*今回残酷な描写があります御注意ください。
(BGM 懐かしき故郷 戦女神ZEROより)
なんだかんだあったが四元帥会議は終わった。やれやれ、情報の分配はなんとかなったか。エイフェリア元帥には今後の事、ベル閣下にはオレと言うイレギュラーの存在を刷りこんだ。これで帝国西領は今後の帝国拡張の尖兵として使えるし、北領はオレへの疑念故にそれに割り込まねばならない。
己を危険人物に見せて監視対象にするつもりが支持派と目される西領が軍を出してくるならば北領も対抗上軍を出せねばならなくなる。南領は心配ない。伯父貴は西領南領の争いをギリギリまで表沙汰にしない為にも帝国“軍”の領土拡張戦争に賛成し参加するだろう。
メルキアを東進させる為のヒト・モノ・カネは揃った。最新の情報ではラナハイムが正規軍の動員を始めている。精鋭部隊だけでは戦争はできないからな。ラナハイムの女狐からしてみれば帝国軍が動いているが個々はバラバラ。ルモルーネを獲り、帝国南領とユン=ガソルを黙らせればメルキア帝国は止められると早合点しているようだが……
馬鹿な話だ、そもそもメルキアが総力戦体制に入った時点で詰んでいる。超大国が本気になって勝敗も損害許容度も無視で殴りこんできたら魔法術式のみという一芸の国家に成す術は無い。そして周辺諸国と連合を組もうにもそれには時間がかかり過ぎる。いくらメルキアの脅威をフェルアノが他国の宮廷で唱えても、まずメルキアの周辺諸国は己の国の防御態勢を整えることを最優先にするだろう。
ラナハイム王国は後の対メルキア連合の為の生贄となってもらう
オレとしては今後のメインデッシュには其処までは進んで貰う訳だ。ホント、メルキアがアヴァタール五大国でも群を抜いた物量の国で良かったよ。元いた世界の論理が通用するしね。ヴァイス先輩は危惧していたけど予算的にやや厳しい位でユン=ガソルを除いた各国は余裕で潰せるとオレは踏んでいる。ま、複数の前線を持たせないという条件付きだがそれはオレやヴァイス先輩の腕の見せ所と言うヤツだ。そんなものより当座の大問題なのが…………
「ようこそ、メルキア南領・ディナスティへ。」
セーナル神官の転位門でのお決まりのセリフと合わせて、別口でセンタクスから到着していた洗濯板がゴキゲンな声を飛ばす。
「いっちょうら〜 いっちょ〜らぁ〜 ル〜ツがわたしにいっちょおらぁ〜♪」
「シュヴァルツ君! アルちゃんに変な言葉教えないでくれます? あの時から意味不明なコレ連発してるんですよ!!」
変にテンションが高いアル閣下のお出迎えと、それに突っ込むというか何故オレに突っ込むのか不明だがリセル先輩のお小言が飛んできた。どうも前の報酬をここで
御強請するつもりらしい。くそー、帝都がおじゃんになって有耶無耶に出来ると思ったらリセル先輩この街のあの衣料品店吹き込んだな! 高価なんだよそこ、貴族御用達の店だしな。ただオレもディナスティで彼女の一張羅揃えるとなると其処しか思い当たらん。指先でぽふぽふアル閣下の頭を撫でてやりながら、
「とりあえず宰相閣下に会ってからですね。向こうも向こうでついたばかりなので仕切り直しになりますが。」
前方横を見ると無表情でイグナティレスタン南領執政官からの報告を受ける伯父貴――オルファン・ザイルード帝国宰相兼南領元帥――の横顔が見える。全く持って四元帥会議、大荒れに荒れたとはいえ控えの時間くらいはある。其の時にヴァイス先輩通してリセル先輩同席くらいはさせれるのに実の娘に会うどころか一言も無いもんな。どっちもどっちで意地っ張りだ。先程とは違った意味でひとつ溜息をついてしまう。
「ヴァイス先輩は明日の午前でしたっけ? ではオレは今日中に済ませて罰ゲームしますよ。」
「そんなに気張らんでも良いと思うが? 店の支配人を城内へ呼びつければ問題無いだろ。」
「おネグリでなくてもやってみたいアイデアはありますので。…………リセル先輩、そんなに睨まないでもまともな物ですから!!」
「ご期待、ぜんか〜ぃ♪」
「どうだか。」
万歳三唱プラス謎発言のアル閣下の隣でフンッ! とばかり勢い良くソッポを向くリセル先輩。信用無いなと思いながらも、彼女が視線を外した方向を見て納得。伯父貴のいる方向だからな。彼女からすれば目も合わせたくも無い! と言うわけだ。ハァ、前途多難。ホント実の父親が後二年無いなんて言われたらどんな暴走をやるか、最悪はゲームに置ける双方のバッドエンドだ。だからこれはヴァイス先輩とエイダ様にしか話していない。
エイダ様も恐ろしく深刻な顔をしていた。そう、伯父貴が下手をすればこのメルキアの国難の只中で魔法と魔導の争いを暴発させ、帝国内の対立が内乱へと突っ走る可能性すらある事に気づいたんだ。そしてそれはゲームをやりこんだオレとしては全く持って正しい。次の公式四元帥会議でヴァイス先輩がどっちに附こうと伯父貴は暴発して帝国西領と戦争を始めるんだ。
有り難いことに公式で行われる四元帥会議の他に非公式の会合やオレ達が前に出る実務者協議も何度もある。牛歩戦術は可能だ。今回は伯父貴の手綱をもう少し強く締めるべく両先輩共々、バーニエの帰り【南領首府・ディナスティ】に立ち寄ることにしたんだ。まず先鋒はオレ、伯父貴には是非ともここで足踏みしてもらいたいからな。その足の方向を変えるのはヴァイス先輩、此処の魔導巧殻、帝国南領筆頭騎たるナフカ閣下に裏側から懐柔にかかるのがリセル先輩だ。
「では先輩、宰相閣下と面談してきます。」
「失礼します。ヴァイスハイト元帥閣下。」
カロリーネの敬礼を背にしてオレは伯父貴の後に続く。当然カロリーネもオレの護衛役だからな、ガウンの裾気にしながら附いてくる。ヴァイス先輩達は街中の視察だ。たぶん一緒に来たレイナがそれの役目を仰せつかったのだろう。
ディナスティのセーナル神殿を出るとそこは南領ディナスティ城の外壁、伯父貴は情報管理に厳しい人だ。セーナル神殿――転位門――を城内に設ける気は無く、先代元帥との交代で金を積んででもセーナル神殿を城内から追い出したという噂すらある。表向きは交易の中立性を守るためなんて抜かしてたが本当はどうなのやら。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
――魔導巧殻SS――
緋ノ転生者ハ晦冥ニ吼エル
(BGM 懐かしき故郷 戦女神ZEROより)
同じ転位門から出てきて行列のように城内に入っても、いざ会見となれば相応のしきたりとか面倒臭い事務手続きとかはある。其の間、客人は待たされると言う事。
「やっぱ全然違うね。」
客間の調度をキョロキョロ見まわしている呟くカロリーネに答える。調度の話だろうな、建造等式と言い使われる調度と言い南領は他領とは少し違う。そしてオレの心の奥底で考えていた事とは全く違う。カロリーネは表沙汰の話しか知らないだろうが此処は魔導技巧を力の源としていない。南領ディナスティ、ここはメルキアで唯一魔法術式を力の源とする帝国四領だ。
「そりゃそうだ。南領がメルキアに組みこまれたのは相応の理由があったからな。」
「
リプディール魔法匠合の分裂が原因なの?」
「それを陰で主導したのがメルキア帝国さ。」
