ドラゴネスは、日本の志波家の秘密ドックへと訪れていた。アークエンジェルは、ミネルバに備えてスカンジナビア王国で待機している。レン達が、降りると 志波家当主、志波柳生が出迎えた。

「レン様、皆さん! 良く御無事で!」

「いや〜、余り無事とは言いがたいんだけどね」

 シュティルが死んでしまい、苦笑いを浮かべて答えるレンだったが、ラディックを始め、他のクルー達は疲れ果てた様子だった。それを見た柳生は、秘書の女 性に言った。

「至急、艦の皆さんを志波ホテルのVIPルームにご案内してくれ。その階に他の客は入れるな」

「畏まりました」

「ちょ……俺らみたいな汚れもんに、そんな事……」

「いえ、志波家は皆さんを精一杯、サポートさせて頂きます。アークエンジェルの方にも秘密裏に物資を補給致します」

 何も礼は出来ないのに、そこまでして貰うのは少々、気が引けるラディックだったが、ここ最近、クルーも疲れ切っている様子だし、此処は素直にお言葉に甘 える事にした。

「じゃ、私は剛三氏の墓参りしてくるから。皆は先に休んでて」

「元気ッスね〜、レンは……」

 此処に来る間、少しだけ寝ているのを知っていたが、ちっとも疲れた様子じゃないレンにグッタリと肩を落とすロビン。皆、柳生と共に去って行くレンを、力 ない様子で見つめるのだった。



機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜

PHASE−23 揺れる世界



 シンは、今まであった事を吹っ切れるかのように射撃のシミュレーションを行っていた。次々に出て来る的を睨み、引鉄を引く。が、的が一瞬、シュティルと ルシーアの姿に重なり、ビクッと震えて狙いが外れた。

 シミュレーションを終え、耳当てとゴーグルを外してフゥと息を吐く。すると、隣ではいつの間にか来ていたレイが、銃を撃ってるのに気付いた。

「レイ……」

 ふと的を見ると、レイは正確に急所を撃ち抜いている。やがて、レイもシミュレーションを終えると、シンに気付いた。

「何だ?」

「え? あ、いや……何か、調子悪くてさ……上手く狙いが定まらないっていうか……」

 同期で、同室なのに彼の事を良く知らないシンが戸惑いがちに言うと、レイは、まっすぐ彼を見つめて答えた。

「迷いがある……迷えば戦場では死ぬ」

「迷い……」

「俺達はザフトの軍人だ。議長が敵と言えば、そいつを討ち、味方と言えば共に戦う。それだけで良い」

 迷いのないレイの言葉に、未だに迷っているシンには彼の姿が眩しく思えた。顔を俯かせ、拳を強く握り締めるシンに、レイはフッと笑って、ポン、と肩に手 を置いた。

「シン、お前が何をそんな風に迷い、悲しんでいるのかは俺には分からない。だが、これだけは覚えておいて貰いたい……議長は戦争の無い本当に幸せな世界を 目指しておられる。あの連合の少女達のような悲しい人間の生まれない世界……なら、その世界を守るのはお前だ……運命は、だからこそお前を生かした。きっ と……」

 そう言って、滅多に笑いかけないレイが、言葉多くに語り、微笑んだ。シンは、考える。戦争の無い世界……戦争さえなければ、シュティルもルシーアも死な ない。ステラのような子も生まれない。父も母も妹も死ななかった。

 そして、議長は戦争の無い世界を作ろうとしている。守りたかった人達は、守れず、いなくなった。なら、今、自分に出来る事は何なのか? シンは、自分と 同じ悲しい人間をもう出さない、その為には戦争の無い世界を作り、その世界を守る。そう思った。が、ふと、前の戦闘でのレンの言葉を思い出した。

『人は誰だって戦う……権力を得る為、金の為、平和の為、復讐の為、大切なものを守る為、自由を得る為、正義を貫く為…………戦う事は本能。そして、人が 人である証だ』

 戦う事は本能であり、人が人である証と言った。では、戦わなければ人ではない? そんな疑問が生まれた。

 そして、部屋の入り口で、エリシエルは気付かれないよう、二人の会話を聞いていた。

「(レイ……あの子、もしかして……)」



「まだ眠ってるんですか?」

 アークエンジェルの医務室に入ったキラが、ずっとある人物に付き添っているマリューに尋ねる。ベッドで手錠で拘束されて眠っているのは、レンが落とした 赤紫のウィンダムのパイロットだった。

