全てが狂ったのはいつからだろう?
共に歩む事を誓い、共に新たな世界に生きようと約束した兄弟が戦う。
兄が盲目的に誓いを果たそうとし決めた時からか?
弟が兄から離れた時からか?
それとも、彼らノヴァズヒューマンが生み出された時からか?
狂い合った歯車は、再び噛み合おうとしていた……終極の時へと。
機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜
PHASE−34 滅びへの戦い
「はあああぁぁぁ!!」
デスティニーのアロンダイトビームソードがデストロイのボディを切り裂く。
「くそっ! キリが無いな……」
シンは、一向に減る事の無いノヴァガーデンから出て来るMDの数に吐き捨てる。
<油断するな、シン>
<何か来るぞ〜>
レイとネオが立て続けに言って来た。言われて、シンはノヴァガーデンの方を見て目を見開く。ノヴァガーデンの頂上部から、長い触手らしきものが伸びて来
た。その先端部は、花のような形をしており、所々、砲身が突き出ている。
すると、先端の花弁の中心に光が集まり、強力な閃光が発生し、地球軍の艦隊を一瞬で破壊した。
「な!?」
<今の……ラストのSSキャノンです!>
どうやらあの花弁のようなものは、太陽光を吸収するミラー装置のようだ。が、砲身の大きさは戦艦の主砲以上なので、威力はラストのSSキャノンを遥かに
凌駕する。
<アレが、鉄壁の盾に備わってる剣ってとこかね〜>
軽い口調ながらもハイネが冷や汗を垂らしながら比喩する。
<待てよ……じゃあ、他の砲身は……!? マズい!!>
そこでアスランが、他の部分から伸びている砲身が何なのか眉を顰めたが、彼が気付いた時には遅かった。他の砲口からは、陽電子砲が無秩序に向かって放た
れた。
<皆、逃げろーーーっ!!>
ネオが叫ぶと、MS部隊は一斉に散開した。陽電子砲の雨は、容赦なく撃ち乱れ、戦場に降り注いだ。
「陽電子砲、来ます!」
「回避!!」
チャンドラが叫び、マリューが指示を出す。ノイマンは、精一杯、操縦桿を引くが、青白い閃光が目前まで迫る。マリューは、その時、何故か二年前の事を思
い出していた。
迫る閃光、長い戦いを潜り抜けて来たアークエンジェルも駄目かと思った瞬間だった。
<アークエンジェルはやらせん!!>
あの時も、そうだった。
いつも自分を助けてくれる。
あの時は白いMS……そして今、彼は黄金のMSに乗って、自分達を陽電子砲から守ってくれた。
ネオは自分が何をしているのか最初は理解できなかった。降り注ぐ陽電子砲の雨の中、アークエンジェルが撃たれそうになった。
だから庇った。
何故?
何故、自分はこの艦を庇った?
頭の中に何かがフラッシュバックする。
前にもこんな事があった。
何かを守りたくて、同じような事をした。
そして守り、自分が乗っていた機体は四散した。
その後、何処かの医療施設で誰かの話し声がした。
直後、頭の中を闇が覆った。
そして自分はネオ・ロアノークとしてファントムペインの隊長となった。
なった?
では、その前は?
