「え、えーとぉ……アキコ?」
「…駄目か」
予想通りの結果に、アキトは苦笑いを浮かべるしかなかった。
第三話
『顔合わせ』
〜 Introduce in Island 〜
後編
先導はマルルゥ…であったのだが、何が気に入ったのかアキトの頭の上に乗って誘導していた。
「あそこに見えるのが集いの泉なんですよ〜」
「ああ、知ってる。 俺の着水地点だ」
「?」
目の前に広がる泉を前に、アキトは良く生きていたなぁ…と驚く。
マルルゥはそんなアキトに疑問符を浮かべるが、誘導を続ける事にしたらしく言葉を続ける。
「で、あそこに見えるのがぁ泉の集会場なんですよ〜」
指差した方向には岩で作られた建物――と言っても、腰掛とテーブル、屋根しかない小さな物であったが――があった。
「護人さん達は何かあったらぁ、あそこでお話しするんですよ〜」
最近になってからは話す量も笑い声も増えた、と後から付けるマルルゥ。
「どういう意味なんだ?」
「えっとですね…マルルゥはよくわからないですけどぉ、先生さん達がやってきてからそうなったんですぅ。
マルルゥはみんなが笑ったりした方がいいと思いますぅ」
「(硬い心を、和らげる…か。 まるでお前のようだな、ユリカ)」
今は遠き人を思い出しながら、アキトはフッと笑みを浮かべながらマルルゥの誘導に従い歩みを続けのであった。
「ここが〜マルルゥ達の学校なんですよぉ」
泉の畔に設けられたそこは、言わば青空教室という物であった。
木に黒板を掛け、そこらにある切り株を机として使っているのであろう事は一目瞭然であった。
「こんにちは!……もしかして、集落を廻っているのですか?」
後ろから声を掛けられたアキトは、ゆっくりと振り向くと教材らしき物を持ったアティとベルフラウ・アリーゼがそこに立っていた。
「ああ。 マルルゥに案内してもらってる……なんだ?」
唐突に、不機嫌そうになっていくアティを不思議そうに見るアキト。
「……あの、マルルゥちゃん。そこって落ち着くの?」
「はい!とっても落ち着くのですよ〜♪」
プクーッと頬を膨らませるアティを他所に、アリーゼとベルフラウはアキトの傍に寄ってきていた。
そして、彼の頭に陣取っているマルルゥを見上げ、何やら羨ましそうに人差し指を咥えるアリーゼ。
「(いかん、逃げないと不味い事になりそうな気がする…!)」
先程から第六感が警鐘を響かせているアキトだが、体は一向に動こうとしなかった。
そして――
「…いいなぁ。アキトさん、私もやりたいなぁ」 「…私も」
彼の服の裾を、両側からクイッと引く二人。
「やりたいって…マルルゥみたいに?」
「「(コク)」」
揃って頷く二人を目にし、唖然とするアキト。
子猫サイズのマルルゥはそれほど重くもないし大きくも無いから出来る事であって、
まだ少女で小柄といっても、頭に乗せるのは不可能だと思ったからである。
「(俺にどうしろと?!)」
どこで覚えてきたのか、上目遣いで迫る(?)二人にアキトは思わずたじろぎ、アティに救いの目を向けるが…
「(ギッ!!)」
「(駄目だ、このままじゃヤられる?!!)」
理由は分からないが、色んな意味で危険な状態に陥った事を感じ取ったアキトは逃げに入り始める。
「さ、さぁマルルゥ。 次行ってみようか!」
「はぇ?」
いきなりのアキトの行動に、ついていけなかったマルルゥは目を丸くして驚きの声を挙げるが、
アキトはそんな事お構い無しに早足で立ち去ろうとする。
が、それでも2人が服を掴んでいる事実を拭い去る事は出来ないわけで、彼女達も一緒に引っ張る事になってしまうのであった。
「…離してくれないか?」
アキトは本気で困り果てて、二人の少女に懇願するが…頑として首を縦に振らない彼女達にガクッと項垂れる。
「じゃあどうすれば離してくれるんだ?」
