宮城の中、宮の一部を借り受け臨時病院にしている。既に数十名の死傷者が出ている。儂等の入城は間一髪で間に合うという際どい物だった。流石は御国の精鋭、第一師団と言ったところか。傷病者を見舞い励まし、前線に戻る儂に侍従長が合流する。
目を合わせず廊下を歩く。陛下が病床の折、騒擾を起こした儂に陛下が使いを立ててはならぬ。それが侍従長の独断や個人的理由であってもだ。そして騒擾を起こし責を負うは何も反乱軍だけではない。個人的策謀により対抗鎮圧措置――英国語ではカウンタークーデターという洒落た名前だそうだが――を起こした
儂も同罪なのだ。彼、木戸幸一侍従長は儂に目を合わせぬよう位置を変え注意深く口を開いた。
「陛下未だ芳しからず。御下命未だ下りず。故、汝乃木希典 身命を預ける道理無し。」
「御意、只御国の為過ちを正さん意のみ。後日、陛下の断に楯突く意思も無し。」
御上が前に出てきては困るのだ。全てを焙り出し殲滅した後に瞋恚で激した陛下が儂を国から追う形にせねばこの
馬鹿どもの騒ぎは終息せぬ。しかし今回トラキアから戻って驚愕したのは
陛下の病臥、それも重篤という知らせを受けた事だった。
この点について流石の儂も唖奴に助力を願いたくなった。何故なら此方はクーデターを起こす将校共の後に動かねばならない。つまり剣術で言う『後の先』を執らねばならないのだ。彼等が決起し、先に近衛旅団を抑えられて陛下を盾にされれば儂は動くに動けなくなる。
切れ者の閑院宮載仁親王殿下が近衛旅団長で良かったと思う。
唖奴は兎も角、橙子まで
二心在りし奸物と警戒する程の御方だが、それはそれで正しい。儂等の方が世の異物で在るのは明白なのだから。
陛下の忠臣として誉高い殿下なら臆することは無く近衛を戦塵に塗れされる覚悟があると儂は見たのだ。日露の戦の後、近衛師団は旅団へと縮小され、政府から只の儀仗兵部隊として扱われている。つまり橙子が与えた武器・兵器と切り離されているのだ。しかし、殿下は
人に二心あれども物に心無し、そう言って儂の要請を受け入れ、秘密裏に近衛を実戦部隊として訓練し続けてきたのだ。
そう、儂が皇宮に持ち込んだのは何も学習院の子女達だけではない。横須賀海軍陸戦隊と旧第11師団の有志と共に100輌以上の戦闘車輌で皇宮に持ち込んだのは学習院構内の練兵用堡塁地下に蓄えられた唖奴の兵器だったと言う事だ。先ほど強行突入しようとした宮城前の馬鹿共にはいい薬になっただろう? まさか儀典用の旧式銃しか持っていない筈の近衛旅団が自分達と同等の装備で撃ち返してきたのだから。
首を振る。これで
儂も皇軍に相撃たせた男、国賊の徒になったと言う事だ。沈黙のまま、次の九十九折りで道を違える直前、彼はまた声を発した。
「雲は見えませぬか?」 即座に返答する。
「北は寒気が遅いようで雲が下りてくるのに7日と言ったところ。西は御殿場にて雲が滞っておると愚息から聞き申した。むしろ呉あたりから海沿いに流れてくるやもしれませぬ。」
雲は儂を後の世に揶揄した作家の言葉であろう。孫が御国のお歴々に渡した歴史小説、其の作家は儂を随分嫌い抜いていたようで散々な書き様だった。ただ、ある意味それは正しい。人における利点と欠点は表裏一体、だからこそ儂はそれを反面教師にできる。その点を見、それを変える力をくれた事には孫と唖奴に感謝してもし足りない。
坂の上の雲、我等にとっては遥か彼方にまで遠ざけられてしまった
希望。其れを掴む為に日本人は更に歩み、そして手を伸ばさねばならぬ。その切っ先こそ今の儂だ。彼の続けた言葉に居住まいを正す。それは最悪の仮定、
「当分彼らにとっての晴は続きますか。霧が出ない事を祈るのみです。」
溜息のような木戸侍従長の声に此方も少し息を吐く。吐く息が白いのは何も寒さばかりではない。――己が考えの甘さに白ける――という思いだ。そして最後の言葉に心に刻む。『この戦に唖奴、【霧の艦隊】を介入させるな。』という意思だ。
