――人の心である、ソウル達よ。

不思議なまどろみの中で、チルノは女性の声を聞き取る。

――主人を失い、さまよえるソウル達よ。

その言葉の意味は、チルノには分からなかった。
そもそも、考える事が出来るほど、意識もはっきりしていなかったのだ。

――その力を、世界を繋ぎ止めるものに与え給え。

そもそもこの女性の声も、先程まで共に行動した者……セラフのものではない。
まどろむ意識の中で、記憶を探り始め……

――世界を、繋ぎ止めるものへ。

「……うわっ!?」
意識を覚醒させたチルノを最初に襲ったのは、重力だった。
幸い地面は近く、乱暴な着地であったが、大きな怪我も無かった。
顔を上げれば、恐らく先程の声の主であろう、黒衣の女性が目に入る。
黒衣、といっても一般的な服とよべる物ではなく、表現するならば「黒い布を体中に巻きつけている」が正しいだろう。
その両目は蝋のようなもので塗り固めてあり、何処か恐ろしさを感じさせた。
だが、顔を上げたチルノは、恐怖など感じなかった。
それは彼女が、人間ではないが故ではある。
だがそれ以上に、そんな事を感じる暇も無いほど、多くの謎が一度に襲い掛かってきたのだ。

「……どこここ?」
記憶を探れば、浮かび上がるのは巨大な龍の姿。
その際、微かに覚えている背景と、今広がるこの場所は、全く一致する箇所が無かった。
辺りを見回しても、自分が知っている事は何一つ無かった。
[……理解不能だな]
そう思った所で、背後からの聞き覚えのある合成音声を聞いて、チルノは少し安心する。
振り返って確認する。セラフも、この地へ来たのだ。
[ここは何処だ。答えてもらおう]
目の前の黒衣の女性に対して、セラフが問いかける。敵意を隠す気は微塵もない、という言葉であった。
女性は少しの間を置くと、ゆっくりと口を開いた。

「……ここは楔の神殿。今はなき、北の大地『ボーレタリア』。
ここを出ることは出来ません。ただ今は、5つの要石の片割れに導くのみです……」

だがその返答も、具体性に欠ける、いまいち要領を得ないものであった。
そもそも、固有名詞だらけで二人には……考え事が苦手なチルノはともかく、セラフにすら理解不能であった。

[楔の神殿……ボーレタリア……要石。一体何のことだ]

その固有名詞を羅列して、セラフはもう一度問い返す。
だが、女性はそれに答える様子は見せない。女性の様子を見てか、セラフの体が、一歩前に出る。

[答えるつもりは無いか。面倒を掛けさせてくれる]
「ちょ……!?セラフ、駄目っ!!」
その様子に穏やかではないものを感じて、チルノはセラフの体を掴みこむ。
……体躯に差がありすぎて、ただしがみついているようにしか見えないが。
そこで、チルノはある違和感を感じた。よく見れば、セラフの体の様子がおかしい事に気づく。
何処か光り輝いており、その一方で透き通るような外見であり、言うなれば、幻影のようであった。
「あれ……セラフ、その体……」

「やめとけよ。その女には何したって無駄だぜ」

そのチルノの疑問の声を遮るように、別の方向から声が掛かる。振り向いた先に居たのは、青い鎧を着込んだ男性だった。
階段に座り込んだ男は、妙に生気の無い声で……まるで、自暴自棄になった者、という印象を二人に与えた。

[……どういう意味だ]
「そのまんまの意味だ。ぶった切っても、殴り殺しても、また立ち上がりやがる。
お前らに出来るのは、その女の言うとおりに動くだけ、って事だ。しかし……」

セラフの問いかけに、ぶっきらぼうな説明を加えて返すと、
男は改めて二人を見並べて、嘲笑するような様子を見せた。
「ふざけた格好だな、お前ら……仮装パーティでも始める気か?
悪いがそんな気分じゃない。出られないなら、さっさと死んで朽ち果ててくれ」
「かっ……仮装じゃないし!本物だもん!」
まっとうな、素直な反論を返すチルノ。実に彼女らしい反応だった。
だが、横の彼は……セラフは、そういう類の者では無かった。

