「……ひっぐ、ぐす……」
「ん?」
「うぇぇぇぇぇぇぇ……」
あーあ、やっぱ泣かせた。
「星……」
「い、いや!私は悪くないはずだ!」
「どの口が言うか」
さっきからからかってばっかりだ。
そりゃ子供なら泣く。
こんなんでいいのかかなり不安だ。
「だいおー、がんばるにゃー」
「みぃさま元気出すにゃん!」
「がんばるにゃぁん」
孟獲の後ろから声援が響く。
何て言うかその、うん、俺も孟獲を応援しようか迷ってる。
だって子供を苛める星が悪い。
いくら味方とは言えさすがになぁ……
「わ、分かった!ちゃんと今度は受け止める、だから泣くな孟獲!」
「うぅ〜……ぐす、ホントかにゃぁ?」
「ほ、本当だとも!」
この上なく嘘くせぇ……
さっきからそんな感じの事言っては相手の攻撃よけて、揚句泣かせてるんだぞ?
「な、なら!もう一回いくにゃあ!」
「来い!この槍で受け止めて見せよう!」
「だいおー、がんばれー!」
「……頑張れ孟獲、敗けるな孟獲!」
「いやちょっと待たれよ。なぜ我が方から孟獲を応援する声が聞こえるのだ?」
原因分からないとは言わせねぇぞ?
「だって孟獲ちゃん可愛いし」
「星がいじめるのが悪いのだ」
「そうそう。どっちかって言うと孟獲の方を応援したくなるよな」
「むぅ……これでは私が悪者ではないか」
「違うとは言わせねぇ」
誰がどう見ても星が悪人だ。
これで正義のヒーローでも名乗ろうもんなら本気で説教してやるところだ。
……大丈夫だよな?
「来い!今度は確実に避けずに受け止めてやろう!」
「いくにゃ!にゃーーーーーー!!」
ひらり
「うにゃっ?!」
「……………あ」
「せーいー?」
「い、いかん!思わず楽しい方を選んで体が勝手に……!」
「うぐっ……ぐすっ……!」
また見事に躱したもんだ。
普通なら褒めたり声援掛けたりする。
でもなぁ……
今回ばかりは違うし、何て声かけるべきか。
孟獲を励ますのがいいのか、それとも星を非難する方がいいのか……
「星ちゃん、いくらなんでも酷いと思うよ?」
「ひどいのにゃ!」
「ごくあくにんだにゃ!」
「ふにゃぁあん」
「うぐっ……!こ、これだけ罵詈雑言を浴びせられるとさすがに……」
敢えて言おう。
それは自業自得だ。
「よーし、ちょっとストップ」
「すとっぷ?直詭殿、何を言って──」
「ホラ孟獲、拗ねない拗ねない」
「にゃぁ?」
二人の間に割って入って、孟獲の頭を撫でつけてやる。
泣いた子供をあやすのは別に得意じゃない。
ただ何となく、父性愛に目覚めたとでもいうのか、そうしたい欲求にかられた。
「べ、べつに……ぐすっ……拗ねてなんか、ないにゃぁ……」
「よしよし。もうちょっと頑張れるか?」
「と、当然にゃ……みぃは、大王にゃ」
「よーし、じゃあアイツをぎゃふんと言わせてみな」
「わ、わかったにゃ!」
よしよし、やる気出したな。
「いやいやいや……直詭殿、敵に手を貸してどうする?!」
「事の原因は星自身にある。もうちょっと反省しろ」
「うっ……!」
今更しょんぼりしたって無駄。
もうちょっと考えて行動しろっての。
「ほう?直詭のお蔭もあるが、よくぞ闘志を再び奮い立たせたものだ。敵ながらあっぱれ」
「孟獲、頑張れよー!」
「頑張るのだ!」
「こ、これは……とことん私が悪者に……」
「君にこの言葉を贈ろう。自業自得だ」
K.O.……ってやつか。
星が地面に手をついて項垂れてる。
対して孟獲は、肉球のついた手で涙を拭って、きりっとこちらを睨みつける。
……あんま怖くないけどな?
「ショクの人間は悪魔にゃ!こうなったらコブンども!てっていてきにやってやるにゃ!」
「「「おおーにゃー!」」」
「ショクの人間をコテンパンにやっつけてやるのにゃあ!!」
孟獲がそう叫ぶと、辺りの叢が勢いよくざわつく。
んで、そのすぐ後に叢からかなりの数の南蛮兵が飛び出してきた。
ほぼ一瞬で周囲を取り囲まれたが、皆は別の事に興味津々なようで……
「うわーっ!この子たちみんなおんなじ顔してる!」
「流石量産型だ」
「う、うぅ〜……」
飛び出してきた南蛮兵、いや、猫っ子の大群。
それが似たような顔してるからほとんどの奴が驚いてる。
んで、愛紗はと言うとその可愛さにもう顔が真っ赤だ。
こりゃ落ちるのもすぐだな。
……まぁは今はそんなことよりもだなぁ──
「ねぇねぇ直詭さん!すごくない?すごくない?!」
「……黙れ」
「ひっ!」
「どいつもこいつも……もうちょっと状況ってものを考えようとは思わねぇのか……」
ぶっちゃけイライラしはじめてる。
可愛いのはそりゃ認める。
だがな?