何かが思い出せそうだった。
『地球軍第七機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉だ』
『地球軍第二宙域第五特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です』
そうだ。
これが彼女との出会い。
そして自分の運命を変えた始まりの地だった。
飛び散る陽電子の光。
アカツキの特殊装甲、ヤタノカガミは陽電子砲すらも防ぎ、静寂が訪れた。
彼は全てを取り戻した。本当の名前と、本当に大切な人を。
マリューを含めたアークエンジェルのクルーは呆然と、その様を見つめた。陽電子砲から自分達を守ってくれたその光景が、誰もが二年前の、あの人物と重
なってしまった。
“俺は不可能を可能にする男”……それが口癖だった、この艦の精神的支柱だった人。そしてマリューにとっては、最も大切な人だった。マリューが、不安げ
な表情でモニターを凝視していると彼の顔が映る。
<大丈夫だ……もう俺は何処にも行かない>
その言葉に、マリューはハッとなって口を押さえた。アカツキはアークエンジェルに狙いを定めて来たMDの砲撃を、バックパックに装備してあるシラヌイで
アークエンジェルを包むと、その砲撃を、まるでバリアみたいにして防いだ。
<終わらせて帰ろう……マリュー>
「………ムウ」
マリューは、ようやく彼の名前を堂々と呼べた。ようやく帰って来てくれたのだ。ムウ・ラ・フラガ、その人が。
「っ……! 全員、無事か!?」
一方、ドラゴネスでは陽電子砲の雨を潜り抜けていた。
「左舷を掠めただけで、他は大丈夫だぁ〜」
キャナルのいつもと変わらぬ間延びした声を聞いて、ラディックは笑みを浮かべる。
「けど、どうするよ? あの馬鹿デケェ砲台……また、撃たれると厄介だぞ」
SSキャノンを破壊しようとしても、陽電子砲の雨が降り注ぐ。それが終わると、チャージを終えたSSキャノンが撃って来る。そのパターンを繰り返されれ
ば、いずれ全滅させられる。
<マユ!>
「お兄ちゃん?」
その時、シンがモニターに映った。
<無事か!?>
「うん」
<よしっ!>
リサが無事な事を知り、シンのデスティニーが、群がるMDをパルマ・フィオキーナで撃墜する。
「ったく! あの化け物砲台を何とかする手ぇ無いのか!?」
既にSSキャノンのチャージが終わりかけている。フリーダム、ジャスティス、レジェンドが破壊しようと突っ込んでいっているが、MDに邪魔されてしまっ
ている。ラディックが、唇を噛み締めて怒鳴ると、突然、ドクター・ロンから通信が入る。
<手ならあるぞ>
「ドクター?」
「手があるってマジか!? ジジィ!」
<特攻じゃ。誰かが犠牲になって、SSキャノンを破壊する。その後、すぐに陽電子砲の砲身を破壊するんじゃ>
ドクター・ロンのその言葉を聞いて、戦慄が走る。確かに、それならいけるかもしれない。妨害などを気にせず、一気にSSキャノン破壊に突っ込んで行け
ば、破壊出来るだろう。だが、それはつまり誰かが犠牲になるという事だ。
<俺が……>
たまたま、その話を聞いていたシンが、沈黙を破って名乗り出ようとする。が、リサが怒鳴り声を上げて止めた。
「駄目だからね、お兄ちゃん! そんな事したら死んでも許して上げないから!」
<マユ……>
「総員退艦準備」
その時、ラディックが顔を俯かせてそう言って来た。クルー全員が驚愕して彼の方を見る。
「おい、小僧。ウチのクルーをちゃんとミネルバかアークエンジェルまで運んでやってくれや」
「ちょ……艦長、何言ってんだ!?」
笑みを浮かべてシンにそう言ったラディックに、アルフレッドが怒鳴りつける。
「ドラゴネスを突っ込ませるつもりッスか!?」
「駄目……絶対に駄目」
キャナルまでも不安そうな顔を浮かべてラディックを止めようとする。が、ラディックは、そんな彼らに対して怒声を上げた。
「うるせぇ!! これは船長命令だ!! 海賊で船長の命令に逆らう奴ぁ、必要ねぇんだよ!!」
「嫌です! 艦長、兄さんと約束したじゃないですか! この戦いが終わったら、また皆で海賊やって騒ごうって……!」
リサが、ラディックの胸にしがみ付いて訴える。が、ラディックはポンと彼女の頭に手を置いて笑った。
「海賊ってのは悪党だからな。悪党は約束破るなんざ日常茶飯事なんだよ」
「屁理屈です!」
