「アラン、クリスティン、これでようやく俺も、お前達も……さあ行け! 我等の墓標よ! 嘆きの声を忘れ、真実に目を瞑り、またも欺瞞に満ち溢れるこの世
界を、今度こそ正すのだ!」
たった一人のナチュラルに対する怨念。それが仲間を呼び、新たな戦争の火種を作った。彼の名はサトー。彼の目の前には地球に向かって落下する妻と娘の墓
標――ユニウスセブンがあった。
機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜
PHASE−04 ユニウスセブン
のどかな田舎風景の丘にある壮大な邸宅。その一室――ビリヤードの台が置かれている事から遊戯室と窺われる――に、乗馬服を着た者達が集まっていた。殆
どが年配の、老人が多数を占めていた。
「さてと、とんでもない事態じゃの」
「まさに未曾有の危機。地球滅亡のシナリオですな」
「ふ、書いた者がいるのかね」
葉巻を吸う者、ビリヤードを嗜む者と口々にする中、年配者の多い中で一際若い男性が言った。
「それはファントムペインに調査を命じて戻らせました、一応」
「大丈夫なのか?」
男性の名はロード・ジブリール。前の戦争で死んだムルタ・アズラエルの後を引き継ぎ、『青き清浄なる世界』をモットーに掲げるブルーコスモスの新盟主で
ある。
アズラエルは不敵な態度で自分の倍近く生きている老人達に向かって言った。
「大丈夫ですよ」
「今更、何ぞ役に立つのかなそんなものを調べて」
「それを調べるんですよ」
「しかしこの招集は何だ、ジブリール? まぁ、大西洋連邦を始めとする各国政府が、よもやアレをあのまま落とすとも思ってはおらんが。一応、避難や対策に
忙しいのだぞ、皆」
ビリヤードをしながら老人の一人が尋ねると、ジブリールは笑みを浮かべたまま答える。
「この度の事には正直申し上げて、私も大変ショックを受けましてね。ユニウスセブンが、まさかそんな! 一体何故? まず思ったのはそんなことばかりでし
た」
「前置きはいいよ、ジブリール」
椅子に腰掛ける者が言うと、ジブリールは心外とばかりに返した。
「いえ! 此処が肝心なのです。やがて、この事態は世界中の誰もがそう思う事となるでしょう。ならば我々はそれに答えを与えてやらねばならない。
プラントのデュランダルは既に地球各国に警告を発し、回避、対応に自分達も全力を挙げるとメッセージを送ってきました」
「早い対応だったな」
「奴等も慌てていた」
「ならばこれは本当に自然現象ということかな? だがそれでは……」
一人が感想を漏らすと、他の者達も口々に言う。
「いえ、そんな事も、もうどうでもいいんです」
「ほぉ? と、言うと?」
一人が興味深そうに眉を吊り上げる。
「重要なのはこの災難の後、『何故こんな事に』と嘆く民衆に我々が与えてやる答えの方でしょう」
「やれやれ、もうそんな先の算段か」
「無論、原因が何であれ、あの無様で馬鹿な塊が間もなく地球、我等の頭上に落ちてくることだけは確かなのです。どういう事ですこれは!? あんなものの為
に、この私達までもが顔色を変えて逃げ回らねばならないとは!?」
まるで信者を煽る教祖のように、大きな手振りで語るジブリールに、他のメンバーも表情を顰めた。
「それは………」
「むぅ……」
少し引き気味の面子にジブリールは更に熱演する。
「この屈辱はどうあっても晴らさねばなりますまい。誰に!? 当然あんなものをドカドカ宇宙に作ったコーディネーターどもにです。違いますか?」
「それは構わんがな……だが、これでは被る被害によっては戦争をするだけの体力すら残らんぞ」
「だから今日お集まりいただいたのです。避難も脱出もよろしいですが、その後には我々は一気に打って出ます。例のプランで……その事だけは皆様にも御承知
おき頂きたくて」
「なるほど」
「強気だな」
「コーディネーター憎しでかえって力が湧きますかな、民衆は」
「残っていればね」
「残りを纏めるんでしょ? 憎しみという名の愛で」