メルキアが帝政に移行してから100年、絶えずこの国は東へ東へと領土と勢力を拡張してきた。本来なら竜族の住まう意戒の山嶺――公式名称リプディール山脈――沿い南方の奥深き森林地帯は竜族と協定を結んで資源を分けてもらうだけで良かったのさ。なにしろメルキアの財源の主たるものは大陸公路から出る。長期的には兎も角、短期で力任せに開発するにはこの森林地帯は大きすぎる。其の時の帝国首脳部はそう考えたらしい。実際エイダ様の父上――前西領元帥――も大反対だったらしいしな。其の風向きが変わったのが50年前の分裂事件だ。
今の南領の端っこ、大陸公路近くからメルキア以前に栄えた国家の残骸である
【エ・ギヌス遺跡】と【祖霊の塔】が発見されたのだ。どちらも既に滅んだ古代王国の一部、エ・ギヌス遺跡の調査に赴いたエイダ様のお父上、先代西領元帥は生来の古代文明好きもあって先程の言葉は何処へやら自ら調査の先頭に立ち発掘を開始した。そして近隣住民との些細な諍いから不慮の事故死…………いや殺害されたのだ。気楽にカロリーネに話すとちゃんと質問が飛んでくる。それでなけりゃこの職は務まらない。
「それ先々代皇帝陛下の逆鱗に触れたでしょ? 先々代皇帝陛下と前プラダ公爵閣下は御学友の上、戦友でもあらされたそうだし。」
「そうだね。でも先々代陛下はそれすら利用するリアリストだったというのがオレの考えかな。」
弁明に訪れる魔法匠合の代理人の前で『余さず死か陵虐の生か選べ』と恫喝し、しかも同時に近傍の魔法匠合に属していた
村一つを焼き討ち、皆殺しにした事実を言い放った後でだ。勝負は一瞬で付く、その算段があったんだろうな。石器時代に戻してやると宣った某国務長官より酷い。
「それにしては後の対応がグダグダよね。良くは知らないけどさ。」
いやいや良く知ってるぞカロリーネ。勉強嫌いと言っても座学も実技もオレより優秀だったしな。やっぱペーペー転生者とこの世界で生きる職業軍人じゃ覚悟が違うわ。
「軍機でもあったしな。其の頃のリプディール山麓は今のような街道すらなかった。いくら大軍精鋭のメルキア兵でも道なき大森林の中に呑みこまれるだけ。一年間もゲリラ戦術で悩まされれば撤退もやむなしという訳さ。」
しかし、タダで撤退したわけじゃない。意図的な融和と弾圧の二面性、魔法匠合に属する村や街に信じられない程の不和の種を播いて行ったんだ。魔法匠合は国家じゃ無い。メルキアが撤退したからと言って破壊された町や村、命や財産が戻るわけじゃない。そして魔法匠合はそれら全てを養うには力が無さ過ぎた。其処に付け込んだのがメルキアの意を受けた、
バリハルト神殿
嵐の神、神の勇者と呼ばれる彼の神のもう一つの顔が開拓の神だ。同一世界のゲームじゃ主人公に敵対した悪役でしか無かったんだがアレは双方に原因があるから、本来は善神なんだよ。そして彼等のリプディール山麓での開発が始まる。
リプディール山麓の森林伐採を精力的に推し進め、奥から湧き出る魔物や野獣の群れを徹底的に掃討する。元の世界じゃ環境保護団体の来襲を受けそうだがディル=リフィーナにそんなものは無い。人の生活圏を守り、拡大する善なる行為だ。しかも伐採した木材は周辺各国に輸出され、神殿には巨利が集まる。彼等はそれを疲弊した村や街、そして人々に投げ与えたのだ。
「浄財を地域に還元したってわけか。その割に南領でバリハルト信者は少ないよね、なんで?」
そう、ここまでやればバリハルト信者で南領は溢れかえっている筈。だがバリハルト神殿はそれをしない。熱狂し信者になった者を引き連れて別の場所に移動してしまうのだ。神殺しに大破壊喰らったマクル神殿領――現スティンルーラ女侯国――の影響もあるかもしれない。
未開あるところに我等在り、即ち開拓の民。確かに教義を読んだときにもそんな気配がした。説明終わり、結末に入ろう。
「ま、そのバリハルト神殿の後に乗り込んできたのがメルキアの施政官なんだな。基礎インフラが整った中で公正な統治と先進物品の洪水だ。魔法研究ばかりに心を砕き、国家を作ったり維持したりという事を瑣末に考えていたリプディール魔法匠合にはどうしようもなかっただろうね。」
見る見るうちに住民と魔法匠合――即ち魔術師――との間に亀裂が広がる。それをさらに裂くようにメルキアが動く。この場合、恨み辛み等より住民はまず将来を考える。メルキアの豊かさは南領が出来る前からでも有名だ。
「そして
リプディール山麓民の自発的なメルキア帝国参加、【メルキア南領】創設ってわけか。弾かれた魔術師達はますます山側に追い込まれ必要悪から国家を作らざるを得なくなる。それが【ラナハイム王国】。」
結構難しいし端折っている点も多いけどカロリーネは真剣だ。百騎長ともなれば政治情勢も考慮に入れて配下を動かす事が求められる。まだこの時代、
文民統制も政軍分離も無い。軍人は指揮する側になったら支配者としての義務が課され、それは権利が生まれるよりも早い。最後結論を何気なく言葉にする。その最後の言葉でオレは自分の顔を指差す。
「だからラナハイムと南領は好き嫌いを別に今でも交流があるしラナハイムが帝都インヴィティアや西領に異常な敵愾心を持つのさ。オレなんてその筆頭、」
ザイルード家は元々この地方の地方領主、帝国の恩恵を受け匠合魔術師と袂を解った最初の一族のひとつ、しかも其の係累の一人が西領の顧問官として帝国の繁栄に協力しているとあれば。憎しみは半端ないだろう。ラナハイムから見れば典型的な裏切り者だ。思いついたようにカロリーネが言う。
「じゃ逆はルツの伯父様であるオルファン・ザイルード元帥閣下ね。
ザイルード家の嫡子だったのにルツの御爺様に勘当、でも帝都で名を為し南領元帥になって反ラナハイムの父親を逆に排除した。しかもラナハイム寄りの政治家として知られているし。」
良かった良かった。うちの家の機密事項だからな。家の方針を二つに分けて態と対立して見せ、メルキアからもラナハイムからも旨味をせしめる。
メルキアの愛国者たるには相応のヒト・モノ・カネがいるからね。庶民の感覚がこれならこっちが態々動く必要も無いな。ま、気が付くかは解らんけどカロリーネには一言示唆しておこう。
「どうかね? 先々代陛下と同じく伯父貴も相当なリアリストだよ。女狐ことフェルアノ・リル・ラナハイムの言葉如きに踊る事は無い。」
それを聞くとカロリーネ耳元でボソボソ言ってくる。いや伯父貴の城甘く見てるでしょ? そこらじゅうに盗聴魔法仕込んでいて何処の秘密警察だよ! て感じだから。
「でも市井の噂じゃオルファン元帥閣下とラナハイム王姉、デキてるって言われているよ。それでリセル閣下、家を飛び出したって……。何笑うのさ!?」
いやゴメン。あの傾国の美姫の内実知ってるから笑えるけどさ。市井の噂の斜め上を行くのが国家謀略戦や宮廷闘争だって。そんな昼ドラ展開ならこっちは苦労しないっての。
カチャリとドアが開き茶髪でカイゼル髭、執事然としたイグナティレスタン南領執政官が入室した。それだけで伯父貴がどのような話を行い、そして何を求めているのかオレには認識せねばならない。厳しい人だよ全く……うーん、カロリーネも百騎長になったから徐々にそういった事教え込むべきなのかな?
