「私が?」
艦長室に呼ばれたエリシエルは、突然の命令に驚いた。命令内容は、軟禁している海賊ワイヴァーン兄妹の世話というものだった。怪我をしているし、元々、
正規の乗組員ではないので断る理由も無かった。
「了解しました」
右腕が骨折しているので、失礼ながらも左手で敬礼し、エリシエルは艦長室から出て行った。すると、待っていたのかルナマリアとメイリンが話しかけて来
た。
「エリィせんぱ〜い!」
「ルナ、メイリン。どうしたの?」
「エリィ先輩、あの海賊のお世話係って言われたんでしょ?」
「ええ、まぁ……」
キラキラと目を輝かせるホーク姉妹にエリシエルは冷や汗を垂らす。この姉妹、好奇心を刺激するものだとしつこいぐらい食い付いて来るのは良く分かってい
る。
「私達にもお手伝いさせてください」
「気持ちは嬉しいけど、あなた達、今もボギー・ワンを追ってる途中でしょう? いつ招集かけられてもおかしくないのよ」
そう言われ、ルナマリアとメイリンは残念そうな顔を浮かべると、エリシエルはクスッと笑った。
「また今度、落ち着いたら手伝ってね」
「「あ……はい!」」
力強く頷く2人を見送り、エリシエルは軟禁されているという海賊兄妹の所へと向かった。
機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜
PHASE−03 火種
「まったく……それもこれも兄さんの所為で……」
軟禁とは言っても、レンとリサに与えられた部屋はごく普通の一般兵と変わらない部屋だった。違うのと言えば、通信する機材を置いていないという所だけ
で、ベッドやシャワールームなども設置されている。
リサはレンのお間抜け振りに呆れて愚痴っているが、当人はゴソゴソと何かやっていた。
「兄さん、どうしたんです?」
「う〜ん……こういう普通に使われない部屋はエロ本とか隠すのに最適……」
「帰ったら使ってない部屋をチェックしましょう」
「(しまった!)」
墓穴を掘ったと、レンは冷や汗を垂らす。リサはニヤリと笑うと、パイロットスーツのブーツの裏に手を持って行く。すると、ブーツの底が外れ、通信機が出
た。
「007もビックリだね」
「ふ……」
何故か勝ち誇った笑みを浮かべ、リサは通信機のボタンを押した。
「ん? ねぇラッちゃ〜ん」
「艦長と呼べ、艦長と!」
その頃、ドラゴネスのブリッジでは、レンとリサの帰還を待っていた。そこへ、キャナルが相変わらず気の抜けるような口調でラディックに呼びかける。
「リサぽんから音声通信が来てるぞ〜」
「リサから? 繋げ」
何で音声通信なのか分からないが、他にこのドラゴネスのチャンネルを知っている者はいない為、ラディックはそう命令した。
「イエッサー」
言われてキャナルはブリッジにリサの声が聞こえるよう回線を開いた。ザザと電波が悪いのかノイズが混じって聞こえる。
<こちら、リサ……ドラゴネス、聞こえますか?>
「お〜う、聞こえてるぜ。どうした?」
電話の受話器みたいな通信機を持って応答するラディック。
「何で音声通信なんスかね?」
「案外、ミネルバか正体不明の艦に捕まったんじゃねぇの」
小声で話すアルフレッドとロビン。それを聞いて、シュティルが笑みを浮かべて読んでいた本のページを捲る。ちなみにタイトルは“美味しい芋の煮方”だっ
た。
「馬鹿言え……ラストにはSSキャノンがある。最悪でもアレを撃てば捕まるなど無様なマネは……」
<すいません。ミネルバに捕まりました>
「………さて、芋でも煮てくるか」
「副長、現実逃避はダメっスよ」