[随分と馬鹿にしてくれるな、貴様]
そう言いながら、セラフは男に歩み寄る。
男がセラフを見上げる為に顔を上げた時、既にセラフの手は伸びていた。
男の胸ぐらを掴みあげると、かなり激しい敵意……殺意とも呼べる物を込めて言う。

[死にたくなければ、言葉には気をつける事だな]
だが男は焦る様子の1つも見せず、無気力なままで言葉を返した。
「ああ、癇に障ったか?じゃあ、デモンズソウルでも求めたか?それともこの国を救おうとでも?」
その男の口から、また聞いたことのない固有名詞が飛び出す。
その疑問を真っ先に口にしたのは、チルノだった。

「でもんずそうる?」
「何だ、デモンズソウルすら知らないのか?」
その言葉を受けてか、セラフがぶっきらぼうに男から手を離す。
尻から地面に落ちた男を見下しながら、セラフは言った。
[……教えてもらおう。ボーレタリア、デモンズソウル……それらについて]
「それが人に物を乞う態度かよ……まあ、いいぜ」
軽口をたたきながらも、男は話し始める。

男が話したのは、このような内容であった。
この世界において、北の大地に広がる大国、ボーレタリア。
ボーレタリアは、ソウルの業と呼ばれる、人間の本質的な、精神的な物を利用した技術によって、大きく栄えた国だった。
だが、その国王・オーラントが突如「古い獣」と呼ばれる、封印されし者を目覚めさせた。
ボーレタリアは古い獣が生み出す色のない濃霧に包まれ、外界との道は閉ざされ、古い獣から生じたデーモン達が各地に出現した
デーモンは人々からソウルを奪い、人間の本質ともいえるソウルを奪われたものは正気を失い、ソウルを求め他者を襲う。
それらに襲われ、ボーレタリアは完全に魔境と化してしまったようだ。
だが、人からソウルを奪い、それらを蓄えるデーモンのソウルの力は莫大なものであり、
多くの英雄が世界を救うため、多くの命知らずが莫大な力を求め、デーモン達の力……デモンズソウルを求めたが、
誰一人として、戻るものは居なかった。

「まあ、その様子からしてお前らは迷い込んだんだろうが……どうせ、色のない濃霧は広がる。
お前らが住んでた所が包まれるのも時間の問題だったろうさ。デーモンなら、この先にいるぜ……山ほどな」
そう話を締めると、彼は自分の後ろにある石版を指さす。
男と思われる、王冠をつけた人間の描かれた石版。チルノはそれを一瞥すると、セラフに振り向いた。
「……行こ!」
[拒否させもらおう]
だが、彼から帰ってきたのは否定を意味する言葉。
「なんでよ!?世界がやばいんでしょ!?」
[この世界など、知った事ではない。私には無関係だ]
「さっきは二人で頑張ったじゃない!」
[あれは突破口があると模索する為だ。そんなものがないのなら、動く必要もない]
彼の言い分はこうだった。その言葉に、チルノの感情がついに爆発する。

「……あんたね!自分がいいばっかじゃ駄目なのよ!!」

[知らん]

「自分勝手でぶあいそすぎなのよ!!」

[問題を感じた事はない]

「絶対友達いないでしょ!!!」

[必要ではない]

が、価値観が違いすぎる故か。チルノの言葉は、彼の精神に何の影響も与えていない。
やがてチルノも、この押し問答の価値の無さに気づいてか、
「あーもっ!!ならいいよ!セラフはここで待ってれば!!」
そう叫ぶと、石版に手を伸ばす。
[そうさせて貰う]
その様子を見ても、セラフはこの調子のままだった。
もう知らない。チルノは心の中でそう言うと、光の中に意識を溶かしていった。


光が収まった、楔の神殿の中。
その中に、セラフの姿は無かった。石版には触れていなかったのに、である。
その様子を無気力で見つめていた男は、つぶやくように言った。
「……あいつら、丸腰で行きやがった」