「だって…」 「貴方がやってくれないんですもの」
そう言って、またマルルゥの方を見上げる二人。
「無理に決まっているだろう…」
溜息を吐きながら、二人に聞こえるように呟くアキト。
「じゃあ、手を繋ぐだけでもいいですよ」
そして再びアキトの両側を占拠した二人は、彼の手を握ると表情を綻ばす。
「手を繋ぐのは別に構わないんだが…一体、何故君達は俺に構ってくるのだ?」
抵抗を止めたアキトは疑問に思っていた事を彼女らに訊ねる。
アキトの手をしっかりと握り締めながら、心なしか嬉しそうな表情を浮かべているように見える二人は呟くように答え始める。
「私達にお兄ちゃんがいたら、どんな感じなのかなぁって…」 「それに、周りには女性しかいませんでしたし…」
「(よくわからんが…異性への憧れって奴なのか?)」
曖昧にしか彼女達の考えを理解できなかったアキトだが、それなら無理に嫌がることも無いだろうと
手をそのままにして歩き始めるのであった。
「って、君達もついていくのかい?」
「「うん」」
タイミング違うことなく同時に答えるアリーゼとベルフラウに、アキトはマルルゥをチラリと見上げる。
「マルルゥはぜんぜん構いませんよ〜、みんなで行くと楽しいですっ!…先生さんも行くですか?」
「そうですね…予定も無いですから行きます」
マルルゥに問われたアティは、少し考える素振りを見せてから答えるとアキト達の元にやってきた。
「……」
一瞬彼女と目が合ったアキトは、何故か身震いしてしまう。
「…アティ、なんか怒っているのか?」
「え、いやだなーアキトさんったらー。 そんな事あるわけないじゃないですかぁ」
感情が篭もっていない台詞をサラリと告げたアティは、引き攣った笑みを彼に向ける。
「俺何かやったか…?」 「「先生、怖い…」」 「はや?」
「早く行きましょう?」
その場で固まった3人(+α)はアティの呼びかけに反応して、歩みを開始するのであった。
「ところで、手を繋ぐの、どうして俺なんだ? 男ならカイルやスカーレル、ヤード…etc居るだろう?」
ふと疑問に思った事を訊ねるアキト。
してその回答は――
「えっと、ヤードさんは何か頼りないですし」 「スカーレルは微妙に嫌」
「カイルさんは生理的に嫌です」 「汗臭そうだもの」
そうして二人は、島内男性陣の特徴及び評価を告げていき―――
「で、最後に残ったのがアキトさんだった訳です」 「服装を除けば至ってマトモでカッコいいですしね」
「は、はぁ…どうも」
毒舌を吐かれまくった島内の男性陣に哀れみを浮かべながら、アキトは苦笑いして答えるのが精一杯であった。
しばらくしてアキトの視界に入ってきたのは、どこか彼に懐かしさを思い出させる場所であった。
「…映像でしか見たことはないが、此処は俺の世界に酷似している」
お世辞にも広いとは言えないが、辺り一面に広がる田畑と木造の家を見渡しながらアキトは呟く。
「え?アキトさんの世界って、シルターンに似てる所なんですか?」
幾分か機嫌が良くなったアティは、不思議そうに彼に尋ねてくる。
「まぁ、部分的にな。 どちらかというと、ロレイラル寄りなんだが」
アキトの世界――2200年地球において、文明はより進み、田畑などの物は存在しない…訳はなく、
オートメーション化されているが、多少は残っているのである――について想像し始めたアティは頭を捻らせてうなり始める。
ロレイラルの機械文化とシルターンの文化がゴッチャになっている世界など、彼女には想像し難い物なのであろう。
「そんなに想像し辛いか…?」
「うー…」
何故か涙目で迫ってくるアティを片手であしらいながら、目の前を飛ぶマルルゥの後を追うべく歩みを続ける。
アリーゼとベルフラウは彼から手を離し、少し後ろの方を着いてきていた。
何かを話しているらしく、時折アキトの方を見てはキャッキャッと笑い声をあげていた。
