「何? 体調を崩して検診に来れないだと?」
「は、はい。どうやら最近無理をしていたらしくて……」
幽州・元親の屋敷――ここの通路で愛紗と朱里が深刻な面持ちで話していた。
2人の会話の内容は元親の定期検診に来てくれる医師についてである。
先程兵士から伝えられて知ったのだが、どうやらその医師が体調を崩して寝込んだらしい。
「まったく……医者の不養生とはよく言ったものだ。自身の健康管理が出来ないとは」
腕を組み、呆れた表情で愛紗が言う。
その言葉に朱里は苦笑するしかなかった。
「だが困ったな。ご主人様には1日も早く元気になってもらいたいのに……」
「ああ、でも大丈夫ですよ。代理の方がここへ来てくれるらしいですから」
朱里の言葉に愛紗が首を傾げる。
「代理の方? 腕は確かなのか?」
「お弟子さんらしいですけど、期待して良いそうです」
「ふむ…………」
医師が来てくれるだけマシだと、愛紗はそう思っておく事にした。
何より朱里が「期待して良い」と言っているのだし、医術の腕は確かなのだろう。
「それで、その者の名前は?」
「確か……“華柁”と言う方だったと思います」
「華柁……」
何故かは分からないが、名前を聞いた時に愛紗は一瞬だけ不安を感じた。
その不安が何なのか、この時の愛紗は最後まで分からなかったのである――
◆
「…………月、詠」
「「はい(何よ)?」」
「ちょっとばかり身体を動かして――」
「「駄目です(よ)」」
自身の部屋の寝台で横になる元親からの要望に月は笑顔で、詠は呆れた表情で却下した。
要望が虚しく断られた元親は何の変わり映えもしない天井を徐に見つめる。
天井をこうして見るのは今日で何回目になるのだろうか。数は数えていない。
「御怪我がちゃんと治るまで、ご主人様にはしっかり療養してもらいます」
「ちゃんと治すって言うから、約束をまた破った事を許してあげたのよ?」
「うっ…………」
約束を破った方と許した方――元親は前者の立場の為、言い返す事は出来ない。
しかし海の男である元親にとって、身体を動かせないのは拷問に等しかった。
「ちっくしょう……このまま寝たきりだと身体が鈍っちまうぜ」
元親がボヤいた言葉に月は苦笑する。
対して詠は溜め息を吐き、頭を抱えた。
「お前の気持ちは分かるけど、今は身体を治す事に集中しろって」
伯珪が元親の机で大量の書類と格闘しつつ、元親がぼやいた言葉を返した。
元親が現在療養中の手目、今は愛紗、朱里、伯珪の3人が代わりに仕事をこなしている。
その中でも書類整理は――最近魏が降伏したばかりの為――以前にも増して大変である。
しかし1日中元親と一緒に居れる為か、政務の仕事に立候補者が続出したのは秘密だ。
噂では愛紗を筆頭に、伯珪と朱里を加えた3人が立候補者を蹴落としていったらしい。
恋する乙女にとって政務は“想い人と1日中一緒に居る”と言う物でしかない事を物語っていた。
「それは分かってんだがなぁ……」
「分かってるんなら言うなよ。仕事は私達で片づけておいてやるから」
元親は仕事をする伯珪を一瞥すると、不機嫌そうに眉を顰めた。
一応元親なりの抗議らしい。
「そんな表情しても駄目だ。……愛紗や紫苑達に叱られるぞ?」
伯珪が意地の悪い笑みを浮かべながら言う。
元親はその時の光景を思い出して苦笑した。
「…………もう長い説教されるのは勘弁だぜ」
「そう思うんなら、月と詠の言う事に従っておけよ」
伯珪の言葉に同意するように月と詠が強く頷いた。
元親は抗議を諦め、再び寝ようと眼を閉じかけた時――
「お見舞いに来たでえ! チカちゃ〜ん」
元気が溢れる声と共に扉が勢いよく開かれる。