と、なれば当然。
「やっぱり付いてきてるじゃない!!」
そう言うチルノの表情は、複雑なものだった。
嬉しいような、反骨心があるような。そんな思いが映っていた。
[……何故だ?]
対してセラフの方は、疑問符で埋め尽くされていた。頭上にクエスチョン・マークが浮かぶようである。
彼自身は、石版には触りもしていない。だがチルノが光に包まれるのと同期するように、
視界が光で包まれたと思えば、これだ。
巨大な王城の門を一瞥できる広場に、「二人で」立っていた。
「……まあ、付いてきてくれるのならいいや」
が、やはりチルノはこういう性格である。あっさり反骨心を払拭すると、セラフに笑顔を見せる。
対するセラフも、そびえ立つ王城の方へ振り向くと、チルノに声を返した。
[勘違いするな。お前に付いていく気など無い。せいぜい、遅れないようにすることだ]
セラフもセラフで、ある程度の決心をつけていたようだ。
そして二人は、王城の方へ体を浮かせる。


「……あれ?」
つもりだった。
だが、二人の体は浮き上がりもしない。羽は動けど、浮力は発生しない。
[……ブースタの不調か?]
巨大な推進器は動くのだが、重要な、推力を得るための炎が発生しない。
個々に来て、出鼻をくじかれた思いだった。

[……地上で行く他ないか]
「うーん……何でだろ?」
悩んだ所で解決できる問題でもなく、二人は再び地面を歩き出す。
だが、この時点で気づいておくべきだったのだ。

二人が王城に近づいた時、彼らは敵意を向ける者達を感じる。

それは、木の破片のような、乱暴なバリケードから飛び出してきた。
その体はやせ細り、手に持った剣は折れており、反対側の手に持っている盾のようなものといえば、ただの板切れだった。
ボーレタリアが大国だった、ということを思い出し、セラフは彼らの境遇を察する。
[……奴隷の兵士か。数だけは居るようだな]
その言葉通り、まるで屍人のような体の奴隷兵が、次々と二人へと向かってくる。
[禄に食料も与えられていない、訓練も未熟な素人だ。行けるな]
「……当然でしょ!!」
チルノはそう声を返すと、最も近くに居た奴隷兵に向けて手のひらを向ける。

次の瞬間、チルノの手の先からは巨大な氷柱が現れ、奴隷兵を貫く。
チルノなら、そう出来ていたはずだった。


「……あれっ!?」
だが、手の先には何時まで経っても変化が無い。
今まで手足を動かすような感覚で操れていた冷気が、操れない。
信じられない事に混乱したチルノ。直後、伸ばした腕に激痛が襲った。
「……っ!?痛っ……!!」
奴隷兵の折れた剣が、彼女の細い腕を貫いていた。
激痛のせいか、妙に冷静になった思考の中、傷口から出ているのは血ではなく、光の粒子のようなものだというのに気づく。
そこでチルノは、自分の体ももセラフのように、幻影のようになっているのに気付いた。
[……何をしている!]
その様子を見て、セラフがチルノに肉薄している奴隷兵に腕を振るう。
だがその先に、あの光の刃は現れなかった。
[何……!?]
元々、光の刃で切り裂く為の間合いである。その奴隷兵への攻撃を空振った形となった。
その背中に、他の奴隷兵の刃が向けられる。それも、1つでは無かった。

元々、見事な拵えの剣ですらはじき返したはずの、彼の装甲。
折れて朽ちかけた刃など、何本来ようが無駄である。筈だった。

だが、その体が幻影故なのか。
何本もの奴隷兵の刃は、セラフの体を引き裂いた。
彼の、並の人間を超す体躯が、地面へと倒れていく。
「セラフっ!!」

叫ぶチルノの声を尻目に、彼の幻影の体が薄れていく。

そして、その体が消え去ると同時に、チルノの意識もふっと途切れた。


[起きろ]
チルノの意識を現実に引き戻したのは、セラフの合成音声だった。
「……んん……」
目を覚ませば、この王城に初めて訪れた時と、同じ場所に寝転がっていた事に気づく。
意識がはっきり覚醒すると、チルノはもう一度自分の手のひらに魔力を込めた。

