「では、もしもの場合、地球人民を受け入れる事を決定する、という事で」
プラントに戻ったデュランダルは、評議会でオーブ、そして志波コンツェルンが裏から仕切る東アジア共和国を中心とした連合と連携する事で、キースとの全
面戦争を決議した。
そして、もしもそれに敗北した場合、地球に住む人達を何とかプラントへの避難を決定した。まず廃棄されたコロニーや、ヤヌアリウス、ディセンベルとキー
スに破壊された都市を、急ぎ修復し、人が住める環境にまで戻す事を優先するようにした。
デュランダルは複雑な面持ちの評議員達に向かって、深々と頭を下げる。
「私のような人間が、今、この場にいるのは相応しくないと皆、思うかもしれない。私は、この件が終われば罪を償う為に、刑に服するつもりだ」
「ぎ、議長!?」
余りに突然の事に、他の議員達に動揺が生まれる。が、デュランダルはフッと笑みを崩さずに続けた。
「私を打ち負かした彼は、旧い友人でね……彼と対談し、私は何もかもが彼に敗北したよ。彼は誰よりも深い絶望を知りながらも、誰も恨まず、誰も憎まずにた
だ全てを受け入れていた。一回りも年の離れた彼を尊敬すらしたよ」
その彼がチャンスを与えてくれた。この件、勝っても負けても罪を償う。それが極刑であろうと受け入れるつもりだ。自分は、それだけの人間の命を見殺しに
し、救える命を救わなかった。指導者として失格だった。
「私を殺したいという者も現れるかもしれん。だが、この事が終わるまで私に付いて来て欲しい。頼む」
そう言って頭を下げるデュランダル。他の議員達は、彼のその真剣で必死な態度に感化され、微笑んで頷いた。
機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜
PHASE−33 レン
「で? どうするよ、アレ?」
ジュール隊は一足早く、ノヴァガーデンへと来ていた。ボルテール、そして空母ゴンドワナである。議会はキースの要求を拒否、また地球もオーブや東アジア
共和国を中心に、彼の要求を拒否するだろう。
そうなればキースは地球、もしくは再びプラントに向けてレクイエムを撃つ事を躊躇わないだろう。未だ沈黙を保ち続けるノヴァガーデンを見ながら、ディ
アッカが軽い口調で問うと、イザークは怒りに満ちた目でノヴァガーデンを睨み付ける。
「ミネルバとアークエンジェルが来る前に攻撃を仕掛ける?」
「貴様には、あの鉄壁の防御を破る策でもあるのか?」
「あったらとっくにしてるよ」
お手上げ、と両手を挙げるディアッカに、イザークは今は待つ事しか出来ない腹立たしさに組んでいた腕に力を込める。
ノヴァガーデンは正に鉄壁だ。PS装甲で実体弾を無効化し、陽電子リフレクターはビームを完璧に防ぐ。レクイエムが撃たれる一瞬、陽電子リフレクターに
ビーム分だけの穴が空くが、そこから突っ込めば、レクイエムの餌食となってしまう。
「アスランからの連絡じゃ、あの要塞、かなりの核を使って動いてるって話し出し、核ミサイルだって配備してるんだ……仮に防御を破って破壊したら、この辺
一帯が何もかも消し飛ぶぜ」
「アスラン……」
その名前が出てイザークは目を細める。あの時、開戦して間もない頃だった。かつての戦友達の墓参りに言った時、アスランは言った。
『イザーク、ディアッカ……大事な話がある』
その時、彼らはアスランが軍に戻る事を決意したのかと思ったが、それ以上に驚く事だった。
『俺はデュランダル議長を信用し切れていない。だから、俺は議長の裏を探る為に軍に戻る。そして、議長が何かを企んで、全てを利用しているのなら……俺は
軍を再び抜ける』
そう言われた時は本当に驚いた。イザークは、先程とは違う怒りで拳を震わせる。
「軍を抜ける為に軍に入る奴がこの世界の何処にいるというんだ……あの馬鹿は」
「けど実際、アスランが正しかった訳だしな〜……」
レンによって暴かれたデュランダルの真実。ロゴスの事を公表し、キースがそれに割り込んでから、余り信じられなくなったが、レンがアスランの正しさを証
明した。
「五月蝿い! あんな事、言っておいて俺達に何の連絡も寄越さん奴が正しい筈あるか!」
