視点:星
『キンッ! ギンッ! ガンッ! ギンッ!』
剣と槍がぶつかり合い、幾つもの火花が散る。
相手の剣は細身で長い片刃の刀剣。
「はぁっ!」
奴はその剣を下から斬り上げてくる、と同時に蹴り。
『ガンッ!』
「ぐっ」
槍で防ぐが、その威力に後ろに飛ばされる。
斬り上げと同時に剣の峰を蹴ることで、威力を倍加させたのか。
「変わった剣術を使うのだな」
「我流だからな、剣術と呼べる物ですらねぇよ」
徐公明・・・。曹操軍の伏兵を読み、勝ち目の無い戦いを避け、撤退した隊を率いていた者。
なかなかたいした男だ、とても盗賊とは思えない程に。
まぁ私には及ばないがな。
『シュンッシュンッ!』
「くっ」
公明は私の突きを掠りながらも、前に出て首を薙ぎにくる。
それを体を後ろに反らして紙一重でかわし、跳ね上げるように石突きで顎をうつ。
「ぐぁっ」
さらに槍を回転させ胴を突く。
『ザザッ』
転がるようにして距離をとる公明、その脇腹から血が流れる。
・・・直撃は何とか避けたか。
「・・・・・・ちっ、こんな奴とやりあうことになるなんて、今日は本当にツイてないぜ」
傷口を押さえながら立ち上がり、公明はそんなことを言う。
「ふふ、酷い言いようだな、こんな美人が相手しているというのに」
「自分で自分を美人と言う奴は、性格がブスだと相場が決まっているんだよ」
「私には当て嵌まらない相場だな」
「言ってろ!!」
言うと同時に小刀を投げつけてくる。
「私に同じ手は利かぬぞ」
小刀を弾き、同時に向かって来ていた公明の頭を薙ぐために槍を振る。
『バキッ!』
公明は槍を避けようとせず、さらに前に出て刃の部分を避けて、左腕で頭を庇った。
刃の部分は避けたとはいえ、勢いのついた槍を受け止めた左腕はへし折れる、だが公明は止まらない。
左腕を捨てたかっ!
「もらったぁ!!」
剣を振り下ろす公明。
「あまい!」
私は前に出て体当たりを食らわす。
「ぬっ」
体勢を崩す公明の右腕を狙って槍を振るう。
『ブシュッ』
「くっ!」
右腕を斬り裂かれ剣を落とす公明。
「これで両腕が使えなくなったな」
もう戦えまい。
「…投降しろ、徐公明」
私は投降を促す。
今ここで殺すには惜しい男だ、盗賊だが華琳殿なら、
「・・・・・・はっ、両腕を奪ったぐらいで勝ったつもりか」
公明は負傷した右腕を振る、その手には何も握られてはいない。
「っ!」
だが私の目に何かが飛んできた。
これは…血!?
「油断大敵だぜ、趙子龍!!」
視点:刃
「油断大敵だぜ、趙子龍!!」
俺の飛ばした血で、視界を失った子龍の頭に向けて蹴りを放つ。
蹴りの威力は当たれば十分仕留めれるものだった、当たれば。
『ブンッ』
蹴りは空を斬る。
『バシィッ!』
「な・・・に!」
子龍は見もせず俺の蹴りをかわし、槍の柄を軸足に叩きつけ、
「油断? 何のことだ?」
倒れた俺の首に槍を突きつける。
「これは余裕というものだ」
倒れた俺を見下ろす子龍。
両腕に続いて左足もイッたか・・・・・・。
このままじゃ戦えない・・・・・・だがあれを使ったとしても・・・。
「これが最後だ。 投降しろ、徐公明」
またも子龍は投降を促してきた。
「・・・・・・何故すぐ殺さない? 俺は盗賊だぞ」
「盗賊にも二種類いる、ただ欲望のままに殺し奪う奴と、生きるために仕方なく盗賊行為を行っている奴。おぬしは後者だ」
「何故そう思う?」
「武を交えれば、相手がどのような者かだいたいわかるさ。 それにこのような時代だ、盗賊全て殺しては漢から人が居なくなる」
・・・・・・たしかにな。
「曹操殿は才を持つ者なら身分など気にしない。お前ほどの者なら取り立ててくれるだろう」
「お前が居れば俺など必要ないんじゃねぇか」
「私が100人位居れば必要ないだろうがな、生憎私は一人だ。 優秀な者はまだまだ足りぬのだよ、天下を獲るためにはな」
天下を獲る!?・・・・・・
「・・・たかが一太守が天下を狙うか」
「ああ、それが【覇王 曹孟徳】だ」
【覇王 曹孟徳】・・・・・・。
盗賊に対して容赦がないと聞く……それでも今より生き残れる可能性はあるか。
「わかった、投降しよう」
視点:華琳
「あなたが星が捕らえた盗賊ね」