 あの時、レンが落とし、通信で<あの機体のパイロットを!>と言って来たので、収容しようとした時に驚いた。髪の長さと、顔にある大きな傷跡は記憶に無 いが、その顔は間違いなく、2年前、彼らと共に戦った人物であった。

 ムウ・ラ・フラガ………元地球軍のMAパイロットで“エンデュミオンの鷹”と呼ばれ、前向きで明るい性格でアークエンジェルの兄貴分として皆を引っ張っ て来てくれた。自称、不可能を可能にする男。そして、マリューが愛した人物でもあった。

 彼女は今でも覚えている。

『大丈夫。俺は直ぐに戻って来るさ。勝利と共にね』

 それがハッキリと彼と交わした最後の言葉。しかし、それは叶わなかった。

 敵艦の放った陽電子砲……自分達を守る為、自ら盾となって防いだ。

『へへ……やっぱ俺って……不可能を可能に―――』

 その言葉を最後まで聞く事も無く彼は閃光の中へと消えた。

 死んだ筈だった……だが、今、こうして目の前にいるのが嘘のようだった。

「ええ。手当の時に一度目を開けて、自分は地球連合軍第81独立機動軍所属、ネオ・ロアノーク大佐だと名乗ったそうだけど……でも検査で出たフィジカル データはこの艦のデータベースにあったものと100%一致したわ……この人は、ムウ・ラ・フラガよ。いわば……肉体的には……」

 ソッと、マリューは彼の前髪を上げる。データを見ずとも、前の戦争で、今もこの艦に乗っている者は、彼をムウ・ラ・フラガだと言うだろう。

 しかし、本人は違うと言う。ネオ・ロアノーク……そう名乗った。余りのもどかしさに、傍らにいたマードックが声を上げた。

「だからどういう事だよ? つまり、少佐なんだろ、これは?」

 すると、今まで眠っていたネオが目を覚まし、呆れた口調で言った。

「やれやれ、いつ少佐になったんだ、俺は?」

 マリューは、思わず立ち上がって、ネオを見据えた。ネオは、嘲笑を浮かべ、キラ達に言う。

「大佐だと言ったろうがちゃんと。捕虜だからって勝手に降格するなよ」

 まるで初めて会話するかのような態度で話すネオにキラ達は愕然となる。特にムウだと思っていたマリューのショックは大きかった。そんな彼女の自分を見る 視線を見て、ネオは皮肉げな笑みを浮かべて言った。
 
「何だよ? 一目惚れでもした? 美人さん」

 からかうような口調だったが、その言葉はマリューの胸に深く突き刺さった。マリューは、口を押さえ、涙を流して医務室から逃げるように出て行った。

「あぁん?」

 が、ネオには急に泣いて逃げ出す彼女の行動が意味不明で眉を顰めた。

「ムウさん!」

 ネオの余りの言い種に思わずキラが声を荒げた。が、ネオは“ムウ”という知らない名前で呼ばれて首を捻る。

「あ? 何だよ、ムウって?」

 キラは大きく目を見開いて驚愕する。顔だけではなく、飄々とした、何処か人を食った性格は、間違いなくムウ・ラ・フラガそのものだった。それなのに、相 手は全く知らない人間を見るような目で見てくる。

 キラとマードックは、仕方なく医務室から出る。すると、嗚咽を上げているマリューに、ミリアリアが駆け寄っているのが見えた。キラは、ギュッと拳を握 り、声を上げた。

「マリューさん! アレは、ムウさんです!」

 その言葉に、マリューが振り返り、ミリアリアも驚いた顔になる。2人が、こちらにやって来ると、マードックが尋ねた。

「どういう事だ、坊主?」

「フブキさんが日本へ行く前、聞いたんです」




 レン達が日本へ行く前、アークエンジェルの廊下でキラは彼に尋ねた。

「フブキさん、あの人は一体……」

「う〜ん………何か戦ってる間、ラウ……クルーゼに似た感じがしたんだよね」

「! 彼を知ってるんですか!?」

 最後に自分が殺した人物の名前が出てキラが驚く。

「ああ、そうか……君が倒したんだっけ? 彼は、ちょっとした友人関係だったんだ。まぁ複雑だったけど」

 苦笑いを浮かべて答える彼に、キラは苦い思い出が蘇った。自分の出生を語り、唯一、人類を断罪する権利がある人間だと主張し、滅びを願った男。キラも、 彼の口から自分がこの世で唯一人の特別なコーディネイターである事を教えられた。

