ありえなーい!?伝説の戦士との出会い(後編)
[あらすじ]
ロストロギアの捜索・運搬任務中だった美月はロストロギアの暴走に巻き込まれ、とある平行世界に飛ばされてしまう。
飛ばされた先の世界は「プリキュア」という伝説の戦士がいる世界だった。
果たして美月は無事に元の世界に帰ることができるのか……。
−雪城家・ほのかの部屋−
「で、どうするの?」
朝食を食べ終えて談笑しながらくつろいでいると、ほのかが思い出したように言った。
その言葉になぎさとひかり、美月はほのかを見る。
「美月さんの衣食住の心配はしないでいいけど、早く元の世界に戻らなくちゃいけないでしょ?」
「あ……」
すっかり忘れていた、という感じで声を上げるなぎさとひかり。
一方、美月は少々暗い顔をした。
「でも、どうやって美月さんを元の世界に戻すんですか?」
ひかりが首をかしげながらなぎさとほのかに尋ねた。
なぎさは唸りながら腕を組んだ。
「うーん……車でほいって言う感じでもないしね」
なぎさの呟きにほのかは苦笑する。
その時、部屋の中に虹色の光が差し込んできた。
「え?ええ?」
突然のことに唖然とする美月に対し、全く驚いていない様子の3人。
光と共にピンク色の長い耳のプニプニ生物が舞い降りてきた。
「ルルン、おかえり」
「ただいまルル」
もう一匹のパートナーであるルルンを笑顔で迎えるひかり。
ルルンは片耳を上げて挨拶をすると、美月を除く3人を見ながら口を開いた。
「みんな、クイーンが呼んでるルル」
「え?クイーンが?」
ほのかが驚いたような様子で声を上げる。
クイーンとはメップル達の故郷である光の園を治める女王。いくらなぎさ達が伝説の戦士プリキュアと言っても、そうそう呼ばれることはないはずなのだが。
何か重大な事態でも起こったのか。美月を除く3人の顔が少し強ばる。
「美月も一緒に来るルル」
「え?何で私の名前知ってるん?」
黙って成り行きを見ていた美月は、いきなり自分の名前を呼ばれてびっくりする。しかも、ルルンにはまだ自己紹介をしていないのだ。
どうして自分の名前を知っているのだろうか。
頭の上にクエスチョンマークを浮かべて目を丸くする美月。
ルルンは美月の質問には答えず、美月を急かした。
「いいから早く来るルル」
仕方なしに頷く美月。
一方、なぎさ達は強ばった顔のまま立ち上がって虹色の光に乗った。すると、何かに引っ張られるように光の上をするすると滑っていく。
美月もおっかなびっくりで片足を光に乗せる。途端に猛スピードで光の上を滑り始めた。周りは虹色の光に包まれ、自分がどこを飛んでいるのか全くわからない。
空を飛ぶのとはまた違った感覚に戸惑う美月。
しばらく進むと虹色の光が消え、一面の草原に降り立つ。周りをキョロキョロと見回していると、先に降り立っていたなぎさが声をかけてきた。
「お疲れ、美月。ここが光の園だよ」
「……」
美月は黙ったままだった。というより、景色に見とれていて返事をする余裕がなかったのだ。
旅行などで度々美しい景色は見ているが、光の園の景色は今まで見た景色の中で最も美しい。
「美月、どうしたルル?」
ルルンに声をかけられ、美月はようやく我に返る。
「あ、ごめんごめん」
「光の宮殿でクイーンが待ってるルル」
ルルンはトテトテと歩き始めた。
4人もルルンの後について歩き始める。と、美月以外の3人の腰についていたポシェットから何かが破裂したような可愛い音と共に煙が上がった。
「メポ〜」
「ポポ〜」
メップルとポルンが現れ、大はしゃぎで走り始めた。
それにつられてルルンも走り始める。
「ポルン、走ると危ないミポ〜」
「まったく……」
なぎさは溜め息をつき、メップルとポルンを追いかけ始める。美月達は笑いあってなぎさを追いかけ始めた。
そんなこんなで光の宮殿へとやって来た美月達。
「うわぁ……」
廊下を歩きながら高い天井を見上げ、美月は感嘆の声を上げる。
光の園に来てから感心しきりの美月を振り返って、なぎさが口を開いた。