そして、集落の中心部に差し掛かったところで、マルルゥが彼の方に振り返り話し始める。
「ここがーシルターンの集落、風雷の郷ですぅ。あそこに見えるのがお姫様のお家ですぅ」
「お姫様?」
マルルゥに正しい名前を訊ねるのは無意味だと分かっているのだが、思わず訊ねてしまうアキト。
「この郷を治めるミスミ様の事ですよ」
理解に苦しむアキトの補助として、アティが助け舟を出す。
「名前からして女性だろうが…護人に女性はアルディラしか居なかった筈だが…?」
「まーそこの所、色々ありましてぇ…会って直接聞くほうが早いと思います」
「ぬぅ…こら、別に押さなくても自分で歩くから止めろって」
「「♪」」
そう言ってアティと少女二人は彼の背を押して屋敷に連れて行くのであった。
「…間近で見ると、やはりデカイな」
和の趣丸出しの屋敷を見渡しながら、アキトは呟く。
「(ミスマルの小父さんの家もこれくらいだったか…?)」
どうでもいい事で必死に記憶を辿ろうと頭を捻るアキトを他所に、アティ達は敷地内にあがっていた。
「お姫様〜?どこですか〜」
ミスミを呼ぶのはマルルゥに任せて、アティ達は屋敷の縁側に座るとアキトに手招きする。
「そんなところで立っていないで此処に座ったらどうですか〜?」
その言葉に逡巡するアキトだが、アティ達の言うとおりに縁側へ向かい腰掛ける。
ギッギッ
木造特有の足音を立てながら、何者かがゆっくり近づいているのに気づいたアキトは、廊下の先を覗き込もうと
首を回そうとするのと同時に、アティがその人物に声を掛けた。
「あ、フクベさん。こんにちは」
「なっ?!」
意外な名がでたので、アキトはガバッと振り向く。
「おぉアティ……、ん? んんん?」
アティに言葉を返そうとするが彼女の隣に座っている見覚えのある男の顔を、髭を揺らしながら覗き込むフクベ。
「…フクベ提督」
「お、あぁ誰かと思えばテンカワ。 テンカワ・アキト君じゃね?」
ようやく思い出したフクベは、笑みを浮かべながら隣に近づく。
「いや〜、しばらく見ない内にすっかり雰囲気が変わっておるから誰か分からんかったわい」
「…まぁ、色々ありましたから」
自嘲気味に苦笑いしながら、アキトは答える。
「しかし、佐世保からいなくなったと思ったら…此処に来てたんですね」
そう、フクベはナデシコクルーが佐世保に拘留されている時期までは姿が確認されているのだが、
その後の消息は誰も知らなかったのだ。
…単に彼の事を忘れていたから知らなかった、という可能性もあるが。
「丁度隠居する場所を探しておったから、手間が省けたわい」
カカカッと笑うフクベと唖然としているアキトを交互に見比べていたアティと少女二人は小首を傾げながら訊ねる。
「お知り合いですか?」
「ん、ああ…まぁね」
話すと長くなるで、言葉を濁しながら答えたアキトに不満そうに頬を膨らませる三人。
「相変わらずじゃの〜」
そのやり取りを見て、というかアティ達を見てフクベはアキトに呟く。
「…何がです?」
「はてさて、何がじゃろうかの?♪」
やはり分かっていないアキトの言葉を交わしながら、フクベは縁側に腰掛けてお茶を啜り始める。
「フクベさん、相変わらずってどういう事なんですか?」
先程から二人の関係を気になっている――気になるのはアキトの事だったりするのだが――アティが訊ねると、
フクベは一旦お茶を置くと、一息ついて答える。
「いや、な。 こう、鈍い所とかな」
「「「あぁ、なんとなくそんな感じがしますね(わ)」」」
フクベの言葉にほぼ同時に同意する三人。
「…俺の何処が鈍いんだ?」
とまぁ、会話をする事数分後…
「アキオさ〜ん、連れてきたですよ〜。 お姫様も早くです〜」
「俺はアキトだって何回も言ってるだろう」
