第二十二章【時間稼ぎとマインクラフト】


「何処のアホや! 勝手に攻撃を仕掛けたんは!」

「どうやら皇甫嵩の連れて来た兵みたいなのです!」

「……ッ! 全く、あれ程こちらから仕掛けてはならないと言ったのに!」

「……敵が来る。恋が蹴散らす」

まだ袁紹軍に向けて放った矢文に対する返答を聞いていないと言うのに――張遼が忌々しげに表情を歪めた。
だが起こってしまったからには迎え撃つしかない。ここが落とされれば賈駆の書状も無駄になるだろう。

「しゃーない! 詠の策が実ると信じて、何とか耐えるで!」

「ねねは後方で軍師として力を奮いますぞ! ……皇甫嵩、何処に行くのですか!」

「…………攻撃を仕掛けた人の所よ。すぐに戻るから」

表情は笑顔だが、皇甫嵩の目は全く笑っていなかった。凄く怖い。
直視してしまった陳宮は身震いしつつ、彼女の後ろ姿を見送った。

そして戦闘が始まってから少し経った後、連合軍側に変化が訪れた。
最初こそ果敢に虎牢関を攻めていたが、徐々に後退し、陣へと退き始めたのである。
関羽、張飛、趙雲、顔良、文醜と言った各軍が誇る勇将も兵を率いて撤退を始めた。

「……退いてく」

「どういうこっちゃ」

こちらに追撃を行わせようと誘っているのか――もしこれが策ならば迂闊に追えば大打撃を被るのは間違いない。
あくまでこちらは篭城し、時が来るまで耐えれば良い。張遼は配下の兵に追撃はしないよう厳命し、虎牢関へと引き返した。

(詠の書状を読んでくれた上での行動ならありがたいんやけど……)

門が完全に閉じるまで、張遼は連合軍の陣がある方を見つめていた。











「田豊殿ッ! 一体どういう事だ!」

「そうなのだ! 鈴々達が呂布と戦っていたところだったのだ!」

「我等が有利に進めていた戦、撤退を指示した理由は如何なるものか御教え願いたい」

袁紹軍の陣中にて劉備配下の将である関羽、張飛、趙雲が田豊に詰め寄っていた。
三人の後ろにはあわあわと言った様子の劉備がどうにか彼女達を抑えようとしている。

「撤退を指示した理由は簡単よ。全ては策のため」

「策って何なのだ……?」

「ほう。それはどのような策なのか我等にも教えてほしいものだ」

「教える必要はないわ。貴女達は私の指示に従ってくれればいいの」

「そのような答えで我等が納得出来るとお思いか!」

関羽が詰め寄ると、田豊の後ろに控えていた顔良と文醜も動こうとする。
だがそれを手で静止した田豊は、関羽の鋭い目付きから視線を外さずに口を開いた。

「納得しようがしまいが、今回の虎牢関攻撃は我が主、袁紹様が諸侯の方々から求められた故に決めたもの。支援を願い出た貴女達が指示に従うのは当然の事よ」

田豊のキッパリとした発言に三人は「うっ……」と口を噤んだ。
黙り込んだ彼女達から背後の劉備へと田豊は視線を移す。

「劉備、将の態度がなっていないわね」

「ご、ごめんなさい田豊さん……」

「貴女達三人も気をつけることね。将の失礼な態度がそのまま主君への恥になるのよ?」

「なっ、言わせておけば……!」

田豊のその言葉を機にピリピリとした空気が場に広まった。
膨らみ始める怒気に周囲の兵達の表情が徐々に青ざめる中、見かねた公孫賛が動いた。

「まあまあ。みんなそこまでにして、そろそろ戻ろうぜ。田豊、お前の策は順調なんだろ?」

「……ええ。水関の時のような華麗な策を披露するわ」

「そうか。なら私達はその策が成功するよう尽力させてもらうさ。ほら桃香、行こうぜ」

「う、うん……」

公孫賛に連れられ、劉備は終始申し訳なさそうな態度をとりながらその場を後にした。
そのすぐ後に関羽、張飛、趙雲も続く。反対に彼女達は終始悔しそうな表情だった。
――そして劉備達の姿が消えると、田豊がゆっくりその場に座り込んだ。どうやら力が抜けたらしい。

