機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト


第五話 ルリちゃん『後悔日誌』 -後編-


プロスさんと艦長はトビウメに行く準備をしていました。
それ以外のメンバーはまだ銃を向けられたままなので身動きが出来ません。
そんな中で何も考えずに艦長に憑いて行こうとする副長にミナトさんが待ったをかけました。
「副長〜。何処行く気〜?」
「え?いや艦長に随行しようと」
「艦長がいない間の艦を守るのが副長のお仕事でしょ〜。職場放棄する気〜?」
「うっ、そ、それは……」
「確かにそれは職場放棄ですなぁ。そうすると給料の査定を下げないと」
プロスさんが電卓を取り出して叩く。
「だ、大丈夫ですよ。ナデシコの留守は任せてください!」
「ではお願いしますよ、副長」
と、プロスさんは電卓をしまう。
「じゃあジュン君、よろしくね〜♪」
艦長はにこにこ笑いながら手を振って出て行きました。
ため息をついている副長の背中は煤けているようでした……。


「さて、こいつらをブリッジから追い出して頂戴♪」
キノコの嬉しそうな声を聞いて機関銃を持った軍人が私たちをブリッジから追い出します。
「おとなしくしろ」
そうして私たちは食堂に連行されました。
でも私たちのいなくなったブリッジでオモイカネが何をするのか……。
後で映像記録を見せてもらいましょう。


「うわっ!?」
「おとなしくしていろよ」
そう言ってドアを閉めた軍人A。
食堂に蹴り入れられた副長が怒っています。
軍の味方をしたのに蹴られて怒っているようですが、火星行きを考えている人たちからは『裏切り者』を見る目で見られています。
四面楚歌と言う奴ですかね?

食堂内を縦横無尽に暑苦しく騒ぐヤマダさんを尻目に私たちブリッジクルー三人娘(整備班命名)はお喋りしていました。
「なんかガッカリ。戦艦に乗ればかっこいい人いっぱいいると思ったのに」
「ま、世の中そんなものよ」
「ほんとこの艦変な人ばっか。でもあのネルガルのヒゲメガネの人大丈夫かな? ちょっと頼りないよね」
「人は見かけによらないよメグちゃん。意外とね。大丈夫よ」
ホントに見かけによらないのだろう。
今までミナトさんの人を見る目は間違いなかったから私はそう信じることにしました。


「何だ何だ何だみんな! 元気出せよ〜! よーし、俺が取って置きの元気が出るビデオを見せてやるぜ!」
そう言ってヤマダさんが懐から取り出したものは何枚かの映像ディスクと再生機でした。
この人、いつもこれを懐に入れているんでしょうか?
ウリバタケさんが作業しているときに聞きたかったけど、怖い答えが返ってきそうで止めておきました。

「すんげー旧式のビデオだからさ〜、今のテレビに映すようにするのは面倒なんだよな〜。おい、いいぞ」
「オーケイ! さ〜あ、見て驚け! ディスクインサァァト! スイッチ、オォォン!」
「「「「「????」」」」」
「ふっふっふっふっふ……」
ヤマダさんの笑いが不気味でした。
読み込みが終わって……
「「「「「…………あっ!?」」」」」
確かにみんな驚きました。

作品のタイトルは……

『淫獄悶絶!ロリロリ大作戦!!』

「ああああ!? 間違えた!! これは整備班のウソダに渡すヤツ! 本当のはこっちだこっち!」
慌てて入れなおしたディスクの読み込みが始まり……
その間、女性陣の殺意のこもった視線に脂汗を流すヤマダさんの姿がありました。

