「えーーー!折角たんぽぽが捕まえたのにー!」
本物の猫でも扱ってるみたいに、孟獲の首根っこ掴みながら蒲公英が喚く。
まぁ今回は蒲公英の言いたいことも分かる。
何せ軍師たちの意見で、“孟獲が心服するまで何度でも戦ってやろう”と言うことになった。
つまりは、一度捕まえた孟獲を解放しなきゃならない。
「俺も正直に言えば反対なんだが?」
「確かに直詭さんの懸念されてることも分かります」
あんまり時間をかけるわけにもいかない。
なにせ、魏も呉も待ってくれるわけじゃない。
「それで桃香たちの意見は?」
「孟獲ちゃんと戦うことには賛成のようです」
「んー……じゃあ俺が我が儘言ったって仕方ないか」
「大局を見据えての意見ですので、直詭さんのは別に我が儘ってわけでも……」
「ありがと雛里」
とは言えどうやって戦う気だ?
一騎打ちは多分向うが承諾しないんじゃないかな?
星に散々苛められてたし……
まぁ、孟獲さえ心服すればいいなら、色々と策でも罠でも張ればいいだけか。
ぶっちゃけ、こっちの孟獲ってバカだし……
「それでですね直詭さん」
「ん?」
「孟獲ちゃんに、もう一度戦うことを言ってきてくれません?」
「何で俺が?」
「猫……ゴホン、孟獲ちゃんの扱いは多分、直詭さんが一番上手だと思うので……」
一応人間扱いしてやろうぜ?
俺にも前科があるから強くは言えないけども……
「分かった。んで、どういう風に戦うんだ?」
「そうですねぇ……」
「兄様兄様」
「どした?」
「そういう事ならたんぽぽに任せちゃってよ」
「却下……したいのは山々なんだがなぁ……」
星とは違う問題がある。
主に、蒲公英は悪戯好きだ。
だとすると、孟獲に対しても色々やらかすんだろう。
……今から孟獲がかわいそうになってきた。
「まぁ時間をかけないって言うなら仕方ないか」
「じゃあ準備してくるね♪兄様、孟獲の事よろしくね〜」
そう言って、蒲公英は意気揚々と走っていく。
……ハァ、これから色んな意味で死刑宣告しに行けとか酷だよなぁ。
「……ハァ。さて、孟獲」
「……………」
さっきまで蒲公英に捕まってたからか、何か随分と大人しい。
このままならもう戦わなくていいんじゃないか?
「さて孟獲、戦は俺たちの勝ちだよな?素直に降参してくれると嬉しいんだが?」
「み、みぃはまだ負けたわけじゃないのにゃ!」
「そう言うと思った……んじゃ、どうやったら負けを認める?」
「そうにゃぁ……もう一回みぃに勝ったら、お前たちに降参するにゃ」
「もう一回?現状、孟獲は俺たちに捕まってるわけだが?」
「うぐっ……!」
さぁどうやってこの状態からもう一戦整える?
こちらとしては解放するつもりだから何言われてもいいんだがな?
「もう一回一騎打ちでもするか?何なら相手選んでもいいぞ?」
「一騎打ちはいやにゃ。また青いのが嘘吐くのにゃ」
「いや、別に星じゃなくてもいいぞ?何なら俺が相手してやろうか?」
「お、お前も嫌にゃ!」
「じゃあどうする?」
あ、黙り込んだ。
んー、どうやって解放してやるか……
このままだんまり続けるなら助け船でも出したほうがいいかな?
「……まぁ、孟獲がこの場から逃げだしたらもう一戦できるかもだけどな……」
「それにゃ!」
……食いついたな?
「みぃを逃がしてくれたら、もういっかい戦えるにゃ!」
「孟獲を逃がして俺たちに何の得がある?」
「もういっかい戦えるし、そのときにお前らが勝てばみぃは降参するにゃ」
「ま、それでいっか。じゃあ逃がしてやるから、さっさと再戦して来いよ?」
「もちろんにゃ!」
「じゃ、逃げていいぞ」
俺が許可を下ろすと、テクテクとどこか不安げに歩いていく。
んで、数歩歩いたところで振り返って、こっちをマジマジと見つめて来る。
「ほ、ホントに逃げていいにゃ?」
「いいぞ」
んでまた数歩歩いてこっち向いて……
「ホントのホントに逃げていいにゃ?」
「いいぞ」
んでやっぱりまた振り返って……
「ホントのホントのホントに逃げていいにゃ?」
「いいぞ」
……以下略。
いい加減、しつこいって怒鳴ってやろうかとも思ったが何とか堪えた。
んで、かなり遠くまで歩いて、ようやく元気よく振り返った。
「バーカバーカ!お前らなんて次に会うときはギャフンと言わせてやるにゃ!」
あれを子供と見ずに居られるか?
