「……ハァ」

「何を溜息吐いてるんだ?」

「あ、直詭さん」


なんか桃香が暗い顔してたから声かけてみた。
おまけに溜息まで吐いてたし。


「うーん……何でもないんだけど……」

「なら言えば?悩みくらいなら聞くぞ?」

「うーん……」


城壁の上でそんな暗い顔されても困る。
……時々俺がここで昼寝してるからだが……
それを差し引いても、桃香に暗い顔は似合わない。
そう思うのは俺のエゴかな?


「昨日ね、愛紗ちゃんと一緒に街に出たの」

「視察でか?」

「うん。そしたらね、子供たちがいっぱい集まってきちゃって……」

「桃香はみんなに好かれやすいからな。そのくらい相手してやればいいだろ?」

「したよ?……でも、そうじゃなくて……」


……意図がつかめない。
何か言いたいことはあるんだろうけど、それが見えてこない。


「その子供たちの中にね、お互いを好き合ってる子がいて……」

「いいことじゃないか」

「いいこと、には違いないんだけど……なんて言うか……」


じれったい……
ただ、急かすのもどうかと思う。
今はじっと待つか。


「……ハァ」

「……………」

「あ、ゴメンね?!」

「気にしない。続けて?」

「あ、うん」


思うように言いたい言葉が見つからない、のか?
見てる限りそんな感じだ。
空を仰ぎながら、目を右に左に……
んで、何でかは分からないが、ほんのりと頬が赤くなったように見える。


「そうだなぁ……直詭さんは、好きな人っている?」

「……随分唐突だな」

「ゴメンね?……うーん、ちょっと違うかな……?」

「好きって言うのは、恋愛論としてか?人として好きなのはいるけど、恋愛の対象としてっていうのは思いつかないが」

「そうなの?!」

「何故驚く?」


驚かれた理由がまるで分らん。
別に変なこと言ったつもりはないし……


「そっか。フーン……そうなんだ……」

「どした?」

「ううん、何でもないよ?!」

「……取り敢えず、話の続きが聞きたいんだが……?」


話が右往左往してて、言いたいことがよく分からん。
取り敢えず何に対して悩んでるかを話してほしい。
そうでないと相談にも乗れないしな。


「えっと、まずは昨日街に出て、互いに好き合ってる子供がいて……その続きだ」

「あ、うん。それでね、何て言ったらいいんだろ?“羨ましい”……かな?」

「羨ましい?」

「うん。私ね、皆のこと好きだけど、そういう目で誰かを見たことって無かった気がするの」


それは意外だな。
友達=好き、の方程式が成り立ちそうなのに。
……でも、恋愛はまた別なのかな?


「直詭さんは、誰かをそういう目で見たことってある?」

「あるぞ」

「本当?!」

「だから何で驚く?」


今日の桃香はどこかおかしい。
羨ましいとか、あんまり聞かない言葉だ。


「それでそれで?!誰が好きなの?!」

「だから、今はそんな目で見てる奴はいないって言っただろ?」

「あ、そっか」

「……まぁ、仮に見てたとして……贅沢過ぎねぇか?」

「贅沢?」

「考えてみろ?桃香にしろ他の誰かにしろ、何かに長けてるし名も売れてるし可愛いし……そういうのを好きって言うのは、なんか身の丈に合ってない気がする」


……やめろ、赤くなるな。
これは俺が悪いのか?
だとしても恥ずかしいからやめてくれ。


「な、直詭さんがそう思ってるって、知らなかったなぁ……」

「声が上ずってるぞ?」

「だ、だってぇ〜……」


……分かった、俺も反省する。
だからその、赤くなりながら困った顔するのはやめろ。


「でも……別に羨ましいことじゃないだろ?誰かを好きになるのっていいことだし」

「そうだけど……私、気後れしちゃわないかなぁって……」

「大丈夫だろ」

「むぅ〜……簡単に言う〜……」

「悪い」


桃香が誰かを好きになったとして。
どう付き合うかまでは想像つかない。
今見てる限りでの“好き”は、“皆を平等に大切に”だしな。
それがたった一人に向けられた“好き”になったら、どうなるんだろうか……?


「直詭さんの事も勿論好きだけど……恋愛って言うと、違うのかなぁ〜?」

「俺に聞いて分かるか。それは桃香自身の気持ちの問題だろ?」

「そうだけどぉ〜……ハァ、素直に“好き”って言えるのが羨ましいなぁ」

「あぁ、“羨ましい”ってそういう意味でか」


何となく合点がいった。
話の焦点はそこか。


「羨ましいのは当然だろ」

「何で?」

「子供ってのは、世界がまだ狭いんだ。精々、自分とその家族、後は友達くらいかな」

「ふんふん」

「んで、成長していくと、同時に世界も広くなる。その過程で、精神も成長していく。そうすると、誰かを好きになったとして、それを口外するとどうなるかを想像してしまう」

「……そっか!」

「あぁ。桃香も稀な方だぞ?俺らくらいの年代になると、そもそも好きとか言う言葉を使う機会も減るし」


世界が広がると、自分の立ち位置を気にするようになる。
持っている役職や地位、社会的な環境とか、そういった様々な要因が感情の独走を阻害する。
“好き”を率直に言える人もいるだろう。
でも、“Like”が“Love”に変わったとき、一度自分を顧みる時間が必要になる。
特に君主の桃香は考えることが多そうだ。


「じゃあさ」

「ん?」

「一回、練習してみていい?」

「何を?」

「だから、“好き”って言う練習」

「俺でか?」

「うん!」


何を唐突に──
……いやちょっと待て?
コレは相当マズいことじゃないのか?


