あー腹減った……
今日は霞との稽古だけだったけど、ちょっとハードだったか?
汗は流したけど、腹の虫が合唱してる。
適当に何か作るか……
「あ、御遣い様!」
「ん?」
誰かと思ったら兵士たちか。
俺の部隊の奴も一人混じってる。
後は……何だ、器用にばらけたな。
俺・恋・霞・律の部隊の奴が一人ずつと、斥候によく出てる奴が一人の計5人。
「御遣い様も今お食事で?」
「あぁ。何なら全員分作ってやろうか?」
「いいんすか?!」
「一人で食うよりみんなで食ったほうが美味いだろ?その代り、味の保証はしねぇぞ?」
「御遣い様の腕は聞き及んでます!大いに期待させていただきます!」
そんなに持ち上げんな。
ちょっと不安になるだろ?
「それより、この5人はよく一緒にいるのか?」
「そうっすね。生まれが同じってのもあって、よく一緒にいるっす」
「董卓様にお仕えした時期は違いますがね」
「成程な」
生まれが一緒なら普段からも行動を共にするもんか。
ま、それはさておき、何作るか……
「適当に作っていいか?」
「作っていただけるなら何でも!」
「正直な奴だ」
食材は……ふむ……
こんだけ揃ってるなら、普通に炒飯でもよさそうだな。
……待てよ?
確かこの間市場で見かけて、衝動買いしたものがあったはず……
「あぁ、あったあった」
「何すかそれ?」
「以前に買っておいたものでな。ま、楽しみにしてろ」
こっちでは滅多に食えないものをご馳走してやるか。
しっかし、よくもまぁ市場に出回ってたもんだ。
確かあの商人、西の方から来たとか言ってたな。
……結構な距離だったんじゃねぇか?
「いやぁ、俺これで4回目ですよ。御遣い様にご馳走していただくの」
「マジか!?」
「マジだ」
「それは聞き捨てならんな、なぁ兄上」
「そうだな弟」
「へ?お前ら兄弟?」
「「はい」」
兄弟で月さんに仕えてるのか。
んで、兄貴の方は律の部隊、弟の方は斥候部隊。
部隊長が違い過ぎないか?
主に性格的な意味で。
「それよりも、御遣い様の料理を喰ってたなんて聞いてねぇっすよ!」
「偶然お呼ばれしただけですって」
「で、味は?」
「その辺の屋台で食うよりよっぽど美味かったです!」
「……褒め過ぎだ」
そこまで上手いという自負はない。
大体、こいつを呼んだ時に作ったのって、そこら辺にあった有り合わせだぞ?
そんなのと屋台の店頭に並ぶ料理を比べられても困る。
「それで御遣い様、一体どんな料理をご馳走してくださるんで?」
「ひょっとして、噂に聞く、天の国の料理っすか?!」
「それは大いに期待できるな、兄上」
「あぁ、弟」
「まぁその名称でいいけど……あんまり持ち上げんな?下手に期待されたくもないし」
過剰に期待されるとやる気が失せる……と言うわけでもないけど、なんか嫌だ。
そりゃ、名門店の料理長を任されてるとかだったら、一定以上の期待はしていいだろう。
でもな?
俺はあくまで寮生活の中で身に着けた程度だぞ?
……まぁ、いろんなサイトとかテレビ番組とかで勉強はしたけど……
●
「さ、出来たぞ」
「「「「「おぉ〜!!」」」」」
作ったのはパエリアだ。
勿論味見とかはしたから大丈夫だとは思うが……
「これ、鍋から直接食うんですか?」
「んなわけあるか。自分の皿に好きなだけよそって食え」
「なら、御遣い様から取ってくださいよ。俺たちはその後でいいんで」
「そうか?なら適当に……」
パプリカとかサフランとか、こっちじゃ滅多に見ることのない材料があったから思わず買ったんだよ。
確か、スペイン料理だったよなこれ?
ってことは、この辺の材料売ってた商人、どこの出身だ?
普通に言葉は通じたんだけど……?
