「ゴメンね、見てないよお兄ちゃん」
「そっか。ありがとな」
「うん!バイバーイ」
街中で遊んでる子供たちに声をかけてみたけど、収穫は無しだ。
これまでにも何人かに声をかけたけど、5日前からセキトの姿は見てないらしい。
その情報を得る度に、だんだんと恋が俯いていく。
……横で見てると辛いな……
「ほら、恋」
「……………(コクッ)」
手を差し出すと、素直にその手を取ってくれた。
そのまま街中を散策してみるけど、これと言った情報は得られそうにない。
「後は……そうだなぁ……」
「セキト……」
「落ち込むなって……そうだ、あいつらにも聞いてみるか」
「……………?」
「門の所にいる奴ら。無いとは思うけど、街の外に行ってるかもしれないだろ?」
他に当てがないと言えばそれまでだが……
「行ってみるか?」
「……(コクン)」
今はとにかく情報だ。
ただ、セキトの事を見てる奴が果たしてどれだけいるか……
これでハズレだった場合はどうするか……?
城の連中に聞いても、下着ドロの一件に夢中だろうし……
「(……今は有益な情報があることだけ祈るか)」
そのまま門の所まで行くのにはすぐだ。
人通りの少ない道を選んだってのもある。
ただ、これだけ深刻そうな顔をしてる恋も珍しいんだろう。
「どうかしたか?」と聞いてくる人もいるし、事情を軽く説明しただけですぐ道を譲ってくれる。
「あ、白石様に呂布様」
門で番をしてる兵たちを見つけるのはすぐだった。
暇なのか平和なのか、少し退屈そうにしてる。
……はたして情報はあるか……
「ちょっと聞きたいんだがいいか?」
「はい、何でも」
「……セキト、見てない?」
「セキト……?あぁ、呂布様といつも一緒にいる犬ですね」
「見てたら助かるんだが……」
「昨日見かけましたよ」
俺も恋も目を丸くした。
ナイスな情報だ。
今まで5日以前の情報しかなかったからな。
「どこでだ?」
「門をすり抜けていくのを昨日。何やら布のようなものを咥えていたようでした」
「布?まぁそれは今はいいか。んで、どこに行ったか分かるか?」
「そこまでは……ですが、チラッと見た限りだと、森の方へ向かったかと……」
……妙な話だ。
仮にもセキトは飼い犬だ。
主人の元を離れてどこに行こうってんだ?
それに、布のようなものを咥えてたってのも気になる……
……そう言えば──
「なぁ恋」
「……………?」
「恋は、その、下着を盗まれたとか、あるか?」
「一個無くなってた」
「……そっか」
……まさか、な?
仮にも主人のモノを盗むか?
「直詭」
「ん」
「行く」
「分かった。ありがとな、じゃあ勤務頑張れよ」
「はい、ありがとうございます!」
行ってみるのが早そうだな。
実際には俺の想像と違うことだって十分にあり得るだろうし。
んで、後は……
「スミレ、役に立てよ?」
「ニャァ?」
「スミレ、お願い……」
「ニャァォ」
恋のお願いが通じたんだろう。
俺の頭の上で寛いでやがったのに、急に飛び降りて前を歩き出す。
人間よりも動物の方が色々敏感だろうし、何か察知したら教えてくれるだろう。
取り敢えず今は──
「セキト……」
「……大丈夫だよ。そんなに心配するなって」
恋の頭を撫でつけて、道を急ぐ。
うん、きっと大丈夫な、はずだ。
●
森には着いたが、そうすぐに見つかるわけでもない。
もしもセキトが来ていたとしても、他の動物の足跡だってあるわけだ。
そんな簡単に見分けがつくほど俺は鋭くない。
「どうだ恋?セキトの足跡、ありそうか?」
「……多分」
「……そっか」
恋でも自信がないとなると、思った以上に酷だぞ?
後は本当にスミレ頼りになるかもしれないな……
「ん?」
この足跡……
明らかに人のモノだよな。
数からして、大体3人くらいか。
つい最近の、それも昨日今日くらいのモノだとは思うが……
「(こんな森の中に何かあるのか?)」
「……直詭」
「ん?」
「多分これ、セキトの」
「本当か?」
俺がふと気になった足跡のすぐ横を指さして恋が言う。
普段から見慣れてる足跡ならよく分かるだろう。
「どのくらい前のモノか分かるか?」
「多分……ついさっき」
「ついさっき?……追ってみるか?」
「……(コクッ)」
まだまだ森の入り口だ。
そんな場所についさっき付いたであろう足跡がある。
追いかければすぐ追いつくか。
……ただ、この横の足跡は何なんだ?
セキトと一緒に誰かいるとかか?
「(だとしても……主人である恋を離れてまで一緒にいる奴らって一体……?)」
想像だにできない。
一体どういう連中なんだか……?