「オルファン元帥閣下が御会見なさります。どうぞこちらへ。」
「御苦労、執政官殿。」
「とと………(ルツ、ごめーん)」
うん、やっぱ教え込むべきだわ。今回の会見、軍人として話す事はなしとオレも見切っていたからオレもカロリーネも貴族の正装。
ポールガウンの端っこ踏んづけたな、カロリーネ? 執政官殿の後に続きオレ達は元帥閣下の私室に足を運ぶ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(BGM 楽しい駆け引き 戦女神ZEROより)
「我が甥よ、いよいよ身を固める決心がついたと見える。」
「大いに誤解と言っておきましょう伯父上。其処の引き出しから武器を持ち出すのが解りきっていますので我が東領最強の楯を用意したまでです。」
「では私としては其の楯から口説くべきなのかな? 楯を返す策こそ謀略の常道。」
「其の為の二枚目も用意してあります。寧ろ支配人にそう仕向けたのは誰かと勘繰りたくなりますね。」
「フハハハハハ…………アレは誤解にすぎんよ。あんな大物が手元に転がり込んでくるとは思わなかったのでな。彼女は当て馬として良い仕事をしてくれた。卿にも私にとってもな。」
暗めの栗色の長髪。骨ばった、いや少しやつれたような面差し。それでいて細目の青い眼から苛烈さと茶目っ気が伝わる。オレの方が長身なのに向こうの方が体格で圧倒しているような存在感。それがオレの伯父貴、
オルファン・ザイルード帝国宰相兼南領元帥閣下だ。隣で目を白黒させ最後に真っ赤になったのはそういう意味じゃないからな! カロリーネ?
「本題に入る前に言いたいのですが伯父上にはくれぐれも御自愛願いたいものです。激務なのは此方も重々承知していますが南領は伯父上が何でもかんでも口を挟まねばならぬ程人材不足ではない筈です。」
「なんのことだが解らぬが。」
カマかけして見るか。少しは自覚してもらわないと。憂国はいいけど伯父貴が倒れたらメルキアが亡国になっちまう。
「薬湯の匂いが隣の執務室に残っていましたよ。私室だけならまだしも、甥としては考えさせられてしまいます。」
「うーむ…………。しかし帝国宰相が若い者のように遊び呆けるというのもな。」
「そっち側に走ったらますます拗らすだけじゃないですか!」
暈された! もう、この人若い頃プレイボーイとしてメルキア宮廷中騒がせていたんだよ!! 今のヴァイス先輩も帝都出向の際は名をなしたけど女の扱い方は明らかに伯父貴直伝の筈だ。…………その一族のオレやリセル先輩は浮いた話どころか魔導に入れ込むから宮廷雀からすれば『子は親を見て育つ』――こっちの世界じゃ悪い意味で使われる――なんて言われていたけどな。ただ本人も自覚はしていると見た。
己の命が長くは持たない事を。なんとかヴァイス先輩の皇帝即位までは持ってくれ。ついでにリセル先輩の立后までは…………
「兎に角! 伯父上は無理をなさらないでください。伯父上自ら決戦兵器たる歪竜育てているわけじゃないですし東領と違って南領には執政官も軍官も沢山いるんですから。」
「レイナからその
黒幼竜にケチをつけたのは東領の千騎長といじけていたのを記憶しているが? ま、私自ら餌付をしても毒でも入っているかと警戒する有様はいだだけないがな。」
「それは日頃からの行いの結果では、伯父上?」
「皇帝や四元帥相手に大騒動をやった者が言うべきセリフではないな、甥よ。」
同時にオレ達のこのセリフが出た途端、オレの頭にゲンコツが落ちた。半眼でカロリーネが睨んで落ちた拳骨そのままグリグリしてオレの頭を下げさせる。
「どうもすみません。この上官殿、家族であっても目上の人間に敬称もつけずに言いたい放題。後でみっちりシバキますんで。」
イテッ! イテテテテテ!! 半分以上本気だろカロリーネ。其のまま上半身机に這いつくばされる。其れを見て伯父貴大笑い。
「はっはっはっ……これはルツは姉貴分に弱いという性分だったか。リセルという前例がいたのに抜かったわ。か弱き姫君ばかり候補にしたのは儂の失策。」
そのまま
件の武器を引き出しから持ち出すと無造作に開いた窓へポイ捨て。ぐはぁ! アレ見た城の使用人からディナスティ中にオレの婚約者名簿がバラされるの必然じゃないか!! なんて事するんだよ伯父貴!!!
