機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト

第八話 熱めの『冷たい解説者』 -前編-



アキトとルリが穴に落ちた頃、ナデシコブリッジでは……
「アキトさん!? ルリちゃん!?」
今まで盗み聞きしていた通信が突如途切れたことに慌てたメグミが叫んでいた。
「メグミさん!? どうしました!?」
メグミの尋常ならざる勢いに、思わず艦長が声をかける。
「……アキトさんとルリちゃんからの通信が……途絶えました!」
艦長を振り返りながら慌てた顔で報告するメグミ。
「ええっ!? まさかアキト、ルリちゃんをどこかの暗がりに連れ込んでいけないことを!?」
「ええっ!?」
艦長の妄想につられて驚くメグミ。
「あるいはいけないことどころか登るには早すぎる大人の階段まで登っちゃったとか!?」
「えええっ!?」
ヒートアップする二人の妄想にツッコミが入る。
「あのテンカワ君にそんなことが出来るとは思わないけど……」
ジュンのある意味的確なツッコミ。
しかし、彼は知らない。
テンカワ・アキトが朴念仁の女たらしである事を。
そしてうっかり投入してしまう爆弾。
「だいたい、契約書にはそういうことは禁止されているわけだし……」
そのジュンのセリフで再燃する『恋愛条項』問題。
「そうだ! プロスさんにあの契約書のあの条項、なんとかしてもらわないと!」
いや、ここで艦長が言うべきセリフか、それは?
「そうです! かっこいい男の人がいっぱいいるって言うから来たのにこれはあんまりです! 詐欺です! 卑怯です!」
メグミちゃん、それは暗に『いい男がいない』と言っているのと同義だぞ?
『そうだ、そうだ! さっきは有耶無耶になったがハッキリさせてもらうわなきゃな!』
艦長にメグミ、さらにはいつの間に繋いでいたのか、ウリバタケのコミュニケも開いていた。
ウリバタケ……、あんた妻子持ちだろうが。
ヒートアップするブリッジクルーたちを傍観者の目で見るミナトにフクベが声をかける。
「君はいいのかね?」
「私たち三人はそこは潰してあるから問題ないで〜す」
「「『裏切り者!!』」」
フクベとの会話が聞こえたか、艦長・メグミ・ウリバタケがミナトを非難する。
「ちゃんと契約書を読んだ結果だもん。契約書って言うのは、穴が開くほど見つめて疑問点を確認して、内容の穴を見つけて自分のいいように改竄するものなん だから」
正しい事を言っているはずなのに微妙に黒い気がするのは何故だろうか……?

すでに当初の『アキト達に連絡がつかない』ということから完全にズレてしまっている艦長たちの会話に、気楽な声がかかる。
「ま、なんにしても通信が繋がらないのはどっかの穴にでも落ちたとか〜? その時コミュニケが壊れちゃったとかっていう可能性は〜?」
比較的冷静なのは何が起きたのか知っているミナトだけだった……。
「……確かにそういう可能性もありますね」
ミナトの言葉に最初に何を考えていたのか、思い出したブリッジメンバー。
「でも〜、もしそうだったら怪我してるかも知れないわね〜? どうする〜艦長〜?」
「え? どうするって……」
「助けに行くのか、放っておくかって事なんだけど〜?」
ミナトのセリフに考え込む艦長。
「……う〜〜ん……。とりあえずヒナギクの帰還を待ちます。その後一時間だけ待って通信が無いようならナデシコで捜索に行きます。ミナトさん、エンジンを 止めないでください」
「りょ〜か〜い」
「それとオモイカネ」
<なんです?>
「ルリちゃんが戻ってくるまで、もう少し我慢して。ヒナギクが帰ってきてから一時間連絡がなかったら助けに行くから」
<了解><OK><ラーサ!><ばっちこーい!>
艦長のセリフに乱舞するウィンドウ。
とりあえず方針は決まったようだ。



