虎の章/第41’話『今ここに全員集合!』
「おっねぇさまーーーーーっ!!」
随分と元気のいい声が辺りに響く。
その声を聞いて、雪蓮も随分と嬉しそうだ。
「シャオ!元気だった?」
「もっちろん♪毎日、水浴びしたり街で遊んだり。楽しかったよー?」
「ふふっ、遊んでばかりねぇ……勉強の方は?」
「もちろん、ちゃんとやってたよ!」
「へぇ〜?シャオ殿、自分の目にはそのようには映っていませんでしたが?」
「玲梨知ってる?本当の智っていうのは、机上の本読みで会得出来るモノじゃないんだよ?」
「さようでありますか」
「……まったく……玲梨の宿題を一度たりともやらずにこの言い様とは……」
蓮華が苦言を漏らしたのに、シャオって呼ばれた方はペロッて舌を出してる。
あー、コレはアレだ。
この三姉妹の中で蓮華は可愛そうな立場ってことだな。
対して、玲梨って呼ばれた方は優しげな眼で二人のやり取りを見てる。
まるで自分の子供でも見ているかのように……
所謂“微笑ましい”って奴なんだろうな。
「それに体を動かすことの方が、今の私たちにとっては大事なことでしょ?いつ袁術の刺客に襲われるか分からないんだし」
「王として民を善く治める為に、学問も必要なのだがな」
「そう言うの、シャオ興味ないもーん♪」
無邪気と言うか屈託がないというか……
たしかに孫呉の面子の中だと“一番女の子らしい”とは思うかな。
「あなたが天の御遣い?」
「ん?まぁ、そう言う肩書だ」
「ふーん……私の名前は孫尚香。真名は小蓮って言うの。シャオって呼んでね」
「白石直詭って言う。まぁ、ぼちぼちよろしく小蓮」
「ちょっと!“シャオ”って呼んでって言ったじゃん!」
「愛称で相手を呼ぶのに慣れてねぇんだよ。大目に見てくれって」
「むぅ〜……いつかちゃんと呼んでよ?」
小蓮には悪いけど多分呼ばないな。
俺ってそう言う人間だし……
「直詭、元気だったか?」
「まぁな。蓮華も元気そうで何より」
会ってなかったのも、二ヶ月くらいだけどな。
「目の方はどう?流石にまだ戦場は厳しそう?」
「雪蓮たちのお蔭でそれなりに様にはなってるとは思う。実際の戦場にはまだこの目で出てねぇけど、まぁなんとかするって」
「無理はダメよ?あ、ところでお姉さま。お姉さまに引き合わせたい人間がいます。亞莎」
蓮華の呼び声に、一人の女の子が反応した。
「は、はひっ」
「この者の名は呂蒙、字は子明。我らの新たな仲間です」
「冥琳から報告は聞いてるわ。今回の一揆騒ぎも、あなたが立案・実行してくれたそうね?ありがとう、そして初めまして呂蒙」
「は、はじめまして!」
「ふふっ、そんなに緊張しなくてもいいわよ。これからは共に戦っていく仲間なんだから……我が名は孫策、真名は雪蓮。あなたの真名も私にくれる?」
「は、はいっ!真名は亞莎と申します!あ、あの……英雄で在らせられる孫策様にお会いできて、光栄至極です!」
「こちらこそ。亞莎、あなたの命は私が預かる。期待してるわよ」
「は、はひっ!」
モノクル付けて、ちょっと目つきが鋭いけど、たどたどしいって言うか……
ま、緊張してるだけっぽいし、仕方ないか。
「蓮華、亞莎に直詭の事は伝えてるの?」
「はい、一応は伝えました。亞莎も承諾してくれています」
「そう。なら、亞莎には直詭の事も紹介しなくちゃいけないわね。亞莎、彼が白石直詭……あなたの夫となる男よ」
……その紹介の仕方は果たしてどうなんだか……
ホラ見ろ、呂蒙も硬直してるし……
「……白石直詭だ、よろしくな」
「……っ!……………っ!」
「……蓮華、この子って人見知りが強いとか?」
顔を赤くしたり隠したり……
言っちゃ悪いけど挙動不審なのが気になる。
「あまり気にするな。亞莎は恥ずかしがり屋だから照れてるんだろう」
「て、照れてはいません!た、ただちょっと怖いだけです!」
「怖い?俺ってそんな風に見える?」
「いいえ、あの……見慣れぬ人が怖いんです!」
「……蓮華?」
「本人曰く、人付き合いが下手なんだそうだ」
「わ、私はその……目つきが悪く、人を不快にさせてしまいますので……」
んー、そうかな?
