「おお!黄忠様がおいで下さったぞ!」
「天の御遣い様もご一緒だ!」
「黄忠様ー!」
「御遣い様ー!」
国境近くの砦に入城して、すぐに兵や民たちに囲まれた。
これほど喜ばれるとさすがに嬉しい。
そして、嬉しいと同時にプレッシャーを強く感じる。
「皆、よく頑張ったわね。私たちが来たからには、もう怖い思いはさせないわ」
紫苑の言葉に、兵も民も喜び叫ぶ。
後ろで眺めてても頼もしいと思えるくらいだ。
実際に、被害に遭ってた皆はよっぽど強く感じてるだろう。
んで、俺はみんなを安心させる側なんだな。
「じゃあ紫苑、俺は街の被害の様子を見て来る」
「何人くらい連れて行くの?」
「そうだな……50人でも多いし、取り敢えず20人で」
「お言葉ですが、少なすぎませんか御遣い様?」
砦にこもってた兵の統率してた奴が声をかけて来る。
俺としては、これでも多いと思ってるぐらいなんだがな。
「あくまで様子見だ。戦闘になると判断したら引き返す」
「で、ですが……」
「……気を遣ってくれてありがと。でも、一番守りたいのは街じゃなくて街に住まう皆だからさ。ここの防御に少しでも人を当てたいんだ」
「御遣い様……」
肩に手を置いて、強く頷いてやる。
心配してくれて素直に嬉しい。
だからその思いを無下にしないよう、俺も将として立ち振る舞う責任がある。
だから死ぬつもりはない。
危険に飛び込むつもりもない。
可能な限り死を回避する心積もりで出る。
「大丈夫だとは思うけれど、直詭君。気を付けてね」
「あぁ」
紫苑は快く見送ってくれるらしい。
ならそれでいい。
ここの指揮は任せてもよさそうだ。
「じゃあ俺についてきたい奴、出来るだけ情報を持ち帰りたい。そこを念頭に置いて付いてきてくれ」
「「「御意」」」
返事をしてくれたのは明らかに俺が言った人数を超えてた。
ま、そんだけ慕ってくれるのも嬉しいが……
取り敢えず、そんなについて来なくていいんだぞ?
さっきも言ったけど、今から行うのはあくまで偵察だし。
砦から街までは目と鼻の先。
3分も歩けば街の大通りに着く。
「見事に散らかしたもんだな……」
凄惨って言葉は似つかわしくないな。
その言葉は山賊や盗賊連中が荒らした後の方がまだしっくりくる。
これは何て言うか……
「取り敢えず目ぼしい物だけ掻っ攫って行っただけって感じだな」
被害に遭ってるのは、主に露店。
それも、食品を扱ってる店はあらかた被害に遭ってる。
ただ、調味料とかを扱ってる店は無事みたいだ。
「白石様、いかがいたしましょうか?」
「ん。じゃあ、南蛮の連中が何を目的に攻めてきたかを探る。被害に遭った箇所の傾向を調べて行こう」
「御意」
とは言え、見た感じにはさっき言ったとおり。
でも、加工品にはあんまり手を付けてないな。
例えば、肉まんとか餃子とか、そういうモノよりも生肉生魚の方が被害に遭ってる。
この辺はちょっと理解しにくいな……
「あとは……金品が被害に遭ってるのは分かるけども……」
何で服までビリビリに引裂いてるんだ?
そんなことしたら価値が下がるだろうに。
「白石様、ご報告に上がりました」
「ん」
「書店はあらかた無事なようです。民家は食料が主に被害に遭ってます」
「ってことは、南蛮の連中は食糧難ってことなのか?」
報告に来てくれた兵も首を傾げてる。
んー……ちょっと相手の思惑が分からん。
その辺の山賊とかの方がまだ分かりやすいぞこれは。
「み、御遣い様ー!」
「どした?」
「な、南蛮の兵士が!!」
……何だと?
別に侵攻してる気配はなかったからこうやって偵察に来てたのに。
まだ残存兵がいたとかか?
マズいな、こっちは少数だし──
「うにゃぁ!待つのにゃー!」
「待つにょにゃー!」
「……………ん?」
あれ、味方の兵士を追っかけてきてるのって、女の子の大群?
猫を模した頭巾をかぶって、随分と露出度の高い服着たのがたくさん追っかけてきてる。
てか、胸と股以外に布地がないってどういう事だ?
