ナデシコの格納庫では、リサ、レン、キラ、アスランが招かれ、艦長であるユリカと対面した。他も主要メンバーが格納庫に集まり、あの驚異的な力を持った 兵器の乗り手が、どんな人物達か興味津々のようだ。

 リサは一歩前に出て、スッとユリカに手を差し出す。

「カムイの艦長、リサ・アスカです。この度は兄とルナマリアさんがお世話になりました」

 ザワっと、動揺が広がる。まさか、この中で最年少と思われるリサが、艦長なのだから無理も無いだろう。どう見ても、まだ15かそこらの女の子だ。

「あ、ナデシコ艦長、ミスマル・ユリカです。今回は加勢して下さり、感謝しています。お陰で大使も救出出来ました」

 ちなみのその親善大使は、軍が多大な予算を使って学習機能を向上させた白熊だったりした。




機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜 IN ナデシコ

PHASE−13 漆黒




「ところでシン君とルナマリアさんの知り合いなの?」

「はい。愚兄とその嫁候補です」

「「ぶっ!!」」

「(ぴしっ!)」

 とんでもない説明をするリサに、シンとルナマリアは噴き出し、人知れずリョーコの額に青筋が浮かび上がる。

「まぁ、艦にはもう一人嫁候補が……」

「マユ! 変なこと言うな!!」

「あ、お兄ちゃんいたの?」

「いたよ! 何、サラリと無視してくれたんだよ!?」

「お兄ちゃん、まさかルナお姉さんをキズモノになんかしてないよね? もし襲ったりしたら、本当に兄妹の縁、切るからね」

「してねぇよ!! 頼むからそんなこと言うなよ!」

 兄として怒鳴りつけてるのか、妹の尻に敷かれているのか微妙な所のシン。と、そこで、落ち着かせるようにポフッとシンの頭にレンが手を置いて来た。

「まぁ落ち着きたまえ、シン君。リサも君が行方不明になって相当、心配してたんだから」

「兄さん!!」

「はっはっは。照れない照れない♪ ところでエリス姉さんは?」

「有給取ってどっか行きましたよ」

「なぬ?」

 とっとと彼女を保護して、帰ろうと思っていたが、エリスがいないので眉を顰める。

「あの……エリスちゃんのことお姉さんって?」

「え? ああ、そうですよ。彼女は私の姉です。姉が大変、迷惑をかけたでしょう。私も謝りますので、どうか許してあげて下さい」

 恐る恐る質問して来るユリカに、レンはニコッと爽やかに笑顔を浮かべて答える。あの鬼畜で外道で、余りに良過ぎる頭脳をロクでもない事ばかりする彼女の 兄とは思えないほどの好青年だった。ウリバタケが『爽やかな美形は敵だーー!』とか叫んでいる。

「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私はレン・レヴィナスです」

「あ、ご丁寧にどうも」

「はいは〜い、質問!」

 と、その時、ヒカルが手を上げて質問して来た。

「レンさんって、何歳ですか〜?」

「ん? 21ですけど?」

「エリエリより年下なのに何で弟なの〜?」

「あぁ……彼女、結構、長い間コールドスリープして寝てましたから」

 だから、年下だけど姉です、と説明するレン。皆、彼女がコールドスリープで眠っていた事実を知らなかったので唖然となる。だが、だからシンやルナマリア も彼女に敬語を使っていたのか、と納得した。

「と、とにかくシン君、ルナちゃん、お友達に会えて良かったね!!」

 クルッと振り返って言うユリカ。その時、レンの目がギュピーン、と怪しく光り、シン、キラ、アスラン、ルナマリア、そしてリサはハッとなった。

「艦長、危ない!!」

「ほへ?」

「美人は世界の宝じゃ〜〜!!!」

 ルナマリアの叫びは既に遅し。レンは、ユリカに飛び掛って両手を体に回し、胸を掴んだ。

「な!? こ、この胸の感触は絶品!?」

「き、きゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 ユリカは悲鳴を上げ、胸を腕で隠すようにして座り込んだ。