全ては1週間以内に終息する……その心積りだったが当ては外れた。鎮圧に動かす仙台第二師団、名古屋第三師団でも反乱は熾ったのだ。所詮は中隊内での個人的な犯行、大きい物でも帝都の反乱に与すると言う悪い意味で御国らしい『なんとなくの理由』で騒擾を起こした程度だったのだがどちらの師団も
背後に敵がいると言う状況では動くに動けない。憲兵隊の思想調査の上での派遣部隊の帝都進出という予定より遙かに出遅れた初動と相成ったのだ。
海軍も同様、出師寸前の戦艦内で叛乱が起き、呉鎮守府は大騒動だと言う。先発させた巡洋艦二隻に乗せた陸戦隊も一度横須賀に下ろし、思想調査を行わねばと鎮守府長官が嘆いていた。橙子には言い含めてある。もしこの二隻の巡洋艦が横須賀を無視して東京湾に入り込んだのなら……跡形もなく消滅させろと。
侍従長はそれを恐れている。今度ばかりは戦争と言う闇に葬れぬ。世界中が恐怖の余り御国を叩こうとし、怒った唖奴が世界中を業火で焼くのは必定。だからこそ言い含めた。
証拠すら残さず消し飛ばせ。と言う意味だ。
時の彼方よりの恐怖……それによって粛軍を行うという事態にせねば此方が潰されかねない。皇居を取り囲んでいる第一師団の圧力はそれほどまでのものなのだ。
侍従長と別れた後、儂は空を見上げる。思えば西南の戦から何もかも変ったものだ。あの時、儂の目には眼前の戦場、奪われた軍旗、そして己の死に場所しか見えていなかった。それが今はどうだ! 中尉と大将という役割の違いさえあれど儂は御国、いや世界全体を盤上遊戯のようにし将棋を指す感覚で兵を用いている。敵の意図は時間の齟齬なく儂に伝えられ、儂が打つ次の手は間髪入れずに味方に伝えられ部隊が動く。
“第一次世界大戦”では後方の将軍が前線から1週間前の情報を受け取り、命令を下してから前線が動くにはさらに1週間を必要としたのに。
これが150年後の戦争!
もはや伝令兵や電話線すら必要とされない高速通信網。それを自在に操る孫の存在は反乱軍にとって悪夢に等しい。どんなに策を講じようとも部隊を動かした途端、即座に察知され、目的や思惑すら見透かされ、反乱兵が目的地に着く前に伏撃を受けたり目的地の価値が消えていたりする。戦略という偉大な天才が行う思考がもはや組織が日常的に行う業務まで堕しているのだ。だから御国は知らねばならない。御国の民全ては知らねばならない。反乱軍がこれほど優位な状況でありながらそのすべてが一瞬で覆ってしまう科学技術の恐ろしさを、有用性を。
雪を蹴立てて下の中庭を橙子が走ってくる。また性懲りもなく兵が門に取りついたか……そう思い儂もそのまま欄干から中庭に飛び降り報告を聞こうとすると橙子からあり得ない台詞が飛び出した。
「御爺様、大変です! 米軍揚陸艦が、米軍満州派遣艦隊がお台場に上陸を始めました!!」
「なんだと!!!」
ど……どういう事だマッカーサー少佐! 彼のあり得ない判断に儂は驚愕の叫びをあげた。
―――――――――――――――――――――――――――――
「そっち抑えて。麻酔まだ効いてないけど摘出しないと血が止まらないって!」
「使用済み、及び新規に出した包帯は必ず煮沸消毒するように。綿布(ガーゼ)は使用したら全て廃棄なさい。」
「痛てぇ! 畜生!! 反乱軍め此処が何処だか解っているのかチクショウ!!!」
「無茶です! そんな身体で戦場に戻っては!!」
「悪ぃな。学生さんに看病までさせちまって……だが俺は近衛だ、
醜の御楯だ、征くよ。」
狂騒とそれを鎮めようとする叱咤、傷への悪罵に高楊枝とそれを押しとどめようとする悲鳴。それは外の武器を交わす戦場とは違った戦場のカタチ。日露戦争の時にこんなことは軍病院で何度も繰り返されたと
父から聞いた。真瑠璃ちゃんも必至で頑張ってる。華族様の子、血に塗れて手を汚す必要は無かったのに。
