無限航路−InfiniteSpace−
星海の飛蹟
作者:出之



第14話


 「ベイクルーズ」を先頭に、艦隊は進軍を継続していた。
<センシング、戦闘、耐久。全て当艦が最大戦力だ。これが合理的な布陣と考える。意見はあるか、ユーリ>
「いえ、完全に同意します」
 一瞬、ギリアスの瞳に何かを面白がる趣が仄見えたが、口には出さず薄い笑みに留める。
<そろそろ交戦の頃合か。撃ち漏らしの始末は頼む>
 オフ。
 ユーリはギリアスが消えた画面を睨み付け、僅かに肩を震わせた。
 悔しくない訳じゃない。
 これではまるで、いや、正真正銘これはギリアスを盾に戦う布陣に他ならない。
 確かに、重巡航艦を背負って戦う勇気、否、合理性はない。前衛に就いてセンシング戦に負ければ一方的に沈められてそれまでだ。
「うーん」
 ユーリは思わず呻きを漏らす。
 顕著な、物理的な、格差。
 それをこうもあからさま、無惨に突きつけられると……。
「惨めだなあ」
 言葉には出さなかったつもりだが、聞こえたのかもしれない。
 ユーリ。
 大きくは無かったが、少し強い調子で呼び掛けられた。
「言ったろう。上があるのを知るのは悪いことじゃないって」
「トスカさん」
 少し、目元が濡れるのを感じる。
「今はこれでいいよ。あいつの背中をよく見ておきな」
 艦長にだけ聞こえるよう、潜めた声だった。
「はい」
 ユーリは頷く。
 奇襲は完全に成功したようだった。
 ここに至るまで、一度も敵との遭遇も交戦も発生していない。
 ブリーフィングで示された位置座標、「ヘクトル・ベース」までもう間もなく、1時間も経たずに交戦範囲に突入する予定だが。
「着信!」
 ティータが声を上げた。
「ベイ・クルーズ、センシング感知。発信源座標、「ヘクトル・ベース」に合致、同定しました!」
 来たか。
 
 「ベイ・クルーズ」とのデータ・リンクにより、ユーリの手元にも情報が雪崩込んで来る。
 存在を暴露された以上、“黙って”いても意味が無い。
「ベイクルーズ」が大出力、アクティブ・センシングを展開する。
 今度は逆に、潜伏していた敵艦が所在を暴かれる。
加速を開始、交戦域に向け前進。「ヘクトル・ベース」の周辺に次々とIT反応が発生するが。
「6隻……?」
 これは、僅かに、という感触が正しい気がする。
「同定、何れもフランコ級、6隻です」
「ホントに両翼に張り込んじゃったんだな」
 中佐、大丈夫だろうか。
「いえ、もう一つ、あ、これは」
 ティータは思わずユーリを見返る。
「オスカーです!オスカーが居ます!!」
 オル・ドーネ級巡航艦。例のオスカーがセンシング・レンジの外から、自ら華々しいIT反応を放ちつつ、出現する。
 今、我が方には「ベイ・クルーズ」が居る。


『大丈夫』


 え。

 内なる声。それをユーリは久しぶりに聞いた。
「オスカーが……?!」
 ティータの声が途切れる。
 「オスカー」に射撃反応。
 だが、その目標は、ギリアス、ユーリの何れでも無かった。
 「オスカー」の前方、180000万程の位置に、着弾反応発生。
「まだ居たのか」
 いや、まだ、どころではなかった。
 虚空に探知された着弾反応をオーバーライトし爆発的なIT反応が発生する。
「アンノン1出現!距離650000、方位2−8−5、艦種不明です」
 ちょっと待て。
 ユーリはこの状況に当惑する。
 今のはなんだ、まるで。
 逡巡するまでもなく答えは先方から出て来た。
「艦長!共通帯域で入電、おそらく『オスカー』からと推定されます」
「繋いで!」
 画面に現れたのは、壮年と老年半ばの、精悍な顔立ちの男だった。
<「オスカー」のディゴ・ギャッツェだ>
 茶目っ気たっぷりに男は名乗りを上げる。
「ユリウス・クーラッドです。潜入捜査官殿」
 ディゴは軽く眉を上げて応じる。
<お察しの通りだが話は後だ。データ回線を開け。奴を挟撃するぞ!>
「ベイ・クルーズ」はフランコ級6隻を一手に引き受けていた。
 負ける要素は無いが、手一杯であるのは間違いない。
<尻から蹴り飛ばしてやる。お前の方で仕留めろ>
「了解です」
「オスカーとの回線、確立終了しました」
 目標の位置座標が送られてくる。
「マーベリック、連続射撃準備」
「マーベリック連続射撃準備、アイ」
 艦の出力がミサイル投射軌条連続稼働へ振り向けられる。
 裏切りによほど狼狽しているのか、目標の機動は直線的なものだった。
「射撃開始」
 ミサイル連続投射。その軌道前方に向け濃密な爆散破片が展張される。
 軌道前方。眼前で咲き狂う赤外反応の花園に敵は為す術もなく突入し、自身の運動量でばらばらに引き裂かれる。
「着弾確認」
「IT反応無作為拡散探知。撃沈です!」
 CICに歓声が弾ける。
 間違いない。
 あれこそスカーバレル幹部の座乗艦に違いない。
<気を抜くのは早いぞ、小僧>
 ディゴがたしなめる。
<「ヘクトル・ベース」を制圧する。陸戦隊の編成に掛かれ>
 え、白兵?。
 ユーリはトスカを見る。
 何、とトスカが見返す。
 へ。
 声が詰まった。
「ヘクトル・ベースに接岸する。総員、戦闘準備!」



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