第六章【鋼の冒険心でマインクラフト】
(もう朝か。作業に集中してると時間経つのがホントに早い)
ベッドを地下の自室に配置したのいいが、今更寝るのは時間が勿体無く感じて結局徹夜してしまっていた。
それでも万が一のことを考え、一回はキチンと寝た。ゲーム通りすぐに目が覚めて寝た気がしなかったが。
(もうベッドはリスポーンポイントとして完全に割り切ろう……作業してる方が楽しいや)
そして朝、一刀が地下から顔を出すと――
「おはようございますカク様」
「今日一日、我々三人が御身の警護を担当させていただきます」
「私達のことは気にせず、カク様はどうぞ気軽にお過ごし下さい」
ガチガチの体型に鎧を着込んだ男三人が階段付近に一列で待機していた。槍を持ち、剣も腰にさげている。
(えっ……何コレ。メチャクチャ怖いんですけど!?)
朝から物々しい雰囲気を感じ、一刀は心身共にゲンナリした。
そもそも自分にこうして警護が付く理由が思い当たらず、首を傾げた。
「戸惑っておられるようですね。本日より付くカク様の警護は田豊様の御命令なのです」
(真直さんの?)
「田豊様は日頃より一人でお出掛けになられるカク様の身を心から心配しておられました」
「黄巾の乱は収まりましたが、まだ野盗などは出没します。そのような下賎な輩より貴方様を御守りするようにとのことです」
田豊の気持ちは嬉しい。嬉しいが、これは行き過ぎではないだろうか。
こんなにも警護の人間が付いていてはマインクラフターの求める未知への探求が阻害される気がしないでもない。
かと言って一刀に断る手段などない。彼等をまこうとすれば領内中が大騒ぎになるのは確実だろう。
(よ、よろしくお願いします……)
今の一刀には、こうして警護を受け入れるしか選択肢は無かったのである。
◆
夜――田豊の部屋に一人の男が訪れていた。
男は今日の朝から一刀の警護を担当した兵であり、自分を呼び出した彼女の前で礼を取った。
「夜分遅くに失礼致します」
「呼んだのは私だから構わないわ。今日のカクの様子は?」
男は今日の様子を思い浮かべ、思わず笑みをこぼしていた。
「はっ。領内の森林と小川を探索後、街で民の住居の補修を行いました。その後は地下で作業を」
「……全くあの子は。補修を受けた住居の住民はさぞ喜んだでしょう?」
「仰る通りです。カク様が袁紹様に常時謁見を許されているのが分かる気が致しました」
本当はそれだけが理由ではないのだが――田豊は出掛けた言葉をグッと飲み込む。
更に微笑ましい報告を受けたせいで頬が緩みそうになったが、それも何とか抑えた。
「今日一日警護をして、周辺に怪しい気配は感じた? 間者らしき者の姿は?」
「我等の中で感じた者や見た者はおりません。顔良、文醜の両将軍に厳しく鍛えられている我々の目を――」
「大丈夫、信じているわ。だから二人に無理言って警護を頼んでいるのよ?」
田豊の言葉に感無量と言った様子で男は頭を下げた。
「下がって良いわ。明日の警護担当に引き継ぎを忘れないように」
「はっ! 失礼致しました」
男が去った後、田豊は机に身体を投げ出した。そしてハアと溜め息を吐く。
彼女の表情は先程の真面目な様子とは打って変わり、何処か落ち込んだ様子を浮かべていた。
「……戸惑ったわよね。突然で」
その時のことが容易に想像がついた。
だが警護を外す訳にはいかない。カクの技術が他国に漏れれば、それだけで戦いを起こす理由になるのだ。
そしてこのことを本人に話す訳にもいかない。賢い彼のこと、責任を感じてここを出て行こうとするだろう。
彼が出て行かないように尚且つ彼の情報が漏れないように、そうするには今執っている手段が一番なのだ。
「ゴメンねカク。今だけは我慢して……」
次の授業の時間が取れたら、頭を撫でて甘えさせてあげよう――そう思う田豊であった。
◆
あの日から一刀の傍に警護の人間が付き始めた。
人数は必ず三人から四人で、全員がガチガチ体型の兵であった。
これに女の子一人でも混じっていればまだ我慢が出来ただろう。
(駄目だ……! もう限界だ……!)
しかし一刀はもう我慢の限界だった。心のオアシスも今や見上げれば男の兵がビシッと姿勢を正すだけである。
更に言えば、外に出れば一人の時間が殆どない。人間誰しも必要なプライベートな時間がまるっきり無かった。
唯一は出入り口が一つしかない地下室にこもっている時だが、それでもハッキリ言えば苦痛だ。
(くそう……一人で掘ったり採取してる時には感じなかった、見られていることの羞恥心が恨めしい)
まだ見ぬ素材、まだ見ぬ新天地――この二つが一刀を刺激し、誘惑する。
だが一度外に出れば警護の人間が片時も離れず付いてくるだろう。
外に出るから行動が制限される。ならば外に出なければ――
(そうだ! 何で俺はこんな簡単なことに気が付かなかったんだ! ここは地下なんだから掘れば良いんだ)
手当たり次第に先へ掘り進み、適当な場所で地上へ掘り進んで出れば良い。
帰りはそのまま掘ってきた地下を戻ればいいのだから安全に帰れる。
(堂々と掘ってるとバレるよなぁ。……そうだ自室の中から掘ろう! 木のドアがあるし、簡単にはバレないぞ)
そうと決まれば早速石のツルハシとシャベル、そして松明の量産といきたいところだが、もう一つ問題があった。
それは遠出をする以上、どうしても行きと帰りに時間が掛かってしまうということだ。何か打開策が必要である。
(現状で出来る物と言えば……)
馬――まだ手懐けていないどころか、サイズ上の問題がある。乗れるかどうかも怪しい。
トロッコ――材料が足りない。鉄は田豊に渡しているし、動作に必要なレッドストーンが未発見だ。
ならば残るのは一つ、ボートである。ボートなら木材で簡単に作れるし、無限水源も作成済みだ。
(決めた! 水路を作ってそこをボートで移動しよう。徒歩よりも早く移動出来るしな)
こうして己の冒険心を満たすため、一刀の秘密の抜け道の製作が開始されたのである。
領内の地下に尽きることのない水源と水路が作られることなど、袁紹は知る由も無かった。
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