ありえなーい!?伝説の戦士との出会い(前編)





−森山家・美月の部屋−

「ふわぁ……」

美月の寝起きの声とともに部屋のカーテンが開けられ、部屋の中に光が差し込む。
と、机の上の写真立てが光を反射してキラリと光った。
中に入っているのは10人の高校生と7匹の妖精が写った写真。

「みんな、元気かなぁ……」

写真を見ながら美月は呟いた。



−3週間前、第152管理外世界・ブライアル−

「気いつけてやー。下手に扱ったら機嫌損ねるでー」

騎士甲冑に身を包んだはやての指示で数人の局員が50cm四方の箱を慎重に運んでいく。
そして、バリアジャケットに身を包んだ美月が局員を先導するように飛んでいる。

「このロストロギア、本当によく分からないのです」

はやての隣に浮かんでいるリインが言った。
局員達が運んでいるのは正体不明のロストロギア。管理外世界での発見の報を受けてやってきたのだが、このロストロギアには分からないことだらけなのだ。
黒い鎖のような形をしているということしか正確なことは分からない。

「無限書庫に該当するデータは無し。どんなタイプかはもちろん、危険等級も不明。ホンマに難儀な子や」

はやてが溜め息混じりに言う。
その時、箱の中から光が洩れ出てきた。

「総員退避!」

妙な胸騒ぎを覚えたはやては大慌てで局員に指示を出す。ロストロギアが暴走するのは避けたいが、局員に犠牲者が出ることも避けたい。
局員は地上に箱を慎重に置き、一目散に撤退し始める。
こういう緊急事態で集団の最後尾(しんがり)を務めるのは、そこそこ実力がある人物。この場合は美月になる。

(最後尾って、あんまり嬉しいもんやないなぁ……)

と心の中で愚痴りながらも、急いで局員達の最後尾につく美月。
光は相変わらず箱から洩れ出ているが、強くなる気配はない。
その様子を見た美月は少し強張った顔をはやてに向けた。

<どないします?>
<うーん、難儀やなぁ。まあ、そこまで警戒せなあかん感じでもなさそうやし……>

目を閉じて考え込むはやてに美月のみならず、その場にいる全員の視線が集まる。
考え込み始めてから約2分後、はやては再び口を開いた。

「とりあえずは様子見でいこかー。ある程度離れて待機。このまま何もない感じやったら作業再開しよか」
「了解!」

局員の返事が響き、美月の警戒心も解される。が、現実はそうすんなりと上手くはいかない。
直後に、光が一気に強くなった。

「!」

声を上げる間もなく、美月が光に巻きこまれた。局員を誘導しようとしたはやては慌てて美月の方を向いたが、もう間に合わない。
あっと言う間に美月の姿は光の中に消えてしまった。

「な……」

美月を巻き込んで満足したかのように、だんだんと光が弱まっていく。
そして、光が収まった時には美月の姿はどこにも見えなかった。





「その時の莉奈の顔、ほのかにも見せたかったなー」
「へえー、高清水さんがそこまで慌てるのって珍しいわね」

日が暮れかけた道を2人の女子高生が談笑しながら歩いている。
右側の少女は茶髪でウルフカットの入ったショートヘア。手にクロスを持っているということはラクロス部なのだろう。かなりボーイッシュな印象を受ける。
左側の少女は長い黒髪を一部上頭部で束ねている。物腰の柔らかさも相まって、気品あふれるお嬢様という印象だ。
彼女達の鞄からは色違いの携帯電話ケースのようなものがぶら下がっている。

「ホンット、私も志穂も……って、なにあれ?」
「どうかしたの?」

右側の少女が空を見上げて立ち止まったので、左側の少女もつられて立ち止まる。
右側の少女の視線の先には光りながら落下してくる物体があった。同時に彼女の脳裏に、ある記憶が蘇ってくる。

「この流れって、もしかして……」

過去の痛い記憶を教訓にして咄嗟に後退りする少女。
瞬く間に物体は地面に迫り、緩やかに着地する。着地すると同時に光りが消え、中から茶色の制服を着た高校生くらいのショートカットの茶髪の少女が現れた。
どうやら気絶しているようだ。