「美月、とどめにすっごく驚くものがあるから期待しててね」
「なぎさ、それってクイーンに失礼よ」
2人が何のことを言っているのか分からず、首をかしげる美月。ひかりは2人の会話を聞いて苦笑している。
しばらくすると、4人と4匹は大きな扉の前に着いた。扉は自動で開き、中から凄まじい光が洩れ出す。
あまりの眩しさに美月は目をつぶった。
しばらくして目を開けると目の前に大きな大きな女性がいた。白いドレスのような服を着て、右肘を手摺に乗せて頬杖をついて玉座に座り、左手にハート型のリングを持っている。
「で、でかっ……」
あまりの迫力に思わず後退りをする美月。
目の前の女性―クイーンは微笑を浮かべたまま、なぎさ達に挨拶をする。
「お久しぶりですね。プリキュアの皆さん、そしてひかり」
「お久しぶりです」
状況をよく理解できず唖然としている美月に、クイーンは声をかけた。
「はじめまして、森山美月さん。私はクイーン、光の園の女王です」
「は、はじめまして」
緊張のあまり声が上ずる美月。
クイーンは姿勢も表情も変えずそのまま話を続ける。
「あなた方をお呼びしたのは他でもありません。美月さんの事です」
「え?わ、私?」
自分が話の中心になったので驚く美月。
光の園に来てからというもの、本当に驚きっぱなしだ。
「本来ならばこの世界に現れることのないはずだった彼女。ここに呼び寄せたのはとある力です」
「とある力?」
ほのかが聞き返す。
クイーンの話を聞いた美月は例のロストロギアが原因なのだろうと予測をした。
なぎさとひかり、それにメップル達は黙ってクイーンの話の続きを待つ。
「それはジャアクキングの力。正確に言えばジャアクキングの影響を受けた力です」
「ジャ、ジャアクキング!?」
美月以外の3人が声を揃えて驚く。
当たり前だろう、苦労してやっと倒したかつての敵の名が出てきたのだから。
「貴方が運んでいたロストロギアは鎖のような物体でしたね?」
「は、はい」
自分に話が振られ、慌てて頷く美月。
すると、ほのかが小声で美月に尋ねてきた。
「ロストロギアって何?」
「私が運んでた危険物の類の総称。失われた文明の危険な技術で生み出された物体」
美月は大まかな説明を、かつ分かりやすいように説明する。
クイーンはそのまま話を続けた。
「それはジャアクキングが纏っていた鎖の欠片です」
「ええ!?」
再び美月以外の3人が声を揃えて驚く。
美月にはすでに驚く余裕はない。もはや情報の整理が追いつかないのだ。
「それを封印すれば、あなたが元の世界へと帰るための次元の扉が開かれるでしょう」
「ホ、ホンマですか!?」
次々に聞かされる情報に混乱しかけていた美月はクイーンの話を聞き、思わず聞き返した。
美月が元の世界に帰れる目処がついたので、なぎさ達は一安心する。
「ただ……虹の園に散らばったザケンナーの欠片、ゴメンナーがそのロストロギアに導かれているようです。やがて、巨大なザケンナーが現れることでしょう」
「じゃあ、昨日現れたザケンナーって……」
理由もなく突然ザケンナーが現れるわけがない。クイーンの言葉にピンときたなぎさが呟く。
クイーンはどことなく重々しい声で言葉を繋いだ。
「おそらくはそのロストロギアの影響の一部でしょう」
その話を聞き、美月は少し暗い表情になった。
平穏だった世界に再び危機をもたらしたのは他でもない、自分なのだ。
なぎさ達も美月の心を察したのか、黙り込んでしまう。
「伝説の戦士プリキュア、シャイニールミナス。そして森山美月さん。あなた達の幸運をお祈りしています」
クイーンの言葉に送られ、4人と4匹は何とも言えない表情で光の宮殿を後にしたのだった。
光の園から帰ってきてすぐに、美月は散歩に出かけた。
「……」
どこに行くでもなく、ただ歩いているだけの美月。
「行く先がないんだったら、ほのかの家にいればいいじゃないか」というツッコミが飛んできそうな気がするが、今の美月はなぎさ達と合わせる顔がなかった。