本を閉じてさり気なく去ろうとしたシュティルだったが、ロビンに言われて立ち止まった。チラッとラディックを見ると、額に青筋を浮かべてプルプルと震え
ている。
「お前ら何やってんだよ!?」
<すいません。お馬鹿な兄の所為です>
<あ、でもラストの起動装置はロックしといたから私以外には扱えないよ。でも、今回の獲物は諦めて……>
レンの声も届き、ラディックは更に怒鳴る。
「そういう問題じゃねぇ!! テメーら無事に帰って来れるんだろうな!?」
ラディックのその言葉にクルーの表情に笑みが零れる。キャナルだけは無表情だけど。
獲物や機体など関係なく、2人が無事に帰って来れるかどうかを気にするラディック。熱血漢で情に厚く、何よりも仲間を大切に思っている。すると、回線の
向こうからも少し緩んだ声が返って来た。
<大丈夫です。ちゃんと兄さんと2人で帰ります>
「なら良い。ザフトの人に迷惑かけんじゃねぇぞ」
<…………はい>
「それとレンに替わってくれ」
そう言うと、ノイズの向こうからレンの間の抜けた声が出る。
<はいは〜い。何かな?>
「お前、ちゃんとリサを連れて帰って来いよ」
<分かってるって。ちょいと時間がかかるかもしんないけどね〜>
「あん? どういう事だ?」
眉を顰めるラディック。
<アーモリーワンでの強奪事件、アンノウンの敵……そして私のかつての敵……ラディック。何かが起こりかけているよ。何かがね>
そして通信が終わる。珍しく真面目だった口調のレンに、クルー達の表情が引き締まる。すると、シュティルがブリッジから出て行こうとしたのでラディック
が声をかけた。
「おう、シュティル。どうした?」
「機体の調整をしてくる。俺も出る事になるかもしれんからな」
「だな……おっしゃ、アルフ! ミネルバのレーダーに引っ掛からないよう、艦を向かわせろ!」
「アイ・サー!」
アルフレッドは笑みを浮かべて操縦桿を引いた。ドラゴネスはミネルバの後を追うよう針路を取るのだった。
「ふぅ……」
「兄さん、今のは……」
通信を終えると、リサが神妙な顔でレンを見る。レンはニコッと笑い、リサの頭を撫でる。
「大丈夫。ただの勘だから」
「………兄さんの勘は頼りになるんです」
少し恥ずかしそうに視線を逸らして言うリサに、レンは苦笑した。リサは、頭に手を置かれながらも上目遣いでレンを見る。その目が何かを訴えているような
ので、レンはフゥと息を吐いて目を閉じ、答えた。
「リサ、平和って何の為にあると思う?」
「平和……ですか? そりゃ、皆が安全に暮らせる為じゃないですか」
「それは、平和がもたらす世界がどんなものかって事だ。平和っていうのはね……戦争を起こす為にあるんだ」
「!」
「そして戦争は平和を取り戻す為にある……人類ってのは、そういうイタチゴッコを繰り返しているのさ」
戦争→平和→戦争→平和……これは、人類が知恵を持ち始める以前、爬虫類の時代から、争わなければいけないという生物の本能がもたらした結果である。
レンは言った。恐らく近い内、今の平和は崩される、と。いや、もう崩されているのかもしれない。あの血のバレンタインの悲劇の様に、何か一つの切っ掛け
が世界を揺るがしかねない。それだけ、今の世界は脆いのである。
「変わりませんね。貴方のその言い回しは」
「「?」」
その時、扉が開きエリシエルが入って来た。レンは、彼女を見てコクッと首を傾げる。
「お久し振りです、フブキ隊長。今は海賊をやってらっしゃるんですね」
ニコッと笑う彼女に、レンは「あ!」と声を上げた。
「君は……キャバクラ嬢のヨシエさん!」
ゴッ!