「ほ、ほのか!」
「私の家に運びましょ!私はなぎさの荷物を持つから、なぎさはあの子をおんぶしてあげて!」

と、突然のことに大慌ての2人。
そんな彼女達に金髪の三つ編みのお下げ髪を肩に回した少女が話しかけてきた。

「私も何かお手伝いしましょうか?」
「ひかり!?どうしてここに?」
「今下校途中で、たまたま通りかかったんです」

金髪の少女の説明に、なるほどというように頷く茶髪の少女。
黒髪の少女は金髪の少女の方を向いて口を開いた。

「ひかりさん、ちょうど良かったわ。なぎさの荷物を持ってあげて。私は先に帰って支度をするから」
「わかりました」

返事を聞き、黒髪の少女は急いで自宅への帰路を走っていく。
彼女を見送りながら、気絶した少女を運び始める茶髪の少女と金髪の少女。

「なんで空から落ちてきたんだろ?この子……」
「さあ……」

茶髪の少女―美墨(みすみ)なぎさ、黒髪の少女―雪城(ゆきしろ)ほのか、金髪の少女―九条(くじょう)ひかり。そして3人の前に突然現れた謎の少女―森山美月。
出会うはずのない彼女達が出会った時、1つの物語の歯車が動き出す。





−雪城家・ほのかの部屋−

「大丈夫なの?」

なぎさの心配そうな声にほのかは笑顔で答えた。

「ええ。軽く頭を打っているだけだから、すぐに目を覚ますと思いますよってお医者さんが」

ほのかの言葉にひかりは安心したような表情を浮かべた。しかし、なぎさは今一つ釈然としない顔だ。
場を妙な空気が包む。

「不思議な子よね……いきなり空から落ちてくるなんて」

ほのかがポツリと呟く。
もっともな感想だ。一般常識で考えれば人が空から落ちてくるなんてありえないのだから。
ついには3人とも黙り込んでしまった。状況を理解しきれていない上に、何を言ったら良いのかわからないのだ。

「あの子、どうするんですか?」

何とか場の雰囲気を解そうと、ひかりがおずおずと口を開いた。
なぎさは困ったようにほのかを見る。2人に見つめられたほのかは、しばらく唸っていたが……

「しばらくはうちで何とかするわ。おばあちゃまは旅行中でいないからバレることもないと思うし」

と答えた。
なぎさもほのかの意見に同調し、ひかりも異議なしと言うように頷いた。

「では、そろそろ失礼します」
「あ、私も」

時刻は午後5時過ぎ、もうすぐ日没だ。
2人が立ち上がろうとした瞬間、急に夕焼け空が真っ暗になった。

「な、何なの!?」

突然起きた空の変化に慌てふためく3人。
彼女達の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ザケンナァァァーーーーー!」

互いに顔を見合わせ、急いで外を見る。
彼女達の目に飛び込んできたのは、街中で紫色の怪物が街を壊しながら暴れている姿だった。

「ザ、ザケンナー!?どうして!?」

狼狽する3人。だが、紫色の怪物―ザケンナーの動きはどんどん勢いを増していく。
そんな彼女達のの耳にどこからか声が聞こえてきた。

「なぎさ、早く変身するメポ!」
「ほのか、急いでミポ!」
「ひかり、早くポポ!」

3人は急いで机の上の物を手に取った。
なぎさとほのかが手にした物に手をかざすと、それらは輝きながら消えた。そして、2人は並んで互いに片手を握り、もう片方の手を上に突き上げて大きく叫ぶ。

「デュアル・オーロラ・ウェーブ!」

直後、2人の体が虹色の光に包まれる。
すぐに光は消え、先程まで着ていた制服とは全く違う服に身を包んだ2人が現れた。
なぎさは黒を基調とする服で、ピンクのヒラヒラがついている。短めのスカートの中にはいている長めのスパッツが彼女らしい。
一方のほのかは白を基調とした服で、水色のヒラヒラがついている。なぎさと比べて少し長めのスカートで、白い色も相まってほのからしい印象を受ける。