砦から出てた盗賊達を殲滅したあと、星の捕らえた捕虜から話を聞くこととなった。
こちらの銅鑼の音を自分達の出撃の合図と勘違いするような盗賊が伏兵を読んでいるはずも無く、だから星も遊撃隊を率いてすぐに戦に参加すると思っていた。
だが、出撃してきた遊撃隊に星はおらず、星が戦に加わったのはかなり後になってからだ。
何をしていたかと聞いたら、「伏兵を読んだ者を捕らえに行った」と言う。
それが目の前の男。
「徐晃だ。あんたが曹操か」
捕らえられ、今すぐ首を刎ねられてもおかしくないこの状況で、男はすこしも恐怖しているように見えない。
「貴様、盗賊ごときが華琳さまにそのような口の利き方を」
無礼な物言いに、いつもの様に怒り出す春蘭。
「お前の言う通り俺は盗賊だ、口の利き方など求めるな」
「なっ、貴様ぁ」
「やめなさい春蘭」
「・・・わかりました」
今にも斬りかかりそうな春蘭をさがらせ、徐晃に改めて問う。
「何故仲間を見捨てて逃げたのかしら?」
もし自分の身大事さに仲間見捨てというなら、捕らえた星には悪いけど…、
「・・・・・・勘違いしているようだが、俺の仲間は一緒に逃げ出した20人だけだ。出撃した連中は同じ盗賊というだけで仲間じゃねぇ」
・・・違う盗賊団と言うこと。
「それでも一応、伏兵がいるから出撃は止めようとしたんだがな」
「・・・伏兵を読んでいたのは本当のようね」
「ここの盗賊を討伐しに来たにしては、砦の前に居た兵は少なすぎた、噂に名高い曹操軍が相手の偵察を怠るとも思えない、なら砦の前の兵は囮で伏兵が居ると考えるのが普通だろ」
それを普通と言える盗賊なんてそうはいないでしょうけどね。
でも…。
「だが仲間でないなら、何故あの砦に居のだ」
私が聞こうとしたことを一緒に話を聞いていたルルーシュが問う。
「……物資や情報の交換のためだ」
「盗賊同士が物資や情報の交換?」
「ああ、持ちかけたのはこちらからだ。俺達は色々なところの盗賊団と繋がりを持ち、物資や情報を交換をしている」
・・・・・・盗賊というよりまるで商人ね。いえ、交渉相手が盗賊ではいつ襲われるか解らない、商才だけでなく武力も必要になる。
「陳留の太守、曹孟徳の話はよく聞く、対峙したならすぐに撤退。それが曹操軍の情報を集めた結果だ」
「なかなか正確な情報だな」
「お前のことも聞いているぞ。天の御遣い ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
……ルルーシュは特徴的な容姿してるし、噂は故意にながしているしね。
「……なんでも一里歩いただけでも、疲れて休暇するとか。……よくここまで来れたな?」
「あら! 本当に正確ね」
「違う! 間違っているぞ!」
ルルーシュは否定するが
「違うか?」
「違わぬだろ」
秋蘭と春蘭の容赦無い言葉に『ズーン』みたいな感じに落ち込むルルーシュ。
「はははは、そう虐めるものでもないだろう。ルルーシュが私を遊撃隊とするよう言わなければ、この男には逃げられていたのだぞ」
「わざわざ捕らえる必要なんてあったのかしら」
気に入らないと顔で主張する桂花。
「それも趙雲自ら、将としての自覚が足りないわ」
桂花の言い分もわかる。
結果的に問題なかったが、星が遅れたことで隊に甚大な被害が出ていたかもしれない。
あの程度の盗賊に遅れをとるような兵では、それはそれで問題あるけどね。
「私が行かず兵だけで追わしていたら、皆殺しにされていたであろうな」
星にそこまで言わせるほどの実力か。
「必要が有ったか無かったかはこれから決まることですよ〜」
風の言う通り、それはこれから私が決めること。
「無いに決まっているわよ、男なんて」
この子に男嫌いも相当ね。
男を嫌うのは良いけど、侮るのはどうかと思うわ。
「……では最後の質問よ。 何故あなたは盗賊をしているのかしら? あなたなら盗賊などにならなくても、軍に入るなり商人になるなり、いくらでも道はあったでしょう?」
最後の質問、これで生かすか殺すか決めるということ。
徐晃もそれはわかっているはず、でも、
「……こんな腐った国のために働くけるかよ!」
徐晃は吐き捨てるようにそう言った。