その言葉に、一人が纏めるようにジブリールに言った。
「皆プランに異存はないようじゃの、ジブリール」
「ありがとうございます」
「では次は事態の後じゃな。君はそれまでに詳細な具体案を」
「はい」
そして、その会談は終わったのか、皆がそれぞれ席を立つ。そして、ジブリールは、窓から去って行く彼らを冷たい視線で見下ろしていると、唐突にビリヤー
ドの球を花瓶に向かって投げつけた。
パリィンと音を立てて割れた。すると、備え付けられている通信機が鳴り、ジブリールは回線を繋ぐ。
<やぁ、ミスター・ジブリール……景気はどうだい?>
モニターに映ったのはガーティ・ルーにいるキースだった。彼は何もかも見透かしたような笑みを浮かべてそう言ってくると、ジブリールはソファーに座り、
フンと強気に言い返した。
「最悪だよ」
<ほう? どうしたのかね?>
「老人達が余りにも愚かしいのでね」
空のバケモノ共が再び自分達を脅かしているというのに、老人達はまるで対岸の火事の如く、危機感を感じていない。それがジブリールには余りにも腹立たし
かった。
<ふ……所詮、棺桶に片足を突っ込みかけている連中だ。君が気にする事はないよ>
「やれやれ……お前のように優秀な人間こそがロゴスの幹部に相応しいのだがな」
<買い被りだよ、ジブリール。それに、私は陰気臭い部屋に閉じ篭るような職は苦手でね>
「ふははははは! それでこそキース・レヴィナス! 私の友は、それぐらい豪胆でなくてはいかん!」
気を悪くするどころか上機嫌に笑うジブリール。
<では私もユニウスセブンの調査があるのでね。そろそろ失礼するよ……ああ、それと友として忠告だ。デュランダルには気をつけろ>
「何?」
<ああいう人間は、腹の底で何を考えているのか分からん……下手をすれば足元をすくわれるぞ>
「…………お前の忠告、肝に銘じておこう。だが、その根拠は何なのだ?」
<ふ……頑張ってくれ>
キースはジブリールの質問には答えず、通信を切った。ジブリールはフッと笑みを浮かべ、テーブルに置いてあったワインをグラスに注ぐ。
「お前に言われずともやってみせるさ……空のバケモノ退治ぐらいな」
先程までの不機嫌さが消え、ジブリールは上機嫌でワインを飲むのだった。
「根拠……か。それは私がデュランダルと同じ人種だから、かな」
ガーティ・ルーの私室にて、通信の切れたモニターを見ながらキースは、クスクスと笑う。その時、部屋のインターフォンが鳴った。
<ネオです>
「入りたまえ」
「失礼します」
扉が開き、仮面に長いブロンドの髪をした男性が敬礼して入って来た。彼がファントムペインの隊長――ネオ・ロアノークだ。部下には軽い振舞いを見せてい
るが、判断力、パイロットとしての資質などは一流で、大佐という地位にいる。
キースはネオが入って来て、フッと笑みを浮かべると、棚からグラスを二つ取り、テーブルに置いてあるワインを注いだ。
「飲むかね?」
「いえ、一応、任務中ですので」
「そうか……」
丁重に断るネオ。キースはワインを床に零した。
「一人で飲む酒というのは寂しいのでね」
「はぁ……」
「例の3人は?」
「まだ揺り篭です」
「やれやれ……いちいち記憶をリフレッシュさせねば使えないと言うのは不便だな。そうは思わないかね?」
「……………」
キースの問いに沈黙するネオ。キースは、ニコッと笑うと窓の外の宇宙空間を見つめながら言った。
「ネオ君、君があの3人に同情しているのは知っているよ」
「そんな事は……」
「私の前で嘘はやめてくれたまえ。何も咎めるつもりは無いよ……ヒトがヒトを心配するのは当然の事じゃないか。まぁ軍においては、戦争の駒など気に留める
必要は無いと言うのだろうがね」
そう言うキースに見つめられ、ネオは押し黙った。まるで心を見透かされているような冷たいキースの瞳。喋り方は、穏やかではあるが、その心の内に何を考
えているのか全く分からなかった。