「光の使者、キュアブラック!」
「光の使者、キュアホワイト!」

蟹股着地をしたなぎさ―キュアブラックがポーズを決め、名乗りをあげた。
続いて、その後ろでほのか―キュアホワイトが華麗に着地して名乗りをあげる。
そして、2人揃って決め台詞を言う。

「ふたりはプリキュア!」

次にキュアホワイトが前をビシッと指して決め台詞を言い、続いてキュアブラックが前を見据えながら指差しながら決め台詞を言い放った。

「闇の力のしもべたちよ!」
「とっととお(うち)に帰りなさい!」

2人共、先程まで普通の女子高生だったとは思えないほど雰囲気が変わっている。
一方、ひかりは手にした物に手をかざして大きく叫んだ。

「ルミナス・シャイニング・ストリーム!」

すると、ひかりの体の中から光が溢れだして、ひかり自身の体を包み込んでいく。
光が消えると、ピンクを基調とする服を着たひかりが現れた。なぎさやほのかと違いロングスカートで、彼女たちとは全く違う印象を受ける。
髪の量も増え、髪型もおさげ髪から腰くらいまであるツインテールになっている。

「輝く生命(いのち)、シャイニールミナス!光の心と光の意思、総てをひとつにするために!」

ひかり―シャイニールミナスが決め台詞を言うと、ピンク色のハート型の光が手の中から広がりながら消えていった。
変身を終えたキュアブラック、キュアホワイト、シャイニールミナスはザケンナーをぐっと見据える。

「いくよ!」

ブラックの声で3人はザケンナーに突撃を開始する。
ある程度距離を詰めたところでルミナスが止まり、残る2人がザケンナーに攻撃を仕掛け始めた。

「あだだだだだだだだだぁ!」

どこぞの格闘家のような声を出しながらブラックは連続パンチを繰り出す。
当初は互角に戦っていたザケンナーだったが、少しずつ押され始めた。ブラックとは相性が悪いと判断したのか、ザケンナーは身構えていたホワイトへ攻撃を始めた。

「ザケンナァァァーーーーー!」

しかし、ホワイトはバク転でザケンナーの攻撃をかわす。そして横回転を交えた動きでザケンナーの腕を掴み、そのまま一本背負いをかました。
轟音とともにザケンナーは地面に頭から突っ込む。
ブラックとホワイトは顔を見合わせて頷き、片手を固く握り合った。

「ブラックサンダー!」
「ホワイトサンダー!」

ブラックの手に黒い稲妻が、ホワイトの手に白い稲妻が落ちる。

「プリキュアの美しき魂が!」

ホワイトに続いて、ブラックも決め台詞を言う。

「邪悪な心を打ち砕く!」

決め台詞を言い終わると、2人同時に手を開いた状態で突き出す。
すると、黒と白の稲妻は混ざり合って大きな光の塊となった。

「プリキュア・マーブル・スクリュー……」

そこで2人は一度拳を握り締め、すぐに勢いよくその手を突き出した。
同時に精一杯の大声で叫ぶ。

「マックスゥゥゥ!」

2人の声と共に光の塊から黒と白の稲妻がスパイラル状の光線になって発射された。
光線はザケンナーめがけて一直線に突き進んでいく。2人は顔色こそ変えなかったものの、心の中で勝利を確信した。
が、事態はそう順調には運ばない。
ザケンナーを中心に紫色の光の半球が現れ、半球に当たった光線がはね返されたのだ。

「ありえない……」
「うそでしょ!?」

はね返された光線が唖然とする2人に迫る。
待機しながら状況を見ていたルミナスはバリアを張るために2人の元へ移動し始めるが、間に合いそうにない。
覚悟を決め、目を閉じた2人の耳に機械音声が聞こえた。

「Protection」

それと同時に、2人を中心に水色の光の半球が現れる。直後、はね返された光線が轟音と共に光の半球に直撃する。
予想していた衝撃が来ないことを不思議に思ったブラックが目を開けると、そこには1人の女の子がいた。
青色のショートスカートに、青いブーツのような靴、首元の部分に青いラインの入った白いコートを着て、ショートカットの茶髪、整った顔立ち、暖かさと鋭さを兼ね備えた眼光を持つ女の子。
そして、手には白を基調とする妙な形をした棒が握られている。