「大丈夫かよ真直」文醜が田豊に肩を貸した。

「ええ。全くとんでもないわ。軍師の私に武人の気を正面からぶつけないでほしいんだけど……」

「あの三人凄かったね。特に関羽さんなんかすぐにでも斬り掛かってきそうなぐらいだったし」

「あたいが守る! ……って言いたいとこだけど、関羽一人でもキツそうだなありゃ」

へらへらと笑ってはいるが、文醜の手は汗に塗れていた。
あれ程の手練を配下に置く劉備は見た目こそ覇気は無かった。が、もしかしたらとんでもない逸材かもしれない。
田豊の頭の中で劉備元徳の名が要注意人物表に書き込まれた瞬間であった。

「さて……これからが大変よ。戦を何とか長引かせて、あの二人が董卓を救出する時間を稼がないと」

「いざって時は、姫への説得にあたいも手を貸すぜ」

「麗羽様渋々だったもんね。撤退するの……」

諸侯から期待され、華麗に勝利を飾りたい袁紹を「策のため」と説得するのは中々に骨が折れた。
更にこれから袁紹の不満が爆発しないようにしなければならないのだから、田豊は溜め息を吐かずにはいられない。

(ここで虎牢関が落ちれば董卓配下の将がバラバラに逃げるかもしれない。そうなったらとても厄介な事になるわ)

優秀な人材は誰しもが欲しがるもの。一騎当千の呂布と、それに勝るとも劣らぬ武を持つ張遼は諸侯が挙って引き入れようとするだろう。袁紹軍もそれは同じだ。
それに加えて彼女達はカクのことを知っている可能性がある。他国に行けばそれが知られてしまう恐れがあるため、何としても董卓軍全員を引き入れておきたい。

「これからが勝負よ! 頑張れ私!」

「気合入れるのはいいけどよ、腰が抜けてんぞ?」

「……悪いけど、麗羽様のところまで支えていってくれない?」

(……大丈夫かな、カクちゃん)

田豊から既に事情を聞かされている顔良は、二人の後を追いながら董卓救出に向かった小さな勇者の事を想っていた。











虎牢関を抜け、洛陽まで続くトンネルを専用の幕舎から一刀はツルハシ片手に掘っていた。
そして彼の後ろには先の戦で捕虜になった華雄が付いてきていた。潜入の際、一刀の護衛兼案内人として田豊が同行させたのである。

「おいカクとやら。もう少し大きめの穴を掘れなかったのか?」

(今日中に着きたいですし、この大きさで我慢して下さい)

トンネルは丁度一刀が立てる程の大きさであり、華雄は這って移動していた。
董卓救出には時間的な問題もあるため、速さを重視した結果である。

「こちらの言葉は通じているんだよな……? くっ、穴がもう少し大きければ私の金剛爆斧を持って来れたものを……」

(え〜……見せてもらいましたけど、あれ大きいし、潜入するには目立ちすぎますよ)

「代わりに渡されたのはこの頼りなさそうな剣と弓だけ……矢に至っては一本だけだ。これでは十分に戦えんぞ」

溜め息混じりに言う華雄だが、彼女の装備はエンチャント実験で作り上げた弓、そして新たに作った鉄の剣である。無論剣もエンチャント済みだ。

(多分華雄さんが持ってるのは、この世界で英雄級の武器なんだけどなぁ)

それ等を駆使すれば某無双ゲーのように活躍出来るだろう事は容易に想像が出来た。
その時には是非とも【真の三国無双】を堂々と名乗ってほしいものである。
愚痴を零す華雄を無視し、一刀は一心不乱にツルハシを振るい続けた。

――道の確認のため、地上に顔を出した瞬間、敵にバレそうになってビビッたのは内緒だ。



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