やあやあやあ、みんな元気かい?
こちらは白石直詭です。
え、このテンションはウザイ?
……勘弁してくれ、いやホントマジで……
無理やりテンション上げとかないと、精神的にもちそうに無いんだよ……
「ほらナオキ!早よぉ行くで」
「ねぇ霞、本気でこの格好で街の中歩かせる気?」
「今さら何言うてんねん!似合ってんやから、ええやん!」
今の俺の格好?
……あんまり説明したくないんだけど、ダメか?
「よくお似合いですよ?」
「店員さん……そこは嘘吐いてでも似合って無いって言ってほしかった」
「なんで?嘘吐く必要無いやん。ホンマに可愛いで、ナオキ」
……そう、可愛いらしいんだ、今の俺のこの格好。
一言で言ってしまえば、女性物の服着てるんだよ!
紺色を基調にしたノースリーブの上と、膝が少し隠れる程度の濃い緑のスカート。
ついでに髪止めとかの装飾品も多少つけてる。
霞がニヤニヤしながら見てくるのが、正直鬱陶しいというか小っ恥ずかしいというか……
いや、確かに元いた世界でも、よく言われはしたぞ?
「お前、女物の服とか似合いそうだな」ってな?
でもまさか、本気で着せられるとは思わなかった……
「ほれほれ、早よ行くで?服代はウチが持ったるさかい!」
「無理やり着せられた挙句、代金まで払えとか言われてたまるか!」
やや顔を赤くしてる俺に対して、霞も店員も、微笑ましそうに眺めてくる。
……え、何?
マジでそんなに似合っちゃってる訳?
底辺を彷徨ってるテンションのまま、俺は店を後にした。
当然、霞はめちゃくちゃご機嫌だ。
……ちくしょう、まだあの店員にこやかだよ……
「って言うか霞、わざわざこんな格好させるために、恋との鍛錬打ち切らせたのか?」
「決まってるやん!だってナオキ、他にあんまし服とか持ってへんかったやろ?」
「いやまぁ、確かにそうだけど……」
だからってこの選択肢はどうだ?
これで律とかに会ってみろ?
抱腹絶倒されるのが目に見える。
「う〜ん……ンフフ」
「気持ち悪い笑い方すんなよ」
「せやかて、やっぱこう、綺麗な子を侍らすのって気分ええやん?」
「それは男である俺が言うべきであって、断じて女性のあなたが言うことではありませんよ?」
にゃははは……って、大きな声で笑い飛ばされた。
って言うか、その猫耳としっぽはどっから出した?
「ほな、早速行こか?」
「目的地はどこなんだよ?」
「ん?そんなん決まってへんで?適当にぶらぶらして、腹が減ったらなんか食べたらええねん!」
……俺がちゃんと男物の服とか着てれば、れっきとしたデートに見えるんだよな、これ?
でも、霞がどこかで飲み食いするって言ったら……
「ん!」
「ん!……ってなんだよ?」
「せやから……ん!」
俺の方の手を腰に当ててる?
霞は目で、その手をやたらと訴えてくるけど──
……分かった……てめぇ……
「誰がするか!」
「え〜、何でぇ?」
「性別が逆だろうが!何で俺の方が、霞の腕にしがみついて歩かにゃならん!?」
「だってぇ……今のナオキ、どっからどう見ても、ウチより可愛いし……そう言う可愛い子に腕組んでもらうんて、気分ええやん?」
そんなね、指先合わせてもじもじされてもよ?
そう言うのは確かに可愛い女の子とかにされたら嬉しいよ?
でも、よぉっく考えてみようか?
女の格好してるとは言え、俺は股にナニの付いた男だぞ?
「霞がしてよ……」
「ほぇ?」
「だーかーらー……俺がするより、霞がする方がよっぽど自然──」
──ん?
俺、今何を口走った?
「え、ええのん?」
「え、あ、いや、悪くは無いというか……」
「ンフフ……」
また猫耳としっぽ生やして……
でもちょっと、顔が赤いな。
照れてる……訳ないか、霞だもんな。
「むぎゅ〜っ!」
「ちょっ!?霞、当たって──」
「何が?」
ハッキリ言いましょうか?
その豊満な御胸ですよ!
