無限航路−InfiniteSpace−
星海の飛蹟
作者:出之
第15話
発令、はしたものの。
白兵と言われても。
前衛にはアーマースーツ、最低でも防弾防刃装備は欲しい。狙撃手にスタン・グレネード、無力化ガス。
ユーリはちらりと自分の腰に眼を落とす。
流体金属で形成された刀身を持つ無敵の刀剣、ヒースクリフ・ブレード。
“腰にブラ下げてるのは飾りかい”
実際、そうだと思っていた。軍刀、元帥杖の類の象徴、だと。
抜刀。指揮官先頭。
mjdすかトスカさん。
何より、白兵、小部隊戦闘なんて一度も訓練も演習も……。
実際の逡巡は一瞬だった。
<着上陸はこっちでやる。後詰めで数を寄越せ>
「了解です」
た、助かった〜。内心の安堵を押し隠し即答する。
先陣を切り、港湾に向け堂々と侵攻する「オスカー」に対する「ヘクトル・ベース」の抵抗は絶無だった。
ここだけの話、「宇宙要塞」なるものはフィクションでしか存在しえない夢想の産物に過ぎない。
「集中の原則」により、火力を一点に集める拠点防衛には一理が錯誤される。
だがこれは「機動の原則」によりあっさりと打ち破られる。
無限に広がる大宇宙。これが迂回により無力化されることは子供にも判る理屈である。
「要塞」とはそも、戦域が有限であることを前提としその「重点」に配された物だ。
では、その拠点、例えば惑星を守るのには有効では無いのか。
宇宙の射程は無限遠。アウトレンジされる的にしかならない。
宇宙ほど「機動の原則」が生きる戦場は無い。これを初めから持たない「宇宙要塞」など机上でも存在しえないファンタジー以下の存在なのだ。
閑話休題。
「オスカー」の左舷舷側が煌く。
近接防御兵装の発砲。
穿たれた破孔にむけアーマースーツの一群が吶喊していく。
破孔の奥で何度か光が瞬く。
やがて、するすると伸びて来た接舷ゲートの一つに「オスカー」はドッキング。
更に間を置かず伸びてきた二本に、「スズツキ」「ユキカゼ」の二艦も相次いで着床する。
ゲートの奥から1体のアーマースーツが機敏に滑空して来た。
「スズツキのユリウス・クーラッドです」
敬礼で迎えるユーリに。
「ジョスン軍曹であります。先導しますので後続願います」
アーマースーツはラフに答礼すると直ぐに背を向け、再び滑空しつつ先陣を切る。
それに続くユーリ以下、ブリッジクルーを含む約150は何というか、烏合の衆そのもので見られたものでは無かったが。
幸いにしてというか、直接交戦の機会は無いようだった。
進む通路のそこかしこに、血痕が跳び散り、黒焦げの、或いは両断された死体が転がり、くるくると宙を舞っている。
閉じた扉を怖々開く。何も無くほっと胸を撫で下ろす。
白兵かー。
訓練しないとダメだな、これ。
艦長、こっち御願いします!。
はいはい、えんやーこーら。
すっかりドア・オープナーと化したヒースクルフが一閃、がらんとドアが倒れ開く。
これは。
今までとは違う気配にユーリは顔をしかめる。
異臭、いやこれは。
死臭。か。
臆せず、ユーリはそのまま先頭切って部屋に踏み込んだ。
既に頭の先から足元まで、海賊の血で塗れている。今更死体が何だと。
だが、少し先に転がっていた死者の顔を覗いたユーリの顔色は変わった。
「ザッカスさん……」
一度接触しただけだが、見間違いは無かった。
「兄さん、兄さんが居るの?!」
ユーリは耳を疑う。
「ティータ?」
確かにブリッジクルーだが。
誰が連れて来たんだ。
「兄さん!!」
トーロの制止を振り切ってティータが駆け寄って来る。
「見るな!!」
ユーリも立ち上がりティータを抱き止めるが。
「いやあああああああ!!」
尋常では無い力で振り払われた。
「トトロス、トトロース!」
駆け付けたトトロスは一瞬、怯んだ表情を見せるが。
「中尉を頼む」
ユーリの言葉に頷き、船員の何人かに素早く指示を出す。
ユーリはトーロと二人で兄の亡骸にすがりつき狂乱するティータを引き剥がし抱きかかえる。
少しして我に返ったティータはただただ泣き続ける。
ユーリは彼女をトーロに預け。
「……トスカさん、状況は」
トスカもやや不機嫌な表情で。
「御自分で御確認願います」
親指を立ててしゃくる。
その先にディエゴの姿があった。
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