「ま、早い話がデュランダル議長にとっちゃラクス・クラインがいては都合が悪いんだよね」
崩壊した屋敷の無事だった格納庫。フリーダムの前でレンはピンと人差し指を立てて、キラ、ラクス、バルドフェルド、マリューに説明した。プラントでは偽
者のラクスが現れたので、本物に何か仕掛けて来ると予想したので、護衛しに来た、と説明した。
「いや、もう大変だったんですよ。自然を装ってラクス様に近付こうとするの……」
「ストーカーしに来る行為の何処が自然なんだ?」
「仲間内じゃ迷惑になるからヤメロとか言われるし……」
ツッコミを無視されて少し悲しいバルドフェルドだったが、“仲間”と聞いて眉を顰めた。
「レン、お前、今何やってんだ?」
「海賊」
「「「「………は?」」」」
サラッと答えるレンに、4人は目を白黒させた。
機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜
PHASE−12 大天使と竜
「ふてぇ野郎だ! 大人しくお縄を頂戴しろ!!」
「ぎゃああああああ!!!!!」
バルドフェルドはレンの背中に乗っかりロープで巻きつける。
「お前、軍を抜けて気になってたのに、何呑気に海賊家業なんてやってんだ!?」
「あ〜! やめてぇ〜! 堪忍してぇ〜!」
「それが元部隊長のやる事か!」
「どうせ縛るなら、もっと官能的にしてぇ〜!」
何か違う事で叫んでいるレンに、キラ達は表情を引き攣らせる。バルドフェルドはレンを簀巻きにしてミノムシみたいにすると、ドカッと背中に座って銃口を
向ける。
「で? 本当に海賊のお前がラクスを助ける為だけに来たのか? ん?」
「だ、だからラクス様ファンクラブのbVって言ったじゃないスか……」
「嘘はいかんな〜。小賢しくて腹黒で、人の逆手を取る事が大好きな君がデュランダル議長の目的を何も知らないとは思えんが?」
「いや〜……マジで知らないんですよ。ただ、ラクス様を狙うのは、あの人が怪し過ぎるからで……」
「何が、どう怪しいんだ?」
「だから〜……完璧過ぎるあの人が、偽者使うなんて大博打やらかすなんておかしいでしょ? あんなもんDNA鑑定でもすれば一発でバレますし」
そう言った後、真のラクス様ファンの目は誤魔化せませんけど、と誇らしげに語るレン。
「いっその事、私たちラクス様ファンクラブ幹部会で蜂起でも起こしましょうか……」
「それはプラントの方達に迷惑ですのでご遠慮くださいな」
「はい♪」
「「「(早っ!)」」」
またもラクスの言葉に即答するレンに、キラ、バルドフェルド、マリューは心の中でツッコミを入れる。
「つまりデュランダル議長はそういう人だよ。不都合な事があれば、即排除。いや〜、昔は、もうちょいまともな人間だったんだけどね〜……まだ正規軍にしか
ないアッシュで攻めて来たのは致命的なミスだね」
「……信じられないわね。デュランダル議長は誠実で良い政治家だと思っていたのに……」
バルドフェルドやマリューも、デュランダル議長なら、と信頼を寄せてプラントへ引っ越そうとしたが、これでは行けなくなってしまう困惑する。
「まぁまぁまぁ!」
その時、大きな声がしてので何事かと思い、そちらを見るとカガリの侍女であるマーナが驚いた様子で子供達に手を引かれてやって来た。
「マーナさん?」
「キラ様! これを……カガリお嬢様からキラ様にと」
「え?」
ふとマーナが封筒を差し出して来て困惑するキラ。
「お嬢様はもう、ご自分でこちらにお出掛けになることすら叶わなくなりましたので。マーナがこっそりと預かって参りました」
それを聞いてキラ達は驚きで目を見開き、レンは目を細めた……簀巻きのまま。
「どうかしたのカガリさん?」
「御怪我でもされたのですか?」
マリューとラクスが心配そうに尋ねると、マーナは肩を落とし、首を左右に振った。
「いえ、お元気ではいらっしゃいますよ………ただもう、結婚式の為にセイラン家にお入りになりまして……」
「「「「ええ!?」」」」
結婚、と聞いて驚きの声を上げるキラ達。レンもポカンと口を開く。キラ達もカガリとユウナの関係は知っているが、こんなに早いとは思わなかった。何より
カガリが、その気になるとは思わなかったのだ。
キラは慌てて封筒から手紙を取り出して読み始める。
