ネルガル 月秘密ドッグ

普段は何も無いこの場所に、一隻の戦艦が姿を現す。

「ジャンプアウト」

アキトはラピスの報告を聞きながらこれからの事に想いを馳せた。




廻る廻るは三つの思い。

桃の妖精は主と共にある事を願う。

蒼の妖精は青年の傍に在る事を願う。

では渦中の青年は、一体何を願う―――――?


灼眼のシャナ
〜闇と焔の二重奏(デュエット)〜
外典 遠き日のオモイデ
                                                                                      著・神威
第二章  彼女の笑顔が眩しくて


ボソンアウトの報告を受けた俺は少しの間体を休める為、このドッグにある部屋に移動する。

勿論傍らにはラピスを伴って。

今の俺があるのは、ある意味この子のお陰と言っていい。

だがそれ故に俺は苦悩する。

本当にこの子を、ラピスを俺の復讐に巻き込んでよかったのか? と――――。

今でも夢に見る。

俺が殺した罪無き人々の慟哭を。

目の前で無残にも殺されていった同胞を。

そして、俺達を見ながら笑う研究員達の姿を――――。

其れを聞くたびに罪に苛まれ、其れを見るたびに己が無力を呪い、其れを見るたびに憎悪を募らす。

そんな、毎晩魘される俺の傍に、ラピスは何時も居てくれた。

俺が一番居て欲しいと願う時に、ラピスは傍に居てくれた。

だがそれ故に俺は罪を再認する。

本当に、この子を巻き込んでよかったのか?

俺と関わらなければ何事も無く、普通の生活をして、普通の幸せを手にする事が出来たのではないか?

俺の傍に居るが為に、この子に感情が育たないのではないか?

そう、この子は俺の罪の象徴だ――――。

それでもラピスは言うだろう。

―――私はアキトの目、アキトの口、アキトの手、アキトの足。アキトは私の全てで、私はアキトの全て。だから私はアキトと一緒に居られるのは嬉しいよ?  と。

よくよく考えてみれば、リンクを繋げた始めの頃よりも台詞が長くなっている?

と言うか感情が育っている?

俺はラピスの為に何かが出来てるのか?

いかん、論点がずれて来た。

兎も角、この子は俺が闇に引き込んだんだ。

最後までこの子の傍に居よう。

ん? マテ、俺は一体誰に弁解しているんだ?