「カロリーネ君と言ったな。確か帝都のヘイトゥス商会の布地は我が使用人達の御用達だがそこに腕の良い職人頭がいてその娘が東領で指揮官を務めていると聞いたが……。」
「あ、ハイ! 母は確かに職人頭ですけどそれほど高い地位ではないと思います。」
「工房街、緑の7区画の夜も蒸気が出ている工房だろう? 良く知っている。家令のミスで私直々に反物の依頼に立ち寄った事がある。」
「本当ですか!」
「(うそこけ伯父貴! こっちが東領逆侵攻軍の編成にカロリーネ組みこむこと伯父貴に話したから裏取っただけじゃねーか! 多分それが本題で反物云々は理由に過ぎない癖にイデデデデッ!!)」
明るい笑顔のまま問答無用でオレの頭テーブルにめり込ませているカロリーネと、朗らかに意趣返し中の伯父貴が想像できる。両腕全力で頭をテーブル型引き剥がし一言。…………しようとして気配に気づいた。同時に相対する二人とは別の声がかかる。
「良い気味ね。二対一でそのバカがやり込められているのを見るのは久しぶり。」
伯父貴の私室には鳥籠がありその隣には止まり木もある。伯父貴だって魔術師だ。戦闘に特化しているという点に限れば第一級の魔術師と言っていいだろう。当然使い魔も居りそれは赤目の鴉だ。その隣に鎖と金属板で作られた人形が腰掛けるくらいの空中ブランコがある。その周辺が歪み元に戻ると使い魔の鴉と空中ブランコに腰掛けたまま漆黒の羽毛を撫でている小さな人影が現れた。相変わらずこっち向きゃしない。それでも敬礼、目上ではあるからね。
「ナフカ閣下、お久しぶりです。」
「此方は会いたくはなかったわね。いつもオルファンに厄介事持ち込むのは貴方とアイツだから。…………例えオルファンが貴方に利用価値を認めていてもね。」
実のところ彼女の名前の由来たる【輪の月・ナフカス】はこのディル=リフィーナで観測されることはない。観測できる程人の信仰を集めていない月なんだ。ゲームで知っていなければ闇の月・アルタヌーだって見えていないから想像の産物にしか思えなかっただろう。その銘を持つ
帝国南領筆頭騎・魔導巧殻・ナフカ閣下、銀髪ロングに赤目のアルピノ系、ドキッとするような際どい衣装と魔導巧殻唯一の巨乳に翼と兼用する一対の鎖鎌。常に冷徹で皮肉気、己を道具として律する性格。ゲーム其のままだ。こうして見ると魔導巧殻四騎はそれぞれに得意とするレンジが違うんだな。
長女たるひんぬーぽわぽわ娘のリューン閣下が遠距離支援系
次女たるきょぬー冷徹娘のナフカ閣下が隠密遊撃系
三女たる美乳鬼教官娘のベル閣下が前衛近接系
そして中枢にしてオマケ扱い四女、
洗濯板不思議ちゃんのアル閣下が装備選択汎用系
ナフカ閣下が暗殺を得意としているからこそ今までオレも居るのではないか? 位しか解らなかったのさ。しかも彼女が視覚欺瞞魔法まで使っていてすらね。オレの額冠ですら魔導巧殻は相応の魔力反応を示すのに彼女にはこの距離ですら魔力反応を感じさせない。常時
魔力隠蔽モードという訳だ。
「丁度良かった。此処に御二人がいるなら先に話すべき事があります。」
うん、実際はこれからの対ラナハイム問題の後始末言うつもりだったんだがこっちを先にしよう。
「私、席外す?」
オレの言葉にカロリーネが反応するがそれをナフカ閣下が押しとどめる。
「必要無いわ。シュヴァルツが其処に言及しない以上、貴官は其処にいて良い。」
ナフカ閣下の言葉と共に全員が居住まいを正す。伯父貴が軽く手を振ると全てのドアや窓が閉じ封印が施され、ナフカ閣下が全員を走査し状況を確認する。
「将官機密法第7項か。ならば情報共有者として私、南領元帥が帝国南領筆頭騎の同席を許す。」
「第7項証人として東領所属百騎長、カロリーネ・リィデルートの随伴を求めます。」
「帝国法により了承する。彼女には守秘義務が課される。」
「帝国百騎長カロリーネ、守秘義務を履行し軍命を持って遂行いたします。」
「「「了承する」」」
そう、先日ベル閣下に話す事が出来なかったのはこういう状況にしないと帝国機密は話題に出来ないんだよ。エイフェリア元帥閣下の時はあらかじめ政治的な話故、部屋どころか区画そのものが機密保持地帯だったしな。汚部屋にメイドがなかなか侵入できないのはそれが理由と言うかソレ理由にしていませんか、エイダ様?
「先ずはこれを…………。」
エイフェリア元帥閣下に見せた魔導兵器ノイアスの概念図を見せる。本来作ったのは伯父貴の部下であるエリナスカルダ千騎長だから伯父貴も勿論知っているがオレが書き加えた2ケタ分上積みと追加情報の数々は初見参の筈だ。見る見るうちに伯父貴の顔が険しくなる。
「根拠は。」
「もちろんありませんが知ってはいます。正直エイフェリア元帥閣下には巣篭もりして頂きたかったのですが、バーニエがあの惨状ではそれも難しいでしょう。」
勿論伯父貴もナフカ閣下もオレの【知っている】を認識している。
歪竜練成過程がオレのゲーム知識で思考錯誤の必要無く理論完成したからな。現在最重要部品の歪竜の制御盤をティナスティ城に隣接する魔術研究所で開発中の筈。皇帝やノイアスは魔導に興味を示す。南領の情報統制が厳しいのと合わせて制御盤が奪われることは無いと信じたい。
「気にいらないわ、転位硬直がこんなに短いなんて反則もいいところ。」
「しかもメルキア一個軍団を理論上『暗殺』する事が可能だ。奴の居場所は特定できたか?」
流石、この人たちは要点を即座に理解する。あくまでノイアスは暗殺専門の汚れ役に過ぎないという事。伯父貴の質問ばかりはどうにもならない。伯父貴ですら五里霧中の有様だからオレ如き二流以下に何をしろと? ただ状況証拠ならエイダ様に用意してもらった。
「残念ながら、つい先日ガルムス元帥閣下とベル閣下それにヴァイスせ……ヴァイスハイト元帥」
「ヴァイスでいいわ。」 ナフカ閣下ヴァイス先輩関連だと投げやりだよな。
「……失礼、ヴァイス先輩が折玄の森に分け入りましたが特定できなかったようです。ノイアスがこれ以上の転位距離を持つという点を加味しないなら。」
「帝国全土を奴が転位で網羅し介入しようとするならば考えられるのは其処か。」
「メルキア帝国外は想定しても仕方が無いわね。時間の無駄だし、あの愚物が其処まで交渉力があるとは思えないわ。」
オレが指した帝国版図の中央、しかも
実質的な空白地帯。その位置で帝国宰相たる伯父貴はオレが何を考え自分が何が必要か瞬時に察知する。
「シュヴァルツ、お前らしいというべきなのか……帝国宰相として筆頭公爵家に伝わるエ・ギヌス遺跡と祖霊の塔の探索。メルキア法典に則って調査報告書の拠出と立ち入りの許可、それを私にやらせると?」
渋い顔をして伯父貴が顔を揉む。そう政敵に借りを作らないと伯父貴の狙いは達成できない事になる。何故オレが直接エイダ様に直訴しなかったのは簡単。南領と西領の権力争いの中間でオレがタイトロープしなけりゃならないのと、伯父貴が簡単に西領に喧嘩を吹っ掛けない様にする為だ。南領と西領が合同で遺跡調査をするとなれば当分の間、裏は兎も角表だって現場が戦争するわけにもいかない。