「ふふ……まぁ良い。君のそういう人間味溢れている性格は嫌いじゃないよ。それで? ユニウスセブンについて何か分かったかね?」
「あ、はい。軌道がズレたのは未だ原因不明ですが、ただミネルバが向かった事からプラント……ザフトの人為的なモノではないと思われます」
「ほう……ミネルバが。なるほど……面白い。ネオ君、我々も向かうとしよう」
「はっ!」
ネオは敬礼すると部屋から出て行く。が、唐突にキースに呼び止められた。
「ああ、ネオ君」
「は?」
「作戦が終わったら、是非、一杯……相手をしてくれないか?」
そう言ってワインを指すキースに、ネオは「作戦が終われば」と返事をして出て行った。キースは再び一人になると、窓の外を見る。
「さて……ユニウスセブンを落とそうとするのは何処の誰か……」
そして、コンピューターの端末を点けると画面に数体のジンが、ユニウスセブンに細工をしている画像が映った。
「それを知りながら黙認していたギルバート・デュランダル…………フフ、楽しみで仕方が無いよ」
何よりレンという因縁の相手と再会出来た。キースは、これから起こるであろう世界全体を巻き込む喜劇が楽しみになるのだった。
「では今回の件、君達は一切、関係が無いと?」
「当然ですよ。寧ろ調査に来るんじゃないですか」
ブリッジで、デュランダルはレンとリサに尋問していた。まぁ尋問とは言っても、そんなに堅苦しいものではなく、談話といった方が良いのだが。
「第一、私達が地球に、あんなものを落として何のメリットがあるんです? 博士……じゃなくて、議長」
「それもそうだな……」
「(そうなると逆に、ユニウスセブンを地球に落としてメリットがある連中を考えたら何となく分かるんだけどね〜)」
ユニウスセブンを地球に落とした所で、得られるのは地球に住む人間の恨み憎しみだけだ。そうなれば自然と戦争に発展していく。そうなる事を願っているの
は、二つ。コーディネイター排斥主義のブルーコスモスか、あるいは、現デュランダル政権の政敵である強硬派――ザラ派である。
互いにナチュラル、コーディネイターを敵としてしか見ていないので、戦争は是非、起こって欲しいと考えている。
「(ま、地球に被害が出るやり方を見る限りはザラ派かな……しかし、博士はザラ派を抑えれなかったのか?)」
チラッとタリアと話し合っているデュランダルを見る。
「(そういえば昔、研究所で博士が何とかプランを計画してた様な……何だっけ……)」
「兄さん?」
「レン?」
「ん?」
ふとリサとエリシエルに呼ばれて思考が止まる。
「どうしたんですか、兄さん? 考え事なんて珍しい」
「うん、ちょっとね……」
「失礼します」
その時、ブリッジに予想しなかった人物が入って来た。
「どうしたのかね、アスラン? いや、アレックス君か」
その名前を聞いて、レンは眉を顰めるとリサにボソッと尋ねた。
「アレックス?」
「どうやらオーブに亡命して、そう名乗ってるようです」
「あ〜、なるほど」
もし堂々とアスランと名乗ってれば脱走兵扱いで捕まってしまうので、オーブに亡命した際に名前を変えたのだろう。
「無理を承知でお願い致します。私にもMSをお貸し下さい」
アスランのその言葉にそこにいた皆が目を見開く。タリアは、鋭い視線で彼を見返して答えた。
「確かに無理な話ね。今は他国の民間人である貴方に、そんな許可が出せると思って? カナーバ前議長のせっかくの計らいを無駄にでもしたいの?」
「分かっています。でも、この状況をただ見ていることなど出来ません。使える機体があるならどうか」
「気持ちは分かるけど……」
深く頭を下げて懇願するアスランに、タリアは困り果てた顔をすると、デュランダルの声が間に入った。
「良いだろう。私が許可しよう」
「議長!?」
「―――議長権限の特例として」
そう言ってタリアに笑いかけるデュランダル。
「ですが議長……」
「戦闘ではないんだ、艦長。出せる機体は一機でも多い方がいい。腕が確かなのは君だって知っているだろう?」
