「いったい満州軍総司令部!いや大本営は何を考えているのかッ!!」
第3軍司令部の置かれている家屋、参謀の1人が机を叩き怒声を挙げると次々に同調する声が続く。ジロリと咎める様に伊地知がその参謀達を睨みつけ発言を封じると儂に向きなおった。
「命令が徹頭徹尾同じという事等無いものですが、いささか無茶な要求ですな。1個師団と1個旅団しかない第3軍に旅順を攻略せよとは。」
彼も内心怒りを隠せないのだろう。兵棋演習、気の利いた英語で言うならばシュミレーションゲームでは要塞攻略には攻撃側は守備側の3倍、出来得るならば5倍の兵力を当てるのが常套である。旅順に立て篭もる露西亜兵は凡そ4万、ならば第3軍は最低12万から20万もの兵士を用意しなければならないのだ。
今戦えるのは11師団と野戦重砲兵旅団、占めて2万強である。いくら装備が優れていても数という絶対的な事実は覆しようがない。『史実』では武器や兵器の不足が取り沙汰されなかったのは皇軍兵士一人一人がその代価を払っていたからに過ぎぬのだ。――即ち己の命を代価として――それを儂自ら禁止した今、どんな不出来な士官候補生でも要塞に篭った大兵力と戦い、勝てると思わない。
「要するに無理ゲー……ということですか?」
「「?」」
大机を囲み激論を交わしている士官達の外、板の間に筵やら座布団やら敷き詰めてその真ん中に鎮座している橙子が手を挙げ妙な単語が飛び出す。成程、日本語の無理と外来語の演習を掛け合わせた造語か。韻を含んでいるだけに興味深いな。橙子は神輿の御神体扱いされているのに気付いたのか今日の服装は白の小袖に緋袴――巫女服である。何と言うべきか……作戦会議なのか参詣に来たのかよく解らん。
呆気にとられて意味を考えたり言葉を
反芻している参謀達の中、最初に我に返った伊地知が仕切り直しをするように咳祓いをし言葉を続ける。
「オホン!……閣下、こうなれば是が非もありません。内地からの増援に加えて奥閣下に貸した2個師団、返していただかねばなりません。」
最初は橙子を敬遠していた伊地知だったが砲術計算を平気で暗算してみせると算術の勉学と称して新兵器の弾道計算を丸投げである。彼の専門は砲兵、膨大な計算式から遠くに飛ぶだけの砲弾を殺傷兵器に変える専門家なのだ。数字を友としなければできない兵科、砲兵士官とは数学者の代名詞でもある。そしてこの類の人間は同質の人間を好む。彼ならば今の軽口でいきなり赤鬼の様な顔をして怒鳴りつけそうだが子供の戯言・切羽詰まった参謀の頭を切り替えるには丁度良いとでも思ったのだろう。
さて、ここからが本題だ。『橙子の史実』では散々振り回された“儂”だがそれを防ぐため1年前から仕込みを行っている。そろそろ開帳するか。
「第1師団と第7師団は来ない。奥閣下にはこの2つの師団を何があっても手放すなと伝えてある。もし2つの師団を南下させよとの命令が届いたならばそれは露探(ロシアのスパイ)の言葉と思えと。児玉さんが南下を命令しても何かと理由をつけてしぶり続けろ……児玉閣下のことだ、儂の思惑など察しているのだろうがな。」
「なんですと!!」
伊地知が仰天した声を上げる。正面から捉えれば無茶苦茶な命令だ。自らの指揮する部隊を他人に貸し出し、返さんでも良いぞでは済まされない。陛下の軍を無断で用いた咎で軍法会議確定である。さらに容赦無き言葉を続ける。本土から増援部隊として来るのは弘前第8師団、東北の寒気に慣れた屈強な師団だが小銃一つ持たず、丸腰のままでこちらに来るのだ。激昂しかけた参謀の頭をポンと叩き、到着ばかりの将官が発言する。
「……閣下の狙いは時間稼ぎですか?おそらく旅順攻略を要請したのは児玉閣下でも大山閣下でもない、海軍だと。」
