事態が完全に収束したのは、それから二日ほど経ってからだった。
残党狩りだとかで、恋や霞たちが出張ってるっていう報告は受けてた。
詠も、事後処理とかに追われてたみたいだ。

俺はと言うと、張譲を討伐して、そのまま霞に自分の部屋まで送ってもらった。
ベッドの上で、膝を抱えて丸半日は泣いてたらしい……
みんながみんな気を遣って、俺自身から部屋を出るまで訪ねてこないようにしててくれたみたいだ。


「直詭!……もう、いい?」

「ありがとうな、恋。大分落ち着いたよ」

「ニャァ」

「ん?お前も心配しててくれたのか?」


事が終ってから二日目の昼時、部屋の前で恋が待っててくれた。
だからまず、恋の頭を優しく撫でてお礼を言う。
続いて、恋が抱いてたあのシャム猫も撫でてやる。


「直詭、詠が呼んでる」

「だろうな……行くよ」


恋と一緒に、詠の元へと向かう。
んで、着いた場所は董卓さんの部屋の前?
詠が呼んでたんじゃないのか?


「白石だけど……」

「入っていいわ」


中から詠が返事をくれた。
恋は部屋の前で待っててくれるらしい……
だから、ゆっくりと扉を開けて、中へと入って行った。


「あ、董卓さん」

「ナオキさん、もう大丈夫ですか?」

「……いや、それは俺のセリフで……もう起きてもいいんで?」

「はい。ご心配おかけしました」

「いや、その……俺の方こそ心配かけたみたいで……」


まず董卓さんに、次いで詠にも目線で謝っておく。


「それで……俺に何か用でも?」

「ボクから言うわ。簡単に言うと、これから朝廷の元に行くから同伴してほしいの。恋も一緒にね」

「へ?」


随分と急な話だな……
でも、何で俺と恋の二人って言う人選なんだ?


「考えてることは分かるわ。まず白石はこの一件の一番手柄をとったから」

「あぁ、それはまぁ……なんとなく分かってた」

「で、恋は天子の御二方を救いだしたって言う功績が認められたから」

「ん、了解した」


ただまぁ、難しい話とかは御免だなぁ……
言ってしまうと、落ち着いたのは確かだけど、まだやっぱりキツイ部分もある。
そこまで融通がきけばいいんだけども……


「安心してください、ナオキさん。ナオキさんと恋さんは、ただの面通しだけで終わりますから」

「あ、そうなんですか?」

「朝廷のお偉方に、功績者の顔見せってだけ……それと、どうも天子の御二方が白石に会いたがってるとか何とか言ってたわ」

「あー……マジで?」


……そこまで慕ってくれるのは嬉しいんだけど……
ま、さほど難しい話を聞きに行くんじゃないみたいだし、あんまり気にしないようにしておくか……


「……んじゃ、準備してきます」

「えぇ、恋にも言っておいて」

「分かった」











董卓さんに同行したのは、俺・詠・恋の三人だけ……
天子を救出したってことで、董卓さんには高い地位が与えられるとか。
その辺の難しい部分は、完全に董卓さんと詠に任せた。

朝廷のお偉方は、俺や恋を見て何かボソボソ言ってた。
どんな評価してるか知らないけど、あんまり気分のいいもんじゃないな……


「白石直詭殿と御見受けしますが?」

「あ、はい。そうですけど……」


文官の一人に声をかけられた。
俺と恋は、董卓さんたちの用事が済むまで別室で待たされてる形……
その部屋に訪ねてきた文官は、俺に向かって深々と頭を下げた。
……なんか気が引けるな……


「劉弁様ならびに劉協様がお呼びにございます」

「あ、わかりました。じゃあ恋、ここで待っててくれる?」

「……………(コクッ)」


恋を一人で待たせるのは、ちょっと申し訳ないんだよなぁ……
あのシャム猫でも連れてくれば良かったか?
……いや、さすがにダメか……

取り敢えず、呼ばれた以上は行かないとな。
文官の傍まで行くと、また一礼して、それから先導してくれた。
……堅苦しいのが嫌なわけじゃないけど、こういう厳かな場所とは無縁だったからなぁ……
やっぱり気は引けるなぁ……

んで、暫く歩かされて、随分と立派な部屋の前に付いた。
扉の両横には兵士が二人。
俺を連れて来てくれた文官に指示を仰いで、扉を開けてくれた。


「では、御二方がお待ちです。中へどうぞ」

「……じゃあ、失礼します」


俺が部屋の中に入って、扉がまた閉まった。
それを合図にしてか、あの二人が飛びついてきた。


「御兄様ぁ!」

「お兄ちゃぁん!」

「うぉっ!?」


さすがにいきなり飛び付かれたもんで、その場に尻餅ついた。
ちょっと痛かったぞ?