かなり見当違いな名前を言うレンに向かって、エリシエルがとんでもないスピードでシャイニングウィザードをかました。その見事なツッコミ振りに、リサも
ポカーンとなる。
「相変わらず人の神経を逆撫でするのがお上手ですね、隊長」
「は、ははは……僕と君の仲じゃないか。昔みたいに名前で呼んで構わないよ」
「それでは遠慮なく…………この馬鹿レン!!」
「アゥチ!!」
大声で怒鳴ると、エリシエルは思いっ切りレンを踏み付けた。
「貴方、今まで私がどれだけ心配したか分かってるんですか!? アラスカで死んだと思ったら、ひょっこりプラントに戻って来て除隊申請して……挙句の果て
には海賊なんかに成り下がって、どういうつもりですか?」
「お、落ち着いてエリィ。わ、私だって色々あったんだから……」
「色々?」
「こ、今度、落ち着いたら話すから……ね?」
そう言われ、エリシエルは渋々ながらも足をどけた。レンはコキコキと首を鳴らし、彼女に向かって笑いかける。
「にしても久しぶりだねエリィ。まさかミネルバに配属されてたなんて……」
「違います。アーモリーワンで負傷して、仕方なくミネルバに乗艦したんです。もっとも、私の所属していた隊は、あの騒ぎで隊長がお亡くなりになりました
が…………今は貴方達の世話係です」
「世話係って……その怪我で?」
「う……」
ガチガチでギプスで固められた右腕を指され、エリシエルは言葉を詰まらせる。レンは苦笑すると、ベッドに寝転がった。
「ま、気持ちだけは受け取っておくよ。食事とかは適当に持って来てね」
「…………本当、変わってませんね。貴方は」
「そう? 昔はクールな二枚目で通してたんだけど?」
「本心を見せない所が……です」
フフッと笑い、エリシエルは食事を持って来ますと言って、部屋から出て行った。
「にいさぁ〜ん?」
「ひっ!?」
すると、かなり不機嫌そうなリサが背後に炎を燃やし、腕を組んで睨んで来た。レンは、思わず身を竦ませ、ベッドから跳ね起きる。
「あの女性とは、どういうご関係なんですか〜?」
「い、いや……昔の仲間で……えと……」
「詳しく聞かせて欲しいですねぇ〜」
その余りの迫力に、レンは圧されるしか無かったのであった。必死にリサに弁明しながらも、レンは先程の会話を思い返していた。
何か一つの切っ掛けで戦争になり兼ねない脆い世界。その切っ掛けが出来る事なら来ない事を望んだが、それは敢え無く砕かれる。前の戦争の切っ掛けとなっ
たユニウスセブンの落下という事によって。
「なんだって!? ユニウスセブンが動いてるって、一体何故!?」
突然の事態にカガリは驚きを隠せなかった。ユニウスセブンが通常航路を外れ、地球に向かって動いているという報告がプラントからもたらされた。それは、
余りにも痛恨の出来事だった。
「それは分かりません。だが動いているのです。それもかなりの速度で……最も危険な軌道を」
「それは既に本艦でも確認致しました」
デュランダルの後ろに控えていたタリアも事実を裏付ける。すると、アスランが、僅かに声を揺るがせて言った。
「しかし、何故そんな事に!? アレは100年の単位で安定軌道にあると言われていた筈……」
「隕石の衝突か、はたまた他の要因か。ともかく動いてるんですよ。今この時も。地球に向かってね」
「落ちたら、落ちたらどうなるんだ? オーブは……いや地球は!?」
「あれだけの質量のものです。申し上げずとも、それは姫にもお分かりでしょう」
遠回しに答えるデュランダルに、カガリとアスランは一瞬、表情を歪める。
「原因の究明や回避手段の模索に今プラントは全力を挙げています。またもやのアクシデントで姫には大変申し訳ないのですが、私は間もなく終わる修理を待っ
てこのミネルバにもユニウスセブンに向かうよう特命を出しました。幸い位置も近いもので。姫にもどうかそれを御了承いただきたいと」
デュランダルの言い回しは癪ではあったが、直径10kmにも及ぶユニウスセブンが地球に落下する事態に、そのような感情を抱いてはいられない。カガリ
は、深く頷いた。
「無論だ! これは私達にとっても……いや寧ろ、こちらにとっての重大事だぞ。私……私にも何か出来る事があるのなら……」
興奮するカガリをデュランダルが優しく宥めた。
「お気持ちは分かりますが、どうか落ち着いて下さい、姫。お力をお借りしたいことがあればこちらかも申し上げます」
