第二話『巡会』
「私の役目はここまでとなります。パーティの会場となります会場までは道なりに歩いていただくこととなりますがご了承ください」
「はい。ありがとうございます」
仰々しくお辞儀をしてくれた船頭さんと別れて、珠洲無君と道を歩く。
かなり大きな建物で、少し距離はあるみたいだけどそんなことは大した問題じゃない。
「たくさんの有名人と会える」って言うことで、僕の胸はドキドキしてる。
この高揚感があれば、多少の道のりも気にならない。
「ハハハ。本当に楽しそうだね神凪君」
「……やっぱり分かる?」
完全に舞い上がってるんだな僕……
少し恥ずかしくなっちゃった……
「別に悪いことじゃないと思うよ?好奇心の強い人は嫌いじゃないし」
「……うん。僕、今まで一人で外に出た経験が無くて、それでつい……」
「一度も?」
「うん……」
「学校とかは?」
「行ったことない。親が“行かなくていい”って言ったから……」
「じゃあ、同年代の友達とかも殆どいないんだ」
「“殆ど”って言うか、“全く”だね。だから、このパーティで一人くらい友達ができたらいいなって……」
「そっか」
「……図々しいかな?」
「そうでもないよ。俺だって、知らない人と会えるんだからちょっとは嬉しいと思ってるし」
「……ホントに?」
「まぁね。ま、神凪君と違って俺の場合、“どんな奴が選抜されたんだろう”って言う方に興味があるんだけどね」
「そうなんだ」
「どんな選別したのかが気になってさ。まともな連中だけなら助かるんだけどね、神凪君みたいに」
「え……?僕、まともな方?」
「世間知らず程度なら全然まともな部類だよ。それに、これだけ喋ってるんだから、もう俺と友達でもいいんじゃない?」
「……友達……?」
「あ、嫌?」
「あ、違っ!?そ、そうじゃなくて──!」
「アハハ!分かってるって。だからそんなに動揺しなくていいって」
「あ、あはは……」
友達、か……
こんな短時間なのに、友達になってくれた……!
うん、やっぱり参加して正解だった!
自分でも笑顔になって行くのが分かる!
「それはそうと、神凪君は大丈夫?」
「え?」
「ほら、結構坂道が続いてるでしょ?勾配も急だし」
「あ、その辺は大丈夫。お百度とかも何回か経験あるし」
「へぇ〜、そりゃ頼もしい」
……って、話しながらだったら、あっという間だね。
キツイ坂道も全然気にならなかった。
「ここか」
「大きいね」
目の前まで来ると、その大きさにびっくりさせられる。
多分3階建てだと思うけど、こんな感じの建物見るのは初めてだな。
落ち着いた白い色合いの……──
……なんて言えばいいのか分かんないや……
「城みたいだな」
「城?」
「ヨーロッパとかにありそうな古城みたいだなって思っただけ」
「そうなんだ……」
「かなり重厚なデザインだけど……うん、かなり頑丈みたいだね」
「分かるの?」
「マジックの仕掛けとか作る時、たまに建築系の知識が必要なこともあるからね。柱とか触れば大体は分かるよ」
「へぇ〜、すごいね!」
「そんな大したもんじゃないよ。それより入ろ──ん?」
「……どうかしたの?」
「ほら、ココ見て」
入口の大きな扉の右横に、お城とはあんまり似つかわしくない箱が置いてある。
白を基調としたお城とは真逆の赤い箱。
それがえっと……16個ある。
それぞれに差し込み口みたいな細長い穴が開いてるけど、これなんだろ?
「んー……それぞれに名前が振ってあるね」
「え?どこ?」
「ほらココ。まぁイニシャルだけど」
「いにしゃる……?」
「名字と名前を省略したもの、ってとこかな?俺だったら……ほらコレ。R・Sってあるでしょ?Rが玲雄でSが珠洲無ってこと」
「じゃあ僕は……」
「コレだね。M・Kって書いてるし」
「でも2つあるよ?」
「けど、片方は開封済みだから、もう片方でいいんじゃない?」
「……それで、この箱どうすればいいのかな?」
「さぁ……?」
何か手掛かりとかないかな?
そう思って辺りを見回してみる。
「ん?珠洲無君、コレ何かな?」
「どれ?」
「ほら、この箱の後ろに張り紙があるよ」
そこには簡潔な文章が書いてあった。
結構綺麗な文字だけど、こんなに綺麗に書けないよね普通……?