「でも羨ましいですぞ?御遣い様の部隊にいれば、このような珍しい料理を作っていただけるとは……」
「兄上、涎が……」
「そうっすねぇ……張遼様が作ってくれるなんてことないですし」
「俺も毎回作ってやるわけじゃねぇぞ?」
気が向いた時とか、タイミングが合った時とかぐらいだ。
大抵は月さんをはじめとする面々に作ることの方が多い。
兵士の皆とも食事をすることはあるけど、そのほとんどは外食だし。
「コレ美味そうっすね!初めて見たっす!」
「そりゃこっちの方じゃ食わねぇだろうな」
「何て名前の料理なんですか?」
「パエリアだ。聞いたことないだろ?」
「羽得理阿……何とも趣のある名前……」
「兄上、だから涎が……」
「ほら。俺はよそったから、自分たちの分取れよ」
パエリア鍋とかあったらもっと上手く作れたんだろうなぁ。
ま、無い物ねだりしたって仕方ないか。
「じゃ、早速──」
「「「「「いただきまーす!」」」」」
「どうぞ」
そんなにがっつくな。
ま、男ばっかりだからいいけど。
しっかし美味そうに喰うなこいつら。
こういう風に食ってくれると、作った身としては嬉しい限りだ。
「美味しい!御遣い様、とても美味しいです!」
「美味いっす!感激っす!」
「これが天の国の味……」
「弟よ、少しは落ち着いて食せ」
「本当に美味しいです。流石御遣い様!」
「……ま、悪い気はしないな」
べた褒めの度が過ぎるとは思うがな?
「華雄様だとこうはいかないですしなぁ」
「そら律だしなぁ」
「でも兄上、華雄様の部隊にいること、誇りに思っているんですよね?」
「無論だ。武を極めようとするあのお姿、見ていて清々しい」
それには同意する。
律はまっすぐだから、尊敬の念も受けやすいんだろう。
実際、俺も尊敬してる部分はある。
「でも聞いたっすよ?華雄様の練兵は人が吹っ飛ぶって」
「それは本当ですか兄上?」
「本当だ」
マジか……
「かく言う私も、20回は吹っ飛んだ」
「よく生きてられたなお前……」
「いえいえ御遣い様、これは華雄様ならではの愛であります」
「……………は?」
何言っちゃってんのこいつ……?
吹っ飛びすぎて頭のネジが変な角度になったんじゃねぇか?
「一兵卒の私たちにも容赦なく本気で得物を振るわれる……それは愛なくしては出来ないこと!」
「その理論で行くと、うちの張遼様も愛ゆえに……ってやつっすか?」
「霞も吹っ飛ばすのか?」
「いやぁ、流石に吹っ飛ぶことは無いっすよ?けど、常に鬼気迫る気迫ですし、長く部隊に所属してる奴でも漏らすことあるっす」
そんなにか……
でも、それでも付き従ってるんだから皆すごいよなぁ……
……そういや、恋の部隊はどうなんだろ?
いつも音々音が仕切ってるし、あんまり見に行ったこともないし……
「恋の所はどうだ?別に厳しいとかはないんじゃないのか?」
「無いんです、けどねぇ……」
「その言い方だと、何かありそうっすね」
「呂布様はいいんですよ?到底俺じゃ及ばないってのもありますけど、本気で得物を振るうとかはないですし」
「……少し羨ましい」
「……兄上」
「ただ、陳宮様が……」
音々音がどうした?
アイツもそんなに無茶言う口じゃないだろ?
「休憩中、俺たちが呂布様の事を話してると……」
「……話してると?」
「突如、“ちんきゅーきーっく!!!”って跳び蹴りかましてくるんです」
「なんでっすか?!」
「呂布様に色目を使ったとか、呂布様の事をいやらしい目で見てたとか……あることないこと理由づけて……」
「……一応、あるにはあるんだな?」
「し、仕方ないじゃないですか!あんなに可愛い人、見たことないですし!」
分からんでもないが、そう怒鳴るな。
……てか、さっきの律の部隊の奴もそうだけど、こいつ等って自分の上司の事どんな目で見てんだ?
なんて言うか、興味本位だな。
ちょっと気になる。
「自分たちの部隊長、どういう風に思ってるんだ?個人的に聞いてもいいか?」
「えー……だって御遣い様、告げ口とかするんじゃ……」
「しねぇよ。男同士でないとできない話もあるだろ?」
「「「「「……………」」」」」
ちょっと考え込んだか。
ま、聞けなくても別にいいか。
「じゃあ、私から……」
「あ、教えてくれんの?」
「美味しい料理をご馳走していただいたお礼であります」
「じゃ、聞かせてもらうか。律の部隊だったよな?」
「はい」
さっき、愛だのなんだの言ってたけど……
まさかそういう目で見てるとかはないよな?
