「片倉ッ! 力を貸せ!」
「断る」

突然広場に大声を張り上げてやって来た春蘭に、小十郎は座禅をしたまま即答した。
考える時間も無く、彼からのバッサリとした無情な返答――春蘭は即座に反論する。

「な、何を! 私が腰を低くして頼んでいると言うのに、聞かんと言うのか!」
「どの面でそんな事を言う……。それがお前の腰を低くしている態度なのか?」

溜め息を吐きながら言う小十郎。
春蘭はググッと唇を噛み締めた。

「き、貴様は私がどうして頼み事をするのか、その訳も聞かずに断るのか!」
「……察するに、どうせ華琳絡みだろう? そんな事に俺を巻き込むな……」

刹那、春蘭は小十郎の両肩を掴み、叫ぶように言った。

「それは違う! 秋蘭が、秋蘭が緊急事態なのだ!!」
「…………何?」

予想外の答えに、小十郎の眉が吊り上がる。
一言目には“華琳”の彼女が、華琳絡みの話ではない――。
座禅を止めた小十郎は、ゆっくりと立ち上がった。

「……分かった。それで何処に行けば良いんだ?」
「う、うむ……。私に付いてきてくれ!」

春蘭は無言で走り出し、小十郎も後に続いた。
それにしても秋蘭が緊急事態だとは信じられない。
腕の立つ不逞の輩に襲われたか、それとも急病か。
不安の種は一向に尽きず、小十郎は顔を歪めた。

 

 

 

 

春蘭に言われるがままに付いて行き、到着したのは1件の店だった。
何やら沢山の人が列を作り、それが店の中へと続いている。
その列の中には、先程春蘭が緊急事態だと言っていた秋蘭の姿があり――。

「おお。早かったな、姉者」

そう微笑を浮かべて言った。特に異常も無く、元気な姿を見せている。
小十郎が頭を抱えながら――緊急事態と言われた――秋蘭に尋ねた。

「…………これはどう言う事だ?」
「どうかしたのか? 片倉」
「……お前が緊急事態と言うから、春蘭に付いて来たんだ」

小十郎が春蘭を睨むように一瞥する。

「そうか。だが私はこの通り、至って元気だよ」
「……………………」

小十郎が無言で春蘭を睨み付けた。
その視線には「訳を言え」との意思がタップリ込められている。
春蘭は彼の様子に少し狼狽した表情を浮かべ、訳を説明した。

「わ……私は秋蘭の言った通りにしただけだ! そ、そうだろう? 秋蘭!」
「…………そうか。私の言った通りにしたのだな、姉者は」

全く話が見えず、小十郎は眉間の皺を深めた。
そして無言のまま、その場を立ち去ろうする。

「おっと! 片倉、お前にも詳しい訳は説明する」
「密かに去ろうとするな! 一緒に並んでもらうぞ!」

春蘭と秋蘭は少し慌てた様子で、去ろうとする小十郎の肩を掴んだ。
流石は姉妹と言った所か、動きがシンクロしている。
そして半ば無理矢理に、自分達の列に小十郎を組み込んだのだった。

 

「……つまり、簡単に言うとこうか?」

列の殆どが若い女性であり、その中に男は小十郎を含めて数人程。
そんな微妙な状況の中で、彼は秋蘭から聞いた話を纏めた。
小十郎をここに連れて来たのは、あまりに単純な理由だった。

「1人1個限定の菓子を華琳の分も買いたいので、一緒に並んでほしかった……と?」

春蘭と秋蘭が頷く。
やはり華琳絡みの話だったのだ。

「うむ。ここの菓子は華琳様の大好物なのだ! 今日のお茶に是非とも出したくてな」
「華琳様をここの列に並ばせる訳にもいかんからな。そこで非番のお前を呼んだのだ」
「それで春蘭が、俺に“秋蘭が緊急事態だ”と告げた理由か……」