「ふぇええええええええん!!! 胸、触られた〜〜!!! アキトにもまだ触らせてないのに〜〜〜!!!」

「ちょ、バカ、お前、何言ってんだよ!?」

 アキトも顔を赤くしてユリカに怒鳴る。

「うっひっひ。エエの〜エエの〜。その初々しい反応が堪らんのぶっ!!」

 思いっ切り親父丸出しな発言をかますレンの後頭部に向かってリサのシャイニングウィザードが炸裂する。それはもう見事なまでに。グシャッと前のめりに倒 れるレンの髪の毛を掴んで、リサはユリカに土下座し、彼の頭を床に叩きつける。

「ウチの恥が迷惑かけて本当、すいません。ごめんなさい。許してください」

 その時、ナデシコのクルーは悟った。『ああ、やっぱりエリスの弟だ。かなり頭のネジがぶっ飛んでる』、と。当初、美形で爽やかでムカつく奴だと思ってい たウリバタケも、この時には仲良く出来そうだと思っていた。

「さ〜って、和やかなお話はそれだけで良いかしら?」

「うわ!? キノコが喋ってる!? これは是非、解剖しなくては!」

 いきなり話に割って入って来たムネタケを見て、驚きの声を上げるレン。

「何処をどう見たら喋るキノコなのよ!? アタシは、れっきとした人間よ!」

「「「「「え!? そうだったの!?」」」」」

「何でアンタ達が驚く訳!?」

 それに驚くのはナデシコのクルー。ムネタケは咳払いすると、挑戦的な目で、レン達を見る。すると、突如、海面が盛り上がった。キラ達はハッとなって、振 り返ると、海中から戦艦が数隻、浮上して来てカムイを取り囲んだ。