“キラ、すまない。ちゃんと一度自分で行って、話をしようと思っていたんだがな。ちょっともう動けなくなってしまった”
「お式まではあちらのお宅にお預かり、その後もどうなることかこのマーナにも解らない状態なのでございます。ええ、そりゃあもうユウナ様とのとこは御幼少
の頃から決まっていたような事ですから、マーナだってカガリ様さえお宜しければそれは心からお喜び申し上げることですよ? でも! この度のセイランのや
りようといったら、それもこれも何かと言うと御両親様がいらっしゃらない分、こちらでとばかりで……」
「は、はぁ……」
興奮してバルドフェルドに詰め寄るマーナ。流石の彼もオバチャンパワーには圧されてしまっている。その間にもキラは手紙を読み進める。
“オーブが世界安全保障条約機構に加盟する事は、もう無論知っているだろう。そして私は今、ユウナ・ロマとの結婚式を控えて、セイラン家にいる。ちょっと
急な話だが、今は情勢が情勢だから仕方がない。今、国にはしっかりした、皆が安心出来る指導者と態勢が、確かに必要なのだ。この先、世界とその中で、オー
ブがどう動いていくことになるかは、まだ分からないが、たとえどんなに非力でも、私はオーブの代表としてすべき事をせねばならない。私はユウナ・ロマと結
婚する。同封した指輪はアスランがくれたものだがもう持っている事は出来ないし、取り上げられるのは嫌だ。でも、私には今ちょっと捨てることも出来そうに
なくて。ほんとに済まないんだが、あいつが帰ってきたらお前から返してやってくれないか。ちゃんと話しもせずにこんな事、ほんとは嫌なんだけどな。頼む。
ごめん”
キラは慌てて封筒を振ると、赤い宝石の埋め込まれた指輪が出て来た。
“皆が平和に幸福に暮らせるような国にするために私も頑張るから”
そして手紙はそこで終わっていた。全て読み終えると、キラは眉を顰め、怒りに震えた。それはカガリにでも、セイラン家にでもない。カガリが、こんなに苦
しんでいる間、何もせずただ無為に過ごしていた自分に対しての怒りだった。
手紙から顔を上げたキラの目には明らかに何かを決意した意志が宿っていた。それを見てレンがハッと目を見開く。
「ま、待ちたまえキラ君!」
「?」
「君の考えている事は予想がつく。だが、それでは駄目だ。余りにナンセンスだよ」
「え?」
不思議そうに簀巻きにされてるレンを見るキラ。レンはニヤッと笑う。
「私に考えがある」
セイラン家の屋敷でドレスに身を包んだカガリは、椅子に座り静かに顔を俯かせていた。その表情には様々な感情が入り混じっている。
首長達を抑え切れなかった自分の力の無さへの怒り、アスランを裏切ってしまった事への罪悪感……何もかもが悪い方向へ流れていく。
人間であるなら誰だって愛する人と一緒になりたい。だが、自分はオーブの代表。そしてオーブは今や大西洋連邦の加盟国。コーディネイターとの結婚など絶
対に許されなかった。
すると、扉がノックされ、セイラン家の侍女が入って来た。
「お時間でございます、カガリ様」
カガリは、目を閉じながらも意を決して立ち上がり、侍女に手を引かれて部屋から出る。セイラン家の階段を下りると、多くの招待客と白いタキシードに身を
包んだユウナ、そして養父になるウナトが出迎えた。
「んー……綺麗に出来たね、カガリ。素敵だよ。でも、ちょっと髪が残念だな。今度は伸ばすと良いよ。その方が僕は好きだ」
カガリの心情など露知らず、ユウナがソッとベールに触れる。カガリは虫酸が走る思いをしながらも、視線を逸らした。
やがて2人は外で待機している白いリムジンに乗り込んだ。カガリが後部座席で、ずっと俯いている横でユウナは、備え付けのミニバーを開きながら尋ねる。
「何か飲むかい? 緊張してるの? さっきから全然口も利かないね?」
「別に……大丈夫だ」
「ふん。いえ、大丈夫ですわ。ご心配なく。だろ? ………しっかりしろよ」
最後の方にドスを利かせて言うユウナだったが、カガリはフゥと息を吐いてジロッとユウナを見る。
「ユウナ、私はお前と“結婚してやる”。だが、私の心まで手に入れたと思うな。夫婦になりたいなら、そう演じてやる。だが、私はカガリ・ユラ・セイランに
などなるつもりはない。私は私……カガリ・ユラ・アスハとして生きてやる」
「何……!?」
