機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト


第五話 ルリちゃん『後悔日誌』 -前編-


どうも。ホシノ・ルリです。
今回、艦長がサボっているため私が『航海日誌』なるものを書くことになりました。


佐世保の連合軍のドックから出航してから一日。
ナデシコは大気圏内での稼動試験を行っていました。
プロスさんはレンタルしていたドックの延滞料金を払わずにす済んだ事と今後の予算の計算に忙しいようです。


そしてテンカワさんはコック見習いとしてナデシコ食堂で働いています。
時はお昼時。
最も忙しくなる時間帯の一つです。
オモイカネの記録ではテンカワさんはこの時はまだウェイターでした。
なんでも『まだ試験もしていないのに料理を作らせるわけにはいかない』とのことです。
ですからテンカワさんはエプロンをつけてホウメイガールズと一緒にウェイターをしていました。

そこへ艦長がやってきました。
「ユリカ!」
「ほぇ?あ、おとといの親切な人」
呼び止められた艦長は小首をかしげてテンカワさんを見ていました。
どうやらまだ目の前にいる人物が誰か思い出せていないようです。
「お前ね……。俺だ、火星で隣だったテンカワ・アキトだよ。おととい俺にトランクぶつけた時子供のころの写真を落としていったろ。あれ見て思い出したんだ よ」
「テンカワテンカワ……。あーっ、アキト!アキトだぁ!」
ようやく気づいた艦長は幼馴染との再会に驚いています。
「人の話し聞け。だからそう言っているだろ」
「そっかー、久しぶりだねー。今何してるの?」
「見て判れ。コック見習いだ。ここで働いているんだよ」
呆れたように呟くテンカワさん。
気持ちは判らないでもないですが。
「あら、アキト君どうしたの?」
「こんにちは、テンカワさん」
そこへ私たちがやってきました。
テンカワさんとは昨日会ったばかりですが、ミナトさんの教育の結果、挨拶ぐらいは問題なくできるようになりました。
これっていい事なんですよね、ミナトさん?
「あれ?えーと確かミナトさんにルリちゃんですよね。アキトとお知り合い?」
艦長の質問に微笑んだミナトさん。
でもこの表情は……私に着せ替えをするときの表情です。
「ええそうよ〜。関係は……いうなれば、恋人?」
私は冗談と判っていますが……、なんかちょっと悔しいです。私にはこんな微笑み方なんてできません。
「ぶっ!」
これはテンカワさん。
「「「「「「「ええええええええええ!」」」」」」」
これは艦長をはじめとした女性陣。
「「「「「「「「「「何ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」」」」」」」」」」
整備班を中心とした男性陣。
「ミナトさん……」
最後にちょっとあきれた声の私。
食堂は阿鼻叫喚の渦に巻き込まれました。
特に鼻息が荒いのは整備班を中心とした男連中。
「冗談よ〜。彼が契約するとき立ち会っただけ」
硬直している艦長たちに笑って返すミナトさん。しかし……。
「ミナトさん、遅いです」
「え?」
その時、すでにテンカワさんは整備班の手によって食堂の外へ連れて行かれるところでした。
どうやらヤマダさんを諌めた一件以来、整備班ではミナトさんの事を『女神様』扱いしているようです。


その後ウリバタケさんと連絡を取ってテンカワさんを解放してもらいましたが、私とミナトさんがかばったせいか以降一部の整備班(特に『電子の幼精 ルリル リファンクラブ』会員※私は公認してません。馬鹿ばっか。)に嫉妬の視線で睨まれるテンカワさんの姿があったのは……、ま、いいでしょう。