「あ、そういう事」
結局、連絡が欲しかったイザークに、ディアッカは苦笑いを浮かべた。
「隊長! レクイエムがエネルギーチャージ開始しました!」
「何!?」
「何処だ!?」
オペレータがコンピュータで目標地点を予測する。
「これは……南極です!」
「南極? 何で、あんな……まさか!?」
ちまちまと地球の都市を狙うより、南極を破壊し、氷を溶かして一気に地球を水で沈めるつもりだろう。そして、その上に新たな世界を築き上げるのかもしれ
ない。一人で、あれほどのコロニーを造るのだから、それぐらいしてもおかしくない。
「プラントに連絡しろ! 地球全土に避難勧告を出させるんだ!」
イザークが即座に指示を飛ばす。
「ディアッカ! ステーションを落として、レクイエムの狙いをズラすぞ!」
「ああ!」
「ノ、ノヴァガーデンから多数のMSが射出されています!」
「「何!?」」
エレベーターに向かうイザーク達だったが、更なる報告に立ち止まる。モニターを見ると、ノヴァガーデンから大量のウィンダムやザムザザー、ゲルズゲー、
更にはベルリンなどを破壊したデストロイまでもが射出されていた。
「どういう事だ!? 敵はキース・レヴィナスだけではないのか!?」
「結局、此処に戻って来たな……」
ミネルバの甲板でオーブの海を見ながら、シンが呟く。隣にはアークエンジェルとドラゴネスが並んでいる。何とも複雑な光景だったが、シンは今となっては
彼らに敵対するような感情は無い。
「な〜に、黄昏てんのよ?」
「ルナ?」
と、いきなり後ろからルナマリアに話しかけられ、シンは顔を上げる。
「こらから宇宙に上がって最後の戦いだってのに、そんな辛気臭い顔してちゃ勝てる戦いも勝てないわよ」
「別に辛気臭くなってた訳じゃないよ……ただ、初めてやりたい事が出来たから……」
「やりたい事?」
「…………この戦いが終わったら、シュティルみたいに俺みたいに戦争で家族を亡くした子供引き取って暮らそうって……俺とシュティルみたいにならないよう
にって……」
シンのその言葉に、ルナマリアは呆気に取られた表情になる。シンは恐る恐る、彼女の反応を窺がうように顔を上げると、ルナマリアは突然、笑い出した。
「あははははははは!!!!!」
「な、何が可笑しいんだよ!?」
初めて、何かをやりたいと心から夢を見たシンは、いきなり笑われて顔を赤くして怒る。ルナマリアは、腹を押さえて笑いを堪えながら謝った。
「ゴ、ゴメンゴメン。シンの夢が可笑しいんじゃないよ……ただ、あの人とシンだったら、天と地ほどの開きがあるから……」
「…………どうせ、俺はシュティルみたいに大人じゃないよ」
すぐ感情的になって、その所為でデュランダルの都合のイイ駒になった情けない野郎、と不貞腐れるシン。ルナマリアは、クスッと笑って、彼の額に指を当て
た。
「そう……シンは、あの人と違うんだから、あの人みたいにならなくても良いの。シンはシン……自分らしく生きていけば良いの。それでも、間違えそうになっ
たら………私が傍にいて引っ叩いて上げるわ」
「ルナ……」
ニコッと微笑むルナマリアに、シンは彼女の両肩に手を置こうとした。
「シン……」
「どわぁ!?」
「!?」
と、そこへいきなり第三者の介入によって、シンとルナマリアは飛び上がる。
「ス、ステラ?」
「シン……ステラも一緒……」
「え?」
「ステラ……守るって……」
瞳を潤ませて見上げてくるステラに、シンは冷や汗を垂らしながらも頷く。
「あ、う、うん。わ、分かってるよ。ステラも一緒に……」
「シン〜?」
「わっ!? ル、ルナ……?」
ゴゴゴゴ、という擬音を背負いつつとても素敵な笑顔を浮かべたルナマリアが迫って来るので、シンは後ずさる。
「まさか、人の唇奪っといて責任取らないとか言うんじゃないでしょうね〜?」
「え? え〜っと……」
「シン……ずっと一緒……」
「ス、ステラ……」
「シン!」
「シン……」
「(だ、誰か助けて〜!)」
二人の女性に迫られ、心の中で悲鳴を上げるシン。
「うわ、シンとお姉ちゃん、いつの間にあんな仲に?」