「屁理屈結構! それに、この戦いが終われば、どっちにしろ俺らの役目は終わる。しばらくは、ナチュラルもコーディネイターも争うマネはしねぇだろ……あ
のお姫さん達もいるしな」
ラクスやカガリなら、きっと世界をイイ方向に持っていってくれる。なら、武力を奪う海賊なんて、もう必要無いのだ。
「おら、早く行け! 俺の命だけで、此処にいる奴らが助かるなら、安いモンだ!! …………そろそろ向こうで女房とガキも寂しがってるだろうからな」
「かん……ちょう……」
リサは、ボロボロと涙を零しながら、膝を突いて泣き崩れる。アルフレッド、ロビン、キャナルは、それぞれの席を立つと、リサを立たせて、ブリッジから出
て行く。
<アンタ……>
「頼むぜ、小僧。しっかりウチのクルー守ってくれなきゃ、化けて出てやるからな」
そう言って、ラディックは通信を切ると、操縦席に座り、煙草を吸い始めた。
「ふぅ……」
モニターには、脱出艇に乗り、デスティニーに保護されてミネルバに連れて行かれるクルーの姿が映った。
「なぁシュティルよ……あの小僧なら大丈夫か?」
――さぁな……出来の悪い弟だ。
今はいない副官の声が聞こえ、ラディックは笑みを浮かべると、操縦桿を握り締める。
「さぁ! 派手に行くぜ!!」
そう言って、一気に操縦桿を引くと、SSキャノンに向かってドラゴネスを突っ込ませる。途中、MDが気付いて砲撃して来たが、当たっても構わず突っ込ま
せる。が、途中で、デストロイが狙いを定めているのに気付いた。流石にデストロイの砲撃を喰らえば、ドラゴネスも一溜まりも無い。
しかし、そのデストロイはジャスティスのファトゥム01が貫いて破壊した。
<ロジャー艦長、何を!?>
「おう! 悪いな、兄ちゃん!」
アスランが、通信をかけて来たが、ラディックはそう言ってSSキャノンへと向かう。
「やれやれ……若い奴は無茶しよる」
「!? ジジィ!?」
その時、後ろから掠れた声が聞こえたので、驚いて振り返ると、ドクター・ロンがいた。
「テメー、何で脱出しなかったんだよ!?」
「ワシもお前とワイヴァーンを作った人間の一人じゃぞ………それに生きる事に疲れた。これで、レンに罪滅ぼしが出来るわい……」
そう言って、ドクター・ロンは、ロビンの座っていた席に座ると、ミサイルやビームでMDを牽制する。
「…………ジジィ、結局、テメーとレンってどういう関係だったんだ?」
「ワシとレンだけの秘密じゃい」
そう言って、二カッと笑うドクター・ロン。ラディックは、舌打ちすると目前に迫ったSSキャノンを見据える。
「さぁ! 派手に散るぜ!!」
SSキャノンが発射されたその瞬間、ドラゴネスが発射口に突き刺さって、暴発した。ドラゴネスは、そのまま光の中へと飲み込まれて行った。
<ロジャー……艦長>
リサ達を乗せた脱出艇をミネルバに送り届けた後、シンはドラゴネスの最後の瞬間を目の当たりにした。アスランが呆然と、あそこに残っていた人物の名前を
呟く。
シンは、ギリッと唇を噛み締めると、操縦桿を強く握り締める。
「皆……あの人が作ってくれたチャンス、無駄に出来ない……」
<…………そうだね。あの陽電子砲を破壊しよう!>
そうキラが叫ぶと、各MSが一斉に砲台に向かって突っ込んで行く。
<これ以上、地球を撃たせてたまるか!!>
ジャスティスのファトゥム01が貫き、
<僕らは変えられるんだ……地球も人も!>
<過ちは……繰り返させん>
フリーダムとレジェンドのドラグーンが大量の砲身を撃ち抜き、
<こんなもの、この世界に必要ないのよ!>
インパルスのビームソードが突き刺さり、
<守る……>
ラストのレールガンが爆破させ、
<消えろ!>
アカツキのシラヌイが次々と破壊する。
<終わりにするんだ……こんな戦いはぁ!>
そしてデスティニーが赤い光の翼を煌かせ、パルマ・フィオキーナで、最後の砲身を破壊した。炎上するノヴァガーデンの巨大な砲塔は、次の瞬間、爆発し
た。
一方、ノヴァガーデンの内部では、トゥルースとエンペラーが激戦を繰り広げていた。トゥルースのドラグーンが、エンペラーに放たれる。が、エンペラー
は、両肩のシールドで、全てのビームを曲げた。すると、今度はエンペラーの姿が、消える。
「(ミラージュコロイドか……けど)」
ミラージュコロイドで姿を消そうと、相手を感じるレンにとっては無意味だ。トゥルースの腰に装備してあるビームカッターを投げ付けると、バキっという音