何やら楽しんでいる様子のデュランダルに、アスランとレンは僅かに表情を歪めた。
「しょうがない……じゃ、私も行って良いですか?」
「! 兄さん!?」
「先輩!」
唐突に言い出したレンの言葉に再びブリッジが驚愕の色に染まる。レンはニコッと笑い、デュランダルに言った。
「ど〜も、今回の件、腑に落ちないんですよね。ちょっくら調査も兼ねて行っちゃ駄目ッスかね?」
「貴方ね……自分の立場を理解してるの?」
「勿論♪どうしても信用できないのなら、リサを此処に置いて行きますよ」
「人質……という事かしら?」
「地球の物語にあったでしょ? 期日に帰って来なければ代わりの人質を処刑するって。アレと似たようなもんですよ」
ジッと見つめてくるタリアの視線を、レンはヒョイッとかわすように対応する。
「ちゃんと帰って来ますって。破砕作業なら、僕のSSキャノンをフルに活用出来ますしね」
そう言われ、タリアは考える。確かに、あの破壊兵器なら破砕作業で大きな力になるだろう。だが、如何せん相手は海賊。人質を残すと言っても100%信用
できない。
「良かろう。レン君も出撃してくれたまえ」
「ちょ……議長!?」
「ただし……君が何らかの裏切り行為を見せれば、彼女の命だけでなくワイヴァーンをプラントの敵と見なすよ」
早い話が、プラント中からお尋ね者として扱われるという事だ。現在、ワイヴァーンは、地球・プラントに戦場から得た資材を売りつけている。もしプラント
とワイヴァーンのパイプが切れたら、路頭改め、宇宙に彷徨う事になってしまう。
第一、プラント全体が敵に回って、一海賊のワイヴァーンが勝てる筈も無い。
「お〜け〜♪」
が、レンは意に介した様子も無くOKサインを出した。
「ちょ、ちょっと兄さん! 今の会話、私達の生活賭けた事に気付いてます!?」
「勿論! 安心しなよ……他の連中はどうなろうが知らないけど、お前だけは兄ちゃんが、ちゃんと食べさしてやるから」
「…………帰ったら今の会話、一言一句間違えず皆さんに言います」
「はっはっは……………裏切ろうかな?」
「あ?」
「嘘です、すんません」
ポツリと呟くと、リサに凄い怖い目で睨まれレンは土下座して謝る。皆は、その行動に呆れながらも、デュランダルだけは笑みを浮かべていた。
「さて……果たして何が原因でこうなったのか」
その頃、シュティルの駆るジャスティスはユニウスセブンに到着していた。ユニウスセブンは、ゆっくりとだが高度を下げ、地球に向かっている。
「こんなものが落ちたら地球は一溜まりも無い……!?」
その時、ユニウスセブンからビームが飛んで来た。咄嗟にビームシールドで防ぐが、驚きを隠せないでいた。そして、凍りついた大地から、数機のMSが接近
して来た。
「(ジン!? こいつ等、ザフト……いや、まさか……!)」
何処の誰か分からないが、間違いなくユニウスセブン落下に関わっていると判断したシュティルは、ジャスティスのビームサーベルを抜いた。迫って来ている
MSはジン。ザフトのかなり初期の頃に造られた機体だが、相手はジン・ハイマニューバ2型と呼ばれる高機動型のモノで、斬機刀を抜いて迫って来た。
「ちぃ!」
考えも纏まらない内に襲い掛かって来るジン。シュティルはジャスティスのビームソードで相手の攻撃を受け止めた。
「何者だ、こいつ等!?」
「戦闘!?」
褐色の肌に金髪、少し軽そうな印象を受ける彼――ディアッカ・エルスマンは、ザクウォーリアに乗り、部隊を率いてユニウスセブンの破砕作業へと向かっ
た。
<ディアッカ! どうなっている!?>
モニターに彼の所属する部隊の隊長である銀髪の青年――イザーク・ジュールが映った。彼らは地位的には隊長のイザーク、一般兵のディアッカとイザークの
方が上だが、同期で数多の戦場を共に戦ってきた戦友と呼べる間柄である。
ディアッカも元はザフトの赤服を着ていたが、前の大戦で第三勢力に加わり、脱走兵扱いとなった。その為、降格処分という形で一般兵の緑服を着ているの