 そして今、世界はまたもや彼の望む形へと動いていっていた。

「…………すいません」

 友人関係と聞いて、キラはレンに謝るが、彼は首を横に振った。

「いや〜、友人とは言っても彼とは人生観で意見し合う仲だっただけだよ。彼の思想は、いずれ誰かに防がれると思っていたよ……それが、たまたま君だっただ けだ」

 最悪の場合、自分が止めてたけどね、と笑顔で語るレンに、キラも少し救われた気分になったのか小さく笑う。

「じゃあ……あの人はムウさん?」

「ムウ? それってラウが言ってた…………ああ、そういう事か」

 キラが、ポツリと呟くとレンは何か納得したような顔になる。

「キラ君、そのムウって、ひょっとしてエンデュミオンの鷹かい?」

「あ、はい」

 ザフトでも音に聞こえたエンデュミオンの鷹の異名を持つ男、ムウ・ラ・フラガ。レンも、その名はクルーゼから良く聞かされた。そして、その関係も……。

「なるほど。だからラウと似た雰囲気を感じたのか……」

「でも何でアークエンジェルを攻撃して……いや、それ以前に連合に……」

 疑問を口にするキラに、レンはピンと人差し指を立てて説明した。

「そりゃ〜、記憶が改竄されてるからだよ」

「え?」

「私が今、治療してる連合のエクステンデッドっていう子……彼女も強靭な力を持続させる為、記憶をリフレッシュさせられてたんだ。もし、同じような方法で 最初から連合の兵士としての記憶を植え付けられていたら……」

「そんな! 何とか元に戻せないんですか!?」

 その問いにレンは、両手を挙げて首を左右に振った。

「消された記憶を元に戻すのは無理だ。一度、湯船のお湯を全部、流してその湯を元に戻すのは無理だろ? けど、新しい湯を溜める事は出来る。それと同じだ よ」

 流石のレンも、一度、消去したものを元に戻すのは出来ないと聞いて、落ち込むキラ。

「けど、本人が何らかの切っ掛けで思い出す可能性がある。偽物の記憶って言うのは、必ず何処かで矛盾が生じてる筈なんだ……とりあえず見守るしかないね。 記憶が戻るよう、祈りながら」

 そう言い、レンは一縷の可能性を示唆し、ポンとキラの肩を叩いた。




「つまり今、少佐は少佐であって少佐じゃない……って、訳分かんねぇ」

 キラの話を聞いて、マードックが髪の毛を掻き毟る。

「つまり、何か切っ掛けさえあればムウさんだと思い出す筈なんです。でも……」

 自分達を見ても思い出さなかった。つまり自分やマリューでさえ、思い出す切っ掛けにはならなかったとキラが言うと、マリューがポツリと呟いた。

「陽電子砲を当てれば思い出すのかしら……」

「「「………………」」」

 どうやらムウだと分かって安心した様子で、いきなりマジ顔でとんでもない事を言い出すマリューに、キラ達は表情を引き攣らせるのだった。




「機体は、ほぼ完成しています。後はレン様が調整して下されば……」

 墓前に花を添え、手を合わせるレンの後ろで柳生が言う。

「総帥!」

 と、そこへ柳生の秘書がやって来た。彼女の手には、液晶テレビがある。

「どうした?」

「デュランダル議長が全世界に向けて緊急放送を……」

「何!?」

 柳生は驚いて、秘書の方に回りこんでテレビを見る。レンは、墓標を見つめながら、デュランダルの演説に耳を傾けていた。

「(始まったか……)」

<皆さん、私はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルです。我等プラントと地球の方々との戦争状態が解決しておらぬ中、突然このようなメッセー ジをお送りする事をお許しください。ですがお願いです。どうか聞いて頂きたいのです>




「艦長!!」

 志波ホテルのVIPルームで休んでいたリサは、慌ててラディックの部屋に飛び込んで来る。そこにはラディックだけではなく、クルーの皆が集まってテレビ を見ていた。

「おう、リサか。どうやら、レンの言ってた通りになりそうだぜ」

 以前、レンは言った。武力行使で民衆を押さえつけようとする連合を救い、プラントが善となり、そこへロゴスの存在を公表する。そうして思想統一を完成さ せると、レンは、この戦争が始まる前に予測していた。

 デュランダルの演説が始まり、ロジャー達は固唾を呑んで見守った。




<私は今こそ皆さんに知っていただきたい。こうして未だ戦火の収まらぬわけ。そもそも、またもこのような戦争状態に陥ってしまった本当の訳を>

 アスラン、ルナマリア、エリシエルもレクルームでデュランダルの演説を見ていた。先程、艦内放送で知らされ、殆どのクルーがレクルームに集まっている。

<各国の政策に基づく情報の有無により、未だご存知ない方も多くいらっしゃるでしょう。これは過日、ユーラシア中央から西側地域の都市へ向け、連合の新型 巨大兵器が侵攻したときの様子です>