思いっきり名前を間違えながらやってきたマルルゥに溜息をつきながら、アキトは彼女の方へ振り向くと
マルルゥの後ろから女性が付いてきているのが確認できた。
「マルルゥや、そう急かすでない……ぞ…」
「(綺麗な人だな…清楚可憐ってやつか?)」
奥から現れた女性――ミスミの姿に、思わず感嘆の意を浮かべるアキト。
頭から小さく角が見えているが、アキトはこれがシルターンの人の特徴なのだと認識する。
何故かアキトの顔を見て動きを止めたミスミと、その彼女を観察しているアキト。
傍から見ると、お互い見詰め合っているように見える二人にアティは羨ましそうに間に入る。
「…あのぉ、ミスミ様?それにアキトさんも…どうしたんですか?」
「ん、あいや…なんでもないが――「リクト!!」ぉわ?!」
彼女に見惚れていたなんて口が裂けても言えないアキトは思わず言葉を濁すが、次の瞬間驚愕に包まれることになった。
数歩先に居た筈のミスミが、自分の方へと走り寄ってこちらにダイビングしているからである。
これには流石に驚いたアキトだったが、すぐに立ち上がって体をミスミの方へと向けると一瞬躊躇するが受け止めようと構える。
あえて避ける必要も無いし、このままだと地面に激突は必死であるのは簡単に予想が付いたからである。
ボフッ
衝撃を軽減させる為、少し後ろに動きながらアキトは彼女の体を受け止めると同時に、ミスミはアキトの体に手を回してギュっと体を更に寄せ付ける。
彼女のこの行動には予想外であったアキトは、困惑の表情を浮かべて彼女に話しかける。
「あの…」
「……すまぬな。お主が物凄く良人に似てての…思わず、な」
彼の胸に顔を埋めていたミスミは、ゆっくりと顔を離すと彼に呟いた。
その悲しげな表情、薄っすらと浮かんでいる涙を見たアキトは何となくではあるが事情を察し、彼女の行為を咎めずに自分の体を貸す事にするのであっ た。
自分もそうやって、多くの仲間から慰めて貰った事があるから。
「そんなに似ているのか?」
「あぁ…主に角が生えておれば、最後まで気づかなかったじゃろう。 そのくらいじゃ」
アキトのその質問に、愁い恥じらい…様々な感情を浮かべながらミスミは答えるとアキトの体に回していた腕に力を入れる。
そうすると体がより密着する事になるわけで。
「……」
「(む、胸が当たってるのだが…あぁ、それにしてもいい香り…はっ?!違う、違うぞ!? 俺は俺はぁぁ!)」
段々と落ち着いてきたアキトは、ミスミの体温やら何やらの感触に慌てふため始める。
過去、イネスやエリナから誘われた事はあるがユリカ一筋であるから断っていたし、彼女とも結局何の関係を持たずに別れているので
女性を意識している時の女性への免疫は然程高くないのである。
(逆を言えば意識していない時は物凄い大胆な態度を取れるのだが〈前話アティにやった〉。 真性である)
ミスミを意識してしまったアキトは、初心な少年の様に如何していいのか分からず、本気でうろ たえ始めるのであった。
その一部始終を目の前で観賞していた4人、特に女性3人の視線は少し厳しい物となっていた。
「……別にアキトさんが誰と何をしようがいいんですよ」
隣にフクベも居るし、自分の教え子が居る手前、誤魔化しの言葉を口にするアティ。
それと同時に彼女の心には幾つもの感情と疑問が浮かび、沈んでいく。
「(そう、アキトさんとは昨日初めて会って…転びそうになったのを助けてもらった…それだけじゃないですか。
なのに何故私は…誤魔化そうとしているんでしょうか?これではまるで…)」
そのアティとは対象的に、少女二人は物凄い羨ましそうな表情を隠そうともせずただ眺めているのであった。
抱きついている相手がミスミでなければ、我先と割り込んであのポジションを自分の物にしているであろう。
「うぅぅ、あそこは〜…」
と、本を片手にアリーゼ。
