視点:刃

『コンコン』

俺は扉を軽く叩く。
天の国の風習で、ノックというらしく、城では使用することになっている。

「誰かしら?」
「刃です。曹操さま、今よろしいでしょうか?」
「ええ、入りなさい」

曹操さまの許可をもらい部屋に入る。
部屋では曹操さまが一人で仕事をなさっていた。
他に誰もいないのは都合がいい。

「珍しいわね、あなたが一人で私の部屋にくるなんて、何の用かしら?」
「実は・・・・・・この前の視察の件で、曹操さまに話しておきたいことがあります」
「・・・・・・それはあの占いに関係あることかしら」
「はい」
「・・・・・・わかったわ、聞きましょう」

曹操さまは筆を置き、こちらを向く。
     ・

     ・
     ・
     ・
     ・
「そう・・・・・・」

曹操さまは俺の話を聞き終え、思索する。

「・・・・・・このことは秘密にしておきなさい、当然ルルーシュにもね」
「はっ」

今の話をルルーシュにすれば、ルルーシュがここから去る可能性がある、それは曹操さまの不利益に繋がる。
命令されるまでもなく話す気はなかった。

「では、失礼します、曹操さま」
「待ちなさい、刃」

出て行こうとして、呼び止められる。

「今後は私のことは、華琳と呼びなさい」
「・・・・・・よろしいのですか?」
「ええ、・・・・・・秘密を話してくれた礼よ」

ルルーシュは例外にしても、曹操さまは男に真名を許すことは無いと思っていた。

「・・・・・・ありがとうございます。真名を許された者として、恥じぬよう精進いたします、華琳さま」
「ふふ、期待しているわよ、刃」
「御意」






「はあっ!」
「ふんっ」

春蘭の大剣をなんとか受け流す。
相変わらず凄まじい斬撃だ

華琳さまの部屋を後にした俺は、中庭で鍛錬をしていた春蘭達に加わりと剣を交えていた。

『ギンッ キンッ ギンッ!』 

春蘭の剣は一撃一撃が重いうえ、速くて正確だ、普段のバカな言動からは想像出来ないほど技術が高い。
だからと言って安易に負ける気は無いがな。

「せいっ!」

春蘭の横薙の一撃。

『カンッ』

それを剣の頭の部分で受け、その反動を利用して回転し、勢いをそのままに突きを繰り出す。

「はっ!」
「くっ」

『ザザッ』

春蘭は体ひねるようにして突きかわし、距離を取る。
・・・肩を掠めただけか、反応速度も半端ねぇな。

「あいかわらず、おかしな技を使うな刃」
「勝てれば、何でもいいでな」

おかしいかどうかなんて、勝って生き残ることに比べればどうでもいいことだ。

「ならその剣で私の勝ってみろ」
「言われるまでもねぇ!」

『ギンッ!』






「軍に入ってからさらに腕を上げなた刃」

春蘭との手合わせの後、休憩していると星が話しかけてきた。

『ドサッ』
「・・・・・・う、ううぅ・・・」
「・・・・・・・・・それが事実なら盗賊だった時と違い、自分と互角以上の者と鍛錬が出来るからだろうな」

元盗賊の仲間で俺と互角に戦える者はいなかったからな。

「・・・・・・確かにお前の言う通り好敵手と競い合うは何よりも良い鍛錬になる」

そう言って星は、春蘭と俺と交代して相手をしてる秋蘭とのほうへ目やる
好敵手か・・・

「・・・う、うぅぅ・・・」
「・・・ところでそれはいいのか?」

それというのはさっきから呻き声を上げている・・・

「ルルーシュことか?」
「・・・うぅぅ・・・」

そうルルーシュだ。
始めに『ドサッ』と地面に置かれたルルーシュだ。
軽くボロ雑巾のようになっているルルーシュだ。

「いつものことだ」
「・・・・・・いつもなのか」

確かにこの程度普通の兵士相手であれば何も問題ないことだが・・・

「天の御遣い相手にここまでやるか?」
「甘やかすのはルルーシュのためにならないからな」

甘やかすとか、そういうことではないと思うがな。
ルルーシュの、陳留の天の御遣いの噂は盗賊の時からよく耳にしていた。
噂というものは、尾ひれがついて実物はたいしたことがないという事が多いが、ルルーシュの場合むしろ噂の方が大人しいぐらいだ。
政事、軍事、街の警備とルルーシュの仕事が多岐にわたり、さらに様々な新しい案をいくつもあげているとか。
多少体力が無いぐらいでは釣り合いが取れないほど優秀さだ、だからこんな立てなくなるような鍛錬を行うのは、時間の無駄どころかむしろ損害になると思うのだが。