陣形とかはめちゃくちゃとは言え、相手の本隊が出てきたんだぞ?
もうちょっと緊張感なり危機感持つとかないのかお前ら!?
「あ、あや〜……お兄ちゃん、怒ってるのだ?」
「それなりにな」
「しょ、少々浮かれすぎたようだな……」
「にゃ?お前、何怒ってるのにゃ?」
「気にすんな、孟獲には関係のないことだ」
翠、分かってるなら他の連中に何か言ってやれ。
「取り敢えず桃香、指示出せ」
「そ、そうだね。じゃあ愛紗ちゃん……は、無理だから星ちゃんに鈴々ちゃん、部隊の方お願いね」
「御意」
「情けない姉者なのだ」
●
「いくのにゃー!ショクの奴らをブーンって泣かせてやるにゃー!!」
孟獲の叫びを合図に、両軍がぶつかり合う。
とは言っても、相手方には軍師もなければ軍略の欠片もない。
ほぼ勢いに任せてこちらに突っ込んでくるばかりだ。
「にゃー!」
「よいせっと……」
敵兵とは言え、感覚的には駄々っ子を相手にしてるようなもんだ。
こういう相手は痛い目に合わせればすぐに引っ込む。
だから刃を返して、峰の部分で思いっきりぶん殴る。
「ふぎゃっ!?」
あー、ちょっと今のは当たり所悪かったか?
腹の部分殴ったけど、そのまま気を失って倒れる敵兵。
鳩尾にでも当たったか?
ま、まぁ事故だよ事故、うん……
「兄様ー、もうちょっと下がってって朱里が言ってるよ?」
「下がれと?まぁいいけど」
取り敢えず蒲公英のいる位置まで下がる。
すると、急に雨が降ってきた。
……訂正、雨のように矢が降ってきた。
ほぼ俺が下がるのと同時だったから見間違った。
「にゃーっ?!み、みんな下がるにゃ!」
誰彼なしに叫ぶも、相手の動きに統率性はない。
どっちに下がればいいのか分かってないらしく、矢の雨の中に倒れていく。
「うにゃー!悪魔のてさきめ、ひどいことするにゃ!」
孟獲が唸ってるけどこれも戦略だ。
悪いが同情は出来ない。
こっちだって、この戦乱の世を生き抜いていかなきゃならない。
卑劣だの外道だの蔑まれようと、最終的には勝ったもん勝ちだ。
「みんな怯むにゃ!みぃに続くのにゃ!」
「「「おーにゃー!!!」」」
あんだけ痛手喰らったにも拘らずまた突っ込んでくる。
そういや、演義の方でも孟獲ってなかなか降伏しなかったっけ?
こっちでもそんな感じなのかな?
だとすると色々面倒だな……
「紫苑さんと桔梗さんは斉射を続けてください!鈴々ちゃんと翠さんは相手の動きを止めてください!」
「星さん・蒲公英ちゃんは左右から相手を揺さぶってください」
「あ、直詭さん。孟獲を孤立させたいので引き付けてもらえます?」
「まぁいいが……何だ、摘里も軍師らしく働けるのか」
「今さっき朱里ちゃんから言われたことをそのまま言っただけですけど?」
「前言撤回したくなること言うな」
さーて、孟獲一人だけを引き付けるのは骨だぞ?
何せ相手の兵士は孟獲を守ろうとしてる部分も見える。
どんな煽て文句使うか……
「あれ?愛紗はどこ行った?」
「愛紗さんなら恋さんの横でふにゃふにゃになってますよ?」
「よし、後で説教確定」
「うわぁ災難……」
戦場でふやけてる方が悪い。
「んじゃ行ってくるわ」
「別に心配してないですけどお気を付け痛い痛い痛い痛い!」
「そのうち本気で殴るぞ?」
「頭鷲掴みにするのも大概だと思うんですけどぉ?」
取り敢えず摘里は放っておこう。
摘里……違う、朱里に言われたことを果たさないと。
「おーい孟獲、俺の方来ない?」
「にゃー!お前はコブンに痛い目合わせたうらみがあるにゃ!さ、さっきは撫でられたけど、それとこれとは話が別にゃ!」
……想像以上に簡単に釣れた。
「じゃあ来な?俺は星と違って嘘吐きじゃない」
「ならみぃの攻撃、ちゃんと受け止めるのにゃ?」
「危ないと判断したら避ける。それじゃダメ?」
「むぅ〜……仕方ないにゃ、それでいいにゃ」
さてさて……
確かに危なくなったら避けるとは言った。
裏を返せば、危なくないものは受け止めるということにもなる。
……でもな?
