「で、乃木さん……貴方は何が言いたいのか?」


 連合艦隊旗艦<三笠>の欄干で海を眺めながら彼は聞いてきた。儂は眼を閉じて少々行儀悪く欄干に寄り掛かっている。橙子は秋山参謀の案内でゴンベさんと共に艦内を『散策』しに行かせた。だからこそこういった内緒話が出来る。いくら絶対的な戦果が見込めても新兵器を用いて戦艦の墓場を作るわけにはいかぬのだ。しかし、それが出来れば旅順の屍山血河は確実に防げる。それを決めるのが彼の選択。


 「簡単なこと。もしこの主砲と同じ巨弾で延々逼塞(ひっそく)している艦隊を撃ち続け、戦闘不能にしたとしても遠目で全滅が確認できますかな?」


 薄目を開け、三笠の30.5糎主砲を眺めながら先ほど言った例え話の核心を広げてみる。彼は少し考えて渋い表情を作り答えた。そう、旅順要塞は封鎖と決まった筈だ。だが儂等はそうは考えない。『常に最悪の事態を想定する。』それが出来ないのであれば陸であろうが海であろうが司令官失格だ。


 「無理……ですな。港内部に逼塞した艦隊の外観を知る事は甚だ困難です。万が一を常に考えねばならぬ身として、直接根本を断ち切るのでない限り我らが横須賀や佐世保に帰ることはないでしょう。たとえ閣下が空から全てお見通しでも海軍士官全員をそれだけで納得されるのは不可能です。」

 「では結局、旅順を力攻めですな。」


 儂が自嘲気味に結論を出すと。彼、東郷平八郎は頭を下げる。『橙子の史実』では後、比類なき名将の名を轟かせる連合艦隊司令長官、伝説の名に恥じぬ漢と期待してみたが拍子抜けした。どこにでもいそうな好々爺の外見、官庁の小さな執務室で判子を押している老役人の雰囲気だ。
 山本閣下と話を交わしている時も凡夫の典型ともいうべき唯々諾々(いいだくだく)ぶりで失望しかけた位だ。しかし、この漢は高陞号事件において国際法に則り的確な判断を下している。海軍軍人と法律家、双方の専門家であることは間違いない。そして聞いたところによると人の使い方が上手いという。自らの不得手なことは専門知識のある部下にやらせ自らは決断と責任を引き受ける。儂と同類の将であるが儂より遙かに優秀なのは間違いないだろう。軍人に向き、軍人を楽しみ、軍人として卓越した能力を持つ、少し羨ましい。


 「乃木さんには苦労をかけると思っちょります。ですから城攻めに入用なものはおっしゃってください。これでも帝都に伝手はありもす。」


 薩摩訛りの混じった彼の言葉に少し安堵する。少しばかり口利きを願い彼は頷いた。駄噺に興じた末、彼はこんな頼み事をしてきた。


 「そう言えば乃木さん、戦場で兵の鼓舞にあたって言葉を考えているのだが良き物が思いつかん。聞けば漢詩や書に精通しておられるとか? ひとつ御教授願えないだろうか。」


 いきなり吹き出しそうになり()せる。儂の下手糞な趣味の噂はいったいどこまで広がっているのやら。


 「トラファルガーの名将の言葉をそのまま用いるのは癪で考えてみたのですが、こういったことは苦手でありまして……。」


 其の後、2人でああでもないこうでもないと考えた末、それぞれの決戦の時にその言葉を使おうと約束した。彼は黄海で私は奉天で使うことを夢見ながら。
 ――――尤も彼は黄海はソレを使う暇がなく対馬で使い、儂は旅順で早々と使いながら奉天で使い損ねたのだが――――




