前書き
この作品は東方Projectとペルソナシリーズのクロスオーバーです。オリジナル主人公の他、キャラの性格などが若干不自然に思われたり、戦闘が異なったりするかもしれませんのでご了承ください。
今後ともよろしくお願いします、それではどうぞ!!

OPテーマ→凛として咲く花の如く

主な登場キャラ設定

名前:綾崎優也
能力:仮面を付け替える程度の能力
備考:2011年4月にとある都市の田舎町に引っ越してきた高校1年生の少年。八雲紫と廃れた博麗神社で出会い、彼女によって幻想郷に招かれる。ペルソナという力を得て、幻想郷にて起きる不可解な異変に立ち向かう。アルカナは世界。召喚レベルは55。


名前:藤原妹紅
能力:老いることも死ぬこともない程度の能力
備考:人里と迷いの竹林の狭間に住んでいる女性。蓬莱の薬を飲んだために不老不死という、人の道から外れた存在となる。戦うたびに怪我をする優也を永遠亭にまで案内する役が定着するかもしれない。アルカナは塔。コミュニティはなし。


名前:上白河慧音
能力:歴史を食べる(隠す)程度の能力、歴史を創る程度の能力
備考:人里の守護者であり、ワーハクタク。普段は人間の姿をしているが、満月の夜になると獣人に変身するらしい。人里に住む者たちを愛していることもあり、幻想入りして日が浅い優也のことを心配している。アルカナは法王。コミュニティは法王。


名前:レミリア・スカーレット
能力:運命を操る程度の能力
備考:紅魔館の現主。フランドールとの関係に悩んでいたが、異変を通して彼女と向き合い、仲直りすることができた。優也に対する印象は興味深い人間から自身が認めた数少ない人間となっている。コミュニティでは一度リバース状態になっている。アルカナは運命。コミュニティは運命。


名前:フランドール・スカーレット
能力:ありとあらゆるものを破壊する程度の能力
備考:レミリアの実の妹。紅霧異変以降は幽閉から軟禁へと緩和されたが、外の世界のことを知らなかった。過去に彼女たちの両親を手にかけてしまったことから姉妹の仲が微妙なものになってしまっていたが、異変を通して仲直りすることができた。優也に対する印象は面白い人間から優しい兄へと変わっている。アルカナは星。コミュニティは星。

6、
名前:東風谷早苗
能力:奇跡を起こす程度の能力
備考:優也同様に外の世界から幻想入りした少女。彼女の場合は守矢神社の二柱の存在が外の世界で危うくなったために、信仰を求めて幻想郷に望んで入った。外の世界では行方不明という形になっている。アルカナは恋愛。