アキトとルリはバイザーとフードマントの人物のあとを歩いていく。
「さっき……『ようこそ火星へ』って言ってたけど……、なんで俺たちが火星に『来た』事を知ってるんだ?」
前を歩くバイザーとフードマントの人物に質問をするアキト。
「なら説明しましょう。火星に生き残っている人間は殆どいない……。ましてや貴方たちみたいな小奇麗な格好をした人間なんて絶無と言っていいわね。それに 先ほど大気圏上層で宇宙空間戦闘の光が観測された……。ここはすでに木星蜥蜴の支配下になっているにも関わらず……。これらのことから導き出される答えは 一つ……。地球側から艦、それも戦闘艦がやってきた、と言うことよ」
見事な観察力である。
「で? 何個艦隊ぐらいで来たのかしら? ずいぶんと派手な戦闘みたいだったけど……」
ちらりと後ろを振り返るバイザーとフードマントの人物。
「一隻だ」
「一隻?」
アキトのセリフに怪訝そうな声を出すバイザーとフードマントの人物。
「ああ、ネルガルの機動戦艦ナデシコ。この艦一隻だけで来た」
「ナデシコ……。そういうこと……」
なにやら得心がいったような声で返すバイザーとフードマントの人物が立ち止まる。
そこには頑丈そうな扉があった。
「ここよ」
そう言って開いた扉の先はシェルターの地下だった。

そこには……決して少なくない人が、思い思いの事をしていた。
本を読む者、武器の手入れをする者、料理をする者、壁にもたれてぼうっとしている者……。
それらの人々を見たアキトとルリは息を呑み、無言になる。
その二人を見たバイザーとフードマントの人物が告げる。
「説明しないわけにはいかないわね……。あちこちのコロニーの生き残りがここに集まったのよ。基本的に木星蜥蜴どもは人間を襲わない……」
そこで説明が止まる。
理由はアキトがいきなり大声を上げたからだった。
「良かったなぁ、みんな!! もう帰れる! 地球に帰れるんだ!!」
騒ぐアキトを疲れ切った目で見る人々。
すでに生きる事にさえ疲れているようだ。
精神病理に詳しい者なら、ほとんど全員を『鬱病』と診断していてもおかしくないほどに……。
それに気づかずにアキトは続ける。
「みんなを助けに来たんだよ! みんな俺たちの艦に……」
「乗らないわよ」
アキトのセリフを遮るバイザーとフードマントの人物。
「なんでですか?」
ルリのセリフに胸を張るバイザーとフードマントの人物。
「ようし、説明しましょう!」
心なしか嬉しそうである(笑)
「……頼んでませんけど……」
ルリのツッコミは完全無視でバイザーとフードマントの人物が話し始める。
「戦艦一隻で火星から帰れると思ってる? 敵はまだまだいるのよ?」
「私たちは現実に戦って勝って来ました。貴女はナデシコの力を知っているとでも言うんですか?」
ルリの反論にバイザーとフードマントの人物が答える。
「相転移エンジンのこと?」
驚くルリとアキトを尻目にフードを外していく人物。
「あんた、一体!?」
フードを外し、バイザーを外したその人物は長い金髪をまとめた二十七〜八歳くらいの美女(いや、だって『オバサン』って言うと人体実験されそうだし)だっ た。
「私はその相転移エンジンとディストーションフィールドの開発者の一人……、イネス・フレサンジュ。で、判りやすく言うと……」
「ネルガルの人……ってことですか?」
バイザーとフードマントの人物……、もとい、イネスのセリフを奪うルリ。
「……なかなか回転が速そうねお嬢ちゃん」
自分の『説明』を中断されたのが癇に障るのか、ちょっとキツイ目になるイネス。
「……アキトさん……。とりあえずナデシコに生存者発見を連絡しましょう」
イネスの目は無視してアキトと相談するルリ。
「そうだね、ルリちゃん。……って、あれ? コミュニケが反応しない……。ルリちゃんのは?」
「私のもです……。どうやら落ちた時に壊れたみたいですね」
二人してお互いの腕時計…コミュニケの個人端末を弄ってみるも反応なし。
「ヤワだな……。仕方ない、一旦地上まで戻ってエステの通信機を使おう」
「そうですね」
アキトの提案に首肯するルリ。
「じゃあ、すいませんがフレサンジュさん」
「イネスでいいわよ」
アキトのセリフを訂正するイネス。
「じゃあ、イネスさん。すいませんけど地上へ出る場所を教えてください。とりあえずナデシコと連絡を取ります。その後どうするかは、こちらの代表の方と話 して決める事に……」
「なら、私も行った方がいいでしょう。ここの責任者みたいなものだし……」
こともなげに言うイネスに、とりあえず道案内を頼むアキトとルリだった。