声の正体は張遼。各軍に投降し、元親の元に落ち着いた武将だ。
そんな彼女の傍らには比較的彼女と仲が良い恋の姿もあった。
「張遼……もう少し静かに扉を開けられないのか?」
「伯珪の言う通りね。あんた、仮にもここは怪我人が居る仕事部屋なのよ?」
「あははは、固い事は別にええやん。ほらチカちゃん、お見舞い品の桃饅頭やで」
「おお、ありがとな」
伯珪と詠の言葉を軽く笑い飛ばし、張遼は持ってきた桃饅頭を元親に手渡した。
張遼曰く「恋と一緒にお見舞い品を買ってきた」らしいが、恋の表情は何故か暗い。
それに買ってきたと言う肝心のお見舞い品の影も形も無いのである。
その事を疑問に思った元親は恋に優しく問い掛けた。
「どうしたんだ恋。元気が無いじゃねえか」
「……………………」
「恋ちゃん、どうしたの?」
「……………………」
元親の問い掛けにも答えず、月からの問い掛けにも答えない。
それどころか恋の表情はますます暗くなり、眼に涙も浮かび始めた。
事態が掴めずに慌てる元親達だったが、張遼は何故か苦笑していた。
「張遼……恋が落ち込んでる理由、あんた何か知ってんの?」
「ああ、うん。まあ気付くのが遅かったのが原因でもあるんやけど……」
「何だよ、その原因ってのは」
張遼は頬を人差し指で掻きつつ、その時の様子を語り始めた。
話によると恋はここに来る前にちゃんとお見舞い品を買っていたらしい。
そのお見舞い品は点心だったのだが、食べ物を選んだのがいけなかった。
常人を遙かに超える食欲を持つ恋は、点心の漂う美味しそうな匂いに勝てなかった。
多めに買っておいた点心が恋自身の摘み食いによって1つ、2つと胃袋に消えていく。
それに気付いた張遼は急いで恋に注意を呼び掛けるが、時既に遅し――
店主が丁寧に袋に包んでくれたお見舞い品の点心は、全て恋の胃袋の中に消えていた。
元親の部屋まで後もう少し――と言う所で起きた珍事だった。
「ああ……まあ、何と言うか……」
「恋ちゃんらしいですね……」
「自業自得よ。同情する理由は無し」
元親、月、詠が何とも言えない表情を浮かべる。
張遼は苦笑したままであり、書類整理中の伯珪は我関せずと言った様子だ。
「…………(ウルウルッ)」
涙眼の恋に苦笑しつつ、元親は彼女の頭を優しく撫でてやった。
「恋、お前の気持ちだけでも貰っておくぜ」
「…………恋、撫でられちゃいけない。悪い事したから……」
「悪い事なんかしてねえって。元は俺のために買ったんだろ?」
恋はゆっくりと頷く。
食べてしまったとは言え、元々は元親の事を思って買ったのだ。
その思いに偽りは全く無かった。
「だから良いんだよ。元気を出しな」
その言葉と共に恋は元親の右腕に抱き付いた。
涙を拭い、恋は小さい笑みを浮かべる。
「ご主人様……優しいから大好き」
「おうおう、嬉しい事を言ってくれるね」
その光景を見た月と詠が不機嫌な表情を浮かべる。
張遼は面白そうな物を見つけたような笑みを浮かべた後、元親の左腕に抱き付いた。
彼女に左腕へ抱き付かれた元親は、困惑した表情を少しだけ浮かべる。
「お、おいおい張遼、お前までどうしたんだよ」
「ウチかて女やもん。少しぐらい嫉妬はするで」
「…………はあ?」
「それに前に言うたやんか。ウチの事は真名で呼んでって。“霞”って呼んでや」
張遼の的を得ない答えを聞き、元親はますます困惑する。
更に恋が右腕に抱き付いている力を強めたような気がした。
「霞、駄目。ご主人様は恋の…………」
「恋は独占欲が強すぎるなあ。後で痛い目を見るでえ」
鋭い眼付きの恋と、余裕の笑みを浮かべる張遼の視線が交差する。
2人の間に火花が散っているのが見えるのは幻覚であると思いたい。
