ドタドタドタドタ!!!
……何だ何だ?
なんか部屋の外からすさまじい音がするんだが……?
音から察するに、誰かがものすごい勢いで走ってるのか?
まぁこんな真昼間からご苦労なことだ。
「いーやーにゃー!!」
「ま、待てと言うに!」
……ん?
この声と口調……
孟獲──美以と愛紗か?
「何やってんだ?」
この二人の組み合わせは別に珍しいことじゃない。
主に愛紗が美以を追いかける意味合いではな。
今の会話のやり取りからも、愛紗が美以を追っかけてるんだろう。
でも、いつもならそんなに嫌がったりしないはずだが?
「おい、何を騒いで──」
「にぃに!助けてにゃ!」
「うぉっ?!ちょっ、急に飛びついてくんな──」
部屋から出た途端、何かの弾頭みたいに突っ込んできた美以に押し倒された。
ちょっと痛かったぞ?
「あ、直詭殿。ちょうどよかった」
「痛たたた……おい二人とも、さっきから何を騒いで──」
「にぃに、助けてにゃ!あいしゃがいじめるにゃ!」
「こ、コラ美以!そのような人聞きの悪いことを──」
「よしお前ら一度落ち着け」
俺の上に乗っかったままの美以を下ろして一息つく。
あたふたしてる愛紗も制止する。
このままじゃ埒が明かない。
「そうだな……愛紗。まずは美以に何しようとしてたか言ってくれ」
「聞くにゃ!あいしゃはみぃに水攻めでいじわるしようとしてたにゃ!」
「はいはい。んで?」
「いや、その……かなり汚れてたから風呂に入れようと……」
あー、そういう事か。
把握した。
「美以、今日は狩りにでも行ってたのか?」
「そうにゃ。こんなにおっきな猪見つけたにゃ!」
両手を広げて、獲物の大きさを教えてくれようとする。
よっぽど凄絶な狩りだったんだろう。
よく見りゃ泥まみれだ。
そりゃ愛紗が風呂に入れたがるのも分かる。
「んで成果は?」
「フフン!聞いて驚くにゃ!みぃの一撃で、猪はちゃんと仕留めたにゃ!」
「おぉ、そりゃすごい」
頭撫でつけてやるとものすごく嬉しそうにする美以。
……愛紗、落ち着け。
その恍惚な表情やめろ。
「んで、ミケ・トラ・シャムはどうした?」
「……あ、それがその……逃げられて……」
「見失ったと」
「……………(コクン)」
何やってんだか……
ミケ・トラ・シャムってのは美以の部下だ。
大抵はいつもこの4人で行動してるのを見かける。
多分今日の狩りもこの4人で行ったんだろうな。
「美以、そんなに汚れて気持ち悪くないのか?」
「べつに何ともないにゃ?」
「南蛮にいたころも汚れたままだったのか?」
「時々水浴びはしてたにゃ」
「そっか……そういう暮らしか……」
風呂とは無縁の生活してたのか。
だとすると、無理に入れようとしても嫌がるのは自明の理。
はてさて、何と言って入れるか……
「まぁ猫はあんまり水が好きじゃないとも言うしなぁ……」
「いや直詭殿。それとこれとは……」
「違うか?」
「うっ……」
「まぁ取り敢えず美以、汚れはちゃんと落とさないとな」
「べつに問題ないにゃ?」
ちと面倒だな……
何かいい案は──
「…………………………そうだ」
「どうしたにゃ?」
「美以、風呂に入る気はないんだな?」
「そうにゃ」
「なら……俺の部屋に来るのを禁止する。それならどうだ?」
「にゃにゃにゃ?!」
こっちの世界に来るまではそれほど感じたこともないんだが、どうも俺はネコ科に好かれるらしい。
まぁその原因の一端を担ってるのはスミレのやつなんだろうが……
んで、そのお蔭か、美以たち南蛮の連中からもすこぶる好評だ。
蜀が南蛮を併呑する前は怯えられてたのが嘘みたいだ。
懐かれてるからか、美以たちはよく俺の部屋に遊びに来る。
俺が寝てる間に布団に潜り込んでくることも何度かあった。
その遊び相手をやめると言ったら、さぁどうくるか……?
「に、にぃにと遊べなくなるにゃ?!」
「ちゃんと風呂に入るなら今まで通り遊びに来ていいぞ?」
「う、うにゅぅ……背に腹は代えられないにゃ……」
よしよし、入る気になったか。
「で、でも!にぃにも一緒に入るにゃ?」
「まぁそれがいいっていうなら一緒に入ってやる」
「な、直詭殿?!」
「なに狼狽えてんだよ?」
「そ、その!混浴と言うのはさすがに……」
「何言ってんだ……愛紗も付き合えよ?」
「……………はぁ?!」
当たり前だ。
元はと言えば愛紗が美以を風呂に入れようとしてたんだろうが。
それを俺に丸投げされても困る。
それに、だ。
入れるのは美以だけじゃなくて、ミケたちもだろ?
4人もまとめて面倒見切れるか……
「ホラ!愛紗はまずミケたちを風呂場に連れて来い」
「そ、それは引き受けるが……その……私も一緒に入れというのは、その……」
「……ハァ、なら濡れてもいい服でも着てこい」
そのくらい考えろ。
愛紗の面倒まで見ろとか言うならさすがに降りるぞ?
「にぃに……」
「そんなに水が怖いのか?」
「そ、そういうわけじゃないにゃ……」
「……安心しろ。誰も湯船に叩き落としたりするようなことはしないって」
そんなことするような奴がいるならぜひともお目にかかりたいものだ。
お目にかかってどうするかって?
