「……………」
「……………」
静かな時間が過ぎていく。
時間の流れがゆっくりに感じる。
背中を木に預けて、のんびりと読書を嗜む。
横には同じように読書に熱中してる朱里がいる。
まぁ、俺が朱里を見つけて相席させてもらってるだけだがな。
「ん?なぁ朱里、ココってどういう意味だ?」
「あ、それですか?それはですね──」
時々、朱里に注釈を入れてもらう。
読んでる本はいわゆる兵法書。
俺だってたまにはこういう勉強だってする。
とは言っても、軍師が傍にいるときに限られるがな……
「あー、成程」
「直詭さんは呑み込みが早いですから、別に私が言わなくても分かりそうですけどね」
「そんな事ねぇよ。これ、初歩の初歩の本だろ?それでも分からない部分あったりするんだから、教えてくれる奴がいてくれて助かってるよ」
「ふふっ、直詭さんはご自分の事となると過小評価されるんですよね」
そんなつもりはないんだが?
「でも朱里、何時もここで本読んでるのか?」
「いつも、というわけではないですよ。流石に天気が悪い日は自室で読みますし」
「まぁそりゃそうだろうけど……」
「でも、外で読む本って言うのも楽しいんですよ。同じ本でもその感じ方が変わってきたりしますし」
「そんなもんか」
その辺の感覚はさすがに分からん。
コレは普段から本に埋もれてるような奴ならわかるんだろうな。
俺はどっちかって言うと体を動かしてる方だから、朱里の感覚についていけないだけだろう。
「お主ら何しとる?」
「ん?」
誰かと思ったら桔梗か。
「見たら分かるだろ?絶賛読書中だ」
「こんなに天気のいい日に外ですることがそれか……もったいないのぉ」
「そうでもないですよ?」
「桔梗なら何するんだよ?」
「コレじゃな」
そう言いながら酒を飲むジェスチャーしてみせる桔梗。
まぁそうだろうな。
桔梗って星以上に酒が好きなイメージあるし。
「よかったらこれから付き合わんか?」
「真昼間から酒って言うのは俺はあんまり……」
「わ、私もちょっと遠慮します……」
「釣れない連中だのぉ。そもそもどんな本読んでおる?」
「ほい」
何か興味をそそったのか、桔梗が本を貸してくれとせがむので俺が読んでるのを渡す。
んで、数ページ捲って渋そうな顔をしながら返してきた。
べつに勉強嫌いでもないくせに……
まぁ多分、気分が乗らないだけだろうな。
「こんな小難しい本を、こんなに天気がいい日に外で読む奴の気が知れん」
「目の前に二人いるのにか?」
「……ん?朱里、お主は本当に兵法書を読んでおるのか?」
「ふぇっ?!」
へ?
だって表紙にはそう書いてあるぞ?
「ワシは兵法書を読みながら顔を赤らめてる奴こそ見たことがないがのぉ」
「は、はわわ……」
「……ちょっと朱里、借りるぞ」
「はわわっ?!」
半ば無理やり朱里の手から奪い取る。
んで中身を読んでみると……
「またこういう類か……」
「“また”?直詭、どんな内容じゃ?」
「読んでみな」
桔梗にそのまま手渡す。
朱里はと言うと、武力派には勝てないと察したんだろう、俯いたまま固まってる。
桔梗は桔梗で、読みながらニヤニヤしだした。
「朱里も隅におけんのぉ」
「うぅ〜……」
「てかさ、何をそんなに胸の大きさで悩むわけ?」
「な、直詭さんにはわかりましぇん!」
噛むな……
「じゃがのぉ、あんまり大きすぎてもいいこともないぞ?肩や腰も凝るし、何より邪魔に思うと時さえある」
「そ、それは桔梗さんだからこそ言えることでしゅ!一度私くらいになってみてくだしゃい!そうしゅれば私の気持ちが分かりましゅ!」
「何が分かるんだよ……」
朱里の読んでた本って言うのは、胸を大きくするための秘術、みたいなのが載ってる本だ。
ざっと見ただけだからどんな内容かまでは知らん。
ただ、実践する価値はなさそうだ。
理由?