彼女の言葉にユウナは驚いて睨み付けるが、カガリは笑みを浮かべて窓の外を見る。
「マスコミもいるんだ。そんな顔をして良いのか?」
そう言い、作り笑いを浮かべて国民に手を振る。ユウナは唇を噛み締めながらも、窓の外に手を振る。余りにも予想外だった。屈服したと思っていたが、此処
まで芯が強かったとは思わなかった。
強引に式まで持ち込めば諦めがつくかと思ったが……ユウナは、カガリという女性をとことん過小評価していたのだ。
「でも、本当にそれで良いのかしらね」
キャットウォーク上でマリューが深刻な表情でポツリと呟くと、キラはコクッと頷く。
「ええ……ってか、もうそうする他ないし」
「はぁ……」
その言葉にマリューは溜息を吐きながらも笑みを浮かべる。
「本当は何が正しいのかなんて、僕達にもまだ全然分からないけど……でも、諦めちゃったら駄目でしょう? 分かってるのに黙ってるのも駄目でしょう?」
キラの脳裏に浮かぶのは、かつて戦ったある男。この世界の全てを憎み、滅ぼす事を望んだ男。ただ戦火を広げ、世界を滅ぼそうとした仮面の男。
「その結果が何を生んだか、僕達は良く知ってる。だから行かなくっちゃ。またあんな事になる前に」
二度と、あんな人物を生み出してはいけない。そう言い、キラがマリューを見ると彼女は微笑んで頷いた。
「ええ……」
ふと後ろのエレベーターが開き、2人は振り返ると懐かしい顔がそこにはあった。アーノルド・ノイマン、ダリダ・ローラハ・チャンドラ二世、コジロー・
マードックと、かつて同じ戦火を潜り抜けた仲間。
そして、彼らの後ろから真っ白い髪に眼帯をした少女が出て来る。キラとマリューは目を瞬かせながら、彼女が引き摺っているレンを見て表情を引き攣らせ
る。レンは、ズダボロにされ、指がピクピクと小刻みに震えている。
「初めまして、リサ・フブキです。この度は不肖の兄が大変、ご迷惑をお掛けしたようで申し訳ありません。もし兄が愚考を働いたら、遠慮なく体罰をして下
さって結構ですので」
「は、はぁ……」
「では本題に入りましょうか」
リサがそう言うと、キラとマリューは顔を見合わせて頷く。するとマリューは目を閉じて両膝を突く。そこへ、リサが言って後ろに回ると、ガシッとマリュー
の首に腕を回し、彼女に拳銃を突き付けた。
「手を挙げてください! 彼女の命が惜しければ大人しく私達の言う事を聞きなさい!」
「ア〜レ〜。タスケテ〜」
頬を赤くしながら台詞棒読みのマリューに、キラ達はプッと噴き出しながらも手を挙げる。
「マリューさん、役者のセンスありませんね」
「放っといて頂戴!」
いつの間にか復活しているレンが冷ややかに言うと、マリューは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「さ〜て、と。彼女を人質に取られたら仕方が無いよね? 私達、ワイヴァーンに協力して貰うよ」
「で、兄さん? これからどうするんです?」
「フッフッフ……」
怪しい笑みを浮かべ、レンは懐からあるものを取り出した。それを見てキラ達は唖然となる。
固まってるキラ達を他所にレンは、目の前に佇む白い戦艦を見つめた。アークエンジェル……それは大天使の名を冠した伝説の戦艦だった。
オーブの軍服に着替えたクルー達は手馴れた様子で起動準備に入る。
「機関、定格起動中。コンジット及びAPUオンライン。パワーフロー正常」
操舵席に座るノイマンの横では、バルドフェルドが座っている。彼は、ブリッジに入って来たマリューを見て笑みを浮かべた。
「おやおや? 人質さん、ご登場だね」
「もう、からかわないで下さい」
リサに銃を突き付けられているマリューを見て、バルドフェルドがからかうと彼女は照れ笑いを浮かべる。
「アークエンジェルは私達が拿捕しました。これから私達の大捕物に協力して頂きます」
「やれやれ。艦長さんを人質に取られちゃ従うしかないな〜」
そうバルドフェルドが言うと、ノイマンとオペレーター席に座るチャンドラ、そして同じくオペレーター席に陣羽織を着たラクスがククッと笑う。するとマ
リューがおずおずと言った。
「あの、バルトフェルド隊長」
「んー?」
「やっぱり、こちらの席にお座りになりません?」
そう言い、マリューは艦長席を指す。艦長として指揮能力ならばバルドフェルドの方が優れている。だからマリューは、そう言ったが彼は首を横に振った。