「ルルーシュが剣を取るようなことにならないよう、敵を倒すのが俺らの仕事だろう」
「勿論だ。だが敵が真正面からばかり来るとは限らんだろう。ルルーシュの才であれば、そう遠くないうちに必ず諸侯から目をつけられるだろう、そうなれば裏からルルーシュを消そうとする者も出てくる、そのときになって慌てて鍛錬しても意味は無いからな」
「・・・・・・一応考えているみてぇだな」

噂ではルルーシュをいじめて楽しんでるという話も聞いていたんだが・・・まぁどっちもなんだろうな。

「それに・・・」
「ん、なんだ?」
「いや、なんでもない」

そう言う星は鋭い目で春蘭と秋蘭を見つめている。

「・・・・・・まぁ、いずれにしろ、今日のところはルルーシュの稽古は終わりなんだろ」
「ああ」
「なら医務室に運んでやるか」

そう言って俺は今だ意識が戻らないルルーシュを抱きかかえる。

「ふふ」
「何がおかしい」
「いや、刃は優しいなと思ってな」
「勘違いしてんじゃねぇよ。このままにして、風邪でもひかれては寝覚めがわりぃだろ」
「ふふ、そういうことにしておこう」
「ちっ」

俺はニヤニヤ顔をやめない星を背に医務室へと向かった。







ルルーシュを医者に渡し、医務室出る。

「さて、どうするか」

今日は非番・・・街にでもでるか、
そんなことを考えながら歩いていると、縁側で象棋盤の前に一人座っている程cを見つけた。
棋譜の研究でもしているのかと思ったが

「ぐうぅ」
「・・・寝てるのかよ」

盤を見ると動いている駒は一つだけ。

「・・・・・・・・・」

なんとなく、俺は程cの向かいに座り、駒を手に取る。

【パチンッ】

「おおっ、・・・・・・これはまた、珍しい相手が釣れましたね〜」

俺が一手うつと程cが目を覚まし、一手うつ。

【パチンッ】

「釣れた?」

さらに一手。

【パチンッ】

「糸を垂らす変わりに、象欺盤を置いて、風は対戦相手が釣れるのを待っていたのですよ」

【パチンッ】

・・・・・・まぁこのまま象欺をうつのもいいか、

「程cはよくここで、その釣りをしているのか」

【パチンッ】

「そうですね〜」

【パチンッ】

「誰も来なかったらどうするんだ?・・・・・・」

【パチンッ】

「それならそれで、お昼寝して終わるだけなのですよ」

【パチンッ】

「のんびりしているな・・・・・・」

【パチンッ】

「それが良いのですよ〜・・・・・・それにこんなふうに予想外な相手とうてるのが、この釣りの醍醐味ですしね〜」

【パチンッ】

「なるほどな・・・・・・」
     
【パチンッ】

「ところで、徐晃さん」

【パチンッ】

「ん?」

【パチンッ】

「お兄さんを知りませんか?・・・・・・今日は星ちゃんと稽古の日ですけど、そろそろ戻ってきてもいいころなんですよね〜」

【パチンッ】

「あ〜、・・・・・・今は医務室だ」

【パチンッ】

「・・・・・・またですか〜」
    ・
    ・
    ・
    ・
    ・
「まいった。・・・・・・もう少し、頑張れるかと思ったんだがな」

象欺の結果は大敗。
さすが華琳さまの軍師を勤めるだけのことはある。

「徐晃さんも、なかなかの腕前ですよ」
「これだけ圧勝しておいて、そんなこと言われてもな・・・」

おそらく十戦しても、一勝も出来ないのは確かだろう。

「いえいえ、十分強いですよ〜。徐晃さんは本当に勝つ可能性が零になった時点で、負けを認めましたし・・・・・・大抵の人なら、勝てる可能性に気付かずもっと早い段階で投了するか、もしくは逆に勝つ可能性が零になったことに気付かず詰むまでやめないかどちらかですから」
「・・・・・・負け方を褒められてもな」
「勝機の無い戦いはしない、引き際が肝心なのは戦と同じですよ」

そんなものか・・・・・・?