―――――――――――――――――――――――――――――






榛の瞳のリコンストラクト   第1章第7話 
 
   
西暦1904年 8月 9日 早暁
 



 
 来るべき時は来た! 第11機動尖兵師団 第8尖兵師団、野戦重砲兵旅団、特別工兵旅団、予備役兵からなる3個混成旅団、占めて5万強、砲800門、戦闘車両200輌とあと少々。これが儂の手駒の全てだ。『橙子の史実』とほぼ同等の兵力で1週間前での攻城戦、しかも大損害を出して失敗した要塞東側での力攻め。
 不安がないと言えば嘘だ、だが結論は同じだった。要塞への正面攻撃、これでいく。何度も会議を重ね知恵を絞った。しかし一兵足りとも失わず等、不可能だ。どれだけの兵か傷つき死んで逝くのか見当もつかぬ。命の重みが我が全身に伸し掛かる。二人で考えた台詞を思わず叫んでしまった。これでいいのかもしれない、此の地にて“乃木希典”の運命は決まったのだ。ここから運命を変えて行こう。
 振り上げた右腕を振り下ろす。もはや後戻りはできぬ。どちらにせよ儂は地獄に堕ちるだろう。だが御国は! 御国だけは護りぬく!!


「第3軍攻撃開始!送レ」  「第3軍攻撃開始、発信しました!」

「第11砲兵連隊射撃開始」 「第8、第16、第18砲兵連隊、射撃開始しました!」

「特別攻城砲連隊、射撃開始します。音響爆風防御願う!」


 師団砲扱いの35年式36型9糎加農砲、そして重砲兵連隊に配属した35年式18型15糎榴弾砲【15cm sFH18】が次々と火蓋を切り鋼鉄の驟雨(しゅうう)を敵陣に浴びせる。さらに攻城砲連隊の大口径砲、35年式24糎列車砲【Thkテオドール】が大音響と共に砲弾を叩き出す。これには海軍からの援兵も多数参加している。戦艦等に搭載されている大口径砲に慣れた彼らの事、習熟も早かったのは僥倖だった。留学経験のある将校に『独逸新鋭艦ドイッチェラントやヴィッテルスバッハの主砲によく似ている。』と言われた時にはギクリとしたものだ。橙子に問いただしてみると『史実』では廃艦になった後、その砲を流用したとの事、兵器と言うものはどこでどう繋がるのかわからん……と大仰に溜息を出してしまったものだ。
 初期目標たる永久堡塁多数を擁する禿山は大量の砲弾を叩き込まれ活火山のような様相を呈している。参謀長の声で儂と幕僚は作戦を再確認するため本部に戻ることにした。




 第3軍司令部は前線より約3キロメートル、鳳凰山の中腹にある。斜面を平地に作り替え、土塁を廻らせ、その上に鉄骨と木で天井と柱を組んだ建物複数。500メートル四方にそんな【砦】が10以上作られている。戦車を土木機械として使用した工兵隊の手際の良さはそのまま司令部の使いやすさに反映されている。
 そのひとつ、作戦室では旅順の大地図が敷かれ兵棋演習さながらの多数の駒が配置されている。それを囲むように第3軍首脳部、幕僚が座を占め、戦闘の高揚と緊張感の中、伊地知参謀長が話の嚆矢を切る。


 「さて、諸君。これで旅順攻略戦が開始されたわけだが現在の目標たる鶏冠山堡塁群(けいかんざんほうるいぐん)を制圧するだけでも2日掛かる。攻略はその後だ。だからこそ此処で作戦の要諦を確認する。」


 参謀の一人が立ち上がり説明を始める。刑部といったか? 山県侯が抜擢した秀才肌の人物だ。陸軍軍人では珍しい切り揃えた長髪、軍服の代わりに袈裟でも着せれば幕藩時代の僧形の側近といったほうが似合う。


 「まず要塞西側からの攻略は断念します。東側に比べ西側は防備こそ手薄ですが、2重の陣地線と堡塁を突破しても旅順新市街での戦いになり、それを凌いでも今度は旅順市中央を流れる龍河の渡河戦、さらに旧市街前に存在する高地と堡塁群を抜かねばなりません。」


 指揮棒で地図を指し、西へ迂回させるように動かしながら徐々に遅くし龍河の線で止めてしまう。


 「折角弱点目がけて軍を旋回させても我々が息切れしてしまう戦いになるのは明白です。そして、旅順における軍事施設の大半は要塞東側の背後にある旅順旧市街にあります。ここを落とさねば旅順を落としたことにはなりません。」