小十郎が春蘭と秋蘭に視線を移した後、ポツリと告げた。

「帰る」

そう言って列からサッサと出ようとする小十郎を、2人が掴んで喰い止めた。
流石は曹魏を支える猛将である――すぐさま列の中へ引き戻されてしまった。

「帰るな! だから私は理由を説明したくなかったのだ!」
「……こんな場違いの場所に俺を連れて来るんじゃない!」
「そう言わずに協力してくれないか? 私からも頼む……」
「2個買えれば十分だろうが! 俺は並びたくなどない……!」

列の中で騒いでいるせいか、列に並ぶ人の視線が徐々に集まってきた。
その視線が妙に冷たく、小十郎は抵抗するのを止め、溜め息を吐いた。

「どうだ片倉。協力してくれるか?」

微笑を浮かべ、秋蘭が問い掛ける。
小十郎は無言のままだ。

「だ、ダメか……?」

彼が無言で居る事に不安を覚えたらしく、春蘭が弱々しく問い掛けた。
まるで買って欲しい物を強請る子供のようである。猛将とは思えない。
これ以上言っても無駄だと悟った小十郎は、渋々と言った様子で頷いた。

「よし! それでこそ、華琳様に仕える将だ!」
「……次からはちゃんと理由を言え。変な嘘で誤魔化さずにな」

そう呟く小十郎に、秋蘭はクックッと笑った。

「では次からは、同じような理由でも協力してくれるのだな?」
「…………内容による」

逆手に取られた事を悔しく思いながら、小十郎は列に並び直すのだった。

 

 

3人が並んでから暫く経った頃――ようやく列が動き始めた。
1人1個限定と言うくらいだから、数には絶対に限りがある。
時間が掛かれば掛かる程、無事に買えるかどうか不安が募った。

「おい。目的の物が買えなかったら、どうするんだ?」
「その時は仕方ない。別の菓子を買うしかないだろう」
「何を言うか。絶対に買える! 全ては華琳様の為に!」

春蘭は買えなかった時の状況が頭に無いらしい。
小十郎と秋蘭は同時に溜め息を吐いた。

「やったの♪ 無事に買えたの♪」
「せやなぁ。ウチ等はついてるで」
「……食べたらすぐに、警備に戻らなくては」

列の先から菓子を購入する事が出来た女性陣が歩いてくる。
その中に見知った顔が3つ、聞き慣れた声が聞こえてきた。
小十郎は顔を顰め、彼女達に声を掛ける。

「……お前等」

正体は小十郎の指揮する警備隊の凪、真桜、沙和の3人だった。
小十郎が低い声で言い、声を掛けられた彼女達の動きが止まる。
そしてゆっくりと振り返り、怒り顔の彼を見て表情が青ざめた。

「あ、ははは……隊長」
「何ちゅーか……奇遇やなぁ?」
「あ、あの隊長……これは……」

手に菓子の入った箱を持ったまま、彼女達は冷や汗を流している。
身体中から無言の威圧感を醸し出しながら、小十郎は問い掛けた。

「今日は3人とも、巡回当番の日だった気がするんだが……?」

彼からの問い掛けに、真っ先に答えたのは凪だった。

「……申し訳ありません。止めたのですが」
「あ〜っ! 凪ちゃんずるーい! 何だかんだでノリノリだった癖に〜!」
「うっ……!? そ、それは…………」

3人娘の良心である筈の凪も、年頃の少女と言う事か。
1人1個限定の菓子の魅力には逆らえなかったらしい。
この場の重い空気に耐えきれなくなったのか、沙和が口を開いた

「あ、あの〜……春蘭様達もここの限定品を買いに?」
「うむ。華琳様の好物でな。……ちゃんと我々は非番の日に買いに来た」

話題を逸らそうとした沙和の話を即座に戻す秋蘭。
冷静沈着なようで、容赦の無い姿勢の彼女だった。

「秋蘭! 片倉! もうすぐ我々の番だぞ!」
「…………分かった! すぐに行く……!」

後ろから春蘭の怒声にも似た声が響いた。
真桜は好機と言わんばかりに、小十郎の背を押す。

「ほらほら隊長! はよ行かんと無くなってしまうで!」
「そうやって話を誤魔化すんじゃない……」
「うっ……相変わらず隊長のツッコミは厳しいなぁ」

立場の悪さに縮こまる3人娘。一応反省の意思はあるらしかった。
小十郎は顔を顰めたまま、彼女達に軽く拳骨を喰らわした後――。

「無駄話はせず、さっさと食べて仕事に戻れ。それが終わったら広場を百周だ」
「ええええっ!? 広場を百周ぅぅぅ!?」
「ちょ、待ってえな隊長! 警備の後に百周はキッツイで……!?」
「……もう百周増やされたいのか?」