やっと第一陣が到着したばかりの特別工兵旅団、その長である土屋光春中将が発言し、意を得たりとばかりに参謀の何人かが頷く。参謀本部でも大本営でも相手より少ない兵で要塞を攻略せよ等と馬鹿な命令は出せない。しかし、奥第2軍に分派した第3軍の師団を転用しようにも閣下だけでなく満州軍総司令部が反対するのは目に見えている。向こうも手に入れた貴重な兵力を割くわけにはいかぬ。どの軍も余裕などないのだ。だからこそ最も余裕のある第3軍から兵を出そうという儂の提案に彼らは飛びついた。が、其れは彼らにとっても裏目、陸軍だけではなく皇軍全体を統括する大本営が旅順を重視せねばならない状況に追い込まれたのだ。増援として送った第8師団は戦力外、再戦力化には橙子の力をもってしても2ヶ月はかかる。
なんとかしたくても第3軍には兵がいない。他から転用しようにも余裕はない。命令を反故にすれば海軍との間が
罅割れる。儂は『橙子の史実』からこのジレンマを作り出したのだ。
数日前まで儂は満州軍総司令部に出ていた。大本営では時間がかかりすぎるということで旅順攻略に関して陸海軍の折衝がここでおこなわれたのだ。土屋中将の言う通り海軍は第3軍、いや陸軍全体に旅順攻略を要請してきた。その言葉は理路整然としていながら脅迫に近いものであり、また哀願すら含んでいた。
海軍は緒戦で要塞駐留艦隊、<旅順艦隊>を封殺せんと3度閉塞作戦を試み『橙子の史実』同様に失敗している。しかも3回目は『史実』の倍量の船を用意し秋山作戦参謀の全面指導と特別製の一等輸送艦、さらに勇猛果敢で儂が“軍神”と知っている広瀬大尉まで投入して失敗したのだ。旅順口に突撃した輸送船は
悉く海岸砲台に射竦められて撃沈、広瀬大尉までもが閉塞中に敵弾で木っ端微塵になる有様に連合艦隊は貴重な戦艦を突入させてでもと言い出す輩が続出したという。
いつまでも<旅順艦隊>にかまけていれば三大洋を東進してくる露西亜本国艦隊<バルチック艦隊>と挟み撃ちに会う可能性は増えていく。それをわかっているからこそ<旅順艦隊>は外海へ出てこない。閉塞作戦に失敗し国民からも白い目と不信を投げかけられる様になった海軍は、陸軍に川中島の合戦の如く艦隊を啄つき出せと言ってきたのだ。犠牲を想像もせず己の不手際を転嫁する。いくら陸海一体にならねば勝てぬ戦とは言え無体もいいところである。つまり我らは尻拭いか!と感情的になり表情を強張らせる陸軍将官もいたほどだ。
「海軍の秋山君は頭を下げながらも
『たとえ4万5万の兵が失われても旅順を陥として頂きたい。』と儂の前で言い放ったからな。儂が
『海軍は随分豪気なことだ、艦艇乗組員尽く陸に上がり陸戦に参加してくれるとは思わなかった。』と切り返したら火を噴きそうな顔をして睨みつけおった。」
儂の前の言葉を聞いて怒り出すもの、後ろの言葉を聞いて吹き出す者、第3軍の参謀たちの反応は数日前の総司令部での鍔迫り合いの時とたいして変わらない。簡単に言えば第3軍に要塞攻略を行うだけの兵はいないから海軍が艦から都合してくれるのでしょうな?という脅し文句だ。もともと海軍兵は数が少ない。一万人も出せば連合艦隊が空船になってしまう。まだ露西亜に大量の艦艇が残っている状態でそんなことを行えば自滅必至である。海軍が第3軍に要求している“旅順攻略”は兵士不足で旅順を封鎖に留めなければ成らない陸軍を自滅させるのと同じことだぞと儂は揶揄して見せたのだ。
「秋山君も内心は解っておった筈だ。現状の兵力では旅順を攻略するのは論外という事位。だから即時の文字は外したし海軍も砲兵を出せるだけ出すと言った。硫黄島謹製の後備旅団も3つ此方に来る。」
一旦言葉を切り儂は宣言する。
