「……あれ?」

「……はい?」

「……………?」


とりあえず、三人が三人とも首を傾げた。
徐庶が先導して連れて来たのは、徐州の端っこに位置する城。
……いや、袁術の影も形も無いんだけど?


「おい徐庶、詳しく説明してくれるよな?」

「まぁまぁ、落ち着いてくださいな」

「落ち着いてるつもりだけど?」


気が立ってる訳じゃないけど、語調は勝手に強まった。
いや、説明くらいはしてもらうべきだろ?


「んじゃ、順を追って説明しますか。まずはじめに、“コレ”は袁術に届いてないです」

「ちょっ?!そ、それは星羅殿の書簡?!」

「……なんで徐庶が持ってる訳?」

「えぇー?片目のお兄さんは見た目通りの頭だと思ってたんですけどー?」


褒められてるのか?
それとも貶されてるのか?


「兎にも角にも、こんなものが届けば、王允殿も皆さんも、首が飛びますよ?」

「……そりゃ、そうだろうけど……」


でも、星羅さんを信じたかったってのが大きい。
あの人の言葉を、あの人自身を……


「ちなみに、わちきが袁術の傘下にいるのは事実ですよ?」

「そりゃそうだろう。でなきゃ、その書簡をどこで手に入れたって話だからな」

「そう言うことです」

「んで?この城に連れてきた理由は?」

「簡単に言えば、“見つかりやすく攻めづらい”からです」


……それは“誰から”なんだ?
重要な部分は端折らないでほしいな……


「言ってしまうと、この辺りを含め、徐州の州牧に近々選ばれる人間がいるんですがね?その人間を、袁術が倒す算段を立てると踏んでるんですよ、わちきは」

「俺らの名前覚えないくせに、そう言うことは覚えるんだ」

「いっそ覚えさせてくれてもいいですよ?わちきは興味のある人の名前なら覚えますし」


……てことは、だ。
現段階では袁術よりも興味は無いんだな。


「ま、それは良いとして……見つかりやすい云々って、誰からだ?」

「当然、袁術からですよ。でも、わちき以上の軍師なんていませんし、水関・虎牢関で名を上げた人間なんて攻めたくないでしょ」

「……ま、言いたい事は分かるな」

「──で、袁術が戦線を敷くまで、お三方にはこの城にて時期を待ってほしいんですね、わちき的に」


……………は?
なんでこいつの思い描く通りに動かなきゃいけないんだ?
いや、こうやって城を提供してもらって言う言葉じゃないんだろうけど……


「とりあえず、その理由を聞いても良いよな?」

「あーー……ぶっちゃけ、袁術が倒そうとしてる人間の所に、わちきの親友がいるんですわ」

「親友?」

「そです。なんで、どっちかって言うと袁術を倒す算段を立てたいんで、お兄さんたちには協力してもらおうかと……」


いやいやいや、ぶっちゃけ過ぎだろお前。
というか、軍師として雇われてるのにそんな感情的でいいのかよ……?


「……ね?わちき、軍師に向いてないでしょ?」

「へ?」

「昔からこうなんですよ。一軍の将よりも、全軍を任される総大将よりも、その戦にかかわる人間全ての命を預かるのが軍師です。でも、わちきは殺すのも殺されるのも嫌です」

「……………」

「献策はしますよ?でも、わちきは表立って軍師として居たくないんです」


自嘲のこもったその表情が、いやに儚く感じた。
ここまで声を大にして、殺し合いが嫌だなんて言える人間、この時代には珍しいだろうな。
でも、儚く感じたそれは、同時に羨望だということも分かっていた。
俺もそうやって、声を大にして殺したくないと言いたい。
でも、もう手遅れだってことを十二分に分かってるから、そんな権利が無いことも理解してる。


「確かに、軍師には相応しくない思考だね」

「でしょぉ?親友以外からはよく馬鹿にされてましたよ」

「でもそれで良いんじゃないの?“人が人を殺さないように”献策する軍師がいたっていいんじゃない?」

「──っ?!」


正直に言って、そんな軍師がいてほしい。
戦を戦として成り立たせない軍師がいてくれたら、死なない人間がどれだけ増えるだろうか……
だから俺は純粋に、こいつが、徐庶の考えが羨ましい。