具体的なオルファン元帥の狙い、それは皇帝ジルタニアと前東領元帥ノイアスを排除し帝国をあるべき姿に戻す事。
エイダ様と対立する魔法術式と魔導技巧の件もその手段の一つに過ぎない。先史文明に簡単に手を出せる魔導を危険視しているからだけに過ぎないと思う。もし
魔導をメルキアから排除するならこんな短絡的な策を取らない筈だ。
そして今回講和なったユン=ガソル連合国の復讐戦争、これを手引きし帝国外側からノイアスの排除を成功させたのも伯父貴だ。国賊と侮るなかれ、其処までしなければならない程ジルタニアとノイアスがメルキアに対する危険人物だったと言う事なのだ。
それは半ば完成し半ば方向を変えて複雑化したとも言える。ノイアス・エンシュミオス前元帥は死亡せず魔導兵器になって甦り、皇帝ジルタニアは停時結界のなかで事前に用意した策を賞味しているだろう。今は成功でも後に全てひっくり返される可能性は高い。そして伯父貴の命はそれを阻むには足りなさすぎる。
「そして今回における本題です。オレは現状におけるメルキアの権威低下を望みません。少なくとも
非常に面白くない。諸外国が手を出してくる前に『メルキアに手を出せば国家どころか国民国土が滅びる。』それ位の脅威を植え付けるべきだと考えています。」
伯父貴とナフカ閣下、同時に不満げに鼻を鳴らした。
「【歪竜】や【魔導戦艦】では足りぬか?」
「随分と欲張りね。両方とも南領、西領の財政を傾けてまで行っているのをシュヴァルツは理解していると思うけど買い被りかしら?」
「ね、少しいいかな? あ、すいません。百騎長として機密事項における状況把握を許可願います。」
三者三様の答えが返ってきた。カロリーネが一歩控えた発言になったのは当然、オレと伯父貴、ナフカ閣下は情報に触れ独自の意見を出す事が出来るがカロリーネは証人に過ぎないから発言権が無いんだよ。両者が許可するとの声を上げ、カロリーネは質問を続ける。
「今の話からルツはエイフェリア様と魔導戦艦を研究してて、オルファン様とは歪竜を研究してるよね。矛盾してない? 魔導と魔術、メルキアの方向を見定める決戦兵器の筈なのに。」
「オレがどっちか? と指向した覚えは無いんだけどな。その点、考え方はガルムス北領元帥の『使えればどちらだろうと構わん』に似てる。でもな」
オレが持ち込んできたもう一方の書類をバサバサと机に展開。オルファン元帥が手に取り目を通す隣でナフカ閣下がオレに目を合わせず伯父貴の肩越しに資料を凝視している。カロリーネはその後から概念だけでもと流し読み。
「むぅ…………。」
「シュヴァルツ、貴方正気?」
「なによコレ……ルツ、帝国の現状本当に理解してる? こんなメチャクチャ、エイフェリア元帥もオルファン元帥も賛成する筈も無いよ。」
一気にオレの理論を展開する。エイダ様ですらヴァイス先輩交えた会談――というか汚部屋で絶賛プロレス中に言っただけだけど――で保留にしてくれと頼まれた位だからな。
「…………ですがメルキア帝国が再び一つに纏まれば可能です。
小国ならこれ一隊で跡形も無く消し飛ばせる。だがこれですら【すぐやる計画】でしか無いのです。オレの本当の目標点はこの先、だから一刻も早く魔導戦艦の最重要部品【魔焔反応炉】と歪竜の最重要部品【歪竜の制御盤】が必要だから協力しているに過ぎないんです。そして……」
止めとも言う決定打を繰り出す。そう220年後ディル=リフィーナの英雄達が総力を持って対抗した
【天魔の落とし仔】。それをメルキア帝国単独で叩き潰せる力の源泉を創り出す。それはその数年後起こる【新七魔神戦争】でも有効になる。その時こそがメルキアの『帝国の興廃この一戦に在り』なんだ。そのために必要なものすべてを今のうちに集める!
「ラナハイムの【魂葬の宝玉】、そしてこのアヴァタール東方域はおろか大陸各地に点在しまたは練成できる御物、特に【アル閣下に対応し代替できる御物】、最低これだけが必要です。」
沈黙が流れる。堪りかねたようにナフカ閣下が伯父貴に過激な言葉を吐いた。
「オルファン、このバカこの場で始末していいかしら?」
「そういうな、だが其処までも【知っている】とはな。私達以外に話した者は?」
「ヴァイス先輩とエイダ様、それだけです。カロリーネに話したのは。」
ブランコからすとんと机の上に降りたナフカ閣下が呆れたように胸を反らしてオレを指さす。ちっこくても流石きょぬー、ちゃんと揺れやがる。
「全部言わなくて結構、貴方は当分手が離せない。でもこの件で帝国各領を飛び回る使者が必要になる。なるべく事情に精通しない伝書鳩が望ましい。カロリーネ百騎長、この男を信用しない方がいいわよ。なにもかも二流だけど、悪辣という一点に限ってはオルファンを凌いでいるから。」
本当に助かる。二人ともオレが何を暈して言ったのか【知っている】から逆算して察知してくれるからな。カロリーネにとっては嵌められたのは解るが何をどう嵌められたのか全く解らんだろう。其処は認識させておかないと。帝国の表側と裏側、オセロの様に目まぐるしく変わる状況に流されず己の役割を果たす。それが陰謀というものだ。
「カロリーネ、これから君をオレの側近として扱う。それは帝国中枢に関わると言うことだ。責任重大だぞ。そしていずれはオレの計画の全貌も知ってもらう。オレの罪科も含めてな。」
「は、ハイ。」
もう訳解らんの表情でカロリーネが頷くが今はそれでいい。そこにつっけんどんな態度ながらナフカ閣下尋ねてくるけどそれをオレは避わす。
「私達は関係ないの?」
「オルファン元帥は兎も角、ナフカ閣下にはヴァイス先輩との関係を改善して頂けない事にはどうしようもありません。オレとヴァイス先輩、そして今回カロリーネを含めて共犯者という立場ですので。オルファン閣下は【すぐやる計画】については目に出来るとは思います。其の為にも御自愛頂きたい。」
「ふむ、つまり儂はそこまでは保つ。そういう事なのだな。シュヴァルツ。」
うわ、伯父貴問答無用で己の寿命逆算しやがった。丁度いいや、あの二人には幸せになってもらわないと。隣でナフカ閣下、すげー嫌そうな顔してる。ナフカ閣下とリセル先輩仲が良いんだよ。そのリセル先輩の家族であるオレと伯父貴で勝手に先輩同士をくっつける企みが進行中なのが気にいらないんだろう。それでもオレに関しては単なる嫌いで済むけど、花婿役のヴァイス先輩に関しては『気が合わない』と言う露骨な表現を使って避ける。嫌なら公の場は取り繕えるがそれすら避けて取られるとね。
「正直、立后まで保って頂けないと当人達が泣きます。先輩達の晴れの舞台に水を差したくない。伯父上が危篤であっても強引に引きずり出しますからね! 二人に掛ける言葉位、考えておいてください。」
伯父貴大爆笑しやがった! 笑い事じゃないんだよ、自身の躰でしょーが!?