「でも、ウチ、おかしいと思われへんやろか?」
「何でだよ?」
「だって、ナオキは男とは言え、今はどっから見ても女の子やで?女の子に嬉しそうに抱きつくウチって、そんな性癖あるように見られるんやろか?」
「何を今さらな心配してんだよ……」
複雑そうな表情しちゃって……
んー、霞には似合わないなぁ、そんな表情。
「とりあえず行くか。なんかデートみたいだけど」
「でぇと?」
あ、そうか。
この世界、って言うか時代にそんな言葉ねぇよな。
「でぇと、って何?」
「簡単に言うとねぇ……恋人同士で楽しく遊び歩きすること、かな?」
「でぇと……恋人、か……にゅふふ」
さっきよりも不気味になってるぞ、笑い方。
でもまぁ、何だかんだ楽しそうだし、いっか……
「でぇと、でぇと♪ナオキとでぇと♪」
「そんなに嬉しいか?俺とデートなんて……?」
「だってウチ、今まで男と遊ぶなんて、経験ないもん」
「へぇー、ちょっと意外」
「それ、どういう意味?」
「……聞き流してくれる?」
「むぅ〜……今回だけやで?」
ほっぺた膨らませつつも、足取りは随分と嬉しそうだな。
さて、どこに行こうかな。
この分だと、どこに行っても楽しそうだけどな。
●
「──……で?」
「あ〜……たまらんわぁ」
結局、酒に行きつくんかい!
「ほらぁ、ナオキも呑みぃな」
「やかましい、この酔っ払い!」
「え〜……つれへんなぁ……」
今日はこの酒屋、新作の試飲会らしい。
遅めの昼食を二人で食べてたら、霞の後ろの席のおばさん達が、そんな会話をしてた。
……余計なこと言ってくれちゃって、まったく……
「お嬢さんも一口いかがです?」
「遠慮させてもらいます。それと、こんな格好してますけど、れっきとした“男”ですので、お間違いなく」
「……え゛、男の方……?」
店主のおばさん、目ん玉見開きすぎだって……
よく見りゃ分かると思うんだけどなぁ。
「くはぁ……!おばちゃん、今回の奴、めっちゃ美味いで!」
「張遼将軍にそう言っていただけると光栄ですよ。またお城の方にお届けしておけば宜しいですか?」
「ほんまに?いつも勘忍な……じゃあ、これは一升ほど買って行くわ」
「有難うございます」
俺そっちのけで、霞は気に入った新作の酒を購入した。
城に届ける量を聞かれて、「10個」とか言ってたけど、まさか樽じゃねぇだろうな?
それと別に、徳利に入れて持ち帰る分もあるって……
霞、お前どんだけ呑む気なんだ?
「また来るしな〜」
「お気をつけて」
「お邪魔しました」
店主に一礼して、店を後にした。
お気に入りが買えたみたいで、霞は随分ご機嫌だ。
「せや!月とかに土産を買わな!」
「お土産?董卓さん達に?」
「……菓子折りでも買って帰らんと、詠に何か言われそうやし……」
目が泳いでるぞ?
……霞、ひょっとして──
「──サボりか」
「う゛っ……!」
「図星かよ!」
「せ、せやかて、偶にはウチも、ナオキと遊びたかったし……」
そんな上目遣いしてもダメなものはダメ!
まったく……歩いてる最中、度々城の方に目を向けていたかと思っていたけど、そう言うことか。
「さっさと帰った方が、絶対いいと思うけど?」
「けど、まだもうちょっと──」
「……………」
「……む、無言で見つめんのは反則やって……」
大きく溜息を吐いて、霞は城の方へと足を向けた。
え、俺はサボりじゃないのかって?
……あのよぉ、恋の個人レッスンなんて、日課に入ってると思うか?
お互いに都合のいい日とかに、休みを潰してもらってるんだよ。
まぁ、俺も潰すことになるけど、ほんのちょっとでも足手纏いにならないようにはなりたいしな?
そう言えば、城で声をかけられた時から、ずっと気になってたことがあったんだっけ?
……って霞、もういねぇよ。
意外と諦めんの早いんだな……
「ま、今日は付き合ってもらったし、酒でも買ってってやるか──」
「おや、もしや直詭殿か?」
……聞き覚えのある声だな。
声のした方に目を向ければ、以前と変わらない様で、子龍がいた。
「や、久しぶり」
「これは驚きましたな。よもや、直詭殿に女装の趣向があったとは……」
「……ハァ、もう何でもいいよ。それより、今日はどうした──まさか、子龍もか?」
「何がです?」
無言で酒屋の方を指さす。
それを見て……やっぱりだよ、子龍の奴、満面の笑みだ。
「いやいや、勘違いなされるな?誰も酒樽で購入するなどとは──」
「言ってねぇし、思いたくもねぇよ!」
何なんだよ、この世界!?
何で、樽で買うことが常だと思わにゃならんのだ!?