「トリニティ!」

彼女の声に棒の先端部分が光り、またしても声が聞こえた。

「Barrier Burst」

光の半球が砕け、同時に光線も轟音を立てて雲散霧消する。
突然のことに呆然とする2人をよそに彼女は攻めに転じた。

「カートリッジロード!」
「Allright. Load cartridge.」

2回機械音が響き、棒の先端に搭載されたリボルバーが回転する。
リボルバーの回転が終わると同時に彼女は棒を真上に構え、何かを呟き始めた。

「古の世界に眠りし竜の息吹、その力をもって眼前の敵を凍てつかせよ……」

詠唱が終わると同時に彼女は棒を振り下ろす。振り下ろされた棒の先端部分が光り、声が響いた。

「Freezel Buster」
「フリーゼル……バスタァァァーー!」

謎の少女の大声とともに、棒から閃光が迸った。閃光は一本の光線となり、ザケンナーめがけて突き進んでいく。
光線は凄まじい衝撃波とともにザケンナーに命中した。

「ザケn……」

ザケンナーは断末魔を上げる間もなく消滅していく。
間近でそれを見ていたホワイトがぽつりと呟いた。

「すごい……」

ホワイトの声でブラックも我に返る。
謎の少女はザケンナーが消えたのを確認すると、唖然としている2人の方へ振り返った。

「大丈夫ですか?」
「え……あ、はい……」

3人の間に妙な沈黙が流れる。
ふと謎の少女は思い出したように口を開いた。

「あ、時空管理局の森山美月です」
「み、美墨なぎさです」
「雪城ほのかで。」

2人も慌てて自己紹介をする。
すると、謎の少女―美月は不思議そうな顔で言った。

「珍しいなぁ。デバイスなしで戦うなんて」
「へ?」

2人はそろって首をかしげた。
デバイス?目の前の少女はいきなり何を言い出すのだろう。そもそも時空管理局とは?
博学で冷静なホワイト―ほのかでさえ、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
そこへルミナスが息を切らして現れた。

「はあはあ……ご無事で……」

突然現れたルミナスを見て驚く美月。どことなくホワイト達と同じ雰囲気を感じたのか、敵だとは判断しなかったようだ。
深呼吸をして息を整えると、ルミナスは美月の方を向いて口を開いた。

「あの、どこの園のお方ですか?」

今度は美月が首をかしげる番だった。
どこの園?どこの国ではなく?
ブラック達と同じように頭の上にクエスチョンマークを浮かべる美月。すると、美月の持っている棒から声がした。

「First of all,couldn't you change into uniform?」(とりあえず、制服に着替えませんか?)

「せやね」と言うように頷く美月。次の瞬間、彼女の体が光に包まれる。
光が収まると、美月の服が茶色の制服に変わっていた。

「あーーっ!」

ブラックの大声が辺りに響いた。





−雪城家・ほのかの部屋−

立ち話で済む程度の内容ではないので、とりあえずはほのかの部屋に移動した4人。
事態の飲み込みが一番早かったのは美月だ。

「多分ここは私がおった地球やないってことやね。こーゆーのって平行世界(パラレルワールド)って言うんやったっけ?確か拓真がそんなこと言うてた気がすんねんけどな……」

ポカンとしている3人をよそに1人で納得する美月。
3人の中で最初に口を開いたのはほのかだ。すでに変身は解除し、私服に着替えている。

「えっと、私達にも説明してくれないかしら?」

ほのかの言葉に美月は頷き、コホンと咳払いをして話し始めた。

「えーっと、まずは改めて自己紹介から。時空管理局の森山美月一等空士です。名前からも分かると思うんやけど、私は日本人です。ただ……」

そう言って、一旦言葉を区切る美月。
3人、特になぎさは身を乗り出して言葉の続きを待った。

「この世界の人間ではないんよ。分かる?」

一様に顔を見合わせ、首をかしげる3人。
美月は「やっぱりな」という顔をすると、再び口を開いた。

「うーん、言葉で説明するんは難しいなぁ……あ、紙とシャーペン貸してくれる?」

ほのかが紙とシャーペンを差し出すと、美月はサラサラと図を書きながら説明し始めた。

「世界って言うんは無限に存在してて、例えれば表のマス目みたいに並んでるんよ。私が所属してる時空管理局には幾つもある世界を行き来する技術がある。でも、それはあくまで表の列の間を移動するだけにすぎひん。表の行の間をを移動する技術とは違うんよ」
「……」