「フハハハハッ! ナフカよ。我が甥は想像以上に人使いが荒いようだぞ。儂が万が一死んでいようものなら冥界まで追ってきそうだ。」
「死霊術師を呼んで
仮初めの復活などさせたら即座にこいつの首を胴体から切り離すわ。其の覚悟で即位式にオルファンを立たせてみせなさい。」
うん、ここがベル閣下と違うとこだよな、ナフカ閣下。彼女は毒吐いても絶対に己の武器に手を伸ばさない。ベル閣下は恫喝という手段の為に抜く事はあっても彼女はそんなことはしない。無駄の一言で片づける。彼女が其の背の翼を模した鎖鎌を抜く時は誰かが死ぬ時だ。概念図に再び目を通し始めた伯父貴がオレに言う。
「さて、儂の意思や美意識を除けば確かにこれはメルキアの次世代を担う決戦兵器に相応しい。魔導戦艦の一にして最強、歪竜の群にして最強を兼ね備え、なおかつ弱点たる間隙を埋めるか。」
ナフカ閣下も言う。
「歪竜を使い捨て扱いの機動兵器にし、魔導戦艦すらそれを搭載運用する輸送船に貶める概念……ここまで西領と南領を虚仮にするバカの頭はどういう構造をしているのかしら?」
酷い言い様だが正鵠を射ている。兵器は道具に過ぎない。それも一度抜かれれば破壊と殺伐しか生み出さない非生産的な人類創造物だ。だから使えるか使えないかでヒトは判断しなければならない。本来魔導など魔法だの禁忌などという先入観で囚われてはいけないものだ。だがナフカ閣下解っているのかね? 己を兵器として律しているけど、
律している事自体己が兵器で無くヒトである事を証明してるんだけどな。
「銘は
歪竜躁絡魔導戦艦、略して
【竜躁魔艦】、それがヴァイス先輩とオレが歩む時代の決戦兵器です。」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(BGM 戦場に訪れたひと時の休息〜渦巻く恥辱と快楽 珊海王の円環より)
どうやら状況が変わったらしい。思ったよりもラナハイムの動きが早い。会談の最後辺りで伯父貴に外から連絡が入り、ラナハイム軍の先鋒が【楼閣アルトリザス】から出撃したとの第一報が入ったのだ。杞憂でしか無かったが鷹獅子騎士で急進撃されなくて良かった。どうしたって航空兵力のみでの奇襲は制圧能力に劣る。結局歩兵抜きでは精鋭部隊が無駄に損害を受けるだけなんだよな。出撃したのは魔法剣士部隊【パナディ・アズール】、将は間違いなく近衛隊隊長ラクリール・セイクラスだろう。2週間後にはラナハイム-ルモルーネ国境線に到達するとオレは見た。セーナル神殿を使わなくてもラナハイムは転位門を限定的に使う事が出来る。魔術国家ならではの機動戦闘が可能なのだ。
予定を繰り上げてヴァイス先輩は午後中に伯父貴と会談しラナハイム服属後の南領の分け前を交渉している。当然レイナ率いる南領軍を独自裁量で動かす事を含めてだ。帝国軍3個軍団半7000、ラナハイムの総動員兵力は2個軍団4000弱、しかもメルキアに対抗できる精鋭部隊は半個軍団1000程度だ。梃子摺ったとしても最終的に押し潰せる。実際保護国のルモルーネだけ抑えて経済封鎖で干上がらせてもよいしな。
リセル先輩はナフカ閣下と御話し中、ナフカ閣下はヴァイス先輩を嫌っていてもリセル先輩には可愛い妹の扱いで接するしな。リセル先輩のお願いを逆手にナフカ閣下情報共有相手を此方にする辺り強かだよ。で……残るのが、
「いっちょうら〜 いっちょ〜らぁ〜 ル〜ツがわたしにいっちょおらぁ〜♪」
いや、恥ずかしいから街中で歌わないでくださいアル閣下! 南領でも魔導巧殻は知られている存在だし今の場所、公衆の面前でヴァイス先輩と一緒にナフカ閣下指揮で
罰ゲーム喰らったしな。『また甥御様が領主様から罰ゲームさせられてるよ、今度は何やったのかね?』なんて思われているんだろ! くそー!!
表通りまで出てくると騒ぎが起こっている。ディナスティ城の通用門、城の中に一般人が入るとしたらまずここしかない。正門は貴顕の方々、間扉は関係者のみだ。人だかりがしてると思い近くまで来ると
何が行われているか咄嗟に気づいた……がもう遅い、オレの顔は南領で割れているしな。此処で引き返したら伯父貴に要らぬ迷惑もかかる。
人だかりが領主の甥という権威で勝手に分かれていきそれが露わになる。カロリーネが思わず口を抑え、アル閣下も疑問の壁にぶつかった様に飛行を止めオレの頭の上で首を傾げる。其処には二人の睡魔の娘がいた。それだけならいい。
状況はエロゲでも目を背ける程の代物だ。
荷車の上に逆さ吊りで鎖で固定。全裸に剥かれ手首足首を片側同士で縄拘束、即ち強制開脚。その上からは糞尿をぶっかけられていた。目と口にはは睡魔特有の魅了の力を抑止する枷が掛けられ首輪は其の魔力を無効化する。低級睡魔ならこれで人間族の娘と変わらない。そのまま晒し物という元の世界で言う公開処刑の上に周囲には拳大の石が沢山転がっている。石打ちという奴だ。仕方無く無慈悲な宣告を告げる。
「相当に不味い事やったようだな、お前達は。ならば制裁されるのは当然の事だ。」
群衆の中から睡魔族それも
上級睡魔の娘がやってきて籠を捧げ持つ。その中には地面に転がっている石がずっしりと。総重量50キロ近いだろうが魔族にとっては苺籠を目上の者に捧げる位の重さしか感じない筈。――スペックが根本的に違う――オレはその中から二つ石を取り、重さと握りを確かめると順々に晒しものにされている娘達に投げつけた。それと同時に群衆から憎しみに満ちた罵声と投石が始まる。
「死んじまえ!」
「息子を返せ!!」
「色魔畜生!!!」
オレは諦めたようにカロリーネとアル閣下にも石を渡す。カロリーネは理解したのか石を握る。アル閣下はまだオレの頭の上で首を傾げているようだ。
「すみませんアル閣下、皆と同じように。」
ホント、こんな良い子に見せるべきじゃ無かった。人間の悪性なんて害以外の何物でもない。カロリーネも心底嫌そうに石を握り投げつける。アル閣下にも渡すとそれを魔法力で力場展開して投げつけながら、
「しき〜ま! ちくちょ〜ぉ?」
思わずずっこけた! アル閣下、意味も解って無いのに一番難しい罵声舌足らずで叫ばないでください!! 雰囲気粉々でしょうが!!!
