Fate/stay nitro 第参話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

「『シロウ―――貴方を愛している』

 私が彼に言えたのはそんな台詞だけだったのです。

 全く、我ながら情けないというか…。

 って、ちょっと!聞いてるんですか!!」


グビッ


酒杯を傾け、一気にその中身を飲み干す声の主。

かつては王と呼ばれ、国の為に死ぬほど戦い、死に瀕してもなお国の為に戦った者。

その声の主に、かつての戦いの時に見せた表情はなく、

酒気に顔を赤らめ目じりを下げていた。

いまある姿はただの酔っ払った女でしか無い。

そして空にしたはずの酒杯は再び満たされる。

 

「も、もちろん、聞いてますよ。そのゴロウさんと」


ダン!!


語りかけられた銀髪の娘の答えは破壊音に遮られた。


ドゴン!!


「違ーう!! シロウです!

 シ!ロ!ウ!

 そんな日本チーム唯一のアンチイケメンで子持ちの柔道男のみたいな名前じゃないのです。

 まったく、ちゃんと人の話を聞きなさい」

 

両手でテーブル叩き、真っ二つに叩き割ったかつての王はいきり立つ。

そして何故か無事だった酒杯に手を伸ばし再びその中身を飲み干した。

叩き割ったはずのテーブルも元に戻り、その上にかつての王は酒杯を置く。

 

「んー?そういえば、さっきから全然呑んでませんね」


「あの、さきほどから、随分と呑まれてると思いますけど?」

 

カポカポと酒杯をあけるかつての王に、心底呆れていた娘はそう返す。

 

「私のことでは無いのです、貴方のことです。

 さ、貴方も呑まれると良い。

 先ほどのマーリンの話では戦艦を率いられている方であるとのこと。

 凛と同じツインテールですし、さぞかしお強いのでしょう」

 

かつての王が良く解らない理由で酒杯を勧める。

すでにその身に思考などはなく、

あるのはただその場の勢いのみである。

どの角度から見ても立派な酔っ払いだ。

 

「―――あの、私、未成年ですので…。」

 

少女は両手で押さえる様にしてかつての王が進める酒杯を拒絶する。

 

「ほほう。私の酒が飲めないと?」

 

断りを入れた娘を半眼で睨むかつての王。

その手にするのは黄金の剣。

いつもの封印はすでに開放済みであった。

 

「と、ところで、そのリンさんってどんな方なんです?

 シロウさんとの関係は?」

 

たらーりと冷や汗をかきながら話題の転換をはかる娘。

かつての王が『凛』と呼んだ時の微妙な表情の変化を、娘は見逃さなかったのだ。

娘もまた修羅場を潜りぬけている一角の人物なのだ。

 

「よくぞ聞いてくれました。

 凛は、いえ、あの女こそ―――」

 

娘の話題転換にあっさりとのり、大声で離し始める元王。

その足下にはかつての部下の魔術師の姿。

『また違う娘を?貴方もずいぶんなスキモノだ』

そんな元王の発言を受け、ここの住人の一人にボコボコにされた結果だった。

『一緒に飲む相手がいないから連れて来い』

というかつての王の言葉が娘を連れてきた理由だったりする。

そもそも、酔っ払いの行動に理不尽はつきものなのだ。

 

「――――――」

 

大声で話し続けるかつての王。

話しかけられる娘は、その時に迂闊に承諾した自分を後悔していた。

 

 

 

 

久しぶりの休暇を貰った娘に誘いをかけたのは、

どこからともなく現われたマーリンと名乗るローブを着た男。

一日とある女性に付き合ってもらえれば、1つだけ魔法で願いを叶えよう。

そんな見た目からして怪しい男の台詞に、何故だか『良いですよ』と答えてしまった娘。

とある少女を連れ、行方をくらましている義父を追う為、

藁にでもすがりたい状況であったことが災いしたのだろう。

それに魔法で願いを叶えるという言葉に対する反発も在ったのかもしれない。

出来るものならやってみなさい。

そんな気持ちも娘の内にはあったのだ。

それに無断で娘の職場に現われた不審な男など直に拘束されるに決まっている。

そうとも思っていたからだ。

だが、娘の答えを聞いたローブの男は何かの言葉を口にしながら杖を一振りする。

次の瞬間、娘はこの場所に連れてこられていた。

その後、男はかつての王で現酔っ払いの発言を聞いた別の女に引きずられて行ったが…。

 