ほのかは何となく理解したような顔をしているが、なぎさとひかりは相変わらず首をかしげたままだ。
苦笑いを浮かべながらほのかは2人に別の例えを示した。

「マンションでお隣さんの部屋には行けるけど、上や下の階の人の部屋には行けないってこと。だよね?」
「そうそう、そないな感じ」

ようやく2人も理解したようで、ふんふんと頷いた。
その時、ひかりは美月の「この世界の人間ではない」という言葉の意味もわかったようだ。

「つまり……森山さんはほのかさんの例えで言うところの階の違う人ということですか?」
「そ。簡単に言うたらそんなとこやね。あ、別にそんな他人行儀に呼ばんでええよ」

説明しなおす手間が省けたので、どこかホッとしたような顔の美月。
そこでなぎさが今だに釈然としない顔で口を開いた。

「じゃあさ、どうして美月は私達の世界に来れたの?」
「うーん……簡単に言うたら不慮の事故?」

なぜか文末が疑問系になる美月。
美月の解答に3人は揃ってずっこけた。ほのかがずっこけたままの状態で口を開く。

「な、なんで疑問形?」
「この世界に来る直前、私は危険物を運んでたんよ。その危険物が暴走して、その影響でこの世界に来たんやと思う。私自身、原因はよう分からんのや」
「そ、そうなんだ」

何とか平静を取り戻しかける3人。
その時、ひかりがおずおずと口を開いた。

「あの、美月さんて別の世界の日本出身なんですよね?失礼なんですが、お歳は……」
「16歳やで」

美月の解答に3人は驚愕の表情を浮かべた。一番リアクションが大きかったのはなぎさだ。

「ありえなーい!美月の世界の日本って、そんな年齢から会社で働けるの!?」
「ううん。私、普段は普通の高校2年生やで?局の仕事はちょっと特別なんよ」

「かなり長い話になるんやけど」と前置きをして、美月は3人に時空管理局の事を話した。
美月の話が進むにつれて、3人の目はどんどん丸くなっていく。話が終わった時には口もあんぐりと空いた状態だった。

「へえぇぇぇ……所変われば挨拶も変わるっていうけど、そんなことがあるなんてびっくりだね」
「なぎさ、それを言うなら所変われば品変わるでしょ?もう、なぎさったら」
「あ、あれ?そうだっけ?」

まるで夫婦漫才のようなやりとりをする2人。
美月はその様子をひかりと共に苦笑しながら見ていた美月だったが、ふと思い出したように口を開いた。

「そう言えば、まだ3人の話って聞いてへんかったな。教えてくれる?」

その言葉で3人は真面目な顔になり、改まった様子で姿勢を正す。
始めにほのかが口を開いた。

「えっと、まずは自己紹介から始めましょうか。私はベローネ学院高等部2年の雪城ほのかです」
「同じくベローネ学院高等部2年の美墨なぎさです。ラクロス部に所属してます」
「ベローネ学院中等部3年の九条ひかりです」