余談ですが、整備班のウソダさんはその後再生装置ごとディスクを盗まれた上、女性陣から総スカンを食ったそうです。

そして改めて表示されたタイトルは……

『ゲキガンガー3』

何これ?
「何だこれは……?」
ゴートさんが呟きます。
「幻の傑作、『ゲキガンガー3』! いや〜全三十九話、燃え萌えっす〜」
いや、傑作って言われても……。ほとんどの人が固まってますよ? さっきとは別の意味で。
「あれ? でもオープニングが違うぞ?」
でもそこに反応を返した人が一人いました。
「だ〜判る〜? オープニングは三話からが本当の奴になるんだよな〜!」
理解してもらえて嬉しかったようです。
そして理解した人と言うのは……、テンカワさんでした。
「子供のころ火星で見ていたんだよ。懐かしいな〜」
「そ〜かそ〜か〜! ん? じゃあ何でパイロットを目指さなかったんだ? その右手はIFSだろ?」
目ざとくテンカワさんの右手のIFSを見つけたヤマダさんが質問しました。
「それもかっこいいと思ったけど……、俺はみんなにうまい料理を食べさせてやれるようになりたかったんだ。まあ……『ミスター味皇帝』も見てたからな。そ れとIFSは火星じゃ当たり前につけてるよ。大概の機械はIFS仕様になってるから」
「お前、火星出身なのか?」
ヤマダさんが驚いた表情で聞き返しました。
そういえばその事を知っているのは私とミナトさんとプロスさんとウリバタケさん、それから幼馴染の艦長だけでしたね。
「そうっす。この艦が火星に行くって聞いて乗る事にしたんです」
「じゃあお前やミナトさんはこの艦の行き先を知っていたわけだ」
ウリバタケさんが頷き返しました。
あの時のミナトさんの発言を覚えていたわけですね。
確かに一部署の長であるだけの事はありそうです。
「まあね〜。アキト君の契約の時に立ち会って、アキト君が火星出身なのも聞いたしね」
「発表まで秘密にしてくれ、ってプロスさんに頼まれましたけどね」
「そうか……。よしアキト! 共に火星に行くためにこの『ゲキガンガー3』で熱血を語り合おうではないか!」
必要以上に暑苦しいヤマダさんに辺りは引きまくってます。

『無敵! ゲキガンガー発進!』

「『わ〜』」
サブタイトルが流れた瞬間、画面に向き直って拍手をして見入る二人。
似たもの同士なんでしょうか?
「馬鹿?」
思わず呟いてしまいました。
でもミナトさんはそれをくすくす笑って見ていただけでした……。


『やめてぇ! ロクロウ兄さんを殺さないでぇ! ケーン! お願い! やめてぇ!』

テンカワさんとヤマダさんの二人がゲキガンガーを観賞しています。
後のメンバーは思い思いの事をしているようです。
私とミナトさんはテンカワさんを観察していました。

「くぅ〜! 見ろよ、この燃える展開!」
「話はありがちだけどね」
ヤマダさんの感想に突っ込むテンカワさん。
「うるさいな! 素直に感動しろ!」
「はいはい。……素直にね……」
それなりには楽しんでいるようです。

何やかやのやり取りはあるようですがヤマダさんが普段よりおとなしい感じがします。
これもゲキガンガーを理解してくれる人が一人でも増えたからでしょうか?



『ゲキガンパーンチ!』
『ゲキガンカッター!』
『ゲキガンビーム!』
『地球の自然を!』
『緑の地球を!』
『俺たちが守る!』

「しかし暑苦しいな、こいつら」
ウリバタケさんが画面を眺めながら呟きます。
でも、新しい機械を目の前にした貴方も似たようなものでは?
「武器の名前を叫ぶのは音声入力なのか?」
ゴートさんはアニメの設定と言う物について突っ込んでいるようです。
「違う違う! これが熱血なんだよ! 魂の迸りなんだよ!」
色々後ろで言われ続けたヤマダさんがついに切れたようです。テーブルの上で演説をぶってます。
そこ、食事で使う場所だって気づいてますかね?
その大声を聞いても椅子の上で寝こけるフクベ提督はさすがとしかいいようがないでしょう。
「みんな! このシチュエーションに燃えるものを感じないのか!? 奪われた秘密基地! 軍部の陰謀! 残された子供たちだけでも事態を打開して鼻をあか してやろうとは思わねぇのか!?」
何かに天啓を受けたかのようなヤマダさんの演説が始まりました。
「誰だよ、子供って……」
ぼそりと呟くウリバタケさん。気持ちは同じ人が多いようです。
「でも艦長はどうする気ですか? 今人質にされているのと変わりませんけど」
メグミさんの意見ももっともです。
「そうね〜。別に艦長がいなくても緊急起動で一時的には何とかなるけど、恒久的に動かすつもりなら艦長とマスターキーがないと駄目よね〜」
ミナトさんが補足します。
「そんなものは根性で!」
「なんともなりません」
無茶苦茶な事を言い出すヤマダさんに私が突っ込みます。
機械は能力以上の事は出来ません。
でもヤマダさんはみんなを鼓舞し続けます。
「どーしたみんなぁ! 絶対、鬼の様に燃えるシチュエーションなのに!」
そんな時テンカワさんが立ち上がりました。
厨房へ行き……中華なべを持ってきました。
「ルリちゃん扉のロックはずしてくれる? 出来れば見張りの軍人がこっちに背中を向けているタイミングで」
「出来ますけど……一体何を?」
「じゃ、お願い」
答えてはくれず、お願いされてしまいました。
ミナトさんを見ると頷いています。
やっていい、ということでしょうか?