……まぁ隣にいるのはいくつか実践したことあるだろうからさ……
「しかし……面白いことも書いてあるものだのぉ」
「何が書いてあるんだ?」
「ん?ほれ、ココ読んでるといい」
「ん〜?」
桔梗が指差しながら本を渡してきた。
何々……?
「“胸を大きくする秘訣の中で外せないのは恋をすること!意中の男性に揉んでもらえば大きくなるのは必然!”」
「こ、声に出して読まないでくだしゃい!」
「いや……コレはさすがに疑えよ」
「で、ですけど!」
「まぁまぁ……そんなに言うなら、直詭が実践してやればどうじゃ?」
「…………………………あぁ?!」
おい桔梗、急に何を言い出す?
それってつまりどういう事だ?
「おい、それってどういう──」
「朱里は直詭の事、それなりに好いておるじゃろ?」
「は、はわわ?!」
「なら、直詭に揉んでもらって大きくなるか試してみればどうじゃ?」
「おいてめぇ……」
ひょっとしてもう酒が入ってるのか?
もし素面なら本気で怒るぞ?
……いや、これはすでに飲んでるの確定だ。
今更ながらよく桔梗の顔見てみりゃほんのり顔が赤い。
「却下だ」
「ほぉ?直詭はそう言うのは好かんか?」
「好きとか嫌いとかそういうのはいい。ただな?試しに胸を揉んでみろって発想に付き合う気がないだけだ」
「ないんですか……」
んで、何で朱里は残念そうにしてるわけ?
お嬢さんホントは揉んでほしかったとでも言いたいの?
「なら直詭。お主の知識で胸を大きくする術を教えてやったらどうじゃ?」
「そんな知識ねぇよ」
「なら、そうじゃのぉ……そもそも揉めば胸が大きくなるというのは本当の事か?」
「……合ってるかどうかは知らないが、揉んでもらって大きくなったって言う話は聞いたことある」
「!!?」
おいそこ、過敏に反応するんじゃねぇ。
「それは興味深いのぉ」
「でも、ただ揉めばいいって言うだけじゃないとは思うぞ?」
「そうなんですか?」
「よくは知らないんだが……女性ホルモンを分泌させると大きくなるとかならないとか……」
……すまん、ホルモンなんて言って分かるわけないか。
首を傾げる二人になんて言おうか考える。
こっちの時代に合わせて説明するのも難しい話だぞ?
「その、ほるもん?というのはどうすれば分泌されるんですか?」
「あくまで聞いた話だから真に受けるなよ?俺が聞いたのは、性的な刺激を与えれば分泌されるってことくらいだ」
「つまりは……夜を共にすれば胸は大きくなると?」
「極論だとそう言うことじゃねぇのかな?第一、俺は男だし、この手の話に詳しいわけでもない」
「ちなみに、直詭さんの知ってる限りで成功例と言うのはありますか?」
「んー……聞かねぇな」
こんな話、同じ学園の女子に聞けるわけもない。
急に胸が大きくなれば多少なり噂にもなるかもしれないが、そんな話は聞いたことがない。
ネットとかだと見たことがあるが、アレは半信半疑だ。
よく、誇大広告とかのネタでも使われるしな。
「……で、話は前後するけど、朱里は胸を大きくしたいわけ?」
「はわわ?!」
「それはそうじゃろう。こんな本を熱心に読んでるくらいじゃし」
別に気にすることは無いと思うんだが?
まぁ、摘里は朱里と同じくらいの背丈のくせに結構胸デカいっけ?
そう言うのが身近にいると気にするもんなのかな?
