機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト

第十三話 『秘密』は一つじゃない 巻の三
 
 
 
 
《第三者(神)SIDE》
 
 
 
「え〜、ではこれより補給と改修を開始いたします。終了予定は一週間後ですので大晦日までは部署内でやりくりして交代で休暇を取ってかまいません。ただし移動はこの横須賀・川崎・横浜周辺に限定させていただきます。それ以外に行きたい場合は事前に私か艦長または副長まで連絡願います。その他……」
プロスの恒例『お休み前の訓示』はまだ続くが、概ねみんな予定は立てている。動きが取れないのは整備班ぐらいだろう。
アキト達は初日はルリたちを連れてショッピング(ケーキの奢り有り)。そして二日目はイネスたちとともにアトモ社で何かの『説明』があるらしい。その後はクリスマスパーティーだ。
三日目以降は冬休みになっているのでみんなで年末の横浜で遊び倒す事になっている。
「……では、以上で今年度のナデシコの業務を終了いたします。各自、節度を持って休暇を楽しんでください」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「は〜い!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
プロスの締めの言葉に返事をして解散するクルーたち。
その中でユリカを中心としたグループは横浜の町に繰り出した。
……なお、ユリカたちに付いて行こうとしたアカツキはエリナに耳を引っ張られて連れて行かれた。書類仕事が溜まっているらしい……。
 
 
全員がブリッジから離れて五分後━━━
ブリッジにウィンドウが開く。
『ナデシコ、聞こえるか? 司令部からの命令を……って何で誰も居らんのだ!?』
誰もいないブリッジに、連合軍の軍人がウィンドウの向こうで怒鳴っていた。
仕方が無いのでオモイカネが、
<冬休みです。悪しからず>
と、ウィンドウを出したところ……。
『☆◇@$●◆△▼*◎□ーーーー!』
声にならない叫びを上げていたのだった……。
 
 
 
《イネスSIDE》
 
 
 
ああ、もう面倒くさい……。なんで理解力の無い人間に『説明』しなければならないのかしら……?
わざわざ休日にネルガル系列のアトモ社まで来て判りきっている事を延々聞かされた上で……。
ナデシコのクルーは頭は悪かったけど『説明』に対する理解力はちゃんとあったのにねぇ……。
「では、何がボソンジャンプのキーになっていると言うんだね?」
頭の足りないアトモ社の社長が偉そうに言うので、一応『説明』してやる。
「まずはC.C。それから戦艦クラスのディストーションフィールド。これは最低条件になるでしょうね。……物体を目的地に移動させるために必要なものは何かご存知?」
「なに?」
ふっ……。ここで鬱憤を晴らさせてもらうわよ。
「よろしい。『説明』しましょう。物体を移動させるのに必要なものは『物体の保護手段』『物体の移動手段』『移動先の確認手段』の三つよ。つまり……(以降五時間ほど説明が続いたので割愛)……よってナデシコがボソンジャンプした際の『物体の保護手段』はディストーションフィールド、『物体の移動手段』はチューリップ。ま、触媒と考えてもいいわね。そして最後の『移動先の確認手段』、つまりナビゲートだけど……これが不明。今回はたまたま地球のそばに出てこられたけど、全く違う場所に出ていた可能性もある。太陽の中や木星蜥蜴の本拠地、とかね……。制御手段が無い以上この実験は続けるべきではないわ。こちらで成功しなくても、向こうに実験のことがバレてこのチューリップから敵の大群が押し寄せる可能性だってある事を忘れないで頂戴。ま、そうなった時に責任を取るのは会長の『命令』を無視して実験を続けていた貴方や貴方の会社になるでしょうけど」
最後の言葉だけは理解できたらしい社長はこちらを睨みつけてくるけど……、鼻で笑ってエリナさんを連れて出てきたのだった……。
「エリナさん、貴女も気をつけたほうがいいわよ。貴女もあの社長と同じような目をしているからね」
並んで歩く彼女にそう言っておいたけど……理解できたかどうかはもう少し時間がたたないと判らないわね……。
 
 
 
《ミナト SIDE》
 
 
 
街中を歩く私達。勿論男性であるアキト君とガイ君(艦長が無理矢理連れてきた)とジュン君(勝手に憑いてきた)は荷物持ち(はぁと)。
艦長とメグちゃんはものすごく沈んだ顔しているけど……自業自得よね♪
まさかこの三人が大食い選手権優勝者真っ青の勢いでケーキを食べるなんて思わなかったんでしょうけど、普段の食事を観察していれば判るでしょうに……。
 