更にその光景を静かに見ている月と詠も、威圧感のある雰囲気を醸し出していた。
(心なしか、傷がまた開きそうだ……)
この状況を打開してくれそうな人物はこの部屋の中では1人しか居ない。
元親は書類整理をしている筈の伯珪の方を見つめると、すぐに視線を逸らした。
書類を持つ手が震えており、浮かべている笑顔が何故か怖かった――
その後、政務の仕事に戻ってきた愛紗と朱里によって、この事態は収拾に向かった。
原因を招いた恋と張遼――霞、何故か元親も加えて愛紗から説教を受ける羽目になった。
説教中、自身に向けられる月達からの視線に元親は必死に耐えたのだった――
◆
「…………星、どう言う事だ?」
「お前が見たままの通りだが?」
愛紗は眼の前に居る星と貂蝉、更に貂蝉に抱き抱えられている女性を見ながらそう言った。
女性の髪は元親と同じ白髪であり、身体付きは星を少しだけ小さくしたぐらいである。
今の状況を星に訊いても訳が分からないので、女性を抱えている貂蝉に訊いてみる事にした。
「貂蝉、その女人は誰なんだ?」
「それがね、この娘が屋敷の前でウロウロしてたから、私が声を掛けたのよ」
「…………それでその人は驚いて気絶した訳か」
愛紗の言葉を聞き、貂蝉は驚いたような表情を浮かべる。
「あら? どうして分かったのん?」
「いや……大体予想は出来たからな」
免疫が無い人や初対面の人は、貂蝉の姿を見たら気絶するだろう。
良くても悲鳴を上げて逃げるのが落ちである。
それ程に貂蝉と言う巨漢(自称:漢女)の姿は凄まじいのだ。
「ところで愛紗、お前は屋敷の扉の前で何をしていたのだ?」
「ああ、ご主人様の検診をしてくれる医師がそろそろ来る頃だからな。出迎えようと思って待っていたのだ」
「成る程」と顎に手を置き、星は頷く。
「とりあえずこの者を起こそう。貂蝉、お前は何処かへ行っていろ」
「え〜〜〜、もう仕方無いわね。街に居る鈴々ちゃん達と一緒に見回りをしてくるわん」
渋々そう言った貂蝉は愛紗の言葉に従い、街の見回りに向かっていった。
貂蝉が消えた事を確認し、愛紗と星は女性の頬を軽く叩いて起こそうとする。
「う、う〜ん……」
「おい、しっかりしろ」
愛紗が身体を揺さぶり、目覚め掛けている女性を促す。
そして暫くした後、女性はゆっくりと眼を開けた。
「あ…………?」
「気が付いたようだな」
女性は上半身をゆっくりと起こし、周囲を見渡した。
それから後、愛紗と星の顔を見つめる。
「あの……ここは?」
「ここは幽州の太守であらせられる長曾我部元親様の屋敷だ」
「お主は門の前で気絶して倒れたのだぞ?」
女性は呆然とした後、凄い勢いで何かを探し始めた。
自分の衣服の中は勿論、周囲に至るまで全てである。
女性の突然の行動に、今度は愛紗と星が呆然としてしまった。
「あ、あ、あ、あの! 私の布袋は知りませんか!? あれは大切な物なんです!?」
「そ、そんな物は知らん。とりあえず落ち着け」
愛紗が女性を宥めようとするが、女性は慌てるばかりだ。
星はやれやれと言った様子で、何処からともなく1つの布袋を取り出した。
「お主の探している物はこれか?」
星の持つ布袋を見た女性は、引っ手繰るように星から布袋を取った。
「こ、これです! ありがとうございます〜〜〜!!」
「いや、お主が気絶した時に衣服から零れ落ちたのを拾っただけだ」
女性は布袋を抱き締め、涙を流して喜んだ。
余程彼女にとってそれは大切な物らしかった。
「ふう……大切な物が見つかった所で、お前の名前を教えてもらえないか?」
愛紗が頭を抱えつつも、女性に名前を訪ねる。
当の女性はハッとした表情を浮かべ、急いで少し乱れた衣服を整えた。