「いやいや、元より人手不足のこの艦だ。状況に因っては僕は出ちゃうしね。そこはやっぱり貴女の席でしょう……ラミアス艦長」
するとノイマン達もマリューに向けて笑みを浮かべる。
「何なら私が貴女を艦長に指名しましょうか?」
マリューは皆の気持ちをありがたく思う。この時点で彼らの命を預かる身となった。マリューは意を決した様に表情を引き締め、艦長席に座った。
「さて、私はアークエンジェルの動力部に爆弾を仕掛けた“らしい”ので、下手な動きをすると爆発するようですよ?」
随分と細かい設定にマリューは苦笑しながら「従います」と頷くと、ノイマンの声が上がる。
「主動力コンタクト。システムオールグリーン。アークエンジェル全ステーション、オンライン」
それは2年間、眠っていた彼女達の目覚めを意味していた。
「ごめんね母さん。また……」
アークエンジェルの発進準備が推し進めらる中、キラは、カリダに別れの言葉を告げた。2人には血の繋がりは無い。キラと血の繋がる人物は、この世でただ
一人、双子の姉のカガリだけである。
大戦中、ある男より告げられた自分の出生。その時、キラは愕然となった。2年前、彼はオーブから出る時、両親と会わなかった。その時は“何でコーディネ
イターにしたのか?”と言ってしまいそうだったから。
しかし、自分がコーディネイターとして生まれたのは、彼女らの意志ではなかった。数多の人の夢の結晶であり、母胎で生まれたものではない。それがキラと
いう人物だった。
筋違いに恨んでいた事でキラは二度と元のような生活に戻れないと思っていたが、カリダは優しく微笑んで言った。
「いいのよ。でも……一つだけ忘れないで」
「え?」
「貴方の家は此処よ。私はいつでも此処にいて、そして貴方を愛してるわ」
「母さん……」
「だから、必ず帰ってきて」
キラは言葉を失う。彼女は、戦後、ずっと余所余所しかった自分を愛し、帰って来てと言ってくれた。キラは、自然と母親を抱き締めた。
「うん……」
生まれなんて関係ない。誰が何と言おうと、彼女が自分の母親だ。キラは、そう確信した。
キラが艦に乗り込むと、すぐに注水が始まる。大戦後、アークエンジェルはクライン派やアスハ家の力により修理、改良された。その一つが潜水能力だ。
艦全体が水の中へと沈んでいく。キラが格納庫へ行くと、フリーダムの前にレンがマードックと話していた。
「フブキさん!」
「ん? キラ君、お母さんに挨拶した?」
「はい」
「そうか……」
フッと優しく微笑むレン。するとマードックが僅かに不安げな様子で言って来た。
「けどよぉ、良いのかキラ? こいつにフリーダム動かさせて……」
するとキラは苦笑いを浮かべて答えた。
「しょうがないですよ。マリューさんが人質に取られたし、動力部に爆弾を取り付けられた“らしい”ですし……」
「そうそう。フリーダムもアークエンジェルも私達が頂いたよ。もっとも、ウチも人手不足だから、こっちは君達に動かして貰うけど」
そう言い、微笑むレンに、キラとマードックも笑みが零れる。
「じゃ、私も準備するか」
フリーダムに向かうレンだったが、不意にキラが呼び止めた。
「あ! フブキさん!」
「ん?」
「あの……もし、オーブ軍が攻撃して来たら、コックピットは狙わないで下さい……お願いします!」
圧倒的な力を持つキラとフリーダム。彼はフリーダムを得てからは、常に“不殺”の戦いを自身に強いて来た。以来、彼がフリーダムでコックピットを攻撃し
たのは一回しかない。
レンは、目を細めてキラを見ると、フゥと息を吐く。
「了解。君の意見を汲もう」
「あ、ありがとうございます!」
キラは深く頭を下げて、礼を言った。まぁ、フリーダムだしキラの意見を尊重しようというレンの意志だった。
フリーダムのコックピットに乗り込むと、慣れた手つきで起動させる。
<メインゲート開放>
<メインゲート開放>
スピーカーからはマリューの指示と、それを反復する声が聞こえる。
<拘束アーム、解除。機関20%、前進微速>
<機関20%、前進微速>
<水路離脱後、上昇角30。機関最大!>
<各部チェック完了。全ステーション正常!>
<海面まで10秒、現在推力最大>
<離水! アークエンジェル発進!>
