洛陽に取って返して、待ち侘びていた様子の律に案内され、董卓さんの部屋へと急ぐ。
扉の前には、侍女が三人立っていて、俺たちを見て一礼してから身を退けた。
「……………ふぅ、賈駆?」
一度、大きく深呼吸してから、中へと声をかける。
一拍置いてから、その扉がゆっくりと開いて、中から賈駆と霞が出てきた。
「董卓さんの容態は?」
「今は医者が診ててくれてるし、命にも別状は無いって……」
その一言を聞いて、一安心だ。
賈駆は真っ青だけど、それは仕方ないことだし、何も言わないでおくか。
「帰ってきて早々悪いけど、全員広間に集まってくれる?」
どことなく生気を感じない声。
俺を始めとして、その場の全員が互いに顔を見合わせる。
各々、小さく頷いては、賈駆の表情を窺うようにして広間へと向かっていく。
「直詭……」
「ん、恋も先に行っておいてくれる?」
賈駆はもちろんだけど、董卓さんの容態も気になる。
他の面々の前では言えないようなことも、ひょっとしたら聴けるかもしれないし……
「……あんたは行かないの?」
「俺は……声にも表情にも生気を感じない、本当に心配するべき人間がどっちなのか分からない状態で、その場を立ち去れるほど冷酷じゃないつもりだけど?」
大きく賈駆がため息を吐く。
軽く目を瞑り、俺をもう一度見てきたときには、いつもらしい表情に戻っていた。
「素直にお礼を言っておくわ」
「明日は雨だな」
「う、うるさいわねっ!」
どことなく、賈駆が赤面しているようにも見えたけど、多分見間違いだろう。
「どっちにしろ、説明は後でするわ。だからあんたも、もう行っていいわよ」
「面会とかは?」
「……まぁ、特別にいいわよ」
賈駆に先導されて、部屋の中に入る。
医者……って言っても、俺と同い年くらいの赤い髪の男──
「医者だ」って言われないと、分からない自信があるなぁ……
「董卓さんの容態は?」
「ん?あぁ、摂取した毒物の量が極微量だったのが幸いだったな。命に別状も無いし、これといった後遺症も残らないだろう」
信用していいかは分からないけど、ちょっとは安心。
董卓さんの顔を見ても、血色は良さげだし、大丈夫とみてもいいかな……
「できれば、数日は安静にしておきたい。面会はよっぽどのことが無い限り謝絶としてもいいか?」
「その位当然よ。さ、分かったら白石?」
「了解。んじゃ、あとはよろしく」
本当はもっといろいろと聞きたい事はあった。
でも、なんとなくの感覚でしかないことだったし、それを言葉にするのには少し時間がかかる。
それよりも何よりも、董卓さんが毒を飲まされた経緯が知りたい。
だからからか、俺も賈駆も、足取りは普段の倍ほど早くなっていた。
●
大広間──
大きな机を囲んで、俺たちは賈駆に注目していた。
厳密に言えば、注目してるのは俺と恋と音々音の三人。
霞と律は事情を知ってるわけだし、仕方ないとは言え、どこかそわそわしてる。
「じゃあ、簡単に説明するから良く聴いてちょうだい」
賈駆の声が広間に響く。
俺たち全員、張りつめた空気に息をのんだ。
「私たちは、何進の配下として、十常侍との会席に同席したわ。霞と律は会席の行われた部屋には入れなかったけれどね……そしてそこで、何気なくお茶がふるまわれたの」
「と、特に不審な点は……──」
「音々音、今は静かに聞こう」
音々音の言いたい事はよく分かる。
でも、今は黙って聞く時間……
言葉を急かしても、誰も結局は得をしないんだ。
「……続けるわよ?お茶を注いだのは、十常侍に仕える女官。でも、全員分のお茶は、同じ入れ物から注がれたわ。でも、それを口にした何進と月は──」
そこで、思わず賈駆の口が止まる。
その時の光景を思い出して、何もできなかった自分に腹が立っているのか……
噛み締めた口元から、うっすら赤い筋が見えた。
「特に、何進は凄惨だったわ。喉が渇いていたからか知らないけど、お茶がふるまわれてすぐにそれを一息に飲み干したの。飲みきったかと思うと、見て明らかに致死量を超える血を吐いて倒れたわ」
「董卓さんの方は?」
「月は、さっきの医者──華佗って言うらしいわ──も言ってたけど、口に含んだ量が微量だったから、目を回して倒れた程度ですんだわ」
そこで話は終わった。
聴いている間、霞も律も、その場に居合わせなかったことに苛立っているのが見て取れた。
「……つまり、何進は……?」
「死んだわ。遺体を持ち帰る余裕も無かったから、今頃十常侍の連中が首でも晒してるんじゃないかしら?」
さすがに気分は悪くなった。
仮にも、見知った人間が殺されて、そのうえ首を晒されてるなんて──
想像するだけで、吐き気さえ感じるほどだった。
「それで詠、これからどうするんや?」
「……それを聞く?」
怒りがこみ上げているのが良く分かる。
特に賈駆は、自分の真横でそんなことをされたんだ。
握りしめてる手が、わなわな震えていた。
「当然、十常侍に対して宣戦布告するわよ!あいつらは月を……あんな目に遭わせたんだから!!」
「お、落ち着けって賈駆……」
「これでもボクは冷静よ!」
怒鳴ってるやつが冷静なわけあるか……
怒る気持ちは十分わかるけど、そんなんじゃ何も解決しないって……
「宣戦布告するにしても、勝算はあるのか?」
「勝算、だと?白石、我々が勝てないとでもいうつもりか?!」
「この際はっきり言う。勝算は、無い」
全員の視線が、俺にくぎ付けになった。
でも、俺は言葉を止める気は無い。
「武力だけならこちらが圧倒的に有利だろうね。でも、油断していたとはいえ、知略の面では賈駆をも出し抜いてる。そんな相手に真正面からぶつかって行って、勝てる見込みなんか無い!」
気がつけば、俺まで声がでかくなってた。
ばつが悪くなって、思わず咳払い……
「相手の情報が、今のところあまりにも少ないだろ?どうやって勝つつもり?」
「……それも、そうね」
すぐさま納得してくれたのは、意外にも賈駆だった。
正直、この場で一番納得してほしい人間だったから、俺としては嬉しい限りだ。
「だからと言って、白石に何かいい案があるわけじゃないんでしょ?」
「これだけ言っておいて恥ずかしいんだけどね」
「でも、内情を探るのには大賛成よ?そういうことなら、ボクに一つ妙案があるわ」
……ん?