「も、申し訳ありませんでした。私の名は華柁と言います。師匠に言われて太守様の検診に参りました」
「――――ッ! お前が華柁か……」
自分が待っていた人物の予想だにしない登場に愛紗は驚いてしまった。
また先程の様子を見た限り、本当に検診など出来るのかと疑ってしまう。
星は愛紗がどうして驚いたのか不思議がっていた。
◆
「それでは検診が終わるまで、部屋の中に入るのは遠慮して下さいね」
「承知した。時間をいくら掛けても良いから、正確な検診を頼む」
愛紗に言われ、女性――華柁はゆっくりと頷く。
そして彼女は元親の部屋の扉を静かに閉め、部外者の侵入を防いだ。
部屋を追い出された伯珪は訓練に、月と詠は掃除をしに行った。
「あの娘、大丈夫かしら?」
愛紗と華柁が来るまで、元親のお見舞いに来ていた曹操は微笑を浮かべながら言った。
彼女と共にお見舞いに来ていた夏候惇達も訝しげな表情を浮かべている。
「何が心配なんだ? 曹操」
「華琳で良いわよ」と最初に言った後、曹操は顎に手を添えながら言う。
「だって手が思いっ切り震えてたわ。実際に診るのは初めてなんじゃない?」
「確かに……あの者、変に緊張していましたね」
曹操と夏候惇の言葉を聞き、愛紗は少しの不安を覚えた。
これでは朱里の「期待して良い」の言葉が嘘に思えてくる。
「まっ、あいつの悲痛な声が聞こえないように祈る事ね」
「曹操……不吉な事を言ってくれるな」
しかし何処か的中しそうな曹操の言葉に、愛紗の心に不安が更に募っていく。
逆に曹操は面白い事が起きないか、楽しみにしているような表情を浮かべていた。
場所は変わって部屋の中――
「そ、そ、それでは傷の具合を診させていただきましゅ!」
「……声が上擦ってる上に噛んでるぞ。大丈夫か?」
元親が心配そうに声を掛けるが、華柁は緊張しているせいで聞こえてないらしい。
ガチガチに固まった動きで元親の身体に巻かれる包帯を解いていく。
(大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、ちゃんと手順通りにやれば大丈夫!)
呪文のように心の中で「大丈夫」を繰り返し、華柁は平静を保とうとする。
赤い瞳が元親から――包帯の下から現れた――傷に視線を移す。
(ううっ……! 痛そう……! でもちゃんと診なくちゃ……)
元親の身体に出来た傷は塞がってはいるが、見ただけでも痛みが疼いてきそうだった。
華柁は徐に頭を振るい、内に出来た恐怖に似たような物を振り払う。
「お、おいおい……本当に大丈夫か?」
「だ、大丈夫です! 太守様は御心配なさらずに!」
「俺の心配をするより、自分の心配をした方が良くねえか?」
元親の心配をよそに華柁は傷に触りつつ、具合を見る。
どうやら順調に回復しているようだった。
「回復に向かっています。この分だと、後もう少しで痛みが無くなってきますよ」
「そうか。そりゃ何よりだ。身体を思いっ切り動かせるのは何時頃になりそうだ?」
「まだ無理ですけど、他の方達に手伝ってもらいながら少しずつ身体を動かしていくと良いと思います」
華柁の丁寧な助言を聞き、元親は言葉1つ1つに頷く。
具合を診終わった華柁は布袋をあさり、中から師匠から預かった薬瓶を取り出した。
「それでは薬を塗っていきます。少し沁みるかもしれませんが、我慢して下さいね」
「ああ、分かった。パッパとやってくれ」
華柁は薬を人差し指に浸け、元親の傷に慎重に塗っていく。
自分から少し沁みるとは言ったが、相手は幽州の太守。
なるべく粗相(痛み)が無いように心掛けていた。
(慎重に……慎重に……私の力の全てを指に込めて……!)