「得物持って来なかったけど、大丈夫、だよな?」
「大丈夫……だと思う……」
「恋も不安?」
「……………(コクン)」
だとしても、進む以外に今は選択肢がない。
警戒は十二分にしておくか。
何かあってからはさすがに遅いし……
そのまま進むと、少し大きめの小川があった。
んで、目的の奴も見つかった。
ただし、予定以上に、だ。
「何だあいつら……?」
木陰に身を隠して、小川の様子を伺う。
恋も少し離れた場所から同じように伺ってる。
俺たちが目にしてるのは、セキトと、その周りに座り込んで話してる男3人。
不良っぽい連中だとは思うんだよ、服装とかその辺からして……
危なっかしいものは持ってなさそうだな。
「(……少し様子を見るか)」
セキトに危害を加えようってなら黙ってないが……
「それにしても兄ぃ、ここまで上手くいくなんてね!」
「俺が見込んだだけはあるだろ?」
「さすがっす兄ぃ!」
どうやら1人の兄貴分と、それに付き従ってる子分2人ってとこか。
見込んだって言うのはきっとセキトの事だろうけど、何やらかしたんだ?
「さ、兄ぃ!まずは兄ぃから堪能してください!」
「んじゃ、遠慮なく……!」
そいつらが座ってた中心には、何やら布の山がある。
……ん?
アレってひょっとして……──
「〜〜〜!ぷっはぁ!こりゃ堪んねぇぜ!」
「俺も俺も!」
「じゃあ俺はこっちので!」
……ま、間違いない……
下着の山だ。
あの子分が顔を擦り付けてるのは俺のだし……
……ちょっと吐き気が……
「でもこのワンコに、こんな才能があったなんてな」
「誰にも怪しまれずに、且つ気付かれずに、美少女ぞろいの将たちの下着を頂戴してくる。こりゃ、他の国でも通用するんじゃねぇか?」
「え?兄ぃ、他の国のも失敬するんすか?」
「当然だろ?天下に名だたる将軍の下着を盗みつくした男……イケると思わねぇか?」
あ、あれ?
手が痙攣してる……
いや、コレは違うな。
……怒りでワナワナ震えてるだけだ……
「随分と面白い真似してくれたじゃねぇか……」
「「「!!?」」」
「セキト!」
「ワゥ!」
いい加減にしびれが切れたんだ、もういいだろう。
茂みから俺も恋も姿を出して、連中を挟むように立つ。
セキトは本当の主の顔を見て飛びついていった。
これで……気兼ねなくしょっ引けるな。
「な、何だお前ら!?」
「あ、兄ぃ!こいつら、例の将軍たちです!」
「チッ、もう見つかったか!」
「そう慌てるなって……よかったじゃねぇか、見つけたのが俺たちで……」
「「「……?」」」
あぁ、自分でも嫌ってほど分かる。
これほど気味の悪い怒りに満ちてる自分は初めてだ。
恋も同じように怒りが満ちてる。
その理由は両方ともおんなじだ……
「下着を盗んだことも勿論だが……大切な友達を悪用してくれた礼は、存分にしてやらないと気が済まないな」
「……許さない」
「兄ぃ……何かこいつら、めっちゃ怖いんですけど……」
「ひ、怯むな!これだけの物を手に入れて、それを全部投げ出せるか!」
兄貴分が懐から小刀を取り出してきた。
ただ、俺も恋も、そんなもの眼中にない。
今はただ……怒りの赴くままに……処刑執行させてもらう……
●
「お手柄でしたね。直詭さん、恋さん」
「……ん、まぁ、な」
「どうかしたか直詭?」
「いや……少し放っておいてくれるか、桔梗……」
「……?」
気分はいいもんじゃない。
最悪と言ってもいいくらいだ。
怒りに任せて誰かを殴るのは初めてかもしれない。
感情が爆発して、思考が停止して、後は終わってた。
「……ハァ、変に気怠い……」
「恋も……」
食堂の椅子に座って、互いに頭を預けながら恋と座る。
人間だの動物だの関係ない。
友達を悪用されたことに、こんなにも怒るとは自分でも思ってなかった。
ただひたすら、後味が悪い……
「……あの、直詭さん?」
「何か用か朱里?」
「いえその、下手人にどういったお説教をされたのかと思って……」
「……………」
あんまり答えたくない。
むしろ覚えてない。
「何でまた?」
「その下手人たちを取り調べてたんですが、その……『鬼が二匹……』とひたすら繰り返すもので……」
「知らねぇな」
そんだけ怒ってたってことだろう俺も。
まぁとにかくだ、今は放っておいてくれ。
本気で気怠いんだ……
「……ハァ、恋……」
「……(コクッ)」
「じゃあ、俺の部屋来るか?」
「……(コクッ)」
さっさと寝るに限る。
こんな嫌な気分、早く忘れたい。
今日は恋も一緒に寝てくれるし、良く寝ることは出来るだろう。
「ただなぁ……」
この気分が晴れるのはどのくらいかかるやら……
起きても晴れそうにないのだけが辛いな。
後書き
怒るって言うのは結構体力使うもんです。
今回はちょっと直詭の怒るところを書いてみました。
いやはや、感情表現難しいっす(´・ω・`)
では次話で
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m