なんか複雑な気分になるからやめてくれな?
「私に限った話じゃないですが、華雄様の部隊の面々は挙って華雄様に惚れています」
「言い切ったよこの人……」
「それ、マジで?」
「マジであります!」
「兄上、俺も初耳なんですけど?」
「すまんな弟。こればかりは他言無用と我が部隊の暗黙の了解なのだ」
そんな了解要らん……
「先ほども言ったように、華雄様は我らに愛をぶつけてくださっています」
「……まぁそういう事にしておいてやるか。それで?」
「はい。我らも日々精進して、その愛を受け止めようとしているのであります」
「何のためにっすか?愛って言っても、本気の本気の全力っすよね?受け止めたら大怪我するっすよ?」
「その愛を受け止めて、こちらも愛をぶつけ返すことができたならば、思いの丈をぶつけようと誓い合っているのです」
律の部隊ってそんな奴らばっかりなの?
なんか気の毒になってきた。
ま、まぁ、理由はともあれちゃんと精進してるなら良い、か……?
「ささ、私は話しましたぞ。次は……弟よ、お前はどうか?」
「え、これって指名制なんすか?」
「その方が話し易かろう」
「俺は別に誰から話してくれてもいいぞ?」
別に強制もしてないし、話さないって選択肢も一応あるぞ?
他の面子が納得するかは知らんが。
「じゃあ、兄上に続いて俺が」
「確か斥候部隊だっけ?となると、羅々に指導受けてるのか?」
「そうなります。曹性様だけでなく、賈駆様にも」
「まさか二人分話すつもりっすか?」
「そりゃそうでしょう」
皆いろいろ思ってるんだなぁ。
あー、余計な話題振ったもんだ……
今更ながら後悔してきた。
「曹性様は、何と言ってもあの口調でしょう!」
「口調?ちょっと聞き取り辛い時とかないか?」
「それがいいんですよ!あの何とも言えないほんわかする口調!そしてその口調にそぐわない身のこなしの速さ!上手く表現できないですけど、あの釣り合わなさがいいんです!」
言うところのギャップ萌えってやつか?
俺は時々あの口調にイラッとするんだが……
「それに賈駆様!あの何もかも見透かしたような視線で辛辣に蔑まれた時はもうっ……!」
「(……ダメだこいつ、もうどうにもならん……)」
「な、なんか……好みが極端っすね……」
「全くですね……それで、あなたは?」
「俺っすか?そうっすねぇ……胸、っすね!」
サムズアップすんな!
やたらといい笑顔なのが腹立つ……
え、霞の胸に固執してんのこいつ?
いや確かに、他の奴に比べたら煽情的な格好してるけど……
「晒一枚っすよ?!男なら誰しも目が行くっしょ!」
「それには強く同意する。あの格好はすごい」
「兄上、俺も同意します」
「あ、俺も」
「お前らなぁ……」
「そういう御遣い様は目がいかないので?」
「何か慣れた……風呂場から出てくるときに鉢合わせると、上を羽織ってない時もあるし……」
「「「「「!!??」」」」」」
……お前ら目が怖い。
落ち着けって……
「み、みみみ、御遣い様はそのお姿を何度も?!」
「う、羨ましい……羨ましすぎる……!」
「そりゃ羨ましいと思うのは分かるけど……何度も見てたらさすがにシャキッとしてほしいと思うぞ?」
「俺ならそんな姿見たら……っ!」
「おい鼻血出すな」
「す、すびばぜん……」
どこまで想像して鼻血出したんだか……
「じゃあ、次は呂布様の所の。あんたはどうなんだ?」
「……昼寝」
「へ?」
「御遣い様は何度も見たことがあるでしょうけど、他は呂布様がお昼寝されているところを見たことがあるか?」
「いや、無いっすけど?」
……こいつの言いたいことは大方分かった。
そこに惹かれたって言うのは分かる。
俺もいまだにドキッとする時あるし……
でも、音々音の何とかキック喰らうんだろ?