その光景をミネルバの中からメイリンが見ていた。その隣で、レイも壁に背を預けて突っ立っている。ちなみにメイリンは、既にミネルバでする仕事が無いの
で、エターナルと合流した後、そちらに移る事になった。
「お前とアスランを討った後ぐらいだ」
「へぇ……でもステラさんにも言い寄られて、シンも大変ね」
ある意味、恋のキューピットであるメイリンは苦笑して、その光景を見ている。
「………………すまなかった」
「? レイ?」
そう言い残し、戻って行くレイ。メイリンは、少し首を傾げたが、クスッと笑って彼女も中に入って行った。
「プラントから連絡が入った。次のレクイエムの狙いは、南極だ」
港にて、カガリは整列するアークエンジェルのクルーに告げる。アスラン、ネオもオーブの軍服に身を包んで、それを聞いていた。狙いが南極と聞かされた
が、彼らに動揺は無い。
既にレンが、キースが狙うとしたら南極だと予想していたからだ。自分もそうすると考えれば、キースの狙いは簡単に分かるのだ。
「既に大洋州連合の人々は月に上がって避難している……そろそろオーブ国民も避難させないといけないが、私は残る。国家元首としてとか、そんな事ではな
く、皆が勝つと信じているからだ」
カガリの言葉に、皆が微笑んで頷く。
「アークエンジェルには正式にオーブ軍第二宇宙艦隊所属として出来る限りのサポートを約束する」
ちなみにワイヴァーンは、カガリに雇われた傭兵扱いで、彼らは所属に捉われない遊撃部隊として戦って貰う事になっている。もっとも、キースに唯一、対抗
できるレンが乗っている限り、ドラゴネスが実質的な旗艦である。
「私達は、この地球で生まれ、地球で死んでいく……地球は、全人類の家だ。私達は、何としてもそれを守らなくてはいけない」
その時、アスランはふとカガリの薬指に指輪が無い事に気が付いた。
「アークエンジェルにはその守り手としてどうか力を尽くして欲しい」
カガリは、地球に残る。それは混乱するオーブを守らなくてはいけないから。指輪を外したのは、アスランよりオーブを選んだ、という意志の表れだった。
「本艦はこれより、ミネルバ、ドラゴネスと共に発進し、エターナルと合流した後、ノヴァガーデンへと向かう」
マリューがてきぱきと指示を出す。
「発進は三十分後! 各員、部署に就け!」
クルー達が散ると、カガリはネオに歩み寄る。
「ロアノーク一佐、アカツキを頼むな」
「お任せを」
正式にオーブ軍に入ったネオは、カガリに代わってアカツキに乗り込む事になった。ネオが、ドンと胸を叩いて答えると、カガリはキラと目を合わせる。そし
て、姉弟は別れの抱擁を交わす。そして、カガリはキラの隣にいるラクスとも抱き合うと、アスランの前に立つ。
互いに言葉を交し合う事も無く、アスランからカガリを引き寄せて抱き合った。カガリは戸惑いながらもアスランの背中に手を回す。
やがて抱擁を終えると、カガリは秘書に呼ばれて踵を返した。
「アスラン……」
そこへ、キラがやって来て、アレだけで良いのかという顔になる。が、アスランは穏やかに笑みを浮かべて答えた。
「良いんだ……今は、これで」
去って行くカガリの背中を見つめながら答えるアスラン。互いに思い合っても、今はそれ以上に大切にしたいものが、それぞれにある。
「焦らなくて良い……夢は同じだ」
互いが互いを必要とする時間は終わった。だが、決して心が離れる事は無い。目指すものが同じなら、きっと再び道は交わる。アスランは、そう信じていた。
「若いね〜」
ドラゴネスの甲板から、先程の様子を見ていたレンは、ヌード本を読みながら呟く。
「お前だって充分、若いじゃろが」
その隣でドクター・ロンが髭を触りながら皮肉めいた笑みを浮かべて言うと、レンは先程のカガリの言葉を呟く。
「地球は全人類の家か……いいこと言うねぇ〜」
「お前さんらも、この星で生まれたじゃろう」
「私らは家から出てった親不孝モンだよ」
そう言って、ムフフといやらしい笑みを浮かべるレン。
「ワシの事は話さなかったのか?」
「面倒だし。それに今更、貴方がジョージ・グレンを作った科学者の一人って言っても、誰も信じないでしょ」