 
そんな事を考えながら歩いていると、前方に二十代前半くらいの背の高い気弱そうな青年が十代前半くらいの元気のいいツインテールの女の子に腕を引っ張られていた。
なんとなく似ている雰囲気があるから兄妹かしら?
「ほらシュウジくん、早く早く!」
「とっと、ミサちゃんあまり引っ張らないで」
どうやら並ぶのが嫌で割り込もうとしている妹をお兄さんが叱っているような感じね。
「なによ〜、いいじゃない!」
「ダメだって。ほらちゃんと並んで」
どうやらお兄さんは良識人らしいわね〜。
そんな事を考えながら通り過ぎようとした時……。
「なによ〜! パパの意地悪!」
ブッ!×沢山
少女の言葉に周囲の全員が噴きだし、そちらを見る。
いきなり集まる視線に焦り出す青年。
「こ、こらミサちゃん!? そう言うことは……!」
「いいじゃない。『パパ』なのは事実なんだしぃ〜」
そんな事を言いながら青年に擦り寄る少女……。
まさか……あんな小さな子に援助交際!?
流石に聞き捨てる事も出来ず、私は二人に近づいた。
いざと言うときのために他の皆には通報の準備をしてもらっている。
「ちょっと、そこの貴方! 少女買春は犯罪よ! 判ってるの!?」
「ちょ!? ち、違います! そうじゃなくて!」
私の発言に慌てる青年の前に少女が立ちはだかる。
「何よ、オバサン。あたしと鷲士くんとの仲に妬いてるの!?」
その発言に私は珍しく、カチン、と来てしまった。
しかし、青年の方が少女の肩を押さえ込む。
「美沙ちゃん、君も黙ってて!」
青年の方は一応良識人っぽいけど……もし性犯罪者なら許すわけにもいかない!
「貴女ぐらいの義娘がいる身としては性犯罪者を許すわけにはいかないの!」
キツイ声で私は少女に言う。
私の言葉に身を縮込めるアキト君が視界の隅に見える。……どうやら性犯罪者一歩手前としての自覚はあるらしいわね♪
「シュウジくんはそんなんじゃないわよ! 私のパパだもん!」
私も彼女も声が大きくなってくるがもうすでにお構い無しになってきていた。
「だから二人とも……」
「♂×♀≠☆〒≒Ω……!」
「♀+♂<>$¥∞≦≧◎▽……!」
すでに青年の言葉も聞こえないほどに舌戦を繰り広げる私達。
いつの間にか私たちの周囲には人だかりが出来ていた。
そして……。
「いい加減に人の話を聞けーっ!!」
その叫びと共に私たちの頭に拳が飛んだのだった……。
 
 
その後落ち着いて話をしたところ、この二人が年齢差九歳という実の親子である事が判明。
……聞くところによると女の子・ミサの母親の方が七歳の時に当時八歳だった父親・シュウジに迫ったらしい……。
しかもこの娘の母親の家系はみんな早婚……というか犯罪的な年齢で最初の子供を産んできたらしい。母親もその父親との年齢差が十二歳ほどだったと言う……。
本人が八歳で出産って……確かギネス記録とタイ記録よね、それ……。何考えているのよ……。
ルリルリとミサが同じ頃合の年齢と言う事で色々な話をしていた隣で私は頭痛の起きた頭を抱えていた。
「だからぁ、男の子っていうのは……」
「ですが、それだと……」
「でも切れない絆とするなら……」
「ですが、迷惑に……」
こんな会話に気づかないほどの頭痛を……
……ここでのルリルリたちの会話が後に騒動を起こす原因になるとは考えなかった私に……罪はあるのでしょうか……? 神様、教えてください……。
 
 
 