「ワープロで打った文字か。えっと……“ご自分のお名前のボックスに招待券をお入れください”か。イニシャル被ったらどうするつもりだったんだ?」
「この箱に招待券を入れたらいいってこと?」
「そう言うことみたいだね。じゃあそれぞれ入れてみよっか」
持ってきた招待券を入れてみる。
すると、イニシャルの部分が一回青く光って、“カチャ”って音がした。
これで開いたってことかな?
「へぇ〜、こんなもの入れてたんだ」
「躊躇いなく開けるんだね珠洲無君……」
「ここで変なもの入ってたら主催者に文句言えばいいだけだし。ほら、神凪君も」
「あ、うん」
言われるままに開けてみると、小さな機械が入ってた。
なんか前に依頼してきた人が持ってたような気がする。
コレ、何て言ったっけ……?
「スマートフォンみたいだね。ん?でも、小さめのタブレットかな?」
「……ゴメン、知らない単語が次々で……」
「あぁゴメン。まぁそこまで気にする必要のない単語だから流しておいて」
「あ、うん」
手の平よりちょっと大きいくらいの機械みたいなものが入ってた。
珠洲無君は大凡の予想がついてるみたい。
「ちょっと起動してみるか」
「あ、えっと、その……」
「あぁいいよ。俺が試しににやってみるから神凪君は待ってて」
「うん、ありがと」
珠洲無君の持ってるのも形だけは同じ機械。
僕の方は色が白だけど、珠洲無君は赤だね。
それを手慣れた手つきでいじってる。
何をしてるかすらさっぱりで、取り敢えず待つしかないや。
……大事なものなのかな、コレ?
「あン?」
「どうしたの?」
「いや、いきなり“生徒手帳”って表示されたから訳分かんなくて」
「……“生徒手帳”?」
「パスワードは……あぁ、指紋認証か。んで……ふぅん……」
使い方がさっぱりだから待つしかないんだよね。
でも、生徒手帳?
ここ学校じゃなくてパーティ会場だよね?
なんでそんな名前の物があるんだろ?
「取り敢えず一応は分かった。神凪君、まずココ押して」
「ココ?」
「そうそう」
言われた場所を押してみる。
すると、確かに“生徒手帳”の文字が出てきた。
その文字の下に、少し小さな文字で“指紋認証してください”って表示されてる。
「んで次はここに人差し指を当ててくれる?」
「人差し指でいいの?どっちの?」
「右手でいいんじゃない?」
知らない以上、珠洲無君の言う通りにするしかないね。
その場所に人差し指を当ててみる。
「わっ!いっぱい色々表示された!」
「この端末に入ってるものが表示されてるみたいだね。それで、多分このアプリを触ってみて」
「……あぷり?」
「あーゴメン。取り敢えず、コレ触って」
「うん……」
色々表示されてるのがアプリっていうものみたい。
それで、その中に鍵の絵が描いてあるのがある。
それを触ってみる。
「あ、何か文字が並んでる」
「その中の“玄関”ってところを押すんだと思うよ。俺も押してみるよ」
「コレ、だね。分かった」
言われた通りに押してみると、画面いっぱいに鍵の絵が表示された。
……コレをどうするんだろう?
「それで、あそこにタッチするんだと思うよ」
「あそこって……扉の左横にある機械?」
「んー、神凪君はまだ不安そうだし、俺と一緒に着いてきて」
「ゴメンね」
「いいって」
珠洲無君の少し後ろに着いて、何をするか待つ。
すると、僕の端末と同じように鍵の絵が表示されてる画面のまま、扉の横の機械にタッチした。
ギギギギギ……
「わっ!開いた!」
「これが開錠のアプリってことだね。まー随分と手の込んだこと……」
「これで入れるのかな?」
「念のために神凪君も同じことしておいたほうが良いと思うよ?」
「え?何で?」
「こういう無駄にセキュリティの厳しいところって、1人ずつしか入れないパターンもあるんだよ。俺が入ったら、その後に俺と同じことしてみて」
「うん、分かった」
まず珠洲無君が入って行く。
扉は開いたままだけど、僕も同じ動作をする。
扉にも端末にも変化はない。
取り敢えず、入ってみようかな……?