―5月19日 永遠亭―


永遠亭に入院し四度目の朝を迎えていた。
 寝泊りしていた畳式の部屋から支度を終えて障子を開ける。縁側から見える庭は夜に月光のスポットライトを浴びて見ている時とはまた違った味を出していた。
 永遠亭にある洗面所を借りたりして、一通りの身支度を終える。
 朝食はいつものように向こうの方で作ってくれた料理をいただくことにした。
 人から作ってもらうというのはこの世界に来てから結構増えてきたように感じる。外の世界では両親が共働きであったためにほとんどそうされたことがなかった。
 造ってくれるヒトが食べてくれる人に対して愛情をこめているというのがそれを食べることで感じることができた。ほとんど感じたことがなかった優也にとっては新鮮なものでもあった。
 四日も経てばすっかり痛みの方もなくなっていた。
 自然治癒の素晴らしさか、それを加速させた永琳の薬が凄いのか。
 最後の診察を終え、永琳からも完治したことを告げられる。
「そういえば――」
 入院費や治療費をまだ払っていない。どのくらいかは分からないが、相当な額になりそうだとこの世界に来てから僅かに稼いだお金を見て頭を悩ませる。
 だが、
「それについては気にしなくてもいいわよ。すでに紅魔館の方から一括で支払われているから」
 紅魔館から――?
 思わず尋ね返してしまう。
何やら請求書らしきものを見せてくれる。そこには確かに署名蘭に紅魔館の主であるレミリア・スカーレットの名前と血印が押されていた。いつの間にそんなことをしてくれたのだろうか。
「謝罪とお礼の意味をこめているのでしょう? ありがたく受け取るのが礼儀じゃないかしら?」
 確かに、と彼女から言われ納得する。
 今度お礼を言っておいた方がいいと思う。
 ようやく退院することができる。朝方に妹紅が迎えに来ると聞かされていたので戻りも安心してもよさそうだとホッとしていた。
 永琳にもお礼を言い、診察室を後にする。部屋を後にする際、私も楽しい実験ができたわと怪しい笑みを浮かべてきた彼女の言葉を聞いて、思わず身震いがした。
 それを無理やり忘れさせ、優也は足早に永遠亭の廊下を歩く。
 途中に会った鈴仙にもお礼を言いつつ靴を履き替え外に出た。
 どこまでも続く緑の景色、そして大きな一本の竹を背もたれにして待っている妹紅の姿を見つけた。
 優也が玄関から表れたのに気がついた彼女がこちらに視線を向け、挨拶代わりなのだろう、手を上げてきた。
 優也も同じように手を上げ、それに答える。
 こちらに歩み寄ってきた優也に対して、もう大丈夫なのかと尋ねる。彼女のその様子から心配してくれているというのが分かる。
 もう大丈夫だ、そう不安げな色をちらつかせる彼女を安心させるために、できるだけ落ち着いた声で言う。
 そっか、と安心した様子を見せる。先ほどまでちらつかせていた不安げな色はもうない。優也としても彼女を引っ張りまわしすぎたことを謝る。
 気にしていない、それくらいで謝られる必要はないと逆に注意された。
 さっさと行くぞ、と一秒でも早くここを立ち去りたいというように彼女は歩き出す。その後ろを付いて行くように優也も足を踏み出す。
 竹林の中を歩く足音だけが二人を包み込んでいる無音の空間に響き渡る。
 あまり永遠亭での出来事を話題にするのは彼女の出発してからの様子から避けた方がいいと思った。
 だが気になることもあった。
 何故彼女があそこまで永遠亭の者たちと関わるのを拒絶するのかだ。
 『竹取物語』にも藤原という姓名の人物は出てきている。そして彼女の永遠亭を嫌っている様子からするともしかしたらと考えてしまう。
 なら彼女はどうして今も生きているというのだ。その疑問に行き着いてしまう。
 そこで出てくるのがまた輝夜の言った言葉――「死ぬことも、老いることもない身体」だ。彼女が不老不死だというのなら今も生きていることはなんらおかしなことではない。もしも仮にそうだとしたら、一体何故であろうか。
 ――だがしかし……。
 自分には聞く権利があるだろうかと思いとどまる。まだ会って間もないお互いの間にある絆というのはそれほど深いものではない。そんな状態で彼女の心の中に土足で入り込むような行為であったのならそれでこそ最悪手でしかない。聞く勇気がまだ持てない。
 それでも決して避けて通れなさそうなことであるのは確かだと思った。
「何ボゥーっとしてるんだよ。竹に頭、ぶつけるぞ」
 妹紅の声ではっと意識を戻す。
 確かに足は動いていたがどこをどう動いていたのかさっぱり分からなかった。目の前には青々とした竹が一本聳え立っている。彼女の声がなかったら顔面にそれを打ち付けていただろう。