ただ、昨今の子供でもあんな捨て台詞吐くかは疑問だが……
ま、俺の役目は一応終わりだな。
後は蒲公英の活躍を楽しみに……もとい、孟獲に強く同情するだけか。
●
それから──
「にゃにゃにゃ?!なんでこんなところに落とし穴があるのにゃ?!」
まぁ罠にかかるのは早かった。
孟獲が逃げて物の数分ってとこか?
横で蒲公英がこれでもかって笑顔を浮かべてるが、正直俺は孟獲が不憫で仕方がない。
「あははっ♪たんぽぽ、こういうイタズラって大好きなんだよねぇ♪」
「その辺は知ってる」
んで、落とし穴に落ちたのを皮切りに、孟獲は次々罠にはまっていく。
「にゃうーっ?!網が降ってきたのにゃー!?」
スズメ獲りって言うんだっけ?
饅頭につられてノコノコやってきたところで罠が発動。
見事に網の餌食になって身動き取れなくなってた。
「ふにゃーっ!?誰か降ろしてにゃー!!」
何故と言わんばかりに器用に罠に引っかかる。
逆さ吊りになって泣きべそかいてるな。
オイコラ愛紗、その恍惚な表情やめろ……
「ふぎゃーっ?!また落とし穴にゃー!?」
落とし穴(二回目)にも見事に落ちるもんだ。
そんなに分かり難いかアレ?
「また騙されたにゃー!酷いにゃー!!こいつらは悪魔にゃー!!!」
誰が読んでも分かるような偽のラブレターにも引っかかった。
まぁ内容までは知らんが……
ここまで罠に引っかかるのもある種の才能じゃないだろうか?
……にしても、これだけ引っかかってまだ懲りない。
仕方ないから解放(6回目)する。
解放するときに一々宥めるのもそろそろ面倒になってきたんだが?
「また網が降ってきたのにゃ!もういやにゃぁ〜!」
またスズメ獲りに引っかかるし(二回目)……
学ぶ努力というものを知らないらしい。
「うぇぇぇぇ……もういやにゃぁ〜、また引っかかったにゃぁ……みぃはもう帰るにゃぁ〜……」
極め付けに落とし穴(三回目)にはまって、出るのも億劫になったらしい。
穴の中でシクシク泣いてたので、仕方ないから引きずり出す。
……他の面々が恍惚な表情浮かべてるのが地味に腹立つ……
何だ、保護欲にでもかられたか?
「ホラホラ直詭さん。孟獲ちゃんの事よろしく」
「……ったく……孟獲、大丈夫か?」
「うー……うー……」
何か唸ってる。
しかも涙目だ。
ま、まぁ確かに、こういうのは保護欲が沸き立つというか……
……よし、一度落ち着こう。
「孟獲、まだやるか?」
「うー……うー……」
「これ以上やっても結果は変わらない気がするが?」
「う、うにゃぁぁぁぁ!もう刃向うのはやめにするにゃぁ!」
「ホント?!約束してくれる?」
「約束するにゃ。そこの青いのみたいに嘘吐かないにゃ」
桃香はご満悦って感じだ。
対して星は不満そうな顔してる。
まぁアレだ、それは仕方ない。
あんな戦い方すりゃ誰だって嫌になる。
「じゃあ桃香」
「うん♪じゃあ孟獲ちゃん、これで私たちお友達だね」
「トモダチにゃ!」
微笑ましい光景だ。
仲良く握手する二人に、周囲からも笑みがこぼれる。
「よかった。じゃあこれから私たちのお城に来て、一緒にご飯食べよ♪それで仲直りして、本当のお友達だね」
「……ああいうのは人徳って言うんだろうな」
「でしょうな」
「おいおまえら!」
おっと、孟獲をほったらかしだった。
「もうみぃはお前らと戦うのはやめにするにゃ」
「そっか」
「だから握手にゃ」
「おう」
……あ、この感触はヤバい。
めちゃくちゃ肉球が気持ちいい……
……落ち着け、落ち着くんだ俺……
「これで南蛮国とは仲良くなれたのかなぁ?」
「仲良しにゃ♪」
七縱七禽ってやつだな。
何か随分と歴史に沿った形になってひと段落だ。
でも、ここからは歴史に沿うのは難しくなるだろう。
それでも俺は進んでいく以外の選択肢をとれない。
だとしても、もう大丈夫なはずだ。
周りにはたくさん仲間がいる。
「いつまで続くか分からなくても、きっと、大丈夫だ」
後書き
南蛮編が少し短かったかと反省中。
少し日常編はさみますけど、ひょっとするとこれが最後の日常編になるのかな?
マズいなぁ、まだ扱ってないキャラがそこそこいるのに……
では次話で
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