ブンブンと首を横に振る3人。
どうやらこれ以上の罰の上乗せは御免らしい。
彼の様子を見た秋蘭が、呟くように言った。

「片倉……案外お前も容赦が無いのだな」
「隊長だからな。それにお前には言われたく無い」

小十郎は凪に視線を移し、口を開いた。

「凪。いざと言う時は歯止め役を頼んだぞ」
「はい。本当に申し訳ありませんでした」

深々と頭を下げ、今回の事を詫びる凪。
小十郎は軽く頷き、3人を解放するのだった。

 

 

 

 

「無事に買えて良かったな。姉者」
「ああ! きっと華琳様も御喜びになるぞ!」
「転ばないよう、足下には気を付けるのだぞ」

その後、無事に限定の菓子を購入する事が出来た3人。
帰り道、菓子が入った箱を持ちながら歩く春蘭。
秋蘭の注意はちゃんと届いているのか、軽く返事をするだけだ。
初めて見るそんな彼女の姿に、小十郎は少し唖然としていた。

「奴も素直になると、あんな姿を見せるんだな……」
「そうか? 華琳様が絡むと、大抵はこうだぞ?」
「…………否定は出来んな」

秋蘭の言葉に小十郎は頷くしかなかった。

「片倉! 無事に買えたのも貴様の御陰だ。礼を言うぞ!」
「…………あ、ああ」

普段の彼女からすれば、思いもしなかった態度である。
小十郎はまるで不可思議な物を見ているような感覚に襲われた。

「ふふっ……戸惑っているのが分かるぞ。片倉」
「まるで別の何者かが化けているみたいだ……」
「……流石にそれは失礼じゃないか? 片倉」

2人がそんなやり取りをしていた時――。

「ひゃあ!」

前方から少し高い声の悲鳴と、何かが勢いよく倒れる音が聞こえた。
小十郎と秋蘭が視線を向けると、そこには転んでしまった春蘭の姿。
どうやら上機嫌のまま歩いていたせいで、足下の石に気付かなかったらしい。
その結果――見事に転んでしまったと言う訳だ。

「あ……ああ…………っ!」

小十郎と秋蘭が声を掛ける前に、春蘭の呆然とした声が響く。
倒れた彼女の眼の前には、菓子の入っていた箱が――。

「おいおい……」
「だから足下には気を付けろと……」

潰れた状態で無残に転がっていた。
この状態では中の菓子もグチャグチャだろう。

「ああ……っ、あぁ……あう、う……」

言葉にならない程のショックを受けているらしく、春蘭は倒れたまま動かない。
見兼ねた小十郎は彼女に駆け寄り、手を差し伸べ、やんわりと声を掛ける。

「ほら、立てるか?」

だが春蘭は全く反応を示さず、呆然としたままだ。
その後、彼女の眼から大粒の涙が零れ落ちた。

「うわあああああああんッ!?!?」
「――――ッ!?」

唐突に大声を上げ、泣き出し始めた春蘭。
その五月蠅さに小十郎は思わず耳を塞ぐ。

「わああああんッ!?!? せ、せっかく、せっかく華琳様の為に買ったのにぃぃぃ!?」
「やれやれ。今回は諦めろ姉者。そんなグシャグシャになっては、もうどうにもならん」

