時間が止まったような感覚ってのは、実際に味わってみると本気で心地が悪い。
確かに、その瞬間は頭が真っ白になってたり、逆に思考回路がパンク寸前になってから、他のことを考えてる余裕なんてない。
でも、後々考えてみると、自分と自分の意識の中にいる人間以外、完全な別世界での動きにしか見えない。
そうだな……360度フルスクリーンの部屋で、モノクロの映像が音声なしで流れてる感じだな。
「お、おい?直詭、大丈夫か?」
「え、ぁ……あぁ、なんとか──」
声をかけてくる、かつての友人。
そう、俺がこの世界に来るその前日まで、ほぼ毎日のように聞いていた声の主……
「本当に、北郷一刀……なんだな?」
「あぁ……」
フランチェスカで、それこそ毎日のように、一緒に勉学に励んで、一緒にくだらない話をして……
それが、わけのわからないハプニングで異世界に来て、何日となく過ごして……
ようやく慣れてきたときの、邂逅だった。
混乱しないわけ、戸惑わないわけがない……
それは、一刀の方も同様で──
「ちょっと、一刀!知り合いなら、まずは私に紹介するのが筋でしょ?!」
「あ、あぁ……ごめん、華琳。こっちは、元いた世界の友人で、白石直詭……直詭、こっちは──」
「曹操……曹孟徳、ですよね?」
「あら?私、名乗ったかしら?」
「何を冗談を──あなただけ、入ってきたときに他の面々が頭を下げたんだ。分からないわけないでしょ?」
動揺してる心を無理やり押さえつけて、平静を装う。
そんな俺の心中を見透かしてか、もしくは別の理由でか……
曹操は不敵に微笑んで返してきた。
「へぇー?“天の御遣い”って言うのは、総じて頭の回転が速いものなの?」
「ちょっと注視すれば、誰だって分かるようなことです。褒められること自体、おかしいですよ?」
「ふふふ……面白い子ね」
……………子?
いや、失礼な話だけど、あんたよりは背が高いし、現状見下ろしてるのは俺だぞ?
そんな人に、「子」扱いされるのはちょとなぁ……
「あら?何か気に入らないことでもあった?」
「いや、別に」
何でもない風を装う。
一瞬、曹操も怪訝そうな視線を向けたけど、勝手に何か納得したらしい。
小さく何度か頷いて、それ以上突っ込んでこなかった。
「それで……あなた?」
「なんでしょ?」
「……私の元に来る気はない?」
「「「「「華琳様?!!」」」」」
突然の曹操の申し出に、俺は唖然となっていた。
頭が真っ白になった俺をたたき起すかのように、周りの諸武将が一斉に声を大にする。
「か、華琳様?!何を急に──」
「桂花……落ち着きなさい」
「ですが!」
やけに喰いかかるなぁ、この猫耳フードの子。
他の武将に比べて、かなり俺のこと敵視してるみたいだけど……?
「一刀、彼女は?」
「あぁ……荀ケって言って──無類の男嫌いだ」
「ちょっと北郷!私を貶めてどうするつもり?!」
荀ケ──あぁ、あの曹操の軍師の一人の……
……にしても、こんな性格になってるのか。
どこかの好色家とは真逆だわ。
「と、とにかく!これ以上、訳の分からない男を傘下に加えることには反対です!」
「訳が分からないことは無いわ?少なくとも、一刀と同郷且つ旧知の人間よ」
「で、ですが……!」
なんで、ここまで嫌がるかねぇ?
男嫌いにも限度ってものがあるとは思うんだけど……
ま、何にしたって、俺の答えは決まってるけどな?