 映像が切り替わり、画面には先日のベルリンでのデストロイが暴れている様子が映し出された。

<この巨大破壊兵器は何の勧告もなしに突如攻撃を始め、逃げる間もない住民ごと三都市を焼き払い尚も侵攻しました。我々はすぐ様これの阻止と防衛戦を行い ましたが、残念ながら多くの犠牲を出す結果となりました。侵攻したのは地球軍、されたのは地球の都市です。何故こんなことになったのか。連合側の目的はザ フトの支配からの地域の解放ということですが、これが解放なのでしょうか!? こうして住民を都市ごと焼き払うことが!>

 デストロイの残酷なまでの破壊活動が映し出され、インパルスの交戦する光景も映し出される。そこで、エリシエルとアスランは眉を顰めた。

「(レンの機体が無い?)」

「(フブキ先輩は?)」

 あの場には間違いなくレンのラストがいた。いや、デストロイを倒したのは彼だ。良く見ると、CG処理を施し、ラストの姿を消していた。

「(何故?)」

 そこでエリシエルとアスランは、ハッとなった。

「マズいぞ、この放送!!」

 思わずアスランが声を上げ、皆が彼に注目する。丁度、そこへやって来たシンとアスランも何事かと彼を見る。その横で、エリシエルも険しい顔をしてデュラ ンダルの放送を睨んでいた。そして、チラッとレイを見る。彼はフッと笑って、デュランダルの放送に耳を傾けている。

「議長は……連合の影を暴こうとしてるのよ」




「何だこれは!? 止めろ! 放送を遮断するんだ! 早くしろ!」

 ジブリールも沢山のモニターの中で、自分の指示で引き起こした連合の惨状を見て声を荒げた。通信機を取り、ヒステリックに放送中止を命令する。

<確かに我々の軍は連合のやり方に異を唱え、その同盟国であるユーラシアからの分離、独立を果たそうとする人々を人道的な立場からも支援してきました。こ んな得るもののないただ戦うばかりの日々に終わりを告げ自分たちの平和な暮らしを取り戻したいと>

 モニターには、瓦礫の中で泣いている子供や、戦火で家族を失った老人などの姿が映され、その被害を訴えている。

<あの連合の化け物が何もかも焼き払っていったのよ!>

<敵は連合だ! ザフトは助けてくれた! 嘘だと思うなら見に来てくれ!>

<なのに和平を望む我々の手を跳ね除け、我々と手を取り合い、憎しみで討ち合う世界よりも対話による平和への道を選ぼうとしたユーラシア西側の人々を連合 は裏切りとして有無を言わさず焼き払ったのです! 子供まで!>

 畳み掛ける様なデュランダルの演説に、ジブリールは焦り出す。

「止めろ! 何をやってる!? 早くやめさせるんだ! アレを!!」
 
<ジブリール、どういう事だね、これは?>

 そこへ、ロゴスのメンバーがモニターに映り、ジブリールを問い詰める。彼らも、この放送を見ていたようだ。

<これは君の責任問題だな>

<何をしようというのかねデュランダルは>

 次々とジブリールを非難するロゴスの面々。ジブリールは苛立ちでギリギリと歯を食い縛った。

<何故ですか? 何故こんなことをするのです! 平和など許さぬと! 戦わねばならないと! 誰が! 何故言うのです! 何故我々は手を取り合ってはいけ ないのですか!?>

 熱くなり、席を立ち上がって熱演するデュランダル。が、ジブリールからしてみれば偽善としか言えない。その時だった。ソッと、デュランダルの肩に手を置 いて宥めるプラントの歌姫が出て来た。そして、デュランダルに代わり、彼女が演説を続けた。

<この度の戦争は、確かにわたくしどもコーディネイターの一部の者達が起こした、大きな惨劇から始まりました。 それを止め得なかった事、それによって生まれてしまった数多の悲劇を、わたくしどもも忘れはしません。被災された方々の悲しみ、苦しみは今も尚、深く果て ないことでしょう。それもまた新たなる戦いへの引き金を引いてしまったの、仕方のないことだったのかもしれません……ですが!このままではいけません!  こんな討ち合うばかりの世界に、安らぎは無いのです! 果てしなく続く憎しみの連鎖も苦しさを、わたくし達はもう十分に知ったはずではありませんか!?>

