむ……なかなか良い味ですな」
「だろう? 俺は酒に結構眼が無くてな。選ぶのも得意なんだぜ?」
「それは良い。機会があれば私に美味い酒を選ぶ眼力の指南をして下さりませんか?」
「眼力なんて偉い物じゃねえよ。要は自分がコレだ! って思う物を選べば良いんだ」
気さくに笑う元親を、星が微笑を浮かべて応える。
時折メンマを摘みつつ、2人の談笑は続いた。
その中で元親は「華蝶仮面に無茶苦茶するなって言っておけ」と星に言っておく。
星はその言葉に口を押さえてクックッと笑った後、「伝えておきます」と答えた。
星が空になった元親の杯に再び酒を注ごうとした時、突然声が響いた。
声の正体からして兵士の誰かであろう、元親の名を呼んでいた。
「むぅ……せっかくの2人の時間が台無しだ」
「まあそう言うな。また奢ってやれる時は奢ってやるって」
「ほぅ……では――」
星が不意に元親に詰め寄り、耳元で甘い声で囁く。
その中で自身の豊かな胸を元親の腕に押し付ける事も忘れない。
「約束ですぞ。あ・る・じ」
元親は少し呆然とした後、またも気さくな笑顔を浮かべて言った。
「ああ。約束だ」
元親はそう返事した後、ゆっくりと立ち上がり、屋敷の屋根を下りていく。
その場に残った星は元親が居なくなった後に小さく溜め息を吐いた。
「むぅ……愛紗達が苦労するのも分かる。主殿もなかなか手強い」
そう人知れず吹いた後、月を眺めた。
自然と星の表情に笑みが広がる。
「まあ、障害があればある程、燃えると言うもの。私にとってはまだ始まったばかりだ」
盃に酒を注ぎ、勢いよく飲み干す。
「この趙子龍……狙った獲物は決して逃がさん。覚悟していただきますぞ、主」
◆
背中に薄ら寒い物を感じつつ、元親は通路を歩いていた。
先程自分を呼んでいた者を見つけ、事情を聞いた。
何でも屋敷の前の門に自分を訪ねてきた者が居るらしい。
その者は自分の名を呼んでいるらしいが、見張りの兵士が必死に入るのを押し止めているとの事。
「訪ねて来た奴ってのは、名を名乗ったのか?」
「は、はい。馬超と名乗ったらしいですが……」
「馬超だと!?」
元親は董卓連合の時に出会った、活発な女性の姿を思い出していた。
その時に会って以来、今まで会う機会は無かったが――
「すぐに通してやれ。そいつは俺の知り合いだ」
「ええっ!? で、でも凄く汚れた衣服を身に着けていますし、本当かどうか……」
「本当かどうかは会ってみりゃ分かる。とにかく通せ。俺は愛紗を連れて見に行く」
「わ、分かりました。すぐに通します」
兵士の男は慌てて門の方へと向かって行った。
元親は馬超と名乗った者の心配をしつつ、愛紗の部屋へと歩を向けた。
その後、元親は愛紗を連れて客室へと向かっていた。
そこに馬超と名乗った者を待たせてあるらしい。
愛紗は部屋に近づく毎に、愛用の青竜刀を握りしめる力を強くしている。
もし馬超の名を騙った不届き者ならば、即座に斬り捨てる為だ。
部屋の前に着き、元親は愛紗へ視線を向ける。
愛紗は無言で頷き、元親の傍らへと移動した。
元親も若干警戒しつつ、部屋の扉を開ける。
するとそこには――――
「あ…………」
「…………馬超か?」
呆然とした表情を浮かべ、元親と愛紗を見つめる女性が1人居た。
身に付けている衣服は確かに黒く汚れており、髪もボサボサである。
しかし元親は眼の前の女性が馬超だとすぐに分かった。
真っ直ぐな瞳、額に巻いた鉢巻、特徴的な衣服――
どれを取っても董卓連合の際に出会った馬超だった。
「良かった……やっと知ってる人に会えた」
「どうしたのだ? そんなボロボロの格好で」
元親と愛紗が馬超と向かい合うように椅子へと腰掛けた。
馬超も座り、愛紗が問い掛けてきた事に答える。
「曹操の奴にやられたんだ。袁紹と公孫賛の戦が始まった際、それに紛れて西涼に侵攻してきやがったんだ。それを迎え撃った父上は、曹操の策に嵌められて戦死した……!」
「何と……!? あの勇猛で有名な馬騰殿が……!」
「父上はあたしを逃がす為に曹操に挑んだんだ。あたしが殺したようなものなんだ……!」
馬超が震える声で自分の身に起こった出来事を語った。
数人の部下達と共に曹操から逃げたらしいが、追手が追い付き、自分以外の部下が全て死んだらしい。