言うタイミングを逃してただけで、他意は全くない。
「あの、ちょっといいですか?」
「あら?もう答えが決まったの?」
「えぇ、まぁ……良い話ではあると思うんですけど、断らせてもらいます」
荀ケとのやり取りを挟んだとはいえ、即答に近い。
当然、曹操は首を傾げていた。
「私の誘いを断るの?風の噂とは言え、何進はそんなに出来の良い人間ではないとは思うけれど……?」
「当たらずとも遠からず、ですね。でも、理由は全く別のところですよ」
玉座の方に目を移す。
準備が整って、タイミングを見計らってる恋と音々音の姿が、そこにはある。
二人の姿を見て、無意識ながらに表情が綻んでしまった。
「一刀も同じだったでしょうけど、俺はこの世界に身寄りなんて無い。そんな世界で拾ってくれた友人を、裏切るなんて真似は出来ないんですよ」
「……別に、その友人も一緒がいいというなら──」
「あなたならどうです?仮に、俺や一刀と同じ境遇に立って、命を拾ってもらった人間がいたら……どれだけ他に優秀な人間がいたとしても、その恩人を見限ることが出来ますか?」
「……………」
俺の言葉に、曹操は黙り込んだ。
まぁ、何を考えてるかは大体想像がつく。
「やっぱり……あなた、面白いわね」
「そりゃどうも」
「ま、いいわ。気が変わったら、声をかけなさいな。考えてあげなくもないわ」
「光栄ですね、感謝しますよ」
「ふふっ……それより、一刀と少し話したいんじゃないの?名代の話を聞く間、広間の外で話してきたらどう?」
不意に話題を変えて、曹操が提案してきた。
俺にとっては、この上なく嬉しいものだけど……
「いいんですか?」
「いいわよ、そのくらい。一刀、あなたも行ってらっしゃいな」
「そうか?ありがとう、華琳」
一刀が曹操に会釈したのを見て、二人で広間の外に出る。
出る直前に、音々音に分かるように合図を出しておく。
いい加減に始めないと、後から文句言われそうだったしな……主に、曹操に──
……さて、と──
許可をもらって外に出たは良いけど、何を話せと?
一刀も同じように考え込んでるし……
「もう一回確認するけど、本当に直詭なんだよな?」
「そこから?もうちょっと話題を考えようとか思わないのか、お前は……?」
振ってきた話題に愚痴をこぼす。
一拍置いてから……お互い吹き出した。
「まさか、こんな訳の分からない世界で、見知った人間に出会えるとは思わなかったよ」
「お互い様だな。面倒だし時間も無いから、これまでの経緯は省くとして──」
思わずそこで、俺は言葉を止めた。
続けようと思っている言葉が、互いにとってどれだけ残酷なことなのか……
その度合いを、言う直前に気付くことが出来たからだ。
「……………?直詭、どうかしたのか?」
「なぁ、一刀……お前、確か三国志は読んだことがあるんだったよな?」
「あぁ。それがどうかした──」
「なら……近い将来、戦うことになるから……それまでに死ぬなよ?」
一刀の目が見開かれる。
顔面蒼白になって俺をじっと見つめている。
こんな顔を見ることになるなんて、考えたことも無かった……
「ど、どういう意味だよ、それ?!」
「そのまんまの意味だ。俺が今仕えている相手……それは、三国志の中でも“悪人”の代表格として取り上げられてる人物だからな」
「そんな奴、俺は知ら──」
そこで、ハッとしたように、一刀は言葉を止めた。
……いや、言葉を見失ったって言った方が正しいかもしれない。
ちょっと難しい論理の組み立てだけど、三国志の知識があれば分からなくもないだろうしな……
1つ─俺は、何進の名代の副官としてここに来た
2つ─俺が仕えているのは、三国志の中で“悪人”に分類されがちの人物
3つ─俺と一刀は、近い将来戦うことになる
これが、今までの会話の内容から分かること──
項目の主観とかを変えてみると、俺が仕えている人物の姿が見えてこないことも無い。
1つ─俺はもちろん、仕えている人物も、現在は何進の配下にあたる
2つ─……この項目は別に変えなくてもいいかな?
3つ─今の時系列から考えて、一刀のいる陣営が今後関わる大きな戦の敵対人物と言えば……?