対処が分からない小十郎とは逆に、秋蘭は慣れているらしい。
泣き喚く春蘭を、まるで小さい子供をあやすように慰める。

「今日は運が悪かったのだ。また非番の日に並ぼう」
「ひっく……えぐ……しゅうらぁぁん……!」
「よしよし……と言う事だ。また協力してくれるか? 片倉」
「ひっく、ひっく……えぐ……かたくらぁ……」

再び協力を頼まれる小十郎。しかも今度は涙付きだ。
深く溜め息を吐いた後、小十郎は口を開いた。

「秋蘭。春蘭を頼む。俺は今の店に戻って、菓子が残っているか見て来る」
「何……? だが戻ってもし残っていても、お前1人では1個しか買えんぞ?」
「華琳の分だけでも買えれば文句はねえ筈だ。それに――」

小十郎は未だに泣いている春蘭を一瞥する。

「仮にも将軍を道のド真ん中で、このまま泣かせているよりかはマシだろう?」
「ううう……ひっく……えぐ……」
「…………それもそうだな。私は姉者を落ち着かせてから行く。頼むぞ、片倉」

秋蘭にそう頼まれ、頷いた小十郎は、急いで先程の店へと引き返して行った。

 

 

 

 

店へと引き返すと、女性陣の列がまだ出来ていた。
どうやらまだ数はあるらしいが、時間はかなり掛かりそうだ。
仕方が無いとばかりに並ぼうとした小十郎だったが――。

「で、だ……」
「「「…………」」」

あの時仕事をすると約束をして別れた凪達が、列の中に紛れていた。
今度は容赦無く彼女達を列から引っぱり出し、自分の前に並ばせる。
まさか小十郎が引き返してくるとは思わなかったのだろう。
彼女達は気まずそうな表情を浮かべながら、チラチラと小十郎を窺っていた。

「菓子を食べたらすぐに仕事に戻れと、俺は言った筈だが……?」
「あの、その〜……あそこの店のお菓子、物凄く美味しいの……」
「沢山買って、沢山食べたいと言う欲望には勝てへんのや。隊長」

言い訳を始めた2人から、真ん中に居る凪に視線を移す小十郎。

「歯止め役はお前に任せた筈だぞ? 凪」
「…………も、申し訳ありません」

顔を赤くし、謝りながら俯いてしまった。

「まあともかく、お前等には更に――ちょっと待て」
「ん? どうしたの? 隊長」
「お前等、あの菓子を幾つ買った?」

小十郎が尋ねると、3人はそれぞれ手に持っている箱を見せた。

「隊長が居なくなった後にまた並んだから、2個ずつあるの」
「本当か……!」
「ホンマやで。これからウチ等でゆっくり味わうんやぁ……♪」
「? どうかされたのですか? 隊長」

こんな事、今叱ろうとした彼女達に頼むのは気が引けるが――。
しかしこのまま並び、時が過ぎていくのを待つよりはマシである。
小十郎は先程起きてしまった出来事を包み隠さず彼女達に話した。
勿論、春蘭が道の真ん中で泣き喚いてしまった事は伏せておいた。

「成る程。春蘭様が…………」
「成る程なぁ。確かに少し可哀そうや」
「苦労して買ったと思うが、良ければ1人1個ずつ譲ってくれ。その分の代金は払う」

小十郎からの頼みに、真桜の眼が怪しく輝いた。

「たいちょ〜、もう一声頼みますわ。ウチ等の菓子で全てが丸く収まるんやろ?」
「こらッ! 真桜!」

凪が真桜を注意するが、彼女は意地の悪い笑みを浮かべたままだ。
沙和も何かを期待するような眼で、小十郎をジッと見つめている。

「足元見やがって…………広場百周を帳消しにしてやる」
「よっしゃあ! 流石は隊長や! 売ったぁ!」
「沙和もなの〜! 隊長はやっぱり優しいの!」

真桜と沙和が、限定菓子の入った箱を1つずつ小十郎に渡した。
凪も小十郎に箱を1つ差し出しつつ、密かに彼に声を掛ける。

「あ、あの、隊長……私は広場百周を帳消しにしなくても構いませんが……?」
「お前にだけやらせる訳にもいかねえだろう。お前は今日の仕事をしっかり果たせ」
「は、はい。分かりました……」