解放されたテンカワさんと艦長はまた食堂で話をしています。
今度はちゃんとホウメイさんに休憩をもらえたようで、同じテーブルに座りながら話しています。
「それにしても久しぶりだね〜。なんで地球に?小父様や小母様はいまどうしてるの?」
「親父とお袋は死んだよ。お前が火星を離れた日、お前たち一家を見送りに行ったあの宇宙港でテロがあって、……それに巻き込まれてな」
艦長は驚きで目を見張り、ミナトさんは少し表情を曇らせていました。
……私はどんな表情をしていたか判りません。
「そんなことがあったなんて……。お父様は何も……」
「言えやしないだろ。自分たちを見送りに来ていたから殺された、なんてお前なら自分の子供に言えるか?」
「……ううん、無理だと思う……」
「……俺は、お前の親父が自分を囮にして、俺の親父たちをおびき寄せて殺すためのカムフラージュとしてテロが起きたんじゃないかと思っている」
そう言ったテンカワさんの目は会って以来初めて見る……暗いものでした。
「どうして!?」
「……あまりにもタイミングが良すぎるからだ。親父たちはあのころ何かの研究に没頭していた。それが成功すれば人類の生活を大きく変えることができる、っ てよく判っていない俺に何度も話してた。そして、そのころから家に脅迫電話じみたものがちょくちょくかかってくるようになった。そしてお前の親父が俺の親 父たちに『研究をやめろ』とか『軍に任せろ』とか行っているのを聞いたことがある」
「そんな……」
テンカワさんの台詞に艦長が愕然とした表情になりました。
もし本当なら艦長の父親がテンカワさんの両親を殺すことに何らかの加担をしたことになります。
「証拠は確かにない。いずれ地球に行ってお前の親父に尋ねようと思って何度か手紙を出したけど音信普通。身寄りのない子供じゃ簡単に地球に行くこともでき ないから、昔からあこがれていたコックになって金を貯めてそれから行こうと思っていた」
「じゃあ……。、それからずっと一人で火星に……?」
「ああ。あの日木星蜥蜴のチューリップがユートピアコロニーに落ちてくる日まではな……」
「え?チューリップが落とされた日までユートピアコロニーにいたの?」
艦長の驚きも当然でしょう。
火星にチューリップが落ちて以来、火星から脱出してきた艦は公式にはありません。
じゃあ、テンカワさんはどうやって地球に来たのでしょうか……。
「ああ、それで避難していたシェルターまで連中のバッタどもがやってきてシェルターの中が火の海になって……。そっから先は覚えていない。気が付いたら一 人で佐世保の公園にいた」
「そっか……。大変だったんだね……」
大変と言うか……、理由は本人にも判らないのか、それとも隠しているのか……。
本当なら火星−地球間を一瞬で行き来するような方法があるということなのでしょうか?
「おとといの夕方、それまで勤めていた食堂をクビになって次の仕事場を探そうとしたらお前の車からトランクをぶつけられたんだよ。アレが物理的に一番大変 だったが」
「ハハハ……。ごめんなさい。ジュン君が荷物を括り付けてくれたんだけど甘かったかな〜? あ、ジュン君って言うのは地球で出来た幼馴染でこの艦の副長さ んなんだよ」
ジト目(こういう目つきをこう言うそうです。ミナトさんに教えてもらいました)で睨むテンカワさんに艦長は頭をかきながら謝っていました。……責任を副長 に押し付けて。

「ま、その時お前が落としていった写真を見てお前のことを思い出して、その事を尋ねようとしてここまで追いかけてきたわけだ」
ジト目をやめたテンカワさんの雰囲気が和らぎ、場も少し落ち着きました。
「そっか〜。火星でもいつも『ユリカ、ユリカ』って後を追ってきてたもんね〜』
「俺の記憶だと、いっつも『アキト、アキト』って追いかけてきて、無視すると持っていたおもちゃとか木切れとか空き缶とか石とか投げてきたと記憶している んだが?……しかも一度なんか俺が無視して先へ行ったら近くの工事現場のユンボを勝手に動かして追いかけてきた挙句、俺に体当たりかまして病院送りにし て、事情聴取でお前が泣きながら『アキトが、アキトが……』って言ったせいで全部俺のせいになったんだぞ!」
艦長……、世間一般の常識に疎い私でもそれは問題行為だと思うんですが……?
「え〜、そんなことあったけ〜?」
「とぼけんな!見ろ!このでっかい傷跡を!」
そういってテンカワさんは服を脱いで背中を見せつけました。
そこには結構大きな古傷が……。
「うわ、すごい傷」
「他人事みたいに言うな!お前がやったんだ!」
「ホント、すっごい傷ね〜。でもアキト君?」
「なんです、ミナトさん?」
笑顔ですが眉毛がピクピクしています。
この表情のときのミナトさんは怒っています。間違いありません。
「ここ、食堂だって判ってる?」
ヒートアップしていたテンカワさんはその一言でようやく気が付いたようです。
「テンカワ!あんた何やってんだい!」