「一番殿方を近くに感じれるベスト萌えポジションですのに…」
やはりベルフラウも本を片手に呟く。
その本の背表紙には、タイトル部分は汚れて見えないが著者にスカーレルとあった。
……殿方に縁の無い貴族のお嬢様には打って付けの本かも知れないが…ある意味禁書のうような気がする。
「(かかか、どこか雰囲気は変わったが…どうじゃ、根は変わってないようじゃの。それにこの娘らも…面白い事になりそうじゃわい)」
フクベはそんな3人の様子を見て、微笑みながら茶を啜るだけであった。
微妙な雰囲気を切り崩したのは、今まで放置されていたマルルゥと軒道から歩いてきた鬼忍キュウマであった。
「マルルゥもやるです〜♪」
「…お館様に、ようやく新たな春が!」
マルルゥはポフッとアキトの頭に取り付き、キュウマはもう大慌てでミスミの元まで駆け寄って膝を付く。
「早速祝言の用意を致します!」
「お、おい!!」
突然のキュウマの言葉に目を丸くするアティと生徒2人。
それと抱き付かれたままのアキトは冗談じゃないと慌てて声を掛けるが、
「…了承♪」
「了承っておい?!!!」
ここまで慌てたのは久しぶりだと心のどこかで思いながら、アキトはミスミの意外な発言に驚きの言葉をあげる。
「スバルにも父親が必要だと思ってたところじゃ。 そなたなら十分じゃろ。 わらわも気に入った」
「お館様がよろしければ、私の方からは何もありません」
「ままままままま待てぇぇ?!」
急な展開に少々追い付いていないアキトだが、本能的にこのまま流されると不味いと思ったか口を挟むと彼女の肩に手を置いて離れようとするが、
「なんじゃ? …わらわじゃ不満かえ?」
流石は鬼人、力は並みの女性を遥かに超えており、強気に出れないアキトは彼女を引き離すことが出来ず更なる追撃を受けてしまう。
「いや…そんなつもりじゃ。 というより、初対面ですよ俺ら?! いきなりそんな事言われても」
「そんなの、お互いの気持ちが通じてたら問題ないわ」
どう考えても通じ合っていないのだが。
「俺の話を――」
「ではキュウマ、早速この事を郷中に知らせるのじゃ」
「ハッ、この吉報、すぐさま伝えて参ります!」
もはやアキトの言葉なんざ聞いてないミスミがキュウマにそう命ずると、キュウマは心得たと言わんばかりに頷くとスッと立ち上がる。
「待たんかい!! ってか止めろ!」
そんな事されてたまるかと、アキトは抱きつかれながらもキュウマに拳打を入れる。
シュゴッ!!
素早く放たれた拳打は、忍者風に消えかけたキュウマにヒットする。
「ぐふぅ?!」
忍者は消えるのではなく、高速で瞬時に飛び上がっているだけなので…横からの衝撃を受けたキュウマはそのまま山なりに飛んでいって
隣の垣根を越えていった。
ズムッ…
「ふぅ(色んな意味で、危機は回避されたぞ)」
満足そうに頷いたアキトは、ふたたび問題を解決すべく、問題の人と向き合う。
「その拳打…そなた、本当にリクトではないのかえ?」
「…いや、違います。違いますから離して――「うむ、まぁ違ったとしてもわらわはそなたの事がより一層気に入った!」――うぅ」
やはりアキトの懇願は無視され、逆に何故か好かれてしまったアキトはもはや最後の手段を使うことに決めた。
そう、外野である。
「(最初から使えばよかった気が…)」
まず助けを乞うためにアティを見る。
× 除外
殺られる。
次にアリーゼとベルフラウを見る。
△ 厳しい
彼女らではミスミを説得するのは難しいと判断する。 いやむしろ、おかしな方向に向かいそうだ。
それならばマルルゥは…
論外。
自分の頭の上でスゥスゥと寝ているマルルゥに何も期待できない。
となれば、残りはフクベしか居ないわけで。
「……(頼む、フクベ提督! あんとき殴った俺が悪かった!!)」
本気でフクベに助けを乞うアキトは、必死の形相でフクベに視線を送る。