「ひょっとしてだけど……雛里も同じようなこと考えてたりするわけ?」
「雛里ちゃんですか?そうですね、一緒にこの類の本は読んでます」
もう隠す気はないらしいな。
「しかし直詭、お主はどっちが好きじゃ?」
「どっちとは?」
「朱里ぐらい控えめな胸がいいか、ワシくらいの胸がいいか、じゃ。男ならそう言う部分にも興味はあるじゃろ?」
「無いとは言わねぇが、俺はそれほど気にしたことは無い」
「格好つけんでいいぞ?」
「つけてねぇよ」
俺は誰かを好きになったとしても、胸の大きさにはこだわらねぇよ。
好きになった奴が大きいか小さいかはその相手次第だ。
そこだけ見て好きになることは無い。
「そりゃ、桔梗が煽情的な格好してたら目は逸らすけど……それはあくまで照れ隠しであってだな……」
「やっぱり直詭さんも大きい方がいいんですね」
「なんでそうなる?」
「だって……」
あー、この話題終わらせたい……
対照的な奴が一緒にいると色々面倒だ。
「取り敢えず直詭。今夜、試してやればどうじゃ?」
「だからやらねぇって──」
「ダメですか?」
「……………は?」
「あの、その、えと……な、直詭しゃんなら、その、いいでしゅ……」
そんなに顔赤くするなら言わなきゃいいだろ?
てかこの子何口走った?
「そうかそうか。なら今晩は直詭は頑張らんとの」
「おい、何でそういう話になってる?」
「じゃが、朱里自身がいいと言っておるのだぞ?据え膳食わぬは男の恥……しっかりと平らげてこそ優れた雄でもあるしの」
「いや、だから……」
「よ、よろしくお願いしましゅ!」
この子完全にやってもらう気満々だよ……
「ちなみに拒否権は?」
「ん?直詭は愛い女子の胸が揉めるのに嫌と申すか?」
「わ、私なら大丈夫でしゅよ?!」
「本人もこう言っておる。ここで引き下がるのは男としてどうかと思うがの?」
ニヤニヤしやがら言いやがってからに……
くそ、どこか逃げ道は──
「何なら雛里も混ぜてやったらどうじゃ?雛里も気にしておるんじゃろ?」
「呼んでおきましょうか?」
「いや、やめてくれ」
「べつに全部食えと言っておるわけではない。胸を揉んで大きくしてやればいいだけの事。ほれ、男ならシャキッとせい」
……この野郎、他人事だからって楽しそうにしてからに……
マズイマズイマズイ……
このままだと取り返しのつかないことになるかもしれん……
「そ、そうだ!摘里に聞けば──」
「もう聞きました」
「あ、そう……」
「諦めるんじゃな」
おい、誰か代わってくんない?
この際誰でもいいから……
「そ、そうなれば……」
「ん?どうした朱里?」
「じぇ、善は急げと言いますし、今から私の部屋に──」
「待て待て待て!取り敢えず君は一旦落ち着こう!な?一度深呼吸して自分が何言ったか省みようそうしよう!」
「まだごねるか……」
当たり前だ!
そ、そりゃ朱里の事は好きだぞ?
だからって、言われるがままに夜を共にしろとか言われてできるわけないだろうが!
「仕方ないのぉ……」
「あん?」
「朱里、直詭の腕をつかんでくれるか?」
「へ?こ、こうですか?」
「おい桔梗、一体何を──」
って、おいちょっと待て!
その徳利はいったいどこから出した?
てか、そのまま俺の口に突っ込むのはやめ──
「うぶっ──」
「直詭も雄なら本能のままにすればいいだけの事じゃ。ワシの秘蔵の酒じゃぞ?」
「ひょ、ひょっとまへ……!(ちょ、ちょっと待て)」
「ほれ、溢すでない」
──……こ、これはヤバい……
この酒相当強いぞ?
一気に飲まされたってのもあるけどすでにくらっとして……
「……な、直詭さん、大丈夫ですか?」
「うぅ……ん……」
「これなら酒の勢いに負けたと言い訳がつくじゃろ?ほれ朱里、そのまま部屋に連れて行ってやれ」
「は、はひっ!」
やべぇ、すでに意識が朦朧としてきた……
これから俺、何やらかすんだ?
後書き
雑談でお目汚ししましたが、新作にも手を出してます。
なのでちょっとペースが安定しません。
ある程度はこっちに本腰置きたいんですが、新作の方もネタが浮かぶと書きたくなるというか……
ま、年内に完結させたいという目標もあるので、今後も頑張っていきます。
では次話で
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