なぎさがそのまま話を続けようとすると、どこからか声が聞こえてきた。

「なぎさ、何でメップル達に自己紹介させないメポ。失礼だメポ」
「メップル、落ち着くミポ」
「ポポ、ポルンも自己紹介したいポポ」

正体不明かつ特徴的な語尾の声に美月はキョトンとなった。

「メポ?ミポ?ポポ?」

すると、部屋の隅に置かれていたカバンから何かが破裂したような可愛い音と共に煙が上がった。
次の瞬間、そこに何やらプニプニした不思議な生物が現れる。

「うぇ?」

何とも奇妙な声を出して目を丸くする美月。
そんな美月を気にすることなく、プニプニ生物達は自己紹介を始めた。

「選ばれし勇者、メップルメポ」

クリーム色のプニプニ生物が胸を張って自己紹介をすると、次にピンク色のプニプニ生物がおとなしい声で自己紹介をする。

「希望の姫君のミップルミポ」

そして、最後に頭に小さな王冠を乗せた白いプニプニ生物が自己紹介をした。

「未来へ導く光の王子、ポルンポポ」

メップル、ミップル、ポルンの自己紹介を聞いた美月は相変わらずポカンとしている。

「あー!もうアンタ達、今からすっごく真面目な話をしようとしてたのに」

なぎさがむくれながら3匹のプニプニ生物に言うと、クリーム色のプニプニ生物が負けじと言い返した。

「メップル達もその話にはすっごく関係あるから良いんだメポ」
「もー」

相変わらずむくれたままのなぎさ。
ひかりは苦笑しながら3匹の自己紹介に付け加えた。

「メップルはなぎささんの、ミップルはほのかさんの、ポルンは私のパートナーなんです。あ、ここにはいないけどルルンっていう子もいるんです」
「この子達はこの世界、虹の園では数分しか本来の姿でいることができないの。普段、メップルとミップルはハートフルコミューン、ポルンはタッチコミューンの姿をしているのよ」
「そ、そうなんや」

ひかりとほのかの説明を聞いて頷く美月。
まだまだツッコミたい部分はあったが、それでは話が進まないので気にしないことにした。
美月が頷いたのを見たほのかが口を開いた。

「さて、本題に入りましょうか。3年前、私達はとある事情でプリキュアとして戦うことになったの」
「光の園?プリキュア?」

初めて聞く単語に首をかしげる美月。
美月の疑問に答えたのはミップルだった。

「光の園はミップル達の故郷ミポ。プリキュアは光の園の伝説の戦士ミポ」
「なるほど。で、とある事情って?」

ほのかとメップルが簡潔な説明をしてくれるので、美月の飲み込みも早い。
パートナー同士、どこか似る部分があるのだろう。

「光の園は光を司る女王であるクイーンが治める世界。それと相反するように闇を司る王であるジャアクキングが治める世界、ドツクゾーンがあるの。で、ジャアクキングはプリズムストーンという宝石を狙って光の園を侵略したの」
「ほうほう。そのプリズムストーンって何なん?」

ストーンということは何か宝石の類なのだろう。
そんな推測をしながら美月は言葉の続きを待った。

「プリズムストーンは光の園にある七つの宝石で全てを生み出す力を秘めているんだよ。ジャアクキングはその力を手に入れるためにプリズムストーンを狙ったんだ」
「色々あったけど、私となぎさは何とかジャアクキングを倒すことができたの。でも、訪れた平穏は長くは続かなかった」

少し暗い顔で話すほのか。気のせいか、ひかりの方をチラチラ見ている気がする。
ほのかの顔が暗くなったのを少し気にしながら美月は話を聞き続ける。

「ジャアクキングが倒される間際に放った一撃がクイーンの体を傷つけ、クイーンは3つの要素となってバラバラになってしまったの」
「3つの要素?」

美月の質問にひかりが口を開いた。
その瞬間、なぎさとほのかの顔が心なしかこわばった。

「12の意志(ハーティエル)・心……そして生命。この3つの要素です」

生命という単語の前で少しつまるひかり。
その部分を気にしたのか、フォローするようになぎさが口を開いた。

「ひかりは元々は生命の分身だったんだ。今ここにいるひかりは全てを生み出す力によって生み出された別の存在なんだけどね」

「なるほど」というように頷く美月。
普段は普通に過ごしていても何かのきっかけで思い出してしまうことがあるのだろう。

「クイーンを復活させるために私達は再び戦うことになった。同じように幾つかの要素となって散らばったジャアクキングを復活させるために暗躍するドツクゾーンの連中達と」

ほのかの言葉とつなぐようになぎさが口を開いた。

「そして私達は再びジャアクキングを倒したんだ。ま、それからはずっと平穏な日々が続いているんだけどね」

言い終わると「フゥ〜」と息をつくなぎさ。
中学生の時からそんな過酷に身を置いていたなんて。美月はすぐには言葉が出なかった。
その時、しんみりしたような空気を遮るように誰かのお腹がなった。