そこで各地を放浪しつつ、唯一自分を迎え入れてくれそうな気がした元親達を頼ってきたとの事。
愛紗も馬超の父親の馬騰が戦士したと聞き、思わず絶句してしまった。
「頼む……! あたしをここの軍に入れてくれ! やれることなら何でもする! 父上に代わって、あたしが曹操と決着を着けたいんだ! だから頼む!」
馬超が椅子から立ち上がり、元親へと土下座する。
愛紗は土下座を止めさせようとするが、彼女は断固として聞き入れない。
馬超の悲痛な声が響く中、元親が立ち上がり、馬超の前にしゃがんだ。
「土下座を止めな……馬超」
「…………」
元親に言われ、馬超はゆっくりと顔を上げる。
土下座の体勢も解き、正座のような姿勢になった。
彼女の顔は泣く事を堪えているかのように歪んでいる。
元親はその顔を暫く見た後――
「よっと」
馬超を自身の胸に抱き込んだ。
「――――ッ!?」
「ご、ご、ご、ご主人様!? 何をしてらっしゃるんですか!!」
突然の事に馬超が必死にもがき、愛紗が吠える。
元親はあくまで冷静な態度で答えた。
「泣きそうなガキをあやす時はこうやると、小さい頃に親父に教わった。男だろうが、女だろうが、誰かの胸で泣くには越した事はねえだろう」
「――――ッ! あ、あたしは子供じゃ……」
「馬鹿野郎、妙な意地を張るな。泣きたい時は思い切り泣け。特にテメェの肉親が死んだ時なんざ尚更だ。俺もガキの頃、親父が死んだ時は1日中泣いた」
「――――ッ!?」
元親の言葉を聞き、馬超の胸が激しく波打った。
それに釣られるように、瞳から涙が溢れ出す。
「うっ……うっ……!」
「泣け泣け。気が休むまでトコトン泣きな」
「うっ……うっ……うあああああああん!?」
我慢していた物が一気に溢れ出したのか、元親の胸で馬超は大いに泣いた。
元親は泣き止むまで、彼女の背中を壊れ物でも扱うかのように優しく摩り続ける。
その2人の様子を愛紗は複雑な表情で見つめていた。
「ご、ごめん。あたし……長く泣いてて……」
「気にすんな。俺の胸なんざ、泣きたい時は何時でも貸してやる」
それから暫く経ち、ようやく泣き止んだ馬超は顔と眼を真っ赤にして元親に謝っていた。
元親は馬超の肩を優しく叩き、謝る事は無いと、笑顔で答えていた。
そんな2人の中に愛紗がおずおずと入り込む。
「ご主人様……馬超の受け入れはどうされるのですか?」
愛紗が先程から気に掛けていた事を持ち出す。
馬超もそれを聞き、何処か緊張した面持ちに変わった。
「ああ、別に受け入れても良いだろ。これだけ固い決意と覚悟がありゃ上等さ」
「へっ……?」
愛紗がやれやれと言った表情に変わり、馬超は呆然とする。
愛紗は予測通りの答えが出たと思っており、馬超は簡単に受け入れてもらった事に驚いていた。
「あ、あの……そんな簡単で良いのか?」
「何を言ってやがんだ。俺が眼の前で困ってる奴を見過ごすとでも思ってんのか?」
「う…………」
「生憎と俺は頼まれちゃあ、嫌とは言えない性分でね」
元親が愛紗に視線で「そうだろ?」と問い掛ける。
すると愛紗は微笑を浮かべながら無言で頷いた。
「あ、ありがとう……本当にありがとう……!」
「ん? 何だ、また泣きたいのか?」
「ち、違う!? 別に泣きたい訳じゃないって!!」
クックッと意地が悪い笑みを浮かべる元親に対し、馬超が拗ねたような眼付で睨んだ。
「とりあえず今日は風呂に入って、飯を食べてゆっくり寝な。明日にあんたを皆に紹介する。あの時とは違って、色々に奴等が仲間になったからな」
「そうなのか……何だか会うのが楽しみだな」
「あんたの人柄なら、すぐに友達になれるさ。それと訳有りの奴も数人居るが、そいつ等に関して口外は無しだぜ?」
「あたしはそんなことはしないよ。人の秘密をバラすような外道じゃないからね」
「よし」と元親が両手を叩き、笑顔を浮かべた。
「歓迎するぜ馬超。これであんたも俺等の仲間であり、家族の一員だ」
「私も家臣一同を代表して歓迎する」
「ははは……ああ、それと私の真名は翠って言うんだ。次からは真名で呼んでほしい」
馬超から真名――翠と言う名を聞き、元親と愛紗は大きく頷いた。
その後、愛紗は翠を風呂場に案内する為、翠と共に部屋を出て行った。
残った元親はまだ調理場に居るか分からないが、調理師に料理を作ってもらうよう頼みに行くのだった。