 トントンと地図上の一点を叩く。旧市街の一角の建物だ。


 「この給水場、これが最大の攻撃目標です。ロシア兵は飯が食えなくとも3日は戦え、1週間は持ちこたえます。しかし水がなければ1日戦うのが精々、3日で動けなくなり1週間でロシア産干物になります。」


幕僚のひとりが鼻を(すす)るようなくぐもった音を出し、慌てて周囲に頭を下げて周る。儂の性格を察して初めは皆、糞真面目な受け答えしかしなかったが橙子の影響なのか例え話や軽い冗談を交えて説明するようになった。儂自身も黙認している、誰でも解る説明の方が楽に決まっている。


 「しかし給水場は旧市街の奥の奥、東側からそこまで辿り着くには3重の防御線と少なくとも9つの堡塁を抜かねばなりません。さらに、敵は突出した我々を両側面から挟み撃ちにできます。その辺りどうなのでしょう?」


 手を挙げた橙子が刑部に質問する。これは半分質問、半分やらせの発言だ。ここにいる全員に今回の作戦の肝を話す前振りである。彼は大真面目に頷くと話を続ける。


 「作戦会議でも同じ結論がでました。東側から攻めてもこの給水場に辿り着く前に第3軍は攻勢限界点に達します。後はずるずると後退し潰走してしまうでしょう。」


 指揮棒で鶏冠山をゆっくりとなぞり第2線の防御陣地で止めてしまう。縁起の良くない負けを連想する言葉を発したことで周囲がざわめくが彼は気にせず言葉を続けた。


 「しかしここで武田信玄公の故事を思い出していただきたい。『人は城、人は石垣……』どんな堅固な城でも人がいなければ只の建物でしかありません。我々はロシア人に目標地点をあえて教え、守備隊を徹底的に消耗させる、これこそが旅順陥落の第一歩と考えております。」


 一人慌てて手を挙げた者がいる。増援として本土から来た第8尖兵師団長の立見尚文中将だ。儂が台湾総督を務めていた頃の部下、元佐幕とはいえその勇戦ぶりから闘将の名で知られる男。思わず総督時代の大喧嘩を思い出してしまう。その彼が銃一挺も持たぬ師団の師団長として旅順にやってきたのだ。彼も不安で堪らなかっただろうがそれは解消されている。三月前から彼の師団は橙子が運んできた硫黄島製の武器を用いて猛訓練、すでに戦力として運用できる。伊地知が発言を許可すると良く通る声で懸念を口にした。


 「それはいくらなんでも虫の良い話ではないか? 普通攻撃側は防御側の3倍の兵力がいる。これは防御側の方が地の利を得て我らを待ち受けることが可能だからだ。相手を消耗させるにしても此方が先に消耗しかねんぞ。」


 伊地知参謀長が話しを繋げる。


 「その点については戦訓と実験で可能なことが判った。南山戦であるように戦車を盾に歩兵が前進することで機関銃の掃射をかなり減殺できる。十字砲火に晒されても複数の戦車が組で動き相互に支援することで対処が可能。敵の阻止砲撃に対しては新戦術の疾風射と噴進擲射砲を組み合わせて対処する。そして戦車の登攀だが、あの鶏冠山の傾斜に相当する斜面で実験したところなんとか登れることもわかった。問題は堡塁内に立て籠もった敵だがこれには秘密兵器がある。」


 ちらりと特別工兵旅団長の土屋中将の方を伺うと彼は覚悟を決めたように頷いた。自分の話は打ち切り、刑部に話を続けさせる。


 「今回の鶏冠山堡塁群を落としたら野戦重砲兵旅団全てをその山に上げます。必要なら東京の鉄道隊にそこまで線路を引かせてでも弾薬を持ち込みます。そしてその砲火をもって隣の老頭山堡塁群、白銀山堡塁群を圧迫。ここまでくればロシア人も我らの狙いがわかるでしょう。」