 するとモニターに、プラントに対して核攻撃を行う連合軍の映像が映し出される。

<どうか目を覆う涙を拭ったら前を見てください! その悲しみを叫んだら今度は相手の言葉を聞いてください! そうして、わたくし達は優しさと光の溢れる 世界へ帰ろうではありませんか! それがわたくし達全ての人の、真の願いでもあるはずです!>

 そこで少女の熱弁は終わり、再びデュランダルが語り始める。そして、それはジブリールにとって最も、あってはならない事だった。

<なのにどうあってもそれを邪魔しようとする者がいるのです。それも古の昔から>

「!?」

<自分達の利益の為に戦え! 戦え! と……戦わない者は臆病だ。従わない者は裏切りだ。そう叫んで常に我等に武器を持たせ敵を創り上げて、討てと指し示 してきた者達……平和な世界にだけはさせまいとする者達。このユーラシア西側の惨劇も彼等の仕業であることは明らかです!>

<ジブリール!>

 それには流石の他のロゴスの面々も焦り出した。彼は世界に対し、公表しようとしている。自分達の存在を。ジブリールの表情が焦りと動揺で彩られていく。

「やめさせろ! 今すぐアレをやめさせるんだ! 何故出来ない!!」

<間違った危険な存在とコーディネイター忌み嫌うあのブルーコスモスも、彼等の創り上げたものに過ぎないことを皆さんは御存じでしょうか?>

 すると、モニターの映像が切り替わり、九人の顔写真が映った。

<その背後にいる彼等、そうして常に敵を創り上げ、常に世界に戦争をもたらそうとする軍需産業複合体、死の商人、ロゴス! 彼等こそが平和を望む私達全て の、真の敵です!>

 その写真は、今正にジブリールを含む彼と話している老人達の事だった。ジブリールの目が大きく見開かれ、体を震わせる。今まで、地下に閉じこもって世界 の状況を見ていた自分の顔が、とうとう日の目を浴びる事になってしまったのだ。

<私が心から願うのはもう二度と戦争など起きない平和な世界です。よってそれを阻害せんとする者、世界の真の敵、ロゴスこそを滅ぼさんと戦う事を私は此処 に宣言します!>

 次の瞬間、各地を映していたモニターの市民が一斉に歓声を上げ、デュランダルコールをしたのだった。ジブリールは、足をよろめかせガタンと椅子に座る。

 この後、市民のしてくる事など容易に予想できる。怒りと憎しみに任せた私刑という名の報復だ。ジブリールは、デュランダルに対し、ギリギリと歯を噛み締 める。

<世界中の皆さん……>

「!?」

 その時だった。デュランダルの映像が突如、別の人物へと移り変わった。

<私はキース・レヴィナスという者です……>

「おお……キース」

 ジブリールの先程まで愕然としていた表情に光が戻る。ネオと共に行方不明(MIA)になっていた彼が、こうして生きて映っている。きっと何か良い策があ るに違いない。ジブリールは、一筋の希望を見出した。




「何だ、これは!?」

 演説を行っていたジブリールは、突如の電波ジャックに怒声を上げる。その後ろでミーアも戸惑っている。

「わ、分かりません! 何処からジャックされているのかも……ただ、全チャンネル……全ての通信管制がジャックされています!」

 オペレーターの言うように、あらゆる映像機器にキースの顔が映っている。デュランダルは何処の誰とも分からぬ人物の突然の乱入に、目を細めた。

<私は地球連合軍の中将を務めていますが、先程、デュランダル氏の公表したロゴスとも深い繋がりを持っています。そして、あのベルリンを破壊していたMS を設計したのも私です>

 ザワッと動揺が広がる。この男性は、たった今、世界中の人間を敵にしたようなものだ。

<さて、皆さんは私に対してどのような感情を持っているのか、目を閉じているだけでも手に取るように分かります。私のような下っ端なら殺しても構わないで しょう。が、ロゴスはどうか? 確かにデュランダル氏の演説を見ればロゴスは滅ぼさなければならない悪です。ですが、ロゴスとは世界経済に深く食い込んで います。彼らが滅びれば、世界中の経済は麻痺し、別の意味で混乱を招くでしょう>