 

 

 

 

「ですから私は、―――」

 

まだまだ続くかつての王の話に、娘は心の中で随分と久しぶりにこう呟いた。

 

『勘弁して』

 

一人の酔っ払いが平穏を乱すそこは、

全て遠き理想郷とも呼ばれる妖精郷―――のはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間桐家まで全力疾走した俺は、その玄関の横についているチャイムを押す。

 

「――――――」

 

だが間桐家からは沈黙が帰って来るだけだった。

もう2度3度と繰り返したが、結果は変わらなかった。

桜が俺を拒絶した。

つまりはそういうことなのだろう。

 

「くっ!!」

 

俺は唇を噛み締め、自分の無力さに歯噛みをする。

俺はこんなにも身近な存在の力にもなってやれ無い。

恐らく桜の身には、俺と同じ令呪の兆しが現われているのだろう。

それが桜にとってどういう意味を持ち、何故逃げ出す様に駆け出したのかは解らない。

だが現時点で俺が桜にしてやれることが何も無いことは事実だった。

 

「くそっ!!」

 

俺は再びそう吐き捨てる、と間桐の家に背を向けた。

そのままとぼとぼと自分の家に向け歩き出す。

その段階で、ようやく街の様子がおかしいことに気が付いた。

この雰囲気はまるで聖杯戦争の真っ只中のような……って、俺は馬鹿か?

今、俺の左手に浮かんでいるものを見れば明らかじゃないか。

そうだ、理由や理屈など、今の俺には到底理解出来ない。

だが、俺にも確信を持って言えることがある。

再びあの聖杯戦争が始まろうとしているということが。

そして俺や桜や遠坂がマスターとして選ばれたと言うことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「藤村先生、今日は学園を休みます。

 ―――どうにも体調がすぐれないもので」

 

衛宮邸の玄関で、出勤しようとする藤村先生にそう告げる。

 

「んー解った。

 それじゃ、あんまり無理しないでね。

 じゃあ、行って来まーす」

 

藤村先生は少し首を傾げたけど、そう言い残し元気良く玄関から出て行く。


キュルルルン


ブーーーン


どうやら藤村先生は、外に停めてあったスクーターでそのまま学園へと向った様子だった。

私も急いで出かけるというか自宅へ帰る準備をする。

もちろん着替えをする為だ。

何時までも血の染みた制服を着ているのにも抵抗があるし、今後の準備もある。

士郎はまだ戻らないけど、恐らく桜を捕まえることはできないだろう。

あの時のあの子の様子では、いくら身近な、

いえ、身近な士郎だからこそよけいに拒絶されるだろうから。

一応、士郎宛に書置きをし、私も玄関を抜け衛宮邸の門をくぐった。

外には、予想通り聖杯戦争の時と同じ感覚を感じ取ることが出来た。

でも私はその感覚にどこか期待を寄せてもいた。

もう一度アイツを、名前も告げずに消えていったアイツを呼べるかもしれない。

令呪の兆しが現われた時から、その思いは私の中で徐々に大きくなりつつあった。

手放しで喜べない状況だが、それでもどこかで期待をしつつ私は家路へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失望に肩を落とし、間桐家の前から去っていく先輩を見送った私。

帰宅したそのままで自室へと引きこもった。

けっこう派手に血に染まった制服を脱ぐと、

その下からはあの時と同じ令呪の兆しが浮びあがっていた。

それを確認した私の気持ちはどんどん沈んで行く。

再びあの冬の繰り返しが起きるというの?

あの時の参加者だった先輩や遠坂先輩は無事だった。

けど私の代わりに参加した兄さんは酷く傷ついて…。

それも最終的な結果にしか過ぎないと、私は後で兄さんに聞かされただけだった。

しかも先輩や遠坂先輩も全く無傷だったわけじゃなく、

時には酷く傷つき、死にそうな目に何度も会ってたと聞かされた。

それに兄さんはもう私の代りには戦えないだろう。

あの冬までは間桐の魔術にこだわっていた兄さんが、

今では手の平を返した様に間桐の魔術に拒絶を示している。

何時からか私の所為で歪んでしまった兄さんだけど、

やっぱり根底は変わらず優しいままだから。

だから兄さんは聖杯戦争みたいな争いには向かない。

歪められなければ、兄さんはそんなことを出来る人じゃなかった。

そんな兄さんの虚栄を誰よりも良く理解している私は、

もう兄さんにその役目を押し付けることは出来ない。

だからと言って、私が先輩や遠坂先輩と殺し合いをすることなんて出来るわけもない。

私みたいなヨゴレタ人間が、先輩みたいなキレイナ人間を、如何こうする資格なんてないのだから。

でも、聖杯戦争を拒絶することも私には出来ない。

お爺様はそれを決して許してはくれないのだから。

 