「ちょっと待て桃香……いや、その、んーっとだな……」

「大丈夫♪嫌いな人だったら頼まないから♪」

「そういう事じゃなくてだな?」


……せ、せめて、誰もここに来ないことだけを祈ろう。
愛紗とか焔耶とかに見られるとヤバそうだし……
……何となく、一番ヤバいのは星な気もするが……











「白石、直詭さん」

「ん」

「……………そうじゃなくって!」

「どうしろってんだよ……」


城壁の上で、お互い向き合って立ったまま。
桃香が練習するというから付き合ってはいるけど、何でだかまだ“好き”って単語が出てこない。
俺の立ち振る舞いが問題らしいけど、どうしろってんだ?


「そこはもっとこう……ちょっと恥ずかしがったりとか……」

「俺に何を求めてる?」

「だってぇ〜……折角好きって言うんだから、雰囲気とかが大事だったりしない?」

「しない」

「そうかなぁ〜?」


ロマンチストは物語の中だけで十分だ。
大体、こんな練習してどうする気だ?
本当に好きになった相手に言うとして、俺の立場はどうなる?
なんか道化にでもなった気分だ。


「ん〜……いまいち分かんないなぁ。ねぇ、直詭さんの方から言ってみてくれない?」

「桃香の練習だろ?」

「でも、こういうのって、逆の立場になってみるのも大事だと思うの」

「かもしれないけどなぁ……」


告白なんてしたことないぞ?
されたことは……あるけど……
でもこの場合の“好き”ってLoveの意味合いでだろ?
そんな経験ないからなぁ……


「……そうだな、桃香」

「何?」

「どういう言葉を使えばいい?」

「それは直詭さんの言葉でいいよ。そうじゃないと意味ないし」

「…………………………」


何かめちゃくちゃ期待されてる。
態度からして急かされてるな。
プロポーズ的な言い回しをすべきか?
それとも率直に“好き”を言うべきか?


「……下手くそな良い方でもいいか?」

「うん、いいよ♪」


取り敢えず頭の中で言葉を選ぶ。
色々ワードが飛び交うけど、うん、コレにするか。
ただ……いざ言うとなると、少し恥ずかしい気も──


「ぁ……ぅん……」

「ふふっ♪直詭さん♪」

「分かってる!」


……ハァ……ったく!


「──桃香」

「……はい」

「……好きだ」

「はい♪」


……………結局これしか言えなかったし!
他にもいろいろ考えてたんだぞ?!
ただいざ言うとなるとだな、思考は停止するわ感情は揺らぐわで──


「直詭さんすごいね♪」

「はぁ?何がだよ?」

「こんなに想いのこもった“好き”を聞いたのって初めて」

「……………っ……あぁ、そうか」


……やばい、マジで恥ずかしい。
損した気分、ではない。
ただこう、真剣に言ったからか、余計感情が高ぶって──
……ハァ、恥ずかしい限りだ。


「ん〜、私はそんな風に想いを込めるの難しいかな」

「……じゃあやらせんな」

「だからね、違う方法考えてみたの」

「まぁ、“好き”が伝えられるならいいんじゃねぇか?」

「練習相手になってくれる?」

「ここまで来たら最後まで付き合うよ」


どんな方法思い付いたんだか……


「ん〜……直詭さんの“好き”は、本心からの思いだったのがよく分かったし」

「言うなって……」

「私もそういう思いだって言うのが伝わるほうがいいよね?」

「この際何でもいい」

「うん♪」


言うや否や、桃香は俺の首に腕を回し──
ってちょっと待て!
いきなり何を──


チュッ──


「…………………………」

「……こっちの方が、私らしいかな?」


お、おいおいおい……
マジでキスしてきやがった……
しかも頬じゃなくて唇に……


「……ちょ、桃香、おい……」

「練習って言っても、本気にならないとダメでしょ?だから、これが私の本気♪」


桃香の想いを理解するのは無理な話だ。
思考が固まって動かない。


「どうだった?」

「あ、その……柔らかかかった」

「そうじゃなくて!私の想い、伝わった?」

「あ、あぁ……」


理解できた自信なんてない。
突然の事でパニックになって、結果思考は硬直して……
ただただ、感触を思い返すことしかできない。


「むぅ〜、直詭さん、ちゃんと感じてくれてた?」

「い、いきなりあんなことされたらだな……!」

「でも、受け取ってくれたよね?」

「そりゃ……」


多分、嫌だったなら止める余裕はあったんだろう。
それを拒まなかったのは、受け取りたいという思いが俺にあったから。
目の前にいる女の子の、まっすぐな想いを。


「……自信、付いたか?」

「うん♪」

「じゃあ……もう、暗い顔すんなよ?」

「え?」

「……多分、俺だけじゃないとは思うけど……桃香に暗い顔は似合わない」

「……うん♪」


影ひとつない、明るい笑顔だ。
ほんのりと赤みの差した、柔らかくて優しい笑顔。
桃香の持ってる中で、俺が一番好きなモノ。
今はそれを、独り占めできている。


「……ハッ、贅沢この上ない……」

「直詭さん?」

「……好きだよ、桃香」

「え、え、え?!」

「ホラな?急に言われると焦るもんだよ」


でも、この言葉に嘘偽りはない。
俺は桃香の、この笑顔が何より好きだ。


「ずっとそのままで、優しい笑顔でいてくれな」

「う、うん」


桃香の一番にはなれないかもしれない。
だとしても、この笑顔は見続けていたい。
コレがきっと、俺が桃香を“好き”な理由。
いつまでも、この笑顔が明るくありますように──




























後書き

スランプ気味です……
なかなか思うようにかけないのでストック放出中です。
しばらくリアルも忙しいので、また更新ペースが遅くなると思います。
面倒くさい作者ですいませんorz

では次話で



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