「難しくはありますが御国元とも直接連絡の取れるよう試みてみます。出迎えの艦とも早急に合流できるよう計らいますので」
「……ああ……すまない」
タリアの言葉にカガリはただ顔を俯かせた。
「それとグラディス艦長。例の2人を連れて来てはくれないか?」
「は?」
「今回の件、彼ら海賊は関係していないかどうか聞いてみたいのだよ」
「は、了解しました」
タリアは敬礼すると、エリシエルにレンとリサを連れて来て貰う指示を出すのに部屋から出て行った。
「ユニウスセブンがね〜」
エリシエルに連れられ、ミネルバの廊下を歩くレンとリサ。その際に、ユニウスセブンが地球に向かって動いていると聞かされたのだ。リサも、その事態に神
妙な顔をしている。
「ふーん。けど何であれが?」
その時、レクルームの前を通って彼らは足を止めた。そこには、シン、ルナマリア、レイ、メイリン、ヨウラン、ヴィーノがユニウスセブンの件について談話
していた。
「隕石でも当たったか、何かの影響で軌道がズレたか……」
「地球への衝突コースだって本当なのか?」
「バートさんがそうだって」
シンの言葉に、ミネルバで真っ先に地球にユニウスセブンが落下している事に気付いたバートの名前を挙げるメイリン。
「ハァ〜、アーモリーでは強奪騒ぎだし、それもまだ片づいてないのに今度はこれ? どうなっちゃってんの? で、今度はそのユニウスセブンをどうすればい
いの?」
「「砕くしかない」」
その時、レイとレンの声が重なり、皆が彼の方を見る。リサとエリシエルも驚いてレンを見ている。
「先輩!?」
「…………」
エリシエルがレンとリサを連れているのに驚くルナマリア。シンは、リサを見て明らかに不満げな顔を浮かべ、リサもリサでシンを侮蔑するように見ている。
「どうしたんですか? その2人を連れて……」
「今回の件で海賊が関係ないかどうか議長が話を聞きたいそうなので……」
「そうなんですか……」
ルナマリアは、チラッとレンの方を見る。
「あの……砕くってユニウスセブンをですか?」
「ん? ああ、あんなデカいもん、今更、軌道修正なんか出来ないからね。なら、砕いて少しでも小さくするしか無いよ」
「でもデカいですよ、アレ? ほぼ半分くらいに割れてるって言っても最長部は8kmは……」
「そんなもんどうやって砕くんですか〜?」
ヨウランがそう言うと、ヴィーノが子供みたいな声を上げる。するとメイリンが僅かに表情を顰めて呟いた。
「それに、あそこには、まだ死んだ人達の遺体も沢山……」
「でも、そうしないと遺体が増えるだけじゃないんですか?」
リサが正論を言う。確かに、ユニウスセブンは戦争の幕開けの罪と哀しみの象徴とされ、今なお多くの死体が漂っているが、地球に落ちるとなると関係ない。
より多くの災害をもたらすものに、そんな悠長な事は言ってられないのだ。彼女の言葉に皆が沈黙し、ヴィーノがポツリと零した。
「地球……滅亡……」
「はぁー、でもま、それもしょうがないっちゃあしょうがないかぁ?」
するとヨウランが大きく溜め息を零して言った。
「ん?」
ふとレンは入り口の所で大きく目を見開いているカガリと、その両隣で複雑そうな顔をしているアスランを見つける。
「不可抗力だろう。けど変なゴタゴタも綺麗に無くなって、案外ラクかも。俺達プラントには……」
「良く、そんな事が言えるな! お前達は!」
大声を上げて入って来るカガリに、ようやく皆が気付いた。その中で、シン一人が彼女に対して目つきを鋭くする。
「しょうがないだと!? 案外ラクだと!? コレがどんな事態か、地球がどうなるか、どれだけの人間が死ぬことになるか、ホントに分かって言ってるの
か!? お前達はッ!!」
ヨウランは、冗談で言ったつもりだったが、此処まで叱咤されてムッとした表情になりながらも謝った。
「すいません……」
「くっ……やはりそういう考えなのか、お前達は! あれだけの戦争をして、あれだけの思いをして、やっとデュランダル議長の施政の下で変わったんじゃな
かったのか!!」
「よせよ、カガリ」
興奮し切っているカガリをアスランが宥められ、彼女も落ち着きを取り戻す。だが、シンがわざと聞こえるように言った。
「別に本気で言ってたわけじゃないさ、ヨウランも。そんくらいの事も分かんないのかよ、アンタは」
「何だと!」
「カガリ!」
「シン、言葉に気を付けろ」