「あのお姿はもはや芸術!添い寝することを想像したら、それだけで飯三杯はいける!」
「そんなにか?!」
「そんなにだ!!」
「落ち着け……」
「でも、御遣い様だってそうでしょ?」
「……いや待て。御遣い様ならすでに、呂布様と“一緒に”昼寝したことがあるんじゃ……?」
「……あ、あるが……?」
「「「「「〜〜〜っ!!!」」」」」
な、何だ?!
お前ら机に頭ぶつけたりして痛くないのか?
何か、滅茶苦茶口惜しがってる奴もいるし……
……何かゴメン……
「くぅっ……!こ、この気持ちは一旦抑えて──最後はお前、御遣い様の部隊にいて、どう思ってる?」
「お、俺の番ですね……え、えっと……」
ま、こいつだけ当人目の前にして話すんだ。
そりゃ言い辛いだろう。
「この際だ。何でも言ってくれ」
「い、いいんですか?」
「他が納得しないだろ?勿論限度はあるが、俺の部隊の奴らがどう思ってるかは聞いておきたいし」
ここまでかなりハードな内容ばっかりだったし、正直こいつにもあんまり期待はできない。
頼むからマシな内容であってくれ……
「じ、実は……」
「うん」
「御遣い様。以前に、董卓様とお出かけされたことありますよね?」
「……ある。それがどうした?」
「その時、どのような格好をされていたか……当然、覚えてらっしゃいますよね?」
「……覚えてる」
……おい、まさか……
「どんな格好してたんすか?」
「それは私も聞いたことがある。確か女装をされていたとか……」
「女装?!なんでまた?!」
「理由は俺たちも知らないんですよ。御遣い様、よろしければ……」
「……月さん直々のお願いでな。正直嫌だったんだが、断り切れなくてな……」
なんでお前らちょっと羨ましいって顔してんだ?
あぁ、あれか?
月さんとまともに喋ったことがあんまりないからか?
それなら納得だが……
「そ、それで?御遣い様が女装したことは分かったが、それが一体……?」
「俺は生で見たんですが……アレはヤバい……」
「ヤバいって、何が……?」
「言ってしまうと……すんげぇ可愛いんですよ!」
「「「「マジか!!??」」」」
「……俺は違う意味で“マジか……”だわ……」
兵士にも見られてたか……
なるべく人通りの少ない道選ばなかったのが失敗だったか?
まぁ、あの時は月さんの行きたい場所に付き従った形だし……
そうか、見られてたか……
「み、御遣い様!是非我々にも!」
「見せるか!」
「そこを是非!!」
「お断りだ!さっきも言っただろ、本当は嫌だったって!」
「お願いしますよ!もう一度俺も見たいんです!」
「何度頼まれたってお断りだ!……頼むから、兵の皆は男扱いしてくれよ……」
「……どういう意味っすか?」
そこまで言いたくないんだが……
……この際だ、俺も暴露してやろう……
「……顔つきが女っぽいという理由で混浴したことがある」
「だだだ、誰と?!!」
「恋・霞・律・羅々」
「な、なんという……」
「お、弟!鼻血がまた!」
もう好きなだけ鼻血出せ。
「そこまで行くと、なんか御遣い様の立場って辛いっすね」
「共感してくれる奴なんていないだろうしな」
「……そ、そうだ!御遣い様、酒呑みましょうよ!」
「……酒?こんな昼日中から?」
「たまには俺たちと呑んでくださいよ。張遼様は頻繁に飲んでるんだよな?」
「あぁ、昨日もご一緒させてもらったっす」
……酒、か……
ま、いっか。
どうせこんな気分だと仕事にもならない。
たまには羽目外させてもらうか。
「よし、呑むか」
「ういっす!」
「しかし肴がないのでは?」
「そこは、その……御遣い様の苦労話などを……」
「いいぞ?お前らが羨ましがる話ならいくらでもある」
「「「「「な、何だと……?」」」」」
こうなったら自棄だ。
酒の勢いに任せてぶちまけてやる。
……こんな日があってもいいよな?
後書き
ちょっと雰囲気変えて、兵士たちとの日常を書いてみました。
きっと、直詭の立ち位置って羨ましいんでしょうね。
私も羨ましく思います。
一刀の立ち位置も結構羨ましいものが……
……まぁ、これ以上は言わない方が賢明だと思いますのでこれで。
ではまぁ、また次話で
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