「提督、何を!?」

 シンがムネタケに食ってかかるが、彼は笑みを浮かべてリサに言った。

「お嬢ちゃん、アンタ達には軍に入って貰うわ」

「な……!?」

「上層部に先の木星との戦闘記録を見せた所、是非、軍に徴兵するよう指示が出たのよ」

「OK」

「断れば戦艦隊による一斉砲撃…………へ?」

 悦に入って喋り続けるムネタケだったが、レンの答えを聞いて唖然となる。他のメンバーも彼同様、唖然となってレンに注目する。

「軍に入って欲しいんでしょ? OKOK、無問題」

「ちょ、ちょっと兄さん!」

「先輩! 何、アッサリとそんなこと了承してるんですか!?」

 軍に入るなどと、とんでもない事を二つ返事で了承するレンに、リサとアスランが詰め寄る。

「う〜ん……いや、ちょっと気になる事があってね。姉さんも色々、気付いてんじゃないかね?」

「色々? 兄さん、ひょっとして何か隠してます?」

「家の壁にエロ本張り付けて壁紙で隠してるなんてことありませんよ?」

「帰ったらエリシエルさんに報告ですね」

 思いっ切り墓穴を掘るというか、恥を晒すレンに、一同は呆れ返る。

「で? 真面目な話、何隠してるんです?」

「秘密♪」

「艦長命令です」

「私ゃ雲のように自由な男だ!」

「もう良いです……」

 恐らく何を言ってもお笑い路線でノラリクラリとかわすであろうレンに、リサは諦め、手首に巻いている通信機を押した。

「あ、もしもしメイリンさん? こっちの軍に入る事になったから、皆に伝えといて。後、決してフラガ一佐とステラさんに迎撃しないよう言っといてくださ い。では」

 言うだけ言って通信を終えるリサ。




「…………は?」

「何だ、今の?」

 カムイのブリッジでは、突然のリサの指令に唖然となっていた。




「で? 私達は何をすれば良いのかな?」

 ニコニコと腹の読めないレンの笑顔に苛立つムネタケ。てっきり抵抗して来ると思えば、アッサリと軍に入る事を了承し、既に軍の為に働こうとしている。

 あのエリスといい、このレンといい、どうにも自分の思うようにならない人間で癪に障る。ムネタケはニヤッと笑い、レン達に言った。

「アンタ達は地球連合アフリカ方面を担当して貰うわ」

「ちょ、ちょっと提督!!」

 それを聞いて、ユリカは声を荒げた。

「アフリカ方面は、殆ど木星蜥蜴に占拠されて、まともに政府も機能していない危険地域じゃないですか! それを何で……」

「黙りなさい! この件はナデシコには関係ない事よ!」

 即ち拒否権も認められない。そう怒鳴りつけるムネタケに、ユリカは押し黙ってしまう。

「OKOK! 任しといてください、親方!」

 が、レンは平然と言ってのけ、グッと親指を立てる。

「あ、でもシン君とルナマリアちゃん、そっちに馴染んでるみたいだし、もう少し置いといて貰って良いですか?」

「彼らはネルガルの社員ですので、問題ありません」

 レンが尋ねると、プロスペクターが相変わらず腹の読めない笑みを浮かべて答える。が、それに慌てたのはシンとルナマリアだった。

「ちょ、ちょっとレンさん!?」

 迎えに来てくれたんじゃなかったの、と訴えかけようとした2人の肩に手を置き、小声で話しかける。

「2人とも、このまま不完全燃焼で帰れる?」

 言われ、シンとルナマリアはナデシコのクルーの面々を見渡す。このまま自分達が帰り、もし木星の連中にやられたら、と考える。いつの間にかシンとルナマ リアの中に、この艦に愛着が湧いていた。

「ぶっちゃけ帰る事ならいつでも出来る。もう少し、彼らと一緒にいたらどうだい?」

「…………分かりました」

「確かに、このまま帰って皆を見捨てるのも後味悪いしね」

「ん。その間、私達は私達で裏で色々やるからさ」

「裏?」

 ニヤッとレンは笑みを浮かべる。その笑みにシンとルナマリアは竦み上がった。彼が、こんな風に笑う時は絶対にロクでもないと決まっているからだ。

「さて、リサ、キラ君、アスラン、ステラちゃん。私達は早速、アフリカまで行くとしよう」

「ちょ、ちょっと先輩!」

「ステラ……シンと一緒が良い」

 皆、レンの余りに勝手で横暴な振る舞いに戸惑っているが、彼はニコニコと微笑みながら言った。

「まぁまぁ。後で説明したげるから……ね?」

 ポンポン、とステラの頭を撫でてキラ達と共にカムイに戻って行った。




「兄さん、本当に軍に入るんですか?」

 カムイのブリッジでは、簀巻きにされたレンを皆が問いただしていた。

「アフリカに着いたら、こっちの軍人がカムイに乗り込んで来るんですよ? こ・の・私達の世界じゃ最新鋭の戦艦にですよ」

 レンの額に指を突きつけて言うリサ。キラやアスランも、レンの真意が分からず困惑している。

「う〜ん……説明すんの面倒なんだけどね〜」

「面倒って理由で、この艦全員を戦争に巻き込むんですか、兄さん?」

「あ、御免、許して。お願いだから踏まないで」

 ゲシゲシ、と笑顔で踏みつけるリサにレンは泣きながら謝る。リサは「いい加減にしないと……」と右腕を外そうとする。

「ちょ、ちょっとリサちゃん、それはマズいって!」

 右腕を外して銃を取り出すリサをキラが羽交い絞めにして止める。

「大丈夫。ちょっと頭撃ち抜くだけですから」

「流石の先輩でも死ぬぞ、それは!」

 銃口をレンに向けるリサだったが、慌ててアスランが右腕を嵌め込んだ。

「レン、お前も俺ら巻き込むなら事情ぐらい説明したらどうなんだ?」

「ん〜……まだ確信が持てないから話したくないんですよ。ただ、まぁ姉さんも色々勘付いてるんで動いてんじゃないですかね」

 レンとエリスが気になっているが、自信を持てていない。この分からない事は無いとも思える姉弟には珍しい事だった。が、逆に言えば、2人がそこまで気に かけている事は、かなり重大な事だと言える。

「分かりました。しばらく兄さんの言う通りにしましょう。ただし、不測の事態に陥った時は、何とかしてくださいよ」

「了解、艦長」

 ニコッと笑うレンに、リサはハァと溜息を零し、キラ達に頭を下げた。

「愚兄が二人揃って迷惑かけてスイマセン」




「ふっふふ〜ん♪」

 その頃、ネルガルのとある支部を訪れていたエリス。彼女の足元には警備員や社員が気を失って倒れ伏している。社員から奪ったカードを差し込むと、電子音 が鳴って扉が開く。