「じゃあ、いきます」
音も無く食堂の扉が開くと同時に、テンカワさんが手に持った中華なべで軍人を殴りつけました。

ゴン! という鈍い音と共に軍人が倒れました。
甘く見られていたのか、見張りが一人だったのでやりやすかったですが……複数いたらどうする気だったんですか?
「俺ロボットで脱出して艦長を連れ戻してくる」
「「「「「ええ?」」」」」
「俺、火星を助けたい。たとえ世界中が戦争しか考えて無くても……それでも、もっと何か他に出来る事を、みんな、みんなそれを探してここに来たんじゃない の……」

ゴゥン!

「え!?」
轟音と共にナデシコに振動が走ります。

「どうやら何か異常事態が起きたようだな」
ゴートさんが状況をいち早く把握したようです。
「なら、今が事を起こす絶好のチャンスってわけだ!」
嬉しそうな顔のヤマダさんが
「違いない。みんな、ブリッジと格納庫を制圧するぞ」
食堂内のクルーに声をかけるゴートさん。
「面白れぇ! ナデシコ整備班をなめるなよ!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
ウリバタケさんの宣言に答える整備班一同。
「オモイカネ、現在の艦内の軍人の配備位置は?」
私は現状の把握のためオモイカネに確認をとります。
<ブリッジと格納庫に各十名ずつ><他にはいないよ><みんなでやれば楽勝!>
そんなウィンドウとマップが表示されます。
「じゃあ、格納庫のほうに人を割いたほうがいいわね。ロボットの整備もあることだし。ブリッジの方は私が行くわ」
「ミナトさん一人じゃ危ないですよ!」
ミナトさんの言葉に反応したテンカワさん。
確かに私も同意見です。誰か護衛がいないと、いくらオモイカネのサポートがあるとはいえ危険でしょう。
「ん〜。じゃあ、アキト君来てくれる?」
「……判りました! じゃあ格納庫の方、お願いします!」
一瞬考え込んだテンカワさんでしたがすぐに了承しました。
「うむ、任せろ」
「このダイゴウジ・ガイ様がいりゃあ安心だぜ! いくらIFSをつけていると言っても普通の重機とエステは別物だからな! ここは本職のパイロットに任せ な!」
ゴートさんとヤマダさんが頷き、それぞれに作戦を立てる事になりました。

「格納庫を取り戻すにしても、丸腰は心許ない。なにか武器になるものは無いか?」
「包丁を貸す気はないよ。アレは食材を切るものであって武器じゃないからね。椅子と掃除用具と……あとはこの中華鍋を持っていきな。運が良けりゃ弾ぐらい は弾くだろ」
ゴートさんの質問に武器になりそうなものを渡すホウメイさん。
確かに料理人のプライドとして包丁は貸せないでしょう。

そうしてミナトさんとテンカワさん、そしてホウメイさんはブリッジへ。
私とメグミさんとゴートさん、ヤマダさん、そしてウリバタケさん率いる整備班は格納庫へ向かいました。