数十秒後、厨房の奥でホウメイさんに怒られているテンカワさんがいました。



ホウメイさんに叱られながら本日の勤務を終えたテンカワさんが落ち込んでいるのを見てミナトさんが部屋に誘いました。
テンカワさんは女性の部屋に入るのは初めてということでキョロキョロしていましたが、座布団を勧められるとそれに座り色々と三人で話し始めました。
それぞれの自己紹介から始まって、趣味や特技、将来の夢などを……。
でも私には『将来の夢』というものがありません。

研究所ではただ能力を磨くことだけを求められ、『未来』なんてものに興味を抱くことすらなかった私には、この部屋がとても居づらいものになっていました。
テンカワさんはコックになることを夢見て今まで頑張ってきました。
ミナトさんは色々な世界を見てみたいから色々な資格を手に入れてきたそうです。
私にはそんなものはありません。

つい、そう言ってしまった後、酷く後悔しました。なんで二人にこんな感情をぶつけてしまったんだろう?
でも二人は優しく微笑んでくれてこう言ってくれました。
「ルリルリがそうなったのはルリルリのせいじゃないわよ。今からだって十分探していけるわ。色々経験して何になりたいか考えて御覧なさい。夢が出来た時、 私たちに出来ることならいくらだって協力するわよ」
「そうだよ、ルリちゃん。俺たちはルリちゃんの味方だよ。やりたいこと、興味を持ったこと、何でもいいさ。いくらでも頼っていいからね」
この二人の言葉を聞いた途端、なぜか涙が出てきました。痛くも苦しくも無いのに何故でしょう……?
そう二人に言ったら二人で私を優しく抱きしめてくれました……。


その後ミナトさんの部屋で、私とミナトさんとテンカワさんの三人であや取りをしました。
初めてやってみましたがプログラミングと違って毎回毎回形が変わるので常に新しい発想が必要で難しかったです。
テンカワさんが取るときは考える時間が長いので腕が疲れましたが……。
それでも二人と居る時間がとても暖かく楽しいと感じたのは間違いありません……。



あや取りの後、私はミナトさんの部屋に泊めてもらいました。
一緒の布団の中でミナトさんに
「ねぇルリルリ、別に夢なんてものは単純な物だっていいのよ。花を育てていきたいとか、美味しい料理を作れるようになりたいとかそんなことでもかまわない の。特技を生かすのもかまわないし、特技とは全く関係ないものだってかまわない。『アキト君のお嫁さん』が夢だってぜんぜんOKなんだからね」
と、言われました。
でも私にそんな『夢』は出来るのでしょうか……?

あ、ちなみにこの発言時はテンカワさんは自室に戻っていました。
テンカワさんが聞いていたらどんな反応だったんでしょう?



翌日早朝━━━━
プロスさんから重大発表があるというので全艦に通信をつなぎました。
といっても私とミナトさん、それにブリッジに出前に来ていたテンカワさんは何なのか知っているのであまり緊張していません。
艦長は緊張すると言う神経そのものがないようです。