ミサたちと別れて街を行く私たち。
「ミナトさん……、え〜とその……、色々ありますよ……」
ぽん、と肩を叩いて元気づけようとしてくれるメグちゃん……
比較的常識人である彼女は私の葛藤を判ってくれているらしかった。
年齢差九歳ってなんなのよ……。
そんな事を考えていると突然二十人ぐらいの覆面集団に囲まれた。
とっさに子供たちを守るように円陣を組む私達。
特に武道の経験者であるリョーコちゃんや元軍人のジュン君にガイ君、最近鍛えているアキト君は一歩前へ出てきていた。
「なんなの、貴方たち!?」
私が取り囲んできた男たちに誰何する。
しかし無言。この雰囲気は狂信者のそれに似ていた。
「何だ何だ〜!? 正義の味方を舐めんなよ〜!」
ガイ君はいつもの調子で相手を威嚇する。
「へっ、こう言うのは苦手じゃないぜ」
リョーコちゃんが言うように実際エステライダーは格闘技に長けている人間が多い。肉体の動作イメージで動かせるからだけど……。
「集団暴行は立派に犯罪ですよ?」
ジュン君も士官学校で格闘技を習っているし……艦長にもいいところ見せたいだろうしね♪
「みんな、ルリちゃんたちを頼んます!」
アキト君はプロスさんに教わっているから素人よりはマシ、と。
それでも二十人はキツイかしら……?
私も出ないとダメかしら……。
そんな事を考えていたら、覆面の一人が私を指差してきた。
「悪魔共め! ラピス様を放せ!」
……はい?
思わず首を傾げる私達に、演説をぶる覆面’s。
「我らは微乳を愛して幾星霜!」
「微乳は媚乳にして美乳!」
「その信念の元に数百年の時を生き!」
「今なお、その信念を貫き生きている正義の宗教!」
「「「「「微乳神信仰、『ヒンヌー教』だっ!!」」」」」
……いや……、なんでポーズをとりながらセリフを言ってるのよ、貴方たち……?
っていうか、『ヒンヌー教』って……あの変態新興宗教!?
「さあ、皆の者!我らがご本尊を悪魔の手から救い出すのだ!!」
「「「「「「「「「「おおーっ!!!」」」」」」」」」」
上がる勝ち鬨の声と指された指に私は反応した。
「誰が悪魔よ!?」
「黙れぇっ! その巨乳が何よりの証拠だぁっ!!」
私の言葉に反応したリーダーらしき覆面が私たちのうち四人を指差す。
指差された四人……、私・ライカちゃん・艦長・イズミちゃん……は確かに巨乳だった。ライカちゃんにいたっては『魔乳』である。
私がそんな想いを抱いているとは覆面どもは露知らず、力説を続ける。そして……。
「貴様らのせいでルリ様は、ルリ様は……半年前よりバストが三センチも大きくなってしまったんだぞ!!」
「なんで知ってるんですか!!」
ズバリ当てられ怒るルリルリ。
しかしそれに答えず、演説を続ける覆面。
「このままではラピス様もバストが大きくなってしまうことは必至!! よって今のうちに我らで保護する事にしたのだ!! 大人しくラピス様を渡せぇぇぇぇっ!!」
「黙れ変態ども」
ルリルリたちをすぐに逃がさなきゃ、と思った瞬間、アキト君の冷たい声が周囲を凍らせた。
怒鳴ったわけでも、叫んだわけでもないその言葉は、周囲を一瞬で凍りつかせたのだった。
覆面どもを見るアキト君の目はこちらからは見えない。
けど、それが今まで見た事の無い目であろう事は容易に気づく。
覆面どもの怯え方で一目瞭然……と言ったところだろうか……。
「へ、変態とは何だ!?」
覆面の一人がへっぴり腰ながらも言い返すが……まるで蛇に睨まれた蛙である。
「変態を変態と言って何が悪い」
取り囲む連中をねめつけながらアキト君は言葉を続ける。
「火星の連中は何時襲ってくるかも判らない敵に怯えて、少ない食料を何とか食い延ばして生きているんだ……。こんなところでのうのうとしている人間が、くだらない変態性癖を満足させるために俺たちの邪魔をするんじゃない」
覆面どもは、本気で怒っていたアキト君の言葉を聞いてもそれがなぜなのか理解できないらしいわね……。
「ふ、ふん! 火星がどうなろうと知ったこっちゃないね!」
その言葉を聞いた瞬間、アキト君の雰囲気が変わる。
動きを止めるための氷の気迫から息の根を止めるための殺気へと……。
「あ、アキトさん!?」
かつて……火星にチューリップを落とした人間が誰なのかを知った時と同じ気配になったのに気づいたルリルリが慌てて呼び止めようとするがその声も届かない。
すぅっ……と自然に歩き始めるアキト君のその重心は安定しきっており、かつての闇の王子さまであった時と同じように熟練した動きになっていた。
「な、なんだよ!? 別に火星ごとき滅んだって……」
近づいてきたアキト君に怯えた覆面がNGワードを言ってしまい……。
「ぼぐぇらぐぇっしゃぁぁぁぁぁっ!」
愉快な声を上げて宙を舞う覆面その一。
覆面その一は地面に叩きつけられピクリともしない。
対するアキト君の表情は全く動かない。
「次は……どいつだ?」
気迫に飲まれ、身動きできない覆面どもの一人に近づき……。
「ぶげらっつぇんごばぁぁぁぁっ!!」
また一人、宙を舞う。
今度は顔面から落ちてきた……。
スプラッタシーンを見せないように私たちはルリルリたちの頭を胸にかき抱いていたけど……、五人ほど宙に舞ったところで残りの覆面たちは逃げ出した。
怪我人を残して行ったので、そいつらは警察へ引き渡し♪
 