確かに鋭いとは思うけど、目つきが悪いって言うほどでも……
「見た感じ、悪い印象は受けねぇけど?」
「うんうん。如何にも軍師って感じの、鋭い目をしてると思うけど?」
「俺も雪蓮に同意見」
「そうでしょ?私も何度も言ってるんだけど、どうやら本人は目つきが悪いと思いこんでるようで……」
「んー……ちょっと見せてもらっていいか?」
「で、ですが……!」
「ちょっとでいいし。な?」
「……………」
頼み込んでようやく見せてくれた。
うん、全然悪い目つきじゃない。
むしろ、まっすぐな綺麗な目をしてる。
「綺麗な目してるよ。悪い点なんて無いな」
「……………あ、あの……!」
「ん?」
「私の真名は亞莎、です……この名前、あなたにお預けします!」
「随分いきなりだけど、いいのか?」
「直詭の事が気に入ったんでしょ。そうでしょ、亞莎?」
「……っ!(フルフル!)」
「ふふっ、いくら否定したって、耳が真っ赤になってるわよ」
「……雪蓮、あんまり苛めてやるなって」
「ふふっ♪まぁ、しばらくは慣れないかもしれないけど、徐々に仲良くなっていきなさいな」
「ま、そのつもりはある。よろしくな、亞莎」
「は、はひ……よろしくお願いします、直詭さん」
まぁ、人見知りとかってなかなか克服できないしな。
この辺は時間かけて、って感じだな。
「……あのー、雪蓮殿?ことのついでに自分も自己紹介してもかまいませんか?」
「あれ?玲梨ってまだ会ったことなかったっけ?」
「これが初顔合わせです」
「あーうん、俺もこの人の事気になってた」
所々白髪の混じった茶色の長髪が特徴的な女性。
さっきから名前は知ってたけど、まだ言葉は交わしてない。
……コレを思うのは失礼な話なんだけど、雪蓮とか冥琳とか祭とかがいる中で、この人の胸の小ささが何となく目立ってる気がする。
「じゃあ二人とも、お互い自己紹介して。あ、でも、蓮華は直詭の事、玲梨に言ってあるのよね?」
「伝えてはありますが……」
「ま、こんな老獪で良ければもらってくれ」
「……言うほど年食ってる様に見えないけど?」
「これでも祭とは同年代。炎蓮様の時代から孫家にお仕えしているのでな」
えっと、炎蓮って確か孫堅さんの真名だったな。
前に冥琳から聞いた気がする。
「自分は韓当・字は義公・真名は玲梨。蓮華殿から聞いてはいたが、確かに愛い顔をしているな」
「一応名乗るけど、白石直詭な。そっち方面でからかわれるのは勘弁なんだけど?」
「ハハハ!ま、それも然りか。ただ、自分と夫婦になるのなら、雄らしい部分はしっかりと見せてもらいたいがな」
「……えらくがっつくな……」
「その辺の理由は追々、な」
何て言うか、豪放磊落ってやつか?
孫呉の面子ってそんな奴ばっかなのか?
「ふむ……これで顔合わせは済んだな。ではそろそろ動こうか」
「そうね」
小さく頷いた雪蓮が、合流を果たした部隊の先頭に立つ。
それとほぼ同時に、この場に居合わせている人間の顔が真剣そのものになる。
それに乗せられたわけじゃないけど、俺も背筋が伸びる思いになった。
「孫呉の民よ!呉の同朋たちよ!待ちに待った時は来た!栄光に満ちた呉の歴史を、懐かしき呉の大地を!再びこの手に取り戻すのだ!!」
「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!」」」」」
「敵は揚州にあり!雌伏の時を経た今、我らの力を見せつけようではないか!これより孫呉の大号令を発す!呉の兵たちよ、その命を燃やし尽くし、呉のために死ね!全軍、誇りと共に前進せよ!宿敵、袁術を打ち倒し、我らの土地を取り戻すのだ!」
「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!」」」」」
●
血気盛んで、統率のとれた大軍勢。
この進軍を止めようなんて、普通に考えて難しい。
しかも、相手は袁術……
俺たちが合流する前に、遠回しとは言え宣戦布告したのにすら気付かないようなお頭の持ち主だ。
当然、相手の対応は遅れに遅れてるわけで……
「前方に寿春城が見えました!敵影無し!」
「ええっ?!敵影無し?!」
「……呆れてものも言えませんね」
「まぁ、相手がどの程度の奴らか知らない訳じゃないんだ。どうせ今頃、慌てふためいてるってだけだろ」
「あ!敵城に動きあり!城壁に兵が出てきています!旗も揚がったようです!」
「おっそ!……袁術ってもしかしてバカ?」
「もしかせんでもバカじゃな」
「哀れみすら覚えてくるほどのバカだな」
「あまりにも危機管理がなっていないな……それだけ雪蓮姉様を信用していたと言うことか?」
「いや……そもそも裏切られるって考えに至らなかっただけだろ……」
「ふっ、恐らくそうだろうな」
「そんなところまで気が回るほど、お利口さんじゃないでしょうからねぇ〜」
皆口々に罵って行く。
とは言っても、事実をありのまま言ってるだけなんだけど……
玲梨も言ってたけど、確かに哀れみすら感じるな。
「敵の動きが鈍い今こそが好機、体制が整う前に一揉みに揉むのが良いと思います」
「それが良いだろう──む?だが待て、城門が開いたようだぞ」
「旗は?」
「張!大将軍張勲のようです」
「大将軍ねぇ……どの辺が“大”なのかしら?」
「どうせ“馬鹿”か“阿呆”の前につく言葉が“大”ってだけだろ」
「ぷっ!違いないわね。じゃ、袁術ちゃんの相手をする前に、準備運動と行きましょうか」
「準備運動になるかは甚だ疑問ではあるがな」
「全くだな」
年長コンビが呆れてる。
まぁ、こんな場面に出くわしたら、律だって呆れるだろうな。
「敵軍突出!こちらに向かってきます!」
「了解。そうねぇ……蓮華、この戦いはあなたが指揮を執って見せなさい」
「え、私がですか?」
「ええ。大丈夫よ、張勲なんて軽く捻っちゃいなさい♪」
「……はい!」
気合を入れ直して、凛とした目になった蓮華が号令を発する。
「では、孫仲謀、これより前軍の指揮を執る!各部隊は迎撃態勢を取れ!突出する敵を半包囲し、一気に粉砕するぞ!」
「「「「「応っ!!!」」」」」
後書き
まぁぼちぼち続けて行こうとは思ってます。
……魏のルートも考えないとなぁ……
ま、なんとかなればいいなぁ
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