彼女の気持ちを汲み取り、小十郎は凪にそう言うのだった。

「存外高い買い物になりはしたが、恩に着るぞ。お前等」
「ええって。ほな隊長、春蘭様達によろしゅう言っといてや」
「じゃあなのー。隊長」

そう言って小十郎は、仕事に戻る3人と別れたのだった。

 

 

 

 

後を追って来た春蘭と秋蘭と会ったのは、3人と別れて少し経った後である。
春蘭は相変わらず眼からは涙を流し、鼻を赤く染めて泣きじゃくっていた。

「片倉。どうだった?」
「ひっく……やっぱり、駄目……だったか?」

不安気に尋ねてくる姉妹に、小十郎はフンと息を吐いた後――。

「ほらよ。これでいい加減に泣き止め」

菓子が入った箱を、彼女達の前に差し出した。
2人の表情が驚きの物にみるみる変わっていく。

「おお!!」

春蘭が涙を拭い、それに飛び付いた。彼女は大事そうに持ちながら中を確かめる。
そこにはちゃんと限定菓子が入っていた。潰れた状態ではなく、元の姿のままだ。

「どうやって手に入れたのだ? あんな短時間に……」
「色々と高く付いちまったが……まあ、聞くな」
「片倉! 恩に着る! 本当にありがとう!!」

小十郎に深く礼を言いつつ、春蘭はそれを秋蘭へと渡す。

「秋蘭。今度はお前が持っていてくれ。また私が転んだら目も当てられんからな」
「ふふっ……そう言う事なら、遠慮無く持たせてもらおう」

姉からの可愛い頼みに、妹は快く引き受けるのだった。

「じゃあ俺はもう用無しだな。一足先に戻らせてもらうぞ」
「……そうか。片倉、今回は本当に助かった。ありがとう」
「ふん……たかが菓子だろう。そこまで畏まって礼を言うな」

秋蘭にそう言った後、小十郎はその場を立ち去った。
そんな彼の背中を、春蘭は無言で見つめる。
ボーっとした様子の姉に、秋蘭は訝しげに尋ねた。

「? どうしたのだ? 姉者」
「い、いや! 別に何でもない……!」
「???」

 

 

 

 

「片倉。居るか?」

夜――就寝しようとしていた小十郎の部屋に、1人の訪問客が訪れていた。
何事かと思いつつ、小十郎が扉を開けると、そこには居たのは秋蘭だった。

「こんな夜更けに何の用だ?」
「何……お前に渡したい物があってな」

そう言って秋蘭が差し出したのは、紙に包まれている何か――。
それを受け取り、開いていくと、中にあったのは菓子だった。
正体は今日何度も眼にした限定品の菓子で、何故か半分であった。

「何だこれは……」

不機嫌な表情で尋ねると、秋蘭は微笑を浮かべながら答えた。

「今日の華琳様とのお茶で、姉者が取っておいた物だ。お前への礼のつもりらしい」
「は…………?」
「そんな顔をせずに受け取ってやってくれ。今の姉者の精一杯の気持ちなのだ」

その菓子は明らかにパサパサで、随分と乾いてしまっている。
正直美味いと言える外見ではないが、御礼の品なのだ。
小十郎はやれやれと言った様子で、それを受け取る事にした。

「お前に託すとはな。……奴も何を考えているんだか」
「そう言ってくれるな。姉者は不器用なのでな……」

クックッと笑い、秋蘭は部屋を後にした。
受け取った菓子を見つめ、小十郎は端を一口だけかじる。
味は――外見通り乾いていて、美味いとは言えなかった。

「不味い……が、あいつらしい」

そう微笑を浮かべ、小十郎はそれを全部食べるのだった。

 

 


後書き
第13章を書き上げました。小十郎、春蘭、秋蘭、菓子を買いに行く。
オリジナル話って難しいですよね。結局今回も拠点話を元にしました。
う〜ん……なかなか構想と言うのは、思い付かない物なんですね。
では、また次回の御話でお会いしましょう。


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