実はこの時、護衛艦クロッカスがチューリップに飲み込まれ、もう一隻の護衛艦パンジーも飲み込まれる直前というかなりピンチな状態だったようです。



格納庫へ強襲をかけたゴートさんが軍人から銃を奪い取り、両手に一丁ずつ構えて威嚇射撃をしています。
私とメグミさんは整備班の一部に護衛されて発進用オペレータールームへ入りました。
防弾・耐圧ガラスの向こうでは銃撃戦の中、エステバリスに駆け寄り、乗り込むヤマダさんと発進準備をする整備班がいました。
銃弾飛び交う格納庫で彫像のようになっていたマゼンタピンクのエステバリスのメインカメラに光が灯ります。
『よっしゃあ!起動したぜ!』
ヤマダさんの威勢のいい声と共に、エステバリスが歩き出しました。
「ルリの指示に従え!」
両手に機関銃を持ったゴートさんが銃を撃って来る兵士に対して応戦していました。
「発進します。どうなっても判らないので退避して下さい!」
「くすっ」
メグミさんの退避勧告なのか責任放棄なのか判らない発言に思わず笑ってしまいました。
「あれぇ?ルリちゃん今笑った?」
「別に。私も結構馬鹿になってきたんですかね?」
そう自嘲しながらオペレータIFS用端末でハッチの開閉操作をします。


その頃、ミナトさんたちはブリッジで電気銃(テイザー)にやられたキノコたちを縛り上げていたそうです。
でも、操作系がロックされていたのですぐには使えなかったそうなので私がこちらに来たほうがエステバリスを出撃させやすかったということでした。


エステバリスの目の前のハッチから順々にハッチが開いていきます。
『行くぜぇ!』
「位置についてー」
メグミさんの声にあわせてスタートダッシュの姿勢になるエステバリス。
「マニュアル発進、用意、どん」
私の掛け声と共に全力疾走を始めるヤマダさんのエステバリスの姿はなんだか滑稽です。
『でやぁぁぁぁぁぁ!』<サイズ変更+1>
「マニュアル発進ってただ走るだけなんだ」
「はい」
メグミさんの呆れた声に返事をしました。
おそらく二人とも同じ気持ちだったのでしょう。
あ、銃声が止んでますね。
どうやら格納庫内の戦闘も終了したようです。
『ちょっと待てぇ!ヤマダぁ、そいつは陸戦用だ!こないだの奴だよー!』
突然現れたウリバタケさんのウィンドウがものすごい勢いでヤマダさんを止めようとしています。
陸戦用……って言ってましたか、今?
『でやぁぁぁぁぁぁ!』
しかしヤマダさんは人の話を聞かない人ですから……、やっぱり聞いていないようです。
『いぃぃち、にぃぃ、のぉぉ、どぉぉぉん!』
飛び出すエステ
『レッツゴー! ゲキ・ガンガー!!』
『それは陸戦タイプなんだってば! そいつは陸戦タイプなんだよー!』
話を聞かないヤマダさんと必死になって止めようとしているウリバタケさん……いえもう手遅れですけど。
スラスターの連続使用限界に達し、上昇が止まったエステバリス陸戦用フレーム。ま、当然ですね。
『あれ?』
決めポーズのままバランスを崩して落ちていくマゼンタピンクのエステバリスがなんか間抜けです。
『なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
海に落ちるエステ。海の中って平気でしたっけ?
『何だ!? 飛べぇ! 飛びやがれぇぇぇ!』
海の中から飛び上がるもののスラスターの限界に達し、また海の中へ。
その上を飛んでいくヘリコプターがなにやら間抜けな感じがしました。

『ヤマダさん!? また囮になってくれるのね!』
『なにぃ!?』
『この隙にユリカはナデシコに乗り込みます』
『何だよ、おい!』

『うわっ! おい!? ちょっと! うわぁ!?』
海中のヤマダさんを触手が襲っています。
『だから陸戦タイプなんだってば』
ウリバタケさんも最早呆れているようです。
『ヤマダさん、また私のために命をかけて!』
触手から逃げながら、海中より脱出するエステバリス。
眼下に広がるのは触手を生やしたチューリップでした。
『なんだぁ、こりゃ!? おわ!?』
驚くヤマダさんに関係なく、触手は襲ってきます。
どこまで回避し続けられるかが勝負の分かれ目のようです。


ヤマダさんの陸戦用エステバリスをマニュアル発進させた後、私とメグミさんとゴートさんは大急ぎでブリッジに向かっていました。
「ここで待っていろ」
そう言って扉を開けたゴートさんでしたが入り口付近で気を失って縛り上げられているキノコや軍人達を見て唖然としていました。
特にキノコに至っては、なにやら芸術的な感じさえする縛り方でした。
「お帰り、ルリルリ〜。さ〜、やるわよ」
にこやかに返すミナトさんと縛り上げられた軍人をを横目に見てゴートさんに説明しました。
「オモイカネがテロリストと判断した時に電気銃(テイザー)を発射するようになっているんです」
「万が一を考えてつけてもらったけど……『万が一』って結構起こるのね〜」
すでにブリッジを制圧し、操作系の復旧をしていたミナトさんの言葉に私は頷きます。
発進当日の緊急作動システムしかり、この電気銃(テイザー)しかり。
ミナトさんが用心することは必ず起こっています。
そうすると私がトップレディーになる日が……来るとは思えませんね。
義理とはいえ親に金で売られた少女にそんな未来が来るとは思えません。