「今までナデシコの目的地を明らかにしなかったのは妨害者の目を欺く必要があったためです。ネルガルがわざわざ独自に機動戦艦を建造した理由は別にありま す。以後ナデシコはスキャパレリプロジェクトの一端を担い軍とは別行動をとります」
メガネを押し上げながらプロスさんが説明します。
「われわれの目的地は火星だ!」
プロスさんの台詞に続いて今まで黙っていたフクベ提督が宣言しました。
艦内でどよめく声が聞こえるようです。
っていうか事の顛末を詳しく聞きたいと騒ぐ乗員の対応にメグミさんと私は追われていました。
面倒になったので送信オンリーにして受信をカットしてなんとかしました。
「では現在地球が抱えている侵略は見過ごすと言うのですか!?」
副長がプロスさんに詰め寄ります。
「多くの人間が火星と月に植民していたと言うのに連合軍はそれらを見捨て地球にのみ防衛線を引きました」
プロスさんの台詞を聞いた副長は反撃に顔を歪ませました。
元連合軍士官学校の人間には軍への批判は正論であってもこたえるようです。
もっとも正論なだけに喚き散らすこともしないのは副長の人の良さでしょう。
「火星に残された人々と資源はどうなっているのでしょうか?」
「もう死んでるんじゃないんですか?」
プロスさんの台詞に私は返しました。
補給もない状態で生きていけるとは思えません。
「ルリルリ! そんな事言うもんじゃありません! そこに身内がいる人だっているのよ!」
私の一言を注意したミナトさんの視線はテンカワさんに向けられていました。
「あ……。その……、ごめんなさい」
私はテンカワさんに謝りました。
そうしたらテンカワさんは私の頭をなでながら許してくれました。
「いいよ。確かに身内がそうならなければ判らない人は多いから。でも……今後はそういう発言は気をつけてね」
そういったテンカワさんの顔は酷くつらそうでした。
それを見て微笑んだプロスさんは話を続けます。
「そうかもしれないし、そうでないかもしれません。……ただ確かめる価値は」
「ないわね」
キノコの不気味な笑い顔のコミュニケが開くと共にブリッジに銃を持った軍人が乱入してきました。
確かオブザーバーとして乗り込んだはずの軍人たちです。
格納庫や食堂にも銃を持った軍人たちが押し入ったようです。
「ムネタケ! 血迷ったか!?」
フクベ提督が叫びます。
「ふふふ……。提督、この艦を頂くわ」
不気味に笑うキノコ。ちょっとうっとおしいです。
「その人数で何が出来る?」
ゴートさんの質問ももっともです。
「判ったぞ!お前ら木星蜥蜴のスパイだな!」
台詞の直後、銃を向けられて動きの止まるヤマダさん。
防衛システムを稼動させたオモイカネが電気銃(テイザー)を発射する前にミナトさんがそれを小声で止めていました。
「ダメよ、オモイカネ。今やったら銃を向けられている他のクルーに暴発した銃の弾が当る可能性がある。私達がブリッジから追い出されたらやっちゃってちょ うだい」<サイズ変更-2>
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キノコはそんなやり取りには気づかず、勝ち誇った顔でブリッジのみんなを睥睨していました。
「勘違いしないで。ホラ、来るわ」
そして現れる連合軍の戦艦。
艦船コードから第三艦隊の旗艦『トビウメ』であることが確認されました。
艦長の名前は『ミスマル・コウイチロウ』。
どうやら艦長のお父上のようです。

『私が連合宇宙軍第三艦隊提督、ミスマル・コウイチロウである!』
カイゼルヒゲの中年男性の映像が映し出されると共に大音声が響きました。
ちなみにブリッジにいたメンバーの半数以上がその声に打ち倒されていました。
無事だったのは、耳が遠そうなフクベ提督、慣れているらしい艦長、顔を見た瞬間状況を予測したらしく耳を塞いでいた艦長の幼馴染’sのテンカワさんと副 長、何故か耳栓を用意していたミナトさんとミナトさんが耳を塞いでくれた私だけでした。
メグミさんは通信士のため直撃を食らって昏倒しています。
プロスさん、ゴートさん、ヤマダさん、ウリバタケさんも耳を押さえてのたうちまわってます。
キノコと他の軍人も同様ですが同情する気にはなれません。