がして、肩にビームカッターの突き刺さったエンペラーが姿を現す。
<やるな……レン。だが!>
そうキースが叫ぶと、エンペラーの両腕が伸びて来た。余りに突然の事でレンは対処出来ず、トゥルースの両肩にエンペラーの両腕が食い込む。
「くっ……!」
<終わりだ、レン。99人の兄弟の望みが果たされる時が来たのだ!>
トゥルースを固定し、エンペラーは背中のポッドを切り離して狙いを定める。
<私は代弁者だよ。兄弟と……そして父と母に代わって、世界を……あの赤い星を変える。この間違った世界を……>
「違う……キース。私達は全部、最初から間違っていたんだ」
<何だと……?>
レンのその言葉に、キースが問い返す。トゥルースは、肩に食い込んでいるエンペラーの手を掴み、レンは目を鋭くさせてキースに言った。
「世界は私達を必要としていない……そして私達の居場所も無い」
<ふざけるな!!>
キースの怒声と共に陽電子砲が放たれる。が、それはトゥルースの片腕だけを破壊した。
<レン、お前は自身の存在を否定すると言うのか!?>
「私はルシーアを殺した……それが答えた」
同じノヴァズヒューマンだったルシーアを殺した。それは、レンがノヴァズヒューマンの存在を否定したという事だった。キースは、唇を噛み締める。
バキッと伸びたエンペラーの腕が、トゥルースの顔面を殴る。トゥルースは、派手に地面を転がり、その顔をエンペラーが踏み付けた。
<私達、ノヴァズヒューマンは、ノヴァの……新たな人類の血で、赤い地球を浄化する為に生み出された……お前も見ただろう?>
殺し、憎み、恨み、争った結果の赤い世界。自分達にしか分からない、血で赤く染められた地球。そんな地球を見たら、誰だって思うだろう。地球は、助けを
求めている、と。
<ノヴァは、それが出来なかった……だから私が代わりにする。だが、お前は、それすら間違っていると言うのか?>
「地球を赤く染めたのが、貴方の言う旧人類なら……元に戻すのは彼らの役目だ。私達じゃない」
<出来るものか。たかがナチュラルやコーディネイターという理由で争う旧人類が>
「やってみなくちゃ分からない……それでも、もし地球が滅びるのなら、それが彼らの責任だ。生きている者は、あるがままの真理を受け入れなくてはいけな
い」
――全てのものは生まれ、やがて死んでいく。
かつての友は言った。それに自分は、なら生きている間に、どれだけ輝けるかで人の価値は決まる、と答えた。
「滅びが真理であるなら、私達の存在が間違っているのも真理だ」
<何を根拠に!?>
「私達の存在は新しいジョージ・グレンだ。それは、きっと新しい……けれど同じ歴史を繰り返す。貴方も分かっている筈だ」
<私は認めない! ノヴァズヒューマンは、それほど愚かではない!>
「キース……私達の役目は終わったんだ」
そう言うと、レンはトゥルースのビームウイングを発生させ、エンペラーの足を切り刻む。
<ぬっ!>
片脚を失いつつも、キースはトゥルースと距離を取る。
「私達が他人よりも高い能力を持っているのも、私達が他人の心が分かるのも……全ては、今の人類に強過ぎる力の恐怖を与える事だ」
数年前、兵器を作り、人類に強過ぎる力を持つ事の恐ろしさを訴えた。それでも人類は、より強大な力を求めた。そして今、ノヴァズヒューマンと言う新たな
力の恐ろしさを知り、人類はナチュラル、コーディネイターが協力し合って、戦っている。
「貴方がロゴスを潰して、ノヴァガーデン、レクイエムを使って力の恐怖を知らしめ、私がナチュラルとコーディネイターの手を取り合わせた。それで、もう私
達が人類に出来る事は終わった………これ以上、私達が生き残っていても更なる混乱を招くだけだ」
<違う違う違う! 私達は、人類を導く為に生まれたのではない!!>
エンペラーの腕が伸び、トゥルースの腹部に絡み付く。そして今度は、コックピットを狙うよう、陽電子砲のポッドを向ける。
「兄さん、もうやめよう……私達は世界の為に死ぬべきだ」
レンのその言葉に、キースは目を見開くが、彼はギリッと唇を噛み締めた。
<出来ん……兄弟の為、父の為、母の為……そして長兄として……お前の言う事を認められん! レン! お前は何故、今の人類を守れる!? 自分の死を受け
入れられる!?>
キースは叫び、陽電子砲を放つ。レンは、トゥルースのビームサーベルを抜いて、エンペラーの腕を切り裂くと、スレスレで陽電子砲を避ける。が、陽電子砲