「そんな……嘘、だろ?」
「最近思い知ったことなんだが……“運命”っていうものが仮にあるとしたら、それは決して優しいものなんかじゃない」
「だからって……──」
「あ、一応言っておくけど、この世界の──」
俺の言葉を遮るように、広間の扉が少し開いた。
そこから、ばつの悪そうな顔で俺たちの顔色を窺う女の子が一人。
白い(銀色に近いかな?)髪と、顔や首元にある傷跡が特徴的な子だ。
「あの、隊長……華琳様がお呼びです」
「華琳が?」
「はい。名代の話が終わったので、戻ってくるようにと……」
そこで、その女の子が俺の方を見てきた。
「話の腰を折ってしまって申し訳ない」って顔に書いてあるな……
……それはそうと──
「一刀……隊長って、どういうことだ?」
「あ、あぁ。今、警邏隊の一団を任されてるんだよ」
一刀が、女の子の方に視線を移す。
俺も倣って視線を移すと、小さく頭を下げてきた。
それなりに礼儀正しい子みたいだな。
……誰かに見せてやりたいと考えたときに、霞の姿が頭を過ったのは内緒な?
「……ま、区切りも良かったし、今日はこの辺でお別れだな」
「直詭……」
「安心しろ、なんて無責任なことは言わないが……お互い、死なないように頑張ろうな」
笑みを向けたつもりだった。
でも、それは自分でも十二分に分かるほど、自嘲の色が濃いものだった。
一刀を部屋の中に送り、俺は別の扉から恋と音々音を迎えに行った。
予想通りというか、音々音はまだ緊張が解けていないようで、俺が話しかけてもギクシャクしてた。
恋はと言うと──
「直詭、お腹空いた……」
●
大通りにあった飯処で、かなり遅めの昼飯を食べていた。
曹操の城から、歩いて大体30分くらいかかったかな?
まぁ、人通りが多くてなかなか前に進めなかっただけだから、実際は半分くらいの時間で着けるんだろうけど……
「はむ、はむ……」
相も変わらず、ものすごいペースで喰うな、恋。
何かあった時のために、多めに金を持ってきておいて正解だったな。
「ふぅ……緊張したであります」
「うん、お疲れ様」
「ねね、頑張った」
恋が空いている方の手で、音々音の頭を撫でる。
撫でながら、俺の方を見て、何かを促してきた。
「ん?恋、どうかしたか?」
「直詭も」
「俺も……って?」
「直詭も、ねねの頭……撫でる」
突然の恋の提案に、音々音が飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。
周囲を考慮して、何とか壁の方を向いてくれたから、誰も被害は無かった。
「な、ななな、何を……!!」
「ま、それはともかくとして……二人とも、まだ食べる?」
「……………(コクッ)」
「え?!……ぁ、はい、なのであります……」
何でちょっと残念そうなんだよ、音々音……
撫でてほしいなら、最初っから動揺するなって。
あ、一応言っておくと、持ち金の心配はするなよ?
値段がリーズナブルな店を選んだから、多めに食べても問題は無い。
……………まぁ、恋が「ちょっと本気出す」とか言わない限り、だけどな?