「お父様、これはどういうことですの!?」
『おお〜、ユリカ元気か?』
人の話を聞かない人なのでしょうか?
「はい」
『これも任務だ、許しておくれ。パパもつらいんだよ〜』
いえ、聞いてはいたようです。自分の話を優先させる人のようですね。
「困りましたな〜。連合軍とのお話しは済んでいるはずですよ。ナデシコはネルガルが私的に使用すると」
プロスさんが困っていないような顔でメガネをいじりながら……一瞬だけ凄まじい何かを放ちました。
『我々が欲しいのは今確実に木星蜥蜴どもと戦える兵器だ! それをみすみす民間に……』
それに動じないミスマル提督もすごいですが……、感じていないだけかも?
「いや〜、さすがミスマル提督。判りやすい! じゃあ交渉ですな! そちらへ伺いましょう!」
いきなり笑顔になるプロスさん。
もしかして交渉ごとが好きなのでしょうか?
『よかろう。ただし、作動キーと艦長は当艦が預かる!』
「へ? えーと……」
ミスマル提督の宣言にきょとんとして自分のコンソールを見つめる艦長。なぜかキノコも一緒に覗き込んでます。
「艦長! 奴らの言いなりになるつもりか!?」
ヤマダさんが止めます。
「ユリカ! ミスマル提督が正しい! これだけの戦艦をむざむざ火星に……」
副長は勧めます。自主性のない人ですね。
ミナトさんと会う前の私もこうだったんでしょうか?
「いや、我々は軍人ではない! 従う必要はない!」
なおも強行にナデシコの火星行きを主張するフクベ提督。
『フクベさん、これ以上生き恥をさらすつもりですか?』
フクベ提督を哀れんだ目で見ているミスマル提督。
でも生き恥って……? 確かフクベ提督は『火星防衛戦の英雄』じゃなかったでしたっけ?
「ミスマルの小父さん! なんで火星に帰っちゃ駄目なんだよ!!」
テンカワさんも叫びます。
『む? 君は……?』
「テンカワアキトです。お久しぶりですね。あなたに聞きたい事があります!」
『テンカワ、テンカワ……。はて……?』
とぼけているのか、本当にボケているのか……まあ、前者でしょうけど。突っ込むとまずそうなので止めておきます。
「お父様、火星に住んでいたときのお隣のテンカワさん家のアキトです」
艦長が助け舟を出します。
これではとぼける事も出来ないでしょう。
『おお! アキト君か! 久しぶりだな。いつ地球へ?』
ようやく思い出したような顔をしています。これは嘘ですね……。
「一年ほど前です。それより小父さん、なんで火星に行っちゃ駄目なんだよ!? 軍が見捨てた火星に行けるのはこの艦だけなんだ! 何もしないで逃げた連合 軍にそんな事言われたくない!! 連合軍が逃げたせいでアイちゃんもみんなも……!! 親父たちだってあんたたちが殺したんじゃないのか!?」
『待て、何の事だ?』
徐々にヒートアップしていくテンカワさん。
「とぼけないでください。十年前火星で起きたクーデター騒ぎのテロで俺の両親は死んだ。それもあんたを見送りに行った宇宙港でだ! あのころあんたたちは 親父の研究に対して色々な脅迫をしていただろう! 『軍に研究成果をよこせ』なんて脅迫を何度も受けていたんだ! あんたがそんな話を親父たちにしていた のだって何度も聞いた! 言う事を聞かないからテロに見せかけて殺したんだろう!」
『待ちたまえ! 確かにテンカワたちが死んだのは私たちを見送りに来ていた宇宙港でだ。だがそれに軍は関与していない!』
「こんな事をされて信じられるわけないだろ!」<サイズ変更+1>
と、テンカワさんが指した方向には銃を持った軍人が……。
『と、兎に角艦長にはこちらに来てもらう、いいな?』
「誤魔化すな! うっ!」
騒ぎ立てるテンカワさんに軍人の一人が銃を突きつけました。
さすがに騒ぐことも出来ないでしょう。
『ユリカ〜。私が間違った事を言った事などないだろう〜』
涙目で中年が泣き落としをかけるのはちょっと……いやかなり不気味です。
「やめろ艦長!」
「やめるんだ艦長!」
「やめろユリカ!」
ヤマダさんとフクベ提督とテンカワさんの静止がブリッジに響きます
「艦長そいつは罠だ! 抜くな!」
ヤマダさん、罠って何がですか?
その時、ポツリとつぶやく声がブリッジに響きました。