そのころナデシコでは……。
「ヒナギク、後三分で合流します」
「ではヒナギク回収後、ユートピアコロニーの跡地へ向かいます! 各員は発進準備を……」
メグミのセリフにすかさず指示を出すが、
「敵地で臨戦態勢解いてる人間なんているの〜?」
「あう……」
ミナトのセリフに凹む艦長。
だが……。
「……一人いました」
「「うそ!?」」
しかし、それを覆すメグミの報告に驚くミナトと艦長。
「ヤマダさんです。アニメを見ているようです」
ブリッジに微妙な空気が走る。
「……ほっときましょう……。いつものことだし……」
ミナトのセリフに首肯するブリッジクルーだった。

ヒナギクが帰還してプロスたちがブリッジに戻った直後……。
「あ!?」
「どうしました!?」
メグミの声に反応する艦長。
「アキトさんたちからの通信です! ユートピアコロニーで生存者を発見とのこと!」
「ええーっ!?」
「なんですと!?」
声を出して驚くユリカとプロス。
目を見張るフクベ。
お互いの顔を見合わせているジュンとイズミとゴート。
リョーコとヒカルは目をぱちくり。
「す、すぐにモニターに出して!!」
「りょ、了解です!」
そして映し出されたモニターには少し汚れているものの元気なアキトとルリの姿があった。
「聞こえるか、ユリカ! 生存者を発見したぞ! それも百人以上だ!」<サイズ変更+1>
「ホント!?」
アキトの報告に驚くブリッジクルー。
生存者など絶望視していた場所に、生存者がいた事に驚いていた。
「ああ! ただ……」
「ただ?」
言いよどむアキトに返す艦長。
「ナデシコには乗らないって言ってる……。戦艦一隻で火星から逃げられるわけが無いって……」
「ナデシコは最強の戦艦だよ!? ヤマダさんだっているし!」
この際、ヤマダは関係無いと思う。
「とりあえずプロスさんに避難民の代表と話をしてもらいたいんだ。これからそっちに連れて行くから」
「判った。気をつけてねアキト」
「了解」
艦長の言葉に返事をしてアキトが通信を切ろうとする直前にミナトの声がかかる。
「ルリルリ〜。アキト君は押し倒してくれた〜?」」
「んなわけないでしょう!!」<サイズ変更+2>
ミナトのセリフに赤くなったルリを背中に回して、全力で否定するアキトであった……。


通信の終わったアキトは背後にいるイネスを振り返る。
「まあ、そんな訳でとりあえずナデシコまで来てもらえませんか?」
「じゃあ私は何処に乗ったらいいのかしら?」
砲戦フレームの前でイネスはアキトに尋ねる。
「……そうですね……。サブシートに乗って下さい」
アキトが口を開くより先にルリが席を譲る。
「ルリちゃんはどうするの?」
ルリが席を譲った事にアキトが質問する。
「私は……その、アキトさんのひざの上にでも……。……邪魔ですか……?」
手を胸の前で組み、頬を赤くしてちょっと上目遣いで見上げて尋ねるルリ。
ミナトから教わった『男におねだりするポーズ その1』だが、勿論アキトはその事を知らない(笑)。
「だ、大丈夫だって! 全然邪魔なんかじゃないって!」
あっさりひっかかるアキト。ルリは内心『ニヤリ』である。
「良かった……。……最初はイネスさんがアキトさんのひざの上っていうのも考えたんですけど……おばさんより私のほうが良いと思いまして……」
「ちょっと待ってくれるお嬢ちゃん? それはどういう意味なのかきっちりと説明してもらうわよ?」
聞き捨てなら無い台詞が混じっていたらしく、コメカミに血管が浮き出しているイネス。それに対して微笑んで応えるルリ。
「……見ての通り、です」
ピキッ! という空間が凍る音を聞いたとアキトは後に語った……。
「見ての通り、イネスさんのほうが私やアキトさんよりずっと年上です。つまりその分身体が大きいのでアキトさんのひざの上に座ったらアキトさんは前が見え なくなりますし、重量的な負担も大きいです。その点、私なら体が小さいので前が見えなくなる可能性は少ないですし、体重も軽いので重量的な負担も少ないで す。何よりアキトさんも若い方が嬉しいと思いますし……」
ルリのセリフにコメカミに血管を浮かび上がらせながら微笑むイネス。
「……ええ、そうね。確かに合理的ね……。一部を除いて、だけど……。」
二人の間に膨れ上がる殺気に及び腰になるアキト。
「お嬢ちゃん……。あとできっちりと結論を出しましょうね?」
「望むところです」
にっこりと微笑む二人。
しかしこの二人の今の笑顔を見る事は、恐らく神(筆者)とて不可能であろう。
すでにアキトは泡を噴いて気を失いかけていた(笑)。