「はむ……はむ」
「んぐ、もぐもぐ……」
しかし……あれだ。
二人が何か食べてるところって、本気で小動物系統の何かに見えるから困る。
ちなみに、恋と音々音が並んで座って、机を挟んで俺が向かい合わせって感じだな、配置としては。
んで、この机が今、恋が食べ終えた皿の山に占領されそうになってる。
そろそろ向こう側が見えなくなりそうで、ちょっと寂しい……
「(この皿の山のおかげで、音々音に手が届かないとは言えないしなぁ……)」
「……………?直詭、食べない?」
「ん、いや……ちゃんと食べるよ?」
さっき頼んだ麻婆豆腐を口に運ぶ。
……んー、もうちょっと辛くてもいいとは思うんだけど、失敗したくもないしな。
四川料理とかって、後から辛いのが来るってよく言うし……
「白石殿、辛い方が好みなのでありますか?」
「ま、どっちかと言えば、ね?でも、今はこれで十分──」
「なら、こっちにトウガラシがあるので──……あ」
「「あ」」
トウガラシの粉末が入った小瓶を渡してくれようとしたのは良いんだが……
どっかの下手なマンガみたいに、見事にひっくり返して、中身が全部俺の麻婆豆腐に──
「あ、これは、その……──」
「……………」
「直詭、食べれる、それ?」
「ちょっと自信が無いから……──」
言葉の続きを言う前に、音々音の顎に左手を添える。
驚きのあまりに、音々音の口はあんぐりと開いてるから、そこにさっきの麻婆豆腐を突っ込む。
「!!!???」
「責任とって、毒見してくれるよね、音々音?」
「……………!!!!み……みじゅ……!!」
音々音に悪気がないのは分かってるから、これ以上の意地悪はしない。
すぐに水をコップに注いで、音々音に手渡す。
……でも、辛い物食べたすぐ後に水飲むと、余計に──
「は──ぁう!?ヒ……ハ……!!」
「ねね、大丈夫?」
「……………!(ブンブン)」
そりゃ、大丈夫じゃないだろうな。
しっかし、思いっきり首を横に振って……首が痛くなるぞ、後で。
「そこまで辛かったか……音々音の過失だったけど、ちょっとやりすぎたな。悪かったよ」
「……………(フルフル)」
口元を押さえながら、首を横に振った。
恋が心配そうに見てるけど、本気で大丈夫だよな?
「……も、元々は、ねねが悪いのであります。なので、これで恨みっこなし、であります」
「それでいいの?」
「だ、大丈夫であります」
まだ顔が真っ赤だぞ?
……って、言いたかった分があったけど、これ以上は止めておこう。
無駄に引きずって、この関係がこじれるなんて嫌だしな。
「じゃ、一応お互いに謝っておこう。それで終わりってことで」
「分かったであります」
漸く赤みの引いてきた顔で、にっこりと笑ってくれた。
俺と音々音のやり取りを横でずっと見ていた恋も、その音々音の表情を見て安心したらしい。
止まってた手と口が、また動き出して、料理がどんどんと消えていく。
「やりすぎて、ゴメンな」
「落として悪かったであります」
「……直詭もねねも、仲直り」
仲違してたわけでもないんだがな……
ま、締めの言葉を言ってくれたってことで、納得しておこう。
じゃ、俺も食事の続きを──
「あー、御遣い様ー!よーやく見つけましたよー!」
レンゲをもった、まさにその時だった。
この独特の間延びした口調は……
「羅々?何か急用か?」
「は、はいー!賈駆様がー、大至急戻るようにーって!」
賈駆が?
何か向こう側で問題でも起きたのか?
……何だろうか、変な胸騒ぎがする。
「……羅々、端的に答えてくれる?何があった?」
羅々の言葉を待つその瞬間が、何故かとんでもなく、時の流れが遅いように感じた。
一言一言、ビデオのスロー再生のように、羅々の口元の変化がはっきりと窺える。
その口元の動きが止まって漸く、言葉が耳に届いて、脳内で理解できた。
「董卓様がー、倒れられましたー!!」
後書き
AKBなんてさっさと消えればいいのに・・・
どうも、ガチャピンαです。
最近、パチンコに行ってないです。
打ちたい台があるかと言われれば、まぁ微妙なんですけど・・・
そろそろBASARA3が設置されると思うんですが、あんまり評価良くなさそうですし・・・
しばらく様子見が続くと思うと、気も沈みます。
そういや、一刀が魏にいますが・・・
正直なところ、蜀でも呉でもよかったんですよね(ォィ
もしも、一刀が蜀にいたなら・・・
もしも、一刀が呉にいたなら・・・
そんな事を想像しながら、このお話を読んでいただけたら、作者冥利に尽きるというものです。
・・・か、書かないからね?!
そんな技量ないから、仮に今作が無事に完結しても、書かないから期待なんぞしないでください。
(萌将伝の方は書きたいなぁ・・・とかは考えてますけどね)
では、そんなこんなで、また次話で
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