そして外を映しているウィンドウを見ると陸戦フレームで出たためノミのよう飛び跳ね続けているヤマダさん。
「あら〜。ぴょこぴょんぴょこぴょん元気よね〜」
ミナトさんの台詞は見ていたみんなの心の代弁だと思います。
グズグズしていられないので急いで席に着きます。
「お待たせしました」
その面白画像を横目に見ながら私たちとゴートさんの三人で緊急起動システムをまた使って、起動シークエンスから射撃シークエンスへ移行させます。
これでナデシコの全機能が一時的にではあるものの回復です。
艦長たちもブリッジに向かって走っているとのことなのですぐに常態に戻るでしょう。
格納庫ではテンカワさんが発進許可を求めているとの連絡が入ってきました。
「テンカワが何故?」
ゴートさんの質問にミナトさんが、
「あの面白映像を見て、自分がヤマダ君に空戦フレームを届けてくる! って言って出て行っちゃったのよ」
と、返しました。
『お〜い、こちら格納庫。コックが一人エステで出るって喚いているぞ〜』
どうやらテンカワさんは格納庫に着いたようです。
「でもなんですれ違わなかったんでしょうか?」
「そこのパイロット用シューターで降りていったけど?」
私の疑問に答えたミナトさんが指差す先には、穴が開いていました。
そういえばこの艦はブリッジと格納庫を結ぶ直通シューターがあるんでしたっけ。
「ぶぃ!」
しかしその事に気をとられていた私たちは入ってきた艦長と息を切らせているプロスさんに全く気づきませんでした。
「ふんだ……。いいもんいいもんユリカにはヤマダさんがいるもん……」
マスターキーが差し込まれ、常態に戻ったところで初めて艦長が戻っていた事に気づいた私たちでした。


「しかし、本気かお前?」
ウリバタケさんがテンカワさんに尋ねています。
確かに正気を疑う行為でしょう。
「今行かなきゃガイのヤツがやばいんだ! ウリバタケさん、空いている空戦フレームは!?」
しかしどうやら『熱血』しているテンカワさんは本気で言っているようです。
ウリバタケさんは諦めたような顔で格納庫の片隅を指差します。
「そこだ。戻ってくる余裕はなさそうだから空中で換装になるぞ。システムを立ち上げればオモイカネのサポートで自動的に出来るようにしておくからな」
「有難うございます!」
「礼なら帰ってきてからにしろ! よーし道空けろー! コックが出るぞー!」
『テンカワ機、発進、どうぞ』
そしてテンカワさんが発進しました。


