第八章【後宮でマインクラフト】


(秘密の地下水路、完成ッ!)

念願の作業を終え、地下の自室に戻って来た一刀はベッドにダイブした。
寝るつもりは一切無いが、その上で何度もゴロゴロと転がる。
今の達成感をぶつける物が何でもいいから欲しかった。行動に意味はない。

(お疲れ様で〜す……って言いたいとこだけど、本番はこれからなんだよな)

ベッドのフカフカ感を思う存分堪能し、一刀はムクリと起き上がった。
これから各道具をクラフトして揃え、出発の時まで準備をしなければならない。
出発予定時刻は皆が寝静まる深夜頃。遠出先で思う存分採取と発掘をした後、早朝に帰る予定だ。

(採取なら野菜の種か現物、発掘ならレッドストーンを目標にしよう!)

野菜のニンジン、ジャガイモ、カボチャ――家畜を育てたり、頼もしい味方ゴーレムの素材になる。
レッドストーンは多くのクラフト素材になるばかりか、回路を通して設置物を近代化する事が出来る。
また以前発掘して以来、ずっとチェストに眠っている金インゴットを役立たせることが出来るのだ。

(せっかく精錬したんだから使わないとな。金の持ち腐れは駄目だ)

金インゴットは武器防具にも活用出来るのだが、その性能は革以上鉄以下という劣悪。耐久度もお察しである。
誰が言ったか『着飾った銃では、例え敵の胸板を撃ち抜いたとしても、私に感動を与えない』とはこのこと。

(いやぁ楽しみだな。早く夜にならないかなぁ)

今日向かう新天地に夢を馳せ、一刀は作業台に向かった。







夜である。準備万端整っている一刀は地下水路へと向かった。松明で照らされた階段をゆっくり下りていく。

(ボートよし、作業台よし、ハシゴよし、各発掘道具よし……うん。完璧だ)

念のため出発前には袁紹達に顔を出し、警護の兵にも挨拶をしておいたので心配はかけていない筈である。

(では、いざ出発!)

水路の前に立ち、一刀はインベントリからボートを取り出して浮かべた。
流される前に素早く乗り込み、オールを漕いで一直線に進み始める。
一刀の手によって作り出された水路の流れは穏やかで、荒れる様子は一切見せなかった。

(このスピード感はやっぱり良い! トロッコはこれ以上なんだろうなぁ)

曲がり角が先に見えるが、多少ぶつかってもボートは傷が付くどころか物ともしない。
適当に掘り進めたといっても、曲がり角や分かれ道をついつい作ってしまうのがマインクラフターである。

(まっ、ただただ一直線なだけじゃつまらないしね)

今回の遠出が大成功に終われば、前述の分かれ道を活用して更なる場所に行けるようにする予定である。
これから先水路が複雑になるのなら、必要なのはやはり――

(地図がいるよなぁ。うおお! レッドストーンが欲しいぞ!)

地図を片手に入り組んだ地下水路を進み、未知の場所で冒険する。うん、とても良い。
男の子の心を刺激してやまない展開を妄想している間にボートが進まなくなっていた。どうやら目的地に着いたらしい。
ボートを降り、一刀はインベントリにしまった。

(よーし! じゃあ真上をドンドン掘り進んで行くか。何が俺を待っているのか……!)

石のツルハシとハシゴを用意し、一刀はワクワクしながら真上を掘り始めた。
土ブロック、土ブロック、土ブロック、石ブロック、石ブロック――鉱石はまだ無い。

(まあ想定内だ。ダイヤモンドを探し始めた時だって無さすぎて絶望したくらいなんだから)

松明とハシゴを壁に一つ一つ設置しつつ、一刀は順調に掘り進んで行った。
階段状に掘るという選択肢もあるのだが、ハシゴを持ってきたのだから活用しない手はない。

(気分は映画の冒険家だなぁ)

そもそも鋼の冒険心に駆られている一刀に楽な選択肢を選ぶという思考は無かったのである。







洛陽後宮――煌びやかな装飾が施された豪華な部屋に霊帝はいた。名は劉宏、漢王朝の現皇帝である。

「つまらない! 趙忠、このつまらなさを解消する何かを作ってきなさい! お菓子でも何でもいいから!」

同じくそこには十常侍の一人である趙忠がいた。劉宏に忠誠を誓い、常に傍に侍っている。

「は、はい! 直ちにお持ちします陛下!」

劉宏の言葉に趙忠は慌しい様子で部屋を後にする。
いかに皇帝とはいえ、かなりの横暴な命令に思えるが――

(はぁ、はぁ、陛下、もっと私を扱き使って下さい! どんな御命令でも果たしてみせます〜!)