「お兄さ──直詭さんも、充分に奇特な人ですね」

「ほっとけ」

「それじゃ、わちきは一度戻ります。食糧などはこの城の備蓄を使ってください」

「分かった」


それだけ言って、徐庶はさっさと行ってしまった。
……かと思ったら、何か忘れたみたいに慌てて戻ってきた。


「すっかり忘れてました!」

「何だ何だ?」

「直詭さんたちの真名、教えてもらって良いですか?」


何を急に言い出すかと思えば……


「何でまた急に?」

「いやぁ、特に直詭さんになんですが、興味が湧きそうで……真名、交換しましょうよ」

「えっと……恋たちはどう?」


俺の一存じゃ駄目だってのは分かってる。
だから自分のことは自分で決めてもらうに限る。


「直詭が良いなら、恋もいい」

「ねねは……いえ、ねねもいいであります」

「じゃ、決まり。改めて、わちきは徐庶、字は元直、真名は摘里(つむり)です」


徐庶──摘里が名乗って、恋たちもそれぞれ真名を教える。
……ちゃんと全員の覚えたんだろうな?


「じゃ、わちきは戻りますね。あ、それと、董卓側の敗走兵たちがこの城に集まりやすいよう手配もしておきますよ」

「そこまでしてくれるの?そりゃ助かるな」

「まぁ、糧食が多いわけではないので、そこは勘弁してほしいですけど……それでは」











この城に居着いてから、時間があっという間に過ぎて行く。
少なくとも、月さんの所にいた時の数倍は早く感じる。

なにせ、やることがあまりに多すぎる。
国境近くってことも大きいのか、山賊とかがうじゃうじゃといる。
それらにオシオキしに行ったりするだけでも、二日三日はあっという間だ。

それも含めて、摘里が手配してくれたおかげで元董卓軍の兵士たちが集まってくる。
実力的には恋が仕切るべき何だけど、まぁ、俺が仕切らざるを得ない。
音々音も手伝ってくれるから何とかなるけど、正直疲労の溜まり方が半端じゃない……

疲労の溜まり方に拍車をかけてるのは、何も動くことだけじゃない。
摘里も言ってたように、糧食が少ないんだ……
休む時間はあるけども、空腹をごまかせないのがかなりキツイ……
恋が時折暗い表情見せてるけど、それだけで我慢してるんだから偉いもんだ。


「白石殿、今から行かれるので?」

「……あぁ、規模の小さい山賊だから、兵士を20人くらい連れてく」

「……お疲れでありますね」

「それは音々音も、だろ?お互い様だよ」

「しかし白石殿はここ一ヶ月、碌に休んでおられないであります」


……ま、それも仕方ないだろう。
やることが多すぎるんだ、休む時間を惜しむほどに……
星羅さんの所を発って、一ヶ月も経ったのかと思うと、自分の時間感覚が怖くなる。


「心配してくれるだけで嬉しいよ。それより音々音、“そろそろ”だから、ね?」

「承知しているであります」

「……恋に、猪でも見つけたら狩ってくるって言っておいてな」

「ご無理なさらずであります」

「ありがと。んじゃ、行ってくるね」


音々音にそう告げて、門へと向かう。
先に待ってた兵たちが出迎えてくれたけど、全員疲れが目に見える。


「みんなも疲れてるなぁ」

「いえ、御遣い様ほどではありませんよ」

「そうですよ!俺たち、まだ頑張れます!」

「……素直に心強いよ。んじゃ、さっさとオシオキして来ようか」


……………ん?
何だ、今みんなの表情が強張ったような……?


「どうかしたのか?」

「い、いえ……ただ、その……」

「どうしたよ?何でもいいから言って」

「は、はぁ……御遣い様、なんだか一瞬ですが、楽しそうな表情されたので」


……楽しそうだと?
俺、そんな表情したのか……?


「楽しみだとは思ってないぞ?」

「気のせいなら、我らの思い違いで良いんですが……」

「……………ただ──」

「「「「「……………?」」」」」

「こんなに厄介事持ち込んでくる奴らにどんなオシオキしてやろうかと思っただけだよ」

「「「「「──っ!!?」」」」」


身震いするなって、傷つくから……
てか……俺ってそんなにドSじゃねぇよ!











