第三章【IF展開でマインクラフト】
管輅という占い師がいる。彼女は各地を渡り歩き、占いをしてはフラッと次の街に移る。
そんな彼女が『近く訪れるであろう乱世を治める救世主が流星と共に現れる』との予言をしたという。
絵空事だ、眉唾物だと思っていた。そう――カクが行った奇跡とも、妖術とも言える技を見るまでは。
(カクこそまさに天から遣わされたに違いないわ! 私達の陣営に加わったのも天命ね!)
近い日に乱世が起こるのは確実だろう。朝廷は何進と何太后が牛耳り、今の帝はお飾りに過ぎない。
その何進と何太后も宦官である十常侍に思い通りに操られている噂もある。
この体制が続けば朝廷崩壊は必至――ならばそれを救う英雄が必要になる。それが主たる袁紹だ。
(華麗に! の一言で私の立てた策が散々潰れてきたけど……信じて付いてきて良かった!)
乱世の覇者、王者の器量を持つ最高の主! なのだろうかと疑った時期もありました。けれども思い直しました。
カクが自軍の力になれば、意外と世渡り上手な上に極運を持つ主の袁紹。天下を治めるのも決して夢物語ではない。
「誰か!」
「はっ! 田豊様、お呼びでございますか?」
「カクをここに呼んで来て。話したいことがある」
「畏まりました」
地下室の件を袁紹に報告し、実際に彼女に見せたところ、一刀の待遇は劇的に改善された。
私室を与えられた上、街への出入りも自由。更に袁紹への謁見も常時許されている。客将としては破格の待遇である。
それを羨み、妬む声も無いとは言えない。しかし小さな身体で日々発掘とモノ作りに励む一刀の姿は好意的な声が圧倒的に多かった。
(カクは僅か一日で大量の鉄を作り出し、地下室も作れる。斗詩の報告も合わせれば家も作れるみたいだし……)
ここ数日一刀を観察してきたが、正直言って知りたいことは山ほどある。
鉄と同じように食料も作り出せるのか、城の補修・強化は可能か、明らかに大きさ以上の物が軽く入る不思議な箱は量産可能か……。
だが焦ってはいけない。こちらが詰め寄りすぎれば、向こうが機嫌を損ねてしまう場合がある。ここを出ていかれては元も子もない。
真名も袁紹と共に預けたし、信頼関係は構築出来ていると思いたいが。
(軍師たるもの冷静さが大事よね。麗羽様には必ず天下を取らせてみせるんだから!)
「田豊様、失礼致します」
「ああ、ご苦労様。それでカクは?」
「はっ。それが……」
◆
「休憩しないで来たけど、カクちゃん大丈夫?」
(大丈夫ですよ。はぁ〜斗詩さんの身体柔らかい)
「ふふっ。その様子だと大丈夫みたいだね」
一方その頃、一刀は顔良と一緒に旧自宅がある場所へと向かっていた。相乗りのおかげでラッキースケベな一刀である。
ここに来る予定は一切無かったのだが、新たな素材を夢見て物思いにふけっていたところ、通りがかりの顔良に目撃された。
その結果、彼女は一刀が昔の場所を恋しがってると思ったらしく、二人で馬に乗ってそこへ移動中――という訳である。
偶然にも一刀が見ていた方向は昔の自宅がある場所であった。
(まあでも昔の家をそのままにしておくのもな。解体して材料に戻しておくのも良いか)
別荘にするには少し不便な場所だしなぁと一刀は思った。
その様子を見た顔良はまた恋しがっていると思ったらしく、早く着いてあげようと思っていた。健気である。
「この先はまだ盗賊が出没するみたいだから、私から離れちゃ駄目だよカクちゃん」
(絶対離れないですよー)
「ん? 心配しなくて大丈夫だよ。こう見えて私、結構強いから」
顔良の背には身の丈以上ある巨大な槌が背負われていた。所謂男の浪漫、巨大ハンマーである。光にはならない。
これだけでも彼女がただ者でないことが分かるが、顔良の訓練の様子を見ている一刀は誰よりもその強さを知っていた。
優しい顔をしてなかなかに苛烈な攻撃を行うこと、訓練相手の兵をバッタバッタとなぎ倒していったことは記憶に新しい。
本人曰く「小回りの利く攻撃が得意なんだよ」とのことだが、とてもそうは見えなかった。
(心配する要素が無いよなぁ。装備が揃ってない俺じゃ足手まといだし、素直に従おう)
そうこうしている内に目的地へと到着した二人。盗賊に遭遇することもなく、安全な道中であった。
懐かしの我が家だ〜、と近づこうとした一刀だったが、顔良に止められた。見ると彼女の顔は厳しい表情を浮かべている。
「カクちゃん、近づいちゃ駄目。すぐ傍から複数の気配がする」
顔良がゆっくりと背負っていた槌――金光鉄槌を構え、戦闘態勢を取る。
(何とッ! 不法侵入者が……って、勝手に人の土地に家を建てた俺が言うことではないか。鍵も無いし)
顔良の言葉に従い、一刀は素直に彼女の背に隠れるように移動した。
それを確認した顔良は一刀の旧自宅に隠れる何者かへ向けて声を掛ける。
「大人しく出て来て下さい。私はここら一帯を治める袁紹様配下の顔良です。抵抗しないのであれば身の安全は保障します」
静寂――暫くすると扉がゆっくりと開き、中から三人の女性が姿を現した。
その中で先頭で出てきた眼鏡の女性が始めに口を開いた。
「抵抗は一切しません。これも天命であるなら素直に受け入れます……」