彼女にとってそれは御褒美その物だった。
また宦官と忠誠の証として鉄製の貞操帯を装着する程の忠臣――と言う名の変態――であった。

「はあ〜……そろそろ籠もりきりなのも飽きてきたわね。かと言ってまだ眠くないし」

無理矢理出ようとすると趙忠が面倒なのよね――劉宏は深く溜め息を吐いた。
周囲を見渡せば、見慣れた豪華な装飾品の数々。珍しい物は一つとしてない。
時々宮中内で会う妹から聞いた話では、外の世界には数え切れない程の珍しい物で溢れているとの事。

漢王朝の皇帝たるもの、無闇に人前に出てはならない。政は下の者に任せ、皇帝らしく構えていればいい。
耳が痛くなるぐらい周囲から同じことを聞かされたが、そう聞けば聞くほど外への興味は増していった。

(外の世界、か……今の私を驚かせるような物があるのかしら)

趙忠が出て行ってから殆ど時間が経っていないのだが、劉宏にとって長い時が過ぎたように感じられた。
そして彼女が二度目の溜め息を吐こうとした時、ふと異変に気が付いた。

「……何? 何か音が聞こえる……」

カンカンと、まるで硬い何かを削るような音である。外で何かやっているのだろうか。
椅子から立ち上がり、耳を澄ませ、劉宏は聞こえてきた音の源を辿っていく。音は室内からだった。
そして一つの柱の前で立ち止まると、彼女はそこに耳をソッと当てた。

(ここから聞こえる……)

音が段々と近くなっていく。恐怖心から反射的に耳を離し、劉宏は柱から距離を取った。
そのすぐ後、柱の一部が四角い形に削られた。ボコッと音がして穴が空いたのである。
呆然と立ち尽くす彼女を尻目に、空いた穴からゆっくりと何かが姿を現した。

「な、何なのコレは……」

その何かは現れた時と同じようにゆっくりと動いた。
頭らしき物が劉宏の方へ向き、目らしき物が彼女の姿を捉えた。







(ヤバイ……人の家だったのか!)

一刀の目の前には、驚愕の表情を浮かべた少女が一人。見れば豪華な衣装に身を包んでいる。
そして周囲を見渡せば、元の世界ならメチャクチャ高いだろうなという装飾品がズラリと並んでいる。

(まさか柱の中を掘り進んでいたとは。どうりで地上に出ない訳だよ!)

地下から真上をずっと掘り進んでいた一刀は、何時まで経っても地上に出ないことに違和感を覚えた。
試しに横を進んでみるかと方向転換してみれば、一ブロック分を掘っただけで外に出る事が出来た。

――のだが、その結果がコレである。
ちなみに柱を削って手に入れたのは金鉱石だった。柱を作るのに使ったのだろうか。

(とりあえず黙って戻った方が良いよな……?)

このままだと目の前の少女にトラウマを植え付けてしまうかもしれない。
傍から見れば今の自分の姿は、柱から頭だけ飛び出しているお化けである。
失礼しましたと言わんばかりに一刀が頭を引っ込めようとした、その時だった。

「見たことない生き物だわ!」

驚愕の表情から一転して目を輝かせ始めた少女は一刀の元まで素早く近寄った。

(ちょっ、早ッ……!)

一刀が驚いて頭を引っ込める前に、少女の両手は彼の頭を掴んでいた。

「ちょっと、逃げるんじゃないわよ! そこから出てきなさい!」

(何この娘ッ! 好奇心旺盛過ぎぃぃぃ!?)

柱の中で一刀が踏ん張る前に、彼の身体はスポンと柱から抜け出ていた。
そして自然と少女の胸に収まる形になり、そこで一刀は驚愕した。

(お、幼い見掛けとは裏腹にこの感触ッ! ロリ巨乳とはこのことか……!)

見つけた本人しか喜ばない新発見を堪能する一刀だが、少女の方も新発見に喜んでいた。

「凄い……動いてる! 何ていう生き物なのかしら!」

こうして一刀と少女――劉宏は邂逅を果たしたのである。



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