んー、収穫ゼロってのは痛いな……
山賊の連中もちょっと脅かしたらさっさと逃げたし……
仕方ないから狩りでもしてみようもんなら、得物が全く見当たらない、と。


「御遣い様、これ以上はさすがに暗くなりますが」

「そうだな……全員引き揚げるぞ」

「「「「「御意!」」」」」


ま、狩り場は城のすぐ近くだ。
戻るのも数分で戻って来られた。


「直詭、おかえり」

「お、恋。出迎えに来てくれたの?」

「……………(コクッ)」

「ありがと。でもゴメンな、収穫ナシだったんだよ」

「……………(フルフル)」


気にしていないと言いたげに、首を横に振ってくれる。
素直に嬉しかったから、頭を撫でてお礼の代わり。


「直詭、ねねが呼んでた」

「音々音が?……ってことは、摘里も来た?」

「今、二人で話してる」

「じゃ、一緒に行こっか」

出立前、音々音に言っておいた“そろそろ”ってのはこの事だ。
ぼちぼち袁術から使者でも来るだろうとは思ってた。
……まぁ、数日前に摘里が来た時にそんなこと言ってたからだけども……

恋と並んで、二人のいる部屋まで向かう。
大体話してる内容も分かるんだけど、ちゃんと聞いて損は無い。


「やぁ摘里、久しぶり」

「あぁ直詭さん。久しぶりですね、ちょっと痩せました?」

「痩せた?これはやつれたって言うんだよ」


自嘲を込めた笑みで返す。
そこら辺はさすがは軍師だ、敢えて困った風な笑みで返してきた。


「んで、袁術からの使者ってことだよな?」

「そうですね。平原のある人間が徐州の州牧に任命されました。袁術はそれを倒す算段で、皆さんと同盟を組みたいと」

「同盟?実際は違うんだろ?」

「察しが早いですねぇ、ねねちゃんとは雲泥の差です」

「う、うう、う五月蠅いのであります!」


てか、同じ背丈でちゃん付けって違和感がすごいんだが……


「袁術はこっちを体良く使おうってことです」

「ま、予想はしてたけどね。それで、平原から来るのって誰?」

「劉備……劉玄徳という人物です」


劉備、か……
ん、待てよ?
確か、子龍とか関羽とか一緒だよな……?


「直詭さん?」

「あぁ……何でもない」

「とりあえずは、一旦同盟に参加しておいて、頃合いを見て寝返る。わちきはそういう風な策を思ってますけど?」

「んー……それはちょっと危険だな。それに、俺たちは劉備の人間像を知らないし……」

「袁術よりかは遥かに信頼できますよ?」

「使者のお前がいうか」


まぁ、袁家は頭が空っぽの方が多いらしいが……?
それでもいきなり寝返るのは厳しいだろ……
……それに、だ。
摘里の言うことと違って、袁術が使えるに値する人物なら、逆に劉備が倒すべき様な人物なら──


「悪いけど、ここは慎重にならせてもらう」

「……ま、そりゃそうですよね」

「反論しないの?」

「だって、わちきはこの軍の人間じゃないですから、いくら献策したって利がありませんもん」


それも尤もだけど、やけに潔いな……


「本当は?」

「直詭さんが、わちきに頼り切るような人なら切り捨てるつもりでした。テヘッ♪」


……OKコイツイツカコロス……


「それで白石殿、ねねたちはどう動くので?」

「同盟には参加しよう。それから考えても遅くないよ」


袁術然り、劉備然り……
今の俺たちには判断材料が少なすぎる。


「じゃあ音々音、いつでも出立できるよう、全員に伝えてきて」

「承知したであります」

「恋もお願い。音々音一人じゃ大変だろうから」

「分かった」

「摘里はこの事を伝えに戻るんだろ?」

「そうですね。ま、すぐに戻ってきますよ」


ま、参陣するにあたっての内容とかを伝えるために戻ってきてくれるんだろうな。


「しっかし……」

「……何だよ?」

「いえいえ、ではわちきは行きますね」


意味深な雰囲気だけ残して、摘里はさっさと出て行った。
……さて、俺も準備を始めるか。
生き残っていくための、準備を──



















後書き


早く日常編書きたいっす(汗
ちょいとルビに不都合あったので訂正しました、すいません


では次話で



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