俺は一言も、“攻撃をさせる”とは言ってないからな?
「なら行くにゃ──」
「ふっ!」
「にゃにゃにゃ?!」
孟獲が振りかぶるよりも早く刀を振るう。
急激な攻撃でバランスを崩したらしい。
よたよたと攻撃の勢いに敗けて孟獲は後ずさる。
「な、ななな!急には卑怯──」
「ホラもう一丁」
「うにゃにゃにゃ?!」
一丁と言わずに二撃三撃……
別に殺せとは言われてないし、殺すつもりもぶっちゃけない。
だから相手が受け止めるであろうギリギリを狙って刀を振るう。
少々手加減込だが、まぁ、体のいいサンドバッグになってもらおう。
「こ、こんのぉ〜……!」
「ホラホラ、避けないと危ないぞ」
「うにゃっ!?ず、ずるいにゃ!みぃにも攻撃させるにゃ!」
「それを許した覚えはないぞ?」
問答が続けど攻撃の手は休めない。
それでも相手の様子を伺いながら、タイミングをずらしたり合わせたり……
そのうち泣き出すんじゃなかろうか?
「い、いい、い、いい加減にするにゃ──」
「ホラ手がお留守だ」
「うぎゃっ?!」
刀を返して峰で脇腹を軽めに殴る。
それでも痛いのには違いない。
俺が殴った部分を抑えて孟獲が蹲る。
「う、うにゅぅうううぅぅぅ……」
「今のがこっちだったら危なかったぞ?」
そう言いながら刃の方を指さしてやる。
こっちに目はむけてないも、孟獲が涙目なのはわかる。
だって脇腹はさすがに痛い。
ま、狙って殴ったんだがな?
「……ずるいにゃ」
「攻撃したけりゃすればいい。でも間違うなよ?これは戦であって、俺とお前は敵同士……思い通りに動いてもらえると思ったら大間違いだ」
「だからって……だからって、さっきから攻撃し過ぎにゃ!!」
「攻撃しやすい姿勢でいるのが悪い」
あ、黙り込んだ。
コレはアレか、論破してやったという奴か。
まぁこれ以上詰め寄ったって泣かすだけだし、しばらくは様子見か。
詰め寄ってもいいんだけども……流石に悪趣味だろ?
「まだやれるか?」
「うぅ〜……当たり前にゃ!」
「なら行くぞ?」
相手が立ち上がって、武器を構える直前を見計らって一撃繰り出す。
別に俺の攻撃は重いわけじゃない。
とは言え、体制の整ってないうちから叩き込まれればバランスも崩すか。
「う、うぐぅ……」
「よしよし、耐えたな」
「まだまだなのにゃあ!」
「その意気だ」
でも相手に攻撃させる余地は与えない。
相手が振りかぶりそうになったらすかさず刀を振るう。
連撃にしてもいいけど、それだと本当に殺してしまいそうだ。
だから相手が防御できるギリギリしか狙わない。
ん、意地悪?
何か問題でも?
「うにゅう……うにゃあ!」
「ほれもう一丁」
「にゃあ!!」
「よし、今度はちゃんと避けないと危ない、ぞ!」
まぁ当てるつもりは更々ない。
でも相手の虚をつく形で、今までで一番切れ味のある刺突だ。
孟獲の髪が数本宙に舞って、孟獲自身も腰を抜かした。
「どした?」
「…………………………」
……泣かしたか?
「おい、何か言わないと分かんないだろ?」
「……ひぐっ」
「……あー、マズったか」
「兄様兄様!ちょーっとそのままね!」
「あ?」
何事かと思ったら、蒲公英が脇から飛び出してきた。
んで、腰を抜かしたままの孟獲をパパッと縛り上げる。
あ、よく見りゃ周りに誰もいねぇわ。
「はいはーい♪これだけ大人しいと縛るのも簡単だよね♪」
「美味しいとこ持って行きやがって……」
「えへへ♪ではでは……オホン!」
何を偉そうに咳払いしてやがる。
言うならさっさと言え。
「ガサツな蜀に咲く一輪の雛罌粟の花こと馬岱が、敵将孟獲を生け捕ったりぃ〜!」
後書き
孟獲の扱いがひどくてすいません(;^ω^)
でもあれですよ?
可愛い子ほど苛めたくなるって言う……
え、違う?
じゃあまた説教部屋直行?
……説教されるのはいいけど、今回は月に説教喰らうのがいいなぁ……
あ、あれ、愛紗さん?
何で青竜刀構えて──
では次話で
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