「(確かにその通りだ……が、市民の怒りはその程度で揺るぎはしない)」

 彼らのロゴスに対する憎しみは、深く、ちょっとやそっとの経済麻痺で脅しても物ともしない。だからこそデュランダルは……。

<そして皆さん。デュランダル氏の言葉を全て信じ切ってはいけません。カミングアウトしますが、私は氏に、極秘で例の化け物MSの設計図を流したのです>

 その言葉にデュランダルの目が見開かれ、皆が彼に視線を集めた。デュランダルは、ギリッと唇を噛み締め、スタッフに指示を飛ばす。

「すぐに回線を回復させろ! 奴の口車に乗せられてはいけない!」




「(ギル!)」

 突如のキースの演説が始まり、レイも目を見開く。

「どういう事だ?」

「あのロゴスの奴が、議長にあの化け物の設計図を流したって……」

「じゃあデュランダル議長は、あの化け物を知ってたのか?」

 クルー達もザワめき始める。シンは、あのルシーアの父親と名乗った男が突然、現れ、そしてデュランダルとメディア勝負を始めた事に呆然となっていた。

<私は彼の真意を知っています。それを確認する為にMSの情報を流した。が、彼はソレを無視した………彼は、ロゴスの悪逆を印象付ける為、市民の皆さんを 見殺しにしたんですよ>

<彼の言葉に惑わされてはいけません!>

 すると今度は別の映像にデュランダルが映った。まだ完全に回復していないのか映像がブレているが、彼は演説を続ける。

<彼はロゴスです。私は決して彼から情報を流されてなどいません。彼はロゴスを庇う為に虚言を吐いているに過ぎないのです>

<議長閣下殿>

 突然、キースが放送を通じてデュランダルに話し掛けた。

<私は貴方の真意に気付いていると言った筈です。貴方のすぐ傍に貴方を突き崩せる決定的なものがある事を……>

 その言葉にモニターのデュランダルは目を見開く。そして、キースの言葉の意味を、アスラン、エリシエル、そしてルナマリアは理解した。彼が言っているの は偽ラクス……ミーアの事だ。

<何の事かね?>

 デュランダルも、その事に気付いていながらサラリと受け流す。

<此処で公表するのも面白いですが……後のお楽しみに取っておきましょう。分かっておられると思いますが、ジョーカーはこちらにあるという事をお忘れな く>

 ニコッと笑い、キースは映像を切った。ザワザワ、とレクルームが騒然となる。つい先程までデュランダル議長を信じ切って打倒ロゴスの燃えた。が、キース の演説で少なからず動揺が生まれた。

「レイ……アスラン……」

「?」

「ん?」

 その時、シンがモニターを見つめながら二人の名前を呼ぶ。

「今のは……どっちが正しいんですか?」

「議長だ」

 サラッとレイはそう答える。が、アスランはフゥと息を吐いて答えた。

「自分の目で確かめろ。他人に答えを求めるな。最後に答えを見つけなければならないのは自分自身だ」

 その言葉に、シンの目がハッと見開かれ、シュティルの遺した言葉が思い返される。

『シン……自分で考えろ。そして歩け。お前が手にしたその力……本当は何の為に使いたかったのか……もう一度……』

「(自分で……誰かに答えを求めちゃいけない……最後は……自分で……)」

 顔を俯かせて肩を震わせるシンに、レイが反論して来た。

「アスラン、貴方は議長からフェイスに任命された身であるにも関わらず議長が信じられないと言うのですか?」

「そうは言っていない。ただ、誰かの言葉を唯一のものだと信じ切り、視野を狭くし、後で誤っていたと気付いても遅いんだ」

 かつて弟と思っていた仲間を殺した親友を激しく恨み、殺そうとした。そして殺したと思った。が、後に残ったのは後悔と悲しみだけだった。“ナチュラルは 倒すべき敵”。そう父の言葉を信じ、ナチュラルの味方をする親友を同胞を裏切った敵として討った。あの時は、自分で考えようとせず、ただ父親の言葉を信じ 切っていた。苦い思い出だった。

「たとえ、正しくても間違っていても、自分の信じた道を歩む事が大切なんだ」

「それは一般論です。我々、ザフトは、議長の命令を遂行し、議長の定めた敵を討ち、議長の目指す平和な世界を守る事が何よりも優先されるべき事です」

「レイ……余り俺を甘く見るなよ」

 キッとアスランに睨まれ、レイはハッとなる。

「先程、演説であのロゴスの男が言っていた議長の真意……大方の予想は付いている」

 そう言って、アスランは踵を返すとレクルームを後にした。エリシエルは、フゥと溜息を吐き、彼の後を追った。

「…………シン」

 顔を俯かせているシンに、ルナマリアが心配そうに話しかけてくる。彼女、兄と思っていた人や気にかけていた少女を失い、色々とシンが心配なようだ。

「大丈夫……だから」

 顔を俯かせて答えると、シンはレクルームから出て行った。その様子は、ちっとも大丈夫そうではなかった。




「ですから……町を見て来ましたが、皆さん動揺してます」

「みたいだね〜」

 デュランダルのロゴス公表から数日が経った。ラストのコックピットで色々とOSを弄っているレンに、リサが怒鳴るように言っている。町では、キースと デュランダルの演説により、どうして良いのか不安になっている。