マリューの掛け声とともにアークエンジェルのブースターが火を噴き、海面から飛び出す。すると、モニターにラクスの顔が映った。
<レン様、準備はよろしいですか?>
「お任せを!」
<フリーダム発進、よろしいですわ>
カタパルトが移動し、目の前のハッチが開くと青空が目に映った。レンは、笑みを浮かべて操縦桿を引く。
「レン・フブキ! フリーダム、行くぞ!」
カタパルトが発射し、フリーダムは飛び立ち十枚の翼を広げる。目指すは式の会場だった。レンは、ニヤッと笑い懐を探った。
式の会場は、長い階段を昇った先にある祭殿だった。神像が立ち並ぶ中、警備のオーブ軍のMS、M1アストレイが並んでいる。
此処はハウメアの神殿と呼ばれ、オーブの民を見守り続けている場所であり、代表首長であるカガリの結婚式に相応しい場所である。
政府関係者やウナトを初めとする首長達の拍手に迎えられながら、カガリとユウナは、祭壇に立つ神官の前で止まった。
「今日、此処に婚儀を報告し、またハウメアの許しを得んと、この祭壇の前に進みたる者の名は、ユウナ・ロマ・セイラン。そしてカガリ・ユラ・アスハか?」
「「はい……」」
神官の問いかけにユウナとカガリは返事をするが、表情は対照的だった。神官は更に儀式を進める。
「この婚儀を心より願い、また、永久の愛と忠誠を誓うのならば、ハウメアは其方達の願い、聞き届けるであろう。今、改めて問う。互いに誓いし心に偽りはな
いか?」
「はい」
その問いかけにユウナが迷い無く答えると、カガリは僅かに口篭る。その時、警備兵の一人が声を上げた。
「駄目です! 軍本部からの追撃、間に合いません! 避難を……」
「なんだ!? どうした!?」
突然の騒ぎにユウナが苛立ちの声を上げ、招待客達もザワめく。
「早く! カガリ様を! 迎撃!」
兵達が階段を駆け上がり、カガリを守ろうとする。そして迎撃と聞いて驚くカガリだったが、空から十枚の翼を広げた白い機体が飛んで来るのが目に留まっ
た。
「(フリーダム!?)」
それは、弟の乗る最強のMSだった。M1アストレイがビームを撃とうとするが、その前にフリーダムのビームライフルから放たれた閃光が、アストレイのラ
イフルを破壊した。
「カ、カガリぃ……!」
人々が我先にと逃げる中、ユウナは震えてカガリの後ろに隠れる。するとカガリはジト目でユウナに振り返って言った。
「おい、ユウナ……お前、お父様に何て報告したんだって?」
「え? あ……」
“オーブもカガリも、僕が命に代えても守りますってね”
リムジンの中で誇らしげにカガリに言った言葉を思い出し、ユウナは慌てる。
「え、えっと、それは言葉の綾で……え〜っと……」
するとフリーダムはカガリ達の前に着地する。その際、式の後に放たれる予定だった白鳩を詰めた箱が引っ繰り返り、大量の白鳩が空を舞った。
フリーダムは、ゆっくりとカガリに向かって手を伸ばす。
「ひ、ひいいぃぃ!」
「何をする、キラ!?」
とうとう堪え切れず悲鳴を上げて走り去って行くユウナ。カガリは、フリーダムを操っているであろうパイロットの名前を叫ぶ。フリーダムはカガリをコック
ピットの前に持って行くと、胸部が開く。すると、それを見た軍人やカガリはピシッと固まった。
現れたのは、カガリの良く知る人物ではなく、変な方向に曲がった口、太い黒眉、頬かむり……とある島国の伝統的な“ひょっとこ”のお面をした人物であっ
た。
「うわ〜っはっはっはっは!!!! オーブの姫は我々が頂いた!! 今、撃てば彼女にも当たる! 気をつけるんだな! ひょ〜っとことことこ!!」
変な笑い声を上げる謎のひょっとこに固まる一同。その隙にカガリをコックピットに入れ、てフリーダムは飛び立って行った。
「な、何をしている! 撃て馬鹿者! 早く! カガリ、カガリが……」
階段の下の方では髪の毛がボサボサになり、薄汚れたタキシードのユウナが兵に掴み掛かるが、先程のひょっとこの言うように撃てばカガリまで巻き添えを喰
らうと言った。
ユウナは愕然となり、白鳩と優雅に飛び立つフリーダムを見上げ、悔しそうに唇を噛み締め、嗚咽を漏らしたのだった。
「だ、誰だ、お前!? 何でフリーダムに乗ってるんだ!?」
フリーダムのコックピットでは、カガリがひょっとこに向かって恐怖を堪えながら問いただしている。まぁ、密室でこんなのと2人きりだったら、何をされる