は、トゥルースの頭部を飲み込んだ。しかし、レンは構わずエンペラーに向かって突っ込む。
「母さんが私達を守ってくれた理由と同じだ……大切なものを守る為なら……」
次の瞬間、ビームサーベルはエンペラーを貫いた。エンペラーは、仰向けに倒れ、沈黙する。すると、か細いキースの声が響いた。
<大切なもの……レン、お前には出来たのだな>
「…………もし出来なかったら、私も貴方と同じ結論を出していた。けど……そうさせなかったのは、リーシャが……ノヴァズヒューマンじゃない彼女が約束を
果たしてくれたから……」
<ふふ……私にも大切なものがあれば、お前と同じように、今の人類の為に死を受け入れる事が出来たのだろうな。そうすれば進んで、人類の為に悪役を演じる
事も出来ただろうに……>
結局、生に抗い、運命に悪役を演じさせられた………ジブリールと何ら変わらない道化だと自嘲的に笑うキース。
<レン……本当に無かったのか? 私達の世界は? 私達が必要とされる世界は?>
「…………無い。人類は、まだ私達を受け入れれる程、強くもないし、進化に行き詰っていない」
<そうか……>
その時だった。ガクンと地面、いやコロニー全体が揺れた。
<エリス……どうやら彼女も死を受け入れたようだ>
キースのその言葉を聞いて、レンはハッとなってエリスの眠るカプセルを見る。どうやら彼女が、ノヴァガーデンの機能を停止させたようだ。
<停止と同時に自爆装置が作動した………レン……最後の頼みだ……一緒に……>
そこでキースの言葉が途切れる。レンは、フゥと息を零すと外に連絡した。
「何が……」
ミネルバのブリッジでは、突然、MDが全て停止し、ノヴァガーデンを覆っていた陽電子リフレクターが消滅したので困惑していた。
<あ〜……皆さん>
「! 兄さん!」
その時、レンからの音声通信が入った。
<キースは倒したし、これでもう地球が撃たれる事は無い。安心したまえ>
レンのその言葉に、歓声が湧いた。アーサーなど、泣いて神様に祈るようなポーズをして喜んでいる。が、次にレンの口から出た言葉は、その歓喜を打ち消し
た。
<ついでに、このままノヴァガーデンは、自爆するので早く逃げてください>
「! 自爆……兄さん! 兄さんとエリィさんも早く脱出してください!」
自爆、と聞いて中にいるレンとエリシエルの事を思い出し、リサが叫ぶ。が、すぐに通信が切れた。
「急速旋回! この宙域から脱出する!」
タリアが、すぐに指示を飛ばすと、他の艦隊やMSがノヴァガーデンから離れて行く。タリアは、唇を噛み締める。彼女もレンを助けたいのはヤマヤマだった
が、このままでは、この艦全員の命を危険に晒してしまう。艦長として、それだけは出来なかった。
「兄さん! 兄さん! 兄さん!」
アルフレッドに押さえつけられ、泣き叫ぶリサの姿が胸を痛めるだけだった。
「ふぅ……」
レンはシートに深く背中を埋めると、チラッとエンペラーとエリスの眠るカプセルを見つめる。
<レン……>
すると、グリードに乗ったエリシエルが通信を繋いで来た。レンは、ニコッと笑顔を浮かべ、彼女に言った。
「や、エリィ。早く逃げなよ。グリードの機動力なら間に合う筈だ」
<貴方は……>
「私は此処で終わり。私が生き残れば世界は新たな混乱を生む」
それに、キースやエリスを残して一人生き残っては、本当に彼らを裏切ってしまう事になる。それだけは嫌だった。
「どちらにしろ、この世界に私の居場所は無い…………世界の為に私は死ぬべきだ」
もう思い残す事は無い。レンは、そう言って目を閉じると、エリシエルの怒声が響いた。
<何、馬鹿なこと言ってるんですか!!>
突然の怒鳴り声にレンは、耳を押さえる。
「エ、エリィ?」
<いつもいつもいつも、人の気持ちも知らないで勝手に何処かへ消えて、今度は挙句の果てに死んで逃げるつもりですか!?>
「いや、でもね……」
<世界の為に死ぬのなら………私の為に生きて下さい!>
エリシエルのその言葉に、レンは大きく目を見開く。
<私が貴方を必要とします! 私が貴方の居場所になります……だから……!>
ポロポロと涙を零しながら叫ぶエリシエルに、レンはフッと笑った。そして、目を閉じると、シートに深くもたれかかる。
「(サヨナラ……)」
閃光に飲み込まれるノヴァガーデン。大量の核の光は、遠く離れたシン達の目にもハッキリと見えた。