 東アジア共和国の政府側は、志波家が働きかけ、表向きはデュランダルに協力するようにしている。殆どが大西洋連邦の人間で構成され、ロゴスの息が余りか かっていない東アジア共和国を丸め込めるのは容易であったようだ。

「兄さんは何とも思わないんですか?」

「ロゴスの存在は公表されるって予想してたでしょ? 今更、驚く事も無いよ」

「そうですが……」

 その時、回線が開いてドラゴネスから通信が入って来る。

<おう、レン。さっきアークエンジェルから連絡があったが、オーブに戻ったそうだ>

 カガリが、セイラン家――いやオーブも、公表されたロゴスと深く通じている部分がある。オーブだけではなく、キースの言うように世界中のあらゆる企業や 政府に彼らは深く関わっている。もし彼らが倒されたら、間違いなく世界の経済が揺れる。

「ま、妥当な判断だね。今、キラ君にはフリーダムが無いし、ラクスちゃんも宇宙だから議長も放っておく筈だよ。安全にオーブまで戻れるでしょ」

「何故です?」

「あの二人が揃うと議長にとっては少々、厄介なのさ。何しろラクスちゃんが表舞台に出て、偽者さんが明らかになれば議長は少なくとも皆を騙していた事実は 明るみに出る」

 だからこそラクス暗殺を企てたり、キースの脅しに対し、何も言い返せなかった。

「今の議長にとって一番の敵は、ロゴス、そしてキースだね」

 ラクスも確かに厄介だが、キラという盾を無い間なら、いつでも始末できると踏んでいるのだろう。

「柳生さんのくれた情報じゃ、ロゴスはヘブンズベースへ逃げたんだってさ……多分、議長は反連合勢力を集めて、掃討戦にかかる筈だ」

 既に東アジア共和国は志波家が中枢まで食い込んでいるので、幾らでも情報は入って来る。

「だとすると……集結場所はジブラルタルですか」

「それが終わればオーブだね」

「! どういう事です!?」

「議長にとって邪魔って事……っと、はいOK」

 カシャッとディスクを取り出して笑みを浮かべるレン。

「何やってんです?」

「ん? ラストの戦闘データをちょっとね……」

「??」

<おい、レン。あの嬢ちゃんが目ぇ覚ましたそうだぞ>

 その時、ラディックがそう言うとモニターに目を覚ましたステラの姿が映る。

「お、目ぇ覚ましたか。ちゃんと拘束しないでくれてたようだね」

 薬も抜け、精神操作も元に戻した彼女は、既にナチュラルの普通の女の子だ。もっとも、これから検査は続けなくてはいけないが。レンは、ディスクをポケッ トに入れると、急いでラストから降りた。