「うおっと!」
未だにヤマダさんはチューリップの攻撃をかわし続けることしか出来ません。
やはり武器無しの陸戦フレームでは上手くいかないのでしょう。

そこへ空戦フレームでもう一つの空戦フレームを持ってきたテンカワさんが駆けつけました。
『ガイ!こっちの機体に換装しろ!』
今思えば、この一言でヤマダさんにとってテンカワさんが親友に決定していたのでしょう。
『お前、コックだって言ってたくせになんで!?』
『今この艦には俺とお前しかIFSをつけている人間がいないんだろ! だったら俺が出てくるしかないじゃないか! 俺だって火星に行くためにはこの艦しか 手段が無いんだ! 形振りかまっていられるかよ!』
ヤマダさんの疑問に答えるテンカワさんは慣れない機体の操作で必死になりながらヤマダ機に接近していきます。
『くぅ〜、いいねぇ! 本職じゃなくても友を助けるために飛び出す男と男の友情! よし! やるぜぇ!』
なにやら感動しているらしいです。これも『熱血』なんですかね?
『余計なこと言ってないでエステのサポートシステムをつなげろ! 自動で空中換装のタイミングを計ってくれるってウリバタケさんが言ってた!』
『おおよ!』
二機が同じ軸線上に並びました。
『アキト! 行くぜ! 掛け声は『クロス・クラッシュ!』だ!』
『何だよそれは!?』
いきなり言われた掛け声に突っ込むテンカワさん。
『決まってるだろ! 合体の時の掛け声だ! 魂の叫びだ!』
『でもなぁ……』
顔が赤いところを見ると恥ずかしいようですが……
『時間がない! やるぞアキト!』
『しょうがない……』
どうやらテンカワさんも諦めたようです。
『3・2・1……』
オモイカネのサポートでタイミングを計るテンカワさん。
『『クロス・クラッシュ!』』
掛け声と共にヤマダさんの陸戦エステのアサルトピットが射出され、それをテンカワさんが持ってきた空戦フレームで受け止めます。
さすがにオモイカネのサポートの入った合体だけに寸毫の狂いも無く合体できたようです。
二機の空戦フレームが縦横無尽に空を駆けます。
テンカワさんはなんとかかわすのみですが、ヤマダさんは拳にディストーションフィールドを集めて触手を破壊していきます。
どうやらディストーションフィールドを使った体当たり攻撃ならチューリップを傷つけられるようです。
『ようし! やるぞアキト!』
それを見ていたヤマダさんが何かを思いついたようでした。
『やるって何をだよ!?』
当然の疑問ですね。これだけで判ったらよほどツーカーなのか超能力者です。
『ダブルゲキガンフレアーだ! 二機同時にさっきまで俺の使っていたゲキガンフレアーを使って攻撃すればチューリップを倒せるかもしれん!』
かもしれん……って……。
『確証無しかよ!?』
それを聞いたテンカワさんが全力で突っ込みます。
『やった事のあるヤツがいないのに確証なんか出せるか!』
正論かもしれませんが、それを実戦でいきなりやるのは無謀としか……。
『判ったよ! やってやるぜ!』
いえテンカワさん、自棄になるのはどうかと……。
『それでこそ男だ! 行くぞ!』
呆れた私が止める間も無く、二人の空戦フレームがディストーションフィールドを纏って加速します。
『『ダブルゲキガンフレアー!!』』
そしてチューリップから出ている触手を次々斬り飛ばしていきます。
でも『ダブルゲキガンフレアー』って何の事でしょう?
そう思っているうちに二機のエステバリスがチューリップに接触し……、小さいながらも亀裂が入りました。
『ようし、後はこれを繰り返す……』
「だいじょうぶでーす!」
ヤマダさんの台詞をさえぎって艦長が叫びます。
「グラビティーブラスト充填百パーセント。いつでも行けます」
「操舵の方もオールジャストかんぺき〜」
<良好><GO><安全><SAFETY ROCK OFF><よく出来ました>
というウィンドウの乱舞するブリッジの中で仁王立ちになった艦長が支持を出します。
「ではチューリップに向かって突撃!」
「りょ〜かい!」
狙いを定めた私たちはチューリップに向かって突撃します。

チューリップの口に艦首ディストーションブレードを突き刺し……
「グラビティブラスト発射!」
艦長の号令と共に発射されたグラビティブラストはチューリップを一撃で破壊したのでした。



「ちょっと!アタシは副提督なのよ!偉いのよ〜!」
波間に揺れる軍人たちの中、飛び去っていくナデシコに喚き散らすキノコがあったけど……、ま、誰も気にしていないからいいでしょう。
ミナトさんの提案で乗っ取りをしようとした軍人達はみんな置いていく事にしたんです。
トビウメもいるから大丈夫だろうということで。
でも下が海とはいえ、高度数百メートルから生身だけで放り出したのに無傷でいるなんて……悪運だけは強いんですかね?


ちなみにブリッジをオモイカネに制圧された瞬間の映像を見ましたが……。
オモイカネ、警告無しでいきなりキノコ以外の全員に電気銃を打ち込んで、散々キノコをびびらせてから止めを刺すのは少し悪趣味ではないですか?