外に出る。寒い……本来なら雪で純白に彩られる陛下の宮が赤黒い血とどす黒い機械油、それに兵士たちが駆け回って茶色になった泥雪で汚されている。国が滅びかけている、それはこんな情景なんやろか? 大急ぎで届け物を抱え、駐車している軍用トラックの列に潜り込む。そこには筒が傾いで動かなくなってしまった御国の大砲とその周りで作業に没頭する軍人さん達がいた。
「隊長さん! 持ってきました。」
「応! 嬢ちゃん。済まないな。皆良いか!? 上げるぞ!!」
私が持ってきたのは。使い済みのガーゼと包帯の山。汚れていても布は布、機械油や潤滑油脂を拭うには有難いので持ってきてくれと言われた。今お礼を言ってくれた陸軍中尉さんと周りの兵隊さん総出で駐退複座器から吹き出したオイルを拭う。私も手伝う。
「御嬢さん! そんな汚れ仕事までやらんでも! 学生さんなんだから……」
慌てて兵隊さんの一人が申し訳なさそうに代ろうとするが私はキッと彼を見て言う。
「これでも学習院機械工学倶楽部の部長です。今何を修理するのかどうしたらいいか位私でも解ります。」
其の兵隊さんが思わず口ごもる。こっちも思わず『まぢ』と舌打ち。兵器を扱うは男の仕事。いくら学習院が男女共学で機械を扱っても軍隊は男社会、しかも此処は戦場だ。一発は殴られるだろうなと覚悟したら横から中尉さんが話に割り込んだ。
「いおり学生、車の修理は? ……そうか、戦車のエンジンバラせるのか! ならば問題ない。樋口上等兵! いおり学生の補助に付け。ぼーッとするな!! 急げ。」
慌てて兵隊さん――樋口さんというんだ――が敬礼し、私に負担がかからない様砲身を抱える。せいのっ! の一声で砲が持ち上がり勢いで壊れている駐退複座器から派手にオイルが吹き出し顔にかかる。気にしてはいられない。すばやくスパナで固定しているナットに取りつき複座器を外しにかかる。
正確に慎重にかつ素早く!
移動の際、駐退複座器の管が割れ動かなくなった砲の修理が終わると皆へたり込んでしまった。中尉さんも大きく息を吐いている。
「お疲れ様でした。」
そう中尉さんにねぎらいの言葉を掛けると照れくさそうに彼は笑って答える。
「もういつもの言葉で構いませんよ。学習院の学生ってことで無理しているのかもしれませんが戦場でプライドに拘るのは前線士官、それも相当追いつめられない限りしちゃいけない事ですからね。」
「バレちゃいましたか。」
私の家族に戻れる故郷なんて無い。みな西南の戦で燃えてしまった。父が辛うじて手に入れた焼玉エンジンの捕鯨船。私はその中で育った。そしてその家族のなけなしの稼ぎと奨学金で私はこんな良い学校に通わせてもらっている。だから口の聞き方には注意なきゃ。品性粗悪等この学習院では退校モノだ。いつものタメ口は親友の真瑠璃と橙子の前でしか出すことは無い。きっと噂が回り回って先生からお小言貰うんだろうな。と溜息をつくと中尉さんは笑って言葉を繋げた。
「僕だって似たようなもんですよ。帝都に行けば地方人の僕でも目立てるんじゃないかと近衛の門衛と押し問答して移籍してもらえたぐらいですから。僕達地方の人間は人脈と能力を武器に這い上がるしかない……だから面白いんですけどね。」
少し中尉さんの方が斜めに走っている考えだ。別にそういうことじゃ……と反論しようとして中尉さんの名前も聞いていない事に気づく。彼はニコニコしたまま答えた。
「石原莞爾です。中隊じゃ要領良しのカンペーで通っていますよ。」
やたら難しそうな名前だな。と思うといきなり後ろから頬に暖かい何かを押しつけられた。慌てて振り向くと同級生が一人『がんばってね』の小声と共にそれ、金属製の水筒を押しつけて去っていく。そんなんじゃなのにもう! 追いかけようとすると石原中尉さんや兵隊さんたちが私? じゃなくて水筒を凝視している。
「飲みます?」
「「「有難く!」」」
水筒の中身は甘かった、いーや! 甘すぎ!! 何よコレ、珈琲にどんだけ砂糖入れたのよあの子!!!