か分かったものじゃない。
「ひょ〜っとことことこ。貴女はオーブの宝。宝を頂くのは私達の本業」
「え?」
すると、ひょっとこはお面を取るとカガリは目を見開いた。それは、ミネルバで会った、とても海賊らしからぬ海賊だった。
「レン!?」
「やぁお姫様。お元気ですか?」
「な、何でお前がフリーダムに!?」
「アークエンジェルは私達が頂いたよ。無論、コレもね」
「え? ど、どういう……」
説明を求めようとしたカガリだったが、突如、アラートが鳴り響いた。見ると、迎撃のオーブのMS、ムラサメが二機、ビームを撃って来た。
「すまんね、お姫様。ちょっくら我慢してください」
「え?」
そう言い、フリーダムはビームサーベルを抜き、ビームをかわすとムラサメの腕や頭部を切り裂いて飛んで行く。カガリは、その戦い方がキラの戦い方と同じ
事に気づき、驚いてレンを見る。
そしてモニターを見ると、そこには懐かしきアークエンジェルが映っていた。
「4時の方向にMS……フリーダムです!」
「何?」
兵士の報告を聞いて、トダカは眉を顰めた。彼も先のオーブ戦役の折、フリーダムを目撃している。だが、それが何でオーブにいるのか分からない。
「本部より入電! フリーダムは式場よりカガリ様を拉致、対応は慎重を要する!」
「あぁん?」
その命令にトダカは眉を顰めると、索敵担当兵が更なる報告を行う。
「9時の方向よりアンノウン接近! これは……MSです! それと大型の熱反応が!」
「何!?」
それを聞いてトダカは9時の方向を凝視する。すると、太陽の光に輝く、銀色のMSが猛スピードで迫って来た。その機体は、オーブ艦隊の目の前で止まる
と、黒い翼を広げ、全チャンネルを開いて通信して来た。
<我々は海賊ワイヴァーン。オーブ連合首長国代表……オーブの宝、カガリ・ユラ・アスハは我々が頂戴した>
その言葉に周囲はザワめく。宇宙(そら)の海賊として名高いワイヴァーンが、国家元首を攫う。余りにも前代未聞の事だったが、トダカはその声を聞いて驚
愕する。
「(シュティル!? シュティル・ハーベスト!?)」
その声は間違いなく、この前、再会したシュティルに間違いなかった。そして、アークエンジェルの方には竜の形を模した黒い戦闘艦がやって来る。間違いな
く、ワイヴァーンの母艦、ドラゴネスだ。
<尚、ついでにオーブで秘密裏に隠されていたアークエンジェル及びフリーダムと、そのクルー達を捕らえ、我々の軍門に加えてやった。今のオーブには不要だ
ろう? アークエンジェルも……カガリ・ユラ・アスハも>
その言葉にトダカはハッと目を見開く。
“確かにオーブの理念は甘い。ですが、その理念を守らなければ、世界は二分化され、どちらかが滅びるまで争いを続けます……トダカ一佐”
再会した時、シュティルはそう言った。トダカは、ユウナとカガリの結婚を快く思っていなかった。もし、カガリがセイラン家に入れば、オーブは間違いなく
コーディネイターを滅ぼす先駆けの国となるだろう。
彼らは、それを阻止する為に、カガリを奪取という手を使ったのだ。
「包囲して抑え込み、カガリ様の救出を第一に考えよ、との事です!」
当然、このような事はテロ行為だ。トダカは、恐らくアークエンジェルやフリーダムの拿捕というのは芝居だろうと思った。それなら名目上、国際指名手配さ
れるのは“海賊”である彼らだけだ。アークエンジェルとフリーダムは、無理やりという事で温情の余地がある。
<ああ、断っておくがこのMSの装備は、戦艦の陽電子砲以上の破壊力を持っている。我々は別にアスハ代表が死のうと知った事ではないのでな>
翼を広げ、太陽を背に、腰から巨大な砲身をアークエンジェルに向けて回すMS。下手な事をすれば、カガリごとアークエンジェルを撃つという脅迫だった。
<トダカ一佐! アークエンジェル、海賊船が潜行します! これでは逃げられます! 攻撃を!>
するとフリーダムを収容したアークエンジェルは海に潜っていき、ドラゴネスもその後を追うように潜って行く。そして、それを追って銀色のMSも飛び立
つ。
「馬鹿者! 攻撃すれば、あのMSの攻撃でカガリ様がやられるぞ! それにアークエンジェルに乗っているのは、海賊に捕らえられた民間人だぞ! それ
と……対応は慎重を要するのだろ?」