 ドラゴネスのレクルームで、ステラはレンと少し話をする事になった。他の面子は心配そうにドアの外から様子を見守っている。多分、レンが押し倒したりし ないか……。

「ステラちゃん……だっけ?」

 コクッとステラは頷く。

「私はレン。レン・フブキ…………でも、パパって呼んでくれたまえ」

「パパ?」

 コクッと首を傾げるステラ。その姿に、レンの体中に電流が走った。

「な、何……この新しい境地に辿り着いたような感覚……」

「パパ?」

「あふぅ!!」

 ギュッと自分の体を抱きしめるレンに、ステラはビクッと身を竦ませる。

「おい、今のアイツ、犯罪一歩手前だぞ?」

「今の内、止めておいた方が良くないッスか?」

「スタンガンあるよ〜」

「…………心配無用です。もしもの時は、私が即座に兄さんを再起不能に致しますので」

 恐ろしい事を平然と言いのける妹だった。

「ふぅ……ふぅ……パ、パパは何だか新しい世界へ旅立てそうなので、此処は普通に“レン”と呼んでくれ」

 コクッとステラが頷くと、レンはボードを出す。

「え〜……とりあえず記憶チェックするね。名前は?」

「ステラ・ルーシェ」

「所属は?」

「地球軍……ファントムペイン」

「大切なものは?」

「…………」

 無言でステラは、シンから貰ったハンカチを見せる。これだけは、何があっても肌身離さず、ずっと持っていたのだ。レンは、頷きながらボードに色々と書き 込んで行く。

「そうか……どうやら記憶は大丈夫みたいだね。じゃあ、辛いかもしれないけど良く聞いてほしい」

「?」

「まず君の仲間。アビスに乗っていたパイロットは死んだ」

「! アウル! 死……!」

「そしてカオスに乗ったのは私が倒したけど、死んではいない筈だ」

「スティング……」

 死、という言葉に過敏に反応するステラだったが、体を押さえて震えを止めようとする。すると、レンが、ポンと肩に手を置いて優しく微笑みかけた。

「ステラちゃん。君の死に対する恐怖は植え付けられたものだ。確かに誰だって死ぬ事は怖いさ。でも生きている限り必ず死は訪れるんだ……だから、死を恐れ る事より、精一杯、生きる事にするんだ」

「精一杯……生きる?」

「そうだ。君は、もう呪縛から解放されて自由なんだ……好きな所へ行って、好きな人と出会って、好きなように生きるんだ」

「好きな人…………シン! ネオ!」

「?」

 急に顔を上げて、ガシッとレンの体を掴んでくるステラ。

「シンは!? ネオは!?」

「え、え〜と……そのネオって人は知らないけど、シン君だったらジブラルタルにいると思うよ?」

「…………ステラ……シンに会いたい……シン……守る……」

「会えるよ、ちゃんとね。そのネオって人にも」

「本当?」

「ああ、本当さ。中には何十年も会えなかった人に、ふとした事で会える話だってあるんだから」

 そう言ってレンが微笑むと、ステラもパァッと顔を輝かせた。




 後書き談話室

リサ「エンジェルダウン作戦は無しですか」

レン「だってフリーダム無いし」

リサ「兄さんも新しい機体に乗るっぽいですね」

レン「主人公の宿命ってやつ?」

リサ「ステラさんも目を覚ましましたし、シンさんの心に後押しする切り札ですね」

レン「この話はアスランが迷わない代わりにシン君が苦悩してるね〜。いやいや、若い内は悩み成長するもんだよ」

リサ「兄さん、二十歳じゃないですか」

レン「何を言うんだ、アルテ○シア! 世の中、二十歳で“赤い○星”と呼ばれて地球軍から恐れられているキャラだっているんだ! 彼が凄いのは、同じ機能 でMSを通常の三倍のスピードで動かせるという……」

デュランダル「待ちたまえ、レン。それを語るのは私の役目だ」

クルーゼ「いやいや。同じ腹黒仮面として私が」

レン「黙れ、オッサンども! 年齢じゃ私だ! 妹もいるんだぞ!」

デュランダル「私の前世だって最後のシリーズでは、オッサンだ!」

クルーゼ「この中でフ○ンネルっぽい武器を操るのは私だけだ!」

リサ「この腹黒さなら誰にも負けない三人の要素(設定・声・仮面)を一人で兼ね備えている、あの人って……ま、とりあえず次回はアスランさんの脱走という 事で………シンさん、円形脱毛症になりそうですね。ま、別に心配してませんけど、あんな人」
感想

さて、今回のお話は非常にいい出来ではないかと。

いや、私の判断基準は微妙ですので、申し訳ないのですが……

で、お話の内容で残念なのはやはりデュランダル議長ですね。

まあ、原作でも悲しかったのでどうしようもないんですが……

彼前半と後半ではキャラが違います。

前半はかなり深い策謀を持ったキャラなんですが後半になり表に出始めると、杜撰なやり口が多くなります。

もう少し捻って欲しかったというのが印象ですね。

まあ、原作でもそうだった分、やりこめられて二重に情けなかったですが……

仕方ないかなとは思います。

ようやっとキースが動き出すようですしね。

一体どんな策謀を持っているのか楽しみです。

それと、シンとアスランは非常に正しい関係になっています。

今回のお話ではこれはいい感じでした♪


本来アスランはもっとシンを教え諭すためのキャラだった筈なんですよね。

でも、現状のようにした方が反響がいいと考えた方々によって信じられないような展開になりました。

あれは、悪い意味で裏切ってくれてますからね。びっくりです。

でも、この調子だとまた次がありそうな……


其れはともかく、少しずつレンとキースの戦いが近づいてきましたね。

ネオがムゥに戻った際の苦悩なんかもきちんと書かれていると面白いかなとか思います。




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