「今後風を呼ぶときは真名でいいですよ〜」

『軍師の象欺は、武人の組み手と同じ』・・・・・・認めらたということか。

「・・・・・・俺も刃でいいぞ」
「はい〜、これからもよろしくです〜、刃さん」
「ああ、よろしく、風」

今まではあまり関わる機会がなかったが、ルルーシュだけでなく、ここ軍師が皆優秀だと聞いている。
・・・・・・だが、風は華琳さまの家臣ではなく、客将と聞いたが・・・・・・風だけでなく、郭嘉と星も・・・・・・

「・・・・・・おや風、珍しい方と象欺をうってますね」

丁度考えていた人物の一人、郭嘉が現れた。

「おかえりなさいです〜」
「ただいま。今日の釣りの獲物は徐晃殿だったのですか」

獲物・・・・・・釣りにかかったわけだから、確かにそうなるか。

「結果は見ての通りだがな」

郭嘉は俺達がうち終わった象欺盤をみる。

「ふむ、確かに風が大差で勝っていますが・・・・・・・・・・・・面白そうですね」
「稟ちゃんなら見ただけでわかりますよね」
「ええ、・・・徐晃殿、次が私とうちませんか?」
「まぁ、構わねぇが」
「ありがとうございます」

稟は向かいに座り、駒を並べる。

「・・・・・・そう言えば徐晃殿。斥候部隊長に就任されたそうですね」
「・・・・・・まぁな」

【パチンッ】

俺と元盗賊の仲間だった者の数名が斥候部隊に配属されることになった。

「華琳様より俺が隊長と聞いたときは耳を疑ったがな」
「・・・・・・能力を考えると適任だと私は思いますよ。・・・隠密行動が取れ、情報収集に長けている、さらに指揮能力が高く、腕も立つ。この条件に合う武官はそうはいません」

【パチンッ】

「元盗賊でもか」

【パチンッ】

「ええ、・・・今までのあなたの働きぶりは皆が認めていますから。なにより実力重視だからこそ、あなたは今ここにいるのでしょ」

【パチンッ】

「そうだったな」

【パチンッ】

「人質にされそうになったルルーシュ殿も、気にしていないどころか、むしろ推してましたし・・・・・・あら?」

稟が何か気づいたように、軍師室の中を見る。

「ん?」
「ルルーシュ殿は、まだ戻ってきてないのですか、もうとっくに稽古の終わってるはずでは」

【パチンッ】

「・・・・・・医務室だ」

【パチンッ】

「・・・・・・またですか」
    ・
    ・
    ・
    ・
    ・
    ・
「まいった。・・・・・・やっぱ勝てねぇか」
「思ったとおり、なかなか面白い勝負でしたよ」

郭嘉はそう言うが、風の時同様大敗だ。

「風は何をしてくるかわからないうち方だが、郭嘉は隙の無いうち方といった感じだな」
「お兄さんや華琳様が風達をうった後も同じことを言っていましたね〜」
「徐晃殿は武官とは思えないほど慎重なうち方をしますね。でもここぞというときは思い切ったうち方も出来る。もっと数をうてば、良い勝負になると思いますよ」
「数をうつにも、周りにうてる奴がいないからな」
「うちたくなったら、ここにくればいいですよ。・・・・・・それと私のことは稟でいいです、華琳様のことも真名で呼んでいるようですし」

・・・・・・今日はよく真名を預けられる日だな。

「そうか、俺も刃でいいぞ。これから宜しく頼む、稟」
「こちらこそ、刃殿」






「ここのときにこううっていれば、私も難しい展開でした」
「なるほどな」
「・・・なんでここに徐晃がいるのよ?」

稟と象欺の検討をしていると、そんなあからさま嫌そうな声をかけられた。
声の主は見るまでもなく軍師室で働く最後の一人、猫耳の軍師雑用荀ケだ。

「桂花、戻られたのですね」
「おかえりなさいです〜」
「ただいま。まったく風、買い物なんて他に頼みなさいよね」

そういって、桂花は街で買ってきたのだろう荷物を風に渡す。

「ありがとうなのです〜」
「お前は雑用なんだ。買い物ぐらい当然だろ」
「・・・・・・うるさいわね。私はもう軍師見習いよ、買い物なんかよりもっと重要が仕事があるのよ、あんたと違って」
「まるで俺が暇人のような言い方だな」
「仕事もせずにこんなところで象欺うってて、暇人以外のなんだというのよ」
「それは風や稟に言うんだな。俺は今日非番だ」
「・・・あんたいつの間に二人と真名を交換したのよ」
「ついさっきだ」
「よくこんな男と真名を交換する気になったわね」