「3ヶ月!3ヶ月後に勝負をつける。それまでにあらゆる状況を立て、あらゆる戦いを想定せよ。いかなる奇術、詐術も容認される!以上だ。」
そして直ぐ儂は橙子に向きなおり用意していた言葉を口にする。
「橙子、倉庫のイチモツを使うぞ。すぐに用意せい!」
「御爺様……。品が良くありません事!」
生意気にも年頃の娘らしい言葉を吐く孫に儂はニッと笑って考えついた言葉を繋げた。
「戯言を吐く孫に言われたくはないわ!」
―――――――――――――――――――――――――――――
観戦武官といった職業は国家における外交官と間諜を兼ね備える役割を持たされている。本来、対象国同士で秘密にされる戦争の様相を細大漏らさず調べ上げ、本国に報告するのが任務だ。これのメディア版が海外特派員である。
たかが海外記事と侮るなかれ。中流以上とはいえ市民の重要な情報源である新聞において世界を報道する最前線に立っているのだ。世界がもっと早く、もっと正確に我らの記事を取り上げれるようになれば、市民の意思によって世界を動かすことも容易い筈……
口が過ぎた、私は英デイリーメール紙の特派員B・W・ノレガード。今回日本帝国とロシア帝国で行われている戦争を取材する仕事を任された。革命を経て近代国家として独り立ちした日本帝国。その歴史はたかだか40年弱でしかない。その新興国家が欧州有数の大国、ロシア帝国に戦いを挑んだのだ。しかもチャイナにロシア帝国が建設した大要塞【旅順】を攻略する軍を取材せよとのこと。クリミア戦争時、英仏土連合軍が難攻不落と言われた黒海セバストポリ要塞に挑んだ快挙に匹敵する記事を書けるとは名誉なことだ。
日本帝国が占領した大連で各国の特派員や観戦武官と合流し、第3軍の展開地へ向かう。予定では観戦武官との合流はなかったのだが纏めて観戦や取材を行わせようということらしい。少々やっかいな事態に顔を顰める。どの国家の軍人も似たようなものだが、兎角彼らは自分を特別視する。役人の中に民間人が入り込むことを嫌うのだ。軍人は軍人、市民は市民で動けという露骨な対応をする者もいる。しかし第3軍を始め日本軍ではそのような気配は見当たらない。観戦武官にも我々海外特派員にも同じように丁寧に応対し、同じ物を見せ、同じように質問を許す。逆に日本人士官の中には我々に『どこの記者か?』『日本軍をどう思う?』等たどたどしい英語で質問をしてくる者もいる。 おそらく、大日本帝国という国家は市民と軍人の垣根が低いのだろう。帝国の名を冠しても兵士や士官は皇帝に傾づいているのではなく、自ら志願した国民軍といった意識が強いに違いない。
ピクニック気分の時間は過ぎ去り旅順要塞の外郭堡塁が見えてくる。話によると要塞は未完成だったそうだ。なんでもこの半島の先端部はすべて要塞化されるはずなのに全く完成していなかったとのこと、要塞陥落も時間の問題だと日本軍参謀の一人が言いだした。しかしそれは楽観論ではないか?と疑問を呈する記者もいる。金目当ての楽観論では納得しないと鋭い質問を飛ばす。
日本帝国の財政事情が苦しいのはここにいる誰もが知っている。軍を養うだけでとんでもない量の金を乱費するものなのだ。戦争であるならば尚更、ではどこから金を持ってくるのか?要するに借金である。
我が祖国や
米国から金を借りまくっているのだ。少しでも景気の良い話をせねば金を借りることができない。できなければ戦争に負ける前に破産である。その参謀は笑った。3ヵ月後、旅順はロシア兵達の
墓壕と呼ばれることでしょう……そう答えて。
第3軍が司令部にしている小さな村につくと参謀が言ったことが理解できた。兵士が持つ小銃、士官の教習に使われている野砲、線路に鎮座する化け物じみた重砲、なにもかもが違いすぎた。どの国の観戦武官も呆気にとられている。欧州最新の戦争である普仏戦争(プロシア-フランス戦争)が子供の喧嘩になりかねない威圧感、驚愕の呻きを上げている我らに説明役の参謀がさらに追い打ちをかける。