そうこうしている内に部屋につく。

先のは疲れから来るものだと高を括り、ベットにダイブ。

そのまま俺の意識は闇へと消えた―――。


ゴソゴソ


「アキト―――」

誰かが布団に入ってくる。

キュ、っと抱きしめられた。

此処まで来れば誰かは解る。

「どうした? ラピス」

俺の目にちらちらとうつる桃色の髪。

ラピスは頬を摺り寄せるだけで何も言わない。

きっと先程の俺の思考が漏れたのだろう。

「私はアキトと居られて幸せ。だから自分を責めないで」

やはり漏れてたようだな。

「ありがとな、ラピス」

そう言って髪を撫でてやる。

そうしてやると、猫のように目を細めて気持ち良さそうにする。

撫でるのをやめると、部屋を出る用意をする。

「さ、もうそろそろ行こうか」

何処に、とは言わない。

ドッグに戻った後に行く場所は大体決まっている。

アカツキの居る本社か、ユートピアコロニーだ。

今回は報告も兼ねて本社に行く。

「解った」

ラピスは頷くと、俺のマントの裾を握る。

部屋を出てから行くよりも早いという事で、俺達はジャンプした。






ネルガル本社ビル

「いや〜ご苦労様。これで後継者も残すとこも後僅かだね」

ジャンプアウトした俺達を迎えたのは、アカツキのそんな台詞だった。

あたかも俺達が来るのを予測していたようだ。

と言っても、実際に予測できたのであろうがな。

最近イネスがジャンプ予測装置なるものを作ったと言っていた。

何でも、其の機械に登録された人間のジャンプ地点を予測してしまうと言う、ある意味反則な装置なのだ。

「確かに、先ので九割がた殲滅した」

「で、君はその復讐が終わったら如何するつもりだい?」

・・・・予測はしていたが、こいつにまで聞かれるとはな。

ラピスをエリナに任せ、一時的に部屋から退出してもらう。

「―――正直、決めかねている」

俺は無二の親友であるこいつには、本心で当たる事にした。

其れが解ったのか、アカツキも静かに続きを待つ。

「ラピスはエリナとイネスに任せ、俺はこの世を去る。―――と、始めの頃なら言っただろう」

出された、味もわからない紅茶を飲む。

「無論巻き込んだ事は、今でも後悔しているし出来る事なら、普通の暮らしをさせてやりたい」

アカツキは沈黙を保つ。

俺は唐突に話し出す。

「―――偶にふと、想像するんだ。ラピスと俺とルリちゃんと、そしてあいつ―ユリカ―と一緒に暮らす風景を」

「俺が料理して、ルリちゃんとラピスが手伝ってくれて、そしてユリカは自分も手伝うと言うんだ」

「あいつの料理は、あらゆる意味で壊滅的だからな。だから俺は料理はいいから、皿を用意してくれと頼むんだ」

「ユリカは渋々従うんだ。でも、其の顔は間違いなく笑顔で・・・・・・」

「皆笑顔でさ・・・・。とても幸せそうに笑ってるんだ。ユリカもルリちゃんも、ラピスも、俺も・・・・・・」

言いながら俯く。

何処で、俺達は何処で間違えたんだろうな――――?

「幸せそうに、笑ってるんだ・・・・・・」

自分でも気がつかぬ内に、俺は涙していた。

「ありえない、ありえない事だと解っていても、心の何処かで其れを望む自分が居るんだ―――」

「この身は既にぼろぼろで、料理などまともに出来るはずも無いのに」

「既に其れを捨てた筈なのに!」

「俺は、俺の血に濡れた手にはッ! もう包丁を握る資格など、ありはしないと言うのにッ!!」

机の上に出した両手を握り締める。

「幾千万もの血を吸って来た俺の手に、包丁など握る資格が、仮に資格があったとしても、それ以前に、握れようものかッ!」

手は力を込めすぎた為白くなる。

「俺達が、一体何をした!?」

「俺達はただ戦争を終わらせようと、一番いい形で終わらせようと努力してきただけじゃないのか!?」

「何故、何故俺達が、俺達だけがこのような目に会う!」

「火星に生まれたのがいけなかったのか!? ボソンジャンプが出来るのは、そんなに駄目な事なのか!? 火星の民はッ! 火星の民は、一体何の為に、生ま れ てきたんだ?」

涙は、止まらない――――。

堰を切ったように流れ落つ。

其れと共に、怨嗟が出て来る。

「俺達が存在する事は、そんなにもいけない事なのか?」

何時しか俺の顔は、涙によってぐちゃぐちゃになっていた。

絶望、悲しみ、怨嗟、全ての負の感情が混ざり合ってぐちゃぐちゃになっていた。

「俺達は、ただ普通に生活をして、普通に――――幸せになりたかっただけなのに」

「―――それは、願ってはいけない事なのか?」

「教えてくれ、アカツキ! 俺が幸せを願うのは、そんなにもいけない事だったのか?」

俺は、親友の解答を待つ。

「違う! 其れは違うッ!! 幸せは、誰もが望んでいいものだ。君だけが望んではならないと言う事は、あってはならないッ!!」

あぁ、俺はいい親友を持った。

こいつは、本当に、俺には勿体無い位いいやつだ――――。

「俺は、何の為に生まれて来た?」

禁忌に、触れた。

本当は聞いてはならない事。

でも、聞かずにはいられなかった。

「其れは――――」

案の定困らせてしまったようだ。

だが予想に反して、解答は帰ってきた。

「其れはきっと、自分を大切に想ってくれる人と出会う為さ」

俺は其の言葉に顔を上げた。

「人間ってのはね、一人で生きてると思っててもね、実際は色んな人に支えられているものなのさ」

「だから君は、いや人間と言うのは、自分を本当に大切に想ってくれる誰かと出会う為に、そして幸せになる為に生まれてくるものだと僕は思う」

アカツキは俺の目を真っ直ぐに見て、言う。

断言する。

「君が生まれてきたのはきっと、ルリ君やラピスやそして、ユリカ君に出会う為なのさ」

「断言しよう。幸せになる権利なんてものは無い。だって、其れは誰しもが願っていいものであり、持っていいものなのだから」

断言、する。

「――――そう、か」

少し楽になった気がする。

やはりアカツキに話したのは正解だった。

しかし大分話がそれたな。

落ち着きを取り戻した俺は話を戻す。

「本題に戻るが、俺はあの子と生きようと思う」

「それが君の答えかい?」

確認してくる。

「あぁ、俺は死なない。お前が言ったんだ。幸せになるのは、当然だと。だから俺はラピスと共に生きる」

「其れを聞いて安心したよ」

俺の答えを聞いたアカツキは、満足そうに頷いた。

「さて、僕の話はこれで終わりさ。ラピスを連れて休むといい」

アカツキはそう言うと隣の部屋に居るエリナを呼んだ。

「アキトッ!」

トテテテという音が似合いそうな勢いでラピスが走ってくる。

「おっと・・・・」

勢いよく抱きついてきたラピスを抱きとめる。

「ん〜♪」

きっとさっきのが伝わったのだろう。

嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。

俺はラピスを伴って、部屋を後にした。

勿論ジャンプを使ったぞ?