「向こうで何かあったのか?」
 無理やり聞きだそうとする様子もなく、それでも気遣うように尋ねてくる。
 モンペのポケットに手をつっこみ、下から覗き込むようにして視線を向けてくる。
 決してなかったわけじゃない。そのうちのひとつで今考え事をしていたところなのだから。しかしそれを聞く勇気も権利もない。だから誤魔化すように何もなかったと言う。
 表情は相変わらず無表情に近く、視線の揺れも少ない。経験というものも会ってか妹紅は視線を優也の目に集中させている。
 妹紅はしばしこちらをいぶかしむような視線を送りながら見つめていたが、そうかよ、と呟き、また前を向いて歩き始める。
 どうやら深くは詮索してこないようだ。
それとも何かを察してなのか。
 それでも彼女に感謝しつつ、優也も足を踏み出すのだった。


―5月19日 博麗神社―

幻想郷においてもルールというものがいくつか存在している。
 今様々な人妖が博麗神社に集まっている。異変というものが発生し、それが解決された後、仲直りの意味をこめての宴会が開かれるのだ。
 今回の異変は紅魔館におけるフランドール・スカーレットによるもの。多くの提供された料理やお酒がそこから出されたものだった。
 あまり外との交流が少ない紅魔館の者たちであるが、こういう時には嬉々として参加していた。今回に限っては外来人でもある綾崎優也の歓迎の意味が若干込められていた。
 出される料理は紅魔館のメイド長である十六夜咲夜と白玉楼の庭師である魂魄妖夢、妖怪の山の頂上に引っ越してきてそれほど年月の立っていない守矢神社の巫女である東風谷早苗が腕を振るっていた。
 二人については名前しか聞いていないので、後で話をしに行った方がいいかもしれないと思った。幻想郷にいつまでとどまっていなければいけないのか分からないため、少しでも交友関係は広めておいた方がいいだろうと思った。もちろんそれだけではない。イゴールから言われているコミュニティの構築のためでもあった。今回こそ以前から戦闘訓練も多少なりとも積んでいたことや、事前に美鈴との戦闘などで一気に経験値をつむこことで鍛えることができていた。
 一体構築するべきコミュニティがいくつあるのかは分からないが、より戦闘を効率的にするためにはさらに力を得る必要があった。もし次に起きる異変というものに参加するかは分からないが、紅魔館におけるフランドールとの戦闘を通して決して無関係ではいられないとうすうす感じつつあった。
 時刻は夕方を過ぎ夜になっていた。
 茜色だった空はすっかり闇に包まれたような黒に染まってしまい、そのところどころにキラキラと宝石のように星が光っていた。窓から覗くと月が地上に対していつものように光をスポットライトのように降り注いでいた。
 博麗神社に集まりつつある者たちは宴会が始まるのが今か今かと待ち遠しそうに話しているのが聞こえる。
 中には見知っている者たちもいる。紅魔館の主であるレミリア・スカーレットと共に妹のフランドールの姿がある。咲夜は料理の方に出ているために姿は見えない。後で話をしに行った方がよいと思った。
 ここまで一緒に来た妹紅は永遠亭に入院した時にあった蓬莱山輝夜となにやらにらみ合いながら互いに暴言をぶつけ合う口喧嘩をしている様子が見える。
 もしかして以前こうなることを見せたくなくて永遠亭に泊まることを拒否したのかもしれない。それに今日偶々そう喧嘩をしているならまだましも、いつもそうだとすれば確かに一緒のところにいるのはまずい。まるで二人の保護者のように慧音と永琳が外でやれと言って聞かせている。
 席について談話をしている姿も見られる。
 優也をこの世界に連れてきた張本人である八雲紫の隣には白を基調とした服を着て、九本の金色の尻尾を持つ女性と水色を基調とした服を着ているピンク色の髪をした女性がいて、彼女たちとなにやら話し込んでいるのが見えた。