 それを聞くと唖然としたように立見中将が呟いた。


 「鶏冠山下の隘路(あいろ)を強行突破……いきなり旧市街前面に躍り出る。」

 「その通りです。本来これを防ぐはずの2つの堡塁群が使えず市街前面の最終防衛堡塁である王家屯堡塁(おうかとんほうるい)でしか我らを防ぐ術はない。王家屯堡塁が空からの眼によって建設中であることを考えれば、事実上の旅順陥落です。ですから彼らは死に物狂いで鶏冠山を奪い返しに来ます。なにしろ鶏冠山の西側、望台からは旧市街が見え、給水場はおろか停泊する軍艦も狙い放題。我らがこの山に永く居れば居るほどロシア軍は衰弱していくのですから。」


 「攻守、所を変えて要塞戦を行う気か。」


 梅沢近衛後備旅団長が呆れたように言う。野戦重砲兵が山に上がるまで持ちこたえられれば鶏冠山そのものが旅順を制圧する砲台と化す。そしてロシア兵が砲を山にあげたことが解る頃には我らの兵によって鶏冠山が要塞に化けている。戦場で重砲を山の上まで上げるなど本来不可能、だが砲牽引車の存在がその全てを覆してしまう。そして今度は山を奪い返す為、ロシア軍が無謀なまでの『要塞』攻撃を強いられるのだ。これが近代戦か! これが新時代の戦いか!!


 「一度陥としてしまえばロシア兵が奪い返すのは至難の業でしょうな。一個連隊だけ立て篭もらせるだけも保有する機関銃だけで150挺余り、旅順にはすべてかき集めてもそれだけの機関銃はありません。機関小銃や機関拳銃を合わせれば火力は係数倍です。肉弾戦に持ち込まれぬよう注意すればどうということはないはず。」

 「油断は禁物だ。旅順艦隊が跡先考えず砲撃を仕掛ける可能性もある。テオドール砲以上の巨弾が降ってくれば半壊した要塞では持ち堪えられんぞ。」


 幕僚や各部隊長が堰を切ったように議論を始める。議論するだけ議論させる、参謀は考えるのが仕事だ。儂はそこから必要と思われる要点だけ覚えておけばよい。後は参謀長の領分だろう。椅子の背に寄りかかり目を閉じて議論の様相を探る。議論の中心はロシア兵の力任せの鶏冠山攻撃、又は騎兵や軽歩兵を使用してこの本陣を狙うのではないか? という懸念に集中しているようだ。
 机の上の大地図を見る。あの飛行機械【航空機】によって詳細に書き込まれた旅順要塞。外から遠目に見ただけではわからぬ堡塁の位置関係がたちどころにわかり建物や砲台の数から脅威度が堡塁ごと積み木の高さで表わされている。子供が陣地取りの遊びで楽しめるほど解り易い盤面、戦下手の儂ですら参謀として腕を振るいたいと誘惑に駆られる程だ。その思いは心にしまい、静かに盤面を見定める。

 ――――ここと、ここは邪魔だな。本陣の前は起伏があるが見通しは良いか……海軍から探照灯を借りたが使い物になるのか? 指でトントンと机をたたき。伊地知を呼ぶ。こういったことの反応が早いと助かる。――――

 案の定、伊地知はすぐこちらにやって来た。議論を終わらせるか否かで尋ねられる前に先ほどの疑問を聞いてみる。彼は頷き声を発する。


 「そこまで! 貴官等の議論、まこと有意義であったと軍司令官閣下よりお褒めの言葉があった。さて、最後に議論されたこの2つの堡塁に関してだが……立見閣下、陥とせますか?」