「ご、ごめん……お腹すいちゃって……」

お腹がなったのはなぎさだった。なぎさの一言で場の空気が一気に和む。
ほのかは笑いながら時計を見た。時刻はすでに7時を回っている。
その時、美月が思い出したように口を開いた。

「あ、私どこに寝泊まりしよ……?」

美月の言葉にほのかは微笑みながら答えた。

「それなら大丈夫よ。私の家の一室を貸してあげるから」
「ホンマに?ありがと」

すると、なぎさがワクワクした顔である提案をした。

「そうだ!私達も今日泊まっていいかな?」
「え?」

キョトンとする3人をよそになぎさは1人で盛り上がっている。
そして、ひかりの方を向いて更なる提案をした。

「ひかりも泊まろうよ。美月の世界のことももっと聞きたいしさ」
「は、はあ」

なぎさの勢いに押されて頷くひかり。
ほのかは美月の方を向いて口を開いた。

「私は別に構わないけど、美月さんはどう?」
「私も大丈夫やで。むしろ私もこっちの世界の事とか聞きたいし」

美月の言葉を聞き、なぎさの顔の輝きはMAXになった。
そして、ワクワク感滲みまくりの声で再び口を開いた。

「よーし、それじゃ用意とかしてくるからー」

そう言うが早いか、鞄を担いであっという間に玄関から駆けていくなぎさ。
苦笑しながらそろそろとひかりが立ち上がった。

「それでは、一旦失礼します」

そう言ってお辞儀をし、パタパタと走っていくひかり。
ひかりを見送りながら、美月がポツリと呟いた。

「私……ちゃんと帰れるんかな……」





−雪城家・リビング−

あれから30分後、4人はエプロンを着て料理をしていた。
美月も局の制服から着替え、ほのかが貸してくれた服を着ている。

「あかねのお好み焼きも美味しかったけど、美月のも楽しみだなー」

具材をこねている美月を見ながらなぎさがウキウキ顔で言う。
美月としては期待されるほどのものではないのだが、期待されると自然に気合が入ってくる。

「美月さんだけに作らせるのも申し訳ないし、私達も何か作りましょうか」

ゴソゴソと冷蔵庫の中を探しながらほのかが言った。その言葉になぎさが反応する。

「じゃあ、無難に卵焼き!私得意なんだ」

その言葉を聞き、ほのかは少しいぶかしむような顔する。一方、ひかりは少し不安そうな顔をしている。

「それじゃー、いっきまーす」

意気揚々と準備を整えていくなぎさ。
2人はその光景を見て一先ずは安心したようだ。
美月はなぜ2人がそこまで心配するのか分からなかったが、すぐに身をもって理由を知ることになった。

「まずは卵を割って」
「そうそう。それから?」
「チョコレートだよね」

なぎさがすかさず取り出した板チョコを見て、美月達は目が点になった。

「なぎさ、甘味は今のタイミングじゃないポポ。卵を混ぜてからって書いてあるポポ」

本来の姿に戻ったポルンが自分と同じ大きさの料理本を見ながら言う。
美月は呆れた顔をしながら、ポルンにツッコミをいれた。

「いやいや、チョコレートとは書いてへんやろ」
「ポポ?」

キョトンとした顔でポルンが返事をする。
一方のなぎさはブツブツ言いながら考え事をしている。

「うーん、これくらいかなぁ。でも、あんまり入れすぎたら食べる分が少なくなっちゃうし……」

見ると、卵焼きに加えるチョコレートの量を考えているようだ。
ほのかとメップルは呆れた顔でなぎさに言った。

「なぎさ、何でもチョコレートを入れれば良いってわけじゃないのよ」
「そうメポ。なぎさはチョコレートばっかり食べてるから、そのうちカロリーのとりすぎで太るに決まってるメポ」

しかし、なぎさは2人の言葉が意外なようだ。2人の言葉に不思議そうな顔で答える。

「え?でも、この間こまち先輩に会ったら「卵焼きには甘味が欠かせないわ。私なら羊羹ね」って言ってたよ」

美月達はまたしても目が点になった。美月はこまち先輩なる人物がどんな人なのかは知らないが、卵焼きに羊羹とはあまりにもおかしすぎるだろう。
なぎさはさらに言葉を続けた。