……まぁ人前では言えないような説教をするだけだがな?
●
「お湯にゃー!」
「お湯だじょー!」
「ふにゃぁぁぁ」
さっきまであんなに嫌がってたくせに、今では湯船の広さに興味津々って感じだ。
子供って現金だよなぁ……
「ホラ、湯に浸かる前に体洗うぞ。愛紗はミケとシャムを頼むわ」
「承知した」
てか愛紗、本当にその恰好でいいんだな?
バスタオル一枚しか身に着けてないが、下手するとかなり際どい格好になるんだぞ?
まぁ俺も同じように腰にタオル巻いてるだけなんだが?
「よーし、美以にトラ、こっちこい」
ただ、まだどこか水に怯えてる感じは否めない。
こういった子供をどうすればいいのかはさすがに分からないし、紫苑でも呼べばよかったかと今更ながら反省中。
「先に洗ってほしいのはどっちだ?」
「ならトラから洗うにゃ!」
「お、元気いいな。ならトラからな」
自分から立候補してきたし、まずはトラを俺の前に座らせる。
まずは頭からだな。
さてさて……
「トラ、目や耳に水が入ると痛いからちゃんと塞いどけよ?」
「わかったにゃ」
「んじゃ、湯かけるぞ」
しっかりと目と耳をふさいだのを確認したのを見てから湯をかける。
なんか可愛い悲鳴が聞こえたが、まぁそのくらいは想定内だ。
んで、出来る限りさっさと洗ってやる。
苦手なものに長々と付き合わせてやってもかわいそうだしな。
「にゃにゃ?なんかくすぐったいにゃ」
「ほらジッとしてろ」
「はーいにゃ」
聞分けはいいな。
これなら然程手間取ることもなさそうだ。
「……よし、こんなもんだろ」
「にゃ?もういいにゃ?」
「後は体だ。石鹸付けた手拭い渡すから、自分で隅々まで洗いな」
どうもトラは聞分けがいいらしい。
俺が手拭いを手渡すと、素直に体を洗い出す。
「よし、トラはこれでいいとして……ホラ美以、次はお前の番だ」
「わ、分かってるにゃ……」
どうも南蛮の大王はまだ水が怖いらしい。
でもそうも言ってられない。
べつに寒いわけじゃないが、長い間裸でいて風邪でも引かれたらそれこそ厄介だ。
早く体を洗って湯に浸かってもらわないとな。
「ホラ、湯をかけるからさっきのトラみたいに目と耳塞げ」
「う、うぅぅぅ〜〜〜!」
誰もそんな勢いよくかけねぇよ……
ゆっくりかけてやるけど、それでもビクッて反応する。
大王の威厳もあったもんじゃないな。
「美以、そのまま目瞑ったままでいろ」
「なんでにゃ?」
「目に石鹸水が入るとすごく痛いんだよ。目も悪くなるしな。だからそのままギュって瞑ってろ」
「わ、分かったにゃ……」
いや、そんなに縮こまらなくていいんだぞ?
むしろ前屈みになられると頭洗い辛いし……
「もうちょっと背筋伸ばせって」
「こ、こうにゃ?」
「そうそう。そのまんまな」
多少適当になるが、手っ取り早く終わらせるにはやむを得ない。
早めに湯をかけて石鹸を落としてやる。
「これで顔拭け」
「うにゅにゅ……」
「もう大丈夫か?」
「だ、大丈夫にゃ!」
「ならトラみたいに体は自分で洗え。その手拭いに石鹸付けて、そうそう……腕や足だけじゃなくて股とか背中もちゃんと洗えよ」
一生懸命にゴシゴシと頑張ってる。
こういうのは見てて可愛いだとかそういう感情が芽生えても仕方ない。
そう言えば、こっちの世界にもシャンプーハットとかあればいいのかもな。
そうすりゃ頭洗うのも自分でできるだろうし……
「にぃに、終わったにゃ!」
「こっちも終わったじょ!」
「なら流すぞ」
しっかりと洗えたらしい。
二人の体から石鹸を落として、これで任務完了だ。
「よし、じゃあ湯に浸かっていいぞ」
「美以が一番にゃ!」
「だいおーには負けないにゃー!」
「飛び込んだら説教な?」
「「にゃにゃにゃ?!」」
そうは問屋が卸さない。
こんな広い湯船なら確かに飛び込みたい気持ちも分からなくはない。
ただ、その辺はモラルを守ってもらわないと困るからな。
俺からの説教が嫌なのか、二人ともちゃんと大人しく湯船に浸かった。
「お、直詭殿も済んだのか」
「そっちもご苦労さん」
愛紗がミケとシャムを連れて湯に浸かってきた。
さて、俺も湯を満喫するか。
「……ってオイコラ、何で人の膝の上に乗ってるんだ美以?」
「ダメにゃ?」
「……ハァ、好きにしろ」
まぁこのくらいは許してやるか。
ちゃんと風呂に入るって約束守ったわけだし。
って、他の連中もなんか擦り寄ってきたぞ?!
おい愛紗、そんな呆けた顔してないで助けろ!
「……羨ましい……」
「この役立たずが……」
ゆったりした時間が過ぎていく。
こんな日がいつまでも続くことを今は祈るか……
後書き
す、ストックがやべぇ……
このペースで投稿できるのがいつまで続くか分かんないです(;^ω^)
お付き合いいただければ幸いですが、何分ヘタレな作者ですので……
では次話で
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