自分のせいでなぎさ達を巻き込んでしまったと思い込んでいるのだ。
ロストロギアが暴走したのは不可抗力であって美月のせいではないのだが、美月は責任を感じずにはいられなかった。
しばらく歩いていると高台の公園に着いた。美月はベンチに座って、ぼーっと空を見上げる。すると、背後から女性に声を掛けられた。
「森山美月ちゃん、だよね?」
「え?あ、はい」
振り向くと、ピンク色の髪を2つに括った少女がいた。
彼女は戸惑う美月に自己紹介をする。
「私は夢原のぞみ。高校2年生で、なぎさ達の友達だよ」
そう言って、のぞみは美月の隣に腰を下ろした。
「気にしてるの?クイーンから聞いたこと」
「え?」
美月が驚いたような表情でのぞみを見ると、のぞみは得意げに笑った。
「色々あってね。詳しい説明は省くけど、私もプリキュアなんだ。なぎさ達と知り合ったのもその縁なんだけどね」
「そ、そうなんや」
美月がのぞみについて理解したのを確認すると、のぞみは改めて美月に問いかけた。
「で、悩んでるんでしょ?」
「う、うん」
美月が暗い顔で頷くと、のぞみは空を見上げながら話し始める。
それは独り言のような口調だったが、美月の心にはしっかりと響いた。
「誰だって人の手を借りずに生きていけるわけじゃない。私だって先生になるために色々な人に助けてもらってるもん」
その時、のぞみの後ろから1人の少女が現れた。
紫色の髪に自信に満ち溢れたような表情で気品ある雰囲気を漂わせている。
彼女はのぞみの言葉につなげるように口を開いた。
「私達の友達にはアクセサリーのデザインの勉強を頑張ってる子、女優として頑張ってる子、小説家になるために頑張ってる子、医者になるために猛勉強してる子だっている。彼女達も誰かの助けがあってこそ目標に向かって突き進めるの。今回はそのスケールが少し大きいだけよ」
そうそう、と言うようにのぞみが頷く。
そして、紫色の髪の少女はからかい気味の口調で再び口を開いた。
「でも、のぞみがそんなことを言うなんて……明日は嵐かしらね〜」
「もー。私だってちゃんと考えてるもん」
口をタコみたいにしてむくれるのぞみを見て思わず吹き出す美月。
「あ、やっと美月ちゃんが笑った」
のぞみが笑うと、紫色の髪の少女も笑顔になった。
ふと彼女は思い出したように自己紹介をする。
「あ、自己紹介がまだだったわね。私は美々野くるみ。よろしくね」
くるみの自己紹介を受け、軽く会釈する美月。
しばらくして、のぞみが空を指差した。
「よーし……それじゃあ、頑張ってロストロギアを見つけるぞ〜!けってーい!」
空を見据え、高々と宣言するのぞみ。
その後ろでくるみが首をかしげながら呟いた。
「けってーいって……のぞみ、何か手がかりとかあるの?」
その言葉を聞き、能天気な声でのぞみが答える。
「なんとかなるなる〜。きっと呼んだらすぐに出てくるよ」
のぞみの答えを聞き、美月とくるみは揃ってずっこけた。
ずっこけた状態でくるみが呆れたような口調で口を開く。
「そんな簡単にいくわけないでしょ?美月、何かアイデアない?」
急に話を振られて一瞬驚く美月だったが、すぐに行動で答えた。
ポケットから待機モードのトリニティをとりだすと、無言でデバイスモードへと変形させる。
のぞみとくるみは興味津々な様子で美月を見た。
「探索スフィア、スタンバイ」
「Allright.」
美月の周囲に5個の水色の光球が現れた。
そして、彼女はそれらを眼前の街中へ向けて放つ。
「これで反応があったらすぐに分かるはずや」
探索魔法は通常魔法より体力を使う。少し汗ばんだ額を拭いながら美月は呟いた。
直後にトリニティから警戒信号が発せられた。
「Emergency!!The Lost Logia's response is near here. The Dangarous level
is maximum!!」(緊急事態!ロストロギアの反応を近くに確認。危険レベルMAXです!)