内心、鮮やかな彼らの手口にスッキリした気持ちになりながら部下を叱責すると、トダカは、海中へと消えていくオーブ……世界に残された小さな希望の灯を
見つめる。
オーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハや、かつての同僚達が命を犠牲にしてまで守りたかった希望……アークエンジェル。そして、それを犯罪者にしないよ
う、巧妙に芝居を打つワイヴァーン。
トダカは背筋を伸ばし、それらに向かって敬礼した。その姿を見た他の兵達もハッとなる。彼とほぼ同期で他の艦を指揮する者達も同様に敬礼しているので、
他でも騒ぎになっていた。
「(頼むぞアークエンジェル……そして、シュティルとワイヴァーンの諸君。カガリ様とこの世界の末を)」
「一体どういう事なんだ!? こんな馬鹿なマネをして!」
アークエンジェルのブリッジでは、カガリがクルーに向かって怒鳴りつけている。今の彼女はドレスではなく、軍服を着ている。彼女は、キッとマリューとバ
ルドフェルドを睨み付ける。
「あなた方まで何故!? 結婚式場から国家元首を攫うなど、国際手配の犯罪者だぞ!?」
「あ、それは大丈夫。国際手配になるのは私達。君らは仕方なく我々に協力する事になってしまった可哀想な民間人って設定ですから」
ピンと人差し指を立ててレンが言うと、カガリは彼を睨み付ける。
「正気の沙汰か!? こんな事をしてくれと誰が頼んだ!」
「だって可愛い女の子を見過ごせなかったんだもん! カガリちゃんの若くてムチムチした体が、あんなヤサ男のものになるなんて堪えられぶっ!!」
急に涙を流して力説するレンの顔面にリサの裏拳が炸裂する。鼻血を垂らして倒れるレンに、皆はリサの過激なツッコミに冷や汗を垂らした。
「兄さんのアホな話はさて置きまして……どうせ私達は元からお尋ね者ですし、今更、罪歴が一つ二つ増えた所で、どうって事ありません」
<おう! その通りだぜ!>
その時、モニターが映り、ドラゴネスのラディックの顔が映る。
「艦長……」
<おう! ワイヴァーンの艦長、ラディック・ロジャーだ!>
「あ、マリュー・ラミアスです」
マリューは代表して敬礼し、挨拶する。ラディックも指を額に添えて返すと、カガリに言った。
<良いか、お姫さん? アンタは俺らの獲物、お宝だ。だがな、宝ってのは、磨き方によって汚いクズになっちまうんだよ。あのままだったら、アンタ、間違い
なくそうなってたぜ>
「ク……」
クズ、とまで言われてカガリは言葉を詰まらせる。
<だから俺らは、アンタが綺麗な間に奪ってやったのさ>
「そう、つまり純潔むぎょわ!!」
倒れながらいらんな事を言うレンの頭をリサが踏みつけて無理やり黙らせる。カガリは、困惑しながらもキラに言った。
「だが……今の状況で私にどうしろと言うんだ!? 国を焼かせない為に同盟を結ぶ……だが、オーブが他の国を焼いて良い筈が無い! そうだろ!?」
「うん……そうだね」
「でも、国民の命って言われたら……どうしようもなくって……」
ポロポロと涙を零し、顔を額で覆うカガリ。キラは、そんなカガリの肩にポン、と手を置く。
「でも……そこで諦めたら終わりだと思う」
「え?」
「諦めて後悔するんだったら……何が何でも止めさせるべきだったんじゃないかな……」
「キラ……」
「カガリが大変な事は分かってる。今まで何も助けてあげられなくて、ごめん」
一人で解決させるには難しい問題だ。キラは、優しい声で言った。
「でも、今ならまだ間に合うと思ったから。僕達にもまだ色々な事は分からない。でも、だからまだ、今なら間に合うと思ったから」
そう言い、キラはポケットからカガリに託された指輪を取り出し、彼女の手を取って載せた。
「みんな同じだよ。選ぶ道を間違えたら、行きたい所へは行けない。だから、カガリも一緒に行こう」
カガリは強く指輪を握り締めて嗚咽を零した。そして、自分が一人じゃないという事を実感し、キラに抱きついた。
「うぅ……キラぁ」
「僕達は今度こそ、正しい答えを見つけなきゃならないんだ。きっと……逃げないでね」
そう言いカガリの頭を優しく撫でるキラ。他の皆は、それを微笑ましく見つめていた。すると、一段落ついたのを見計らい、レンが声を上げた。
「さ〜て、と。マリューさん、これからアークエンジェルは何処へ?」