なんでだろうか、ものっすごく嫌な予感がするんだけど……
気のせいであって欲しいんだけど、賈駆がものすごくいい笑顔で俺の方見てるし──
●
……十常侍の屋敷の前……
何でおれはここに立ってるんだ?
恋とか霞とかが一緒なら、まだ少しは安心できる。
この際、緊張しまくっててもいいから音々音でも嬉しいくらいだ。
なのに、現状この場にいるのは俺一人だけ……
「いやいや、私もいますってー」
「ならせめて、目に見える場所にいてほしいんだけど?」
「それはー、ほらー、賈駆様の命令ですからー」
そう、つまりは賈駆の指示。
あのメンバーの中で、顔が割れていない人間と言えば、俺と音々音のどっちかになる。
恋は結構前から戦で有名になってるからなぁ……
だから、内情を探るスパイとして抜擢されたわけだ。
……今すぐ帰りてぇ……
「み、御遣い様ー?なんだかー、すっごく帰りたそーですよー?」
「大正解。帰っていい?」
「だめですねー、賈駆様に怒られますんで、私がー」
今のテンションだと、羅々の発言でさえもイライラする。
ちなみにだけど、羅々は今、物陰に身を隠してる状態。
スパイとして暗躍する俺の御に何かあった場合、最悪情報だけでも持ち帰るため……って賈駆は言った。
でも、内心どこか俺のことを心配してくれてたみたいだ。
『一応、補佐くらいはつけてあげるわ?べ、別に、あんたが心配だとか、そういうのじゃないから、勘違いはしないでよね?!』
テンプレごちそうさまです。
でもそこにキュンとこない俺ってどうなんだろう……
「ですけどー……やっぱりー、似合いますねー」
「……それをもう一度言ったら、俺はマジで帰るぞ?」
「えーーーー!!!なんでですかーーー!!?」
似合う……らしいんだ、今の恰好……
いろいろ準備とか整えてはいたんだが、どうやって潜入捜査するかまでは考えてなかった。
……我ながら抜けてるなぁ、って実感したよさすがに……
んで、賈駆とか霞とかに相談したところ、武官や文官として潜入するのはリスクが高いらしい。
仕事が出来過ぎても出来なさ過ぎても怪しまれるっていうのが、賈駆の意見。
どっちにしても目につくし、スパイの意味がなくなる。
『じゃあどんな格好、もしくは身分で潜入するのがいいんだ?』
『まぁ、雑用係とかがええやろな。何進が死んだ今、十常侍の奴らが権力に幅利かせるようになるやろし、そういう権力に縋りたい連中が政略結婚とかも含めて、仕えさせることは多くなるやろ』
『そういうこと。だから白石、あんたもそういう位置の低い立場として潜入してもらうわ』
『それは別にいいんだけど……』
『んじゃナオキ、うちと一緒に買いに行こか』
『……買う?何を──』
……んで、買った服って言うのが今着てる──
「(何故この時代にあるんだメイド服ーーー!!!?)」
「いやいやいやー、ほんと冗談抜きでー、すっごくかわいーんですってー」
「帰る、帰ります、帰らせてください、帰らせろ、帰せ……」
「お、落ち着いてくださいってー……最後なんかおかしい気がしなくもないですしー」
しっかし、なんでメイド服なんか着なきゃならんのだ?
気のせいかスカートの丈がちょっと短いような……
……見たいとか思った奴は病院行こうな?
しかもカツラまでご丁寧に用意して……
だからって、赤のロングヘアはどうなんだか……?
「……はぁ、何事も無いことを願いつつも、そんな願いがかなわないってわかってるって、残酷だなぁ……」
後書き
どうも、ガチャピンαです。
パチンコが楽しいです。
スロットが楽しいです。
でも勝てません、誰か助けてwww
まぁ、これからどうなるかは作者も知らん(オイ
一応展開をどうするかは決めてますが、ちょこちょこ改変するかもしれないですし・・・
とりあえず、ラスト間際でこの物語を描きたかった理由も明らかになるとは思います。
ってか、直詭君、マジでどこに行こう・・・(オイ
蜀でも魏でも呉でも、作者的にはどんと来いだし・・・
早いうちに決めないととは思っても、なんか上手く決まらなくて・・・
出来る限りは頑張ってみます。
皆々様にはご迷惑かけますが、何卒生温かい目で見守っておいてください。
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