「ほんと、腕だけは確かだよなあいつ」
左目の処置が終わって、たったの2日。
星羅さんに外してもらった包帯にも血は付いてない。
華佗に頼んだのは正解だったな。
「それでコレ付ければいいんですね」
「紐の長さは多少調節できるわよ♪」
とは言われたけど、別に調節しなくても問題ないな。
さすがにこの感触や感覚に慣れるには時間がかかるだろうけど……
「……似合ってます?」
「えぇ、前より男前にもなったかしら♪」
「それは、嬉しいような悲しいような……」
つまりはこのオプション無いと男っぽくないとも……
……いや、多分星羅さんは元気づけようとしてくれてるだけだ。
素直にその優しさを受け取ろう。
「歩けそう?」
「どうですかね……座ったままでも、やっぱり感覚は変わってますし……」
片方の目がなくなったってことで、相当し生活には支障をきたすだろうな。
まず、立体視が出来なくなったってのが大きいし……
それってつまり、距離感測るのが難しくなったってことだ。
このまま戦場に放り込まれたらって思うと……
「屋敷の中、ちょっと歩いてきます」
「そうね、慣らすためにも歩いたほうが良いわね♪でも無理はだめよ?」
「はーい」
……思わず甘えた口調で返事してしまった……
やべ、マジで恥ずかしい……
顔を見られないようにさっさと部屋出よう。
「直詭?」
「へ?」
部屋出てすぐに声かけられた。
恋、何でそこにいるの?
「歩いていいの?」
「安静にしておけって言われてたのは一日だけだし。それよりどうした?」
「様子見に来た」
ほんとフリーダムよねこの子……
まぁ、心配してくれた分には嬉しいからいいか。
「ちょっと歩くの付き合ってくれる?」
「……………(コクッ)」
知ってる屋敷とは言え、この目じゃ何でもないことで怪我するかもしれないしな。
恋が一緒なら何かあっても何とかしてくれるだろ。
「……………」
「……………」
……やべぇ、何かあったらとは思ったけど、会話の一つも無いとは思わなかった。
え、でも、何を話せと?
今後の身の振り方とか……恋が考えてるかな?
「……あ、そう言えば──」
「……………?」
「恋さ、星羅さんのこと好き?」
「……………(コクコク)」
ま、そりゃ当然か。
「何で?」
「……このままここに居させてもらうとさ、星羅さんにも迷惑がかかるんだよ」
「迷惑?」
「この屋敷に来るまでにも、残党狩りとかみかけただろ?その残党を匿ってるなんて知られたら──」
「星羅が、危ない……?」
「そう、だよ」
命を助けてもらった相手の命を危険に晒すなんて絶対にごめんだ。
それが、俺だけじゃなくて恋や音々音にとっても大事な人なら殊更に……
「どうするの?」
「……遅くても、明日にはここを出た方が良い」
「でも、どこに?」
「……………」
さすがに行き先をすぐには思いつかない。
一瞬、子龍の顔が頭を過ったけど、この時期の劉備軍ってちゃんとした本拠地あったっけ?
そうなると、もうちょっと本拠地が安定してるところが良いか……
また出立するにしても、星羅さんに心配かけるのは嫌だし……
「ねねに聞く?」
「……いや、直に星羅さんと相談する」
何度となく頼ることに、さすがに気は引ける。
でも、あの人の人脈を使わせてもらいたい。
何進や華佗を始めとする、色んな人間とのコネクトがあるだろうし……
「音々音にも言っておいてね、後で良いけど」
「……………(コクッ)」
とは言っても、どこに行くことになるか……
大きな勢力って言えば、袁紹・曹操・孫策ぐらいか?