相変わらず酷い言いようだ、・・・・・・もう慣れたが。

「「・・・・・・・・・・・・」」
「どうした」
「どうしたのよ」

風と稟が驚いたような顔で俺と桂花を見ていた。

「桂花ちゃんと刃さんは仲が良いのですね〜」
「そんなわけねぇだろ」
「そんなわけないじゃない」
「そうは言っても、桂花がルルーシュ殿以外の男性と普通に会話しているのは、初めて見ましたよ」

今ので普通か・・・・・・
確かに初めの頃に比べればましだが。

「別に仲良くなんかないわよ。ただ城の雑用をしていた時に少し関わることがあっただけよ」

俺がここに入った当初、城の雑用をさせられいた時に、荀ケもまた降格して雑用をしていた。
桂花と違って、俺は力仕事を多くやらされていたが、それでも同じ作業を行うことがあった。
男嫌いな荀ケは、はじめの頃はそれこそ会話どころか俺の顔すら見ようをしなかった。
俺も自分から進んで話しかけることはなかったのだが、それでも話すようになったきっかけは、荀ケが便所掃除を手伝った時だったか

「荀ケは便所掃除ひとつまともに出来なくでな、迷惑をかけられたものだ」

荀ケが男嫌いがかなりのもので、最初は男が使った便所にはっただけで、吐いていたからな。

「うぅっ、私から手伝ってくれなんて言ったことないでしょう、それに最後にはちゃんと掃除できるようになったわ」
「普通の倍が時間がかかっていたがな」

まぁでも、胃の中の物は吐いても、弱音を吐かなかったなのは、たいした根性だがな。

「ほんとうるさいわね〜、だいたい非番だからって、なんであんた稟と象欺うってるのよ」
「刃さんは今日の風の獲物なのですよ〜」
「獲物?・・・ああ、あの釣りの」

ここでは、あの説明で通じるのだな。
荀ケが象欺盤をみる。

「ふ〜ん、稟の圧勝ね、風の時は」
「似たようもんだ」
「・・・まぁ男なんかに負けていたら、軍師失格だけどね」
「そんな考えだから、ルルーシュに負けて雑用になったのをもう忘れたのか」
「な、なんであんたがその事を知っているのよ!?」
「星から聞いたんだよ。他には話してないか安心しろ」
「・・・・・・うぅ、ルルーシュ様はいいのよ、男じゃないから」
「いや、男だろ」
「男ですよ」
「男ですね〜」
「違うわよ、天の御遣いよ。だからルルーシュ様に負けても、男に負けてことにはならないのよ」
「なんだ、その理屈は」
「その理屈なら、解らなくはないですね」

わかるのかよ稟!

「なんなら、証明してあげましょうか」

そう言って荀ケは象欺盤を指差す。

「風や稟に負けて、私にも負けるのが嫌って言うなら、別にいいけど」

随分安い挑発をしてくるな、・・・・・・まぁいい。

「ああ、ついでに勝負するか」
「ムッ、ついでで泣きべそかかせてやるわ」

象欺に泣くほどこだわりなんかもってねぇよ

「一つ規則を追加していいか」
「なに、駒落ちの要求かしら、別にいいわよ。それでも負ける気はないし」
「そんなことは言わねぇよ。お互い一手十秒、それだけだ」
「・・・十秒うちなら勝てると思っているのかしら」
「さぁな、やってみねぇとわからないだろ」
「ふん、良いわ、それでいきましょう・・・・・・あれ?、そういでば」

荀ケは軍師室の中を見る。

「ルルーシュなら、医務室だぞ」
「・・・またなのっ!!」






結局、荀ケとの象欺は俺の負けだった。
まぁ風や稟と比べれば大分いい勝負だったが、やはり華琳様の軍師を目指すだけのことはある。
荀ケは不満だったようだがな。

「しかし、軍師相手とは言え、三戦とも完敗か・・・・・・」

象欺の書でも買いにいくか、負けっぱなしなのは癪だしな。




あとがき
久々の投稿。



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