 縁側の方には頭から二本の角を生やし、様々な形をした分銅を身につけている少女がいる。宴会が始まる前から待ちきれないためか、自前の酒を入れている瓢箪を口に運んでは大量に飲んでいる。その角からして彼女は鬼なのだろう。
 さらに来る前に聞いたことであるが、神様も来るとのことだとのことで一体どんな人物なのだろうかと気になるところだった。
 そろそろだろうかと思っていると奥の方から料理やらお酒やらを運ぶ妖精メイドや幽霊たちが現れた。幻想郷によい方向で染まりつつあるためか、その様子を見てもまったく慌てることはなかった。
 酒が回りに振舞われる。
 大小の入れ物に入れられる様々なお酒。紅魔館の者はワイングラスに赤色のワインを入れている。やはり和風と洋風に分かれるようだ。
 優也はというと未成年であるが流れのままにお酒を手にしてしまっていた。やや大きめの容器に入れられた透明色の液体が目の前にある。
 ――どうしようか……。
 まさかここまできて断るわけにもいかない。
 周りには今にも騒ぎ出しそうな雰囲気がある。それをぶち壊すわけにもいかない。優也と年が近い霊夢や魔理沙、早苗という少女を見ても彼女たちも同じようにお酒を手に持っている。普段から彼女たちはお酒になれているのかもしれない。この世界には年齢制限というものはないのだろうかと思う。
 隣に座っている一緒に来た慧音が優也の様子がおかしいことに気付いたのか小声で話しかけてきた。
「どうした、優也くん? 何か体調でも悪いのかい?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
 気にかけてくれる慧音は心配そうに覗き込んでくる。
 たいした理由ではないのが申し訳ない。
「……外では俺の年齢じゃあ、酒は飲めないんだよ」
「ああ、なるほど」
 納得した様子を見せる。
 この世界と外の世界では基準がまったく違う。この世界ではお酒は水と同じ様なものに見られていた。それだけ宴会やお酒が好きな者がこの世界にはいるということだ。年齢がまだ二十歳に満たっていない者も抵抗感なく、その手にお酒を持っている。
 世界が違うとあらゆるものが変わってしまうのか。
「それでも、この雰囲気の中じゃなあ……」
「なら一口飲んで、後は水とすり替えておけばいいさ。無理をして身体に支障をきたしてしまえば本末転倒だ」
 そう提案をしてくれる。
 あまり慣れないものを無理やり飲むのはやはり気が引けるため、そうする他ないと思う。少しずつ慣れていくしかないだろうと、この世界にい続ける間はこのような宴会が行われるのを考えるとそうしたほうがよいと思った。
 主催者であろう紫が立ち上がり、乾杯の前の軽い挨拶を始める。
 内容は数日前の紅魔館の異変についてだった。
まだ詳しく分かっていないために「ドッペルゲンガー」のような妖怪が現れ、それを退治したと言う。それを聞いている者たちのなかであまり興味を向けている者は少ない。今日はそれを聞くよりも宴会を楽しみにしてきている者がほとんどだからだ。話をしている紫もそのことを理解しているためか、話を早々と切り替え、乾杯と高らかに言う。
 周りからそれに合わせて乾杯という声が上がる。それと同時に飲めや食えやの大騒ぎが始まった。
「良い機会だ。他の者たちと交流を深めるのもこれから何かと便利かもしれないぞ?」
 そう背中を後押しするように言う慧音。
 どうしてもこの騒ぎの中、話に行くのが少し勇気のいる状況だったのでありがたい。礼を言い、一口だけ飲んで、後は水とすり替えておいたコップを片手に立ち上がり、まずはレミリアたちの元へと向かった。