怒り任せに大声を上げるカガリをアスランも声を荒げて宥め、レイがシンに忠告する。だが、シンは何の反省をした様子も無く返した。
「あ、そうでしたね。この人偉いんでした。オーブの代表でしたもんね」
「お前……!」
「いい加減にしろ、カガリ!」
アスランは声を荒げてカガリを宥める。オーブの元首と護衛役ではあるが、彼らの関係は、お転婆娘とそのお目付け役といった方が正しい。公の場ではアスラ
ンはカガリに敬語で接するが、このような場では力関係ではアスランの方が上なのだ。
アスランは、カガリを宥めると鋭い視線をシンに向ける。
「君はオーブがだいぶ嫌いなようだが、何故なんだ? 昔はオーブに居たという話だが、下らない理由で関係ない代表にまで突っかかるというのなら、ただでは
おかないぞ」
その言葉にシンはピクッと反応すると、アスラン達に詰め寄って吼えた。
「下らない? 下らないなんて言わせるか! 関係ないってのも大間違いだね! 俺の家族は……アスハに殺されたんだ!」
「え……?」
意外な言葉に虚を突かれ、唖然となるカガリ。レンもピクッと眉を顰めた。
「国を信じて、アンタ達の理想とかってのを信じて、そして最後の最後に、オノゴロで殺された!」
「あ……」
「だから俺は、アンタ達を信じない! オーブなんて国も信じない! そんな、アンタ達の言う綺麗事を信じない! この国の正義を貫くって……アンタ達だっ
てあの時、自分達のその言葉で誰が死ぬ事になるのか、ちゃんと考えたのかよ!」
「………」
憎悪の目を向けて放たれるシンの言葉に、カガリは何も言い返せず後ずさる。アスランはカガリを支えるが、動揺を隠せないでいた。
その時、リサがシンに向かって駆け出した。そして、パァンとシンの頬を思いっ切り引っ叩く。突然の事に頬を叩かれたシンを始め、そこにいた誰もが呆然と
なった。
「貴方……本当に馬鹿ですか!」
「な……!?」
「今の発言でもしオーブとプラントが戦争になったらどうするんです!? 一軍人が国家元首に対しての暴言……そんな事が許されると思っているんです
か!?」
ユニウスセブンの落下で一気に世界中の緊張が高まる中、ひょんな所で、どんな事が戦争の火種になってもおかしくない状態になりつつある。シンの発言も、
その火種になり兼ねないのだ。
だが、全く関係ないリサにそんな事を言われても、ましてや頬を叩かれてシンは納得出来るはずも無かった。
「お前には関係ないだろ!! 俺の家族は、こいつの一族に殺されたも同然なんだ! 言ってみりゃ、こいつは犯罪者だ! そんな奴が国のトップなんてものが
おかしいんだよ!!」
「ちょっと、シン! それは言い過ぎ……」
「うるさい!」
宥めようとしたルナマリアの手を跳ね除け、シンはリサに向かって更に吼える。
「お前に、俺がどんな思いで、コイツと一緒の艦に乗ってるか分かるか!!」
「分かりません。私は貴方じゃありませんから。ですが、貴方は一軍人で、カガリ様は国家元首。そんな事も理解できないんですか? コーディネイターのくせ
に」
「っ!!」
その言葉にシンは目を見開き、リサを殴ろうと腕を振り上げた。そして、彼の拳がバキッとリサの顔面を殴打した。その行為に驚く一同。だが、リサは口許の
血を拭い、シンを睨み付けて言った。
「言い返せなかったら女にも手を上げる……貴方は軍人でも馬鹿でも子供でもない……最低以下です」
「ぐっ……!」
「今ので私が叩いた分はチャラにして下さい。でも、これで分かりました……貴方みたいな軍人がいるから戦争は無くならないんです」
「!?」
その言葉はシンの心に強く打ち付けられた。戦争によって家族を失った彼は、力を求めザフトに入隊し、戦争を無くそうとしている。それが、自分みたいな軍
人がいるから戦争が無くならないというのは、彼にとって今までの自分を否定される言葉だった。
シンは表情を歪め、ドンとカガリの肩にぶつかって部屋から飛び出して行った。
「リサ……」
ふとポンとリサは、兄に頭を撫でられ顔を上げる。
「兄さん……」
「リサ、余りシン君を否定しちゃいけないよ。彼みたいな年頃の男の子は感情で絶対に許せない事だってあるんだから」
「ですが……」
顔を顰めるリサに、レンは膝を突き、彼女の両肩に手を置いて目線を合わせた。
「酷な言い方だけどリサ……君には記憶が無い。それは、昨日までずっと一緒だった家族が一瞬で失くす事を知らないんだ。だから、シン君の気持ちも察してや
らないといけない」