トリニティの声を聞いた美月の顔が強ばる。
「え?何があったの?」
ポカンとしながらのぞみが美月に尋ねた。
くるみも何故美月の表情が一変したのか分からないようだ。
「で、出た……」
「出たって、何が?」
くるみが美月に訪ねたと同時に辺りが暗闇に包まれる。
2人も異変に気づき、美月の言葉の意味を悟った。
「もしかして……?」
のぞみの呟きに混じって地響きが聞こえてきた。
慌てて身構える3人。
「ザケンナァァァーーーーー!」
地響きと同時にあの怪物―ザケンナーの声も聞こえてくる。
3人は顔を見合わせて頷き、それぞれの変身の掛け声をあげた。
「プリキュア・メタモルフォーゼ!」
「スカイローズ・トランスレイト!」
「トリニティ、セェーットアップ!」
その声と同時に、3人の体が光に包まれる。
瞬く間に光は消え、全く異なる服を着た3人が現れた。
「大いなる希望の力、キュアドリーム!」
「青いバラは秘密のしるし、ミルキィローズ!」
ピンクを基調とし、胸の部分に大きな蝶の飾りがついた服に身を包んだのぞみ―キュアドリーム。
紫を基調とし、胸の部分に青いバラの飾りがついた服に身を包んだくるみ―ミルキィローズ。
2人同時にポーズを決め、決め台詞を言う。
少し遅れて、バリアジャケットに身を包んだ美月の声が響いた。
「氷結の魔導師、森山美月!」
自分だけ名前しか名乗らないのもカッコ悪い気がしたので、即興で決め台詞を言う美月。
見事にキマった。
「美月、どうしたらいいの?」
ザケンナーを見ながらくるみ―ミルキィローズが美月に尋ねる。
3人の視線の先にいるザケンナーは昨日のものと比べて、大きさは桁違いに大きい。推定5倍といったところだろうか。
美月は少し考え込み、ふと視線を眼下の街に向けた。が、その状態で固まってしまう。
「なぎさ……ほのか……ひかり……」
彼女の視線の先にいたのはザケンナーめがけて突撃していくキュアブラック達。
美月は一度目を閉じて、胸に手を当てて深呼吸をする。
そしていつもの暖かさと鋭さを兼ね備えた眼光になると、2人に落ち着いた声で告げた。
「あの怪物にある程度ダメージを与えたら、あとは私が引き受ける。とりあえずはなぎさ達の援護や」
「オッケー。それじゃ……」
ドリームはそこで言葉を切ると、上空へ大きく跳んだ。
直後、彼女の体がピンク色の煌く光に包まれる。
「プリキュア・シューティング・スタァー!」
ドリームの声と共に、ピンク色の光線がザケンナーめがけて伸びる。
美月はドリームに遅れをとらないように、すぐさま行動を開始した。
ローズの体をお姫様抱っこの要領でしっかりと抱え、ローズに一声かける。
「少し揺れるかも!」
言うが早いか、彼女は助走を始め、数秒後には大空に羽ばたく。
そんな彼女を追う飛行物体があった。
「プリキュア・サファイア・アローーー!」
背後から聞こえた大人びた女性の声と共に3本の水の矢が美月を追い越していった。矢は全てザケンナーに命中し、爆発音が響く。
ローズはその矢が誰が放ったものか、すぐに分かったようだ。すぐに首を伸ばして予想した人物達に声をかける。
「アクア!ミント!レモネード!ルージュ!」
美月が振り返ると、オレンジ色の鳥(?)に乗った4人の少女達がいた。
4人ともドリームと色違いの服を着ている。
赤いバージョンの服に身を包み、赤いショートカットの少女が口を開いた。
「情熱の赤い炎、キュアルージュ。いきます!」
そう言って彼女は乗っていた鳥から飛び降りる。
「プリキュア・ファイヤー・ストライク!」
その言葉と同時にルージュの周囲に4つの火球が現れた。
彼女は体のバランスもそこそこに、火球をザケンナーに向けて次々と蹴り放つ。火球はザケンナーの頭部に全弾命中し、彼女はそのまま軽やかに地面に着地する。
美月が状況を確認していると、オレンジ色の鳥がようやく美月に追いついた。
「お前、早すぎロプ〜……」
「鳥が……喋った!?」