「あくまで最新兵器なので精鋭部隊のみが装備しています。ここに置いたのは諸兄方に納得していただける記事を書いてもらう為ですね。ああ……出所は機密ということで、この中の皆様方には不都合もありましょうし。」
彼が肩を竦めながら言い終えると場が一気に不穏なものになる。我が国の記者や武官はドイツ人を覗う。ドイツ人はフランス人を睨む。フランスは我らを視線で追う。他国の人間も各々誰が?何処が?と頭で考えているのだろう。これほどの兵器を新興国家が持てるわけがない。彼の国の真なる背後は何処だと疑っている。
皆が疑心暗鬼になっている内に轟音を立てながら近づいてくる物体がある。車?いや違う。多数の車輪に鋼鉄製のベルトを履かせ機関銃や砲を取り付けた兵器だ。さながら
鋼鉄の半人半馬。新時代、その名が相応しい代物だ。3台のセントールが通り過ぎて行くのを呆気にとられて見ていると、突如一番後ろの車輌が急停止した。見れば車体後方のエンジンルームらしき個所から猛烈に黒煙が噴き出しているではないか!故障か?と車の長や兵士が出てきて消火を始める。しかし上手くいかない。
そのとき観戦武官の中から一人の将校が飛び出した!彼は軍服の上着を素早く脱ぎエンジングリルに叩きつけ消火を手伝う。さらに工具箱から工具を引っぱり出し火傷も構わずにカバーを取り去ると燃えていたもの――たぶん機械用の雑布だ――を引っぱり出す。
たしかサー・ハンス・ゼークトと自らを紹介したドイツ人将校だったと思う。彼は感謝の言葉を言おうとする参謀や車長を激しく詰る。ドイツ語は専門外だが、彼にとってあれ程の最新兵器を整備ミスで失うなど我慢が出来なかったのだろう。車体を激しく叩き罵声を浴びせる様は、中欧を席巻しドイツ帝国を打ち立てたプロシア陸軍の鬼教官を彷彿とさせる。
それを呆気にとられて眺めている我等の隣で我が英陸軍の新品少尉が他の日本参謀になにやら頼み込んでいる。我々記者と別行動の時のことらしいが飛行機械というものを見て、是非とも乗せてほしいと懇願しているようだ。ヒュー・ダウディングと言ったか?誇り高き英国軍人が身も憚らず懇願するのは見苦しいとしか言いようがない。挙句、『私にあの妖精の翼を与えてくれるのであれば悪魔と取引をしてもいい。』と口走り相手を困らせる始末。不信心であってもキリスト教徒たる自覚を持ってもらいたいものだ。
ひと段落した雰囲気に戻ると混乱した場を一刻も早く収めたいらしい参謀が促す。『司令官閣下もお待ちしております。急ぎましょう。』と、ぞろぞろと皆が歩いていく中で私は一人考える。これほどの力を動かし旅順を攻めるジェネラル・ノギとはどんな人物であろうかと。
―――――――――――――――――――――――――――――
部隊が要塞東側を迂回し西に旋回していく。機兵のほぼ全力、総兵力に対して4割もの部隊が一斉に動き守りの薄い西側を衝こうとする。もちろん東側の部隊も激しく砲撃を浴びせこちらの部隊が西に動くのを封じようとする。西の部隊は奮戦するのだが相手側の優位を覆すには至らない。じりじりと後退し第1線の防御陣地を明け渡していく。大事な堡塁まで3つも奪われる始末だ。
ここまではなんとか想定内。東側の部隊全てを突出させる。まさか要塞内の敵が打って出るとは予想しなかったのだろう。慌てて東側部隊の海岸側戦力を後退させ斜線陣を引き直して迎え撃とうとする。砲の撃ち合いになれば向こうの方が優位なのは解っている。要塞砲で援護し両軍が対峙するよう陣形を動かし両軍が離れた海岸を……騎兵が突破した!