 他の者たちが集まっているところから少しだけ離れたところに紅魔館の者たちで集まり、料理とワインを楽しんでいる彼女たちがいた。優也が近づいてきたのを最初に気付いたのはフランドールだった。紅魔館から戻る時姉と話し合ってみると決意した彼女はどうやら今回は外出を許されたようだ。
 優也を見るやパッと花が咲いたような笑みを浮かべ、立ち上がり、歩み寄ってきた。小さな身体を投げ、優也の身体に抱きつく。少しだけよろめく。もう少しでコップに入った水を零すところだった。危ないぞとやんわりを注意する。
「あぅ、ごめんなさーい」
 一瞬だけ反省の色を見せたが、すぐにまた先ほどの笑みを見せてくれる。
 思わずこちらも一瞬であるが頬を緩めてしまう。
チラリと横目でレミリアと咲夜の方を見る。何故だかニヤニヤとした笑みをこちらに向けてきているレミリアと、微笑ましそうに見守る咲夜の姿が見える。
一体何なのか。
 取り敢えず腰に抱きついた彼女を連れて二人のもとに向かう。
 優也が座ってもいいかと尋ね、レミリアが構わないわと言う。ちらりと咲夜に対して目配せをすると、何かを読み取ったのか、スッと立ち上がり小皿を手に料理を取りに向かう。飲み物だけを飲むというのも物足りないためであろう。
 レミリアと対面する形で座る。
 隣にはワインをジュースで割った飲み物が入ったコップを両手に持ち、飲んでいるフランドールが座っている
「怪我の方はもう大丈夫そうね」
「……お蔭様で、わざわざ治療費を出してくれたんだよな。ありがとう」
「借りを返しただけよ。ま、こちらとしては返したりないくらいだけど」
 それで十分すぎる。
 あまり返されすぎるとこちらとしても申し訳なくなる。それを伝えると、きょとんとした表情から一転、小さく噴出した。
「欲がないな。今の内に搾り取っておけばいいものを」
「そこまで強欲じゃないさ」
 つまらなさそうにするレミリアに対して、そこまで人でなしではないと呆れ顔で言う。
 コップに入った水を口に含む。
向こうのほうから小皿に様々な料理やつまみを乗せたものを持って咲夜が戻ってきた。片手でつまめるものが多かったのでありがたくそれを頂く。
「お前には感謝してもし切れない、おかげでフランと向き合うことができたわ」
「……別に、俺は思ったことを言っただけだ。ただの人間の俺があんたみたいな長生きしている吸血鬼に異見するなんて身の程知らずだよ、本当。それにこれは言ってみれば押し付けだし、余計なお節介だからな」
「確かに苛立ちはしたがな……それでも言われたことは耳が痛かったぞ」
 フッと小さく笑みを零す。
 あのときの苛立ちは尋常ではなかった。
ただ一人間でしかない優也に意見されたのだからプライドの高い彼女からすれば当然の行動だった。もちろん優也でなくてもそのように怒りをあらわにしただろうが、そもそも吸血鬼に対して違憲するなどという愚かな行動をとるものはいないだろう。
「私たち紅魔館一同、あなたには感謝しているのよ?」
 今はお客という立場ではないので、親しげに話しかけてくる咲夜。
 取り繕った笑みではなく、彼女本来の表情で接してくれる。
 自分たち紅魔館という家族で救って上げられなかったのは悔しいとのこと。だが今回優也ひとりでそれを成し遂げたわけではない。ただ足止めと、最終的に敵に対して止めを刺しただけだ。フランドールを闇から引き上げたのは彼女たちであり、その引き上げるための紐を提供したに過ぎない。
「俺ひとりの力じゃできなかった。それに俺がしたことなんて微々たること、あんたたちがフランのことを救ってやったんだ。家族としてな」
「なら私からも言わせてもらうわ。私たちだけじゃきっとあのままだった。ここにフランはいなかっただろうし、これから先もきっとね……だから感謝してるわ、ありがとう」
 謙遜するように言う。
 レミリアはその様子に呆れを含んだ笑みを浮かべ、言った。
 視線を彼女から従者の咲夜に、そして妹のフランドールへと向ける。小さく頷く咲夜。彼女もレミリアと同じ気持ちなのだろうと思う。フランドールは優也の視線に気づき、すぐにパッと明るくなり、
「ええっとね、優也とお姉様たちのおかげで私……外に出られたの。ずっと無理だと思ってた、でも私を外に連れ出してくれた」
 一度は能力の暴走という形であるが、大きな過ちを犯し、地下へと幽閉されることになった。それから長い年月が経つも、彼女の肝心な心というものは成長する機会を失っていたために、ただただ外の世界への憧れとともに、そんな世界を知ることができる姉たちへの嫉妬が募っていくばかりだった。満たされない希望とぶつけることのできない嫉妬が狂気へと変わり、それが少しずつ蓄積していった。それがあらぬ方向へと具現化してしまったのが以前のもうひとりのフランドールという存在だ―自らの思いを汲み取ってくれない世界も、家族もどうせ希望などないのだからすべて壊してやる――その思いの塊だった。
「怖かった……確かにそう、考えてた時もあったから」
 フランドールはその思いを以前は否定したが、今はもう受け入れている。すべてに絶望した自分、すべてを破壊しようとした自分。それらも全てフランドールという存在なのだと気付いたからだ。誰かにそれを知られるのを、その誰よりも自分の家族や友達に知られるのを恐れた。嫌われるのではないか、また地下に戻されるのではないか。そんな絶望感が彼女をあの時は支配した。
 だがそんな彼女の絶望を払うかのように、家族は、友達は手を差し伸べてくれた。自らの過ちに後悔し、無力さに嘆き、それでも守りたいという思いを吐露した姉。そして暗闇にいたフランドールに希望の標を見せてくれた優也。
 そこに誰かが欠けていてもいけなかった。
 そこにみんながいてくれたからこそ、フランドールはこうして今もここに、外の世界にいられる。だからこそ。
「ありがとう、優也! これからも私たち、お友だちだよね!」
 お礼を言う。そしてその小さな手を差し出してきた。
 お礼はレミリアたちと一緒に自分を助けてくれたから、そしてその手を差し出してきたのは友達だということを確認したいという彼女の小さな望みなのだろうと思う。必要ないと思うのだが、確かな形や感触で確かめたいという彼女の思いが伝わる。
 だから優也も手を差し伸べ。
「もちろん」
 その思いを受け取るとともに、確かめ合うようにしてその小さな手をキュッと握った。