本から目を逸らさずにレンが言うと、ドクター・ロンはバイザーを彼に向ける。
「あの時は……コーディネイターが人類の新しい可能性だと信じていた」
「そうじゃないの? ある意味、昔と違って、人種と宗教差別は超えたじゃない」
レン達が生まれた時代では、宗教や肌の色が違うという理由で争いが起こったりもした。が、今は、そんな理由で争う事は無い。
「体の殆どを機械と取り替えてまで私達に罪滅ぼしがしたい物好きがいるなんて思わなかったな〜」
「……あの頃はワシも十代のガキじゃった……年上の教授達の言葉が正しいと思っておった……ノヴァガーデンの跡を見るまではな」
多くの子供達の命を奪った。自分達の罪の重さは計り知れない。
「ワシに復讐するなら、いつでも出来たじゃろうに……」
「貴方がノヴァガーデンの跡からリーシャを助けてくれたんだ。なら、それでチャラにしてあげるよ……それに」
パタン、とレンは本を閉じると立ち上がった。
「老い先短い爺さん殺して、気が晴れるとは思えないしね」
「…………すまぬ」
「良いって、良いって。だけど、相手がキースだからって手ぇ抜かないでよ」
そう言って、レンはドラゴネスへ戻って行く。ふと甲板の入り口でハイネとエリシエルが待っていた。
「お、ハイネ。これ上げる。“団地新妻白書・掃除機は触手のカオリ”」
「最終決戦の前に何やってんですか!?」
「悪いな〜」
「受け取らないでください!」
ハッハッハ、と笑いながら艦に入って行くレン。ドクター・ロンは、それを見ながら唸った。
「(レン、お前、何を考えておる……?)」
そして、アークエンジェル、ミネルバ、ドラゴネスの三つの戦艦は宇宙へと飛び立って行った。
「戦闘!? どういう事だ、そりゃ!?」
エターナルと合流した三隻は、バルドフェルドからノヴァガーデンの周りで、ザフトがノヴァガーデンから出てきたMSやMAを相手に戦っていると聞かされ
た。
<まさか、キース・レヴィナスに共感する者が……>
マリューが意味深に呟くと、既にトゥルースに待機しているレンが言って来た。
<いや、違うよ。ありゃ、プログラムだ>
「プログラム? どういう事です、兄さん?」
副操縦席に座るリサが問い返すと、レンは説明する。
<グラディス艦長とシン君達は覚えてる? 前にロドニアの研究所で会った時のこと>
<ロドニアの研究所……>
その名前を聞いて、ラストで待機しているステラが呟く。シン達は、忘れたくても忘れられない、あの連合のおぞましい研究施設を思い出す。ステラのような
エクステンデッドを生み出す為に作られた非道徳な施設。幼い命を道具のように扱う、そこを忘れられる訳が無かった。
<そこで言ったでしょ? “あの研究所は、創設者だけしか知らない裏の目的があって作られた。コーディネイターに対抗する為の人間を作り出すってのを隠れ
蓑にして。本来の目的は、もっと陰険でやな事”ってね>
<ええ、覚えているわ。創設者が、あのキース・レヴィナスなんでしょう?>
タリアがそう問い返すと、レンは頷いた。
<そういう事。その目的がコレ。強化人間のデータを、機体にプログラムとして無人でコンピュータ制御されてるのさ。無論、強さはステラちゃんなら分かると
思うけど、強化人間並みね……言ってみりゃMD(モビルドール)だね〜>
パイロットが反応し、機体に伝わるまでの時間を無くし、よりスピーディに正確に動ける無人の機体。それが、ノヴァガーデンを守る兵士である。
<多分、ハッキングして一気に潰すのも無理だろうね〜>
キースなら逆に、ハッキングした側のコンピュータのデータが破壊されるぐらいの防壁は張ってあるだろう。
<とまぁ、そういう訳でキラ君! シン君!>
<は、はい!?>
<な、何です?>
<相手は無人なので、本気で戦いたまえ。遠慮なく、ね>
キラとシンも、相手が無人でコンピュータ制御と聞いて、無理に制限を欠ける理由も無いと分かると、頷いた。
<じゃ、確認しとくね。キラ君とアスラン君はミーティア装備で、ステーションを破壊する>
<はい>
<分かりました>