「忠告に従ってくれて感謝します。貴女方は一体何者ですか?」
「はい。私達は――」
顔良が衝撃の事実を聞いている間、一刀は全く別のことを考えていた。
(試作品の自宅だから三人で住むのは狭かったろうに。今後は俺の大きさを基準にしないで斗詩さん達の大きさを基準に考えるか。難しいことではないしな)
◆
「黄巾の乱の首謀者達を捕らえたですって!」
「はい麗羽様。その三人の女はそれぞれ張角、張宝、張梁を名乗っております」
「まあ。斗詩さんはともかく、あのカクもですか。後で私が直々に褒めてあげましょう」
「カクもきっと喜びますよ」
そう言う田豊も内心やったーと叫びたい気持ちであった。流れがこちらに来すぎていて怖い気もする。
だがその流れを調節し、主が飲まれないようにするのが軍師たる役目と俄然やる気が出てきていた。
「しかしその首謀者たる張角達は先の戦で討ち取られたのではなかったのですか? 首も送られた筈でしょう」
「身代わりを買って出た者がいたようで。張角達の素顔を殆どの者が知らなかったことが裏目に出たようです」
「まんまと騙されたという訳ですか。華麗ではないですが、今回のことで帳消しですわね。真直さん、早速その者達の首を刎ねなさい」
「そのことですが麗羽様、私から一つ提案がございます」
「何ですの?」
「その三人、袁紹軍の配下としては如何でしょうか」
田豊からの思わぬ提案に袁紹は驚愕する。
「何を言いますの真直さん。黄巾の乱という大罪、それは死をもって償うほかはありませんわ」
「確かにあの三人のしたことは死罪に値します。ですが彼女達の持つ人心掌握術を失わせるには惜しいのです。死して罪を償わせるよりも、生きて民のため、麗羽様のために尽くさせるほうがよろしいかと」
「う、う〜ん。ですがその人心掌握術を後々私から離反するために使われたらどうするのですか?」
「それは心配ありません。あの三人は死を覚悟しています。ここで麗羽様が慈悲を与え、命を助ければ今後麗羽様のために働くでしょう」
袁紹が迷っている。ここでもう一押しだ、と田豊は決断させる一言を告げた。
「更に言えば彼女達は元は旅芸人です。集めた民衆に麗羽様は慈悲深き華麗な統治者と広めてもらえれば、民衆は麗羽様を一層敬うでしょう」
この時、袁紹の目がキラリと光ったのを田豊は見逃さなかった。
「慈悲深き華麗な統治者…………良い! 良い響きですわ!」
「そうでしょう。麗羽様以外、華麗という言葉が似合う方は居ません」
「オーホッホッホ! 当然ですわ。真直さん、全て貴女に任せます。張角、張宝、張梁の三人を必ず我が軍に迎えるのですよ」
「お任せ下さい! 必ずや麗羽様のご期待に応えてみせます!」
斗詩ありがとう! カクありがとう! 袁家万歳! と田豊は内心で叫んでいた。
◆
「みんな大好きーー!」「てんほーちゃーーーーん!」
「みんなの妹」「ちーほーちゃーーーーん!」
「とっても可愛い」「れんほーちゃーーーん!」
一刀は思った。めっちゃ元の世界の野外ライブだコレ! と。
急に田豊から歌を披露する舞台を作れないかと頼まれた時には何事かと思ったが、こういうことなら納得である。
袁紹からも三人を捕らえたご褒美として頭をナデナデされた。正直自分は何もしていない気がするが、素直に受け取っておいた。
(頑張って大きめの舞台作ったけど、彼女達動き回ってるし、かえって良かったかな)
それにしてもなかなか楽しい世界である。何せ黄巾党の三人が生きて袁紹軍に仲間入りするというIF展開が目の前に広がっているのだから。
何? それよりも三国志の登場人物が女性じゃないかって? 可愛いは正義なんだ。これで全て納得するんだよ。
「いや〜それにしても人が集まってるなぁ。カクの松明で昼間と見間違うぐらい明るいしよ」
「流石はカクちゃんだね。短時間であれだけの舞台を作るだなんて」
(照れます)
「でも少し歌が下品じゃありませんこと? 私の趣味に合わないような……」
と、袁紹が言いかけた時である。
「みんなー! 袁紹様は、道を踏み外した私達を助けてくれた、とっても優しい人なんだよー!」
「こうしてみんなの前にちぃ達がいるのも、袁紹様の慈悲のおかげなのー!」
「だからみんな、私達と一緒に袁紹様を応援して! 一緒に支えていきましょう!」
「「「ほわわわわわああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
会場に集まった人達の歓声が響き渡る。思わず耳を塞いでしまう程だ。
しかし袁紹はそうではなかった。めちゃくちゃ喜んでいた。
「良い、良いですわ。これこそ私の求めていたもの。民に頼られる華麗な統治者ですわ!」
「おめでとうございます麗羽様」
「真直さん、よくやりました。これからも袁家のため、華麗なる活躍を期待していますよ」
「ありがたき幸せ!」
背が低い故、一刀は頭を下げた田豊の顔が見えた。頬が緩みそうなのを必死に我慢している。
だがそこはあえて黙っておくことにした。人の喜びの時を邪魔してはいけないのだ。
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