「……やっぱり駄目だ」
だが、やはりその手のひらに冷気は集まらない。
彼女が生きてきた中で、一番の大事件であった。
[……原因は不明だが、私達の武器となる力が使えないようだ]
そう言うセラフの方は、体のあちこちから砲身を出している。
試し撃ちをしてみるも、砲身が動くだけで肝心の弾が出ない。
そして二人は、背後にある青く光る剣に振り返る。
「これであそこに帰れるのかな?」
[恐らくな。一度戻った方がいいだろう。確認したいことも山程ある]
チルノはそれに頷くと、青い剣に触れた。
光に包まれる中で見てみれば、セラフは剣に触れていない。
それが何かを考える前に、彼女の精神は光に包まれた。

「ああ、殺されたんだろ?」

あの、青い鎧の男の声である。

帰ってくるなり、不愉快な声が聞こえて、チルノは頬をふくらませる。
「ちょっと……じゃないけど、様子が悪かっただけだし!」
[予想外の事態が発生しただけだ]
口々に反論を述べるが、男の顔には嘲笑が浮かぶだけだ。
「どうせ、無理なのさ」
[黙っていろ]
短いが、確かな不快感を表す言葉。
またも不穏な空気になりつつあった場面に、違う方向から声が掛かった。

「当たり前じゃ。丸腰で戦場に向かう馬鹿がどこにおる」
老人の、男性の声だった。
声のした方向に二人が振り向く。そちらには、二人の男が居た。

片方は、人のよさそうな、三十路程の男性だ。その付近は荷物で埋まっている。

もう一人は、小さな老人だった。だが弱々しさを全く感じさせないのは、
その足元に置かれている鍛冶用の道具と、数々の武器が故だろうか。

恐らく、先ほどの言葉はこの老人のものだろう。
馬鹿といわれたのが癪に触ったか、チルノが走って老人の下へ詰め寄る。
「馬鹿じゃないもん!本当なら武器なんて無くても……」
「ほれ」
吹き出した文句を止めたのは、老人の差し出した直剣だった。
この地方では「ショートソード」と呼ばれる、並の直剣よりも少し小型の剣である。
だがこの老人の業物か、それは見事な拵えの剣だった。

「それならお前さんにも扱いやすいじゃろ」
チルノはそれを受け取ると、まじまじと見つめる。
老人の言うとおり、彼女が片手で持ったとしても辛くない重さだった。
[老人、これは一体……]
「ボールドウィンじゃ、デカイの」
その行動の動機を疑問に思ったセラフに、老人は乱暴な自己紹介をする。

「ほら、あんたにはこれだ」
その横から、もう一人の男性がセラフに武器を差し出す。
それは、チルノに渡されたショートソードとは対照的な、巨大な斧槍。
「ハルバード」とも呼ばれる武器だ。

「俺はトマス。ここであんたたちみたいな、デーモンと戦う為に来たやつの荷物番をしてる」
その武器もホントは預かり物なんだけどな、とトマスが苦笑する。
恐らく不義を働いている訳ではなく、彼にこれを預けた者は既に朽ち果てたのだろう、とセラフは察した。

「お前さんはガタイもいいからのう……これも使えるじゃろ」
続いて、ボールドウィンがセラフに鉄製の盾を渡した。
それらを受け取ると、セラフは再度先ほどの疑問を口にした。

[何故このような事を?]

それに対し、ボールドウィンはふん、と鼻を鳴らすと、
「ワシの生活の為じゃ。今回の分はツケにしてやるが、後々ソウルで返してもらおう。
お前達があの先にいる化け物どもから、奪ったソウルでな」
[……成る程]
その言葉に、納得する様子を見せるセラフ。

「……俺は、妻も娘もデーモンに殺されちまった。
でも敵討をしようにも、俺は戦う力なんて持ってない……
だからせめて、デーモンと戦うあんた達の為に何かしたいんだ。持ちきれない荷物があれば言ってくれ」

笑顔でそう言うトマスの言葉には、所々にその人の良さがにじみ出ていた。
チルノも笑顔を見せて、二人に「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えると、セラフの方を見る。