<で、後は適当に戦いましょう>
確認もクソもない。皆、肩から力が抜けそうだった。
<まぁ何とか私がノヴァガーデンの中に入って、キースを始末するんで、よろしく>
<あの……>
と、レンがアッサリ言い切ると、シンが恐る恐る尋ねる。
<本当に兄弟で殺し合うんですか?>
<もち。キースも私も意地っ張りだからね>
<でも……>
<シン君、君の気持ちはありがたいよ。でもキースを倒さないと、折角、買ったモレゲンレーテの株が無駄になっちゃうから>
そう言って、レンは幾つかの株券を見せる。
<って、レン! 貴方、株にまで手ぇ出したんですか!?>
<っつ〜か、モルゲンレーテって株式だったっけ?>
エリシエルとハイネが揃ってツッコミを入れるが、レンはニヤッと笑った。
<じゃ、行くとしますか>
「おい、レン」
<はい?>
「ちゃんと帰って来いよ。またテメーと海賊やりたいからな」
そうラディックが言うと、皆がレンに向かって激励を飛ばす。
「レン、お前、俺に金借りたまんまだから勝手に死ぬんじゃねぇぞ」
「まだ攻略してないゲームが一杯あるッスよ。だから無事に帰って、二人で徹ゲー三昧ッス」
「まぁテキトーに頑張って、テキトーに帰って来い〜」
「と、いう訳で兄さん。今度はロゴスの残党辺りから、兵器奪う予定なので、死なないように」
<え!? ちょ、マユは俺と一緒に……>
リサまでもがこのまま海賊続けると言い張るのに驚いたシンが抗議しようとしたが、彼女は通信を切って黙らした。
レンは、クルーの言葉を聞いて最初は驚いたが、すぐにフッと笑みを浮かべると、音声だけに切り替えた。
<そうだね……また皆で派手に騒ぎたいね>
そう言うと、レンは通信を切った。そして、アークエンジェル、エターナル、ミネルバ、ドラゴネスは戦場……ノヴァガーデンへと辿り着いた。
「来たか……」
薄暗い部屋、大量のモニターを見ていたキースは、ドラゴネスからレンのトゥルースが出て来たので、レクイエムを発射する為のチャージを切った。
「このような玩具、もはや必要ない……」
今、外で繰り広げられている戦闘に意味は無い。もはや、自分が勝つか、レンが勝つか……それだけである。
「母上、どう思われますか……私とレンが命を奪い合う今の状況を……」
母親の肖像画を見つめながら、キースは少し辛そうな笑顔を浮かべて問いかける。が、返事など返って来る筈が無い。
「レンは私と違う未来を見た……こうして戦う事は常に覚悟していました……が、いざ最後となると決意が揺らいでしまいます」
苦笑してキースは、そう言うと肖像画に向かってペコッと頭を下げた。
「申し訳ありません、母上。では……行って参ります」
そう言い、キースは全てのモニターを消した。そして、彼は静かに、その部屋から出て行った。
「ステラちゃん! 行くよ!」
<分かった……>
トゥルースのツインバスターライフル、ラストのSSキャノンを同時にノヴァガーデンに向かって放つ。直線状にいたMDをも巻き込んでビームは、ノヴァ
ガーデンの届くが、陽電子リフレクターによって防がれた。
大量の核動力が、陽電子リフレクターの出力を何倍にも引き上げているようだ。レンは舌打ちする。
<あの鉄壁の防御を何とかしないと……!>
背中にある円盤を飛ばし、グリードやトゥルース、ラストを同様の陽電子リフレクターで防御するエリス。
「(余り巻き込みたくなかったんだけど仕方ないか……)」
レンは、チラッとグリードを見て、全機に通信を送った。
「私とエリィでノヴァガーデンの内部に入り込む!」
トゥルースの翼に設置されている十基のドラグーンを射出し、MDを破壊すると、他の機体に向かって叫ぶ。
<どうする気だ!?>
「グリードの陽電子リフレクター発生装置で、中和して中に突入する!」
<それなら俺も……>
アカツキに設置されているヤタノカガミなら、陽電子リフレクターを突破できる。ネオが同行しようとしたが、レンが拒否した。
「貴方はアークエンジェルを守ってれば良い……頼みましたよ、ムウ・ラ・フラガ」
<おいおい、俺はネオ……>
「クルーゼが唯一、ライバルと認めた人なんです。信じてますよ」