「軍人さんってほんと馬鹿よね〜」
ミナトさんが目の前の喧騒を見て、呆れたようにつぶやきます。
『馬鹿とはどういうことだ!?』
画面の向こうで怒鳴るミスマル提督。うるさいです。
「じゃあ言いましょうか? この戦艦は試作品でほとんど何のテストも行っていないの。しかも特殊な装備などがあって素人には使いづらい。その辺いじれる技 術者が軍にいるのかしら?」
『むっ……』
軍を完璧にけなしているミナトさん。
軍が無能なのは仕方ないですがそこまであからさまに言っても気づけないのでは……?
「ましてや、話がついているものをよこせなんて、貴方はジャイ○ンかしら?」
オモイカネのデータベースを確認すると、二百年以上前のアニメーションに出てくる我侭な子供の事だそうです。
『むむむむむ……』
ミスマル提督もだんだん赤くなってきました。
怒らせるだけなら百パーセント効いていますね。
「だったら試験航行を兼ねて出撃させて、出てきたデータで改修したものを受け取った方が効率的じゃない? すでにナデシコ自体にも問題は発生してるし」
『ぬ!?』
確かにアレだけの結果を残して欠陥アリでは徴発しても実力を出せずに終わる可能性は考慮できると思いますが……、出来ますよね、いくらなんでも。
「まあ、確かに今の段階で木星蜥蜴を相手に出来るのはグラビティブラストくらいだから欲しいのもわかるけど。当然売り込みぐらいあったでしょうにそれを無 視しといていざ使えるとなったら奪おうとする。最低よね。発射試験済みのグラビティブラストだけ発注して既存の連合軍の艦艇に後付で取り付けるとか考えな いのかしらね〜」
『ぐ!』
すでに相当にけなされています(こういう時は『けちょんけちょんにする』というのが状況に合った言い方だそうです)。
「なんにしても『買わない』といったものを奪おうとするなんて泥棒以下よ。状況が変わったのなら接収・徴発なんてしないで注文すればいいじゃない?急ぎな らナデシコを丸ごと買取にするとか、他に手はいくつもあるでしょ。そんな最低限の礼儀をしらないからこのキノコみたいな事が出来るのよ!」
ミナトさんの指差した先にはやり込められているミスマル提督に顔をしかめているキノコが。
確かに泥棒以下でしょう。
所詮キノコは人間ではありませんし。
「文句があるならきちんと理由を用意して裁判でも起こせばいいでしょ。それが出来ない大人がずうずうしい事言っているから『馬鹿』だって言ったのよ。守る べき民間人を見捨てて逃げ出し、民間人が用意したお金で手に入れた武器で、民間人を脅して、民間人の財産を略奪する。これが軍人のやる事? 夜盗と何も変 わらないじゃない」
ミナトさんの言うことは間違いなく正論です。
……でもどうやら『軍人』という人種には正論は自分たちの側にしかない、と考えている人が多いようです。
ミナトさんの台詞に顔を真っ赤にしている軍人がちらほらと……。
「大体、近くにチューリップがあるのにマスターキーをよこせなんて、よく言えるわね。この艦が襲われたらどうする気?」
『無論、我が艦隊が守ってみせよう』
「信じれると思うわけ!? 勝った事もない軍人の口約束を!? 民間人を脅して略奪する夜盗の言葉が!? 役に立たないんだったら後ろへ引っ込んでいなさ い! そして私たちの邪魔しないで! 貴方たちは足手まといなのよ、この世界のね!! 信じて欲しいなら……」
怒りの表情で提督を見据えるミナトさんは宣言しました。
「勝つなり何なりしてからそう言う台詞は言いなさい!」
その時オモイカネはライトを調整してミナトさんが神々しく見えるようにミナトさんをライトアップしていました。
何時の間にこんな芸が細かくなったのでしょうか……?

二人の話を聞いていた艦長は、コンソールを操作し、おもむろに……

ピッ!

「「「ああああああ!!!」」」
ヤマダさん、ウリバタケさん、アキトさんの声が唱和しました。
「抜いちゃいましたー♪」
思考停止したのか、何も考えていないような笑顔でマスターキーを抜く艦長。
脇を囲んでいた軍人たちから「おお〜」というどよめきが聞こえます。
「正義が……」
ヤマダさんの呟きが聞こえます。
「あーあ、エンジンが止まっちゃう」
ミナトさんがぼやきます。
「ナデシコはこれでまったくの無防備ですね」
ま、緊急起動システムがあるから短時間ならどうにでもなりますけどね。


そうしてナデシコは海のど真ん中でその機能を停止しました。



なかがき

喜竹夏道です。
Bフレッツ開通後初投稿です。
これで以前より早く作業が……、あがる訳ありません(笑)。
話が長くなりそうなので一端切ります。
続きを待っていてください。





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