この後、この宗教に解散命令が出され、多数の逮捕者が出る事になるがそれはまた別のお話。
 
 
 
「まったく……。大丈夫だった?」
頭を撫でながら尋ねる私に頷く三人。
「はい」
「うん! アキトが格好よかったし!」
「お兄ちゃん、カッコいい!!」
三人とも恐怖とかは無かったみたい。よかった……。
三人と手を繋いで歩く私達。
その姿は仲のいい親子のように見えた……らしい。
一応家族なんだけどね、私達。
 
「早く早く!」
私から手を離したラピスが走り出す。
「こらこら、走ると転ぶわよ」
「ラピス、危ないですよ」
「は〜い」
私とルリルリが咎めるとしぶしぶ帰ってきて手を繋ぎなおす。
「しっかしまぁ……」
アキト君がため息をつきながら話す。
「どうしたんですか?」
ルリルリが尋ね返す。
「いやね……胸の大きさで女性を悪魔呼ばわりなんて何考えているんだか、ってね……」
「そうですよね、ふざけていますよね!?」
メグちゃんがいつの間にか接近して、全力で同意していた。
しかしメグちゃんの同意はラピスの言葉でかき消されてしまった。
「ん〜。私はミナトみたいにおっきなおっぱいになりたいな〜」
自分のまだ大きくない胸を揉みながらそんな事を言うラピスに『たはは……』といった表情をする大人一同。
「それでねそれでね、おっきくなったらアキトを『ゆ〜わく』するの〜♪」
言って『イヤンイヤン』と身体をくねらせるラピス。
「そうね〜。普通は大きい方がいいって言うけど……。でも九郎ちゃんみたいな人もいるしね〜」
そして私たちはライカちゃんの一言で凍りついた。
大十字九郎……。先日立ち寄ったアーカムシティで探偵をしている、ライカちゃんの知人でカミングアウト済みの筋金入りのロリコンにしてリアルロリの恋人を持つ男。
彼を基準にしたら、世の中の99.9999999%の男が巨乳好きと呼ばれる事になるだろう。
「私は小さいままは嫌です」
ルリルリ?
「アキトさんも大きい方がいいようですし」
ぶふっ!
ルリルリのセリフに噴き出すアキト君。
アキト君が時々私の胸を見ている事に気づいていたようね……。
「せめて……せめて
メグミさんよりは大きくなりたい
です!」
そのルリルリの言葉(魂の叫び)に……自分の胸がナデシコ基準でボーダーライン扱いされている事を知ってしまったメグちゃんは、座り込んでいじけてしまった。
「どうせ……どうせ……」
ジュン君とリョーコちゃんが必死に宥めた結果……ホウメイガールズにはもっと小さい娘がいると言う事でどうにか納得したのだった……。
 
 
そしてナデシコへの帰り道……。
「あ〜、……そういえば……」
「どしたの、イズミ?」
何かを思い出したようなイズミちゃんに尋ねるヒカルちゃん。
「アタシ……あの宗教に体験入信した事あった……」
「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」
イズミちゃんの言葉に無言になる私達。
 
……その後、イズミちゃんの趣味の一つが新興宗教への体験入信だということが判り……メグちゃんに注意を受けていた……。
 
 
 
 


あとがき
 
ども、喜竹です。お待たせして申し訳ありません。
ライカに続いてナデシコとは関係無い作品のキャラを出してしまいました。
知っている人は知っている作品だと思います。
ここでの会話、実は後の伏線となったりならなかったり(笑)。
 
……最近、この『ミナト』と十八禁の『コック・ルリ』の他、別サイトにてマブラヴの連載や某サイトの作品の劇中劇のSS化などでやたら忙しいので大変です……。
これに加えてテックジャイアンへマヴラブのカスタム戦術機の投稿やらなにやら……。(『ドリル吹雪改 壱型丙』というのを投稿しました。男のロマン全開の一機です。早ければ八月発売の号に載るらしいです。あと『エール吹雪改』は今月号のテックジャイアンに載りました)
先日、医者に行ったら『睡眠障害を起こしている』との事で、睡眠薬を処方される始末……。
疲労が抜けないのはつらいです……。
 
なお、『ヒンヌー教』についてはび〜氏のサイトなどで紹介されている『貧乳狂団HRAT(フラット)』とは関係ありません。
私個人は巨乳・貧乳どっちもOKですが、ウェストがくびれている方がいいです(笑)。

 

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