<クルーゼ?>
その名を聞いて、ネオは眉を顰めた。レンは、フッと笑うと、ラストに乗るステラと通信を開いた。
「ステラちゃん、シン君と仲良くね」
<レン?>
「行くよ、エリィ」
<は、はい>
そう言って、レンはグリードの手を取ると、ノヴァガーデンへ向かって突っ込んでいく。が、その前に大量のMDが立ちはだかった。
<邪魔はさせん!>
しかし、そこへアカツキとレジェンドがやって来て、ビームサーベルとビームシャベリンで切り裂いていった。その隙にレンは、ノヴァガーデンへと突っ込ん
でいく。
アカツキとレジェンドは、背を向け合って彼らへの追撃を阻止する。
<よう、白い坊主君、まさか、こんな風に一緒に戦うとは思わなかったぞ……あの時、感じた不思議な感覚は何だったんだろうな?>
<俺も貴方の父親ですからね……ムウ・ラ・フラガ>
<あぁん?>
そう言うと、レイは、ドラグーンを射出し、一気にMDを破壊する。ネオも負けじとシラヌイで、MDを撃破していった。
「今だ!」
レンが叫ぶと、エリシエルはグリードの円盤を全て前面へと持って行き、陽電子リフレクターを発生させる。バチバチと電流が走り、トゥルースとグリード
は、陽電子リフレクターの中へと張り込んで行った。
「エリィ!」
<はい!>
レンとエリシエルは、それぞれビームサーベルとビームランスで、ノヴァガーデンの装甲を切り裂くと、内部が見えた。
「エリィ、こっから先は私だけで……」
<嫌です>
「は?」
<最後まで傍にいます……いさせて下さい>
モニターに、真剣なエリシエルの表情が映り、レンは戸惑うが、やがて仕方ない様子で頷いた。
「分かった。ただし危険になったら、すぐに脱出しろ。良いね?」
<はい>
そして、二機はノヴァガーデン内部へと入って行った。
「どうなってるんだ? レクイエムを撃つ気配が無い」
ミーティアを装備したジャスティスを駆りながら、アスランは中継ステーションを破壊しようとしたが、ノヴァガーデンからレクイエムを撃つ様子が見られな
いので、眉を顰めた。
<アスラン!>
キラもその事に気付いたのか、通信を繋いで来た。
「どういう事だ? 何でレクイエムは撃たれ……!?」
<!?>
その時、アラートが鳴り響き、アスランとキラはハッとなる。見ると、ノヴァガーデンから幾つもの核ミサイルが発射された。アスランとキラは、即座にミー
ティアと機体の全砲門を開き、核ミサイルを撃ち落としていった。
「どうやら地球を撃つより、俺達の方が邪魔らしい」
<みたいだね……>
<貴様らぁ!!!>
その時だった。通信に割り込む怒声が響いた。その声は、アスランの耳が良く覚えている声だった。
「イザーク?」
見ると、白いグフと黒いザクがこちらに向かって来ていた。
<アスラン! どういう事だ、この状況は!? 五十字で説明しろ!!>
「無茶言うな……とりあえず……フブキ先輩がキースに勝てば、俺達の勝ちだ」
<何?>
<フブキ先輩が? どういう事だ?>
ディアッカも分からない声を上げると、キラが苦笑しながら言った。
<とにかく、僕らはレクイエムを何とかしないといけないんです>
<あ、そうなの。じゃ、俺も手伝うぜ>
<ディアッカ、貴様!>
<違うのかよ?>
<違わん!!>
そう言うや否や、イザークは中継ステーションへと向かう。
<何をしている!? 早く来い!>
後から来ておいて、いきなり仕切り始めるイザークに、三人は苦笑しながらも、彼に続いて中継ステーションへと向かった。
<何だか……凄く寒いです>
ノヴァガーデンの内部を突き進むトゥルースとグリード。その際、エリシエルがそう呟くと、レンも同じ圧力を感じていた。強くなる方向にキースがいる。
が、レンは、ふとそこで妙なものを感じた。
「(この感じ……まさか!?)」
嫌な予感が頭を過ぎる。やがて、二人はある巨大な扉の前に立った。二人とも分かった。この扉の向こうにキースがいる。そう感じていた。扉もまた、二人を
迎えるかのように、勝手に開いた。
中の光景を見て、レンは驚愕する。オレンジ色の空、赤い太陽、そして荒野と森の景色……それは間違いなく、ノヴァガーデンの屋上で彼らと誓い合った景色