「…………はい」
「よし、いい子だ」
レンはニコッと笑ってリサの頭を撫でる。すると、彼女にカガリが申し訳なさそうに言ってきた。
「その……すまない。私の為に言ってくれたのに、殴られて……」
「気になさらないでください。私が、シンさんに対して腹を立てただけですから」
「そうそう。アスハ代表。貴方がシン君に負い目を感じる必要はありませんよ」
楽観的な笑みを浮かべて言うレンに、カガリは顔を俯かせた。
「だが……」
「確かにオーブの理念って言うのは甘っちょろい理想かもしれません。ですが、理想無くして理想郷はあり得ないんですよ」
「!」
「堂々として下さい。平和っていうのは、あなたみたいな理想主義者が支えなきゃいけないんですから」
そう言ってカガリの肩をポンと叩くとレンとリサは、早くデュランダルの所に行こうとエリシエルと共にその場から離れた。カガリは呆然と叩かれた肩に触れ
る。
あんな風に言われたのは初めてだった。理想主義者、現実は違うと常に言われ続けて来たが、“理想無くして理想郷はあり得ない”と言われたのは初めてだ。
「(レン先輩……リサさん……ありがとうございます)」
アスランはペコッとレンの去った後に頭を下げる。もし自分が軍人だったらシンを一喝していたが、今は出来る立場じゃなかった。その代わりをしてくれたレ
ンやリサにアスランは心の中で感謝した。
「カガリ、君も今日は休もう」
「あ、ああ……」
そして、アスラン、カガリも続いて部屋から出て行った。
「………すっげ〜、大人」
しばらくしてヨウランが呟く。
「誰が?」
ルナマリアが尋ねる。
「あのレンって人に決まってるじゃん」
今の状況を見たら誰だってシンが悪いと思うが、そのシンの心も理解し、受け入れるレンの器の大きさに皆が感心したのだった。
「やれやれ……レンの勘が当たったな」
ドラゴネスの格納庫で、シュティルは青いパイロットスーツに身を包み、MSのコックピットに座っていた。モニターの向こうでは、ラディックが呆れた口調
で言った。
<まさかユニウスセブンの落下たぁな……こりゃ戦争を阻止する俺らも見逃せねぇ。シュティル、一足先に行ってくれや。俺らもすぐ行く>
「やれるだけやってみるが……果たして何処まで出来るか。レンが来てくれるのを祈るぞ」
<ま、頑張ってくれや>
グッとラディックが親指を立ててモニターが消え、キャナルの発進準備の声が響き、機体がカタパルトに移動し、ハッチが開く。
<シュティル・ハーベスト機の発進シークエンス開始〜。全システムオールグリーン。ZGMF−X09A、ジャスティス。発進どうぞ〜>
「シュティル・ハーベスト……ジャスティス、出るぞ!」
そしてシュティルが操縦桿を引くと、機体は発射され灰色から赤いボディカラーになる。それは、前大戦で最強と謳われた“フリーダム”に匹敵するMS――
ジャスティスガンダムだった。
背中のファトゥム00を切り離し、その上に載って高速で飛ぶ。
「(ユニウスセブンか……果たして自然落下か故意によるものか………まったく、大人しく平和を楽しめる奴はいないのか)」
心の中で愚痴りながら、シュティルは誰よりも早く一足先にユニウスセブンを目指すのであった。
感想
さて、ユニウスセブンが動き始めました!
シン君とリサ嬢のつばぜり合いも中々ですね♪
今までの流れにおいてレン君はザフト側になっていると思われます。
ですが当然完全に相容れるわけでもないでしょうね。
それに議長はどう動くのか気になる所です。
話としてはまだまだ先ですが、キラ君の動きはディスティニーにおいてかなりおかしな物でした。
キラさんですか…彼は種の時からの
女性ファン層が厚いですから。
種運命の活躍はその辺りに起因する物だと思います。
カッコいいと言う事はそれだけでいい事です♪
ははは…アキト君には聞かせられんね(爆)
勘違いしていませんか? 私にとっ
てアキトさんはかけがえの無いものです。
例えどんなキャラだろうと、アキトさんと比べれば黒サクラとゾウゲン虫です!。
これはまた分りにくいたとえだね(汗)
私にとってアキトさんは永遠だという事です。
さらに意味不明に(汗)
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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