「う゛―」
「今日はこのくらいにしておきましょう。ではこれも頼みますぞ。」
ずっしりと砲兵の測敵計算帳の山を積み上げながら自分……伊地知幸助は木製の駒を片づけようとする。呻いて地図と駒を交互に睨めっこしているのは司令官閣下の御孫女、橙子嬢である。
「待ってください。損害はまだ規定まで到達していません!今西側を崩せれば旅順要塞そのものが陥落します。」
そう、これは実戦ではない。紙の地図と木の駒を利用した図上演習。所謂ウォーゲームと言うものだ。しかし使われるのは実戦で想定される歩兵や砲兵、要塞の「性能」を記したデータと戦術を模したルール、人は死なず物を破壊することもないが、そこで行われること全てが戦争行動を模している。
この娘……正直言えば初めは敬遠していた。いや嫌っていたといった方がよいだろう。そもそも軍に女がいるなどとんでもない話だ。上級将校が女を連れ込んだおかげで軍紀が崩壊した話など西洋戦史には枚挙に暇もない。風紀を気にせず無頼を気取るかつての欧州傭兵隊長ですら、戦闘時に後方部隊の女を即座に切り離していたほどだ。
山県閣下直々の要請と我慢していたが、ここ数日で様相が変わってきた。砲兵士官たるもの数学が出来なくては意味がない。砲口定まらず、砲弾が味方の上に降ってくるのでは士官失格である。未熟な計算で測距を誤まった為、怒鳴り付け再計算させた新米士官の帳面をその娘が覗き込んだのだ。後は早かった。たちまちの内に娘は間違い指摘し再計算した上で、この星の自転速度まで測距に組み込んだ新計算式を立ち上げたのだ。しかも己は計算式を書くことをせず全て暗算で…………。
『神童』
紛れもなくそう思った。第3軍の参謀達はおろか自分すらそう思った。だからこそ自分はこの娘に自らが知る戦理を教え込んでいる。親というものはとかく自らの成した行いを子に憶えていてもらいたいと願うものだ。家業を息子に継がせる等その典型、生憎自分と妻に息子はいない。ならばこの娘に自らの全てを注ぎ込もう。この頃の童女らしからぬ負けず嫌いぶりには辟易したが頭の悪い娘ではない。理詰めで話せばすぐ理解するし、此方が追い込まれても心理戦では滅法弱いのはそこらの小娘と変わらない。
「残念ながらできかねますな。自分が御嬢の勝利条件として提示したのは要塞の無力化、逆に言うなら要塞を陥としてもそれがあった意味が成立してしまえば自動的に勝利そのものが無意味となります。よいですか?」
詭弁だと頭で考えつつコツコツと指揮棒で突破した騎兵をつつく。
「御嬢は騎兵の突破を許しました。この騎兵が何を目的とするか想像できますか?単なる陽動かもしれない、または真田幸村公の如く司令部に襲いかかるかもしれませぬ。または営口や塩大澳の港を荒らすやもしれません。そう迷わせることが目的なのです。」
「でも後方には警備部隊もいますし防衛隊もおりましょう。」
苦し紛れに言葉を繋げようとするが。自分は容赦なく畳みかける。
「いつ、どこで、なにを、どうやって?そこまで解るのは至難の技ですぞ!優秀な間諜でもいれば話は別ですが教範にそのようなものは書いてありませぬ。港が襲われるという噂が立てば華人苦力(清国労働者)にいくら手当をはずめばいいのか見当もつきませぬしな。では頼みましたぞ。」
ついでに木駒の後片付けまで押しつけて席を立つ。席から離れても御嬢は物凄い顔をして駒と地図を睨めっこしている。ひっそりと笑みを漏らす。外にで外気を吸いながら伸びをすると向こう――記者や観戦武官との会見場――から司令官閣下が歩いてきた。敬礼をし声をかける。
「会見、御苦労さまでした。お疲れでしょう。」
「疲れたも何も……儂はこういったものは嫌いだ。何が悲しくて劇役者の如く振舞わねばならぬ。」
部下となってそう長くはないが乃木閣下は表面こそ眉目秀麗、謹厳実直、勇猛果敢と褒めるべき点ばかりが目につく。しかし付き合っていると内向的であり、不平屋でもあり、文人にありがちな線の細さが見えてくるのだ。漢詩を吟じ書を諳んじる等、軍人としてどうか?と思うこともある。
「はは、御冗談を。正直あの仕込みが予想外の展開になるとは思いませんでした。兵器の優秀さと機兵の練度の低さを強調して武官達に侮らせず恐れさせず……というつもりでしたが。どこの国にもあのような無茶な将校はいるものですな。」
話を変え傍らで会見前に起こったことを報告する。ゼークト中佐といったか?あの見識と行動力ならいずれ一軍の将として名を成すかもしれんな。まさかあそこで飛び出すとは……自分自ら提案した詐術だった。戦車の中に
襤褸布を入れておき