そんなフクベは深く苦笑いしながら頷くと、ゆっくりと口を開き始めた。
「姫さんや、いくらなんでも順番って物がある」
「む…」
「ほれ、急な事で彼奴も慌てて己の考えを一言も言ってはおらぬではないか」
「むむむ…」
「テンカワも、そんなんでお前さんの事を理解できぬし……なにより、そんなんで結ばれても長続きせんであろう?」
「…それくらいわかっとるわい。 ちょっとした茶目っ気じゃ」
初めて正論で突かれたミスミは、溜息を付きながらアキトから離れる。
「(よかった、冗談だったのか…ぁ)」
ホッとするアキトだが、ミスミの手が未だ自分の服の裾を掴んでいるのに気づいて固まる。
「しかしの…そなたに惹かれたのも事実じゃ。 でなければわらわは容易に抱きついたりはせぬ」
「は、はぁ」
軽く頬を染めたミスミの言葉に、アキトはただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
「わらわは本当にそなたの事が気に入ったのじゃ。 決してリクトに似ているからだけでは無いぞ?覚えておくがよい」
迫ってくる宣言を告げるミスミは悪戯が成功したような笑みを浮かべた後、アキトから離れてフクベの隣に腰掛けた。
「(そんなに俺はリクトって人に似てるのか…?ってかどうして俺の事を気に入るんだ?)」
やはり自分に好意を寄せる女性の思考を理解できないアキトは、その場で立ち尽くすだけであった。
「はむ……ほうじゃ」
何時の間にか用意されていた煎餅を口に咥えながら、ミスミは思い出したかのようにアキトにある事を訊ねる。
「ほふたは…あいや、すまぬな。 そなた、先日此処に来たのじゃな?」
慌てて煎餅を口から放すと改めて訊ねる。
「あぁ。 それが何か?」
「ほーほー、それでは寝泊りする場所が必要じゃの〜」
何か企んでいる様に、笑みを浮かべるミスミに訝しがるアキト。
「寝泊りなら、カイル達の海賊船の一室を与えらたから問題ないのだが」
「ふむ、それならわらわの屋敷はどうかの? な?な? 決まりじゃな?」
もはやアキトの話を聞いていないミスミは、ここがチャンスと言わんばかりに一気に攻勢にでた。
どんな攻勢かは…言わずとも知れているだろう。
そんなミスミに思わず溜息が零れてしまうアキト。
「ですから、俺はもうカイル達の所と……なぁアティ」
今迄黙っていたアティを不気味に思いながらも、恐る恐る同意を求めるアキトは彼女の方へ視線を向ける。
「別に、アキトさんがどうしようと構わないと思いますよ? 好きな方を選べばいいじゃないですか?」
機嫌悪そうにそう答えたアティは、立ち上がると軽く会釈してそのまま去って行こうとする。
「せ、先生っ!待ってくださいよぉ!?」 「ったく、急に何なのよ」
その後を追って走り出すアリーゼとベルフラウは、チラッとアキトの方を見た後そのままアティと去っていくのであった。
「…さて、ワシもそろそろお暇しようかの」
そしてフクベも去り、残されたのは究極の選択を迫られたアキトと、期待の視線を向けるミスミ、二人だけとなり
(アキトにとって)重苦しい雰囲気に包まれるのであった。
「…まったく、酷い目にあったな」
悩んだ、というか悩まされた結果、アキトはカイル達海賊船に住む事に決めた。
「俺は、やはりカイル達の所で住みます」
「…何故じゃ?」
「…せっかく俺に与えられた場所なのに、いきなり引き払ったら失礼に当たりますから」
正論を述べるアキトに、ミスミは反論できず…
「う、うぅぅ…そなた、そんなにわらわの事が嫌いなのかえ?(泣」
涙で攻められ、アキトは再びうろたえるのであった。
「が、俺は勝った…」
その後、涙で迫るミスミに何とか条件を付けて宥めた彼は、今こうやってこの場で勝ち誇っているのである。
ってゆーか、それって負けてないか?