[……現在の状況を整理したい。お前達も聞いてくれないか]
トマスの頷きと、ボールドウィンの「仕方ないのう」という声を聞いて、セラフは話し始めた。

[原因は不明だが、現在私達は大きく弱体化している。能力は使えず、身体能力も低下していると考えていいだろう]
自分達の体に起きた異変を、セラフはこう表現した。
弱体化。現状では、的を射た言葉と言って良いだろう。
「それって、この体のせいなのかな?」
チルノが指すのは、幻影のような、いうなれば「触れることは出来るが、実体が無い」ような体の事だ。
それに、ボールドウィンが意見を出す。
「いや……いままで何度もそうなってきた奴を見てきたが、そやつらがそんなことを訴えてきたことは無かったぞ」
「生きてる訳じゃないから、普通の体よりも死にやすい、って言ってた奴は居たよ」
それに続いて、トマスが自分の記憶を元に、過去の戦士の事を話した。
そしてチルノが、話題を違う方向に広げた。
「じゃあ、この体から戻るにはどうしたらいいんだろ?」

「簡単な事だ」

その声は、4人の内、誰かの声ではない。
集まって話している背中からの声だった。無気力な、青い鎧の男の声である。
[……また貴様か]
「まあ、聞けよ。デーモンのソウルが凄い力を持つ、ってのは聞いたな?
お前達は今、実体が無い状態だ。だけどな、デーモンのソウルの力を持ってすれば、肉体を取り戻すことなんて簡単だ」

その言葉に、チルノとセラフが確かな反応を見せる。
「本当!?」
「ああ、それは本当だ」
それに答えたのは、トマスだった。
これまで何度も戦士達を見てきた彼の言葉だ。本当なのだろうと、二人は確信する。

[やるべき事は決まったな。行けるか?]
「今度は大丈夫!」
短い言葉で確認を取ると、二人して石版へと歩み出す。

「まあ、そもそもデーモンが倒せなきゃどうしようもないけどな……ま、せいぜい頑張れよ」
そう言いながら、石版へと歩み出す二人を見送る青い鎧の戦士。

そしてチルノがそれに触れようとした時――
[待て]
「へ?」
待った、の制止の声が掛かる。
何か勢いを削がれた気になって、チルノは小言を溢す。
「空気読んでよ」
[試したい事がある。お前は石版には触れずに、少し離れた場所に居ろ]
その言葉で、チルノも彼の意図を理解して、石版から身を離す。

そして、1人でセラフが石版に触れ、光がセラフを包んだ時――
チルノの体もまた、同じように光に包まれていった。

そして再び、巨大な城門の前に立つ二人。
[……やはりか]
「……離れられない、ってこと?」
二人の答えが一致する。
初めてこの城門前を訪れた際、触れてすらいないセラフが現れたのも、それが理由だろう。

ならば、と、セラフは新たに生まれた謎を解決するため、チルノに問いかける。
[私が消滅した際……お前はどういう経緯で、ここに倒れていた?]
そう言われて、その時を振り返るチルノ。
「あの時かぁ……セラフが消えたと思ったら、ふっ、って気が遠くなっちゃって……気づいたらここに寝てたんだよね」
曖昧である、その言葉。大方、答えは得られそうではない。
だがある程度の推察と……それから導き出せた答えは、セラフには疑うべくもないものだった。

[これは私の推察ではあるが――私達は存在を共有している、とでも言うべきか]

だが、その曖昧な言葉は、チルノには理解出来なかったようだ。
「……どういうこと?」
もうそろそろ、セラフもチルノの単純さを理解し始めた頃である。
自分の意識を改めると、セラフはもう一度説明を、今度は具体的に始めた。

[……片方が動けば、片方も動く。片方が消滅すれば、片方も消滅する。と言う事だ]

――おおよそ、あらゆる要素が真反対の二人である。
この二人が、存在を共有しているというのだ。とても、上手く行けるとは思えない。

「……じゃあ、セラフの事も守らなきゃ!」
明るくて、人付き合いが良くて、単純な、人の手の届かない、「自然」に生みだされた「妖精」。

[……どちらが守られる方だろうな]
疑り深くて、無愛想で、凄まじい判断力の、人の叡知の結晶である、「技術」で生み出された「機械」。


ただ、同じ所があるとすれば。

人から、最も遠い者達であることだ。


故に……人の絶望に立ち向かうに、これ以上の者は居ないだろう。


今はまだ、気付いていない……奇妙な縁の二人の旅が、始まった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.