だ。
「知るかよ、そんな事! っていうか、戦ってるMS……ジャスティスじゃねぇの?」
<ジャスティス!? アスランか!?>
ジャスティスは全大戦で、彼らの同期であるアスランが搭乗していた機体だが、最後は彼の父親が造った最悪の兵器――ジェネシスを破壊する為に自爆した筈
だった。
「さぁな。けど、どっちかがユニウスセブン落下に関わってんのは間違いないだろ。どうするよ、隊長さん? 何かジンもこっちに気付いて出て来てるぞ?」
ディアッカの言うとおり、彼らに気付いたジン部隊が襲い掛かって来た。それから察するに、ユニウスセブンを落とそうとしているのは、ジンの方だと推測出
来た。
<俺も出る! お前達はメテオブレイカーを守りながら敵機を牽制しろ!>
「はいよ!」
ディアッカは、そう言って笑みを浮かべるとメテオブレイカー――早い話が削岩機――を近くのザクに渡し、長距離ビーム砲を放った。そのビームはジャス
ティスと交戦しているジンに直撃し、破壊した。
「やれやれ……今も昔の、その機体の援護か」
アスランか、それとも他の誰かが知らないが、二年前を思い出し、ディアッカは笑みを浮かべるのだった。
<モビルスーツ発進三分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す、発進三分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ>
アナウンスが流れる格納庫を、パイロットスーツを着用したアスランとレンが飛ぶ。アスランが乗るのは、アーモリーワンでも動かした緑のザクウォーリア
だ。
「粉砕作業の支援ていったって何すればいいのよ……?」
赤いガナーザクウォーリアの前で、ヨウランと話していたルナマリアが、レンとアスランが、それぞれMSに乗り込んでいるのを横目で見つけた。アスラン
は、整備主任のマッド・エイブスから説明を聞いている。レンは、早くコックピットに乗り込んでハッチを閉めた。
「あいつ等も出るんだってさ。作業支援なら一機でも多い方がいいって」
「へぇ〜。ま、MSには乗れるんだもんね」
アスランの操縦は見た事無いが、レンの腕前は先の戦闘で見せて貰った。ハッキリ言って自分達より、相当上だというのが窺えた。
<モビルスーツ発進1分前>
レイの白いブレイズザクファントムがカタパルトに設置され、アスランは機体のハッチを閉めて起動させる。
<発進停止! 状況変化! ユニウスセブンにてジュール隊がアンノウンと交戦中!>
その時、告げられた報告にアスランは驚く。戦闘よりもまず、ジュール隊という名前だ。
「イザーク……?」
彼が知る中でザフトでジュールと言えば一人しかない。常に自分と張り合い、勝気で、見た目とは裏腹な熱血漢な士官学校んp同期生。
<アンノウン?>
シンの僅かに戸惑った声も聞こえた。
<各機、対MS戦闘用に装備を変更して下さい>
<更にボギーワン確認。グリーン25デルタ!>
「どういう事だ!?」
目まぐるしく変わる情報にアスランは声を張り上げた。
<分かりません! しかし本艦の任務はジュール隊の支援であることに変わりなし! 換装終了次第各機発進願います!>
モニターに映るメイリンも困惑顔で答えた。すると、彼女に替わってレンがモニターに映った。
<落ち着け、アスラン!>
「せ、先輩!?」
<私だって焦ってるんだ……>
「先輩が?」
<ああ……良く考えたら私の名前ってシン君とレイ君を足して2で割ったような名前だな〜って>
「どうでも良い事じゃないですか!!」
あのレンが焦るなんてと思っていたアスランだったが、悩んでいる内容が余りにも下らな過ぎて思わずツッコミを入れてしまった。
<何、出撃前に腰砕けるような事言ってんですか!>
<下らない事で時間を潰さないで頂きたい>
<あはは。ネタにしてゴメンね>