表面上は静かに、だが胃の痛くなる空気を纏って、砲戦フレームに乗り込む三人。
「じゃあ、行きますけど……。大丈夫ですか?」
アキトが振り返ってイネスに問う。
「ええ、大丈夫……。お子ちゃま用だから少し小さすぎるけど、短時間なら問題ないでしょ」
「そ、そうですか……」
棘のあるイネスのセリフにビビリの入るアキト。
対照的にご満悦なのはアキトのひざの上にいるルリである。
鼻歌が聞こえそうなぐらいご機嫌だ(笑)。
前回は現時点でここまでアキトに心を許してはいなかった。感情もここまで成長してはいなかったルリはアキトを『馬鹿の一人』としか見ていなかったのだ。そ れがこうまで変わったのはやはりミナトの教育の賜物だろう。
ただし、それが『愛情』と言う感情なのか、それとも『気の許せるお兄ちゃん』なのかはルリ本人にも判ってはいないが。
「じゃあ行きます。掴まってて下さい」
そう言うとアキトは痛む胃をこらえて砲戦フレームを発進させるのだった。



約四十分後、ナデシコブリッジ━━━━
「つまり、『とっとと帰れ』と、そういうことかな?」
「私たちは火星に残ります」
フクベの言葉にキッパリ宣言するイネス。
ブリッジクルーやパイロットたちの視線を受けて言葉を続ける。
「ナデシコの基本設計をして、地球に送ったのはこの私。だから私には判る。この艦では木星蜥蜴には勝てない。そんな艦に乗る気にはなれないわ」
「お言葉だが、レディ。我々は木星蜥蜴との戦闘には常に勝利してきた。だから我々と……」
「はぁ〜。いいこと!? 貴方たちは木星蜥蜴について何を知っているの!? あれだけ高度な無人兵器がどうして作られたか!? 目的は!? 火星を占拠し た理由は!?」
ゴートの反論をため息で遮って、一気にまくし立てるイネス。
そう、確かに知らないことばかりなのだ。
アキト達は政府が発表した以上のことは何も知らない。
ここにいる人間でそれ以上の事を知っているのはネルガルの中枢に食い込んでいる連中と未来の記憶を持つミナトだけ……。
その不安を指摘され、それを誤魔化すかのようにアキトは叫ぶ。
「信じてくれないのか!? 俺たちを!」
そのアキトを見て、哀れむような、蔑むような顔をするイネス。
「君の心、解説してあげようか……? 少しばかり戦いに勝って、女の子とデートして、『俺は何でも出来る!』」
その言葉にギョッとするアキト。
「もしかして説明が好きなんですか?」
的確で冷静なルリのツッコミ。
しかし、イネスは言葉を止めない。
「若いってだけで何でも出来ると思ったら大間違いよ。誰でも英雄になれるわけじゃ……」
「イネスさん」
ルリがイネスの言葉を止める。
見つめ合う二人。
「……歳を取ったからと言うだけで何でも出来るとは限りませんよ?」
……思い切り喧嘩を売っているルリであった。
ブリッジにいる全員には見えた。
二人の間にブリザードを伴った火花が散るのを……。
「ま、まーまーまー。兎に角、落ち着いてください。確かに戦艦一隻では心許ないと言うのはごもっとも。しかし、その点はカバーすべく、旅路の間訓練を続け てきました。ご安心ください」
二人の間に割って入るプロス。
……命がけのその行為にはエールを送りたい。
「どうかしら? ま、目の前で木星蜥蜴の大群を屠ってくれたりすれば、少しは変わるかもしれないけどね……」
あくまで懐疑的なイネス。
まるでその言葉を待っていたかのように警報がブリッジに響く!
「敵襲です! 大型戦艦5! 小型戦艦30! 小型機は出てきていません!」
光学映像を拡大すると、ナデシコ前方に見えるチューリップから次々と戦艦群が吐き出されてくる。
「なんだよあれ!? 何であんなに入ってんだよ!?」
ヤマダが珍しく普通の驚き方をする。
「入っているんじゃない、出てくるのよ。途切れることなく。あのたくさんの戦艦はきっとどこか……別の宇宙から送り込まれてくるの」
息を呑むクルーたち。
「敵、なおも増大!」
ルリの声が危機感を募らせる。
「グラビティブラスト、フルパワーで撃破します!」
艦長の決断は早かった。
しかし、そこに待ったがかかる。
「一撃で全部撃破できなかったらどうする気!?」