「……何を煩悶しているのやら……」
「分からなくて良いよ。説明したくもないし……」
「ふむ、では聞かぬ事に致すとしよう。それで、直詭殿も試飲の方を?」
「いや、連れに付き合っただけ──あ、そうだ。子龍って酒を選ぶのに自信とかある?」
俺のその質問に、子龍はまず目を見開いた。
そして次に、不敵な笑みで俺の表情を伺ってきた。
「この趙子龍に、酒の善し悪しを尋ねるとは……軽く見られたものですな」
「……何か俺、マズイ発言でもした?」
「では、この際なので、直詭殿にも確かめていただこうか?私の舌が、いかほどまでに優れているのかと言うことを!」
あー、これはあれだ。
地雷を踏んだってやつ……かな?
いや、ちょっと違うか……
とりあえず、余計なことを余計な奴に聞いた俺が悪いんだな。
「フフフ……悦に至るまで、帰しませんぞ?」
「……なぁ子龍、お前もうどっかで呑んで来たとか?」
「はて?どうでしょうな……フフフ」
……城に頭痛薬とか二日酔いの薬とかあったっけかな……?
●
うぅ……頭痛ぇ……
子龍の奴、どんだけ呑ませるんだよ、まったく……
量で言うと、中ジョッキで軽く20はいったな、多分。
「しかもちゃっかり、奢られて行くし……ハァ」
ま、子龍なりに気を遣ってくれたようだけどな。
試飲させてもらった分の酒代は全部、子龍が持ってくれたし。
俺が奢ったのは、その中でいちばん子龍が気に入ったのを、徳利三つ分だけだし……
でも実質、今日の出費は痛い気もしないではないんだよなぁ……
何だかんだで最近、個人的な出費が増えてるし……
……原因はまぁ、今、城で説教喰らってるだろうな。
「とりあえず、さっさと帰ろ──」
「お?どした、姉ちゃん?」
姉ちゃん?
辺りを見渡しても、別に女性なんていない──
……あぁ、俺のことか……
「何か用?って言うか、俺は男なんだけど?」
「まったまたぁ!どっからどう見たって、女じゃねぇかよ!酔ってるみてぇだけど、俺らともう一軒付き合わねぇ?」
「そうそう!よかったら、全然家にでも泊めてやるよ?」
下心丸出しだな、この二人。
ま、俺よりも少しだけ年上っぽい、男が二人だけ。
恋に武術の訓練とか受けてるし、いなすのは問題じゃないとは思う。
でも、今は仮にも酒が入ってる。
足も少しふらついてる感が否めないし……
下手に手を出して、怪我してもつまらないしなぁ……
「ほらほら!行こうよ、お嬢ちゃん!」
「だ・か・ら!俺は男だと何度も──」
「しつこいな、あんたも!いいから俺らに付き合えっての!」
……逆ギレかよ。
そうなると面倒だな。
怪我するの覚悟で、失神でもさせてやるか?
「何だよその目?来いって言ってんだよ!」
「痛っ……!お前らなぁ……」
「何してんねや、あんたら!」
不意打ちで腕を掴まれたところで、聞きなれた声が割り込んできた。
……この声、本当にそうか?
「何だい、あんたは?」
「ほぉ、ウチのこと知らんの?なら、体に直接覚えさせたろか!?」
……ちょ、ちょっと、霞!
今、本気で威圧しなかったか?
俺まで身震いしたっていうか、こいつら本気で震えてるじゃねぇか!
「ひ、ひぃぃっ!何だよこの女、バケモンか?!」
「に、逃げんぞ!」
完全に霞に気圧された二人は、物凄い勢いで逃げて行った。
……俺はただただ損した気分なんだけど?
「それで?何で、霞はここに?」
「だって、ナオキが帰って来んの遅いし、迎えに来たんや」
「あぁ、そう言うわけ……ま、素直にありがとうって言っておくよ」
俺がお礼を言うと、随分嬉しそうに笑った。
……そうだ、聞きたいことがあったんだっけ?
「それはそうと霞?一つ質問してもいい?」
「何や?急に改まって?」
「……別に改まったつもりはないんだけど……いや、俺の名前の呼び方なんだけど、前と違わないか?」
俺の問いかけに、霞はどこか苦笑いしてる様子。
「い、いやな?自分で言うて思たんやけど、やっぱ呼びにくいかなぁ、って思ってん」
「……………は?」
「せ、せやから!悪いとは思たけど、やっぱ呼びやすい方がいいやろ?」
……ちょっと大きめの溜息が出た。
その後間をおいて、笑いが込み上げてきた。
「な、何やの?!急に笑い出して……?」
「いや、霞らしいなって思っただけ。じゃ、帰ろうか」
「……何やウチ、損した気分やわ」
「そんなこと言うなって。ほら、霞にお土産」
「お土産!?」
でたな?
その猫耳としっぽ……
かなり似合ってるのが、笑えるって言うか何と言うか……
でもまぁ、今日は色々おもしろかったか。
良い意味でも、悪い意味でも。
こんな日常が、少しでも長く続けばいいんだけど……
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m