「こんなに早く御会い出来て、嬉しい限りです!」

「お兄ちゃんだ!ほんとにお兄ちゃんだ!」


別れてからまだ二日だぞ?
……いやまぁ、悪い気はしないぞ?
むしろ、これだけ好かれて嬉しいくらいだ。


「御二方も、お元気そうでなによりです」

「……御兄様?今は他に誰も居りません。なので、敬語は止めていただけませんか?」

「私も!普通に喋ってほしい!」

「……いい、のか?」

「「うん!!」」


随分とまぁ嬉しそうに……
なんか、急に二人の妹が出来たみたいだな。


「御兄様、なんだか……御疲れの御様子ですが?」

「んー、まぁ……色々あったからね」

「お兄ちゃん、疲れてるのに無理して来たの?」

「無理はしてないよ?二人の顔見たら、疲れなんか吹っ飛んじゃった」


心配してくれてるのは素直にうれしい。
だから、優しめに頭を撫でながら笑みを向ける。
それが嬉しかったのか、劉協なんか一層強く抱きついてきた。


「御兄様、沢山御話しましょ!」

「しよ!ね、いいでしょ?」

「あぁ……帰りは俺一人でも問題ないし、いっぱい話そうか」


一旦、外の兵士を呼ぶ。
董卓さんたちへの言伝を頼むためだ。
畏まった様子で承ってくれて、すぐに伝えにいってくれた。

その兵士が返事を持って帰ってくるまで、一度外で待たせてもらう。
ま、すぐに帰って来たんだけどな?
詠から「遅くならないように」って伝言をもらって、また部屋の中へと戻る。



さ、どんな話をするのやら……
羽を伸ばすって意味で、沢山お喋りさせてもらうとしますか。











「随分と遅くなりましたね、ナオキさん」

「いやぁ、また心配かけたみたいですいません」


完全に深夜だ……
気兼ねなく喋れたってのもあるんだろうけど、あの二人がなかなか帰してくれなかった。
悪い気はしてないけど、こっちには申し訳ないよなぁ……


「ですが、天子様の為ですよね?なら、仕方ないですよ」

「病み上がりの董卓さんに心配かけるなって、さっき詠に怒られましたけどね」

「詠ちゃんらしいですね」


クスッと笑って返された。
今、董卓さんの部屋にいるんだけど……
なんだろう、こう二人きりって珍しいんだよなぁ……


「では、改めて……ナオキさん、お疲れ様でした」

「あ、ありがとうございます」


んー、やっぱりこの人の笑顔は何かあるな……
ついつい言葉が詰まってしまう。
別に歯痒いとかそんなことはないけども……


「お礼、って言うわけでもないんですけど……その……」

「何です、改まって?」

「いぇ、その……へぅ……」


だから、その困った表情やめてください!
小動物っぽいって言うか何て言うか……
取り敢えず、正視できなくなるからやめてくれ!


「あの、どうしました?」

「……やっぱり、私も真名で呼んでくれませんか?」

「……………はい?」

「……今回の一件、特にナオキさんには頑張ってもらいましたし……これからも、ご一緒してくれるわけですし」


何で赤面してるんですか!?
……多分、俺も赤面してるだろうな、こりゃ……


「え、じゃあ、まぁ……真名の方で呼ばせてもらいますね、月さん?」

「はい、今後ともよろしくお願いします、ナオキさん。あ、さん付しなくてもいいですよ?」


またニコって笑うし……
その笑顔は反則だよ、色んな意味で。


「ま、その辺は勘弁してくださいよ」

「そうですか?」

「えぇ……んじゃ、失礼しますね」

「はい、お休みなさい」


んで、一礼して部屋を出る。
取り敢えず疲れもまだ残ってるし、さっさと寝るか──


「ん?」

「ニャォ」


部屋の前で待ってたのか、お前?
こんだけ懐いてくれるんだから、名前でもつけてやるか?


「お前、何て名前で呼んで欲しい?」

「ニャァ?」


答えられるわけ無い、か……
んー……何にしようか……


「んじゃぁさ、俺の好きな花の名前でも良いか?」

「ニャォ」

「あのな、“スミレ”っていう花なんだ。どうだ?」

「ニャァ」


OKみたいだな。
また俺の頭の上に乗って、満足げに鳴いたところを見ると……
さてさて、じゃあスミレと一緒に部屋に戻りますか。


「……ん?」

「あ、直詭」


俺の部屋の少し手前で、恋が立ってた。
俺を待ってた、のか?