そのものだ。
部屋はかなり広く、都市一つ分はある。恐らくこれからは映像だろう。そして、荒野の中心には紫の機体……エンペラーが佇んでいた。
トゥルースとグリードは、ゆっくりとエンペラーの元へと向かう。
<かつて……>
すると回線を通して、キースの声が響く。
<人類が最初に犯した殺人は、兄が弟を殺したものだと言われている……そして今日、旧き人類は地球を離れ、ノヴァの血族で満たされる>
エンペラーのコックピットは開いており、そこには聖書を読むキースの姿があった。そして彼は本を閉じると、コックピットを閉めてエンペラーの双眸が輝
く。
<新たな人類が最初に犯す殺人も弟殺しとは……皮肉じゃないかね、レン>
「果たして、上手くいくかね〜?」
<上手くいくさ………アレを見たまえ>
そう言って、エンペラーがある方向を指差す。レンとエリシエルは、そちらを見ると、目を見開いて驚愕する。そこには、巨大な十字架が建てられており、そ
の中心には、一つのカプセルがあった。カプセルの中には、少女が眠っている。
「エリス!」
思わずレンがカプセルの中の少女の名を叫ぶ。エリシエルは、確かその名前は、レン、キース、志波会長と共にノヴァガーデンから脱出した、最後のノヴァズ
ヒューマンの名前だと記憶していた。
「見つけたのか……」
<彼女こそがノヴァガーデンの心臓部。私が操作しなくても、彼女によってMDもレクイエムも核ミサイルも操作される……>
つまり彼女を解放すれば、ノヴァガーデンの全機能が停止するという事だ。
「何でエリスが……」
<彼女が望んだ事だ。この世界で目覚め、生きる事を拒否した。そして私と共に、あの日の誓いを果たす事を決めたのだ>
「エリィ……下がってろ」
キースの言葉を聞いて、レンはビームサーベルを抜いた。エンペラーもビームサーベルを抜いて対峙する。
<さぁ、始めようか、レン………もはや駆け引きは必要ナシ……生き残った方が勝つ、最初で最後の真剣勝負だ!>
そして、トゥルースとエンペラーが激突し合った。
〜後書き談話室〜
リサ「最終決戦開始です」
エリシエル「まぁレンとキースの一騎打ちで全てが決まるんだけど」
リサ「結局、最後まで兄さんはキースさんを止める理由を教えてくれませんでしたね」
エリシエル「アダルトゲームとか、株券とかで逃げてたものね」
リサ「それにしても強化人間のデータを使ったMDですか……作者は本当にWネタが好きですね」
エリシエル「そりゃGとW世代だもの。このノヴァガーデンだって、本当はデビルガンダムみたいに、実は巨大なMSだった……みたいな感じにしようか本気で
迷ったそうよ」
リサ「流石に生身でMSを倒すようなキャラは出しませんか……」
エリシエル「もうすぐ最終回ね」
リサ「エリィさんは、ヒロインとして二人の戦いを見届けて下さいね」
エリシエル「ええ、勿論よ。無論、レンも連れて帰るけど」
リサ「お願いしますよ、本当」
感想
最終決戦前夜といった所でしょうか、
眼堕さん、よくここまで頑張ってきました。
次回か次々回で完結と見て間違いないですね。
どんでん返しの数次第ですが、ココまで来ると戦うだけと言う気もします。
作品も大変レベルの高い物だったと思います。
中盤少しレンの強さが鼻につく部分もありましたが、後半でそのあたりもカバーしてきたと思います。
ギャグのお陰でかなり緩和されていましたしね。
次回はその手のギャグを切ってでも、相応しい戦闘が出来る事を期待しております♪
エリス嬢、なるほど、デビルガンダムのレイン役ですね(爆)
多分目覚めたら、射程範囲を通り越してしまったレンに泣くかも?(笑)
いや、ショ○みたいですし(爆)
まあ、二人で下品な会話をしている所も見てみたいですが♪(核爆)
いや、緊張感のない感想で申し訳ない(汗)
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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