視点:華琳


「これで軍部の報告は終わりかしら?」
「はい、華琳さま」

私は私室で秋蘭から定期報告を聞いていた。

「後は…あの4人の様子はどうかしら」
「…ルルーシュ達のことですか」
「ええ、そうよ」

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、趙子龍、郭奉考、程仲徳、先日盗賊を追って行った先で出合った者達。

私はあの日、天の御遣いと契約を交わし、三人の客将を得た。






―――――――――――――――






「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、貴方に私の真名を預けるわ」
「華琳様!」
「それはさすがに!」

春蘭と秋蘭がとっさに止めようとする。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアからはもう先ほどの覇気は感じない、でもあれはまぐれや偶然で出せるものではない。

「貴方達私の決めたことに、異議を唱えるつもりかしら」
「「い、いえ」」
「なら、黙ってなさい」
「「はい」」

それに春蘭ではないけれど私の勘が言っている、この者にはそれだけの価値がある、と。

「真名とはなんだ?」

…違う世界から来たのなら知らなくても当然か。

「真名というのはね、その者が持つ本当の名前。その者が認め、名を預けられた者のみが呼ぶことを許される、とても神聖なもの。」
「…なるほど、自己紹介のときとは違う名でお互いを呼び合っていたのは、そういう理由か」
「そういうことよ」

親族以外の男に真名で呼ぶことを許すのは初めてね。

「私の真名は華琳、今後はそう呼びなさい」
「…わかった、俺の国には真名という風習はない。だからルルーシュと呼んでくれ。これからよろしく頼む、華琳」

ルルーシュはそう言って年相応の笑みを浮かべる。
大陸の者とは顔つきは違うけれど、とても整った顔立ちをしているからこういう顔をするとまた別の魅力があるわね。

「ええ、よろしくルルーシュ」
「…華琳様がお認めになるなら、私も真名を預けよう、私の真名は秋蘭だ」
「むむむ、秋蘭もか、ん〜……なら私も預けるぞ、私の真名は春蘭だ」

真名に関しては強要するつもりは無いのだけども、二人ならこうするわね。

「ああ、よろしく、秋蘭、春蘭」
「よろしく」
「あ、ああ」

ルルーシュのことはこれでいいとして、

「さてと、後は貴方達ね」

私は趙雲、郭嘉、程cの方に目を向ける。

「貴方達三人も私に仕えなさい」
「!…また、いきなりですな」
「そう?でも予想はしていたでしょ」
「そうですねー…このまま「ハイ解散」と、言われても困りましたしねー」
「…仕官ですか」

何気ない動きからでも解るほど、趙雲の武人としての実力かなりのもの。郭嘉、程cも話をしたかぎり優秀な者達だろう。

「どうかしら?旅を続けてもこの大陸に私以上に仕えるに値する者などいないわよ」
「…さすがは曹操殿、たいした自信ですな」
「自信がなければ、覇道を歩むなどと言わないわ」
「それもそうですな」

趙雲は私とルルーシュを交互に見る

「ふむ、これは面白くなりそうだ。…では、ひとまず客将として雇っていただけますかな」
「…ええ、かまわないわ。郭嘉はどうするの?」
「もう少し旅を続けたかったのですが…ここに居た方が得るものは多そうですね。私も客将として雇っていただきたいと思います」
「わかったわ。…最後は程cだけど」
「ぐぅ〜」

また寝てるし。

「「寝るなっ!」」
「おおっ…寝てませんよー」
「なら、どうするのかしら?」
「風も客将として雇っていただけますかー」
「ええ、いいわ」
「貴様ら客将ばっかりだな」

正式に仕えようとしないのが春蘭は気に入らなかったようね。

「いいのよ、春蘭」
「ですが華琳様」
「春蘭は私が部下に見限られるような主だと思うの」
「そんなことは決してありません!」
「なら、何も問題ないわね。もしこの者達が出て行くなら、私の器がその程度だったというだけのことよ」

まぁ、正式に仕官しないのは天の御遣いのせいかもしれないけどね。

「ふふっ、私の真名は星、これからよろしく頼みますぞ」
「私の真名は稟です、これから宜しく願いします」
「真名は風なのです、よろしくですよー」
「私も華琳でいいわ、三人ともこれからよろしくね」