そしてテンカワさんはコック兼サブパイロットとして再契約しました。
契約にはまた私とミナトさんが立ち会ったのですが……
「プロスさ〜ん、今度は契約書が落丁なんてことはないわよね〜?」
「はっはっは、今度はちゃんと確認しております、ハイ。同じ轍は踏みませんよ」
「どうだか……。あ、これ」
「こ、今度は何です!?」
焦りまくるプロスさん。
今度ミスしたら、間抜けじゃすまないから必死でしょう。
「落丁じゃないけど記入場所間違えてない?この保険のところ。これじゃ無効にされないかしら?」
「えぇぇぇっ!?」
慌てて書類を確認するテンカワさん。
テンカワさん、保険に呪われているんでしょうか?
はぁ、ホント馬鹿ばっか。

そう言ったらミナトさんに叱られました。
「ルリルリ、『馬鹿』って言う単語は初めて会った時ヤマダ君みたく他人の話を聞かない人や今回の軍人みたいな礼儀のない人間に言うべきものよ。さっきの食 堂でのアキト君とヤマダ君みたく、自分の好きな事に夢中になっている人を『○○馬鹿』っていうのはかまわないけど、人に悪し様にいう時に使うものではない わよ。犯罪者相手に使うのならともかく、ちょっと失敗したぐらいで使わないの。ルリルリだって今日、昨日と同じ失敗したでしょう?」
「あ……」
そうです、私もしてしまいました。
テンカワさんがいるのに『火星の人なんてみんな死んでいるんじゃ?』なんて言ってしまったんでした。
それもテンカワさんの契約時と、今日と……。
これじゃ、私も他人の事は言えません。
後でテンカワさんにもう一度謝っておきましょう……。
でも許してくれるでしょうか……?

そう思っていたらミナトさんは
「大丈夫。きっと許してくれるわよ」
と、言ってくれました。


テンカワさんの部屋に行って謝ったら許してくれました。
許してもらえた時、胸の奥のつかえのようなものが無くなったように感じました。
どうしてなんでしょう……?



この後、テンカワさんとヤマダさんは急速に仲が良くなっていきました。
あの二人が仲良くしているとなんだか落ち着きません。
私の事もほったらかしにされる事があります。

テンカワさん……私のこと、気にかけてくれるんじゃなかったんですか……?
ちょっと残念です……。




男の友情と女への愛情は別物よ、ルリルリ(涙)。
ルリの書いた航海日誌を読んでちょっと後悔するミナトであった。




あとがき


ども、喜竹夏道です。
ありがちなネタをやってしまいました。
『航海』と『後悔』。
ちょっと後悔してます。
やっぱり戦闘シーンの描写に手間取った上、長くなってきたので前後編になってしまいました。
また前編でのミスマル提督の登場シーンは某塾長っぽくしてみました(笑)。TVではにぎやかであっても大声ではないんですけど。
『ミスター味皇帝』はもうご想像の通りの作品が元ネタです(笑)。
アキトとヤマダはTV第一話のエステ出撃が無ければきっともっと早く仲良くなれていたと思ったのでこうしてみました。

ところで皆さんは何かジンクスのようなものはありますか?
作中のアキトのように「〜に呪われている」でも構いません。
筆者は某H社の車両に呪われています。
某H社の白の軽1BOX(悪茶)に当て逃げされる。
某H社の黒のミニバン(奔流)に右直事故でバイクを大破させられ、頭を踏み潰されそうになり、加害者(下総基地の女自衛官)は半年近く事故処理をほっぽら かす。民間人の税金で生活できている事を自覚しているんですかね?
そんなジンクスを振り払おうと某H社のオフロードバイクを購入したら、交差点で左折の際、横断歩道の上に白い砂(珪砂?)が撒かれていて気づかず転倒し、 バイクはほぼ無傷だが自分は全治三週間の怪我。
その三ヵ月後、そのバイクで走り出したらウイリーした状態でアクセルが戻らなくなり、対向車線に突っ込みそうになったので、転倒させて回避したがバイクの 下敷きになってしまい、全治三ヶ月の怪我。
さらにその三ヵ月後、そのバイクに乗っていたら後方にいた某H社の車(印簾牌亞)が追い越しをかけるように見せかけて幅寄せしてきて、歩車分離帯のキャッ ツアイに左足が命中して捻られ、全治三ヶ月。よく骨折しなかったものだと医者に言われました。
某H社の車に乗るドライバーのうち、特に悪質なのに当っただけかもしれないが、とかく某H社の車両とは相性が悪いので、車両購入時には選択から外していま す。車両としては嫌いじゃないんですけど。
ちなみにすべて実話です。(よく生きてたな俺……)







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