「そうね……一応、中立のスカンジナビア王国にでも行こうかしら。あそこなら匿ってくれると……」
「あ〜、それなら東アジア共和国に向かってください」
「え?」
その名前を聞いてマリューを初め、キラ達が驚く。リサやラディックも眉を顰めている。
「東アジア共和国は元から大西洋連邦よ? 隠れ場所にはとても……」
「大丈夫ですって。あっこの政府は、もう私の言い成りですから」
「え?」
<おい、どういう事だ?>
何かとんでもない事を言い放つレンに、皆が注目する。レンは、頬を掻きながら言った。
「正確には、日本のフジヤマ社を上回る、志波コンツェルンが政府に手回ししてくれてんだよね〜。あそこは、私達のスポンサーでもあるし」
「海賊のスポンサー?」
ボソッとノイマンがリサに質問する。
「ええ、何故か資金援助とかしてくれるんですよね……」
志波コンツェルン……創始者、志波剛三を会長とし、造船業や貿易、航空技術などで成り上がった世界でも指折りの大財閥である。また、裏では政府関係者と
のパイプも太く、兵器の類も製造している。
「あそこの会長とは知り合いなんだな、これが。彼に頼んで政府に根回しして貰ったのさ」
正確にはロゴスの事を政府に秘密裏に公表し、表では大西洋連邦の加盟国だが、決して深く協力しないようにした。大西洋連邦としても、武力的に余り期待で
きない東アジア共和国には、疑いの眼差しを向けていない。
「知り合いって……兄さん、確か志波会長は、もう100歳近いお年では……」
っていうか、何で一海賊の彼が、そんなビッグな人物と知り合いなのか疑問だった。
「ま、とりあえず、しばらくはそこで身を隠しましょう。ついでに日本の京都は今、紅葉が綺麗な季節だね〜」
のほほ〜んと言うレンに、皆は表情を顰めながらも身を隠せるという事で彼の言葉を信じ、東アジア共和国の島国――日本へと向かうのだった。
後書き談話室
リサ「とまぁ、そういう訳で、11話にまで来ましたし、後書きという事で、こんなの作っちゃいました」
レン「ども! 主人公のレン・フブキです」
リサ「とりあえず人間として最低ランクに位置する主人公ですね」
レン「失敬な! 私だって怒ると怖いんだよ! 詳しくは前回を!」
リサ「まぁ、それはともかく、今回は兄さんがフリーダムに乗ってカガリさんを助ける異色な話でしたね」
レン「ひょっとこ仮面大活躍! ひょ〜っとことことこ!」
リサ「ノリノリですね……」
レン「お陰でキラ君達は、犯罪者になる事は無いでしょ」
リサ「そうかもしれませんが……私達の苦労が増えますね」
レン「あははは……」
リサ「しかし兄さんの謎は増えるばかりですね……キース氏との感応、シンさんの種割れを感知、更には大財閥の会長と知り合い……一体、何者なんですか?」
レン「ひょっとこ仮面。ひょ〜っとことことこ!」
リサ「……アジをしめたようですね」
レン「では次回! ひょ〜っとことことこ!!」
※ちなみにドラゴネスもアークエンジェル同様、潜水していますが、これは、ゼノギアスってゲームに出て来た海賊船を元にした戦艦です。それも陸・海・空
といけ、海中まで潜れるので、格好いいと思い、潜水能力も付けました。私にとって、ゲームや漫画で出た戦艦で一番、好きなヤツです。
感想
レン君、は世界を操ってますね〜
ですが、今度からは目的地も多少変わりますし、というか、シンの視点は副になりますから(アニメでもそれ系だけど…)
キラ視点とも違った形を見せてくれると面白いですね♪
まあ、政治はどーなってんの? っていう部分はSEEDの頃から付きまとっている疑問ですけどね。
後、ちょっと気になるのはオーブの位置ってどの辺なんでしょうね?
何だかアニメ内では日本っぽく書かれていますけどね。
オーブ出身の和名の人も多いですし・・・
スパロボでは南洋の小島でしたけどね…
それから、ゼノギアスは私も好きでした。
でも、残念な事に後半は時間を動かしたかったのか、容量がが足りなかったのか、途切れ途切れの話になったのが寂しかったですけどね。
アレはコンボ的に技を組むのも楽しかった…
ゼノサーガは主人公が女性なんでUはやらずにいます。
って、感想全く関係なくなってる(汗)
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