「こっちが飢えているのに高い税を獲り、逆らう奴は皆殺し。 俺の生まれた村は官軍によってに焼かれた、税を納めず官に逆らった見せしめとしてな」
今のこの国ではそう珍しくもない話…無能な上に下種な者が統治する場所では。
この男は季衣よりもこの国を恨んでいる。
「奪われたなら奪い返せばいい! 生き残った時俺はそう思った。 盗賊になった理由としてはそんなところだ」
「……そう、わかったわ」
最後の質問の答えを聞き、私は決断を下さなければならない。
皆の視線が私に集中する。
「
私が言葉を発しようとした時。
徐晃がルルーシュに襲い掛かった。
「「「「「「っ!」」」」」」
視点:刃
完璧な奇襲だった。
狙いはルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、弱く且つ人質しての価値のある者。
後ろで腕を縛っていた縄を隠し持っていた小刀で切り、冗談のようなことを言って警戒を和らげ、全員の意識が曹操に集中したこの一瞬。
完璧な奇襲だった……はずなのに、
『ズガンッ!!』
「がはっ」
指がルルーシュ・ヴィ・ブリタニア触れる寸前、俺は凄まじい力で顔面から地面に叩きつけられた。
それを行ったのは、
「「「「「「春蘭(姉者)っ!」」」」」」
夏候惇だと!? 馬鹿な!?
曹操軍一の武の持ち主だと聞くが、その反面、脳筋将軍としても有名だ。
こんな奴に、
「な、何故俺の行動が読めた?」
「ん……勘だ」
「勘だと!?」
「ああ、詳しく言うと「こいつは何かしそうだな」みたいな感じだ」
全然詳しくねぇよ!
「お前の目は死を覚悟した様にも、生を諦めた様にも見えなかった、だから何が起こっても対処できるように警戒していた。と姉者は言いたいわけだ」
「うむ、そんな感じだ」
何故わかんだよ夏候淵!?
「さすが春蘭ちゃんですね〜、二重の意味で」
「ふん、脳筋もたまには役立つわね」
……脳筋だからこそか。
「この期におよんでこの暴挙、もはや生かしておけぬな」
夏候惇はそう言って、大剣に手をかける。
「お、俺は」
こんなところで、
「俺はこんなとこで死ぬわけにはいかねぇんだよ!!」
俺はなんとか夏候惇の拘束から逃れそうと力を込める。
『ブシュッ』
趙子龍に付けられた傷が開き血が噴出す。
だがどれだけ足掻こうと、夏候惇の圧倒的な力から逃れることが出来ない。
「……それでも私はお前を殺さねばならない」
大剣が振り下ろされようとして、
「待ちなさい! 春蘭」
「華琳さま?」
曹操の一言によって止められた。
……なんのつもりだ。
曹操は俺の方に近づいてきて、
「徐晃、あなた、私に仕えなさい」
「なっ!?」
……何を言っているんだこいつは、
「聞こえなかったのかしら? 私に仕えなさいと言ったのよ」
盗賊で、さらに今天の御遣いに襲い掛かろうとした俺に仕えろだと、
「……何を考えていやがる?」
「今の奇襲、見事だったわ。春蘭がいなければ確実に成功していたでしょうね」
曹操の言葉に嫌味は無く、純粋に俺を評価しているようだった。
「桂花の策を見抜いた知、星が認めるほどの武、そしてなにより、どれだけ絶望的な状況でも生きようとするその執念。気に入ったわ」
「………俺は言ったはずだ。こんな腐った国のために働く気などないと」
「ええ、でも私も言ったはずよ、私に仕えなさい、と」
先ほどまでよりも感じる凄まじい覇気。
「あなたの言う通りこんな腐った国に価値など無い。だから私が壊してあげるわ! そして私が王となって新しい国を創る! 民を守る強い国を!」
……これが【覇王 曹孟徳】……この方なら本当に。
「……一つだけ条件がある」
「言ってみなさい」
「俺の仲間も一緒でかまわないか」
「仲間…盗賊の」
「俺と同じ村の生き残りだ。俺にとっては家族も同然の連中なんだ!」
「……わかったわ、良いでしょう。 春蘭」
曹操の言葉で拘束を解く夏候惇。
俺は起き上がり、傷ついた体で、片膝をつき臣下の礼をとる。
「姓は徐 名は晃 字は公明 真名は刃と申します。我が刃曹操様の覇道のために御使いください!」
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