美月はびっくりしてバランスを崩しかけるが、なんとか持ちこたえる。
ローズは笑いながら口を開いた。
「運び屋のシロップよ。メップル達と同じような所から来たの。乗っているのは知性の青き泉、キュアアクア。安らぎの緑の大地、キュアミント。はじけるレモンの香り、キュアレモネードよ」
「よろしくロプ」
「はじめまして」
「よろしくね。」
「こんにちは〜。」
次々と挨拶をするシロップ、アクア、ミント、レモネード。
慌てて美月も会釈で応えるが、その視線は2匹のモコモコ生物に注がれていた。
1匹はクリーム色のフェネックのような姿、もう1匹は茶色のリスのような姿をしている。
「パルミエ国王のココ様とナッツ様よ」
「よろしくココ」
「よろしくナツ」
クリーム色のフェネックのようなモコモコ生物―ココと茶色のリスのようなモコモコ生物―ナッツ。
よく見ると、彼らの頭には王冠がある。
「よろしくお願いします」
国王と聞いた美月は敬語で挨拶をする。モコモコ生物が国王であるという事を聞いても全く驚かない美月。
驚きすぎて、もはや驚くことがなくなってきた。
その時、ローズは美月の手から華麗にシロップの背中に舞い降りた。
「私達は別の方向から攻撃するわ。ブラック達を頼んだわよ」
美月は鋭い目になり、無言で頷いて飛行速度を上げる。
突き進む彼女の目に飛び込んできたのは、ザケンナーに攻撃を繰り出しているブラック達の姿だった。
美月は一旦止まると、トリニティに声をかけた。
「トリニティ!」
「Load cartridge.」
機械音1回が響き、トリニティの先端に搭載されたリボルバーが回転する。
同時に美月の足元に水色の魔法陣が広がった。
「ストラグルバインド!」
美月の声と共にいくつもの水色の輪がザケンナーを拘束する。
しかし、輪はザケンナーの反撃に無言の悲鳴を上げており、長くは持ちそうにない。
シロップから降りて、美月から少し離れた所で様子をみていたレモネードは両手を大きくバックスイングさせて叫んだ。
「プリキュア・プリズム・チェーン!」
大きく振られた彼女の手から黄色の輝く鎖が何本も放たれ、ザケンナーの体を締め上げる。
バインドとチェーンに雁字搦めにされたザケンナーは口から砲撃をレモネードに向けて放つ準備を始めた。
ザケンナーの足元でそれを見たローズは拳を握り締めると、地面に叩きつける。すると、物凄い地響きと共に地面が大きく陥没した。
それによって、ザケンナーのバランスが崩れ、照準がレモネードからミント、ココ、ナッツ、ココ達と同じ大きさになっていたシロップにズレる。ザケンナーはそのままの状態で砲撃を放つ。
が、迫り来る砲撃にミントは動じなかった。
「プリキュア・エメラルド・ソーサー!」
ミントが挙げた手を中心に緑色の光円が現れた。
直後、砲撃が光円に激突する。凄まじい衝撃波と轟音が響き、もうもうと砂煙が上がった。
少し威力が下がったのを見計らって、ミントは光円を相殺させる。再び轟音と砂煙が上がった。
「プリキュアに力を!」
ココが両手を上げて叫ぶと、天から5色の一筋の光が降ってきた。
ピンク色の光はドリームの元に、赤色の光はルージュの元に、黄色の光はレモネードの元に、緑の光はミントの元に、青い光はアクアの元に。
彼女の元へと降った光は剣のような武器―キュア・フルーレへと形を変えた。
「クリスタル・フルーレ!希望の光!」
「ファイヤー・フルーレ!情熱の光!」
「シャイニング・フルーレ!はじける光!」
「プロテクト・フルーレ!安らぎの光!」
「トルネード・フルーレ!知性の光!」
各々のキュア・フルーレを構え、決め台詞をいう5人。
「5つの光に!」
「勇気をのせて!」
ドリームの声に続いて4人同時の声が響き、5色の大きなバラが現れた。
そして、5人は大声と共にキュア・フルーレを突き出す。
「プリキュア・レインボー・ローズ・エクスプロージョン!」
5色のバラが合体して虹色の巨大なバラとなり、ザケンナーへ放たれる。