「そういえば優也は幻想郷に来て初めての宴会よね。今の内に交友を深めておいた方がいいわよ? 身の安全を確保する意味も込めてね」
 と、レミリアが言う。
 それを聞いて確かに保険になるかもしれないと思った。
 とはいえ、それを抜きにして交友を深めることはこの狭い世界で生きる上でも色々と大切なのかもしれない。
 それに加えてイゴールから言われている「コミュニティ」を築くというのもある。誰がどの「コミュニティ」を築く相手になるのかはその時にならなければ分からず、誰と築きたいというこちらの意思というのはまったく関係がなかった。
 最後の言葉を聞くだけならやはりこの世界は人間にとっては絶対に安全とはいえないのが分かる。
 妖怪などというもはや外の世界では存在もしていないものたちが生きているのだ。彼女の言うことも確かだ。それに普通なら吸血鬼である彼女と合い、こうして普通に話をすることができることも奇跡でしかない。
 運が良いのか。
 二人の話を聞いていたフランドールが空になったコップをテーブルに置き、

「初めて宴会? に来たんだけど、お姉様って友達少ないの?」
「「えっ?」」
 優也とレミリアの声が重なった。
 どういうことだと思う優也。チラリと対面する席に座っているレミリアに視線を向ける。隣に座っている咲夜は静観を決め込んでいる。
 フルフルと震えているレミリア。まさか――。
「な、何を言っているのかしら、フラン? 姉である私が、本当にそうだと思っているの?」
「だって今日まで色々お話しをしてくれたけどほとんどお姉様の自慢話だったよね。その中にほとんどここに来ているヒトたちのこと、出てなかったような気がするんだけど」
 引き攣った笑みを浮かべ、汗を流しながら何とか取り繕うとしているレミリアに対してフランドールがさらに追い討ちをかけるように言ってくる。
 そう言われ、思わず「うっ」と言葉を飲み込んでしまう。
 その様子からレミリアの交友関係も狭いのだと分かる。誇り高き吸血鬼であるが故に、あまり周りと関わることを自分からしようとしなかったのだろう。
 フランドールに対して慌てて霊夢や魔理沙など、以前の異変に関わった者たちをキッカケにここに来ている者たちとは話したことはあると言う。決して友達が少ないなどということはないと弁解する。
 どうだといわんばかりに優雅にワインを口に運ぶ。
 少しばかり考える様子を見せたフランドールが口を開き。
「でも今のところ誰も話しかけてくれないよね」
「うっ……」
「さっきから咲夜とばっかり話をしてるよね」
「ううっ……」
「プライドに拘って待ってるだけじゃ誰も話しかけてくれないよ、お姉様」
「うーっ! なんで妹にそう言われなきゃいけないのよー」
「お、お嬢様……?」
 マシンガンのように次々と言ってくるフランドールに対して徐々にレミリアの表情が険しくなる。反論できないのか、うなることしかできない。
 そしてどちらが姉と妹なのか分からないように、レミリアが涙声交じりに悲鳴をあげた。突然の変貌に従者の咲夜は唖然としている。今まで主のこのような姿を見たことがなかったために流石の彼女もどうしたらよいのか分からないでいる。
 ――どうしたらいいんだ……。
 突然の事態に咲夜と同じく優也も内心戸惑っていた。
 今は咲夜が何とか落ち着かせようとしている。すると優也の服を引っ張るフランドールが話しかけてきた。