「あ、入れた」
「そこまで警戒しなくてよかったかな?」
「でも念を押すのは悪いことじゃないよね?」
「そうだね。じゃあ、このまま進んでみよっか」
「でも、どの部屋に行けばいいかは分かるの?」
「目の前に、如何にも“入ってくれ”って扉があるでしょ?まずはあそこから入ろうよ」
「あ、うん」
今になって少し緊張してきた。
ワクワクしてたのが嘘みたいだ。
ギィィィィィ……
「お!新たにお客人のご来場です!」
「おい龍堂、そんなに声張り上げるんじゃねぇよ」
「なかなかに小生の鼓膜に被害が来てるよ?」
「まぁ、もっちゃんだからしょうがないんじゃない?」
「百草ちゃんの職業的にね〜」
「ね〜」
「それでお二人はなぜそこで過剰にボディタッチし合うんですか?」
「外国ではよくありますよ三直さん?」
「おいらには理解しがたいにゃ」
「笠平はまず口開けって」
「それこそ仕方ないんじゃない?」
「それより今入ってきたのは神凪君と珠洲無君でいいの?」
「だろうな。2人ともテレビで見たことあるし」
……一気に喋られて困惑しちゃった。
ってか、一番最初に声を出した人、どこかで見た気が……
「どうもお久し振りです神凪さんに珠洲無さん。またお会いできて光栄です」
「あ、えっと……」
「もう2年くらい前だっけ?」
「おぉ!どうやら覚えていただいているようです。私は今、かなり感激しております」
「……あ、あの、ごめんなさい。僕は、その──」
「どうやら神凪さんは覚えておられないようですね。まぁ致し方ありません。私と直接的にお話したのは約4年前なので、それだけ月日が経っていれば記憶にないのも頷けます」
……何だか状況説明してくれる感じで話すんだねこの人。
「では改めまして自己紹介をいたしましょう。私、龍堂 百草と申します。今後ともご贔屓に」
「え、あ、はい……」
「どうやら少々困惑されておられるご様子ですね。ご一緒に来られた珠洲無さん、神凪さんとはお話されましたか?」
「まぁちょっとはね。世間のこと殆ど知らないみたいだから、アナウンサー業やってることも知らないんじゃない?」
「それは残念ですね。ですが、これだけ超高校級の才能を持ち合わせた方が一堂に会するというこの現状、私、興奮せずにはいられません!」
「……え?超高校級?」
「はい。あちらのテーブルをご覧いただければご理解いただけるかと思います」
この人──えっと、さっきの会話からして龍堂さん、でいいのかな?
薄い緑のスーツ着てて、茶髪を三つ編みにしてる女の子。
すごくハキハキ喋ってるからちょっと気圧されちゃうかな……?
それで、龍堂さんの指さしてるところには大きなテーブルがあった。
全員分の椅子が用意されてて、そこに名札みたいなプレートが置いてある。
僕のはどれだろ……?
「あ、コレか。えっと……超高校級の「霊能力者」?」
「ここにお呼ばれの方、どうやら全員が超高校級の才能を持ち合わせておられる模様です。ちなみにこの私、龍堂 百草も超高校級の「アナウンサー」と評されているようです。他の皆々様も同じように超高校級と言う肩書がご用意されていますね」
「へぇ〜……俺は超高校級の「奇術師」か。まぁ悪くはないな」
他の人のプレートも見て行くと、全員そう言う肩書が用意されてるみたい。
でも、テレビを見たことがなかったから、誰が誰だか分かんない。
やっぱりこういうのって1人ずつ聞いて行かないといけないね。
「わたしが紹介してあげよっか?」
「え?えっと……君は?」
「わたし?わたしは音々蔵 舞那。肩書きとしては超高校級の「悪運」だってさ」
「あ、悪運?」
他の人と違って、緑──エメラルド色だと思う目の色をしてる女の子。
すごく気さくに話してきてくれて、何となく安心できる。
「じゃあ、お願いしても良い?」
「うん、いいよ。あ、そっちの玲雄ちゃんはいい?」
「ハハハ!俺を“ちゃん付け”で呼んだのは音々蔵さんが初めてだよ。俺は何人か知ってるから、神凪君の事任せるよ」
「オッケー!じゃあ、順番に教えてあげるね」
「うん、お願いするね音々蔵さん」
「別に名前で呼んでくれていいんだよ?」
「え、でも、初対面だし……」
「んー、まぁいっか。じゃああの人からにしよっか」
後書き
ちょいと短い気もしたんですが、今年最後の挨拶はしておきたいと思って投稿します。
本年も大変お世話になりました。
また来年もお付き合いいただければ幸いです。
今作も恋姫の方も、遅筆ながらも進めていくつもりはありますので、適当にお待ちください。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m