一方、ココが叫んだのと同時にナッツも両手を上げて叫んだ。
「ミルキィローズに力を!」
すると、どこからか現れた青いバラがローズが手にしている武器―ミルキィパレットと合体し、光に包まれる。
瞬く間に光は消え、新たな武器―ミルキィミラーが現れた。
「邪悪な力を包み込む、煌くバラを咲かせましょう!」
すると、ローズの前に銀色の大きなバラが現れた。
同時にローズはミルキィミラーを大きくバックスイングする。
「ミルキィローズ……メタル・ブリザード!」
その声と同時にミルキィミラーが大きく振られ、銀色のバラが何十枚もの花びらとなってザケンナーに放たれた。
ザケンナーと肉弾戦を繰り広げていたブラック達はドリーム達が必殺技を出したのを見ると、巻き添えにならないように素早く退避する。
そして、互いに彼女達は頷きあった。
「漲る勇気!」
「溢れる希望!」
「光輝く絆とともに!」
両手を大きく広げて構えたブラックとホワイトの声が響き、次にハート型の道具―ハーティエルバトンを持ったルミナスの声が響く。
ハーティエルバトンから放たれた光を身に浴びたブラックとホワイトが手を突き出すと、虹色の大きなハート型の光塊が現れた。
「エキストリーム……」
「ルミナリオォォォ!」
ブラック、ホワイトの2人同時の声が響き、最後にルミナスの叫び声に近い大声が響く。
ルミナスの大声が響いた直後、光塊から黄金色の光線が放たれた。その光線の威力はマーブル・スクリューのそれを軽く凌駕している。
放たれた3つの必殺技が次々とザケンナーに命中し、これ以上ないほどの衝撃波、轟音、砂煙を巻き起こした。
「ザケンナァァァーーー……」
苦悶の悲鳴を上げて苦しみ始めるザケンナー。
空でそれを見ていた美月は目を閉じて深呼吸をすると、とどめの一手を指した。
「邪悪なる力を受け継ぎし者を、封印の輪に!」
美月の言葉の後にトリニティから5回機械音がし、残っていたカートリッジが全弾ロードされる。
彼女の足元にいつもの倍以上の大きさの魔法陣が出現し、周囲に水色の光が漂い始めた。
「Sealing」(封印)
トリニティから氷柱のような水色の光羽が勢いよく生え、トリニティの宝石部分の輝きが増した。
ザケンナーは本能で自らの危機を察したのか、体を暴れさせて必死に抵抗を試み始める。
その余波は美月にも襲いかかり、吹き飛ばされた瓦礫が雨霰のように美月に降り注ぐ。
「ルミナス・ハーティエル・アンクション!」
ルミナスの声と共にハーティエルバトンから虹色の螺旋状の光が発射され、ザケンナーに命中する。
すると、ザケンナーの体が虹色に染まって動きが止まった。
「美月!」
ブラックの声が聞こえた、ような気がした。
美月は静かに頷くと、真上に構えていたトリニティを振り下ろす。
振り下ろされたトリニティから光が迸り、ザケンナーに膨大な量の光が静かに襲いかかった。
「すごい……」
辺りに満ち溢れていく水色の光を見て、ローズがぽつりと呟く。
急速に光が集まり始め、ザケンナーの姿を隠していった。
すると、急に風が吹き始め、美月やブラック達の服をはためかせ始める。みるみるうちに風は強くなり、ブラック達は目を塞いで踏ん張るのが精一杯だった。
「……うそ……」
しばらくして目を開けたドリームが発した声が合図になったように、他のプリキュア達も目を開いた。そして、目の前の光景を見て唖然とする。
まるで巨大なビルのように立ちはだかっていたザケンナーが消滅していたのだ。
その代わりに、空中に黒い何かが浮かんでいる。
「Receive Unknown.」(正体不明物、格納しました)
トリニティの声がした直後、辺りを包んでいた暗闇が晴れ始める。
こうして、ロストロギアの封印は終わったのだった。
−雪城家・縁側−
「で、どうやったら次元の扉が開くの?」
空中に浮かんだ数々のパネルを操作する美月にほのかが尋ねた。
美月はロストロギアを封印すればすぐに次元の扉が開くと思っていたのだが、結局何も起きなかった。