シャワーで軽く汗を流し、ベットに倒れこむ。

流石に寝る時までバイザーは掛けていない。

今の俺の視界はぼやけている。

「ん・・・・・」

隣で寝ていたラピスが身じろぎをする。

今日はラピスの希望で一緒に寝る事にしたのだ。

寝顔がとても可愛くて、愛らしい。

そんなラピスの髪を梳きながら、俺の心は穏やかになる。

そして俺はふと、ルリちゃんの事を思う。

俺はあの子の笑顔が好きだった。

まるで妖精を思わす様な笑み。

月を思わす笑み。

とても、綺麗で透明な笑み。

俺にとってルリちゃんは、月そのものだった。

だから、闇に染まった俺の身に、彼女の笑顔は、眩しすぎた――――――。
                                                                                         続く
















次回予告

くるりくるりと、歯車は回る。

一度回ると、錆びれるまでは止まりはしない。

運命の輪は回り始めた。

既に、止める者は無い。

歯車は、くるりくるりと回り続ける。

この物語は喜劇か? 

それとも、悲劇か―――。

そして物語は加速する。

青年と、蒼き妖精の邂逅によって。

次回

外典 遠き日のオモイデ

第三章  再会は桜舞う木下で                                      乞うご期待。























後書き

うぃ、試験間近で投稿遅れるいいながらSS書いてる愚者、神威です。

今回はアキトの気持ちを爆発させて見ました。

どうでしょうか? 伝わりましたか?

次回は二人の再会です。

つーか試験二日後に迫ってるというのになにやってるよ? 俺・・・・・・・・(口調変わりすぎ)

んで、最近切に願う事があるんです。

感想下さい(核爆)

ぶっちゃけ感想無いと改善の使用がなくて困ってます。

自分もこれ以上の作品をお送りしたいのですが、なにぶん技量不足です。

其処で、これを読んで下さってくれる方々に色々と指摘して欲しいのです。

其れがあれば、これから先よりよいものが掛けると思うので・・・・・。

では、誤字報告等もお待ちしております。
                                                                       二 月二十八日・執筆完了 神威
           




感想

ははは…

感想くださいっていうのは人事じゃありませんね(汗)

根本問題として、SS書きの人には2タイプいます。作って公開すれば満足できる方と感想が必要な方です。

基本的に後者が多いのは当然です。建前は兎も角、自分の作品を見ている人がいるという事を教えて欲しいのです。

誰も見ていないのでは寂しいですからね、私も後者です。感想くれなきゃ書けないかも?(爆死)

一応HPの管理人である私は、作家の皆さんの作品がほぼ例外なく半月以内に1000HIT以上になる事を知っていますが、作家さん自身は分りませんしね。

そんな訳で、私も三月中にWEB拍手を導入するつもりですが、皆さんも作家さんがたに感想を送ってあげてくださいね。

一行でも嬉しいんです。面白かったの一言で、作家さんのやる気は30%増しになります。これは、私の実感です。

逆に誰も感想をくれなくなれば、私の場合ゲームに逃げるかな?(爆)

まあ、そんな訳で感想は作家さんを救います。憶えておいてください。

はあ、そう言っている貴方は感想を言ってませんよ。

ああ、そうだった感想の話になるとつい熱くなってしまって(汗)

まあ、分りますけどね、四流作家の貴方には感想なんて殆ど無かったでしょうから…

うっ、そんな事無いぞ!

何言ってるんですか、作品内で感想を頼み込ん だのは一回じゃないでしょう!?

ぐは!

ふっ、虚しいですね…兎に角、感想のほうに行きましょうか、今回はラピスの 話のようですが…

うん、けなげというか…

何を言っているんですか! あれはラピスの 手で す! ああやってアキトさんを悪の道に引き込んだ張本人なんですよ! 全く、リンクくらい私がすれば よかったのに、横から割り込んで…

でっ、でも今回はアカツキの方が活躍したね。

そうですね、アカツキさん完全にいいものですね、まあ、アキトさんと結婚した 暁には召使いにでもしてあげますか。

めっ、召使いっすか…アカツキ…あわれな…だけど、確かにアクが大分抜けてるね…

私はそんな事は言ってませんよ、そ れより、アキトさん随分悩んでらっしゃったようですね。やはり、ここは私の出番でしょう。

いや、ここはって…でも、確かに展開を読ませない良い出来じゃないかな…

う〜ん、そうですかね、でもどうせなら、私も向こうの世界に飛べないですか ね?

…やっても意味無いと思うけど、君の戦闘力じゃ宝具でもないと、戦えないしね…

宝具くらい、神威さんに頼み込んで 見ます!

ドドドド ドー!!

ああ、行っちゃった…

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