「アレが南蛮兵?」
「そう思われます」
横にいた兵も訳分からんって顔してる。
アレは敵に追い立てられてるって言うよりは……
「駄々っ子に付きまとわれてるって感じだな」
「た、確かにそうですが白石様……」
「すまん。取り敢えず何とかしようか」
武器を構えて追いかけられてきた兵の後ろへ歩を進める。
つまりは、南蛮兵と対峙した形になる。
「にゃぁ?なんにゃ、お前?」
「この街を守りに来た人間だ。君ら、南蛮兵か?」
「そうにゃ!人が折角美味しいもの見つけたのに、邪魔するにゃんて許さないにゃ!」
「ほうほう……言いたいことは分かった」
……ちょっと自分の中にサディスティックな心が生まれた。
コレはアレだ、躾と言うやつが必要だな。
「何でもいいけど、そこの君」
「にゃ?」
「ちょっとこっち来て?」
「なんにゃ?」
微塵も警戒せずに俺に近づいてくる。
取り敢えず武器を置いて、俺もその場に座る。
んで、相手が俺のそばまで来たのを確認して──
「ふにゃっ?!」
「悪い子にはお仕置きというものが必要だな」
パァン!!!
「ふにゃぁあああ!!痛いにゃあ!!」
「他人からモノを奪うって、どれだけ悪い事か知ってるか?」
「痛いにゃぁ!放せにゃあ!」
傍まで寄ってきた奴を膝の上で拘束。
そのままおしりペンペンタイムと言うわけだ。
ん、セクハラ?
違う違う、コレは教育的指導と言うやつだ。
パァン!!!パァン!!!パァン!!!
「にゃあああああ!!!」
「悪いことしたらどうすればいいと思う?」
「知らにゃいにゃ!放すにゃああ!!」
「分からないならまだ続けようか」
パァン!!!パァン!!!パァン!!!
「にゃああああ……うぐっ!ひっく、ぐす……!」
「泣いて許してもらえると思ったら大間違いだ」
「み、ミケを放すにゃ!」
「そう焦らなくてもいい。ここにいる全員、お仕置きの対象だ」
「にゃにゃにゃ?!トラたちもおしりペンペンするにょにゃ?!」
「他にもお仕置きの方法はいくらでもあるぞ?」
取り敢えず手は止めない。
おしりが真っ赤になっていようが構わない。
子供の躾に、多少痛い目見せるのも必要だ。
べ、別に楽しんでるわけじゃないぞ?!
「──にゃさい、にゃぁ……」
「ん?」
「ごめんなさいにゃあ!もうしないにゃあ!!すぐ帰るにゃあ!!!」
「よしよし、よく言えました」
軽く頭を撫でつけて解放。
一言謝りさえすればすぐに解放するつもりだったからな。
……どうやら、後ろの連中もビビッて帰るみたいだ。
「み、ミケが解放されたにゃ!撤収にゃあ!」
んで、凄まじい砂埃を撒き散らしながら勢いよく退散していった。
俺はぽつんと取り残された形になったが、まぁいいや。
「お、お見事でした、御遣い様……」
「ありがと。んで、何で自分らまでビビってるわけ?」
「い、いえその……少々、御遣い様が怖く感じまして……」
「自分らいい年だろうが……」
●
「──って言う感じで追っ払ってきた」
「あらあら。随分と可愛い敵さんたちだこと」
「可愛がってる場合じゃねぇよ。喉元過ぎれば熱さを忘れるって言葉もあるんだ。今日の一件でしばらくは大丈夫かもしれねぇけど」
「あら、直詭君は子供の躾をしてきたのよね?」
「……まぁそうだが……」
「躾は根気よく、よ。続けられないなら、最初からしないほうがいいわ」
あー、言いたいことは分かる。
一過性のモノだと相手も緩むしな。
つまりはまた攻めてきたとき、またお仕置きしろってことか。
「紫苑はそういうの無理か?」
「私もできますわよ。次に来たときは、2人でね」
「あ、あぁ」
何だろうか……
璃々ちゃんがあそこまでしっかりしてるのって、紫苑の躾あってこそなんだろうか。
どんな躾したか聞くのも怖いな。
……気にしないようにしよう、うん。
「そういや、桃香たちは大丈夫かな?」
「心配?」
「まぁな」
「大丈夫よ。頼もしい仲間がたくさんいるもの」
……それもそうか。
「私たちは私たちの責務を果たす。それでいいのよ」
「確かに。じゃあ紫苑、見てきた内容話すから」
「えぇ、お願いね」
大丈夫だ。
皆必ず、無事に、且つ迅速に来てくれる。
それまでは責務を果たせばいい。
夜が更けるのは、今日に限って早い……
後書き
書いてて楽しかった(オイ
南蛮は書いてて楽しいです。
楽しいけどちゃんとペースを取り戻さないと……
頑張っては見ますが……
では次話で
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