「うーん……」
唸りながら考え込む美月の横ではなぎさとのぞみがはしゃいでいる。
そこにレモネード―春日野うららが加わって賑やかになってきた。
「もう、少しは静かにしなさいよ。美月の気が散っちゃうでしょ」
くるみがのぞみ達を叱り、急に静かになった。
が、3人はそわそわしたりして中々落ち着かない。ルージュ―夏木りん、ミント―秋元こまち、アクア―水無月かれんも美月をチラチラと見ている。
かくいうくるみもそわそわしている。
みんな美月を心配しているのだが、何もできないのが歯がゆいのだ。
「そうだ!せっかくだし写真撮ろうよ!」
急になぎさがパァっと顔を輝かせながら言った。
一瞬、その場にいた全員がポカンとした顔をしたが、ほのかはすぐになぎさの考えに気づいてデジカメを持ってきた。
なぎさは「いずれにせよ美月は帰ってしまうのだから、今のうちに記念撮影をしよう」と遠まわしに言ったのだ。のぞみ達も少し遅れて理解し、準備を始める。
「美月ー」
なぎさの手招きで美月は手を止め、記念写真の列に加わった。
何回もシャッター音が響き、色々な構図の写真を撮り終わった一同。
「ちょっと待っててね」
ほのかはそう言い残して自分の部屋に入った。美月は再び作業を再開し、なぎさ達は雑談を始める。
10分後、ほのかが分厚い封筒を手に戻ってきた。
「はい。」
封筒の中身は先程撮った写真。美月は無言でそれを受け取った。何か言おうとすると泣いてしまいそうだからだ。
すると、美月のポケットに待機モードで入っているトリニティが光り始めた。
「!?」
驚く一同の前に直径2mくらいの光円が現れる。まるで美月が写真を受け取り終わるのを待っていたかのように。
美月はなぎさ達の方を振り返り、深々と頭を下げて言った。
「みんな……ありがとう!」
短い言葉だったが、美月にはそう言うのが精一杯だった。
既に瞳は潤み、声も震えている。なぎさとほのか、そしてひかりは美月に駆け寄った。
「……」
3人とも既に泣いてしまい、何か言おうとしているが言えない。
が、美月にはそれだけで十分だった。4人は泣き顔で笑い合い、そっと頷き合う。
そして、美月はもう一度頭を下げると、光の中へ消えていったのだった。
無事に元の世界に戻った美月はしばらく大量の報告書の締切に追われることになった。
彼女の部屋の机、捜査官室のデスクにはあの集合写真が飾ってある。
美月は落ち込んだ時、疲れた時にはそれを見て気合を入れる。
「彼女達だって頑張っているのだから、自分だって負けていられない」と。
こうして、出会うはずのない彼女達が出会って動き出した物語の歯車は止まったのだった。
〔あとがき〕
どーも、かもかです♪
改めまして、シルフェニア8周年おめでとうございます!!
美月のなぎさ達との絡みはいかがでしたでしょうか?
僕自身、少し前までは「プリキュアなんて、お子ちゃまが見るアニメやろ」と思っていたのですが…
いざ、観始めるとハマるハマる♪
楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
本編の1章分より内容がかなり長くなってしまいました(笑
あとがきも少し長くなるので、もう少しお付き合いくださいませ
前編を書いている時には5GoGoメンバーを出す予定は全くなかったのですが、「落ち込んでいる美月を元気づけるのは、のぞみしかいないだろう」ということで……
のぞみだけ出すのも不公平なので全員登場させたのですが、見せ場に随分と差が出てしまいました。
精進して、もっと良い話がかけるようになりたいと思います。
(ちなみにローズの見せ場はDXで映像化されています。俗に言う「クレーターパンチ」というやつです)
長くなりましたが…
本編の方も変わらぬご愛読をよろしくお願いします♪
でわでわ(^0^)/~~
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m