人差し指に必要以上の力を込めながら、薬を傷に順調に塗っていく。
そして元親の胸部に薬を塗り始めた時――
「――――痛……ッ!」
元親が小さく声を漏らし、顔を顰めた。
華柁の表情がみるみる青ざめる。
(や、やっちゃった……!? とうとう私……やっちゃった……!?)
華柁は奈落の底に落ちるかのような感覚に襲われた。
身体が震え、段々と意識が遠くなっていく。
左手から持っていた薬瓶が滑り落ちた。
「ふう、今のは少し沁みたぜ……って、おい! どうした!」
「す、すいません……! わ、私……私……太守様に粗相を……!?」
顔が青ざめている華柁が、徐々に自分から離れていく。
彼女の異変に気付き、元親は手を掴んで慌てて引き止めた。
「落ち着けって! 別に今のは何でもねえよ!」
「すいま……せ……ん……」
そう言った後、華柁の意識は闇に飲み込まれていった。
ここに来てから何度も味わった極度の緊張と恐怖故に、精神が疲れてしまったらしい。
意識が完全に飲まれる瞬間、華柁は自分の名前を必死に呼ぶ元親の声を聞いたような気がした。
◆
「あ…………」
「眼が覚めたか?」
華柁は徐に眼を覚ました。
横になった状態から起き上がると、眼の前には呆れ顔の師匠の顔があった。
周りを見てみると、どうやらここは自分の師匠が開業している医院らしい。
「私……どうしてここに?」
「華雄将軍がわざわざ気絶したお前を届けに来て下さったのだ。将軍によれば太守様に頼まれたらしいがね」
華柁はゆっくりと、自分がここに居る前までの事を思い出していく。
全てを思い出した時、華柁の顔が真っ赤に染まった。
「わ、私……太守様の眼の前で……!?」
「全く……お前さんの極度の緊張癖、どうにかならんものかね?」
「うう…………」
師匠に言われ、華柁は真っ赤になった顔を伏せる。
恥ずかしくて、ここに穴があったら入りたかった。
「筋は良いのに緊張癖のせいで全てが台無し。癖を治さんと医者としてやってけんぞ?」
「あうう…………」
師匠は溜め息を吐いた後、華柁の肩に手を掛けた。
華柁は伏せていた顔をゆっくりと上げ、眼の前に居る師匠の顔を見つめる。
「太守様からの伝言だ。“次に来る時は肩の力を抜いてこい”らしい。頑張らんとな」
師匠は長く伸びた顎髭を擦り、笑顔で華柁にそう告げた。
当の華柁は伝言の意味を分かり兼ねているのか、首を傾げる。
「あの……師匠、それってどう言う意味なのでしょうか?」
「分からんか? 検診は引き続き、お前に頼むと言う事だ」
「えっ…………!?」
華柁の瞳がみるみる驚愕の色に染まっていく。
自分は大きい失態を犯したと言うのに、引き続きの検診を頼まれた。
華柁は信じられない面持ちで問い掛ける。
「本当に……私が続けて良いんですか?」
「ああ。太守様の優しさに感謝しつつ、精進せい」
師匠はそう告げると、部屋の奥に去って行った。
華柁は暫く立ち尽くした後、窓から夜の空を眺めながら吹いた。
「ありがとうございます……太守様。私、次の検診までに成長します!」
夜空に浮かぶ月に向け、華柁はそう宣言した。
それに応えるように、月明かりが華柁の白髪を照らす。
華柁は自然と笑顔になった。