「…何かおかしい気がする」
本人も今頃になってそれに気が付いたようだが、もはや思い出したくないのか考えるのを止めて甲板に上がったアキトは、
月の光が照らすその場所に、一人座っている少女を見かける。
「ぅぅ…まさか裁縫がこんなに難しいものだとは思わなかったよぉ」
ブツブツと呟くその少女、大きなテンガロンハットからソノラだと予測したアキトは彼女の方へと向かっていく。
「こんなんで許してくれるかな?」
「どうした?」
「うわっ?! あ、アキト?!」
「そんなに驚く事はないだろう?」
ソノラの驚き様に苦笑いしながら、アキトは彼女の隣に腰掛ける。
「………」
「………(なんか、昨日より柔らかくなった感じ…)」
何か喋るわけでもなく、ただ黙って月を見上げるアキトの表情を見たソノラはそう感じた。
「なんだ、どうした?」
「え、な、なんでもないよっ(///)」
自分の顔を見られている事に気づいたアキトは、ソノラに目を向けて訊ねると
見つめられたのが恥ずかしかったのか、思わず視線を逸らすソノラ。
「…あの、ね」
「ん?」
暫く無言が続いた後、ソノラはオズオズと手に持った物を彼に差し出す。
「これは…」
受け取った品は、ソノラが破いてしまったアキトのマントだった。
その破けた所は不細工ながら、ちゃんと継ぎ接ぎされて修復されていた。
彼女なりに頑張ったのだろうと、受け取った際に見た彼女の手の傷を思い出しながらアキトはそう思うと、
ソノラの頭をポンと撫でる。
「ありがとう」
「え、あ……(///)」
何時もなら子供扱いするな!と怒るソノラだが、今回ばかりは大人しく撫でられるのであった。
「クシュンッ」
夜風が吹くと同時に、ソノラが可愛らしいクシャミをする。
バサッ
「え?」
すると、彼女の体にバッとマントが掛けられる。
そのマントとそれを寄越した人物を交互に、不思議そうに見るソノラにアキトは優しく笑みを浮かべる。
「夜風は冷えるだろう? …そろそろ戻った方がいいんじゃないか?」
「(…なんだろう、コイツの顔を見た時の…この気持ちは?)」
そう思いながら、掛けられたマントを体に纏うと首を横に振る。
「いいよ、もうちょい此処にいる」
「…そうか」
聞こえるのは波の音だけ。
ソノラは、スカーレルの読んでいた小説の内容をちょっとだけ思い出した。
それは恋人達が、二人くっ付いている…ただそれだけのシーンだけだったが。
「(恋人ってこんなんかな?……ちょっとだけ、味わっちゃおうかな?)」
ポフッ
自分の体を傾け、アキトにもたれ掛かるソノラ。
「(うわ、は、恥ずかしい…)」
やってみたもの、恥ずかしくて堪らないソノラは顔を真っ赤にしながら離れようとするが、アキトの言葉で動きを止める事になった。
「ソノラ、頑張ったな」
「へ?」
何の事を言われているか分からなかったソノラは、思わずアキトの顔を見上げる。
そこにはアキトの顔が近くにあり、ソノラは再び顔を真っ赤に染める。
「手……裁縫、苦手だったんだろう?」
「あ、あぇ…うん!」
そして再び頑張ったなと言うアキトにソノラは嬉しそうに頷くが、さっきより近づいた様に感じるアキトの顔にビックリして、
急いで立ち上がって彼から離れる。
「私、もう寝るよ」
「あぁ、お休み」
「…あ、マント」
アキトのマントを纏っていた事を忘れていたソノラは、ハッと思い出して脱ごうとする。
「それが気に入ったのなら、貰ってもいいぞ」
アタフタと脱ごうとするソノラに、アキトはそう言う。
「え、でも……うーん、じゃ、貰っとくわ」
アキトの言葉にソノラは意外な物を見たと言わんばかりの表情を浮かべると、次には嬉しそうな笑みを浮かべて自室に戻っていくのであった。
「…冗談のつもりで言ったんだがな」
彼女が去った後に、ポツリと呟くアキトだがソノラが気に入ったのならそれでいいかと気にしない事にして、再び夜空を見上げるのであった。
この異世界――リィンバウムの、澄み切った夜空を。
つづく
後半、マルルゥが垂れパンダの上状態に(爆
どうもご無沙汰しております、エフィンです。
今回、ミスミ様にちょっと女の子に戻っていただきました。いいかも。
アリーゼとベルフラウが軽すぎ…こんな感じでしたっけ?^^;
自分で書いてて、「ふたこい」に出て来る幼馴染双子を思い浮かべてしまいましたがw
+
>何やら羨ましそうに人差し指を咥えるアリーゼ。
ウィークポイントかもしれません(何
ゲンジさんの変わりにフクベ提督を出現させたり…もう滅茶苦茶ですね、このSS^^;
というかホントに…フクベ提督ってあの後、一体どうなったんでしょうかね? ご臨終?
島民視点のアキトについて。
中身ハイネル、外見リクト。
という事にしておいてください。
この辺が微妙に黒い鳩さんと被ってたり…?
(゚ε゚)キニスルホドジャナイ!!ですかね…^^;
P.S ヒロイン(カップリング)は誰にしましょうかね? ちょっとだけ募集してみるの巻
P.Sver.2 告白します!自分、アティを主人公として使った事無いので、彼女の喋り方、まったくわかりません!!
というかぶっちゃけ、サモン3のストーリーを忘れてます(爆