シンとレイも回線を開いて文句を言うが、レンは苦笑いを浮かべて謝るだけだった。ハァと溜息を零すアスランに、ルナマリアが回線を開きモニターに映っ
た。
<状況が変わりましたね。危ないですよ………お止めになります?>
随分と挑戦的なルナマリアに、アスランはムッとなる。
「馬鹿にするな」
<そうだそうだ! 年寄りの冷や水なんて言わさないぞ!>
「先輩は黙ってて下さい! 気が散ります!」
<…………場を和ませようと思ったのに……>
寧ろ逆効果ですと、アスランはジト目で呟いた。やがて、各機、発進準備に入った。
<シン・アスカ、コアスプレイダー、行きます!>
<レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!>
<ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!>
<レン・フブキ、ラスト、行くぞ!>
それぞれ機体が発進する。アスランは目を閉じてフゥと息を吐いた。何が何だか分からない状況だが、今は考えるより動く事が先だ。ユニウスセブンが落下
し、その為に友が戦っている。自分が出るにはそれで十分な理由だった。
「アスラン・ザラ、出る!」
「くっ……何者だ、こいつ等!? ジンで此処まで……!」
ファトゥム00に乗って高速移動しながらジンをビームサーベルで切り裂きながらシュティルがボヤく。相手は、ジンでありながら、ザフトのMSを圧してい
た。間違いなく、戦闘のプロだ。
平穏で腕の衰えた今のザフトの兵では相手にならなかった。その中で、青のスラッシュザクファントムと、緑のガナーザクウォーリアは動きが違った。
「(明らかに戦闘慣れしてるな)」
コンビネーションも中々だとシュティルは、そう評価した。
<………い!>
「ん?」
その時、通信回線にノイズ交じりの声が聞こえたので、シュティルは回線を開いた。
<アスラン、貴様!! こんな所で何をしている!?>
「!」
いきなり怒鳴り声が聞こえ、シュティルは驚いた。
「何だ、お前等は?」
<…………アスランじゃないのか?>
「……お前、あのザクファントムのパイロットか?」
<貴様こそ何者だ!?>
ヤレヤレとシュティルは肩を竦めて名乗った。
「海賊ワイヴァーン副長、シュティル・ハーベストだ。諸事情によってユニウスセブンの調査に来た」
<海賊!?>
<おいおい、海賊風情が何で、その機体に乗ってんた?>
驚く声の主に対して、別の声が続いて言って来た。シュティルは溜息を吐いて説明する。
「この機体の開発に関わった奴がウチのメカニックでな。設計図を覚えていたそうなんで、ウチで独自に開発した」
<何ぃ!?>
<マジかよ……>
「それで? そちらは? 思うにスラッシュザクファントムとガナーザクウォーリアのパイロットと思うが?」
そう問い返すと、それぞれ名乗りを上げた。
<ジュール隊隊長、イザーク・ジュール……>
<同じくディアッカ・エルスマンだ>
「なるほど……では、尋ねるがあのジンはザフトとどういう関係だ?」
<知るか! あの機体はザフトにも地球連合にも所属していない!>
<多分、テロの類なんじゃねぇの?>
まぁ十中八九そうだと思っていたシュティルは、やっぱりと呟いた。
「まぁ良い。とりあえず今はユニウスセブンを何とかするのが先決だ。あのメテオブレイカーを守れば良いのだな?」
<海賊の手を借りる訳にはいかん! この場は見逃してやるから退け!>
「人の厚意は有難く受け取るものだぞ、坊や」
<ぼ……!?>
今までの会話からイザークという人物は、自分よりも若いと感じたシュティルは、そう言ってフッと笑みを浮かべ、ジンを始末しに行こうとした。その時、背
後からビームが飛んで来て紙一重で避けた。
「何!?」
<あれは……カオス、ガイア、アビス!?>
<アーモリーワンで強奪された機体か!?>
ミネルバを撒いて逃げた筈のあの三機が突然、現れ驚愕するシュティル達。何で此処に現れたのか知らないが、攻撃してくる所を見ると、明らかに破砕作業の