通信機越しに聞こえる『兄さん』と何度も呼び続ける妹の嗚咽の声にシンも泣きそうになった。
此処にいる誰もが聞こえた。
“サヨナラ”………という声を。
<シン……>
通信機を通してルナマリアの不安そうな声が届く。
シンは、震える手を押さえ、目を閉じると言った。
「帰ろう……あの人が守ってくれた世界へ」
<………そうだね>
<ああ>
キラとアスランも頷き、それぞれの艦へと戻って行く。
とりあえず今は……シュティルの墓を作って、思いっ切り泣きたいとシンは思うのであった。
〜後書き談話室〜
リサ「とまぁ結局の所、兄さんの考えって何だったんです?」
キース「纏めると、全てを綺麗に終わらせる事だ。私達は、新たなジョージ・グレンとして、世界に新しくも今までと同じ混乱を招く事になる。よって、自分を
含め、ノヴァズヒューマンを滅ぼす事にあった」
リサ「普通、主人公のそういう選択って間違ってるんじゃないですか?」
キース「確かに。大抵の物語の主人公は生きる事に足掻く事を美徳と考えるな。そう思うと主人公は私かな?」
リサ「ルシーアさんを殺した事で、兄さんは自分に後戻り出来ない状況を作ったんですね」
キース「その通り。結局、私達の本当の存在理由は、地球の浄化か、人類に力の愚かさを見せつける為か……どちらが正しいのかは分からんがね」
リサ「兄さんは、世界が一つになったら、キースさん諸共、死ぬつもりだったんですね。だから、理由を黙っていた訳ですか……」
キース「レンの持論で行くと、地球を汚した人類が地球を浄化しなくてはならない……言ってみれば、自分で撒いた種は自分で刈れ、だな」
リサ「でも、それは当たり前の事……自分の行動に責任を持つのは、真理ですね」
キース「果たして、それがブルーコスモスのようにコーディネイターを排斥する事か、または別の事か……それでも間違えて、人類が滅びた時、私達ノヴァズ
ヒューマンが本当に必要となるのかもしれないな」
リサ「ノヴァさんは生まれて来るのが早過ぎた、という事ですか」
キース「私達は、人類にチャンスを与えたのだ。あの赤い地球を青く美しい星に戻せるか、どうかをね……それでも滅びるような人類など、滅びた方がマシだと
思うがね」
リサ「そうならないよう気をつけます」
キース「しかしエリシエル君の“世界の為に死ぬのなら、私の為に生きて下さい”とは凄い殺し文句だな」
リサ「最後の最後にヒロインらしい台詞吐きましたね」
キース「レンは、果たしてエリシエル君と共に脱出して生きてるか、どうか……」
リサ「次回は最終回です!」
感想
今回はとうとう最終決戦!
レンもキースも語ってくれます♪
世界の命運を賭けた一騎打ちですね。
激しい戦闘楽しませて頂きました。
近くでは二人の女性が見ているっていうのも乙ですね〜(爆)
シン達も微妙に活躍。
そして、艦長……残念ながら名前も忘れておりました!(爆死)
活躍しておりますね〜
次回完結となればわたしも楽しみです♪
ですが、赤い地球と言う表現は不思議です。
何を基準に赤いのか、気になってしまいますね。
血の色から考えて、死の蔓延する世界と言う意味でしょうか。
しかし、地球はどの状態が一番健康なのでしょう?
私は個人的に星が一番元気なのは恒星の状態の時だと考えます。
星の声を聞けたならその辺り分るんでしょうが、
人間が言う自然を大切にする理由、それはあくまで人間が暮らしやすい自然の回復を願うからです。
最初に地球に現れたバクテリアにとって酸素は猛毒だったとか、それを考えれば酸素を生み出す緑は猛毒の緑とも言えます。
人同士が争う理由も諸説紛々ですが、レンが戦わなければならない、と言っていたと思います。
Wのドロシーが言っていたそれと同じ、はっきり言えば人類の進化の儀式。
戦争が起こる事で、他国への牽制の為に色々な科学技術が進歩する。
これらは、通過儀礼的な要素を含んでいるともいえます。
人類は戦わなければならない、巻き込まれる人間はたまった物ではないですが。
これは、他種族を退けて頂点に立った人類が自浄作用として起こしている物であると考えることも出来ます。
戦争の答え、それは人類にとって一番難しい物かも知れません。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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