それでも皆さんには好評みたい。学習院の女学生さんに給仕してもらって此処がカフェならこりゃ俺等勝ち組ですなぁ! なんて冗談を言う兵隊さんもいる。
苦しんだろう。考えの違いだけで同僚と殺し合い。私に彼らの空元気に掛ける言葉は無い。
ふと見ると小柄な体躯が内宮に掛る欄干を駆けて行くのが見えた。あそこまでちっちゃい女学生だともう誰か丸わかり。
橙子ちゃんどうしたのかな?
―――――――――――――――――――――――――――――
まさか祖国最新鋭兵器であるこの
M1戦闘車、それの処女戦が公式では戦車生みの親たる大日本帝国軍だとはな。運命とは斯くも皮肉な物か。“マッカーサー回顧録”では本来の戦車同士の戦いはフランスのカンブレーで起こったと言うのに。勢いよく首を振る。そんな感傷は後だ!
「パットン少尉! 状況報告。」
咽頭マイクに怒鳴る――戦車内ではエンジンとキャタピラの轟音で怒鳴り合う以外は会話として成り立たない――少し間を置いて怒鳴り声が返ってくる。
「これでインペリアルの公道だからお笑い草です! 少佐殿は中央に入ってください!! オレ等3台で楔形陣形作りますんで他の連中は2列縦隊で!!!」
英語での軍用単語にドイツ語が入るのは珍しい。だが祖国は躊躇なく採用する。
旧大陸人の様な耳を覆いかねない命令語より耳に心地良い。
確かに酷いものなんだろう。すでに56輛中既に5輌のM1が脱落している。戦闘では無い。湿った雪がキャタピラに詰まり、トランスミッションを破損させたのだ。しかも日本の公道は砂利もセメントも使わない只の土道、これに雪が降って戦車で引っ掻き回せば凍った泥濘の出来上がりだ。パットン少尉の第2小隊は兎も角それに続く後続部隊は其の泥濘の中、突進せねばならない。あぁ……こんな考えも余分だ! こんなことを考えるのは全てが終わった後、私達の軍法会議の合間に行われるアメリカ合衆国連邦軍戦訓調査委員会で考えればいい。
今は勝ち、そしてジェネラルを救う事! それだけだ!!
隣にいる砲手に車内を任せ天井のハッチを開く。狙撃兵の心配を考えねばならないが指揮官が状況を見る事が出来ないのは最悪だ。外の凍える空気――生まれたアーカンソーよりは厳しいが育った厳冬のボストンより何倍もマシだ――を吸い込む。いい景色だ、戦争でなければ静かに煙草でも吹かし家の庭を歩きまわって思索に興じる。そんな光景こそが自分には相応しい。だが
それはできない。だからやるのだ。
「何やっているのです!? マッカーサー少佐!!」
M1戦闘車を
この国の軍記物の様に飛び移りながら私の乗る指揮官車に駆け込み胸倉を掴む少女に私は思った事をそのまま叩きつけた。
◆◇◆◇◆
孫を中心にで円筒状の光学映像装置が展開する。橙子が霧としての情報制御能力を全力発動した時にだけ起こる現象だ。これを行っている間。橙子は許可された索敵ユニット全ての情報を同時に入手し、しかも全ての索敵ユニットに同時に命令を下せる。己の言葉をユニットに同時発声させる等造作もない。当然、喋る人形は索敵ユニットを中核としたナノマテリアルによって作られた橙子の模造品――橙子は
人格構築体と名付けている――それ程の力を使って最初に行ったのは。
「何やっているのです!? マッカーサー少佐!!」
この怒鳴り声だ。
「橙子……いきなり喚いても話にならん。儂に代われ。」
そういう前に孫の前にいる男――ダグラス・マッカーサー少佐――の声が飛び込んできた。
「ミス・トーコ! 私は貴方の思い通りにはならない!! 此処は私達の世界だ。私達は霧の良き奴隷としてでなく、愚行と言われようが己の意思で生きて見せる!!!」
「な!…………」
「! そうか…………」
儂等二人の声が同時に響いた。そうか、彼は選ぼうとしているのだな。己の道を。橙子のやっている事は結局のところ
史実の押し付けでしかない。それは儂とて同じ。
御国をより強く、より正しくあらねばならないと言う自己満足から世界を改変し続けているに過ぎぬ。流石だ、【橙子の史実】でも理論家としてなら一流という評価の彼が此処まで決断出来るまでどれほど労苦したのだろう?