だが群衆も冷や水をかけられたように我に返ったようだ。どう見てもアル閣下は此処の魔導巧殻であるナフカ閣下よりも幼く見える。良く解っていない“子供”に憎しみを転写して投石させたことに後ろめたい感情もあったのだろう? 三々五々群衆が散り始めた。残った上級睡魔の娘が頭を下げると、とうとう我慢が出来なくなったのかアル閣下が口を開いた。
「お尋ねします。あの娘達は何故裸にされて石で打たれるのですか?」
オレも少し目線を向ける。この上級睡魔は実はオレやヴァイス先輩の先生でもあるからな。所謂ディナスティの高級娼館、その女将だ。こういった知識に疎いアル閣下に何を話すべきなのか段階はある。だから彼女は注意深く言葉を紡いだ。
「罪を犯しました。三人の罪のない男性を殺したのです。」
「ふしぎです。確かメルキア法典に殺人でこのようなばつはないと思いましたが、わたしの記憶ちがいでしょうか?」
オレが補足する。
「メルキア法典の種族法に該当します。彼女達は睡魔族ですが、睡魔族其の物を危険に陥れる行為を彼女達はしたのです。故に種族法によるメルキア法典以外の罰則、
私刑が認められます。」
睡魔達は異性の精気が無ければ餓死してしまう。だから睡魔族の娘ははこういった都市に、そして娼館に集まり易い。ここでなら大人しくしていれば客の男から精気を貰う事ができ、仕事量に応じて給金すら出る。当人達は享楽的で即物的ときているから金使いも派手だ。馴染と言う人間関係が増えれば魔族と言うだけで差別される事も無いし、元々彼女達は『男を惑わす』の言葉通り容姿や肢体に恵まれ、性技すら本能で知っている。店の看板娘確定なわけだ。
こういった組織が無いと別作品で街中の男漁り散らして御近所の主婦に追いかけ回された挙句、そのゲームの主人公に御用された
能天気睡魔も出るわけだし……でも、限度と言うものがある。
殺すまで精気を吸い尽くすと言うのは論外。そしてそれは街の娼館で暮らす他の睡魔にとって致命的だ。人間は敵を近くに置く程寛容ではないし、そもそも街に暮らす女にとっては現状ですら睡魔は敵以外の何物でもない。都市の女にとって睡魔が若い男達の捌け口だからこそ彼女達がいる隙間が出来ているんだ。それを崩せば罪を犯した睡魔だけでなく街にいる全ての睡魔に迫害が及ぶ。
「原因は外からですか、先生?」
こうなるありがちな原因を暗喩で言うといきなり科を作られた! もーホントこの種族、異性に好意を持っただけでホルモン全開になるからな。
「あら、嬉しい。随分御無沙汰の上にますますイイ男になっちゃって。今度うちにも顔を出して下さいな?
東の小娘ではシュヴァルツ様は御不満でしょう??」
げ、そういえば『先生』は彼女に対する褒め言葉だった。勿論伯父貴の諜報機関の一翼、リリエッタの上役が彼女だ。うわー明らかにカロリーネ殺気立ってるし。まぁまぁと宥めて答えを聞いてみる。溜息をひとつついて先生も話す。
「はい、雌犬の仕業ですわ。ホント監視はしていて此方側で引き込む様手配はしてるんですけど意図してやられるとどうしようもこうしようも……」
「せんせー、めすいぬの意味がわかりません! せつめいをお願いいたします!!…………? シュヴァルツにカロリーネ、なぜ地面に突っ伏しているのですか??」
だから空気読まずに爆弾発言止めてくださいアル閣下!! 今度から閣下の性格に空気読まずに雰囲気ぶち壊すとでも書いて置こう。ニコニコ笑って先生がアル閣下に説明を始める。おしゃまな娘が母親に赤ちゃんはどこからくるの? な会話だな。
「…………街の睡魔に挨拶もしないで男の人と仲良くなる外の睡魔を私達は雌犬と呼んでいます。街のルールも守る気も無いのに良い思いだけしようと言うのは街の者を蔑にしている証拠ですわ。逆に雌犬達も私達のように街で暮らす睡魔を飼い猫といって馬鹿にしています。人族も睡魔族も補い合って暮らすのが皆にとって良い事ですのに。」
「睡魔のなかでさべつがあるのですか?」
「そ、それは…………。」
「先生、アル閣下を子供と侮らない方が良いですよ。知識は少なくても判断力と洞察力はそこらの大人を超えている。さて、行きましょうか、ずいぶん時間を費してしまいました。」
本来行くべき場所は別、頭を下げる先生と後にオレ達は歩き出す。思い出したようにオレは先生に言葉を繋げた。あれで済み、追放処分だと願いたい。
「あの娘達は?」
「当然晒した後、私共の手で八裂きにしますわ。それが
娼家の娘達を危険に晒した報いと言うものです。」
恐怖する程の艶然とした声に見送られてオレ達は歩み去る。此処は現代じゃ無い。いくら法治国家とはいえ、目には目を歯には歯をが通用する中世なんだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(BGM 毎度、ご贔屓に 戦女神MEMORIAより)
ようやく着いた洒落たカフェのような店、コンビニやスーパーみたく買い物籠下げて陳列棚をぐるぐる回るなんて無粋はこういった上流の店ではありえない。――でもそういった大型店舗作るのもオレの夢なんだな、遠いけど――
「いらっしゃいませ、お久しぶりでございます。シュヴァルツ様、そろそろ軍服の買い替え時では御座いませんか?」
丁寧と商人魂の塊のような女主人に出迎えられた。うん東領でセーナル商会をきりまわすシーラさんを彷彿とさせるな。本物をセンタクスで見た以上尚更だ。いきなりカロリーネに脇腹つつかれる。
「ねぇ……シュヴァルツがモテるのも解るけどさ。なんか皆、露骨じゃ無い? ディナスティ中の女性に粉かけたなんてオチはないよね。」
「ないない、それはない! オレの癖が原因だから。」
商人や職人達を城や館に呼びつけて売買や製作依頼をするのがまっとうな貴族だ。そんなまだるっこしい事はしないんだよオレ。公用なら兎も角、私用なら自分で店まで歩いていく。それなら店の状況とか生の情報が解るしね。そんな変わり者だからディナスティの商家じゃ顔が知れてる。オレが店に顔を出せば箔が付く、そう考える阿呆には容赦した事はないが。
「あら? そちらの方は新任の方ですか? シュヴァルツ様附きともなれば何かと行事も多いと聞きますわ。一着仕立てましょうか?」
「ごめんなさい! そういうのちょっと無理、借りものスカート踏んじゃったし!!」
「まぁまぁ、それは大変! 繕うついでに採寸と合う衣装を探しましょう。」
たちまち店の女性陣に取り囲まれ店の奥に連行されてしまう。「たすけてー」と言うか細い悲鳴は聞かなかった事にする。直後、オレの頭で座っている一名、緋い前髪を太ももで御機嫌良くふみふみしながら、
「いっちょうら〜 いっちょ〜らぁ〜 ル〜ツがわたしにいっちょおらぁ〜♪」
……期待全開で歌いまくるこの洗濯板なんとかしないと。女主人さん一瞬目を点にしてころころ笑いだす。
「あらあら! これは失礼いたしましたわアル様。いらっしゃいませ。御用は此方で?」
「そうです。しかもヴァイス先輩との賭けに負けましてリセル先輩から罰ゲームですよ。」
手のスケッチブック――あるんだよなこの世界、紙が!、転生知識活用できん!!――を見せる。下手ながらオレが書き留めたデザイン、ホント前世攻略本買って良かったよ。