あとはさっきも挙げた劉備とか、他にも馬騰とかも勢力としては大きい方か。
「(……なんか、ギャンブルしてるみたいだ)」
●
「そう言うことになると思ってたわ♪」
その日の夜、三人で星羅さんの部屋に訪ねた。
今後の動向を説明したら、まさかのこの返事……
俺と音々音は特に、呆気にとられた。
「親は子を思い、子は親を思い……ってね♪特に直詭君なら、私にこれ以上の迷惑をかけたくないって言いだすって思ってたわ♪」
「……何て言うか、さすがですね」
「それで?私の人脈を使いたいって話だったわよね?」
「えぇ……何とかなりそうですか?」
「何とかなるようにしておいたわ♪」
この人マジか……
「でも、私からの条件を飲んでくれないと、この人脈は使わせてあげない♪」
「……何をそんな意地悪に……」
ほんとに子供みたいに無邪気に笑って……
でも、この人の笑顔はなんか癒される。
安心感があるって言った方が妥当かな……?
「そ、それで星羅殿!条件とは一体……?!」
「そう慌てなくて良いのよ、ねねちゃん♪私から提示する条件はたった一つだけ──」
「……聞かせてくれます?」
「えぇ♪条件て言うのは“出立の日取りをあと三日遅らせること”だけ♪」
「「はい?」」
いやいやいや……何を言ってるんですかあなたは?!
ちょっとでも迷惑がかからないように、明日にでも出ようとしてたのに……
「それは、どういう理由で……?」
「二つ理由があってね、一つは単純に手紙の返事を待ちたいから♪」
……手紙?
あぁ、どこかに士官とか匿わせてもらうために、手紙出してくれたのか。
その返事待ってからここを出ろってことね、把握した……
「もう一つも単純に、もうちょっと一緒に過ごしたいからよ♪」
「で、ですが星羅殿──」
「どう、直詭君?この条件、飲んでくれるわよね♪」
「……はい、分かりました」
「し、白石殿?!」
確かに、星羅さんへの危険が増すとは言え、この条件はこっちにとってはありがたい。
俺もそうだけど、恋や音々音だってまだ疲れはとれてない。
尤もらしい理由はつけてきたけど、多分この人はそれを見越してのことだろう……
それに、危険に及ぶことはこの人自身承知の上だろうしな。
「それで星羅さん。誰に当てて手紙出したんですか?」
「袁術ちゃんよ?」
「「「…………………………」」」
この人何やってくれちゃってるの?!
「え、袁術と言えば、数日前までねねたちが敵対していた袁紹の──」
「それだけじゃなくて、月さんに汚名を着せた張本人の一人でもあるよ」
いや、その辺の経緯は全部説明してくれたはずだよな音々音?
だとしてもその人選はどうなんだか……
「袁術ちゃんなら問題ないわよ♪袁紹ちゃんに差を付けたいからって、出生は問わずに名将を集めてるらしいわ♪」
「対抗意識を燃やして……ということでありますか?」
「そうみたいよ?実際に、連合を組む時に、私の所にそう言った内容の文をよこしてきたくらいだし♪」
ただなぁ……俺たちは袁術はおろか袁紹も見たこと無いんだよなぁ……
おつむが弱いってことだけしか知らないし、そもそも性格とかはまるで知らない。
……ま、何進とか董卓とかも知らずに行ったと言えばそうだけど……
「直詭君たちの前の士官先とかも敢えて書いておいたわ♪」
「……それって大丈夫なんですか?」
「大丈夫♪ちゃんと生い立ちとかは気にしないようにって念は押しておいたから♪」
どうやったのか聞きたいような聞きたくないような……
「じゃ、私からのお話はこれでおしまい♪他に何かあるなら聞くわよ?」
「んー、俺は無いですね。恋は?」
「……………(フルフルッ)」
「じゃぁ音々音は?」
「そうでありますなぁ……では、個人的な内容でよければ」
「そっか。んじゃ、俺は部屋に戻るよ」
「恋も」
「えぇ、おやすみなさい♪」
●
んで、その三日後になったわけだが……
「「「「……………」」」」
「……………」
えっとさぁ、誰この子?