―――――――――――――――






「この数日で、あの四人を秋蘭はどう見たかしら」
「そうですね、まず星ですが、…個人の武は姉者にも劣らないほどの、一流の槍術の使い手です」

我が右腕にして我が軍最強の武人、春蘭と互角の武を有するか。

「また将として軍を率いた経験も有り、頭もきれます。我が軍に慣れれば、私や姉者と並ぶ将軍となりましょう、…ただ」
「ただ?」
「あまり仕事に熱心ではなく、昼真から酒を飲んでいるところをよく見かけます…まぁ酔って仕事がおろそかになることはないようですが」
「才のあるものは癖があるものよ」

その程度はたいしたことないわ

「……そうですね」

…今の変な間、きっと自分の姉のことを考えたのでしょうね、春蘭もかなり癖があるから、…まぁそれは秋蘭もなのだけど。

「次に風と凛ですが、二人もまたとても優秀です。任せた仕事はすばやく終わらせますし……風は寝てばっかりいるように見えるのに、いつの間にか終わっているので皆不思議がっていますが」

…それは確かに不思議ね。

「あと稟の書類には、なぜか時々血が付着していて、皆怖がっています」

…それは確かに…怖いわね。

「さ、才のあるものは癖があるものよ」
「そ、そうですね」

その程度はたいしたことないわ…たぶん。

「うちの文官の中で軍師志望の者達と二人とで小規模の模擬戦をさせてみたのですが、二人の圧勝でした」

うちの文官たちでは相手にならないでしょうね。

「あの二人なら華琳様を支える軍師として、申し分ないかと」

三人はここに来る前、幽州の公孫賛の元にいたと言っていた・・・公孫賛は小物だから、あの者達を繋ぎとめることは出来なかったのでしょうね。

「ルルーシュに関しては一昨日話したとおり」
『コンコン』

扉を軽く叩く音が秋蘭の言葉を遮る。

「誰?」
「ルルーシュだ、華琳今いいだろうか」
「ええ、入りなさい」

初めて会った時の豪華な服ではなく、街で買える普通の服を着たルルーシュが入ってきた。
顔が良いから何を着ても似合うわね。

「今扉を叩いたのは貴方の世界での習慣かしら?」
「ん…ああ、ノックといってな、部屋の中の者に訪ねて来たことを知らせる方法だ」
「…いきなり大声で呼びかけるよりはいいかもね」

春蘭の声は大きいから教えようかしら。

「それで昨日言われた、街の治安向上の件なのだが」
「あら、もう出来たの?」

ルルーシュには昨日、街の治安維持・向上の草案を本案にするように命じた。
ルルーシュは来た当初、読み書きも満足に出来なかったため、文官をつけてそれらを教わるところから初めさせた。
普通ならまだ仕事を任せたりしないのだが、一昨日秋蘭から聞いた話では、読み書きは瞬く間に完璧に出来るようになり、貸し与えた書物は全て把握し、つけた文官がルルーシュの次々出てくる質問に答えられなくなって、秋蘭に泣きついてきたらしい。
なので、三日という厳しい期限で仕事を任せてみたのだが。

「いや、まだ7、8割といったところだ。だがこれ以上細かいところを詰めるためには実際の現場を見て、警備隊の者達に話を聞く必要があるのでそのための手配をしてもらいたくてな」
「…なるほどね、秋蘭」
「は!、では明日行えるように手配しておきます」
「なら秋蘭、これを警備隊に渡してくれないか」

そういってルルーシュは竹簡を一つ秋蘭に渡した。

「これは?」
「明日隊の者に聞きたい質問等だ、予め知っていればすぐに答えれるだろ」

用意がいいわね。

「わかった、渡しておこう」
「そっちに持っているのは、途中の治安向上の案かしら」
「ああ、見るか」
「ええ、本来なら途中の案など見るに値しないのだけどもね、今回は初めてだから特別に見てあげるは」
「それはどうも」