「もっとお話ししたいけど、お姉様みたいに交友関係が狭くなるのは嫌だよね。だからもっといろんなヒトとお話をすればいいと思うの」
「確かに、で、フランも誰かに話しかけにいくつもり?」
「私が知ってるのは霊夢と魔理沙くらいだから。ちょっと行ってこようかな」
 そう言ってフランドールは立ち上がると宝石を並べたような翼を使いフワリと浮いて、何やら騒いでいる二人のもとへと向かって行った。
 まるで退行してしまったようなレミリアはどうしただろうかと視線を戻す――が、相変わらず正常な状態に戻っている様子はなく、何かを咲夜に話してはそれを頷きながら聞いている彼女の姿があった。
 こちらの視線に気づいた咲夜は。
「あら、妹様は霊夢たちのところに? ならあなたも他のヒトのところに行ったらどうかしら? お嬢様はまだこんな状態だし、しばらくは話し相手にはなれないわよ?」
「そうか。なら、そうさせてもらうよ」
「うっー! さぐやぁー、それで、それでねわたしには――」
「はいはい、なんですかお嬢様」
 フランドールの姿が見当たらなかったので視線をあたりに向けた咲夜。紅白と白黒の服を着た二人のところにいるのを発見し、それほど心配はしていない様子を見せる。優也二対し、フランドール同様に他のところに行ってみたらどうかと言う。
 確かに今のレミリアが立ち直るにはもうしばらく時間が掛かりそうだった。
 頷き、立ち上がる。
 咲夜に涙を流しながら構って構ってとまるで子どものように抱きつくレミリア。紅魔館で見たあの時のカリスマはすっかり影を潜めてしまっている。
 ――かりちゅま……。
 何故かふとそう思ってしまう。まあ、どうでもいいかとまだ話したことのない相手を探すために席を外した。