「それにメップル、あたしは毎日運動してるから太るなんてありえないよ」
「そんなこと言ってても、みるみるうちに太って「ありえなーい」って言うに決まってるメポ」

そんな雑談を交えながら着々と調理は進んでいく。
15分後には食卓いっぱいに料理が並んでいた。

「いただきまーす!」

リビングに4人の声が響き渡る。
肉体的にも精神的にもクタクタなので、みんなお腹がペコペコだ。
みるみるうちに料理が減っていく。

「美月のお好み焼き美味しー」
「この卵焼きも美味しいなぁ」
「なぎさがチョコを入れようとしたときはすごく焦ったけどね」
「ほのかさんが作ったお味噌汁も美味しいです」

食卓いっぱいの量だった料理をものの30分で完食する。
後片付けを終えて4人で談笑していると、食卓の上でメップルのハートフルコミューンが飛び跳ねた。

「なぎさ、自分だけ食べてないでメップルにもご飯を食べさせるメポ」
「はいはい」

軽くあしらうような返事をしながら、なぎさはお世話カードをハートフルコミューンに差し込んだ。
シャボン玉のような物体が浮かび、その中にフォークとナイフを持って席についているメップルとコック姿の妖精が現れた。

「メップル様、たこ焼きでございます」
「わーい、メップルが今一番食べたかったものメポ」

嬉しそうにたこ焼きを頬張るメップル。
微笑みながらその光景を見ていると、美月のポケットから機械音声が聞こえた

「Master,please change my magazine.」(マスター、マガジンを交換してください)
「はいな」

トリニティから発せられた声に軽く頷き、美月はリボルバー型のマガジンを懐から取り出した。

「トリニティ、セットアップ」

すると、無機質な機械音と共にデバイスモードとなったトリニティが現れる。
間近で見るトリニティの姿に3人は興味津々だ。
美月は先端部分を操作し、空になったマガジンを交換し始める。

「My reload is a levolution.」(私のリロードはレボリューションです)
「ん?何か言うた?」
「No. Please forget.」(なんでもありません。忘れてください)

滅多に冗談を言わないトリニティを気にしつつも、美月は談笑しながら交換作業を続ける。
トリニティなりにマスターをリラックスさせようと言ったことだったのだが、ボケるための修行が色々と足りなかったようだ。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまうもの。あっという間に時刻は0時を回っていた。

「さて、そろそろ寝ましょうか」
「もちろん皆で雑魚寝だよね」

修学旅行の夜のような雰囲気になってきた。
が、全員が眠そうな顔をしている。

「おやすみなさーい」

さすがに4人の疲労もピークに達していたので、布団に入ると美月以外はすぐに寝息を立て始めた。
部屋に差し込む月明かりの中で美月はじっと天井を見つめながら今日1日のことを思い出す。
今だに自分の身に起こったことが信じられない。全て夢で、明日になればいつも通りの1日が始まるのではないか、とも思う。
あれこれ考えていると、心地よい柔らかさの布団が徐々に美月を眠りの世界へと誘い始めた。
美月はおとなしく睡魔に白旗をあげ、目を閉じる。
しかし、閉じられた目から一筋の涙が流れていたことは本人ですら気づかなかった。






〔あとがき〕
どーも、かもかです♪

シルフェニア8周年おめでとうございます!!
二次創作が規制されつつあるこの時世にサイトを運営して下さっている黒い鳩さん、システム担当の193さんに厚く御礼申し上げます。

さて、8周年記念ということで初めての番外編に挑戦してみました。
番外編なのに本編の1章分より容量が多くなってしまった…

トリニティのカートリッジシステムをリボルバー型にした理由はただ1つ。
山猫(オセロット)の名言を言わせたかったからです(笑

卵焼きの元ネタは5GoGo21話です。
DXシリーズの後日談的なことを書きたかったので…

筆者はMaxheartが一番好きなんですよ。
肉弾戦オンリーの斬新さを残しつつ、ちょっとだけ特殊能力チックな設定が最高なんです。
映画NSで「えいえんの〜♪」の時に3人がグッと顔を上げたシーンは感涙ものでした。
未視聴の方は是非ご覧下さい。

いつもと変わらないノリで後編へと続きます♪



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