駆動機の熱で火がつくように細工しておく。その上で戦車を走らせ武官や記者たちの前で火事を演出する。彼らは我らの新兵器に恐れを抱くと共に、それを扱いきれぬ兵士達を侮るだろう。云わば、『大したものだが恐れるほどでない』そう考えを誘導したのだ。
「侮ることができぬのは我らかも知れんぞ。記者の中に儂を煽てて新兵器の出所を探り出そうという者がいた。それも僅かな言葉の齟齬から言質を捕ろうとしたのだ、冷汗が滲んだわ。」
「さすが……各国も優秀な人材を送り込んできておりますな。」
その彼らもここまで戦争と言うものが変わってしまったとは思わなかっただろう。閣下は先ほどまで私が何をしていたか察したようで問いを続けた。
「で、その建物から出てきたのは橙子の相手をしていたのか?子供の遊び程度、適当に切り上げでも構わんのだがな。」
「それこそ冗談でしょう!?あの才知と器量、女に生まれたのが不憫とは思いませぬか?御国の将来を変えさせぬつもりかと自分は神仏に恨み事を言いたい位です。」
「だから困るのだ。」
何が不満だというのだろう?閣下は才ある御嬢を戦地に連れて来ながら戦を見せるだけなのだろうか?あれほどの才、あり得そうもない話だが幼年学校に聴講生として入れるだけでも取り巻きを従え派閥を作り出しかねないというのに。
溜息を吐く閣下を窺いながら自分は閣下が御嬢を連れて来た意味を未だに図りかねていた。
あとがきと言う名の作品ツッコミ対談
「どもっ!とーこです。いよいよ本作も仮想戦記として改変開始となりました。読者の皆様に感謝感謝♪♪」
ま、戦術結果積み上げて勝たせても良かったけどね。実際それだけの力を日帝陸軍に与えたつもりだったし。何、兵器チートじゃ話自体がつまらんのとじーちゃんの性格を慮ればこうなっただけでもある。ちょっと微妙だけど『史実の第11師団長』も投入してみた。欧州だと格下げ人事だけど建軍まもない日本陸軍で兵科旅団はエリート部隊だからね。
「あーそれで本来土屋中将の負傷でピンチヒッター役だった鮫島中将が初めから出てるわけか。でもそれなら台湾総督時代の部下である立見中将の方がいいような?史実でも黒溝台で勇戦した有名人だしね。それに作者としてはじーちゃまの有名なセリフでフラグ立ててもよかったんじゃない?、もしかして勝てる戦だから人命を軽視するつもりはないって言う理由?」
すまん立見中将だと恐らく橙子の言う事聞いてくれそうもないから。じーちゃま以上なのよ彼の堅物度wそして有名なセリフってのは3つの棺云々かな?確かに言ってないよ。そこの場面、じーちゃん、パパ、ママ全員出るはずだったけど紙面の都合で削除した。今までもそうだけどエピソードかなり削っているので出せない文章の前で滂沱の涙でPCが見えない。
「(作者を菓子盆で殴)、原文一章だけで500キロバイト超えてるのに100は削ってるからねー。その割にこんなどーでもいいあとがきで紙面増やしているおバカがここにいる……と。」
スタンスとしてはレギュレーションギリギリなんだよね。本来会話だけで物語進めるのは×だけど、あとがきなら問題なかろうという屁理屈。わ、まてそこで砲口を向けるな!これだって意味あるんだから。日露戦争からWW1まで知らない人多いって言う理由はどうよ?
「それ言うなら近代以降の歴史の授業なんてガッコですらまるでやって無い気がするんだけど?」
だよねー。穿っては言わないけどこの僅か10年そこそこが日本にとってどれだけ危機的な状況だったかあまり知られてないんだ。WW1の特需が無ければマジで日本が破産してた。いわばWW2で日本があれだけチート出来た理由は日露戦争での国民意識の醸成とWW1特需での国力増強が大きかったのさ。ではこれらを歪めたらどうなるか?仮想戦記としてはこのあたりを主軸で進めてみるつもり。これらを割と軽い対談形式でやれれば解りやすいかな?と考えたわけ。
「馬鹿やってるだけにしかおもえないけどね〜(呆)。でもさー、ゼークト閣下とかダウディング閣下とかやりすぎじゃない?確かに年代としてはこれてもおかしくない歳だけどさ?」
いや、彼らはまだ脇役だからいい。問題はあの方、パパンも本人も実際日露戦争に出てきているのにユー出番は?と枕元で言われて出さないわけにはいかないでしょ?研究したことがあるとはいえ日本にとって複雑な人物であることは間違いないしね。しかも目立つことこの上ない方だし。
「(同じ声音で)ユー書けるの?」
は、ハイッ!書かせていただきます。稚拙な文章で済みません!!この上は命を持って、アレ?…………お・ま・え・か!」
「証拠(記憶)隠滅♪」(轟音と悲鳴が交錯)
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