 次の席に向かおうとした時だった。
「あ、あのっ!」
 突然後ろから声が掛けられる。声色は女性のものだ。
 チラリと肩越しに見るとそこには緑色をして、博麗の巫女である博麗霊夢の紅白の巫女服とは違う、青と白の二色の巫女服を着た少女が立っていた。
 その髪にはカエルとヘビのヘアピンのようなものがあった。
 確かこの大量の料理をこしらえるのに一役買った「東風谷早苗」だっただろうか。
 その彼女が優也を見て話しかけてきた。
「外来人の方ですよね、綾崎優也さんでしたっけ?」
 やはり名前は知られているようだ。
 そうだということを頷くことで伝える。何故か彼女はそれを見てまるで花が開花したような笑顔を浮かべる。意味が分からない。
 彼女が優也の腕を掴み、引っ張るようにして、
「私も幻想郷に来てあまり日が経っていないんです。あ、来たっていうのは外の世界からなんですけどね」
「外の世界から?」
 なにやら楽しそうだと見て分かる様子の彼女がそう話す。
 この世界には忘れられた存在がこの世界と外の世界を分け隔てている博麗大結界に誘われる形で来ると聞いている。
 だが彼女は現代の人間だ。そうであるにもかかわらず何故この世界にやって来たのだろうか。優也は自分のように彼女もまた八雲紫によって連れてこられた被害者のひとりなのだろうかと考える。
 だが彼女が来ているのは霊夢のそれとは違う青と白の二色の巫女服。つまり彼女は何かしらの神社の巫女だというのが分かる。今世界にはふたつの神社があるというのを聞いている。
 確か名前は――。
「守矢神社の……?」
「っ! は、はい、そうです! よく分かりましたね」
 そう神社の名前を言う。
 場所は博麗神社同様に立地条件の最悪である妖怪の山という場所の頂上だ。その山には多種族に対して排他的な考えを持っている天狗たちが住んでいるために人間が自分の意志ではいることなど不可能だった。それ以外にももともとその山には鬼が住んでいたころもあるなどと、相当強力な妖怪たちが住み着いているという。そうなると人間がそこまで行く気などサラサラ起きないだろう。
 博麗神社とは違い、信仰するべき神が住んでいるということもあってか、その力を示すために頂上に建てただろうと思う。そうなるとさらに妖怪たちの怒りを買うことになる、力で抑えられている以上、何かを襲う可能性が高い。万が一、一般人が入り込んでしまえば妖怪たちの良い憂さ晴らしになってしまうだろう。
 人里の人間の中に、定期的に守矢神社に行く者はいない。
 分社などが人里内にあればまた違ってくるだろうが、果たしてもうあるのだろうか。
 そう考えていた優也の前にいる彼女は、自分が守矢神社の巫女であるのを言い当てられたことに小さな驚きとともに、どことなく嬉しそうにしている。
「少しお話しをしたいのですけど、いいですか?」
 そう言う彼女であるが、すでにその手は優也の腕をがっちりと掴んでいる。わざと引っ張るようにしてみても、てこでも動こうとしない。
 ――宗教勧誘じゃないと良いんだけどな……。
 宗教関係の人間が良くとる行動であるから失礼だとは思うが、そう思ってしまった。口には決してできないことだ。
 とはいえ丁度誰かと話をしたいと思っていたところなのでタイミングは良い。断る理由もないために「分かった」と答え、彼女の「家族」のいる席へと向かった。




後書き
EDテーマ→《東方Vocal》Necro Fantasia (REDALiCE Remix) / ネクロファンタジア


はじめましての方は、はじめまして。
いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
お久しぶりです、泉海斗です。
つい数日前まで一ヶ月間ほとんど執筆ができない自浄がありまして、こちらに作品を投稿することができないでいました。ようやくそれが終わりましたので、こうして早速執筆、投稿したまでであります。
 この作品を最後まで読んでくださりありがとうございました。楽しんでいただけたのなら幸いです。
 次回のACT.10もよろしくお願いします。
それでは!!

コミュ構築
愚者→幻想郷の民
道化師→???
魔術師→霧雨魔理沙
女教皇→アリス・マーガトロイド
女帝→???
皇帝→???
法王→上白河慧音
恋愛→???
戦車→???
正義→博麗霊夢
隠者→???
運命→レミリア・スカーレット
剛毅→???
刑死者→???
死神→???
節制→???
悪魔→射命丸文
塔→八意永琳
星→フランドール・スカーレット MAX→アストライア
月→蓬莱山輝夜
太陽→???
審判→???
世界→十六夜咲夜
永劫→???



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