 一番この堡塁を考えていた彼が即座に答える。


 「第1次攻撃では届きませぬ。だが鶏冠山を落し、重砲の援護が僅かな期間だけでも得られるのであれば陥としてご覧にいれます!」

 「15連隊ではどうかね?」


 儂が逆に質問を返す。金州戦で敵前方陣地を壊滅させた噴進砲部隊だ。彼は破顔し自信ありげに言葉を返す。


 「願ってもないことです!」

 「鮫島中将、戦車以外の機兵はどうか?」


 今度は儂自身がもうひとつの議論に対する質問をする。彼はその答えを待っていたように勢いよく答える。


 「いけます! 狩場は本陣前面ですかな?」


 渋い顔をして伊地知が儂の答えを遮る。


 「鮫島閣下! 敵を侮るべきではありませんぞ。奴らは窮鼠ならぬ狂熊となって襲ってくる。噛みつかれたくなければ慎重に事を進めるべきです。」


 鮫島が不敵な面構えをして頷く。何人かの幕僚がロシア兵を熊に例えた参謀長の言葉にニヤリとするが直ぐ居住いを正し緊張の面貌に戻る。


 「ではこの件はここまで、兵站について再度検討を行う。」


 今度は別の参謀が説明を初め再び議論が始まる。会議はいまだ終わる気配はない。




―――――――――――――――――――――――――――――






 曙が近く傾いた月の下、俺は大隊本部の天幕に戻った。砲撃は2日間続き鶏冠山のあらゆるものを吹き飛ばしたように見える。作戦会議のときの刑部とかいう長州出の参謀、いけ好かんことに軍隊にあるまじき長髪の怜悧さばかり醸し出す男だ。奴はあの禿山に30万発も砲弾を撃ち込んだと自慢げに説明していたがそういった思い込みこそ危険だ。元上官から聞いた話では西洋式の要塞はそう簡単に壊れないという。あの巨大砲はともかく、15糎砲如きではびくともしないだろう。


 「中佐殿、なにもあなたまで最前線に立たなくても……」

 「心配するな。指揮官が先頭に立たねば兵はついてこん。それにこれは汚れ仕事だ。兵だけでなく俺もやらなけりゃ体裁がつかんだろうが。」


 副官の心配をよそに肋骨服を脱ぎ着替えを始める。父は藩士だった。年老い貧しくとも武士をして誇れる男であったのは覚えている。其の父が秋月の乱で死んだ。あっけない最後だったという。殺したのは乃木希典率いる小倉鎮台の兵、その乃木を司令官に俺はロシアの要塞を攻める。口髭を撫ぜて思う、因果なもんだ。


 「それにな、山県閣下の引きがなければ俺は万年少佐で終わってた。それが中佐になり戦が終わったら大佐にしてくれるって話しだ。汚れ仕事でも何でもやって妻に楽をさせ息子を学校に行かせる、それが俺の夢だ。お前もそうだろう?」



 旧幕臣、不平士族の係累、恨みつらみが消えても薩長閥が幅を利かす軍では日蔭者だ。主にそういった連中と熟練の工兵ばかりがこの部隊に纏められている。単なる歩兵将校だった俺に何故目をとめたのか解らんが生涯ただ一度の機会だ。当ててやる! これは心にしまい込む、軍人は功名目当てで動くべからずだ。いまだ心配を続ける副官に問いかける。


「皆、胃の中身は戻させたな。蜂蜜は? うん、それならよし。」


 俺達の『仕事』は人殺しだ。本来工兵ってモノは歩兵の通り道を作るのが主な任務なんだが特別工兵旅団に配属されて以来、全てが変わった。的が家畜とはいえ演習で気分を悪くする者、嘔吐する者が続出し毎日悲鳴と共に除隊願い、転属願いが出る始末。余りの所業故、始めから胃の中は空っぽにし最低限の栄養たる蜂蜜だけ舐めさせておく。ここまでやらねばならないのだ。今回は演習では無い、目標は人間。
 四色に塗りたくられた上着に袖を通し体全体に専用のベルトを巻きつける。色々釣り下げられる便利な代物で軍用だけでは勿体ないほどだ。機関拳銃と擂粉木(すりこぎ)のお化けのような手榴弾、様々な工具をベルトにはめ込んでいく。
 さらに顎に妙な容器のついた護謨(ゴム)製の面貌(マスク)をつけ、耳まで隠せる35年式工兵用鉄兜(フリッツヘルメット)を被る。