オレンジの髪をポニテにして、随分変わった帽子かぶってるな……
……えっと、音々音とか月さんとかと比較するとものすごく申し訳ないけど、ちょっと胸でかいかな……
「とりあえず、君の名前は?」
「名を聞くなら其方からどうぞ?」
「……えっと、俺は白石直詭ね」
「ねねは陳宮であります」
「呂布」
「「「「「…………………………」」」」」
おーい、名乗ったんだから名乗ってくれー……
てか、ここまで無表情な奴って珍しいな。
律も表情の変化は少なかったけど、ここまでってほどじゃないぞ?
「……えっと、それで君の名前は?」
「……えっと、もう一回名乗ってもらえます?」
「……………は?」
「わちき、どうも物覚えが悪くて」
……めんどくせぇぞこの子……
あの星羅さんが、あんな風に困った表情してるの初めて見た。
「じゃあさ、先に名乗って?その後でまとめて名乗るから──」
「いぁいぁ、名を聞くなら其方から──」
「面倒くせぇ!」
……落ち着け、俺。
音々音と大して変わらない身長の子に怒鳴ってどうする……
「ゴメン……えっとな、俺が白石でこっちは陳宮と呂布な?覚えたか?」
「えっとぉ……もう一回──」
「もう名乗れ!」
何十回このやりとりさせる気だ!?
さすがに我慢しきれんぞ?
「えぇー……まぁ、作法に反しますがいいですよ」
「礼儀は守ってるぞ?限度はあるから分かって?……いや、分かろうな」
「分かりましたよ……私は徐庶、字は元直です」
……徐庶?
聞きおぼえがあるっていうか、三国志の中に出てきたよな?
たしか、軍師として……
って、こんなに物覚え悪くて軍師で良いのか?!
「あー、どうでもいい質問していいか?」
「受け付けません」
「えっと──は?」
何でそこだけ満面の笑みかね?
「どうでもいい内容は尚のこと覚えてません」
「(答えられないから先に手をうったってか)」
まぁ、ほんとにどうでもいい質問なんだけどな?
聞きたかったのはかぶってる帽子についてだよ。
別に悪いとは言わないけど、何でそんな二股に分かれたピエロみたいなのかぶってるのかと思っただけだ。
……って、この時代にピエロがいるわけ無いか……
「それで名前は──」
「徐庶、袁術の所から来たってのは本当か?」
「え、え?あ、はい。えっと……そちらの片目のお兄さん」
「(……もう突っ込まねぇ)」
「では袁術からの迎えと判断して宜しいのでありますか?」
「そうですよ。えっと……そっちのちっちゃな方の」
「だ、誰がちっちゃいでありますか!?」
背丈はドングリだろ……
「んで、迎えに来たってことは俺たちを傘下に加えることに問題は無いんだな?」
「そうらしいです。詳しくは覚えてないですけど」
「いや、頼むからちゃんと覚えようぜ?」
「いいじゃないですか、わちきって昔から行き当たりばったりだから」
全くよくない……
てか、この子ほんとに徐庶か?
三国志でのイメージと全然違うんだが……
ま、まぁ、董卓もイメージと反していたけどもだな……?
「それじゃ行きましょうか。わちきが道を覚えてる間に」
「……音々音、地図」
「持ってくるであります」
絶対迷う自信がある。
この子に任せる勇気がそもそもない。
「えっと……それじゃ直詭君、これを言うのは酷だと思ってるけど、みんなのことよろしくね?」
「はい、尽力します」
「私から見ると、直詭君が一番頼りになる風に見えるのよ。でも、ちゃんと周りにも頼ってね?」
「……はい、無茶はしても一人で抱え込むことはしません」
音々音が戻ってくるのに、そんなに時間はかからなかった。
三人がそろったのを確認して、星羅さんはまた優しく頭を撫でてくれた。
「じゃぁ、気をつけてね?」
後書き
なんかめちゃくちゃ難産でした。
でも頑張って完結させたいんで、こんな拙い内容も時折あります。
ほんとに申し訳ないとは思ってますが、お付き合い頂けると幸いです。
では次話で
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