協力とは思えなかった。
シンに暴言を吐かれ、アスランに泣き崩れて眠ってしまったカガリがブリッジに入ると、妙に殺気立っていた。
「ジンを使っているのかその一群は?」
彼女の見たスクリーンに映っているのは、ユニウスセブンの近辺で戦闘を繰り広げる一団だった。
「ええ。ハイマニューバ2型のようです。付近に母艦は?」
「見当たりません」
余りにも予想外の事態に副官のアーサーが言った。
「けど何故こんな……ユニウスセブンの軌道をズラしたのはこいつらってことですか?」
「え!?」
その事にカガリは思わず声を上げ、デュランダルが振り返った。
「一体どこの馬鹿が!?」
毒を吐くアーサーにタリアは険しい表情で呟く。
「でもそういう事なら、尚更これを地球へ落とさせるわけにはいかないわ。レイ達にもそう伝えてちょうだい」
「姫……」
その時、デュランダルに呼ばれカガリはハッとなって、スクリーンから目を離した。
「あ、ああ……アスランは?」
「おや? ご存知なかったのですか?」
「え?」
「彼は自分も作業を手伝いたいと言ってきて、今はあそこですよ」
「え!?」
戦闘中のユニウスセブンを示すデュランダルに、カガリは愕然となった。
<チィ! あいつら!>
ジュール隊と戦っているカオス、ガイア、アビスを見てシンが舌打ちすると、彼は真っ先に飛び掛って行った。
<あの三機、今日こそ!>
それにつられ、ルナマリアとレイの機体もあの三機へと向かう。
「目的は戦闘じゃないぞ!」
あくまでもジュール隊の破砕作業の手伝いだった筈だと訴えるアスランに、ルナマリアが返した。
<分かってます。けど撃ってくるんだもの。アレをやらなきゃ作業もできないでしょ?>
正論なのでアスランは何も言い返せず、表情を歪める。すると、彼はジンと交戦中のある機体を見て目を見開いた。それは、かつて自分が乗っていた機体。父
の作り上げた悪魔の兵器を破壊する為に自爆させた、恐らく今のMSと比べても最強に部類されるMSだった。
「ジャスティス!? 何で!?」
<あ〜、ありゃウチの機体だね>
「えぇ!?」
<どうやら一足早く来てたようだね〜>
暢気なレンの言葉にアスランは唖然となった。
「シュティル〜」
<レンか?>
一方レンは、ジャスティスと回線を繋いだ。モニターにはシュティルの姿が映る。
「どういう事? これ?」
<現在、アンノウンと交戦中。以上だ。手を貸せ>
「うわ、簡単過ぎる説明どうも」
レンはハァと溜息を吐いた。どうやらザフトがユニウスセブンをメテオブレイカーで破壊するのは、相当手こずっているようだった。レンは、それならSS
キャノンでユニウスセブンを破壊しようと考えたが、此処は月側。太陽は地球の真裏であった。
しかも、アレだけの質量のものだ。エネルギーMAXで撃たないと意味が無い。
「シュティル。ちょっくらSSキャノンの超長距離射撃やってみっからチャージの間、時間稼いどいて」
<は? 無茶言うな! あんな大量殺戮兵器の超長距離射撃など味方も巻き込むぞ!!>
しかも、動いているユニウスセブンに当てるなど至難の業であった。
「まぁまぁ。物は試し……!?」
その時、キィンと彼の頭を何かが過ぎった。余裕綽々の笑顔だったレンの表情が一変し、険しいものとなる。そして、キッと遠方を睨み付けた。
<レン?>
「…………悪い、シュティル。どうやら僕専用の客のようだ」
<何?>
そう言ってレンの睨む方向には、白い悪魔の機体―――クライストが迫って来た。一直線にレンのラストに向かってビームランスを突き出して来るクライス
ト。レンもラストのビームサーベルを抜いて突っ込んで行った。
感想
えー、申し訳ないのですが、感想はまとめて書かせていただきます。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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