ミナトの一声が発射に待ったをかける。
「そ、その時はグラビティブラストの連射で……」
焦る艦長。
だがそれはルリによって否定される。
「ダメです。火星大気圏内のため相転移エンジンの出力が落ちているので連射は利きません」
くっ、と唸る艦長。
文字通り、一撃必殺でなければならないのだ。
「なら先にチューリップを叩きます! ディストーションフィールド展開! ミナトさん! 最大戦速でチューリップに向かってください! 地球でやった方法 で撃破します! 撃破後は後退しつつ残敵を掃討!」
「りょ〜かい!」
艦長の指示で一気にナデシコを加速させるミナト。
その一瞬で艦内の全員が意識を戦闘状態に持っていく。
「ルリルリ! ディストーションフィールドを目いっぱい効かせておいて!」
「はい!」
加速中は操舵とフィールドのみで敵の攻撃を回避する事に決めたミナトは万一を考え、フィールドを強化しておく。
そしてジュンはブリッジにいるパイロットに指示を出す。
「ヤマダ君! テンカワ君! それからパイロットの皆さん! チューリップ撃破後、グラビティブラストのチャージをしつつ、後退して撤退戦を行います!  ウリバタケさん、リョーコさんたちは0G戦フレームで、ヤマダ君は空戦フレーム、テンカワ君は砲戦フレームで出撃準備をお願いします!」
「おう! 任せとけ! それから俺はダイゴウジ・ガイだ!」
「判った!」
「了解!」
「は〜い!」
「……了解……」
『応よ! 任せとけ! 野郎共! ちんたらしてんじゃねぇぞ!!』
パイロットたちがシューターで格納庫に降りていく。
前回ではありえなかった光景。
しかし、今回はミナトの根回しなどもあり、こういった状況の訓練もして、ユートピアコロニーに近づかず、エンジンを切ることもなかったことが功を奏してい た。
そして奇跡的な操艦でチューリップに取り付き、その艦首をチューリップに突き入れるナデシコ。
「グラビティブラスト、フルパワー!!」
「フルパワーOK!」
「グラビティブラスト、エネルギーチャージOK!」
艦長の声にミナトとルリが応える。
「撃ぇーっ!」
迸る黒い輝きによって、チューリップが吹っ飛んだ。
「これで増援は来なくなった、ってわけだ。行くぞ野郎共!」
「「応!!」」
リョーコの声に応えるようにアキトとヤマダがバッタやジョロに向かっていく。
「リョーコ〜、アタシたちは『野郎』じゃないよ〜!」
「むしろ女郎(じょろう)……」
ヒカルとイズミは別の意味で突っ込んでいた……。
って、いうか意味違うし!
※『女郎(じょろう)』とは遊女のこと。


撤退戦は熾烈を極めたが、何とか敵戦艦を全滅させその場を去ることができた。
ただし、その代償として、ナデシコは満身創痍になってしまったが。
その修理のため、ナデシコは北極冠にあるネルガルの研究所に向かう事になった。
あそこならナデシコのパーツの代わりになりそうなものぐらいはあるだろうというプロスとイネスの見解が一致したためである。
ただ、その前にユートピアコロニーの避難民を乗せる事になり、ナデシコはユートピアコロニーに向かっていた。
ナデシコの重力波エネルギーフィールドが届くギリギリの範囲でナデシコを停め、ヒナギクを使って避難民をナデシコに乗せることになり、遠距離戦能力の高い イズミとヒカルがヒナギクの護衛に、ヤマダはナデシコの護衛、リョーコはヒナギクの操縦、アキトはイネスと一緒に避難民の説得に向かっていた。
戦艦としての性能はともかく、それを生かしきる人材に興味を持ったことと、僅かながらの希望がイネスをナデシコに乗る決心をさせたのだった。
結局、イネスとアキトの説得により避難民の約半数、百八人がナデシコに乗る事になった。
残りの人間は地球に知己がいない、逃げ出せるはずが無い、まだ家族がどこかで生き残っているかもしれない、と色々な理由で残る事にしたのだった……。
せめて……と、アキトはエステバリスで暗証コードを知っている者がいなくなってしまったため今まで開いていなかった食料庫の扉をこじ開ける。
これでしばらくの間はここの人々が生き延びることは出来るだろう……。そう信じて。