「私はもう、死んだほうが良いかもしれない…。」

 

ベッドにうつむせになり私はそう独り言を漏らす。

けど、自分で死ねるほど勇気がある訳じゃない。

 

「いっそ誰かが私を殺してくれれば良いのに」

 

死ぬ勇気すらない私はベッドに伏せたままそう呟く。

そして感じたのは、こめかみに押し当てられる鉄の感触。

 

「終わらせたい?」

 

唐突に現われた彼女は、全く抑揚を感じさせない声で私に訊いてきた。


ガキン


恐らく彼女が押し当てているであろう金属から、鈍い衝撃が伝わってくる。

その金属が何なのか、察しの良い方で無い私にも理解できた。

 

「今なら全てを終わらせる事ができるわ。

 ――――どうして欲しい、私に?」

 

彼女は淡々と私に訊いてくる。

彼女がどこの誰で、どうやってこの部屋に入ってきたか?

そんな疑問など、全て意味がないものだった。

ただ私に理解できたのはひとつのこと。

彼女は私を殺すためにここに居る。

ただそれだけだった。

そして私は、この時ようやく理解できたのかもしれない。

『死』というものについて。

それは唐突で恒常で当たり前で非日常的で性急で緩慢で希少でありふれたもの。

 

「あなたを亡くし、泣く人はいない?」

 

彼女からかけられる声に、私の脳裏を横切る顔がある。

先輩や藤村先生、遠坂先輩や…。

自分でも驚くほどの顔が脳裏に浮ぶ。

そして―――だからこそ私には、生きる価値が無い。

 

「でも、私は…」


「そう、じゃあ死になさい」

 

言い訳をしようとする私に対し、彼女がそう宣言した瞬間。

温かなはずの部屋の空気ですら、変わってしまった。

彼女が放つ底冷えするような殺気に、私の身体は硬直し、思考すら凍り付いてしまう。

そんな私の脳裏に浮ぶのは、何時か見た先輩の笑顔…。

最後に見るものとしては特上のものかもしれない。


「…先…輩…」


「さよなら」

 

私の呟きをよそに、ただ彼女の冷たい声が響き、そして…。

 

 

続く


あとがき

というわけで第参話でした。

二人目のサーヴァント登場です。

ただし、正体は不明(爆)、そして登場と同時にマスター殺し?

あと、冒頭のゲストは妖精つながりということで…。

よろしければ次話も読んでやってください。

ではまた。


感想

くまさん今回もお見事です♪

妖精郷…全て遠き理想郷…のんべえの世界…とまあ、そんな感じですね…

面白いと思いますよ♪

面白いと思いますよ♪ じゃありま せん! 全く! 何が理想郷ですか! 一匹オオトラ…いいえ…この場合 は…オオライオンがいただけじゃないですか!

へ? 行って来たの?

分からないんですか!? 「とある 少女を連れ、行方をくらましている義父を追う」銀髪ツインテールの未成年の女の子な んてそういますか!!?

まっまあね(汗)

はあはあ…もう二度と行きません…

それで? 願いはかなったの?

それは…内緒です…

まあ、考えてみればライオンの願いもかなってないんだから無理に決まってるか(汗)

そっそんな事より、感想に行かない といけません!

お!? めずらしいね、まあでも事実だしね…今回の参戦は、桜の所に…アサシンですかね…原作のままなら(汗)

ちっちっちっ、分かってませんね、くまさんはそんな分かりやすい事しません よ、きっと新しいクラスです。

新しい職業?

Fateには幻のクラスと言うものが存在します。本編中でも今回のクラスは 普通のクラスしかないと言うような事を言っていましたし…

えらく詳しいね…(汗)

まあその程度HPを管理する者として当然です。

ふ〜んそうなんだ、って管理人は私じゃん!?

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