「まぁまぁ! シュヴァルツ様としては秀逸なデザインですわね。色は赤と黒を基調に、この大きさでタータンチェックは相応に御値段が張りますよ? この金属部分は無粋ですわね、練成した皮革を使いましょう。」
たちまちのうちに使う布地や皮革、縫製や練成の【御針子】まで決められていく。いや、オレとしても信じられん熱意だがなんとなくわかった。魔導巧殻で衣装を頻繁に変えるのは西領のリューン閣下のみ、バーニエではリューン閣下御用達のブランドすらあるんだよ! でも他の魔導巧殻にはそんな話はとんと聞かない。ま、元帥が道具や兵器としてしか彼女達を扱わないなら当然だよな。ここの主人としては何かと張り合う南領と西領の関係上、ナフカ閣下でなくても『東領のアル閣下が衣装を求めに来た。』という宣伝は想像以上に魅力的なのだろう。
「テトリ! テトリ!! 何処行ったの?」
「はい! 只今ー。」
て・と・り? 今トンデモな名前を聞いた気が……奥の扉を開けて慌てたように女の子が駆けてくる。いや本人は一生懸命だろうけど彼女達の種族は小走り以上には“走れない”しな。金髪、小さめのツーサイドをフリフリさせて何処となくいぢめてちゃんな雰囲気がある事から多分そうだろう。特にロングスカートの下で確定だ。
カラフルなスカートの下から素足じゃ無くて木の根っこが生えている。外見主人と同じエルフに見えるがそうじゃない。テトリと呼ばれた女の子もこの女主人もだ。
翠樹妖精族
神話の世界でエルフの守護女神ルリエンが闇の太陽神ヴァスタールに下半身を切り落とされ、慌てて木の根で代用した時に其の流れる血と樹液から生まれた種族だと言われている。本来、森の中で暮らす種族なんだが、メルキアでは睡魔と同じように街に出てきて暮らす者も多い。やはり人間族の社会にメリットを感じて出てくるんだよな。
安全保障と技芸の追求
ユイチリは狙われやすい。彼女達の血肉其の物が錬金術の材料になるし木化という樹木へ還る死体ですら工芸品や奢侈品の材料にされてしまう。その外道の狩人共で最も多いのがオレ達人間族だ。では何故こんな即物主義のメルキアでコロニーを作るかと言うと保護されているんだな、
メルキア法典の種族法によって。
ユイチリを殺す事や危害を加える事を誰でも躊躇わざるを得ないような残虐な刑罰によって。
アレを間近で見ればだれも『保護樹林』に手を出す事を考えないだろう。街にある樹木によって生涯己の体液全てを生きながら搾り取られ続けると言う刑罰を見た時流石のオレも震え上がった位だ。精神が擦り切れたら一気にミイラになるまで吸い尽くされ、最後は樹皮に覆いつくされるように『喰われる』。
そして彼女達にとってメルキアの街は実入りが大きい。森で隠れ済まずとも街に緑地帯、樹林帯があり、自分達の縄張りを作れる。勿論手続きや後々の税の支払いという面倒事もあるがそれを凌ぐ稼ぎをしてしまえば此処の主人のように商家を持つことも夢じゃない。その主要産業が衣料縫製、食品製造、特に金持ち相手の高級品市場だ。
彼女達種族の手先の器用さは半端ではない。そもそもずっと先の話とはいえ
レヴィア・ローグライアがレースフリフリ、ピンクのグラデーション地、しかもシースルーの
ベビードールなんてなんで着ているんだよ! と突っ込んだから。まさかそれを手作業で創り出しているのが彼女達ユイチリだったとは!!
勿論見習いであっても彼女達は街の森を守ると言う種族的な使命を負い税金を払う。でも彼女達にとってそれは重いものではない。己の
樹液に過ぎないしな――それはそれで無茶苦茶に恥ずかしいのだろうが――まーここで女主人から呼ばれた女の子も200年後には
冥界の門番娘達のおやつ担当にされて散々弄られるのだろうがそれは知らん。オレが死んだ後の話だ。
「赤の布の8番、黒の布の11番と17番、それに白の魔術糸、虹色の糸も持ってきて、石細工は白と黒、2日前のお客様にお出しした物と同じものよ。」
「はい! ハイ! 解りましたっ!!」
元気に答えて此方を向き女の子がお辞儀をする。
「此度は御来店頂きまして有難うございましたっ!!」
その言葉も言い終わるや否や奥の部屋にすっ飛んでいく。根っこがグルグル模様に見えるのは前世でコミックを読み過ぎただけだろう。
「良い娘ですね。元気で良く気が付く。」
「まだまだですわ、
ディジェネールの田舎育ちがなかなか抜けませんのよ。」
御世辞に帰ってきた単語で『やっぱりか』と思う。となると神殺しに出会った時点で樹齢200年以上なんて状態だったんだな。ま、それくらいないとあのチートには釣り合わんからな。
「ささ、準備出来ましたわ。アル様、どうぞお乗りになって。」
あ、準備できたみたいだな。直径5ケレー(150センチメートル)程の円盤を差し出す。オレ達だと姿見を平たく置いた状態だが、アル閣下にとっては劇場の舞台みたいな感覚だろう。興味深そうにアル閣下がつま先を乗せ円盤に入ると入った場所すべての衣装が変わる。
幻術投影
魔導双方向通信機も実際は此れの応用だ。魔法力を魔導で代用し少ない魔力素質の者でも伝言や映像を送れると言ったカラクリ。だが原形を本職の魔術師、特に幻術士が使えば。
アル閣下の衣装が見事なまでに上書きされる。フロントカットなレオタードや金属質なサイドスカート、飛翔翼が消え、黒のインナーワンピース、その上に黒レースで飾られた赤黒タータンチェック地のチュニック、黒赤の横縞オーバーニーソックス、頭には黒のベレー帽の代わりにおでこカチューシャとあみだにくっついた小さなシルクハット。手に長めのステッキを持っている。ゴスロリ系と言えばそれまでだけど、
躁球士の衣装
うん、
エイフェリア元帥側に付く予定だからこっちは普通あり得ない。だからこそやってみたかった! アル閣下「わぉー!」とか「おぉー♪」とか言って円盤でくるくる踊っているからお気に召したようだな。そのまま勢い余って円盤から飛び出す。そうすればいつものレオタード姿だ。慌てて四つん這いで円盤に入ろうとするがそれを手でさえぎる。
「アル閣下、それで十分でしょう? 幻術魔法は術者にかなりの負担をかけます。お楽しみは衣装が出来た後でと言う事に。」
「そうなのですか? ごめんなさい調子に乗りました。しょぼん。」
円盤に手を添え集中していた彼女が微笑む。どんな世界でも商売人はお客に喜んでもらう事が最大の報酬だ。それは変わらない。と! そんなことよりオレの第二の野望を何とかせねば、アル閣下が御機嫌な今こそチャンス!! スケッチブック2枚目を開く。
「そこでですね、アル閣下、2枚目としては是非ともこの衣装を採用して頂きたく!」
ここで諦めて堪るか、是非ともヴァイス先輩の為にもにゃんこネグリジェを! といきなりアル閣下裂帛の言葉。
「カロリーネ!!」 店の奥から半泣きのカロリーネが顔を出す。
いきなりビシッとオレを指さし険しい声音で凄むアル閣下。
「リセルの言うとおりシュヴァルツが暴きょにでました。粛清かいしです!!」
「サー! イエッサー!!」 たちまち元気が戻ると言うより戻り過ぎていない、カロリーネ?
そこでオレの意識は途切れたのだと思う。後で聞いたけどコレやったらリセル先輩カロリーネに256回首かっくん攻撃と嗾けていたらしい。
くそー!!!
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