ルルーシュから竹簡を受け取る。
思っていたより数が多いわね。

「複数あるようだけど?」
「ああ、一つ目は草案の人手と経費で、出来るだけ治安向上させるための案、二つ目は草案よりも人手と経費が掛かるが一つ目より治安の向上が見込めるだろう案、それと人手と経費を増やす場合、何処から用意するかを書いてある」
「…そう」

書類に目を通す。
…文字はあまり綺麗ではないけれど、上手くまとめてあるから読みやすい。
詰所を増やし、兵を常駐させる…起こった事件に対処するではなく、事件が起こらないように対処する、ね…確かは人手も経費もかなり増えるが、それについてもちゃんと考えてある。

「いいわ、案は二つ目の方で進めなさい」
「わかった・・・街が大きくなった時ようの改正案も考えてあるが一緒に提出したほうが良いか?」
「…ええ。一緒に見させてもらうわ」

たった一日でこれだけできるなんてね。

「仕事が速いなルルーシュ」

秋蘭も同じことを思ったのだろう。

「そうか?…俺としては手書き、それも慣れていない筆に竹簡だから、時間が掛かってしかたないのだがな」
「「………」」

では、明日の件宜しくたのむと言ってルルーシュは部屋を出て行った。

「とても優秀ね」
「はい……あれはルルーシュが特別なのか、それともルルーシュが言っていた学校とかいう教育機関に通う者は皆、ああも優秀なのでしょうか」
「……多分ルルーシュが特別なのでしょうね」

学とは武器と同じで、有っても扱えなくては意味が無い、そして上手く扱うには鍛錬が必要となる、あの年でこれだけ出来るということは、それは才があるということ。

もしあの日、ルルーシュの言った言葉が冗談ではなかったのだとしたら、並の才ではないでしょうね。






―――――――――――――――






「お兄さん、一つ質問してのもいいですかー」
「ん…なんだ?」

全員が真名の交換をしたあと早速といった感じで風がルルーシュに問う。

「お兄さんは天の国でどういう人だったんですか?」
「どういう?…地位や身分ということか?」
「そうです…風は2000年経ってもそうゆう人間の格差などが無くなるとは思えないのですよ」

…なかなか鋭いわね。

「天の国についての話ばかりで、あなた自身のことは詳しく聞いてなかったわね」

意図的にそうしていたのかもしれないけどね。

「その様な豪華な衣装を着ているのですから、ただの庶民などではなかったように思えますが、どうなんですか」

「地位か、…そうだな、解りやすく言うと、
 
 世界を征服した大国の悪逆皇帝 だな」

「「「「「「………え!?」」」」」」

私でさえもルルーシュの言っていることがすぐには理解できなかった。
…世界を征服!?…悪逆皇帝!?

「ふふっ、冗談だよ。本当は家が金持ちなだけのただの学生さ」

そう言って悪戯が成功したかのような笑みを浮かべるルルーシュ。

「じょ、冗談ですか」
「は、はははっ、それはそうだろうな」

冗談……普通に考えれば当たり前なのだけど…

「しかし冗談とはいえ、皇帝を名乗るとはルルーシュ殿は怖い者知らずですな」
「そうだな、下手をすれば死罪になるぞ」

帝を偽れるなんて重罪もいいところだものね。

「そうか、以後気をつけよう」
「学生というのはなんですかー?」
「学生とは学校、…この時代でいうなら私塾がちかいかな。学問などを教わる教育機関を学校、そこに通う者を学生と言う」
「お兄さんがそれだと」
「ああ」

……ルルーシュが私塾に通っていた、ただの金持ちの息子、ね。

「………そうですか、わかりましたー」

風はじーとルルーシュを見た後、そう言った。
風も私と同じことを思っているのでしょうね。

ルルーシュは嘘を吐いている…そしてもしかしたら、冗談の方が本当なのではないかと。






―――――――――――――――






普通なら世界を征服したとか、大国の皇帝とか、とても信じられない話なのだけど、ルルーシュに関しては今更だしね。

「それにしても、小物の盗賊を追っていったら、四人も優秀な人材を得られるとは、これは天の導きというやつでしょうか、天の御遣いだけに」
「ふふっ、そうね」


……天の御遣いは悪逆皇帝、か



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