「何を馬鹿な……」
罵詈雑言浴びせようとする橙子の頭をポコンと指揮杖で叩く。不満そうに振り向く孫を黙らせ、向こうの索敵ユニットが見ている視覚情報、即ち雪塗れのダグラス君を写しださせる。
「ダグラス君、君の選択は尊重し、しかも有難く思う。しかし君の決断は合衆国にとって致命的な汚点となるぞ。国家の意を無視して兵を動かした貴官は今君が相対しようとする叛乱軍と変わらぬ事を解っているのかな?」
儂ながら意地の悪い質問だと思う。せっかく来た日照りの慈雨とも言うべき援軍に『立場が惜しければ帰れ』と言っているのだから。だが通信越しに彼は確固たる意志で反拍した。
「私は結果論だけからすれば国家と国民に背き、大日本帝国に要らぬ介入を行った愚者として反逆者の烙印を押されましょう。しかし私が反逆するのは祖国と国民ではない! 閣下、閣下なのです!! 閣下は良きことと思って世界を改変しているはずです。しかし誰もが閣下と同じ目線で考え行動することなどできないのです。霧の与える未来ではなく
足元を固め、手に入れた智慧をもって階段を一歩ずつ踏みしめる。そのためなら私は反逆者になれる!!!」
少し間をおいて彼が話し続けた。
「この決断をさせてくれたのは部下のパットン少尉です。彼は
人は全員、世界の主人公なのだと。
世界の主人公は閣下とミスだけではない……そう私は考えます。」
息が漏れる、押し殺した声は喉の
蠕動音に代わり最後には笑い声に代わった。そうか、そうなのだなダグラス君!?
君は40年後の地平に既に立つ事を考えているのか! 己の将来を犠牲に
国を背負う事を描いているのだな!! それを言い、それが許されるのはあの国――アメリカ合衆国――において只一人、
【亜米利加合衆国大統領】だけだという事実を知ってなお挑むのか。隣で不満と混乱と思考停止中の橙子に言ってやる。
「橙子、索敵ユニットも例の鞄は持っておるな? それで我等の旗を作ってやれ。門前の叛乱兵の情報もそちらに送れ。ダグラス君、いやマッカーサー少佐、君と部隊の到着を以って儂等近衛は総反撃に出る。」
このままダグラス君達が突進を続ければ最短距離でこの門前に来る。今の叛乱兵から見れば何という皮肉だろう。今、儂等が対峙する場所は
桜田門。そして宮城を攻める彼等は第一師団所属歩兵第2連隊隷下第2大隊。即ち部隊駐屯地からすれば
水戸藩兵ということになる。ここで弑された彼の人と比べれば、儂等器量も能力も雲泥の差だろう。だからこそ今度はむざむざ首をくれてやる訳にはいかぬ。全力を以って彼の人――井伊大老――が認識した現実とやらを見せつけてくれる。外圧あってこそ日本は変わった。腹立たしいがトラキアを統治し、その現実が解ったからこそ今の儂がある。作業を終え、通信を切った橙子に言いつける。
「此方は仕舞ぞ。虎騎亜の準備を進めておけ。」
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