そしてナデシコはユートピアコロニーから離れたのだった……。




ところ変わってここはミナトの部屋。
アキトが持ってきたものをルリと一緒に確認しているのだった。
ちなみに、周辺に敵影の無い事を確認して半舷休息に入っているのである。

「ふ〜ん。これがアキト君のご両親の写真かぁ〜。結構いい男と美人なお母さんなのね〜」
そう言いながらミナトは写真立ての微妙なふくらみに気づいていた。
「ところでいいの? そろそろ食堂に戻らなくても?」
今気づいたように時計を見るミナト。
自分でもそれを確認して慌てるアキト。
「あ、いけね! じゃあ、行きます!」
「写真は後で部屋に置いておくわね〜」
「お願いします!」
そう言ってアキトはミナトの部屋から駆け出していった。
「さ、ルリルリもブリッジに戻らないと」
「はい」
ルリも返事をして立ち上がる。
「私はアキト君の部屋にこの写真置いてから行くから」
「判りました」
そう言ってルリも部屋を出て行く。
二人を見送ってからミナトは写真立ての裏蓋を開ける。
そこには旧式の、しかしまだ使用できるタイプのデータメディアと手紙が入っていた。
それらを取り出して蓋を閉める。
<ミナトさん、それは?>
ミナトの行動に気づいたオモイカネがミナトに尋ねる。
「さあ? でも重要なものである事は確かだと思うわよ。確認するまでルリルリたちには内緒ね。いい?」
<判りました>
取り出した手紙とメディアを引き出しにしまって鍵を掛け、アキトの部屋に写真を置きに行くミナトだった。



その日の深夜……。
ルリとアキトはそれぞれの部屋で寝ていた。
ミナトは、自分の部屋の端末の明かりで手紙を読んでいた。
一通り目を通した後、データメディアを端末に繋げる。
「オモイカネ……、これから見るデータはルリルリにもアキト君にも見せちゃだめよ」
<しかし……>
オモイカネが言いよどむ。
ルリに隠し事をしたくないのだろう。
それでもあえて、頼み込むミナト。
「今の二人じゃ多分耐えられないような事の可能性が高いのよ……。受け入れられるようになるまで待ったほうが良いわ。それは私が判断するから」
<判りました……>
目を落とした手紙には、自分たちの研究を狙っているものがいること、ネルガルのみならず軍も何かに感づいていること、自分たちに何かあった際の立ち回り方 を記してあった……。
「気づいていたのね……。自分たちが狙われている事に……」
悲しげな瞳で手紙を見つめるミナト。
そして再生したデータには……。
「うそ……? そんな事が……」
これはすぐにアキト達に見せるべきではない、そう判断したミナトはすぐにメディアを取り出してしまいこんだ。
鍵のついた小箱に入れ、オモイカネに誰かが開けようとしたらすぐに知らせるように指示してベッドに入る。
どうやってアキト達に話をしようか考えながら……。




あとがき

ども、喜竹夏道です。
やっとこ第八話目です。
また話が長くなりそうで、前後、あるいは前中後編になりそうです(涙)。
加えて最近、リアルで仕事が忙しくなっているため、執筆どころか普段を過ごす時間も無い始末。
絆にいたっては週に一回出撃できれば良い方です。
しかも中距離機で出ると味方から打たれる始末……。
どげんかせんといかんですね〜。

というわけで前回のルリをユートピアに連れて行った理由のもう一つ(他の理由はバレンタインSP『いつか渡す『チョコレート』』内で出ています)は、今回 の『アキトのひざの上杯・ルリVSイネス』の伏線でもあったのでした(笑)。
そのため一緒に行くのはメグミではなくルリにしてみました。
まあ、結局はルリに勝杯は上がったのですが……。
なんか日に日に男を蕩かすスキルを身に付けているような気がするのは私だけでしょうか(笑)。
次回は、『なぜなにナデシコ』の時間がやってきます。
説明に押し流されないようにしなければ……。
あと今回、久しぶりにジュンに長めのセリフがありました(笑)。







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