 「大隊を集合させろ。訓示を行う。」

 「はっ、浦上中佐殿!」


 1年間にわたる訓練の成果を出す時が来た。硫黄島製の装備で編制された最も呵責無き兵団と呼ばれる特別工兵旅団所属、突撃工兵第1大隊(ラスト・バタリオン)が今出撃する!
 俺と同じ恰好で誰が誰かわからぬ無個性の集団、しかしその恰好は軍という畏怖を与える組織ですら怯む気配、原初的な恐怖を身に纏っている。大隊長訓示、静聴!の先任下士官の声で息をのみ込み一拍を置く。整列する兵の前で俺は面貌を跳ね上げ第一声を上げる。


「獄卒共! 出番が来た。此の世に地獄を撒き散らせ!!」












あとがきと言う名の作品ツッコミ対談




 「どもっ!とーこです。いよいよ始まりました旅順攻略戦!!突っ込みたい放題いきますっ!!!」


 気合入ってるな。確かに作者としてはここらから力入れて書いたのは事実だけどお手柔らかに頼むよ。後、寝てる時に妄想を吹きこむのはナシで。あ、遅れて申し訳ない。あけましておめでとうございます。ホレとーこも頭下げい。(ペコペコ)


 「引きずってるわねー。では一つ目!一号戦車の路外登坂能力は18度。どう見ても鶏冠山の傾斜はそれ以上だけどどうやって登らせるワケ?」


 ははぁ、確かに誤解するわな。史実の一号戦車なら登れないだろうね。でも製造技術及び部品規格が1970年代だったらどうよ?外見こそ確かに一号戦車だけど中身はヴェトロニクス化寸前の「自動車」として最高レベルの物なのさ。重量5.5トンならばドイツ製のネタが流用できたしね。


 「つまり1930年代の戦車を1970年代の技術でリコンストラクション(再構築)した訳か。重さからいえば大トラ程度だからウニモグのトランスミッションや変速機が使えると?それなら40度くらいまでの傾斜ならいけそう。」


 某新谷先生のチートウニモグ程じゃないけどだいぶ無茶したと自覚してるけどね。整合性なんて考えてないし。


 「これ以上突っ込むと専門家から情報来て作者が泡吹いて倒れそうね。次いこ次!今まで思ったけど投入してる独3帝の兵器に泥臭い正式名称がついているのは何故?」


 第一に表面上でも製造国籍を誤魔化すためだね。StG44にしても正式にはIGI(イオージマインダストリアル)明治35年式44型(フォーム)機関歩兵銃(リュストングゲヴェール)と米略称英日仏独混在単語で公文書に書かれてる。“どこから買ったか解らないけどとにかく強そうな輸入品”。書類から元を辿るのが機密に近づく手段の一つ、だからスパイにとって「何この厨二病名称?バカじゃねーの。」と毒気を抜かせる効果もある。それと非常用機材と言う事で陸軍技術本部、及び造兵廠に妥協するという意味もあるね。有坂閣下のような技術は道具といった人は少数派だと思う。誰でも自分が学んで作り上げた技術に誇りを持つのは当然だし、それを問答無用で蹴倒した独3帝兵器に恨みを持つ者が多くても不思議じゃない。
 35年に何型として臨時採用した兵器の一つです。と言われれば正規採用された物より格下に扱われる。細々とした減点主義が日本官僚の特徴だしそれは軍という官僚組織の中でも通用すると思う。


 「またお役所の難しい論理を持ち込むわねー。読者が泡吹くわよ?(砲口を向ける)」


 だからソレを向けるなって。


 「最後は規約違反について、浦上“中将”も刑部“博士”もでてるじゃん!!アルペジオの全キャラ出さないという公約はどこいった?」


 アルベジオのキャラは出さないといっただけだよ?ご先祖様を出さないと言った覚えは無い。(傲然)確かに性格とか口調はまんまだけど立場や在り方、境遇は全く別として扱ってる。困ったのは女性組、男ばっかし出る物語だからTS組み換えなおしで投入することも検討してる。なんとか女性で出したいものだけどね。


 「といっても浦上“中将”に最後のアレをやらせたかっただけでしょ?ラスバタの丸パクリやん!」


 まーあっちこっちで悪役として大活躍してるから出してみたかった。


 「やっぱウチらは悪役かー(怒)」(轟音と悲鳴が交錯)



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