「ニャァォ」

「どした?」


急にスミレが下に降りた。
かと思うと、屋根に上がって姿を消した。


「何なんだ?」

「直詭、ちょっといい?」

「え?いや、別にいいけど……」


袖口をくいっと引っ張りながら、恋が尋ねてくる。
なんとなく雰囲気が珍しいな……
どう言ったらいいかわかんないけど、間違いなく普段とは違う雰囲気。


「こっち」

「お、おう」


手を引かれ、流されるがままに連れて行かれる。
……かと思ったら、俺の部屋の中に?
いつもなら、何か用事があれば部屋の中で待ってるくせに……

部屋の中に入ると同時に、恋が先にベッドに座った。
さすがに今では別々の部屋になってるけど、何がしたいんだ?


「恋?」

「直詭、こっち」


手招きされたので、俺もベッドに座る。
そしたら、恋がベッドの上で正座した。


「ごめんな?恋、何がしたいか分かんないよ」

「ここ、寝る」


自分の膝を指さして、「寝る」だぁ?
一見すれば、膝枕してくれるみたいだけど……
まさか、なぁ?


「違ってたらゴメンな?膝枕してくれるって言うのか?」

「……………(コクコク)」


……マジでか?
そういや、なんとなく恋の顔が赤い。
いや、俺も多分赤面してるだろうけど……


「えっと……いい、の?」

「……………(コクッ)」


どうやら真剣みたい、だな。
気が引けるって言うか、照れ臭いって言うか……


「じゃ、じゃぁ……重かったらゴメンな」


出来るだけゆっくりと、仰向けに寝ながら頭を恋の膝に乗せる。
あ、なんか心地いいな……


「重くないか?」

「大丈夫」


ちょっと安心、かな。
でも、何でこんなことしてくれるんだ?
思い当たる節がまるで見当たらないんだけど……


「直詭、一番頑張った」

「え?」

「頑張ったから、お疲れ様」


恋なりに労ってくれるってことか。
優しく俺の頭を撫でてくれる。
それだけ気遣ってくれるだけで、充分嬉しいよ。


「ありがと、恋」

「……………(フルフルッ)」

「ん?」


何で首を横に振る?
何か間違ったこと言ったか?
そんなつもりは無いんだけども……


「頑張ったら、ご褒美」

「え、いや、だから膝枕してくれてるんだろ?」

「……………(フルフルッ)」

「恋?」

「ご褒美、こっち」

「れ──っ?!」


俺の言葉を遮る形にはなった。
いや、声が出せない状況になった。
口を口で塞がれて……………え?


「ん……………」

「……──」


キス……だよ、な。
いや、誰が見たってそうだよ!
え、ちょっと、恋?!


「……恋、これくらいしか出来ない」

「……………」

「でも、直詭……一番頑張った」


唇が離れるとほぼ同時に、俺は跳ね起きて向き合う形で座ってた。
真っ赤になって、顔を俯けながら恋は言葉を続ける。


「だから……ごめん」

「……フフッ」

「直詭?」

「いや……もう一回言うな?恋、ありがとう」


真っ赤な顔してるのは自分でよく分かってる。
でも、ちゃんとお礼だけは言っておかないとな。


「でさ、恋。我儘言うようで悪いんだけど……」

「……………?」

「その……もう一回だけ、いい?」

「……………(コクッ)」


ちょっと驚いて、でもすぐに頷いてくれた。
今度は俺の方から……
さっきはびっくりしたから分からなかった、その感触を堪能するように……


「……………」

「……………」


長めに、互いにその感触を味わうように……
鼓動が伝わってくるのさえ分かる。
柔らかくて……暖かくて……愛おしくて……
……んで、俺の方から、またゆっくりと唇を離した。


「……………ぁ」

「……これ以上もらうと、逆にもらいすぎになっちゃうからな」

「いいの?」

「うん、おかげで疲れも吹き飛んだ」


いつも以上に、愛おしい気持ちで恋の頭を撫でる。
そしてそのまま、二人で一緒に横になる。


「久々だな、一緒に寝るの」

「うん」

「じゃあ恋……おやすみ」

「おやすみ、直詭」


名残惜しい気持ちはお互いさまだったのか……
瞼を閉じる前に、もう一回だけ短いキス。

今日ほど、安らかな気持ちで眠れるのは初めてかもな……










後書き


嫌だぁ……
こんなラブコメ書くの苦手だわぁwww
しかもめちゃくちゃなペースになってるしw

とりあえず、このお話をもってまた病院へと戻ります。
また外泊なり退院なりしたら、続きを書いて行こうかなと思ってます。
多分、2〜3話は日常編書いて、そしたらあの大きな戦いへと……

しっかし、直詭君の新たな士官先、マジでどうしよう……
入院中には決めておきたいなぁとは思ってますが……
今のままだと有力なのは蜀かな?

でも、魏にも呉にも魅力はたくさんあるんで……
ある程度、それぞれのストーリーは考えてはあるっちゃあるんですよ(汗
ま、最終的には自分で決めますが……
ご意見とかくださればそりゃとても嬉しいです(オイ

ではまぁ、また暫く間が空くことにはなりますが、今後ともよろしくお願いします。



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