「これか」

 彼女の目の前には、ピンクの髪をした幼女がカプセル型のベッドの中で眠っていた。近くにある端末を操作すると、この幼女の詳細が浮かび上がる。

「マシンチャイルド……遺伝子を操作してナノマシン処理を施した子供……優秀な頭脳を持ち、兵器や戦艦のオペレーター……一端末として使用……中々、どう して……コーディネイターより性質悪いわね」

 人類の新たな可能性の模索とか、そのような大それた思想ではなく、ただ兵器、便利といって遺伝子を操作して生み出される。エリスはギリッと唇を噛み締め ると、チャキッと後頭部に冷たい感触がした。ハッとなって振り返ろうとするか細い声が返って来る。

「振り返るな。おかしな行動をすれば撃つ」

「…………誰?」

 両手を挙げてエリスが問いかける。

「お前に質問する権利は無い。お前は、ラピスに何の目的で近づいた?」

「ラピス? それがこの子の名前かどうか分かんないけど、私はただネルガルを調べる為に近付いただけよ」

「お前は木連の人間か?」

「モクレン?」

「どちらにしろラピスに手を出す奴は許さない」

「ふ〜ん……中々、勝手な事言ってくれるわ、ね!」

 言うや否や、エリスは足を後ろに振り上げ、銃を弾いて振り返る。

「貴方……」

 そして声の主の姿を見て目を見開く。その人物は、黒いバイザーをかけ、黒いマントを羽織っており、ズボンや手袋、ブーツまでも黒いという出で立ちをした 青年だった。

 エリスの頭にキィン、と電流のような衝撃が奔る。目の前の青年の心に深い憎悪と悲しみ、そして後悔の念が渦巻いているのを感じた。

「油断した」

 青年はエリスに向かって突っ込んで来ると、拳を放って来るが彼女はバックステップで避ける。

「ちょ、ちょっとアンタ! 女の子に向かって、いきなり格闘する、普通!?」

「お前が木連でないという証拠が無い以上、北辰の手先と考える」

「ちょ! ちょ!」

 次々と繰り出して来るアキトのパンチとキックを紙一重で避けながらエリスは唇を噛み締め、何で自分がこんな訳の分かんない奴に此処までされなきゃいけな いのかと思った。

「この……しつこいのよ!!」

 ガッと踏ん張り、腰を低くしてエリスはそのまま足払いをかけようとした。が、次の瞬間、青年が目の前から消える。

「え?」

「こっちだ」

「!?」

 いつの間にか背後に回り込んでいた青年は、エリスの背中に対して、思いっ切り掌底を放った。

「か……は……!」

 背中に激痛が走り、悲鳴も出ないエリスは歯を食い縛り、床に手を突くと、そのまま反動で窓を突き破った。青年は、それに驚き慌てて窓に駆け寄ると、ゴッ と窓の外から足が伸びて来て足元をフラつかせた。

「ぐ……!」

「はん! 一発、お見舞いしてやったからね!」

 エリスは窓から落ちたと見せかけ、そのまま窓の縁に掴まり、体を回転させて青年の顔面に蹴りを喰らわせたのだ。が、彼女の手は割れたガラスの破片により 血が流れ出ている。

「このお礼、いつかキッチリしてやるからね!!」

 そう言い残し、エリスは下の階の窓を蹴り破ると、そのまま下の階へと移動した。青年は、エリスの蹴りによって落とされたバイザーを拾ってかけ直すと、カ プセルの中で眠っている幼女に振り返る。

「迎えに来たよ……ラピス」





 〜後書き談話室〜

ルリ「彼まで登場ですか」

エリス「きぃ〜! 悔しい〜! 私とした事があそこまでやられるなんて!」

ルリ「まぁ、肉弾戦ならエリスさんでも分が悪いでしょうね」

エリス「にしてもレンは流石、私の弟ね。この世界に来たばかりなのに、随分と対応が早い」

ルリ「SEED組は合流したのに、いきなりアフリカ行きですか?」

エリス「後々、重要になってくるのよ」

ルリ「そうですか」

エリス「次回からはナデシコ本編に戻って海の話よ」
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